馬場秀和のRPGコラム 1998年11月号



『パワープレイ −あるいはシークレットドアを探して−』



1998年11月9日
馬場秀和 (babahide*at*da2.so-net.ne.jp)
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 もしあなたがゲームコンベンション、あるいは馴染みのないゲームサークルに
ゲスト参加してRPGのゲームマスターをやったことが何度もあるなら、きっと
戦闘指向(というより戦闘以外に何も出来ない)キャラクターばかりで行う悪夢
のようなセッションの経験があるだろう。

 そういう経験がないとしたら、あなたはよほど幸運なのか、何にも気づかない
ほど愚かなのか、それとも記憶喪失に違いない。(その全てという可能性もある)

 ともあれ、それはこんな風にして起こるのだ・・・。


**


 参加者が作った(または持ち込んできた)キャラクターシートを見たあなたは、
かなり驚くことになる。どのキャラクターも戦闘に有利な種族で、戦闘用の能力
やスキルばかり集中的に高くなっており、配分資源(例えばキャラクターポイン
ト)は戦闘に有利なスキルや特徴に全てつぎ込まれていて、所持品は(もちろん)
武器と防具だけ、という具合だ。

 あなたが「これじゃ、例えばNPCを説得するといったことが誰にも出来ない
じゃないか」と言うと、参加者は口々に「NPCとの交渉はロールプレイで解決
するものですよ」とか「戦闘以外のシーンをルールで処理するなんて下手なゲー
ムマスターのすることだよ」とか反論される。気の弱いあなたは黙ってしまう。

 いざセッションが始まってみると、あなたが用意してきたシナリオは全く機能
しないことがすぐに判明する。なにしろプレーヤー達は、戦闘以外の障害(NP
Cの説得とか、情報収集とか、探索とか、謎解きとか)をゲームマスターを口先
で言いくるめることで解決しようとするのだ。そして彼らは非常に口が達者で、
しかも頑固なのだ、全員が。


**


 たとえあなたが断固としてルール通りやろうとしても、そもそも誰も戦闘以外
の判定に必要なスキルを持ってないのだからどうしようもない。無理にルールで
処理しようとしたら、セッションは頓挫して先に進まなくなるだろう。

 さらにあなたは、シナリオで用意してある敵では、弱すぎて話にならないこと
に気づく。今日のセッションに参加しているキャラクターは、誰もが、あなたの
想定よりもずっと戦闘能力が高いのだ。よく考えてみれば、本来は幅広く様々な
能力を習得するために用意された配分資源を、戦闘関係に全部つぎ込んで作った
キャラクターばかりなのだから、まあ当然のことだ。

 さて、あなたはどうするだろう?


**


 あなたが経験豊かなゲームマスターなら、この程度のトラブルへの対処は問題
ないだろう。おそらく、「困ったときはNPC」というゲームマスター黄金律に
従って、アドリブでNPCを出すに違いない。彼女は(もちろん若くて美人なの
だ)戦闘以外のあらゆる分野について極めて有能で、PC達の代わりにシナリオ
前半の障害をびしばし解決し、「あとは敵を叩くのみ」というところで敵の手下
か何かに惨殺される。(ここでキャラクター達は、「なんて酷いことを」とか、
「彼女の仇はこの手でうつ!」とか言うのだ。ふふんっ)

 で、あなたは予定していた敵をパワーアップし、頭数を倍にし、PCに不利な
状況を作って、ラストの戦闘に突入する。それでもPC達が楽勝するようなら、
「さすがに料理人と子守りだけでは君たちを倒せないと敵ボスも気づいた」とか
「今まで君たちと戦っていたモンスターは、実はここの主の餌だった」とか言い
出して、さらに強力な敵を出すわけだ。

 で、PC達がとにかく力ずくで敵を全滅させて、セッションは終了する。

 参加者はみんな「楽しかった」と言ってくれる。あなたは、「とにかく参加者
が楽しんでくれたのだから、今日のセッションは成功だった」と自分に言い聞か
せつつ帰宅の途につく・・・。


**


 こういうプレイスタイルを、以降では「パワープレイ」と呼ぶことにしよう。
 この言葉は単なる力押しや、シナリオを力業で強引に解決することを指す場合
もある。でもそんなことを言ったら、ほとんど全てのRPGセッションがパワー
プレイになっちゃうじゃないか。(違いますか?)

 だから、ここではもう少し極端な「キャラクター作成の段階から、戦闘以外の
ルールなど考慮しない」「あらゆる課題を戦闘で解決しようとする」「どうして
も戦闘では解決できない課題は、口先、あるいはキャラクタープレイで、ゲーム
マスターを言いくるめることで解決する」といった類のプレイスタイルのことを、
特にパワープレイ、そういうプレーヤーのことをパワープレーヤーと呼びたい。


**


 前述のようなパワープレイを経験したあなたが、同じ参加者と、再びRPGを
プレイすることになったとする。あなたは、シナリオを用意する際にどんなこと
に気をつけるだろうか。当然、PC達の戦闘力の高さを前提に、強い敵を用意す
ることだろう。でないと戦闘バランスが悪いからだ。

 あなたがそうすることはプレーヤーにとっても明白だから、こちらもプレイス
タイルを変えるわけにはいかない。もし急に自分だけ戦闘指向じゃない(弱い)
キャラクターを作ったとしたら、彼または彼女は、ハイレベルな戦闘バランスに
ついてゆけず、すぐに死んでしまうか、そもそも戦闘に参加できないことになる
だろう。それはとっても嫌だ。というわけで、誰もがパワープレイを続けざるを
得ない。

 プレーヤーが戦闘システムに慣れ、戦術に習熟し、さらにキャラクターが成長
するにつれ、この傾向はどんどん強まってゆく。今やあなたは、戦闘バランスを
保つために、より強い敵、より恐ろしいモンスター、より多くのポッシビリティ
を持ったボスを用意しなければならなくなる。当然、PC側もそれに対応すべく、
ひたすら戦闘力を高めるしかない。もはや「ドラゴンボール」状態だ。

 このように、パワープレイはどんどん進行する傾向があり、これに歯止めをか
けるのは難しいのだ。


**


 パワープレイがなぜ問題なのか。

 そもそもパワープレイが問題だと思わない人(だって参加者が楽しんでるんだ
からOKでしょ?)、あるいはパワープレーヤーのことを「連中はマンチキンだ
から放っておくしかない」と無視しようとする人は、とにかく次の点について、
よく考えてみてほしい。


    1.パワープレイは(少なくとも最初の頃は)非常に楽しい。また戦闘
      のことだけ考慮すればいいので、ゲームマスターにとっても楽だ。
      だから、多くのRPG初心者がパワープレイに走ることになる。

    2.前述したように、一度パワープレイが始まると、止めるのは困難で
      ある。つまりパワープレイはどんどん進行する傾向がある。

    3.パワープレイばかりやっていると飽きてしまう。

    4.パワープレイに飽きた人は、「パワープレイに飽きた」と思って、
      他のプレイスタイルに挑戦するのではなく、「RPGに飽きた」と
      思ってRPGを止めてしまうことが多い。
      特に、最初からパワープレイ以外のプレイスタイルを経験してない
      初心者にその傾向が強い。

    5.こうしてRPGを長く続ける人が減り、RPG人口は減少してゆく。


 このように、パワープレイはRPGの普及、発展にとって有害であり、何らか
の対策が必要なのだ。


**


 では、なぜパワープレイに走るRPGグループが多いのか?

 誰もがすぐに思いつく答えは「RPGプレーヤーには戦闘好きが多いから」と
いうものだろう。

 「フローティング・バガボンド」"Tales from the Floating Vagabond"という
RPGのルールブックにも、次のような一節が書かれている。


    ・RPGでは、やたらと戦闘が起こる。これはたぶん、RPGをプレイ
     しようと思うような奴は、戦闘よりマシな行動を何も思いつかない、
     暴力的でサイコパスな変人だけだからだろう。でもまあ、ここで批判
     しても仕方ないよね。我々は、君のような人のためにゲームを作って
     るんだから。
                 アバロンヒル社
                 Tales from the Floating Vagabond
                 第7章「反社会的な行為とその扱い」より


 何という説得力だろう!

 思わず膝を打って納得してしまいそうになるだろうが、いやいや、騙されては
いけない。RPGプレーヤーが好んでいるのは「戦闘」ではなく、「戦闘ルール」
なのだ。


**


 これを証明するのは簡単だ。

 仮想的なRPGを考えてみよう。このRPGには非常によく出来た「値切り」
のルールがあるとする。このルールを使えば、白熱する値切り交渉を再現できる
のだ。

 一方、このRPGにおける戦闘は「戦う相手を決めて、両キャラクターの戦闘
スキルでそれぞれダイスロール。成功すれば無傷、失敗したら即死。これを勝負
がつくまで全員が繰り返す」といったつまらないルールで解決するとする。

 このようなRPGをプレイするときでもパワープレイに走る人は、たぶん本当
に戦闘好きなのだ。彼らのために、誰かが「デューク・ニューケム・RPG」を
デザインしてあげるべきだろう。

 でも、おそらく大半のRPGプレーヤーは、このRPGをプレイするときは、
店に買い物に立ち寄って、「値切り交渉」しようとするはずだ。なぜって、その
方が戦闘よりずっと面白いからね。

 それどころか、パワープレーヤーのグループでさえ、敵に出会ったときに戦闘
を避けて「買収する」と言い出すかも知れない。ゲームマスターが買収を認めた
ら、さっそく贈賄額について、「値切り交渉」を始めるのだ。(ここで、彼らの
キャラクターは「値切り交渉」に有利な能力やスキルばかり習得していることが
判明する)

 つまり通常のRPGでパワープレイに走るパワープレーヤー達だって「戦闘」
そのものを好んでいるわけじゃなくて、白熱する戦闘を再現する「戦闘ルール」
を好んでるわけだ。そうだろう?


**


 お分かりのことと思うが、要するに私は、「一部のRPGプレーヤーがパワー
プレイに走る原因は、彼らがマンチキンであるということ(だけ)ではない。真
の原因は、戦闘ルールに比べて、それ以外のルールがつまらないことだ」と言い
たいのだ。

 実際、「初心者向け」と言われるRPGほど、戦闘ルールはそれなりに充実し
ていて面白いのに、それ以外は「一般判定用ダイスロール」といったつまらない
ものしか用意されてないというゲームが多い。こういう製品を「初心者向け」と
いう評価を信じて買ってきた初心者グループがどういうプレイをするか想像して
みよう。


  プレーヤー1 「村長を説得して、地図を見せてもらうように頼みます」
  ゲームマスター「君は“説得”スキルを持ってないからその行動は出来ない」


 失礼。さすがに最近はこんなマスターリングをする人はいないだろう。でも、
ルールブックに“説得”に関するルールが載ってないと、初心者ゲームマスター
はこんな感じのマスターリングをやってしまう。


  プレーヤー2 「じゃあ、僕が・・(一生懸命に説得材料を並べる)・・・
          と言って説得します」
  ゲームマスター「+1のボーナスをつけて“交渉”でダイスロールして」
  プレーヤー2 「失敗しました」
  ゲームマスター「説得できなかった」


 戦闘に比べて何とつまらない処理だろう!

 こういうのを経験したプレーヤー達が、次からは退屈な「説得」など試みずに、
いきなり「村長を倒して地図を探します」と言い出したとして、彼らを責められ
るだろうか?


**


 あらゆる平和的行為について「ダイスロール一発」だけで解決するような退屈
なルールしか用意されてない「初心者向け」RPGを楽しむ方法は、次の2つし
かない。


    1.つまらない「ダイスロール」など捨て、キャラクタープレイに走る

    2.つまらない「平和的行為」など捨て、戦闘に走る


 1.はキャラクタープレーヤー(前回の馬場コラム参照)への道であり、2.
はパワープレーヤーへの道だ。彼らは、ルール(あるいは戦闘以外のルール)に
従った処理は退屈だと信じて、どんどん別の方向に進んでいってしまう。だが、
もちろんそちらの方向に未来はない。

 お分かりの通り、いわゆる「初心者向け」RPGと呼ばれているゲームこそ、
初心者を「キャラクタープレーヤー」とか「パワープレーヤー」という袋小路に
誘い込み、ルール軽視・ゲーム性無視の風潮を育てて、ゲームシステムの発展を
阻害し、結果としてRPG市場をダメダメにしている諸悪の根源なのだ!

 ・・・まあ、ともかく諸悪の根源の1つだ。

 ときどき思うのだが、どうしてRPG業界には「諸悪の根源」がこんなに沢山
あるのだろう?


**


 では、いわゆる「初心者向け」RPGをやるとき、問題プレーヤーを育てない
ようにするために、ゲームマスターに出来ることはないだろうか?

 考えてみれば、そういうRPGに用意されている面白いルールは、戦闘ルール
だけなのだから、平和的行為も全て戦闘ルールで解決してはどうだろう。「説得
戦闘」「値切り戦闘」「修理戦闘」「運転戦闘」「カラオケ戦闘」「口説き戦闘」
・・・。

 こう考えてみよう。前述した通り、パワープレーヤーが好んでいるのは「戦闘」
ではなく「戦闘ルール」なのだ。だから、あらゆる平和的行為を「戦闘ルール」
で処理することにすれば、平和的行為で充分に満足し、誰もわざわざ「戦闘」を
する気にならないのではないだろうか。これこそ「平和のための戦闘」「パワー
プレイへのエスカレーションを抑止するための代理戦闘」だろう。

 そもそも人類は常に「平和のための戦争」をやってきたのだし、冷戦時なんか
「全面戦争へのエスカレーションを抑止するための代理戦争」なんてのも流行っ
た。あれを応用してみてはどうか、ということだ。


**


 では、「説得戦闘」を例にとって代理戦闘の具体的なやり方を考えてみよう。

 まず仮想的な「初心者向けファンタジーRPG」を想定してみる。このRPG
における戦闘の基本は、剣や斧による切り合いだとしよう。攻撃が命中したか否
かはキャラクターの「刀剣スキル」で判定し、命中したら武器の「攻撃力」から
相手が装着している防具の「装甲値」を引いた差分が「ダメージ」となり、相手
のHP(ヒットポイント)をそれだけ減らす。HPがゼロになったら戦闘不能に
なる、ということにしよう。特に斬新なルールではないよね。

 さて、このルールで「村長を説得して地図を見せてもらう」という説得を行う
ことにしよう。ここで大切なのは、ルールメカニズムや数値データを変えないで、
各データの名称だけ「説得」行為にふさわしいものにすることだ。


**


 まずゲームマスターが「信用できないよそ者に、大切な地図を見せるわけには
いかん」と村長のセリフを口にしながら、素早くゲームバランスを考え、適当な
モンスター、例えばトロールの数値データを用意する。村長を説得する難しさは、
戦闘でトロールを倒す難しさに匹敵すると判断したわけだ。

 そして、トロールの数値データを、例えばHPを「根性」、装甲値を「頑固」、
攻撃力を「気合」という名前に変える。

 「でも、きっと盗賊団がこの村の近くに潜んでいるんですよ。彼らを見つけて
退治できるのは我々だけです」とPC1が言う。GMは「その説得は、剣として
扱う」と宣言する。もちろん、説得力に対応すると思われる攻撃力の武器を選ぶ
のだ。

 プレーヤー1は「説得」スキルで命中判定して、成功。剣のダメージに等しい
「気合」が村長の心を打ったが、村長は「頑固」で踏ん張り、「根性」が少し減
った。GMは残り「根性」を記録する。(これがゼロになると説得成功である)

 村長の反撃。「そういうお前らこそ、盗賊団じゃねえのか。おおかた、地図を
見て略奪先を決めようって腹だろう」

 トロールの殴り攻撃が命中。PC1の「根性」が半減する。「君は村長の気迫
に押されてタジタジとなった」

 PC2が弓矢で遠隔攻撃。「何もタダとは申しませんよ。実は魔法のアイテム
を余分に見つけてしまいましてね。誰か、親切な方にお譲りしてもいいかなと」

 弓矢の命中判定は失敗。「君の申し出は、どうやら村長に無視されたようだ」

 PC3が治療の魔法をPC1に。「挫けるな。ここで君が諦めたら村人が犠牲
になるんだぞ」「むむっ、そうだった。俺はここで引くわけにはいかないんだ」
PC1の「根性」が9ポイント回復。


**


 アホらしくなってきたので止めるが、要するに

    ・説得のやり方(ロールプレイ)で武器を決める

    ・「説得」スキル(なければ適当な対人交渉の能力か技能)で命中判定

    ・PCの「根性」がゼロになれば、根性が尽き説得を諦めたことになる

    ・トロールの、じゃなかった、村長の「根性」がゼロになれば、説得に
     応じたことになる


という点を除けば、あとはダンジョン内でトロールと戦闘しているのと同じだ。
したがって、戦闘バランスも、そして戦闘の面白さも、同じになるだろう。

 馬鹿げている?

 確かに私もそう思う。この代理戦闘というアイデアは、かなり馬鹿馬鹿しい。
でも、この例で、私の言いたいことを説明できると思う。

 つまり、こうだ。「説得戦闘」を大まじめに取り入れれば、プレーヤーの中に
は「戦闘より説得の方が面白い」と感じる者がいるはずだ。そういうプレーヤー
は、きっと「説得」スキルといった交渉関連の能力を高め、戦闘シーンではなく
説得シーンや交渉シーンを中心に活躍しようと考えることだろう。

 同じように「探索戦闘」を取り入れれば、知覚関連の能力を高めようとする者
が出てくるだろう。

 「カーチェイスのシーンは、運転戦闘で解決する」と宣言すれば、車の運転ス
キルを高めようとするプレーヤーがいるはずだ。

 ゲームマスターが、知識関連のスキル(地質学とか植物学とか)といった一般
にあまり人気のないスキルをプレーヤーに習得させたいと思ったとしよう。なら
「謎ときのシーンは、全て知識戦闘で解決する」と宣言してみてはどうか。

 こうして、各種の代理戦闘を取り入れることで、プレーヤー間で「それぞれ、
中心となって活躍する代理戦闘シーンを分担しよう」という気運が高まるなら、
彼らはRPGの基本の1つである「役割分担」を学んだことになるのだ。


**


 さて、改めて考えてみよう。初心者向けRPGとは何か?

 それは、決して“ルールが少ない”RPGのことではない。ゲームマスターに
多大なる負担と責任を押しつけてくる“自由度の高い”RPGのことでもない。
“ルールが簡単”ということでさえ、優先度は高くない。

 初心者向けRPGは、何をおいてもまず“教育効果が高い”RPGであるべき
だ。すなわち、プレイするだけで、RPGの正しい(少なくとも偏りの少ない)
プレイスタイルの基礎を学ぶことが出来る、というのが本来の初心者向けRPG
の姿だろう。

 前述した代理戦闘のアイデアは、「パワープレイに走ろうとするプレーヤーに
対する教育効果」を狙っている。確かにあれは馬鹿げているし、本当に教育効果
があるかどうか議論の余地が大いにあるとは思うが、それでも「戦闘以外の判定
は全てダイスロール一発」というのに比べれば、より「初心者向け」を指向して
いると言えるだろう。ルールが少なく簡単ならすなわち初心者向け、ということ
では決してないのだ。


**


 実のところ私は、キャラクタープレーヤーもパワープレーヤーも、日本RPG
人口に一定の割合で含まれていてもよいと思う。「多様性こそ発展の源」という
考えから、彼らの存在を積極的に肯定してよいとさえ思うこともある。(特別に
幸福で楽観的な気分で、この世に生まれてきたことを神と両親に感謝する気持ち
でいっぱいのときなど)

 だが、彼らが適切な割合(合計で0.7%程度か?)を越えて増殖するのは問題だ。

 私の感じるところでは、キャラクタープレーヤーとパワープレーヤーを合わせ
ると、日本のテーブルトークRPG人口の実に半数近くを占めるのではないか。
この見積もりについては「悲観的すぎる」という批判と「楽観的すぎる」という
批判の両方が予想されるが。

 そしてキャラクタープレーヤーはRPGを始めようとする人を減らし、パワー
プレーヤーはRPGに飽きて止める人を増やし、彼らを主な購買層として想定し
ているゲーム会社は、ゲームとして優れた作品を作る気がなくなるというわけだ。

 だとすれば、これは明らかに不健全な状態であり、RPG市場が縮小の一途を
たどっているのも無理はない。


**


 どうすれば日本のRPG界を救済できるだろう?

 1つの方法は、RPG界を支える次の世代、すなわちこれからテーブルトーク
RPGを始めようとする人々を正しく育てることだ。そのためには、本来の意味
で優れた「初心者向け」RPGが必要なのだ。

 そういうわけで、市販RPGのデザインやプロデュースに関わっている人々に
お願いしたいのだが、どうか「初心者向けRPG」というコンセプトでRPGを
作る際には、教育効果を最重視してほしい。偏ったプレーヤーが一定の割合以上
に増えないように歯止めをかけ、良い意味のテーブルゲーマー達を育てるには、
どんなRPGが最適かを真剣に考えてほしいのだ。

 これはゲーム会社にとって、決して損な話ではないはずだ。テーブルゲーマー
は将来に渡って継続的にテーブルゲーム(RPGだけではない)を購入し続けて
くれるからだ。いわば、未来の主力購買層を育てる種をまいてほしいのだ。

 一方、RPGプレーヤーの方々にもお願いしたいのだが、初心者向けRPGを
評価する際には「教育効果がどのくらいあるか」という点にこそ注目してほしい。
そしてRPGに初めて手を出そうという人が「初心者向けのRPGはどれですか」
と質問してきたとき、普及しているからとか、ルールが簡単だからとか、覚える
ことが少ないからとか、人気アニメが原作だからとか、そういう点ではなくて、
教育効果が高いRPGを推奨してあげてほしい。

 教育効果が高いRPGとはどのような作品なのか、あるいは現在日本で流通し
ているRPGのうち教育効果が高い作品は何か。こういった点についての議論や
情報交換はとても有意義だと思う。どしどしやるべきだ。


**


 最後に、パワープレーヤーの自覚がある方々へ。

 今すぐプレイスタイルを改めろ、とは言わないが、どうか戦闘やレベルアップ
以外にもRPGには様々な楽しみがあることを理解してほしい。そのためにも、
色々なRPG(特に海外RPG)についての知識を深めることを強くお勧めする。

 まずは、Scoops RPGの「ゲームレビュー」コーナーを、丹念に読んでみよう。
1998年11月現在、ゲームレビューのコーナーは2つある。一つはScoops RPGオリ
ジナルで、他方はRPGnetからの翻訳版だ。両方とも目を通そう。

 さらに

    『馬場秀和ライブラリ』

という、私の個人ページもお勧めしておく。ここでは数多くの海外RPGが紹介
されている。全部に目を通せば、一口にRPGといっても、実に多様なバリェー
ションがあることが実感として分かると思う。

 なぜ、色々なRPGについて知識を深めることをお勧めするのか?

 それは、いずれパワープレイに飽きてきたときに、決して「RPGに飽きた」
「もうRPGは卒業しよう」などと思ってほしくないからだ。そうではなくて、
「今度は別の傾向のRPGをやってみよう」「別のプレイスタイルに手を出して
みよう」と考えてほしいのだ。

 RPGは多種多様で、奥深く、しかも発展しつつあるゲームだ。どんなに飽き
たと感じても、必ずその先にまた別の、もっと深い楽しみがある。これは10年
以上RPGをやってきた経験に基づいて言ってることだから、どうか真面目に受
け取ってほしい。パワープレイは、RPGという広大な洞窟の、ほんの入り口に
過ぎないのだ。

 もっと分かりやすく言い直そう。パワープレイに飽きたとき、あなたは袋小路
に入り込んだように感じるだろう。もう洞窟はここで行き止まりだ、と感じて、
引き返そうと思うかも知れない。でも、決してそうじゃない。RPGという名の
洞窟には、もっともっと奥があって、そこにはずっと手応えのある相手が待って
いるんだ。

 さあ、シークレットドアを探そう。それは、必ずある。どこかにある。信じて
ほしい。そして、それを見つけて、先へ進むんだ!



馬場秀和
since 1962


馬場秀和が管理するRPG専門ウェブページ『馬場秀和ライブラリ』


 この記事はScoops RPGを支える有志の手によって書かれたもので、あらゆる著作権は著者に属します。転載などの連絡は著者宛てにしてください。

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