馬場秀和のRPGコラム 2000年11月号



『コンビニRPGを求めて』



2000年11月16日
馬場秀和 (babahide*at*da2.so-net.ne.jp)
    スパム対策のために@を *at* と表記しています。メール送信時には、ここを半角 @ に直して宛先として下さい。






 コンビニ、すなわちコンビニエンス・ストアーは、文字通り便利なところだ。

 電話、FAX送信、チケット予約、宅配便の申し込み、電気ガスなど公共料金
支払い、粗大ゴミの処理手続き、通販の代金支払いと商品の受け取り、最近では
銀行口座取引からローンまで、あらゆるサービスを夜遅くまで提供している。
(どうやらトイレを借りることだけは出来ないようだが、これには何らかの技術
的な限界があるのだろう)

 そのうちに、住民票の取得、税金の確定申告、運転免許証更新などのサービス
もコンビニで可能になるかも知れない。婚姻届けから結婚式、披露宴まで、全て
コンビニの「ブライダルパック」で済ませる時代が来てもおかしくない。その頃
には、そもそも恋人だってコンビニで見つけることになるのだろう。そういえば
深夜にコンビニの前を通りかかると、若い連中が常夜灯の下に集まって、お相手
を探している様子を見ることが出来るが、あれもコンビニが提供するサービスの
一環なのかも知れない。

 その上、今やコンビニで買物をすることさえ可能なのである。


**


 コンビニの店内は狭い。ゆえにスペース効率が徹底的に重視されることになる。
棚に置いてある商品は全てPOSシステムで管理され、売れ筋だ、と判断された
ものだけが生き残る。「売れるかどうか分からないけど、とりあえず置いとこう」
といった商品は、一つもないのだ。いや、例外だと思える商品を見かけることも
あるけど、そういう商品も、きっと私の想像をはるかに超えた事情によって売れ
ているのだろう、と思う。あるいは市場調査、テストの類かも知れない。いずれ
にせよ、売れない商品がコンビニの棚に長く置かれているということは考え難い。

 そういうわけで、コンビニの棚をよく観察すれば、何が売れ筋の商品か、どん
な製品の需要が高いのか、そういったことがよく分かる。逆に言えば、あるもの
がコンビニに置かれたとき、それは本当に普及した、メジャーになった、大衆化
した、と言えるだろう。

 最近、近所のコンビニでトレーディングカードゲーム(TCG)を何箱も目撃
したとき、私はこのことを実感した。それまでも、例えばTVでコマーシャルが
流れたときにも「TCGもメジャーになったなあ」と感じたものだが、コンビニ
の棚に置かれたというのは特別なことだと思う。それは消費者に受け入れられた
ということであり、TCGという新しいテーブルゲームが「マニアック」なもの
ではなく、ごく普通のものになった、という事実をはっきりと示しているからだ。


**


 もちろん、コンビニの棚なる「大衆化の殿堂」入りを果たしたテーブルゲーム
は、他にもある。将棋(ポケッタブル将棋)、麻雀(トラベルシリーズ麻雀)、
バックギャモン(折り畳み式バックギャモン)、店によっては小型のモノポリー。

 言うまでもなく、これらはテーブルゲーム界の各カテゴリを代表する作品だ。
対戦型完全情報ゲーム(将棋)、対戦型不完全情報ゲーム(バックギャモン)、
マルチプレーヤーゲーム(麻雀、モノポリー)という具合である。そして、最近
になって誕生した新しいカテゴリである「トレーディングカードゲーム」が殿堂
入りを果たし、複数の作品が市場競争しているというわけだ。いずれ1つか2つ
のTCGが競争を生き残り、将棋や麻雀と並んで永続的にコンビニの棚に置かれ
ることになるのだろう。

 このように、コンビニの棚に置かれているテーブルゲームは、少なくとも定番
商品として置かれているゲームは、いずれも競争と淘汰を経て生き残った各カテ
ゴリを代表する名作なのだ。

 ここまではいい。私が問題にしたいのは、なぜコンビニにはTRPG(テーブ
ルトークRPG)が置いてないのか、ということなのだ。


**


 読者の多くは「なぜコンビニにはTRPGが置いてないのか」という私の疑問
を、馬鹿げていると、あるいは滑稽だと感じるかも知れない。それは「TRPG
は本来マニアックなもので、大衆化など論外、メジャーになることは決してない」
という固定概念を持っているからではないだろうか。

 なぜ、TRPGがコンビニの棚に置かれてはいけないのか。言い換えるなら、
TRPGが一般化、大衆化、メジャー化できない本質的な理由は何なのか?

 TRPGは、知らない人に説明するのが難しい、複雑なゲームだから?

 将棋や麻雀を考えてみよう。改めて考えると、これらは非常に難しいゲームだ。
何しろ、麻雀のルールを分かりやすく説明するためには、まるごと本一冊を書く
必要があるのだ。将棋の指し方、基本的なゲームの進め方についても、同様だ。
何冊か本を読んで、はじめてそれなりに将棋らしい将棋を指すことが可能になる。
だから、本屋に行けば麻雀と将棋の解説書だけで棚が何段も埋めつくされている。
どんな小さな書店にも将棋と麻雀の本は置いてある。それだけ需要があるという
ことだ。

 本を何冊か読まなければ理解できない、プレイできない。こんな複雑で分かり
難いゲームが普及しているということを考えてみてほしい。TRPGがメジャー
になれない理由は、その複雑さや分かりにくさという点ではないことは確かだ。


**


 TRPGは、プレイに時間がかかるし、ゲームマスターの手間が大変だから?

 確かにこれらは、TRPGの普及を阻んでいる大きな要因だ。しかしながら、
これらはTRPGの本質的な特性、「これらを解消してしまったゲームは、そも
そもTRPGではなくなってしまう」といった類のものではない。単に、現在の
TRPGの多くが抱えている問題、普及を目指すのであれば改善すべき点、に過
ぎない。

 ある種のシミュレーションウォーゲーム、あるいはプレイに幾晩もかかるよう
なビッグゲーム(先人曰く「そもそもプレイできるようでは、ビッグゲームとは
呼べない」)と違って、TRPGのセッションは2〜3時間に短縮できる。モノ
ポリーだって、プレイには数時間かかるのだ。

 むろん、ゲームマスターの手間というのは大きな問題だ。これについては後で
検討することにしよう。ただ、結論から言えば、この問題はTRPGという枠を
崩すことなく解決できると思う。


**


 結局、TRPGがコンビニに置かれてないのは、要するに今のTRPGがゲー
ムショップや本屋のゲームコーナーを想定してデザインされており、コンビニの
棚に置かれることを目指してないためだ、としか私には思えないのだ。

 では、コンビニの棚に置かれることを目指したTRPG、「コンビニRPG」
というものを作ることは可能だろうか?

 もちろん、全てのTRPGが「コンビニRPG」を目指す必要はないし、そん
なのは、むしろ不健全な話だと思う。だが、コンビニに置かれるTRPGがいく
つか存在するのは、TRPG市場にとって非常に良いことだろう。

 では、もし「コンビニRPG」なるものがあり得るとして、それがどのような
ものになるか、イメージを検討してみよう。

 ただし、最初に断っておきたいのだが、私にはゲームデザインの才能やスキル
が欠落している。だから、「コンビニRPG」を具体的にデザインしてみせると
いったことは、私の手に余る仕事だ。私に出来るのは、それがどのような条件を
満たすべきかを論じて、それがどんな感じのゲームになるかというイメージを、
可能な限り具体的に示すことまでだ。その先に進むのは、ゲームデザインの才能
に恵まれた方々に任せることとしたい。


**


 さて、「コンビニRPG」はどのようなゲームになるだろうか。

 まず言えるのは、それは今のTRPG(本格的なTRPG、と呼ぼう)と比べ
て、ずっとゲーム性が高く、それ以外の要素は可能な限り省かれるということだ。
「役割分担」という本来の意味における“ロールプレイ”はゲームの中心に置か
れるだろうが(そうでないとRPGにならない)、いわゆるキャラクタープレイ
など他の要素は省略されるか、大幅に薄められることになるだろう。

 これは、TRPGを止めてTCGに移った人は多いのに、その逆のケースはほ
とんどない、ということを考えてみても明らかだろう。TRPG同好会が、いつ
の間にかTCG同好会に化けていた、というケースは多い。その逆のケースは、
ほとんどない。TRPGより後から登場したTCGは、まずTRPGプレーヤー
の多くを引き込むことで、どんどんメジャーへの道を進み出した。とり残された
TRPGは、いまだにマイナーなままだ。なぜ、多くの人々がTRPGを捨てて
TCGを選んだのだろう?

 TCGにはキャラクタープレイの要素はない、あるいは少ない。お約束の見せ
場、自分にとって心地よいストーリーの創成、皆で思考停止して盛り上がるノリ、
など、TRPGプレーヤーの多くが好む(らしい)要素は、TCGにはほとんど、
あるいは全く含まれない。(そもそもこういったものを好む人は、ごく少数なの
だろう)

 その代わり、TCGには豊かで高度なゲーム性がある。これこそが今のTRPG
に不足していて、TCGに含まれる、ほとんど唯一の重要な要素だ。そして、その
違いが、メジャーとマイナーの道を分けたのだ。


**


 考えてみれば、コンビニの棚という地位を永続的に獲得したゲームは、どれも
これも、ゲーム性に富んだ、ゲーム性以外の要素は最小限しか含まれないものば
かりだ。将棋しかり、麻雀しかり、バックギャモンしかり。そう、TRPG以外
のゲームを見ても、結局のところゲーム性以外を主眼にしたもの(キャラクター
のの、ノリだけパーティゲーム、冗談ゲーム、一発ウケ狙いのゲームなど)は、
コンビニの棚には置かれないか、少なくとも長く置かれることはない。

 日本での将棋人口は、1500万人くらいと言われている。麻雀人口は2000万人。
バックギャモンだと全世界で実に3億人が愛好し、モノポリーに至っては世界中
で何と5億人がプレイしているそうだ。とてつもないプレイ人口である。全ての
TRPGのプレイ人口をかき集めても、モノポリーどころか、バックギャモンに
すら到底かなわない。いや、たぶん麻雀にも及ばないだろう。

 ときどき「TRPGのゲーム性を高めると初心者から敬遠され、かえって普及
の妨げになる」とか「TRPGを“ゲームとして”優れたものにしたからといっ
てプレイ人口が増えるとは思えない」といった発言をする人がいるが、これは何
かの勘違いだ。優れたゲームは、本当に、本当に多くの人々にプレイされるのだ。

 ルールが複雑で、何冊か本を読まなければ指し方すら分からないゲーム。他の
要素がほとんど含まれておらず、ほぼ純粋に高度なゲーム性だけから構築された
ゲーム。それらが何千万人も、さらには何億人ものプレーヤーを集めているのだ。
これらの事実は、ゲーム性を高めること、それ以外の要素を可能な限り省くこと、
それこそがメジャー化への確かな道に他ならないということを、はっきりと示し
ている。

 確かに、今のTRPG(本格的なTRPG)が持っているゲーム性以外の要素
には、独特の魅力がある。もっぱらそこに惹かれるTRPGプレーヤーがいるの
も分かる。しかし、キャラクタープレイや見せ場やストーリー創成といったもの
をゲーム性より好む人は、ごく少数だという事実を忘れてはいけない。繰り返す
が、これは一つの意見というより、将棋や麻雀や囲碁やモノポリーといった豊富
な証拠に裏付けられた、客観的な事実なのである。

 全てのTRPGが、もっぱら高度なゲーム性だけを追求すべし、などとは言わ
ない。だが、「コンビニRPG」は、その定義上、ひたむきにメジャー化だけを
目指すTRPGだ。ゆえに、それはゲーム性を追求し、それ以外の要素を抑える
ことが肝心なのだ。


**


 次に「コンビニRPG」は、「プレイ時間短縮」「ゲームマスター負担の軽減」
「ゲーム構造の分かりやすさ(何をすればよいのか、直感的に把握できる)」と
いった条件をクリアしなければならない。これは、一般の人々にプレイしてもら
うためには極めて重要なことだ。(なお「ゲーム構造の分かりやすさ」というの
は、決して「ルールの簡単さ」「ゲームとしての単純さ」という意味ではない。
将棋は複雑なゲームだが、ゲーム構造は極めてシンプルで分かりやすい)

 プレイ時間を短縮するためには、どうすればよいだろうか。
ここで、例によって人様の考察をお借りしたい。次の資料をどうぞ。


  『プレイ中何してる?』
    http://www.trpg-labo.com/modules/xfsection/article.php?articleid=12


 この資料も参考に、プレイ時間短縮に向けたポイントを私なりに整理してみる。


    ・分かっている情報は全て視覚化する。逆に、視覚化されてないことは
     全て「(今のところ)分からない情報」だとはっきりさせる。

    ・手番をきちんと管理する。つまり、今ここで「行動宣言」しなければ
     ならないプレーヤーが誰なのかを、常に明確にしておく。

    ・目標を具体的、定量的に示し、その達成状況(どこまで目標を達成し
     ているのか)がはっきり分かるようにする。

    ・1つのシーンをそのまま1つのシナリオにする。すなわち、本格的な
     TRPGならば1シーンの目標に相当するものを達成したら、それで
     ゲーム終了とする。(さらに次のシーンもプレイしたければ、改めて
     別のゲームを開始するという位置づけにする)


 こうしてみると、ボードゲームの多くがTRPGに比べて短時間(数10分から
長くても数時間)で終わるのは、偶然ではないということがよく分かる。ゲーム
ボード。コマやカードの配置という形で明確に示される状況。ルールで定められ
た手番。目標の明確化と達成状況の数量化(勝利ポイントなど)・・・。ボード
ゲームの一般的スタイルは、ゲームをサクサク進行させ、短時間に決着をつける
べく、長い歳月をかけて積み重ねられてきた工夫の集大成なのだ。

 「コンビニRPG」が、これを利用しない手はないだろう。すなわち、ゲーム
ボードやコマ、場札/山札/手札/捨札といったカードプレイ、定量的な目標、
ポイントトラックとマーカー、といったボードゲームで頻繁に用いられる工夫や
小道具を、「コンビニRPG」でも最大限に活用させてもらうべきだ。


**


 難問は「ゲームマスター負荷の軽減」である。この問題については色々な人が
色々なことを言っているのだが、いずれも抽象的で要領を得ないように思える。
私の知る限り、ゲームマスター負担を軽減するための具体的で実用的な提案は、
今のところ「ポイント制シナリオ」しかないように思う。

 ポイント制シナリオについては、以前に書いたコラム『ポイント制シナリオ 
−あるいは哺乳類の世話はどんなに大変か−』
を読んで頂きたい。
 他には具体的な方策が見つからないことから、ここではポイント性シナリオの
考え方をベースに進めることとしたい。

 ただ、「コンビニRPG」では、ポイント制シナリオをプレーヤーに考えさせ
るのではなく、全てカードに書いておかなければならないだろう。これを「課題
カード」と呼ぶことにする。課題カードには、課題の内容の説明と、それを達成
するための条件、達成したときに得られるシナリオポイントが明記してある、と
いうわけだ。

 こうすることで、「ゲーム構造の分かりやすさ」という条件も満たせる。とに
かく目の前の課題カードをクリアしていけば、ゲームをクリアできるというわけ
だ。課題カードが眼前にあることで、参加者の誰もが「自分は何を目指している
のか」「どこまで達成したのか」「あと何が必要なのか」といったことを、常に
明確に把握できることになる。

 これで、まずまず準備は整った。では、「コンビニRPG」がどのようなもの
になるか、そのイメージを可能な限り具体的に示す、という難事に挑戦してみる
こととしよう。


**


 明日から仲間達と一緒に旅行に行くという日の夕方、あなたはコンビニに立ち
寄って、旅行に持っていくものを色々と購入する。皆で遊べるゲームも買ってい
こうと思ったあなたは、棚に並んでいる「コンビニRPG」(もちろん、ちゃん
としたタイトルが付いているのだが、ここでは便宜上こう呼んでおこう)を手に
とって、レジまで持ってゆく。帰宅したあなたは、それを旅行鞄に突っ込んで、
そのまま旅先で夕食が済むときまで忘れてしまう。(シナリオ作成といった面倒
な作業はもちろん必要ないのだ)

 さて、夕食後、ビールを飲みながらゲームでもしようかということになって、
あなたは、鞄からコンビニRPGの袋を取り出してくる。袋を開けると、ゲーム
ボード、カード一山、いくつかのコマ(マーカー)、そして紙1〜2枚のルール
説明書が入っている。

 まずゲームボードを広げてみよう。それは1つの街を描いた美しい絵になって
おり、要所要所となる場所(駅、住宅街、広場、酒場、ホテル、銀行、警察署な
ど)には、カードを置くための枠が書かれている。要所と要所は、様々な色の線
で結ばれている。(隣接する要所間は灰色の線で、一部の離れた要所間は紫やオ
レンジの線でつながっている)

 さらに、絵の周りには「シナリオポイント」「リソースポイント」「障害ポイ
ント」といったポイントを示すポイントトラックが書かれている。このトラック
上に各種のマーカーを置いて状況を示すわけだ。マーカーを説明書に従って置く。
(シナリオトラックはゼロの位置に、リソーストラックと障害トラックは50の
位置に)

 カードは4種類に分かれる。

 課題カードは、裏面に要所の名前が書かれている(住宅街、など)ので、要所
毎に分けて、よくシャッフルして対応する要所に伏せて積む。

 能力値カードは、よくシャッフルして、裏面の色(赤・青・黄・黒・白)毎に
分けて、ゲームボードの外に伏せて積んでおく。

 アイテムカードも、よくシャッフルしてゲームボードの外に伏せて積んでおく。

 キャラクターカードは、よくシャッフルして、参加者に1枚つづ配る。残った
カードは使わないので袋に戻す。同様にコマを参加者に1個づつ配る。

 これで準備完了だ。進行係(「ゲームマスター」ではない)であるあなたは、
ルール説明書に書かれているゲームの背景と目標を読み上げる。例えばこんな感
じだろう。(購入した袋によってシナリオは異なる。いくつか集めてプレイして
みると、全体として一連のストーリーが構成されることに気づくという仕掛けだ)

「かつて世間を震え上がらせた連続殺人犯であるMr.Xが、刑務所から脱獄した。
あなた方は彼に家族を殺された遺族であり、当然ながらMr.Xに深い恨みを持って
いる。 あなた方は、それぞれ別々の情報源から、Mr.Xがある街(ゲームボードに
描かれている街)に逃げ込んだということを知った。だが警察は見当違いの場所
を捜索しており、あなた方の話を聞いてくれない。自分でMr.Xを探し出して警察
に突き出してやる、と勢い込んで街に到着したあなた方は、自分と同じ目的で街
にやってきた他の遺族と知り合い、協力することになった。全員のコマを出発点
である“駅”に置くこと」


**


 次にキャラクターを作成する。各人に配られたキャラクターカードには、例え
ば「引退した元刑事、男性。赤4、青1、黄3、黒2、白1、アイテム1」など
と書かれている。(ついでに、このキャラクターの外見、性格や背景設定なども
書いてあるが、これは雰囲気を出すためで、ゲームには直接関係しない)

 キャラクターカードに書かれた枚数だけ、各色の能力値カードとアイテムカー
ドを引く。元刑事の場合、赤の能力値を4枚、青の能力値を1枚・・という具合
だ。これでキャラクター作成は完了だ。(10秒で完了する)

 能力値カードの表には、各色で数字が書かれている。赤い能力値カードには、
赤字で「5」と書かれていたりする。あるいは「3、ただし拳銃(アイテムカー
ド)と一緒に出すと7」などと書かれていることもある。

 能力値カードの色は、能力値の分野を表している。赤は暴力、青は技術、黄は
交渉力、黒は特殊能力(性的魅力にあふれているので、相手が異性であった場合
に限り黄に+5とか、特定のアイテムカードはこのカードがないと使えないとか)
である。(ファンタジー系のコンビニRPGなら、黒は魔法の能力だろう。SF
系なら超能力かも知れない)
なお、白は「ロールプレイングカード」という特別なカードだ。これについては
後述する。

 ゲーム中に使用した能力値カードはすぐに捨てられる。酒場とホテルではカー
ドを補充できるが、このときも最初に配られたキャラクターカードに書かれてい
る枚数までしか補充できない。従って戦闘力(暴力)の高いキャラクター、交渉
事の得意なキャラクター、といった特徴が生ずる。ゆえに役割分担と協力が大切
になるというわけだ。


**


 ゲームの目的は明確だ。「リソースポイントがゼロになる前に、シナリオポイ
ントが50点に達すれば、Mr.Xは逮捕され、全員が勝利したことになる。シナリオ
ポイントが50点に達する前にリソースポイントがゼロになれば、捜査が長引いた
ためにMr.Xが君たちのことに気づき、逃げ果せたことになる。全員が敗北だ」

 1人のプレーヤーの手番が終わる度に、リソースポイントは自動的に1つ減少
する。また特定のカードには「このカードを使うためには、リソースポイントが
2点必要」などと書かれており、このようなカードを使ったときもリソースポイ
ントは減少する。(リソースポイントは基本的にどんどん減少するので、ゲーム
は短時間で終了する)

 シナリオポイントは、課題カードに示された課題をクリアすると増加する。

 これらのポイント増減は、ボード上の各ポイントトラックに置かれたマーカー
によって、はっきりと表示される。どこまで目標に近づいているのか、あとどれ
くらいでゲームオーバーなのか、誰にでも分かる仕掛けだ。


**


 さて、キャラクター作成が完了すれば、全員がキャラクターカードを他の人か
らよく見えるように表向けて自分の前に置き、ジャンケンなど適当な方法で手番
を決める。手番は反時計回りに移る。手番を行うプレーヤーは、自分のコマを移
動させるか、今いる要所にとどまって課題カードをめくるか、どちらかを選ばな
ければならない。(以前に他人がめくって表のまま置いてある課題カードが気に
入らない場合、改めてその要所に積んである別の課題カードをめくることも可能
だ。ただし1回の手番でめくることのできる課題カードは1枚まで)

 コマを移動させるときは、原則として灰色の線でつながった隣の要所に移動さ
せる。タクシー、地下鉄などのアイテムカードを使えば、ボード上の特定色の線
(タクシーは紫、バスはオレンジ)に沿って離れた要所まで一気に移動できる。

 課題カードの表には、「住宅街でジョアンヌ夫人と出会う。黄11、または黄7
+赤5で、彼女はMr.Xの目撃談を話してくれる。シナリオポイントを5点獲得」
といったようなことが書かれている。あるいは「警察署にある端末からは、最近
この街で生じた事件に関する情報を引き出せる。青13ならこっそり端末を操作し
て、あるいは黄19なら担当者に頼み込んで、情報を得ることが出来る。ただし、
“元刑事”のキャラクターが、アイテムカード“昔のコネ”と一緒に黄色の能力
値カードを出した場合に限り、黄6で情報が得られる。シナリオポイントを15点
獲得」といった課題もある。

 課題カードの中には、トラップもある。「障害ポイントが30点未満なら、この
カードは捨ててよい。30点以上であれば、この街に巣くう犯罪組織(Mr.Xとは無
関係)が君たちを襲う。この要所にいるキャラクター達は、赤12、または黄21で
彼らを撃退するまでこの場から移動できないし、新たな課題カードをめくること
も出来ない。撃退すれば、このカードを捨て、障害ポイントを10点減少させる。
シナリオポイントは獲得できない」とか。

 もちろん、課題を解決できるのは、その要所にいる(コマが置いてある)キャ
ラクター達だけだ。ほとんどの課題は1人では解決できないので、何人かが協力
する必要がある。ただし、コマを遠くまで移動させるためには、一般に何ターン
(手番)もかかる。よって、誰がどの位置に移動するか、課題カードをめくるか
否か、といったことはよく考えて、必要なら相談して決めた方がよい。


**


 手番のプレーヤーが課題解決に挑戦する旨を宣言したときは、同じ要所にコマ
を置いているプレーヤー達は、自分の手札を任意の枚数だけ伏せて自分の前に置
く。全員がカードを出したら、同時に表にする。能力値カードに書かれている各
色のポイント合計(アイテムカードによる修正があればそれも加える)が課題の
条件をクリアしていれば、課題は解決され、シナリオポイントを獲得したことに
なる。獲得したシナリオポイントの分だけシナリオトラック上のマーカーを前進
させる。カードの合計が課題の条件を満たさなければ、出された全てのカードを
捨てて、課題解決を宣言したプレーヤーの手番が終わる。課題カードはそのまま
残す。もちろん、後の手番で同じ課題カードに再挑戦してよい。

 手札として保持できる能力値カードの枚数は限られており、しかも補充するた
めには特定の要所(酒場、ホテル)に移動しなければならないので、どのプレー
ヤーも自分の手札を無駄にしたくないと考えるだろう。例えば、課題をクリアす
るのに青7で充分なのに、三人のプレーヤーがそれぞれ青7を出した・・・など
という無駄は非常に腹立たしい。かといって、3人が3人とも「他のプレーヤー
が高いカードを出すだろう」と考えて青1や青2を出せば、課題はクリアできず、
全員のカードが無駄に捨てられる。カードを裏向けて出すというルールにより、
「囚人のジレンマ」にも似た葛藤が生ずる。


**


 ところで白い能力値カード、「ロールプレイングカード」の使い方を説明しよ
う。カードの表には、白い数字が書かれている。この数字は赤、青、黄の任意の
色として使うことが出来る。たとえば白5は、黄5としても使えるし、青5とし
ても使えるわけだ。さらに、リソースポイントを5点増加させること、障害ポイ
ントを5点減少させることも出来る。(シナリオポイントにすることは不可)

 ただし、白いカードを使用するときには、「キャラクターがどのような言動を
とったことにより、その効果が生じたのか」を具体的に説明しなければならない。
例えば白5のカードを黄5として使う場合、「僕のキャラクターは、これこれこ
ういう風にジョアンヌ婦人を誘惑して、好意を得た上で、話を聞き出すよ」とい
う具合だ。

 ゲームの進行係は、この説明で黄5の効果を納得できるかどうか、他の参加者
の意見も参考にして判定しなければならない。進行係が納得するような説明を思
いつかない限り、白いカードを使うことは出来ない。

 上級ルールでは、白いカードだけでなく、他の色のカードも、使用するときに
キャラクターの具体的な言動を説明することが義務づけられる。「(赤8のカー
ドを出して)襲ってきた相手の腹に思いっきり蹴りを入れてやる」といった感じ
だ。また、課題が解決したにせよ解決できなかったにせよ、進行係が結果を具体
的に説明する。「(赤の合計がクリア条件を満たしていることを確認して)襲っ
てきた連中は、“ちっ、これで済むと思うなよ”とか叫びながら逃げて行った」

 だいたい、こんなものでイメージはお分かりのことだろう。最後に補足してお
くと、コンビニの棚には他にも「連続殺人犯Mr.Xの恐怖」「大脱走:Mr.Xと共に
刑務所を集団脱獄せよ」といった一連のシリーズが並んでおり、どれも同じルー
ルでプレイできる。どの順番でプレイしてもよいが、作品番号順に並べると前述
した通り全体として1つのストーリーが出来上がるわけだ。(Mr.Xの正体と動機
についても、製品を集めるにつれて少しづつヒントが増えてくる、という仕掛け
になっている。てっとり早く知りたい方は、書店で攻略本をお求め下さい)


**


 もちろん、これは色々なボードゲームのアイデアを寄せ集めて、継ぎ接ぎして、
でっち上げた仮想的なルールだ。(テーブルゲームの古典に詳しい読者は、いく
つのゲームがモトネタになっているか、容易にお分かりのことと思う)
ついでながら、本当にゲームとして機能するか否かも確認していない。私はただ
「もしコンビニRPGというものがあり得るとしたら、それはどのようなものか」
というイメージを伝えたいだけだ。

 「こんなのTRPGじゃないっ」という声も聞こえてきそうだ。だが、考えて
もみてほしい。コンビニRPGを購入する人は、いわゆるテーブルトークRPG
の経験がないどころか、そもそもテーブルトークRPGという概念すら持ってな
ないのだ。そういう人々をターゲットにして、紙1〜2枚のルール説明でゲーム
をしてもらうためには、こんな感じにするしか他にないと思うのだが、どうだろ
うか?


**


 ところで、私は以前からずっと「消費者主導でTRPG市場を建て直そう」と
唱えてきた。この実現に向けて動き始めるためには、目指すべき市場の姿、将来
ビジョンのようなものが必要だろう。今回は20世紀最後の馬場コラムだという
こともあるし、「コンビニRPG」というアイデアを元に、我々が共に目指すべ
き10年後のTRPG市場の姿を提示してみたい。

 2010年には、きっと今よりもずっと進化したネットワークRPGが存在して、
誰でも低料金で高速アクセスできる環境が整っていることだろう。そうなれば、
現在のTRPGプレーヤーの大半は、そちらに移っているに違いない。昔ながら
の紙やダイスを使ってRPGをプレイする「TRPGゲーマー」の人数は、今日
に比べてもなお少数になっていることだろう。

 ではテーブルトークRPGは滅びたのだろうか。いや、そうではない。むしろ
メジャー化したのだ。(これはそういう目標を示すビジョンなので、ここんとこ
で突っ込まないように)

 コンビニ(もちろん10年後も存在する)の店内をのぞいてみよう。一般の人が、
将棋や麻雀やモノポリーと同じ感覚で「コンビニRPG」を買っている。もっと
好奇心の強い若者たちは、東急ハンズやロフト(10年後も存在することにしよう)
のゲーム売り場に行って、もう少し“ちゃんとしたTRPG”を物色している。
そして、いくつか残っているゲームショップには、“本格的なTRPG”が置い
てあり、ごく少数だが熱心なTRPGゲーマー達が立ち寄る、というわけだ。

 コンビニ、東急ハンズ/ロフト、ゲームショップ。それぞれの販路について、
一般の人、ゲームに興味がある若者、TRPGゲーマー、というそれぞれのター
ゲット顧客層に合わせてデザインされたTRPGが流れるなら、TRPG市場は
全体として非常に大きく、強固なものとなっていることだろう。


**


 現在のTRPG市場が抱えている問題は、要するにもっぱらTRPGゲーマー
向けの“本格的なTRPG”しか作られてないという点に集約される。それゆえ
市場は広がらず、顧客は少なく、特定の、あるいは特定傾向の作品ばかりが流通
することになる。飽きられればおしまい、というパターンだ。脆弱な市場の見本
だと言ってよいだろう。

 このように市場全体が脆弱だということが明白であるため、TRPGの将来と
いう話題になると、多くの人が「TRPGは袋小路に入っている。長い目で見る
と、市場を広げるどころか現状維持も困難」とか「ネットワークRPGが普及す
ればテーブルトークRPGプレーヤーの大半を吸収してしまうだろう」といった
悲観論を語る。私も、それ自体には反対しない。だが、それはあくまで“今の”
TRPG、つまり“本格的な”TRPGについての話だと強調しておきたい。

 “本格的なTRPG”が駄目だというのではない。そうではない。私が言いた
いのは、“本格的なTRPG”だけでは不十分だ、ということなのだ。健全かつ
力強い市場を構築するためには、コアである“本格的なTRPG”、入門用たる
“コンビニRPG”、両者の橋渡しを担う“東急ハンズRPG”というように、
幅広い顧客層に向けた様々なTRPGが、互いを補完するように流通することが
大切だ。現在の“本格的なTRPG”を捨てるのではない。新しい種類のTRP
Gで支えるのだ。

 そして、「コンビニRPG」を気に入った一般人のうち、一部が「東急ハンズ
RPG」を手にし、さらにそのごくごく一部が立派なTRPGゲーマーへと育つ
(ハマるとも言う)。そういった流れを作ってやる。

 この流れ、この構図が完成したときに、TRPGは真にメジャー化した、普及
したと言えるだろう。これが、私のビジョンだ。


**


 今日も、TRPGデザイナーや、同人TRPGデザイナー達が、“本格的な”
TRPGの改良に精を出している。魅力的な背景世界、再現性の高いルールシス
テム、スムーズなセッション運営ルール、といったものを作り上げようと、努力
している。それも重要なことだろう。が、本当に売れるTRPGを作りたいので
あれば、今の“本格的な”TRPGとは別種の、全く異なる発想でデザインされ
た「コンビニRPG」を目指してはどうだろうか。私はそう提案する。

 もし素晴らしい「コンビニRPG」を作り出し、それを普及させることが出来
れば、本人に大きな利益がもたらされるだけでなく、TRPG市場の構図をも、
良い方向に変えられるかも知れないのだ。トライする価値は充分ではないか!



馬場秀和
since 1962


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