馬場秀和のRPGコラム 2004年1月号



『RPGと物語に関するごく短い断章』



2004年1月6日
馬場秀和 (babahide*at*da2.so-net.ne.jp)
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 ここ何回かのコラムにおいて、TRPGにおいて「物語」が果たしている役割
について考察してきた。振り返ってみよう。まずは一つの側面に触れて「物語と
は、ヘビのようなものだ」と結論し、また別の方向から考えて「物語とは、木の
幹のようなものだ」とし、さらには太鼓のようなものだ、いや団扇のようなもの
だ、と論じてきた。かように、古来より伝わる由緒正しき手法をもって、着実に
検討を深めてきたわけである。

 しかし、そろそろ「TRPGを覆う屋根」すなわち“物語”についての話題は、
ひと区切りということにしておきたい。本当は、今回のコラムでは「物語を創る」
「物語を語る」ことについて色々と書くつもりだったのだが、いささか遅ればせ
ながら、古川日出男さんの『アラビアの夜の種族』を読んで、すっかりその気が
失せてしまったのだ。この本、評判に違わず圧倒的に面白いので、もし未読の方
がいらっしゃるなら、ぜひとも一読するようお勧めしておこう。

 まあ、そういうわけで、今回はこれまでの話をまとめるだけの、ごくごく短い
文章にしておく。


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 さて、TRPGにおいて「物語」なるものは、どのような役目を果たしている
のだったのか。復習してみよう。

 まず、物語は、TRPGをゲームたらしめる上で不可欠な要素だ。(という話
をしたのを覚えてらっしゃるでしょうか?)

 TRPGにおいて、プレーヤー達は「目標達成に向けた有利不利」「背景世界
やキャラクターのリアルさの維持」「物語としての完成度」という、3つの指針
に従って言動を決定する。これらは、それぞれ、「挑戦(チャレンジ)」「模擬
(シミュレーション)」「物語(ナラティブ)」と呼ばれている。

 ところが、これらの指針はしばしば矛盾を起こす。特に、物語としての完成度
や美しさを求めると、自分が不利になる行動をとったり、あるいは過度の偶然や
ご都合主義などリアルさを損なう展開を受け入れざるを得ないことになりがちで
ある。あなたにも、きっと心覚えがあるはずだ。

 そのような状況において、どのように判断し、どのように行動すべきだろうか。
もちろん正解はない。ここに真の葛藤(ジレンマ)が生じ、そうして、そこから
意志決定、すなわちゲームが生まれるのだ。

 ところで、葛藤(ジレンマ)の中で行動を決定する行為(=意志決定)、それ
こそが「ゲーム」の本質だ、ということを私は何度も何度も書いてきた。これを
理解していれば、物語性は、他の指針と矛盾を起こしやすいことから、葛藤の源
であり、それゆえにTRPGをゲームたらしめる上で不可欠な要素なのだ、とい
う理屈をすんなり納得して頂けるはずである。

 しかしながら、私の経験によると、世の中には、どうやっても、ゲーム=戦闘、
ゲーム=勝負(勝ち負け)、ゲーム=自分が有利になるよう最適手を考えること、
といった思い込みを絶対に変えようとしない人がいる。そういう人にとっては、
TRPGとはすなわちゲームマスターが用意した敵に立ち向かう勝負事であるか、
あるいはゲームマスターと協力して物語を創ってゆく遊戯であるか、いずれかに
なってしまうことだろう。私の考えでは、そのどちらもTRPGではないのだ。

 というようなことを、いくらきちんと根拠を示して論じても、そういう人々は
決して納得しないということはすでによ〜く分かっているので、この話はここま
でにして、次に進もう。


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 物語は、キャラクターと背景世界をつなぐものだ、という話もした。

 TRPGの背景世界というものは、偶然に存在しているわけでもなく、無作為
に創られたわけでもない。その存在理由は、ただ一つ。キャラクター達が活躍す
るためである。

 ときどき、背景世界への思い入れが強いあまり、キャラクターやシナリオより
も背景世界設定、あるいはその説明にばかり力を入れるゲームマスターを見かけ
ることがある。気持ちは分からないでもないが、やはりそれは、本末転倒という
べきだろう。

 背景世界は、キャラクターのために存在するのだ。「背景世界はなぜこうなっ
ているのか」という疑問に対する回答は、ほとんどの場合「キャラクターに活躍
の機会を与えるため」ということになる。そもそも、ある特定の世界がTRPG
の“背景”世界であるという前提によって、必然的にその世界はキャラクターの
存在、活躍、そしてその結果として生ずる物語を、許容する、というか積極的に
支援するような世界でなければならないことになる。(これは選択原理である。
選択原理については、以前に説明したね)

 キャラクターが背景世界と関わることによって、物語がつづられてゆく。TR
PGにおいて大切なのは、物語それ自体ではなくて、キャラクターと背景世界が
相互作用することなのだ。

 だから、あなたがTRPGの「物語性」を重視したいのであれば、どういう話
にしようかと思案するのではなく、どのように背景世界と関わるべきか、と思案
すべきなのだ。

 そういうわけで、私は「背景世界に依存しない汎用シナリオ」というものを、
あまり信用できない。シナリオが背景世界に依存しないということは、すなわち
キャラクターと背景世界の相互作用が薄いということであり、物語性も薄くなら
ざるを得ない。そして、それは結果としてゲーム性をも損なうことになると思う。



馬場秀和
since 1962


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