馬場秀和のRPGコラム 2001年3月号



『まずRPGファンに背を向けるところから始めよう』



2001年3月8日
馬場秀和 (babahide*at*da2.so-net.ne.jp)
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 さあ、21世紀がやってきた。Scoops RPGの更新も再開した。気持ちも新たに、
日本におけるTRPG(むろんテーブルトークRPGのことだ)の市場を拡大し、
活性化するための方策を、皆さんと一緒に考えてゆくことにしたい。

 まずは現状の分析評価から始めよう。20世紀末における日本のTRPG市場
は、どのような状態だったのか。
 何事もそうであるように、ここでもやはり良い知らせと悪い知らせがある。

 まずは、良い知らせから。


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 日本製のTRPGは、初めて市場に投入されてから10数年の間に、技術面で
は飛躍的な進歩を遂げた。少なくとも「日本のコミックやアニメやゲームソフト
を再現する」という方向に関する限り、わが国のTRPGこそ世界最高だと誇っ
てよいだろう。

 こう書くと「また馬場さんの皮肉が始まったぞ」と思うひねくれた読者がいる
かも知れないが、これは別に皮肉でも何でもない。日本製のTRPGが、日本で
最もメジャーな娯楽メディアの再現を目指すのはごく当然のことだ。米国製TR
PGだって、その大半が「ハリウッド映画の再現」を目指しているのだし。
(ちなみに、残りが目指しているのは、D&Dの再現だ)

 思い出してみよう。かつてソードワールド全盛時代、日本のTRPG市場には、
どのようにプレイすればよいのか、何を目指してプレイすればよいのかさっぱり
分からない「方向性の見えないTRPG」ばかりが流通していた。だから当時の
ゲームマスターは、もっぱら自分でプレイの方向性を考え、それに必要な設定を
作り、場合によってはその方向性を再現するために必要なルールまで、自作する
必要があったのだ。

 大多数の人は、そんな作業を一度やっただけで(あるいはやろうとしただけで)
うんざりして、もう二度とゲームマスターなどやるまい、と決心したことだろう。
悲しむべきことに、ルールや背景世界の自作に喜んで取り組んだのは、そのため
に必要な能力や教養が著しく欠落した人々ばかりだった。考えて見れば、これは
当然のことかも知れないが。


**


 こういう「高い自由度」「工夫次第で何でも可能」といった美辞麗句のもとに
実のところゲームマスターに手間を押しつけているだけのTRPGは、ゲームと
しての完成度うんぬん以前に、まず商品として失格だったと言っても言い過ぎで
はないだろう。

 だが、それも昔語りだ。今では「日本のコミックやアニメを再現する」という、
はっきりとした明確なコンセプトを持った国産TRPGが手に入るようになった。
それらの国産TRPGをプレイするときは、ルールシステムに素直に従うだけで、
プレーヤーの巧拙に関わらず、一定の方向性を持ったストーリーが再現されるの
だ。これをユーザフレンドリィと言わずして、何と言えばよいのか。

 そう。これこそ、TRPGを出版している会社やデザイナーが、TRPGファ
ンの声に真剣に耳を傾け、その要求を満たすべく努力を積み重ねてきた成果なの
である。TRPGファンの声が、TRPGの技術的進歩を促したのだ。そして、
今やTRPGファンの多くが、商品の水準に満足している。何と素晴らしいこと
だろう!

 これが良い知らせだ。

 悪い知らせの方は次の通りだ。

 にも関わらず、TRPGはさっぱり売れていない。市場はちっとも広がらず、
販路は次々に閉ざされ、趣味としてマイナー化への道をひた走り、世間の認知度
も悪化する一方で、TRPGファンはますます閉鎖的になり、その人口もまた、
減り続けている・・・。


**


 どうしてこうなってしまうのか?

 ちょっと考えると、ユーザの声をきちんと反映させた商品が作られ、技術的に
進歩し、その結果にユーザが満足しているのであれば、その市場はぐんぐん広が
り、ユーザも増え続ける、そう思えるかも知れない。

 が、実は必ずしもそうではないのである。まさに「ベンダがユーザの声をきち
んと聞いて、商品に反映させている」がゆえに商品が売れなくなり、市場が縮小
してゆく、そういう現象はマーケティングの世界では珍しくないのだ。特に付加
価値の高い商品の市場ライフサイクル末期(衰退期)に、この現象が起こりやす
いと言われている。

 これについて読者の皆さんによく理解して頂くために、一つの寓話をお話しさ
せて頂きたい。


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 ・・・むかしむかし、まだMP3や音楽配信どころか、CDすらなかった頃、
人々は音楽を聞くために、もっぱらアナログレコードというものを使用していま
した。アナログレコードを再生するためには、レコードプレーヤー、オーディオ
アンプ、スピーカなどのコンポーネントを集めてきて、相互に接続する必要があ
りました。このようなシステムは「オーディオコンポ」と呼ばれ、レコード針、
カセットデッキ、オーディオラックなど他の周辺機器と合わせ「オーディオ市場」
と呼ばれる巨大な市場を形成していたのです。

 オーディオ市場が立ち上がった頃には、オーディオ製品は飛ぶように売れまし
た。ある程度の音質で音楽を楽しむためにはレコードを買わねばならず、買った
レコードを聞くためには、オーディオコンポが必要だったからです。むろん市場
競争が激化しましたから、各メーカーはオーディオファンの心をつかむために、
彼らの声に真剣に耳を傾けました。「もっとS/N比の改善を」「高音の抜けが
甘い」「低音の響きがこもっている」「音像定位が」「サラウディング効果が」
次々と要求があげられました。メーカー側も、それらの要求に対応すべく、回転
モーメントを高めたターンテーブル、新開発のノイズリダクション回路、新素材
を活用したウーファ、ひずみの少ない成形一体型ピックアップ、残存磁気ヒステ
リシス除去機構、その他その他の新技術をどんどん開発してゆきました。

 にも関わらず、オーディオ市場の伸びは緩やかになり、やがては横ばいに、そ
して下降線を描き始めたのです。オーディオ機器大手メーカーのA社は、商品の
売上を取り戻すべく、オーディオファンの声を徹底的にすくい上げ、着実に対応
する方針を貫きました。抵抗を減らす純金製コネクタ、スピーカ共振を防ぐ特製
ラック、レコード溝の磨耗を減らす防護皮膜スプレー、NASAが開発した何やらか
んやら新テクノロジー。

 こうして、A社のオーディオ技術は音響品質という点で技術的に世界最高水準
に達しましたが、なぜかオーディオ市場は縮退の一途をたどり、そしてオーディ
オファンの人口減少にも歯止めはかからなかったのです。

 ここで、家電メーカーのB社は、A社と全く違うことを考えました。すなわち、
「オーディオファン以外の人々に売り込むためのオーディオ機器」というものが
作れないだろうか、と。

 そこでB社は、オーディオ製品を購入していない人々、特に学生や主婦などを
対象にした市場調査を行いました。その結果、次のようなことが分かったのです。

 彼らはレコードなど買わず、FMラジオで音楽を聞いていました。気に入った
曲を何度も聞きたいときは、安価なカセットデッキを購入して、ラジオとカセッ
トデッキをケーブル接続して(ときには単にラジオのボリュームを上げるだけで)
流れている曲を録音していたのです。この作業は“エアチェック”と呼ばれてい
ました。

 B社は考えました。「我々の音響技術を投入して、エアチェックを行うための
安価なオーディオ機器を作ればどうだろう。もちろん、オーディオファンからは
そっぽを向かれるだろうが、オーディオファン以外の人には売れるのではないか」

 こうして、ラジオとカセットデッキを複合した製品、通称「ラジカセ」が誕生
しました。ラジカセは爆発的なヒットを飛ばし、その新市場は衰退しつつあった
オーディオ市場をあっという間に追い抜いてしまったのです。


**


 この寓話の教訓は明らかだろう。ある市場が飽和し、衰退に向かっているとき
には、その市場で培った技術やノウハウを活かして別の新市場を開拓することを
真剣に考えるべきだということだ。そのためには、現在の市場にいるユーザの声
ではなく、そこにいない人々の声をこそ聞かなければならない。

 現在のTRPG市場がまさにこの状態にあると、私にはそう思えるのだ。一時
のブームが去り、商品が売れなくなり、TRPGファンの人口も少なくなってき
ている今、TRPGを売ろうとするゲーム会社やデザイナーが耳を傾けるべきな
のは、TRPGファンの声ではない。今のTRPGには興味を持ってない、今の
TRPGなど、どうやっても買うはずのない人々の声をこそ、聞くべきなのだ。

 そして、従来型のTRPG開発で獲得した技術やノウハウ、販路、スタッフと
いったものを活かし、新しい顧客に売り込むことだけを目指した新しいタイプの
TRPGを、売り出す。ここに、TRPG市場を再建する唯一の望みがあるのだ。

 前述したように、確かに日本製TRPGの技術水準は上がってきている。だが、
それは売上にも、市場拡大(回復)にも、TRPGファンの人口増加にも、ほと
んど結びついていない。これでは、オーディオファンの人口がどんどん減ってる
にも関わらず、いつまでも彼らをターゲットとしたビジネスを続けようとした、
A社と同じ状況だ。

 さあ、B社のように、TRPG市場が育ててきた技術やノウハウを活かして、
全く新しい市場の開拓を目指そうではないか。

 そのためには、まずRPGファンに背を向けるところから始めよう。


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 前回の馬場コラムでは、今のTRPGが、販路としてもっぱらゲーム専門店や
大型書店を想定していることを批判した。そして、コンビニエンス・ストアーを
販路にすることを徹底的に追求したTRPGを開発してはどうか、と提案した。
要するに「まず先に新しい販路を定め、デザインから何からすべてそれを前提に
新商品を開発する」という(他の業種ではごく普通に見られる)開発の手法を、
TRPGも採用した方がよい、ということだ。

 今回は、さらに一歩進んで、TRPGファン、つまり今TRPGを買っている
顧客をターゲットにするのを止めて、今までTRPGに縁のなかった人々をター
ゲットとして選び、徹底的に彼らに売り込むことを追求したTRPGを開発して
はどうか、ということを、私は提案したい。

 念のため強調しておくが、「今までTRPGに縁のなかった人々」というのは、
潜在的なTRPGファンでも、TRPG初心者のことでもない。どうやったって
今のTRPGをプレイするとは考えられない、そういう人々のことだ。そのよう
な人々に売り込むためには、今のものとはまるで違うタイプのTRPGが必要だ。
「今のTRPGをもっとプレイし易くしよう」だとか「もっと初心者にやさしい
TRPGを作ろう」といった話では全然ないので、そのへん誤解なきよう。


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 では、具体的に考えていこう。どのような人々を、新しいターゲット層として
選ぶべきだろうか?

 まず、新ターゲット層は、そこに含まれる人口が多いことが必須である。市場
規模というものは、とにかく購買人口でシビアに上限が決まってしまうからだ。

 日本の人口、ということを考えたとき、絶対に無視できないのが「少子化」と
「高齢化」というキーワードだろう。総務省が発表している日本の年齢層別人口
構成比(いわゆる人口ピラミッド)を見ると、実に急激に少子化と高齢化が進ん
でいることが分かる。現在、人口構成比が最も高い世代は50〜55歳の、いわゆる
“団塊の世代”だ。10年後には、全人口の20%以上が65歳以上となり、15歳未満
の若年層は15%を切ると見られている。

 ここからほぼ確実に言えることは、お子さまをメインターゲットにした商品の
市場は、衰退してゆくということだ。そう、今のTRPGがまさにその典型だと
ことは、言うまでもないだろう。どう考えても、急いでメインターゲットを変え
ない限り、TRPGは滅びることになる。

 だから、新しいターゲット層の最有力候補は、今後の急速な人口増加が確実視
される「高齢者」に他ならない。


**


 馬鹿げている、と思う読者もいるかも知れない。じいさんばあさんがTRPG
をプレイするなんて想像もできない、と。

 だが少し考えてみてほしい。今から10〜15年後には、“団塊の世代”の人々が
一斉に定年退職を迎え、暇を持て余すことになる。あの世代が「もう自分も年だ
から、誰にも迷惑をかけないよう静かにひっそりと余生を過ごそう」と考える、
などとは誰も思わないだろう。そう、しょせん「我々はあれだけ一生懸命働いて
日本を支えてきたんだ。これから第二の人生をエンジョイしても誰からも文句を
言われる筋合いはないよな」くらいの発想が主流になるに違いない。

 しかも、彼らの懐には、退職金と年金でそこそこ金がある。ちなみに、15年後
もまだ年金制度は破綻してないはずだ。なにしろ“団塊の世代”がエンジョイし
た後のツケは“団塊の世代”と“団塊ジュニア世代”にはさまれた、谷間の世代
(まさに私の世代)が後始末するというのが、団塊の世代の方々が一生懸命働い
て作り上げてくださった日本社会の構造なのだから。

 というわけで、10〜15年後には、そこそこ金を持ち、暇を持て余し、人生をエ
ンジョイしたいという思いはあるのだが具体的に何をどうしてよいのか自分では
決められず、他人の動向をうかがう人々が大量発生する。多くの企業が「高齢者
向け娯楽(レジャー)市場」への参入を真剣に検討しているのも、当然だろう。
(個人的には、高齢者介護ビジネスよりも、高齢者娯楽ビジネスの方が将来性が
あるとさえ思う)


**


 どのような娯楽がこの市場で生き残ることが出来るだろうか。私は、TRPG
にもチャンスがあると思う。それもかなり大きなチャンスが。

 何しろ、あの世代の人々は、自分では何も解決に向けた貢献をする気がないく
せに他人に文句を付けるときだけ威勢がよく、苦労と努力は違うということも分
からず、自分の責任を自覚しなくて済むためならいくらでも卑屈になるわりに、
どうでもよいことにかぎって偉そうな顔をしたがり、自己愛が強くすぐ傷つき、
さびしがりやで、自分達が社会の主流であると無批判に信じ込んでおり、得意な
のは苦労自慢だけで、しりぬぐいをする人々に甘えていることにも気づかない、
透徹した無責任さを特徴としている。TRPGというゲームは、なぜかこのよう
なメンタリティの人々を強く惹きつける傾向があるということは、経験上、よく
知られていることではないか。

 というわけで、団塊の世代の心をがっしりつかむプリティな“団塊TRPG”
を10年以内に開発して、高齢者向けの娯楽市場に参入するというのは、それほど
非現実的な目標ではないと思う。

 プロモーションも簡単だ。TRPGというのは

  ・アメリカでは何十年もプレイされてきた由緒正しいゲームであり、現在も
   150万人もの人々が毎月プレイしているという調査結果がある。

  ・ロールプレイという、企業研修や心理カウンセリングにも応用されている
   高度な技法を応用した格調高い娯楽である。

  ・テーブルを囲んで仲間と語らい合うという、コミュニケーションを重んじ
   る、社交性の高い、人間味豊かな趣味である。

という風潮を広げる。キーワードは「米国で普及」「由緒正しい」「格調高い」
「社交性」「人間味豊か」といったところか。あとは、週刊文春あたりに「これ
からは、TRPGが出来ないと社交家失格!?」くらいの記事を載せ、島耕作氏に
でも格好よくTRPGをプレイしていただく。そうすれば、あの世代の思慮深い
方々は、TRPGという「目新しい」娯楽に飛びついてくることだろう。

 はたして“団塊TRPG”が具体的にどのようなものになるのかは、現時点で
は私にも分からない(分かりたいとも思わない)。が、今から真剣に市場調査を
始めれば、10年後には間に合うはずだ。


**


 しかしながら、きっと「団塊TRPGなど考えただけで虫酸が走る。娯楽産業
の王道は、あくまで子供を食い物にすることにある」という気高いビジネス理念
を掲げる会社やデザイナーもいらっしゃることだろう。

 では、急速に進む少子化にも関わらず、今まで通り10代から20代前半くら
いのお子様をターゲットにしたTRPGを売り続けるとすれば、どのような方策
が考えられるだろう?

 そう、海外市場に乗り出すべきだ。

 あ、そういえば、インターネット上の掲示板などで「日本のTRPGはもはや
海外TRPGを追い抜いている。いまだに、海外TRPGをプレイすべきなどと
唱えているのは、無知な舶来品信仰者だけだ」などと気勢を上げていらっしゃる
方々が最近多いようですが、ならどうして「日本のTRPG製品を翻訳して海外
に輸出して、世界市場で堂々と競争すべき」という話にならないのでしょうか?
それとも、心の中では「でも、こうやって偉そうなことが言えるのも、国内だけ
だよな。一歩海外に出れば、日本のTRPGなんて見向きもされないだろうし」
とお考えなのでしょうか?

 私は、今や日本のTRPG(の少なくとも一部)には国際的な競争力があると、
そう思う。日本のTRPGの強みは、何と言っても日本のコミックや、アニメや、
ゲームソフトといった、世界中に広く普及しているJポップカルチャーの“尻馬
に乗って”展開できるということだ。

 そう、日本のポップカルチャーは世界中に広く行き渡っている。大都市の繁華
街を歩けば、それがどこであれ、日本製のコミック、アニメ、キャラクターグッ
ズ、ゲームソフトに群がっている10代から20代前半くらいのお子様たちの姿
を目にすることが出来るだろう。

 さあ。日本のコミックやアニメを、同じテイストで再現できるというのがウリ
の日本製TRPGを彼らに売り込む、というビジネスプランは、そんなに馬鹿げ
てるだろうか?


**


 なに、“団塊TRPG”は嫌だし、“海外展開”は、現地の販路開拓に自信が
ないとおっしゃる?

 では“女性向けTRPG”の開発でも検討してみてはいかがだろう?

 よく「なぜTRPGプレーヤーには女性が少ないのか」ということが話題にな
るが、たいてい「男性TRPGプレーヤーのマナーが悪いから」とか「コンベン
ション主催者には、もっと女性参加者への配慮が必要」といった表面的な議論に
終始しがちだ。だが、もっと本質的な問題を見過ごしてはいないか。そう、今の
TRPGは明らかに若い(幼い)男性プレーヤーをターゲットにしているという
ことだ。

 今のTRPGは、題材からシナリオ、イラストに至るまで、女性読者のことな
どまるで念頭にないとしか思えない作品が多い。確かにいくつか例外はあるもの
の、それらも所詮は「男性デザイナーが、“女性にも楽しめる”ことを目指して、
精一杯がんばって作りました」というレベルを抜け出せてないように思う。

 そろそろ「女性デザイナーが、女性プレーヤーのためにデザインしたTRPG」
なるものを、誰かがプロデュースしてもよい頃ではないか。そういうTRPGの
傑作が出てくれば、新しいTRPGファン層を開拓することが出来るのだ。


**


 他にも新市場開拓の方法は色々と考えられるだろう。例えば、思い切って顧客
ターゲットを絞り込んだTRPGという方向性はないだろうか? 特定職種向け
TRPG、特定地域向けTRPG、特定大学生向けTRPG・・・。あるいは、
いっそパーソナライズで勝負とか。「あなただけのTRPGをデザインします」

 長時間にわたって身体を動かさなければならないようなTRPGをデザインし
て、「運動不足のあなたに最適な趣味」などと健康に良いことを宣伝して中高年
に売れないだろうか。あるいは、外国語習得用TRPGというのはどうだろう。
「レベル1のシナリオなら、わずか30語の単語を覚えるだけでプレイできます。
語学力の向上に合わせて、多彩なシナリオにチャレンジしてゆきましょう」


**


 ああ、もちろん、こういった馬鹿げた思いつきならばいくらでも出てくるが、
真面目に受け取っていただく必要はない。

 だが、TRPGを作っているゲーム会社、プロのデザイナー諸子、同人TRP
Gデザイナーの方々、TRPGを含むゲームの小売りや通販に関わっている全て
の方々に、これだけは真剣に考えてもらいたい。今のTRPGを、今のTRPG
ファンに、今の販路で売る、というビジネスに将来性はない、ということを。

 本当にTRPGを売りたいのであれば、TRPG市場を再建したいと願うので
あれば、まず今のRPGファンに背を向けるところから始めよう。新しい顧客、
新しい販路、新しいTRPGを開拓しよう。さもなければ、TRPGそのものが
滅びることになるだろう。

 “コンビニRPG”とか“団塊TRPG”といった私のアイデアは愚かに思え
るかも知れないが、それならそれで、もっと優れたアイデアに、ビジネス戦略に、
市場調査に、急いで取り組んでほしい。もう、あまり時間は残されていないから
だ。

 そう。真に重要な問いかけは1つ。

 TRPGファンと、TRPGと、どちらが大切なのか?

 答えは明らかだろう。

 TRPGだ。



馬場秀和
since 1962


馬場秀和が管理するRPG専門ウェブページ『馬場秀和ライブラリ』


 この記事はScoops RPGを支える有志の手によって書かれたもので、あらゆる著作権は著者に属します。転載などの連絡は著者宛てにしてください。

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