ジェフ・フリーマンのRPGコラム"Ack!"



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ライブRPGする前に読め
LOOK BEFORE YOU LARP



著者:ジェフ・フリーマン(Jeff Freeman)
翻訳:馬場秀和



 先日、エドが僕に電話をくれて、ジジ、ジョン、ティムと一緒にゲームセッションに参加しないかと誘ってきた。たぶん、たまごっちの電池が切れるか何かして、遊び仲間を増やしたかったんだろうと思う。というのも、例の不幸なFUDGEの一件以来、これまで彼らは決して僕に声をかけようとしなかったからだ。

 エドは、遅刻するなと念を押さなかったし、キャラクター作成については気にするなと言った。その上、スナック菓子を持ってくる必要はないとまで通告したのだ。後から考えれば、これは明らかに危険信号だった。エドはいつも僕にスナック菓子を持参しろと言い、しかも僕がそうすることを本気で期待してたりする奴なのだ。むろん僕はいつも他人のスナック菓子を頂戴し、エドの冷蔵庫をあさる。自分の分を持参しろと彼がうるさく言うのは、そのせいかも知れない。ジジは、人間が食べるために存在しているはずじゃないような野菜をかじってるし、ティムはスナック菓子をこそこそ盗み食いするような小物じゃない。でも、ジョンは、ああそうか、ジョンはスナック菓子が好きなんだ。たぶん、彼は退屈のあまり眠り込まないようにするために、うまいスナック菓子を必要としているんだろう。

 この前に僕が彼らとゲームをしたとき(それが最初で最後だったが)、ジョンは全く何もしゃべらなかった。僕らは4時間もプレイしたのに、僕にはジョンのキャラクターがどんな奴か全く分からない有り様だった。それなのに、彼は皆に自分のスナック菓子を分けてくれたのだ。きっとジョンは心底さびしい奴で、チーズスナックを出して場を和やかにすれば、友達ができると期待してるんだろう。いつの日か、ジョンと話をしてそうなのかどうか確認できるかも知れない。・・・駄目かも知れないが。

 ここまでのところ、僕にとって完璧なセッションのように思えた。遅刻してもいいし、キャラクター作成について気にしなくてもいいし、スナック菓子を持参しなくてもいい。なら、少なくとも失望することはないだろう。

 いや、実際には僕はスナック菓子を全く持参しなかったというわけじゃない。なにしろ僕は、突発的にブラックオリーブを食べたいという不思議な衝動に駆られることがあって、そういうときは一度に2缶もあけてしまうんだから。こいつは君が思うほど良いものじゃない。

 そのときは見逃してしまった危険信号が他にもあった。エドは酒場に来てくれと言ったのだ。普段は、僕たちはゲームをプレイする場所に集まって、そのままセッションに突入してしまう。僕は、あの連中とゲーム以外の交際をする気は全く起きなかった。でも、そうか、酒場か、いいな。エドが指定した酒場は問題ないように思えた。そこは実のところホテル・バーで、今やクラブより人気が出てきたタイプの酒場だった。高級っぽく見せかけた内装、会計士とコンピュータおたくが集まってきて、信じられないことに、社交するような場所だ。僕が子供のころは、酒場というのはこんな風じゃなかった。(ボクは知ってるんだ)

 そういうわけで僕たちはそのバーの前に集まった。エドは僕にボタンとキャラクターシートを渡して説明した。「このボタンは、誰がキャラクターとして演技しているのか区別するためのものだ。これが君のキャラクターだよ」 僕はそのボタンをつけて酒場に入った。一応キャラクターシートをざっと眺めるふりだけはしておいて、ビールを飲んだ。たぶん、これはキャラクターとしての行動とは言えないだろうけど、でも酒場でライブRPGをやるんだ。酒を飲まないわけにはいかない。他のプレーヤーが嫌な奴だった場合に備えて、もう1杯飲んだ。それから煙草を吸った。酒場では煙草を吸っても文句を言われない。他の場所、例えばエドの家だとそうではないのだ。ビールを飲みながら、ひょっとして僕はライブRPGというものについてとんでもない勘違いをしているんじゃないか、という気がしてきた。

 そう思った理由の一つは、他のプレーヤー達が僕のそばに寄ってこないということだ。予想外にラッキーだった。僕は雑談しながらビールを飲んで、さらにもう1杯飲んで、それからもう1杯飲んだ。例の不快なオリーブの一件以来、ゲーム中に雑談したことはなかったんだけど。

 ビールを空にしたところで、僕は完璧な「ロールプレイ」を始めた。つまり、それまで酒場のTVをただ眺めていただけだったのが、「キャラクターとして」TVを眺めることにしたのだ。わざわざキャラクターシートを見るまでもない。どんなキャラクターだって基本的には同じようなものだ。野球中継を眺め、ビールを飲み、煙草を吸うのだ。違いは内面にある、そうだろ? 物事をどう感じるかという問題 なのさ。ビール4杯目の途中で、僕はとっても気分が良くなってきた。テキサスレンジャーズが決勝戦に進出する可能性がなくなったというのに、だ。

 僕の隣に座っているギャルは「キャラクター」ボタンをつけていて、見たところ話し相手を探しているようだった。ということは、つまり僕に気があるということだ。僕にはガールフレンドがいるし、その酒場ギャルは鼻ピアスをしていた。そういうわけで、僕は紳士的に振る舞いつつ、上品に口説くことに決めた。僕はその気になればこういう態度だってとれるのだ。ところが、おやおや、僕が話しかけるやいなや、彼女はすぐにのってきた。ただし、彼女は僕じゃなくてゲームに興味があるふりをしている。僕は愉快な話しをしつつ、彼女が僕じゃなくてゲームに興味があるのだと信じているふりをした。彼女の説明によると、彼女は僕じゃなくてゲームに興味があるだけでなく、ゲイなのだった。そうさ、ベイビー、誰が何と言おうと、ホットな男がみっともないギャルとプレイするものは、こういうお上品なゲームなのさ。ひどい言い方だと思うかも知れないけど、あの場にいた参加者は誰もが納得するはずだ。

 やがて、長々とため息をついた後、彼女はまたゲームについてだらだらしゃべり始めた。僕は頷いて、聞いているふりをした。僕は聞いているふりが上手いんだ。彼女は隅の小さなテーブルを指さして、そこの連中が彼女の氏族だと言った。そのとき、別の馬鹿がやってきて自分の氏族についてさえずり始めた。そして、二人が僕の氏族について質問してきたので、僕は素早く考えてから、「シャイナー族のボック」だと自己紹介した。

 知らない人がいるといけないので説明しておくが、「シャイナー・ボック」というのはテキサスで非常に人気のあるうまいビールの銘柄だ。僕は愛飲している。ここで社会的責任を果たしておこう。

 さて、しゃべっているうちに、僕たち3人は意気投合した。クリス(というのが後からきた奴の名前)は僕の氏族にいますぐ入りたいと言い出すし、エミリー(というのが、ゲイをやっている鼻ピアス女の名前)は、お分かりの通り、僕にメロメロだったが、それを完璧に隠していた。そのうち、僕たち3人は同じ氏族になっていた。もっとも、その頃にはアルコールがまわっていたけど。

 しばらくすると、エドが2人の馬鹿を引き連れてやってきて、自分たちは君と同じ氏族の者だと言った。僕たちは爆笑し、エドたちはひどく戸惑った顔をした。それから、エドたちは、族長が僕に会いたがっていると言った。「はいはい、すぐ行くよ」と答えると、何ともがっかりしたことに、彼らヴァンパイア(だかワーウルフだかメイジだか何だかその類)たちは、僕の言うことを真に受けて立ち去ってしまった。

 どういうわけか、テキサスレンジャーズが決勝戦に進出する可能性がなくなったので、僕たちには何か気晴らしが必要だった。また酒を1杯飲んだところで、我らがシャイナー氏族のメンバーはいい事を思いついた。

 ゲームを主催している連中(もしプレーヤー以外に主催者がいるとして)がどんなシナリオを用意したにせよ、それはくだらないものだったに違いない。なぜなら参加者はほとんどの時間をただ座ってだべっていたからだ。ついでながら、参加者の多くはバーからさまよい出てホテル内を徘徊していた。ダイスではなく古めかしいグー・チョキ・パー(ジャンケン)をベースにした戦闘ルールも決められていたが、そんなのを使っている者は誰もいないようだった。グー・チョキ・パーのルールは知ってるよね? 念のために説明しておこう。グーはチョキを打ち破る。チョキはパーを打ち破る。パーはグーを打ち破る。僕たちシャイナー氏族は、このルールは時間の無駄だと感じた。そこで僕たちは、ビールをもう一杯ひっかけてから、それぞれの出身氏族に戻って、ホテルのど真ん中で大きな戦争が起こっている、早く行くんだ、何だ、かんだ、と報告した。

 エドとその仲間は、真っ直ぐ僕の後についてクリスとその氏族のところに行った。2つの氏族が互いににらみ合っているところに、エミリーとその氏族が現れた。クリスとエミリーと僕は戦闘を開始した。もちろん、それが引き金となって戦争が起こり、数分のうちに全員がグー・チョキ・パーの戦禍に巻き込まれた。戦闘ルールがテストプレイされている間に、シャイナー氏族はその場をそっと抜けて酒場に戻り、ビールをもう一杯飲んだ。

 実際には戦争はそんなに長続きしなかった。ビールを半分ほど空けた頃には、事態は終息に向かっていた。たぶん戦闘中にプレーヤー同士の情報交換が行われ、誰も戦う理由を知らないことに気づいたのだろう。僕たちのところには他のグループがやってきて、何がどうなっているのか聞いてきた。

 「こいつら誰?」と僕はそのグループを指さして尋ねた。

 「プリモーゲン評議会よ」とエミリーが答えた。

 「それは重大事態だな」クリスはそういって笑った。その頃には、クリスは何にでも笑うようになっていた。僕の見たところ、クリスは盛り上がり過ぎているのか、ビールを飲み過ぎているのか、あるいはその両方だった。笑いは伝染する。すぐにエミリーと僕も、騙されやすいまぬけども、つまり周囲の連中を指さして笑い始めた。ここで教訓。他人を笑ってもいい、他人を指さしてもいい、でも他人を指さして笑うのは止めておいた方が賢明だ。

 いきり立つ評議会の連中に、他の参加者が小声でひそひそ何か話しかけた。周囲は静まり返った。これはラッキーなことだった。バーテンダーが、騒音と馬鹿騒ぎに我慢できなくなりつつあったからだ。評議会の連中に話しかけていたプレーヤーの一人が、こちらに振り向いて酒場を指さした。もっと正確に言うと、僕たちを指さしたのだ。他の参加者も頷いて、やはり僕らを指さした。彼らの目はマジだった。

 「うううむ」クリスはまだ笑いながら言った。「まずいじゃん」

 プリモーゲン評議会の連中が僕たちに近づいてきて、その一人が僕にグー・チョキ・パー戦闘を挑んできた。1、2の、3。彼はパーを出した。僕は「鉛筆」を出した。つまり指で「鉛筆」の形を示したのだ(訳注:中指を立てたということ)。そいつはどうも僕のやり方が気に入らないようだった。

 このグー・チョキ・パー戦闘ルールはどうも人気がないらしく、別のもっと古いルールにとって代わられようとしていた。それはグー・グー・グーというものだ。知らない人のためにルールを説明しておくと、グーは顔面を打ち破る、グーは肋骨も打ち破る、グーはみぞおち(急所)も打ち破る、というものだ。プリモーゲン評議会の他のメンバーは、この戦闘ルールを試したくて仕方ない様子の男を抑えつつ、僕たちを叩き出そうとした。

 幸いなことに、僕たちにはプリモーゲン評議会よりも強い権力を持っている味方が付いていた。彼はやかましいライブRPG参加者にうんざりしていたし、こういうこともあろうかと僕はチップをたっぷり渡しておいたのだ。それに僕たちシャイナー氏族は、間違いなく誰よりも多くの酒を注文した客だった。

 というわけで、偉大なるバーテンダーは「警備員召還の呪文を唱えるぞ」と脅すだけで、プリモーゲン評議会の連中を一撃で粉砕してしまった。ちっ。本当に呪文が発動すれば見物だったろうに。なにしろ、警備員はいつもグー・グー・グー戦闘ルールを使うし、必ず連中に勝っただろうからだ。

 ライブRPG(ライブ・アクション・ロールプレイング)は、ゲーマー誰にでもお勧めできるものではないだろう。確かに面白いが、翌日を二日酔いでつぶすほどの価値はない。僕は帰宅するために電話でタクシーを呼ぶはめになったし、さらにゲーム終了宣言を聞いてないプレーヤーに殴られるかも知れないので、駐車場まで警備員につれていってもらった。

 そう言えば、クリスとエミリーと僕は、自分たちでヴァンパイアロールプレイググループを作り上げたのだ。ヴァンパイアとロールプレイはなかったけど。

 そうだ。フットボールのシーズンが到来したんだった。「カウボーイ」のオフェンスは刑務所から出てきたし、ディフェンスはリハビリ完了だ。スウィッツアーのスクラムはアツい。カウボーイズ、バック、ベイビー!

 いつの日か、彼らがタッチダウンを決める可能性すらあるだろう。


この記事は米国RPGnetの許可に基づき翻訳されたものです。日本語訳については当サイト管理者ben*at*land.linkclub.or.jpまたは翻訳者まで。記事の内容については本人へ英語で連絡してください。

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