馬場秀和のRPGコラム 1999年1月号



『ゲーム感覚 −あるいは実践的RPG入門−』



1999年1月23日
馬場秀和 (babahide*at*da2.so-net.ne.jp)
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 昨年の暮れに部屋の大掃除をしていたところ"THE BEST GAMES '93"という雑誌
別冊を見つけてしまった。この手の冊子は、探しているときには決して見つから
ず、忙しいときに限ってひょっこり現れる、というのが特徴らしい。ともあれ、
懐かしくてついついページをめくっていると、「最近2年間にプレイしたゲーム
で、面白かったテーブルゲームのベストテンを書いて下さい」というアンケート
の集計結果が載っているのに気づいた。アンケート実施期間は1992年の10月から
11月となっているから、もう6年以上昔の情報だ。

 見ると、1位:アクワイア、2位:モノポリー、3位:1830、てな具合に
当時人気があったテーブルゲームの定番がずらりと並んでいる。いやー、懐かし
いよね、まったく。「ライヤーズダイス」(12位)、「ラミィキューブ」(13位)、
そうそう、合宿してやり続けたよなあ・・・。


**


 このリストを眺めているうちに、16位:クトゥルフの呼び声、27位:D&D、
42位:ルーンクエスト、50位:トラベラーというように、RPGのタイトルが、
無造作にリストアップされていることに気づいて、ちょっと意外な感じがした。

 ちなみに、クトゥルフと同じ16位には、「レイルウェイ・ライバルズ」(線路
引き系ゲーム)がランクされている。D&Dと同じ27位には「アウフ・アクセ」
(荷物運送ゲーム)と「ウサギとハリネズミ」(レースゲーム)が並び、ルーン
クエストと同じ42位には「ブラックレディ」(プレイングカードゲーム)、50位
トラベラーと同位には「シャーク」(株式売買ゲーム)、「はげたかのえじき」
(カードゲーム)といった具合に、定番テーブルゲームの名前がある。

 ずらりと並んだ人気テーブルゲームの中に、何の違和感もなくRPGが入って
いるのを見て、私はしみじみと思ったものだ。そうそう、あの頃はRPGと一般
的なテーブルゲーム(ボードゲーム)の間に、区別なんてなかったよなあ、と。


**


 とまあ、そういうことだ。この頃のゲーマーにとっては、RPGといっても、
ちょっと特殊なテーブルゲームに過ぎなかった。「面白かったテーブルゲーム」
のアンケート用紙に「アべ・カエサル」や「ディプロマシー」と並べて「クトゥ
ルフの呼び声」と書いて何の違和感も覚えない、そんな感じだったのだ。

 だから、その後にRPGブームというのがやってきて、テーブルトークRPG
のプレイ人口が急増したときも、硬派テーブルゲーマー達は「RPGがきっかけ
となって、テーブルゲームをやる人が増えてくれるだろう」と、無邪気に喜んだ
ものだった。

 ところが、そうはならなかった。

 ブームに乗ってRPGを始めた人々は、それまで本格的なテーブルゲームなど
プレイしたことがなかったのだ。(念のため言っておくが「人生ゲーム」は本格
的なテーブルゲームとは言えない)

 ゲーム会社もゲーム雑誌も、そういう「初心者」を放すまいとして、RPGの
非ゲーム的な側面(なりきり、ストーリー、ノリ、その他)ばかりを強調した。
彼らはおそらく「テーブルゲームの経験がない初心者は、ゲーム的な要素を嫌う
はずだ」と考えたのだろう。

 入門者を増やすという戦術的メリットを追求するあまり、RPGからその本質
であるゲーム性を抜き取るという、致命的な戦略的ミスを犯したわけだ。残念な
ことに、手遅れになるまで誰もこのことを真剣に反省しなかった。


**


 結果として、本格的なテーブルゲームのプレイ経験なしにRPGを始めた人々
は、それがゲームだということが理解できなかった。それはキャラクターになり
きって演技し、皆で盛り上がるストーリーを作る遊戯だと思い込んでしまった。
そして、誰もそれが間違っているということを教えてあげなかったのだ。

 こうして、わずか数年でRPGは(というより「RPG」からゲーム性という
本質を抜き取って作られた遊戯である「RP」は)飽きられてしまった。

 何ということだろう。RPGブームのせいで、テーブルゲームのプレイ人口は
増えるどころか、かえって減ってしまったのだ。なぜなら、ブームの最中にテー
ブルゲームサークルの多くが事実上RPGサークルになってしまい、RPGブー
ムが去って人が散ると共に、そのまま自然消滅してしまったからだ。

 硬派のテーブルゲーマーにとって、RPGブームはイナゴの大群のようなもの
だった。それは突然やってきて、多くのゲーム仲間とゲームサークルとテーブル
ゲーマーの次世代を食い荒らし、後にはほとんど何も残さず去って行ったのだ。


**


 こういう過去の反省を踏まえて、私はことあるごとに「RPGの本質はゲーム
である。これを原点にしない限り技量の向上はない。また、この認識抜きに今後
のRPGの発展と市場再建もあり得ない」などと書き続けてきたわけだ。

 おかげで、「もうRPGにはうんざりしたと思っていたのですが、馬場さんの
講座を読んで、全然やり方を間違えていたことに気づきました。もう一度、改め
てゲームとしてのRPGにとりくんでみようと思います」といった嬉しいメール
を受け取ることも多くなった。

 しかし、一方で「RPGはあくまでゲームとしてプレイすべきだ、という理屈
は納得できるのですが、実践しようとしても何をどうすればいいのかよく分から
ないのです」といった相談のメールもよく受け取る。

 最初のうち、そういうメールを読むと私は困惑を覚えていた。「何をどうすれ
ばいいのかよく分からない」って、なぜ? いつもテーブルゲームをやるときと
同じ要領で取り組めばいいだけじゃないですか。

 何度かメールのやり取りをしているうちに、私にも、ようやく分かってきた。
彼ら若い人は、本格的なテーブルゲームの経験なしに、いきなりRPGを始めて
いるのだ。そういう若者にとっては「テーブルゲームをプレイする要領で」など
と言われても、「確定申告をする要領で」とか、「仲人を務めるときの要領で」
とか言われているのと同じなのだろう。経験がないので、根本的に理解できない
のだ。


**


 そこで、このコラムをお読みの方には「RPGだけでなく他のテーブルゲーム
も数多くプレイしなさい。それがRPGに上達する早道です」とお勧めしておく。

 同時にこれは、多くの人から寄せられる「馬場講座を実践するには、具体的に
どうすればいいのですか」という質問に対する回答でもある。

 では、具体的にどうすればよいか書く。

 一口にテーブルゲームと言っても数が多いが、本格的なテーブルゲームの経験
が全くなく右も左も分からないという人は、とにかく次の冊子を手に入れること
から始めるとよいだろう。


    『お勧めゲームリスト』

      パズルとゲームの店「メビウス」が発行している無料の冊子。
      年2回発行。店長お勧めのテーブルゲーム紹介が載っている。紹介
      されているゲームは、通販で購入可能。もちろん全て日本語ルール
      がついている。通販方法については、この冊子を参照するかe-mail
      で問い合わせること。
      入手方法は、e-mailでmobius.nose*at*nifty.ne.jpに連絡して確認。


    『ノイエ』

      ゲーム情報誌。テーブルゲームのレビューなど記事が充実している。
      隔月発行。こちらにはゲームの店「シュピーレブルグ」の通販方法
      が載っている。
      入手方法はシュピーレブルグのウェブページの「通信販売」ページ
      を参照。ここで「ノイエ」を通販で注文できる。
      またはノイエのウェブページに「取扱店一覧」が載っているので、
      最寄りの店に立ち寄った際に購入する。(ここには「メビウス」の
      連絡先tel/fax 番号も載っているので参照されたし)


    シュピーレブルグのウェブページ

      http://www.spieleburg.com/

    ノイエのウェブページ

      http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/1583/


**


 とにかく、悪いことは言わないから、まずはこれらの冊子を読むことだ。それ
でどのテーブルゲームが面白いのか、人気があるのかが分かる。(ちなみに上記
の冊子で紹介されているのは、主にドイツ製の最近の作品だ。まずは、ここから
始めるのが最適だと思う。ドイツのボードゲームは面白い)

 通販方法も分かるし、価格も分かる。後は注文を出すだけだ。

 ゲームを手に入れても、プレイする仲間や場所がないという場合には、前述の
「メビウス」(東京)、「シュピーレブルグ」(大阪)に立ち寄って、店の人に
相談するといいだろう。きっと問題は解決するはずだ。紹介されたゲームサーク
ルに寄ってみてもいいし、あなたと同じようにプレイ仲間を探している同好の士
とこれらのショップ経由で連絡を取り合ってもいい。店で場所を借りてゲームを
プレイすることだって出来る。

 私(馬場)も、毎月、自宅に知人を招いてテーブルゲーム会を開催している。

    備考:上記は1999年当時の話であり、残念ながら現在は休止している。

 もし東京都福生市の近くに住んでいる人で、ちょっとテーブルゲームを試して
みたいという人がいれば、私(馬場)まで連絡してみるのも手だ。手助けできる
かも知れない。


 本格的なテーブルゲームといっても、たいていは30分から2時間くらいで終了
する。おかげで1日に3つか4つプレイすることが可能だ。もっと長時間かかる
RPGよりずっと手軽なのだ。ばりばりプレイしてみようじゃないか。


**


 こうしてテーブルゲームを何度もプレイしていると、そのうちに“ゲーム感覚”
とでも言うべきものが鋭くなってくる。これは文章ではうまく説明できないのだ
が、何というか、ルールを読んだだけでは何がどうなっているのかよく分からず、
とりあえず実際にプレイを始めてみて、いきなり「あっ、こういうゲームなのか」
と気づくときの感覚だ。

 これを無理やり文章で表現してみるなら、「目標、障害、制限といったゲーム
要素が脳裏で有機的に組み合わされ、自分がどのようなジレンマに直面しており、
何を意志決定しなければならないのか、その結果としてどのように多彩な展開が
生じるのか、その全体像が明確に把握されたときの、驚きを伴う感動的な感覚」
ということになる。・・・やはり文章で表現するのは無理か。

 この“ゲーム感覚”がないとゲームは面白くないし、そもそもゲームをプレイ
することが出来ないだろう。そして“ゲーム感覚”が鋭くなると、良いゲームと
そうでないゲームを、もうそれこそ感覚的に区別できるようになる。良いゲーム
は、プレイしていて自分の“ゲーム感覚”にびんびん訴えてくるものがあるのだ。
何と言えばよいのか。ジレンマにわくわくするというか、意志決定にときめくと
いうか。

 それに対し、良くないゲームだと、ジレンマはうっとおしく、意志決定は面倒
なだけだ。

 さらに“ゲーム感覚”が研ぎ澄まされると、ゲームデザイナーの“におい”ま
で感じ取れるようになる。クニツィアくさいゲーム、とか。

 “ゲーム感覚”の特徴は、いくらテーブルゲームをプレイしても飽きて鈍って
くることがないという点だ。これは素晴らしいことだ。確かに、何度もプレイす
れば、個々のテーブルゲームには飽きる。しかし、“ゲーム感覚”さえ持ってい
れば、テーブルゲーム自体に飽きることはないのだ。新しいテーブルゲームをプ
レイする度に、“ゲーム感覚”が新たな刺激を受ける。それが良いゲームなら、
やっぱりドキドキワクワク心ときめいてしまう。こうして、人は、何年も何十年
も新しいテーブルゲームを次々に見つけてきてはプレイすることになるのだ。


**


 こうしてテーブルゲームで“ゲーム感覚”を磨いてから、改めてRPGに挑戦
してみよう。あなたがゲームマスターを担当するのであれば、次の1点だけでも
頭に入れておいてほしい。すなわち、RPGは不完全なゲームであり、「実際に
プレイするゲーム」を創り出すのはゲームマスターの仕事なのだ、ということだ。

 今やあなたは“ゲーム感覚”を知っているわけだから、私が「実際にプレイす
るするゲーム」と言ったとき、それが何を意味するのかを感覚的に理解できると
思う。

 それは、ゲームマスターが用意する「目標」「障害」「制限」といったゲーム
要素がプレーヤーの脳裏で有機的に組み合わされ、プレーヤーとキャラクターが
それぞれどのようなジレンマに直面しており、プレーヤーが何を意志決定しなけ
ればならないのか、結果としてどのように多彩なストーリーが生じるのか、その
全体像が明確に把握されたときの、驚きを伴う感動的な感覚のことだ。

 つまるところ、ゲームマスターの仕事とは、他の参加者のためにゲームを(願
わくば良いゲームを)デザインするということだ。プレーヤーは「シャドウラン」
というRPGをプレイするのではない。彼らがプレイするのは、ゲームマスター
が「シャドウラン」というルールシステムと背景世界を基にデザインした「実際
にプレイするゲーム」なのだ。

 だから、ゲームマスターは、自分の“ゲーム感覚”に頼ってゲームデザインに
取り組む必要がある。どんな「目標」「障害」「制限」を置けば、わくわくする
ようなジレンマが生じるか、意志決定にときめきが生れるか。

 自分の中にしっかりした“ゲーム感覚”を持っていれば、これは想像するほど
難しいことではない。要するに自分がプレーヤーだと想像してみて、自分自身の
“ゲーム感覚”がびんびんに刺激されるような、良いゲームを用意すればいいの
だから。


**


 本格的なテーブルゲームの経験なしに、いきなりRPGを始めた人には、重ね
てお願いしておく。どうか、数多くのテーブルゲームをプレイしてみてほしい。
そして私のいうところの“ゲーム感覚”をしっかりつかんでから、改めてRPG
に接してみてほしい。

 おそらく、以前に慣れ親しんでよく知っているつもりでいたRPGとは別の面、
つまりテーブルゲームの一種としてのRPGが見えてくるに違いない。同じシス
テムと背景世界を使っていても、“ゲーム感覚”を持った参加者が「これはテー
ブルゲームの一種である」と正しく認識してプレイすれば、以前とは全く違うも
のに感じられるだろう。

 素晴らしきRPGの世界にようこそ。これは以前にあなたが遊んでいた「RP」
とは異なる、本格的なテーブルゲームである。“ゲーム感覚”に訴えてくる点で
「アべ・カエサル」や「ディプロマシー」と並べて違和感のない立派なゲームだ。


**


 私は先ほど「ゲーム感覚さえ持っていれば、テーブルゲーム自体に飽きること
はない」と言った。重ねてこう言おう。「ゲーム感覚さえ持っていれば、RPG
自体に飽きることはない」と。

 さあ、これが「馬場講座をどうやって実践すればいいのか」という質問に対す
る私の答えだ。まずは、本格的なテーブルゲームをやりたまえ。“ゲーム感覚”
を磨きたまえ。さすればRPGへ正しく入門する道が見つかるであろう。RPG
に飽きて去りゆく道は消え去るであろう。そしてRPGは、汝の“ゲーム感覚”
に尽きることなき心地よい新鮮な刺激を与え続けてくれることであろう・・・。

 ごほん。さあ、分かったら、すぐに取りかかるんだ。急がないと、人生なんて
あっという間に終わってしまうぞ。



馬場秀和
since 1962


馬場秀和が管理するRPG専門ウェブページ『馬場秀和ライブラリ』


 この記事はScoops RPGを支える有志の手によって書かれたもので、あらゆる著作権は著者に属します。転載などの連絡は著者宛てにしてください。

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