馬場秀和のRPGコラム 1999年3月号



『ポイント制シナリオ −あるいは哺乳類の世話はどんなに大変か−』



1999年3月15日
馬場秀和 (babahide*at*da2.so-net.ne.jp)
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 我が家ではペットを飼育している。1999年 3月現在、熱帯魚の水槽が2つある
上に、フェレット(イタチの仲間)3匹、モルモット2匹、チンチラ1匹が我々
夫婦と共同生活しているのだ。そういうわけで、哺乳類だけでも合計6匹(我が
配偶者に言わせると、合計7匹)の世話をしなければならない。

 この世話というのが大変な手間なのだ。水槽の水替えとコケとり、トイレ掃除
に餌やり、飲み水の交換。それに、フェレットやチンチラは毎日ケージから出し
て遊んでやらないと怒って暴れる。モルモット達は、不満があると(なくても)
執拗に鳴いて飼い主を脅迫する。

 気を配らなければならないことは無数にある。チンチラは、湿気に弱い。モル
モットは寒さに弱く、フェレットは暑さに弱い。病気にも弱くて、定期的に予防
注射をしなければならない。

 哺乳類の世話はどんなに大変か、それは実際に毎日やってみないと分からない
だろう。


**


 しかし、どんなに大変であろうと、ペットの世話はつらくない。むしろ楽しい。
手間がかかるからこそ、楽しいのだ。動物好き、ペット好きの人なら、誰だって
そうだろう。彼らは嬉々としてペットの世話をし、手間が大変大変と言いながら、
誰にでも自分のペットを自慢する。

 中でもフェレット愛好家という人種は、特にダメダメである。何のためらいも
なく「うちのフェレットがこの世で一番かわいい」などと断言したりする。実に
愚かだ。

 愚かなだけでなく、そういうことを言う奴らは、明らかに間違っている。なぜ
なら、この世で一番かわいいのは、うちのフェレットだからだ。


**


 もちろん、動物の世話など面倒でとても続けられないという人もいる。という
か、その方が普通だろう。そういう普通の人から見れば、ペット飼育などという
趣味は、わざわざ手間暇をかけて生活の苦労を増やすようなもので、とても手を
出す気になれないに違いない。ペット愛好家がいくら「手間がかかる、まさに、
そこが楽しいんじゃないですか」と言ったって、無駄なことだ。

 RPGのゲームマスターという仕事も(よし、話がRPGにつながった)ひど
く手間がかかること、まさにそれが楽しいということ、そして普通の人から見れ
ば「何を好きこのんで手間や苦労を背負いこむのか理解できない。自分はとても
手を出す気にならない」と感じる点で、ペット飼育に似ている。ついでに言うな
ら、神にも等しい立場にありながら、よく考えてみると、やってることは召使と
同じ、という点でも似ている。

 このコラムを読んでいる人には、ベテランゲームマスターも多いことと思う。
そういう人は、ゲームマスターをやる手間(大変な手間だ)は、「まさにそこが
楽しいんじゃないですか」状態になってしまっている。おかげで、普通の人々に
とってゲームマスターなんていう仕事は手間がかかってとてもやる気にならない
のだ、ということをついつい忘れてしまう。


**


 そう。大多数の人は、ゲームマスターなんて面倒な仕事はやりたくないのだ。
RPGはゲームマスターなしには成立しないゲームである以上、こいつは真剣に
考えてみるべき問題だと思う。

 例えば、RPGに興味を持った人が、テーブルゲーム好きの友人知人に声をか
けたら数人が集まったので、ひとつ試しにプレイしてみようということになった
とする。たいてい、最初に言い出した人がゲームマスターを担当することになる
だろう。

 彼または彼女は、ルールをよく読んで、市販シナリオを選んで、シナリオに書
いてないことは自分で考えて、さらにプレーヤー達が想定外の行動を選んだ場合
に備えて色々と準備しなければならない(そしてシナリオ想定外の行動というの
は、考えれば考えるほど増えてゆく上に、どれもこれもプレーヤー達がいかにも
選びそうな気がしてくるのだ)。マップを追加しなければ。設定も増える。NP
Cの名前も用意しなければならない。

 心配の種は尽きない。最初の依頼を断られたらどうしよう。途中で、皆がバラ
バラに分かれて行動し始めたらどうしよう。最初の戦闘で、犠牲者が出たらどう
しよう。設定の矛盾を指摘されたら、考えてもいないことを質問されたら、細か
いルールを間違えてしまったら、そして文句を言われたら、どうしよう・・・。


**


 そして、最初のセッションが終わる。最初のセッションというのは、まあ不満
が残るものだ。恥ずかしい、みじめな思いをすることだって多い。そういうもの
だ。

 でも楽しかった、またゲームマスターをやろう・・・あなたは(なにしろ将来
「このコラムを読むような人」になる特殊な素質を持った人間だったから)そう
思ったかも知れない。が、大多数の人は違うのではないか。ゲームマスターって、
苦労の割に報われない、次からはプレーヤーに徹しよう、そう思うのではないだ
ろうか。

 彼または彼女に誘われて参加した他の人々も、もちろんゲームマスターをやろ
うなどとは思わない。彼らは、RPGを楽しんだかも知れない。また声をかけら
れれば、プレーヤーとして参加するのならやぶさかではない、とまで感じたかも
知れない。でも、わざわざ苦労してゲームマスターをやろうとまでは思わないだ
ろう。

 で、どうなるか。彼らは、誰か新たなゲームマスター志願者が現れるまでじっ
と待つだろうか。とんでもない。彼らはそれっきりRPGのことは忘れて、他に
もっと気楽に遊べるゲーム、たぶんトレーディング・カードゲームにでも、熱中
することになるだろう。失礼、“コレクティブル・カードゲーム”と言うつもり
だったんだ。


**


 実際、RPGを止めて、トレー、あう、“コレクティブル・カードゲーム”に
流れる人はどんどん増えている。そういう人が「RPGより気楽に楽しめるから」
と言うのはなぜかをよく考えてみよう。ルールが簡単だからだろうか?

 コレクティブル・カードゲームのルールは決して簡単じゃない。覚えなければ
ならないことも多いし、戦術も複雑だ。ゲームによっては、カードデッキを準備
するのにかなりの手間がかかる。負担は決して小さくないように思える。

 にも関わらず、多くの人にとって、心理的に「RPGより気楽に楽しめる」の
はなぜか。

 少人数で遊べること、1プレイが短時間で終わること。確かに、それもある。
しかし、最大の理由は「ゲームマスターが必要ないこと」ではなかろうか。

 つまり、コレクティブル・カードゲームにおけるプレーヤーの心理的な負担は、
たぶんRPGのプレーヤーよりも重い。だが、RPGのゲームマスターに比べれ
ば、ずっと軽いのだ。だから、心理的な負担が集中するゲームマスターなる仕事
を引き受ける人がいないとプレイできないRPGに比べて、参加者2名が一定量
の負担を引き受けるだけでよいコレクティブル・カードゲームの方が、心理的に
「気楽に楽しめる」ということになるのだろう。

 私が言いたいのはこういうことだ。RPGプレーヤー人口が減少の一途を辿っ
ているのは、要するにゲームマスター人口が不足しているからなのだ。そして、
その原因の1つは、ゲームマスターの負担、特に心理的負担が極めて大きいこと
にある。ゆえに、これはRPGにとって致命的な弱点なのだ。


**


 もちろん、ゲームマスターの負担が大きいのは当然のことで、「まさにそこが
楽しいんじゃないですか」と思える人だけがゲームマスターをやればいい、その
結果、RPG人口が減少したって構わない、という意見もあるだろう。

 しかし、「馬場秀和のRPGコラム」は「RPG人口を増やす(飽きて止める
人を減らし、新たに始める人を増やす)にはどうすればいいか」「消費者サイド
からの働きかけにより、日本のRPG市場を建て直すにはどうすればいいか」と
いったテーマを持っているので(実はそうなんですよ、気づきませんでしたか?)
負担を減らしてゲームマスター人口を増やすための方策を探る方向で考えること
にしよう。


**


 さて。では、ゲームマスターの負担を減らすにはどうすればよいか。

 最初に思いつくのは、ゲームマスターの負担が軽いシステムを選ぶことだ。

 よく初心者が、「ルールが簡単なRPGを教えて下さい」と質問してくるが、
あれはおそらく、簡単なルール=ゲームマスターの負担が軽いゲーム、であると
思っているのだろう。もちろん、これは誤解だ。一般的に言うと、ルールが簡単
なほど、ゲームマスターの負担はむしろ重くなる。ルールで解決できないことは
全てゲームマスターの責任で処理しなければならないからだ。(同様に背景設定
情報が少ないほどゲームマスターの負担は重くなるが、これをまるで逆に考えて
いる人が多い)

 例えば、『トーグ』(TORG)はゲームマスターの負担が軽いRPGとして有名だ。
このRPGのルールは簡単だとは言えないし、背景設定情報は少ないどころかむ
しろ豊富な方だろう。しかし、ルールメカニズムと背景設定が、多くのことを半
自動的に処理してくれるので、マスターの負担は軽いのだ。(だから、初心者に
お勧めできる)

 しかし、『トーグ』でさえ、ゲームマスターをやろうとするとそれなりに手間
がかかる。少なくともコレクティブル・カードゲームのプレーヤーよりはずっと
心理的負担が重い。

 これは、なぜだろうか?


**


 つまるところ、ルールメカニズムにより軽減される負担というのは、セッショ
ンハンドリング(実際にRPGセッションを取り仕切ること)の部分であって、
それはゲームマスターにとって最も重い負担ではないということだろう。

 ゲームマスターの仕事を分類して、心理的な負担が軽い順番に並べてみよう。


    1.プレイするシステムを選ぶこと(システム選択)
    2.セッションを実際に運用すること(セッションハンドリング)
    3.シナリオやデータ、マップなどを準備すること(シナリオ作成)
    4.想定外の展開について色々と考えて準備すること(強迫性神経症)


 最初のうちは2.と3.の負担の重さは逆かも知れないが、数回もセッション
をこなせば、セッションハンドリングなど軽いルーチンに過ぎないということを
悟るだろう。それより何より、セッションの前日にシナリオを用意するのが面倒
くさい。でも、それだって、慣れれば大した問題ではない。本当に嫌になるのは、
あれこれ「想定外のこと」を想定して、事前に(まだゲームが始まってもいない
のに、一人で)心配しなければならないことだ。これが、ゲームマスターの心理
的負担を増やす最大の原因だと思う。

 何の事前準備もなしにゲームサークルに出席して、いきなり「ゲームマスター
やってよ」と言われても、シナリオさえ持っていれば、すぐに気軽にゲームマス
ターを引き受けられる。そんな方法はないものだろうか。


**


 そこで、「想定外の展開」などというものを無くしてしまえばいいのではない
か、という考えが浮かぶ。誤解しないでほしい。一本道シナリオにしろと言って
るわけじゃない。

 私が注目しているのは、「ポイント制のシナリオ構造」というアイデアだ。

 これは、Nifty-Serve のRPGメインフォーラムというところで話題になった
ものだが、これがゲームマスターの心理的負担を軽減する上で有効ではないのか、
というのが私の考えだ。

 ここでは、私なりにアレンジした「ポイント制シナリオ構造」の概要を示して
おこう。


**


 ポイント制シナリオの特徴は、いわゆる「シーン」や「ストーリー」といった
時間的な状態遷移を排除してしまい、PC(プレーヤーキャラクター)達の行動
の結果を全て「シナリオポイントの減少」という形で抽象的に処理する、という
ところにある。

 まず、最も重要なシナリオポイントとして「目標ポイント」と「資源ポイント」
の2つを用意する。いずれも初期値を100としよう。PC達が行動することで、
どちらのシナリオポイントも減少してゆく。(増加はしない)

 目標ポイントは、「目標にどれくらい近づいているか」を抽象的に示す値だ。
これがゼロに近づけば近づくほど、PC達は目標達成に近づいていることになる。

 一方、資源ポイントは、「どのくらいの時間、コネ、お金などを消費したか」
を、これまた抽象的に示す値だ。これがゼロになると時間切れということになる。

 資源ポイントがゼロになる前に、目標ポイントをゼロにすることが、ゲームの
目標だ。これを達成するとシナリオはクリアされたことになる。逆に、目標ポイ
ントがゼロになる前に、資源ポイントがゼロになると、シナリオクリアに失敗し
たことになる。

 目標ポイントは、ミッションを達成する毎に減ってゆく。資源ポイントはPC
が意味のある行動をとる度に、その成否や効果に関わらず、1人あたり1点減少
する。お金あるいは時間がかかる行動の場合は、1人あたり2点減少。戦闘なら
その勝ち負けや結果によらず、1回の戦闘全体につき、戦闘参加PC1人あたり
3点減少する。すぐに分かると思うが、戦闘だけでシナリオをクリアすることは
無理だ。

 もう1つのシナリオポイントが「障害ポイント」だ。これも初期値は100で、
セッションが進むと共に減少してゆく。これはPC達の目標達成を邪魔する障害
の多さ、大きさを抽象的に示している。また、セッション中に不運、事故、邪魔
といったものが入ったかどうか決めたいときには、ゲームマスターはパーセント
ダイスを振る。出目がその時点での障害ポイント以下だと、不運なことになる。


**


 ゲーム開始時に、ゲームマスターはプレーヤー達に「目標」を示す。これは、
「ボス敵を倒せば一件落着」といった単純なものではなくて、コツコツと色々な
ミッションを積み重ねないと達成できないようなものにする。例えば「ある政治
家(政党)の支持率を上昇させる」「ある男女を結婚させる」「対立する2つの
組織を和解させる」「さびれた村に活気を取り戻す」といった感じ。

 ここでは、「ある男女を結婚させる」というシナリオを例にとって説明しよう。

 セッション開始時点で、目標ポイントは100。これは「2人は面識すらない」
という状態を示す。障害ポイントも100で、これは「女性には、交際中の相手
が別にいる。問題の2人は社会階級が違い(裕福なヤクザの組長の娘Aと、カタ
ギの貧乏学生B、などというのがよろしいかと)、両親は2人の交際を認めよう
としないだろう」といった状態を示す。


**


 さて、プレーヤー達は、相談して、目標達成に向けたミッションを、いくつか
考え出さなければならない。例えば、「2人が同じイベント(学園祭のパーティ
とか)に参加して、出会うようにお膳立てする」とか「娘Aの交際相手を調査し、
悪行(愛人がいるとか)を暴き、娘Aが絶交するよう仕向ける」とか何とか。
強調しておくが、ミッションを考え出すのはプレーヤー達の仕事だ。

 プレーヤー達が、様々なミッションをリストアップしたら、ゲームマスターは
それぞれについて、もし成功したら目標ポイントと障害ポイントをどれだけ減少
させるかを決める。2人を出会わせるなら「目標5点、障害0点」、娘Aを交際
相手と絶交させるなら「目標5点、障害15点」といった具合である。点数は、
まあ大体の感覚で適当に決めればよい。厳密さは、ほとんど要求されない。

 プレーヤーは、点数を見てどのミッションから始めるかを決める。ミッション
が決まれば、後は普通のRPGセッションと同じだ。NPCから情報を聞き出し
たり、調査や探索を行ったり、邪魔者を力業(戦闘)で排除したり。PCが何か
行動する度に、前述したように資源ポイントを減らす。

 判定の際には、障害ポイントの残りを意識して難易度や修正を決める。もちろ
ん、障害ポイントの残りが多いほど、不利になるのだ。また、前述したように、
障害ポイントの残りが多いほど不運なことが起き易くなる。


**


 ミッションが終わったら、その成否に関わらず、次のミッションを選ばなけれ
ばならない。(ミッションに失敗した場合は、再挑戦を選んでもよい)

 プレーヤー達は、次々に新しい、そして面白いミッションを考え出すべきだ。
例えば「占い師に扮して娘Aに接近し、学生Bを意識させるようなことを予言す
る(目標5点、障害0点)」などというのもユニークで面白いだろう。あるいは
「学生Bを襲ってわざと撃退され、なかなか見どころのある勇敢な奴だ、という
評判を娘Aと父親(組長)に吹き込む(目標5点、障害10点)」とか。

 このセッションが面白くなるか否かは、個々のミッションの面白さにかかって
いる。そして、面白いミッションを考えるのは、ゲームマスターの責任ではなく、
プレーヤー達の責任だ。だから、プレーヤー達は(自分達が楽しむために)一生
懸命に考えることになるだろう。少なくともシナリオが退屈だとゲームマスター
に文句を言うことはなくなる。

 ところで、各ミッションは原則として相互に独立しているものとする。つまり、
あるミッションの成否は、他のミッションに影響しないことにする。ミッション
の結果は、シナリオポイントの減少(あるいは減少しないこと)という形でしか
影響を残さない。これは、リアリティを損なうことになるが、ゲームマスターの
負担を軽くする上でとても大切なのだ。

 もちろん、最小限の因果律は必要だ。他のミッションが達成されて初めて取り
かかれるミッションというのはある。2人が出会わないことには、2人の交際を
邪魔しようとする父親(の手下)を阻止するミッションは成立しない。

 そんなこんなで2人が密かに交際を始めると、その仲はPC達が何もしなくて
も急速に発展する。(なにしろ資源ポイントの残りが少ないので、2人には急速
に親密になってもらわないと困るのだ)

 そうなると、後半は、2人の仲を裂こうとする障害を排除あるいは無力化する
ミッションが中心になるだろう。障害ポイントが残り30点を切らない限り、これ
以上は目標ポイントは減らない(と、ゲームマスターが決める)。このまま資源
ポイントがゼロになれば、2人は障害の大きさに打ちのめされて別れてしまう。
でも、障害ポイントが残り10点を切れば、後は2人は自動的にゴールインだ(と、
ゲームマスターが決める)。

 娘Aの父親は、手下に「娘に手を出しているあの貧乏学生を、痛めつけて病院
送りにしてしまえ」とか命じるだろう(とプレーヤー達が提案する)。PC達は
学生Bを守るためにヤクザと戦って追い返し、しかもそれを学生Bの手柄にしな
ければならない(とプレーヤー達が提案する)。このミッションを達成しても、
目標ポイントは減らないが、障害ポイントは20点減る(とゲームマスターが決定
する)。


**


 さて、ポイント制シナリオがどうしてゲームマスターの負担を軽減するか説明
してみよう。

 まず、「予想外の展開」「ストーリー破綻」といった心配がなくなる。

 プレーヤー達がどんなミッションを思いついても、ゲームマスターは「それを
達成したときに、目標ポイントと障害ポイントをそれぞれ何点減少させるか」を
決めるだけでよい。PC達の行動の結果は、シナリオポイントの減少という形で
しか影響を残さない。ミッションとミッションは独立しており、時間的な順序も
(最小限の因果関係を除いて)意味を持たない。好き勝手に、思いついた順番に
やってみればよいのだ。

 つまり、各ミッションを処理するときには、他のミッションの内容や、今まで
にPC達がやってきたことを考慮する必要はないのだ。考慮しなければならない
のは、その時点における、残りシナリオポイントだけだ。全体的な「ストーリー」
といったものはどこにもない。ゆえに、そこから外れる心配もない。

 次に、ミッションの内容をプレーヤーに決めさせるということ。障害や邪魔を
排除するミッションでさえ、プレーヤーに障害や邪魔(敵NPCなど)の具体的
な内容を決めさせるのだ。ゲームマスターは、その障害の大きさに従って、その
ミッションを達成したとき障害ポイントを何点減少させるか決める責任しか負わ
ない。だから事前にシナリオを準備しておく手間が大幅に減る。

 また、ゲームマスターは「PCが課題を解決しないと話が先に進まない。だか
ら、無理をしてでもPCを助けなければならない」というプレッシャーから解放
される。

 要するに、いくつかのミッションに成功して目標ポイントを減らせばいいのだ
から、全てのミッションに成功する必要はないのだ。ミッション途中でも、無理
だと思えば放棄して構わない。もちろん、それまでに費やした資源ポイントは、
無駄になるが。戦闘ミッションだって、途中で「こりゃ勝てない」と思ったら、
プレーヤーは「ミッション放棄」を宣言できる。そうすれば、PC達は、何とか
命からがら無事に逃げた、ということになる。(ただし、消費した資源ポイント
や、負傷はそのまま残る)

 最後に、セッションが短時間で終わるということもある。何しろ、行動する度
に資源ポイントが減ってゆき、資源ポイントがゼロになれば、そのセッションは
強制終了なのだから、長時間に渡るセッションは難しい。


**


 ポイント制シナリオは、ゲームマスターの心理的負担を軽減するために、シナ
リオの構造を工夫する一つの試みだと言えるだろう。これが唯一の方法ではない
し、最良の方法とも限らない。他にも、色々なシナリオ構造が考えられるに違い
ない。ぜひ、あなたも色々と工夫してみて欲しい。



馬場秀和
since 1962


馬場秀和が管理するRPG専門ウェブページ『馬場秀和ライブラリ』


 この記事はScoops RPGを支える有志の手によって書かれたもので、あらゆる著作権は著者に属します。転載などの連絡は著者宛てにしてください。

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