ジェフ・フリーマンのRPGコラム"Ack!"



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流れに合わせろ
Run With It!



著者:ジェフ・フリーマン(Jeff Freeman)
翻訳:馬場秀和



 我々が、ダンジョン、下水道、あるいは宇宙船の通路をうろついていたとき(僕はポップタルトの箱に書かれた成分表を読んでいたので、ゲームマスターの背景説明を聞き逃してしまったのだ)、巨大なモンスター、ロボット、あるいは悪漢たちと激しい苦戦を繰り広げることになった。

 敵が何だったかは大して重要なことじゃない。結果的には、我々は全滅したのだ。

 皆がショックを受けて沈黙した。

 エドがゲームマスターだった。今や彼は「しまった」という顔つきで座っている。僕は知っている。エドは、多くの場合、ダイスの目をごまかしてでもプレーヤーに手応えを感じさせるか、場合によっては怖がらせようとさえするが、キャラクターを完全に殺してしまうことはないのだ。

 ジジは物事の明るい面を見ようとして「これって、えーと、エキサイティングね」と言った。

 ティムは、責任を分散させることで皆を慰めようとして「作戦に無理があったようだなあ」と言った。まるでゲームマスターが僕たちを全滅させたのは、僕たちがミスをしでかしたせいであるかのように。

 僕はジョンの方をちらりと見た。彼がどんなキャラクターをプレイしていたのかは不明だが、とにかくそのキャラクターは今や死んでいる。ジョンは自分のキャラクターシートを眺め、それからそれをひっくり返して裏を見ていた。彼が自分のキャラクターシートに何かを発見して「ははあ、結局のところ、僕たちはまだ全滅してないぞ」とか何とか言いだすところを僕は想像してみた。それまで彼はほとんど口を開いてなかったのだ。だが悲しいかな、やはり彼は黙っていた。

 僕はもっとはっきり言うことにした。

「ひどいぞ、エド」

 エドは自分の髪を撫でながら、僕たちと同じくらい当惑していた。どういうことだ? 最初からやり直しなのか(キャラクター作成からやり直すという考えに、僕はぞっとした)。でも、僕たちのキャラクターは、すでに何度かプレイに参加して成長していたのだ。彼らは歴史と個性を持っていた。おまけに、僕のキャラクターは素晴らしいアイテムを持っていたのだ。くそっ。

「そうだな」とエドは言った。

「君が僕らを殺したんだ」と僕は告発した。

 ティムはエドの弁護に回った。「あのさ、何も考えずに正面突破を狙った我々がまずかったんじゃないかな」

 「黙れ」僕は忠告してやった。「ちくしょう、エド、全滅だぞ全滅」テーブルの上に手を伸ばしてミニチュアフィギュアを全て倒した。敵のフィギュア以外、全てだ。おお、敵は結局ロボットだった。

「待てよ」エドはそう言って、テーブルの上に手を伸ばしてロボットのフィギュアを回収した。我々のフィギュアは倒れたままだ。それから彼は廊下を示す線を消して、代わりに波うつようなラインを2本引いた。我々はエドが一体何をするつもりなのか分からず見守るばかりだった。僕は、エドが今にもブルウィンクルに変身して「さあ、帽子からウサギを取り出して見せよう!」とか言いだすような気がした。

そうそう。どんな手で僕らを帽子から取り出すつもりなんだろう。

 「君たちは目覚めた」エドは言いだした。僕たちは互いの顔を見合わせた。誰かがぶうぶう文句を言う前に、彼は続けた。

 「君たちは炎の川の岸辺で目を覚ました。近くにボートがあり、漆黒のマントを着た渡し守が乗っている。渡し守は、君たちが何かを渡すのを待っているかのように骸骨のような手を広げている」

 はあ?

 「目覚めたとき、君たち全員が白い死装束を着ており、手の中には金のコインが1枚づつ握られていた」

 しめしめ。結局のところ僕たちは死んでないのだ。いや、死んでるんだけどさ。とにかく、この地獄からどうやって脱出すればいいんだ?

 それに、僕はせっかく集めた素晴らしいアイテムを全部失ってしまい、代わりに得たのは金のコイン1枚とバスローブだけなのだ。

 ティムとジジは渡し守に話しかけたが、僕はその間にエドのキッチンに行ってキャビネットを漁った。ほら、ポップタルトって中身がスカスカだろ。しかし、あいつは一体どこで食料を買ってくるのかねえ。インスタントラーメンが20袋、チャンキー・ビーフ・スタイルのチリと、スイート・スー・チキン&ダンプリング。どれも温めて食べるやつだが、何かを温める気にはならない。冷蔵庫には、1枚づつラップされたスライスチーズしか入ってなかった。

 「誰かピザが欲しい人?」僕はダイニングルームにぶらぶら戻って来てそう言ったが、無視された。エドは僕に「君も渡し守に自分のコインを渡すかい?」と尋ねた。

 「とんでもない。嫌だよ」と僕。

 「渡しなさいよ」とジジ。

 「彼は、我々をボートに乗せて川を渡ってくれるんだ」ティムが説明した。

 「ピザを食いに行くことにしてくれるなら」と僕は取引を申し出てみた。「コインを渡してもいいよ」

 そういうわけで、休憩をとることになった。炎の川の渡し守が、地獄の奥底に僕たちを運んでゆく間、ティムとジョンと僕はピザを食いに行くことになった。

 どうしてピザを食いにいったのが僕たち3人だけだったのかというと、まずエドは、ここから先のシナリオを「素早く」 考えるために一人になる時間を必要としていた。彼は僕たちを全滅させて地獄に送り込むことになるという展開を予想してなかったのだ。なお、ジジは肉を食べないし、チーズも食べないし、そもそもほとんど何も食べないのだ。

 僕は、三途の川を渡って(そしてピザを食いに出かけて)いる間に、渡し守である死神のポケットを探って、自分のコインを取り戻したいと思った。「Herbie the Love Thief」またもや大活躍というわけだ。へへっ。(訳注:「Herbie the Love Thief」は、ジェフの盗賊キャラクター。詳しくは『キャラクタの背景: 俺はイヴィルなんだ!』参照)

 おお、そうだ。他の連中のコインまで手に入るかも知れない。僕は全員のコインを独り占めしたかったので、他の連中に内緒で、エドにだけ行動申告しておいた。

 3人は僕の車に乗ったが、そこで僕は部屋に車のキーを忘れてきたことに気づいた。そういうわけで、地獄でどんな光景を目撃することになるか、というような話をティムがジョンにしている間に、僕は戻ってキーをとってくることにした。

 部屋に戻ってみると、エドとジジが一緒にソファに座って

 キスしているところだった。

 うわあ、ジゴクだ。


この記事は米国RPGnetの許可に基づき翻訳されたものです。日本語訳については当サイト管理者ben*at*land.linkclub.or.jpまたは翻訳者まで。記事の内容については本人へ英語で連絡してください。

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