ジェフ・フリーマンのRPGコラム"Ack!"



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FUDGEレビュー
FUDGE



著者:ステファン・オサリバン(Steffan O'Sullivan)
カテゴリー:ゲーム
出版元:グレイ・ゴースト・ゲームズ(Grey Ghost Games)
レビュー著者:ジェフ・フリーマン(Jeff Freeman) 1997年 8月18日
翻訳:馬場秀和



 これは僕の初めてのゲームレビューだから、どうか我慢して読んでほしい。君も知っている通り、僕はロールプレイングゲームをレビューするだけの資格がある人間だ。なにしろ読み書きが出来るし、どんな話題についても意見を言えるのだ。

 僕は、ゲームのルールを読んでイラストを眺めるだけじゃなくて、実際にプレイしてみるのも悪くないと思った。なぜなら、机上で良いと思えるアイデアが本当にそんなにうまくゆくかどうか確かめる唯一の方法は、実際にプレイしてみることだけだからだ。例えば、宇宙ステーション「ミール」だって、きっと机上では素晴らしいものだったに違いない。それに、必要なのは独創的で経験豊かなRPGプレーヤーのグループだけだ。あとは、ただプレイして、その結果に基づいて正確なレビューを書けばいい。

 残念なことに、独創的で経験豊かなRPGプレーヤーの知り合いがいなかったので、友人をかき集めてくることになった。それでも足りないので、友人の友人と、知人と、知人の友人と、その他を集めるはめになった。これは思ったほど困難なことではなかった。その主な理由は、まず最初に友人のエドに電話をかけて、残りの仕事を任せたことにある。僕が、ゲームレビューを書くためにゲームをプレイしたいんだけど、と言ったら、エドは飛びついてきた。もちろん、この件は古代バビロニアの神々に生贄を捧げるような仕事になる可能性もあったが、とにかくダイスとロールプレイの話しなら、エドは飛びついてくる。そういう奴なのだ

 ステファン・オサリバンと「Usenetのrec.games.designグループからの多大なる支援」がデザインしたFUDGEというゲームのルールには、導入部で「これはロールプレイングゲームである」と宣言しておきながら、その後で「実はこれはロールプレイングゲームのエンジンである」と書いてある。つまり、ちょっと作業するだけで、経験豊かで有能なマスターなら、FUDGEをベースにした自分なりのロールプレイングゲームを創り出すことが出来るというのだ。FUDGEとは「自由かつ汎用的なゲーム自作用エンジン」の略なのだ。僕はそういう仕事をやる気にならなかったので、エドにルールを渡して「代わりにマスターやってよ」と言っただけだった。価格面で言うと、ルールブックには何の問題もない。FUDGEの基本ルールはインターネット上の匿名FTPサイト ftp.csua.berkeley.edu から無料でダウンロードで きる。ただし、文字だけのプリントアウトよりも、グレイ・ゴースト・ゲームズ社から出版されているルールブックの方がきれいである。エドがゲームの準備をしている間、僕は自宅で『エルビス・ムービー・マラソン』という番組を眺めていた。これはエルビス・プレスリーが出演した映画を年代順にどんどん流すというもので、30時間に及ぶムービー・マラソンを観ていれば、エルビスが肥満してゆく様子がよく分かるのだ

 ムービー・マラソンを半分ほど観たところで、僕は仕事を節約するいいアイデアを思いついた。FUDGEはどんなジャンルにも対応できるという話だ。僕は、他人がキャラクターを作成するのを待っているのが嫌いだ。だったら、さっさと皆に自分のお気に入りのキャラクターを持って集まってもらい、各キャラクターをその場でFUDGE用に変換し、すぐにゲームを始めるというのはどうだろう、と電話でエドに言ってみた。僕は焦ってきたのだ。4時間ほどで全てを済ませて、このゲームがマルチジャンルに適用できるだけの汎用性を持っていることも確認し、それから今週の『ベイウォッチ』の放映に間に合うよう早めに帰宅しなければならない。後で分かったことだが、その回の『ベイウォッチ』は再放送だった。少なくとも僕にはそう思えた。『ベイウォッチ』のある回が再放送かどうか判断するのは難しい。それどころか、そもそも『ベイウォッチ』という番組は、同じ回を何度も何度も放映しているだけなのかも知れない。僕はいつも音声を消して観てるので、よく分からないのだ

 ともあれエドは、FUDGEのルールブックを8回ほど読んだ後で、どんなシステムで作ったキャラクターでも素早く簡単にFUDGE用に変換することが出来るようになったと自信ありげに断言した。

 僕は「まあ、やってみるさ」と言った。疑り深い調子で。

 上の文は、僕の文才の発露であって、別にTVの見すぎで脳が腐ったわけじゃないので安心してほしい。

 僕はわざと1時間ほど遅刻してエドの家に到着した。それまでには、エドが他のプレーヤー達が持参したキャラクターをFUDGE用に変換し終えた頃だろうと思っていたのだ。変換作業が完了する前にエドの家に到着するのは嫌だった。だって、そうなったら知らない連中と会話しなきゃいけないじゃないか。それに、そのときはちょうど『ギリガンの島』の放映時間だった。それも再放送だったけど、僕はもう一度観たかったんだ。その回は、登場人物たちがもう少しで島から脱出できるというところで、ギリガンがへまをやらかして脱出プランを台無しにするというストーリーだった。毎回、同じストーリーであるところなど『ベイウォッチ』とよく似ているが、こちらの方は登場人物たちが脱がないし、それにスキッパーはデヴィッド・ハスレーノフのように他人を巻き込もうとしたりしない

 というわけで僕が1時間ほど遅れて到着したときには、他の参加者は怒ってないふりをしていた。それは立派な態度だったが、彼らは怒ってないふりをするのが実に下手だったので、僕は心配になった。とにかく、怒ってないふりすら満足に出来ないような連中に上手にロールプレイが出来るものだろうか。実のところ、エドはキャラクター変換を5分で完了し、2分で各プレーヤーにFUDGE用に変換されたキャラクターの説明を終えたのだった。それから彼らはずっと僕がやってくるのを待っていたというわけだ。僕は、もちろん自分のキャラクターを持参したりしなかったので、それからエドと二人でキャラクターを作成することになった。他の参加者は辛抱強く待っていた。一つ分かったことは、全く新規にキャラクターを作成する方が、既存のキャラクターをFUDGE用に変換するより手間がかかるということだった。でも、それは主に「キャラクターのコンセプト」だの「キャラクターの背景」だのといったくだらない細部を決めなければならないせいだった。事前に考えておけば3分で済んだはずだが、もちろん僕は何も考えてなかったのだ。とうとう僕は我慢できなくなって、エドに「勝手にキャラクターを作成して、出来たら呼んで」と言った。それから、僕はTVをつけて、他の参加者がどんなスナック菓子を持ってきたかチェックすることにした。

 ジジは(これは彼女の本名じゃない。この記事のための仮名だ。でも、本名だって同じくらいまぬけな名前なんだ。本当だよ)、エドの友人の友人だった。少なくとも彼女はそう言った。僕には、エドに他に友人がいるとは思えないけど。最初、僕はジジのことを売春婦じゃないかと思った。エドが今回のゲームのために走り回って、「誰かに金を渡して」頭数をそろえたというのは、ありそうな話だったからだ。それにジジの服装は、売春婦が客を(さらに言うならゲーマーの客を)とるときに身につけそうな類のものだったし。でも、彼女がゲームをプレイしている様子を見て、僕は彼女を誤解していたことに気づいた。彼女はリアルロールプレーヤーだった。すげーむかつくタイプの。エドはジジじゃなくて売春婦を雇うべきだったと心から思う。ジジだって、なにしろリアルロールプレーヤーだから、僕に対して同様の意見を持っていることと思う。

 スナック菓子について言うと、ジジが持ってきたのは、脂肪ゼロ、塩分ゼロ、味ゼロの無味乾燥コーンフレークだった。僕は彼女の心を傷つけないように、それを少しだけかじった。ジジは骨と皮ばかりの痩せて青ざめたボーイッシュな女の子で、黒い口紅、黒いマニキュア、黒い衣服、黒い目、黒い痣などを持っていた。髪は、片側はこれ以上ないくらいのショートヘアで、囚人用の入れ墨が見えるような気がした。反対側はロングヘアだった。彼女は、片側の髪だけとかすことで、両側ともロングヘアだという幻想にひたるんじゃないかと僕は思った。これは禿げてきた男がよくやる手だ。もっとも、ジジのロングヘアは全く手入れをしてない様子だったので、これは違うだろう。それから、ジジの顔には金属製のアクセサリーがあれこれついていた。全部合わせたら、4ポンド(約1.8Kg)くらいありそうだ。見える分だけで。僕はさり気なく、でも単刀直入に「どうして君はそんな沢山のジャラジャラを顔につけてるんだ?」とかいった感じで質問してみた。彼女の答は「自己主張」だった。

 その自己主張を読み取るのに苦労はいらなかった。大声ではっきりと主張していたからだ。「私は社会の落伍者なの」あるいは「私には向上心がないわ」といった感じだ。ひょっとしたら「セブン・イレブンにようこそ」かも知れないな。

 僕がジジにどんなキャラクターをやる気なのか尋ねると、彼女は黙ってFUDGE用キャラクターシートを見せた。これ以上、僕と会話するのが心底嫌だったのだろう。僕はFUDGEのルールを読んでなかったのだけど、FUDGEのキャラクターシートを読むのにルール知識は不要だった。普通の英語で書かれているように見えたからだ。ジジのキャラクターは、まず何かが「得意」で、何かが「どうしようもない」、他のいくつかについては「まずまず」だった。能力値、つまり「筋力」とか「敏捷性」といったもの(FUDGEにおいては、ゲームマスターであるエドがゲームで使用する能力値を選んで、それに自由に名前を付けることが出来るのだ)や、それにスキルまで、何もかも普通の英語で書かれていた。

 ジジのキャラクターシートに書かれていた普通の英語による説明を読むと、そのキャラクターは苦悩するヴァンパイアなのだった。エドはファンタジーやSF系RPGのゲームマスターは得意だが、こういうホラーで暗いゴシックパンクなRPGは苦手なはずだった。僕だって、何かもっとこう、新しいことがやりたかった。メラニン色素不足の青白い顔をして、苦悩しつつ赤ワインを飲むヴァンパイアだって。ヴァンパイアの王、キング・オブ・ステレオタイプ。僕は、彼女を馬鹿にするために「しゅーっ」て感じの音をたてて頭を振りながら、キャラクターシートを返した。彼女は、僕のボディランゲージを個人的な侮辱だと解釈した様子だった。僕は「スナックで喉が乾いちゃったな。誰かコーラ持ってない?」と言ってみた。

 ティムがコーラを持ってきてくれた。僕はエドのキャビネットを物色してグラスを見つけて、自分のためにコーラを注ぎ、ティムと親しく会話することにした。彼は本当に大男で、全身に毛が生えていた。いや、本当に彼の全身に毛が生えているかどうか確かめたわけじゃないけどさ、でも見える部分はとても毛深かった。あごひげ、口ひげ、濃い眉毛、それに手の甲にまで毛が生えていた。僕は「それじゃ、君もヴァンパイアか、でなきゃワーウルフなんだろうな」と冷たい口調で言った。ティムは困ったような顔をして、キャラクターシートを見せてくれた。それを見て僕も困ってしまった。ティムのキャラクターは、『マッチョ・ウィメン・ウイズ・ガンズ!』から持ち込んだものだったのだ。「ううう」と僕は感想を述べた。面白くなりそうじゃないか。

 今回の参加者のうち最後の一人に僕が話しかける前に、エドが皆を食堂のテーブルに集めた。彼は僕にキャラクターシートを渡してくれた。僕が遅刻したことに対して、エドは思ったより真剣に怒っているらしかった。というのも、彼が僕に渡したのは、『トラベラー』に登場するカニのような種族「ハイブ人」だったのだ。エドはポーカーファイスのまま「よろしく」と言った。僕は、まるで「よくもやったな」という感じの微笑を浮かべて、「よくもやったな、エド」と言った。と、エドは笑い出した。これは珍しいことだった。エドは自分のジョークにしか笑わない。つまり、彼が笑うことなんて滅多にないわけだ。エドは、宇宙ガニのキャラクターシートを取り戻して、『サイバーパンク2.0.2.0.』から持ちこんだ、重武装の10代のパンク野郎のキャラクターシートを渡してくれた。よしよし。これで少なくとも何かをぶっとばすことが出来そうだ。

 「ちょっとした冗談さ」とエドは説明した。それから、「このゲームでは、ハイブ人はNPCとして登場するんだ」と言い出した。顔が笑ってないので、マジだと分かった。ハイブ人、ヴァンパイア、マッチョギャル、パンク野郎。僕は、まだキャラクターを見せてない最後の一人、ジョンの方を見た。そいつがどんなキャラをやるのか気になったのだ。しかし、エドが長々と退屈な「背景」説明を始めてしまった。僕は、たいてい戦闘が始まるまでは何も行動しないので、「背景」だの「設定」だの「描写」だのを聞く必要はないのだ。

 ジョンのキャラクターがどんな奴かは分からなかったが、でも彼のキャラクターがいたことは確かだ。何しろキャラクターシートを持っていたのだ。それに、エドは1回か2回くらいはジョンにしゃべらせることに成功した。でも、ほとんどの時間、ジョンはただ黙って座ったまま他の参加者のやることを見たり聞いたりしてるだけだった。どうしてかは全く分からないけど。ジョンのキャラクターは、どんな奴であってもおかしくなかった。宇宙海賊とか、ストームジャイアントとか。ひょっとしたら、お地蔵さんだったのかも知れない。

 ともあれ、エドはとうとう説明を終えて、「レフリー・スクリーン」を広げた。これは秘密の真相を見られないようにするためだろう。一度、僕はエドを激怒させたことがある。というのも、今までエドが「真相」を明らかにしても、誰も聞いてなかったし、気にする者は一人もいなかったじゃないか、という事実を指摘してしまったからだ。それでもエドは、戦闘だけじゃなく背景ストーリーにも興味を持つプレーヤーがいるんじゃないかという妄想にとらわれて、スクリーンを広げるのだ。

 エドが使っているスクリーンは、D&Dの基本ボックスセットについていた『The Keep on the Borderlands』モジュールのカバーだった。僕は、どうか今回のシナリオがあの話じゃありませんように、と心から思った。そして、突然、もっと真面目に「背景」説明を聞いておくんだった、と反省した。

 ストーリーはこうだった。僕らのキャラクターは森を(街だったかも知れない)をうろついて、モンスターと(悪漢、あるいはロボットか何かだったかも知れない)と戦って、ついに何かをなし遂げたのだった。おしまい。FUDGEの戦闘ルールは非常に簡単で、自由度が高く、様々な判定システムは統一がとれている。おかげで、1つだけルールを覚えていれば、このゲームをプレイする上で困らない。「−1」から「+1」までの目があるダイスを4つ転がして、出目を合計する。出目は「−4」から「+4」のいずれかになる。これを能力値、戦闘力、スキルのどれかに適用する。どれに適用するかは、判定の対象となる行為によって決まる。つまり、例えば基本が「得意」であり、出目が「+1」であれば、結果は「素晴らしい」となるわけだ。これはすごく単純なので、FUDGEのやり方を学ぶことは出来なかった。だってその必要がなかったからだ。ルールの勉強に時間をかける必要がないので、僕たちのようにFUDGEをはじめてプレイするグループでも、ロールプレイだのキャラクター作成だのといったことに時間を費やせるわけだ。僕たちのキャラクターが森をうろついている間に、僕は居間をうろついてTVを見ることにした。

 ちょうど『新・わんぱくフリッパー』の再放送が終わろうとしているところだった。少なくとも、僕には再放送だと思えた。これも『ベイウォッチ』みたいな番組だけど、登場人物が着ている衣服はさらに少ない(というのも、主人公のフリッパーが完全に裸だからである)。

 前回、濁った池に取り残されたフリッパーがようやく無事に救出されたところで、僕はティムのコーラを飲んで、それからゲームがどうなっているか見に食堂に戻った。僕はスナック菓子をくれと言ったが、ジョンはくれなかった。ちなみに、ジョンが持っていたのはチーズスナックだ。

 ティム、エド、ジジは楽しんでいた。ジョンもゲームに興味を持っているようだったが、彼のキャラクターがどんな奴であるかも、さらに彼が何をしているのかも不明だった。僕はしばらくジョンを観察したが、やっぱり分からなかった。彼は僕がいないときにだけしゃべる奴で、彼のキャラクターは箱の底にピンで留められた標本の役だったのかも知れない。ともあれ、僕は座ってゲームについてゆこうとして、ティムとジジが行動し、スキルを使い(または使おうとし)、ダイスを振って「2」、ときには「3」を出すのを見ていた。もし非常にラッキーだったら、出目が「4」に達する可能性もあった。たとえそうなっても心配はいらない。ジジでさえ、「4」まで数えることが出来ると思う。実際、これは既に書いたと思うけど、このゲームはとても簡単で自由度が高いため、僕はルールブックを読みさえしなかった。だから、これ以上、何もレビューすることはない。

 戦闘の合間に、たしかエドが何か気のきいた背景情報を持ち出して他の参加者が熱心に聞いていたときだと思うが、僕は一服したいと思った。ゲームを中断させるような不作法はしのびなかったので、僕はテーブルについたまま、エドのコップを灰皿にして煙草に火をつけた。

 ああ、昔と違って今では喫煙は悪いことになっている。誰もが喫煙や、煙草や、スモーカーや、煙草産業を嫌っている。いずれ喫煙は非合法になって、スモーカーは「左きき」とか「鼻欠け」とかいったストリート名を持つバイニンから煙草を買うことになるだろう。そんなことはよく分かっていた。でも、僕は(今のところ)スモーカーで、喫煙は(今のところ)犯罪じゃない。そういうわけで、僕は他人のいるところで煙草を吸おうとすると、どんな目に会うか考えてなかったのだ。僕が煙草に火をつけると、ジジは、まるで僕がカーテンに放火したかのように言った。

 「何てこと」彼女は叫んで鼻を押さえたため、もともと鼻にかかったような声だったのが、ますますみっともない声になった。「すぐに消して」

 僕は煙草を見て、それから見積もり結果を彼女に教えた。あと7分で煙草は無事に灰になって、エドのコップに捨てられるはずだと。それでもジジは文句を言った。「煙草の煙アレルギーなのよ」とか。僕はまたスパスパやって、煙草の煙にはアレルギー起因物質は含まれてないから、煙草の煙アレルギーなんてものは存在しない、と指摘した。

 今やジジは煙草の煙から退避するため、テーブルから離れてしまった。「喘息なの」なおも彼女は言い張った。「屋内の空気汚染には耐えられないわ」

 「おお」と僕は言って、不意に気がついて「そうか。だから香水も、わきが止め防臭剤もつけてなかったのか」と付け加えた。彼女はこれも個人的な侮辱だと解釈した様子だった。

 この頃には、エドはジジの側について、威厳のあるゲームマスター声で、あるいは「ここは私の家だ。ルールを決めるのは私だ」声で、僕に煙草を消すか、外に出ていくように言った。大男のティムも、突然、ゲームマスターに協力すべきだと考えたらしかった。「分かったよ、分かったよ」僕は手を振って「ごめんよ、呼吸して悪かった」と言い、すぐに出て行くべきだと悟った。ティムは立ち上がりかけていた。彼は立ち上がるのにすごく時間がかかったが、一度立ち上がったら椅子に戻すのは無理だと思えた。それに、こんなに時間をかけて立ち上がるからには、その努力を無駄にしないためにも、とにかく僕をボコボコにしようと考えても不思議ではない。

 そこで僕は屋外に逃げ出し、ガラス越しにTVを見ることになった。番組は『ベイウォッチ』のようだった。というのも、ガラス越しに屋外からTVを見ると、音声が聞こえないからだが。ただ、デヴィッド・ハスレーノフはいなかった。たぶん、あれは『ハルク・ホーガンとスピードボート』とかいう番組だったと思う。

 結局、あと数人の悪漢とモンスターを倒してゲームは終わった。戦闘はあったものの、ほとんどの時間は「ロールプレイ」とやらに費やされた。あのセッションは僕の人生でも最も退屈で長い4時間だった。何度も言うようだけど、僕はFUDGEのやり方を学ばなかったし、ルールさえ読まなかったし、そもそもFUDGEはちっとも面白くなかった。エドと他のプレーヤーはFUDGEを気に入ったようだ。エド、ティム、ジジは今では毎週FUDGEをプレイしている。ジョンもプレイに参加しているが、ただ黙って座っていることを「プレイに参加している」というのは言い過ぎかも知れない。ひょっとしたら彼は初対面の僕に人見知りしていただけで、今ではしゃべっているのかも知れないが、彼らは二度と僕をゲームに誘おうとしないので、よく分からない。

 というわけで、これが僕の初めてのゲームレビューだ。そろそろ終わりにしよう。というのも、『ヘラクレスの伝説』が始まる時間になったからだ。これも『ベイウォッチ』に似ているが、ビーチが出てこないし、それにケビン・ソルボーは他人を巻き込んだりしない。

完成度:3(ふつう)
内容 :3(ふつう)



この記事は米国RPGnetの許可に基づき翻訳されたものです。日本語訳については当サイト管理者ben*at*land.linkclub.or.jpまたは翻訳者まで。記事の内容については本人へ英語で連絡してください。

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