Scoops RPG 読者の声



Hackin' Run


馬場秀和



 もちろん、『Scoops RPG 読者の声』2002年9月、というタイトルにすることも出来ただろう。でも、もうその手のタイトルをつけるな、と管理人さんから何度も指示されているので、今回はちゃんとしたタイトルをつけることにした。『Scoops RPG 読者の声』始まって以来の快挙だ。

 始まって以来、と言えば、『読者の声』が始まってから2カ月が過ぎた。だが、どうも期待に比べて投稿の集まりが悪いような気がする。Scoops RPGの読者数を考えれば、もっともっと沢山の投稿があってもよいはずだ。って、そう言えば、Scoops RPGの読者数ってどのくらいなのだろう。私の直感では、地球人類の37%程度かと思うのだが、違うのだろうか。そこら辺、管理人さんに情報公開を望みたいところである。

 などと無駄話を書いているといくらでも行数が稼げてしまうのだが、よく考えてみれば『読者の声』で原稿を水増しする理由は何もないので、いやむろん他の投稿についてもそんな理由はないが、さっそく本題に入ることにしよう。

 今回とりあげるのは、次のコラムだ。

Bag o' Nifties: Tricks for GMs
『グラスルーム・インターフェイス - アクションシーンにハッカーを登場させるために』
http://www.scoopsrpg.com/contents/nifties/nifties12jul01.html


 毎度毎度、Bag o' Niftiesのネタばかりで申し訳ないが、私はこのシリーズを気に入っているのだ。

 本題に入る前に一言。以降における「ハッカー」という用語の使い方は、単に元のコラムの用法に合わせたに過ぎない。こう書いても、きっと「ネットワーク犯罪者のことはハッカーではなくクラッカーと呼べ。そもそもハッカーというのは・・・(くされうんちくながなが)」というメールがやってくるだろうと思う。そういうメールを書こうと思う人には、自分の人生においてそういうメールを書くことより有意義なことをなし遂げたことがあるのか否か、真摯に内省してみることをお勧めしておこう。

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 さて。これは私の想像だが、Bag o' Niftiesの著者は、真面目で性格が良く、物事を深く考えないタイプ、すなわち、私と正反対のタイプではないかと思う。この種のコラムニストは、どんな課題についても真面目に取り組み、正しく論理的な思考の末、きちんとした回答を出す。そういう意味で、安心して読める良質なコラムの書き手だと言えるだろう。

 しかし、困ったことに、最初に設定した課題が馬鹿げたものであっても、彼らは同じやり方で真面目に取り組み、当然のことながら馬鹿げた回答にたどり着く。そして、最初の課題がそもそも馬鹿げたものであったことに最後まで気づかない。

 今回のコラムが、その典型パターンだと思う。

 さあ、ここで著者が設定した課題を振り返ってみよう。

 「大乱闘シーンや神経にくるようなサスペンスシーンで、みんなが一緒にいるときのような同じ感覚を(ハッカーがそれ以外のキャラクターと)共有するにはどうすればよいか」

 もし私がこの課題についてコラムを書けと言われたら、まずこう書くだろう。

 「“みんなが一緒にいるときのような同じ感覚”を他のキャラクターと共有したいと思うような奴は、そもそもハッカーじゃない」

 そして、残りの行数は全て“このような馬鹿げた課題を持ち出してくる人間”についての辛辣なコラムに費やすに違いない。

 だが、Bag o' Niftiesの著者は、この課題に真面目に取り組んで、澄んだ瞳で真っ直ぐに突き進み、ついに独創的な回答にたどり着いたのだ。それが

解決法:グラスルーム・インターフェイス

である。

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 「グラスルーム・インタフェース」とは何か。それは要するに電脳空間内に、他のキャラクター達がいる基底現実とそっくりでかつ同期した仮想空間と、視覚映像を用意して、そこでハッカーのキャラクターが仮想的な警備員に仮想的な銃をぶっ放したり、仮想的なナイフを投げたり、仮想的な爆発物を仕掛けたり、そういう仮想的なアクションが出来るようにする、というアイデアだ。これにより実際にはコンピュータシステム相手のハッキングをしながら、他のキャラクターと同じ場所で一緒にアクションしているように“感じる”わけだ。

 なるほど。確かに筋は通っている。課題に対する正しい回答だ。しかし、そもそも課題が馬鹿げているので、この回答も馬鹿げたものになっている。

 まず、「グラスルーム・インタフェース」というアイデア自体が、もうてんで非ハッカー的だ。ハッカーが、あるいはそのようなキャラクターを選んだプレーヤーが望んでいるのは、コンピュータシステムのハッキングであって、アクションではないはずだ。そもそも仮想的であろうと何だろうと銃撃戦や格闘戦といったアクションをやりたいのなら、そもそもハッカーのキャラクターなど選ぶべきじゃない。

 また、グラスルーム・インタフェースというアイデアにも、さほどの説得力はない。なぜなら、そのインタフェースを実現するための処理の大半(特に、視覚映像化)は、ハッカーのローカルコンピュータ環境で実行されるはずだ。いやしくもハッカーなら、おそらく誰でも、そんな重いインタフェースのために手元の処理リソースを食われるのは我慢できないだろう。間違いなく、彼らはそういうインタフェースはオフにして、その分のリソースをもっと有意義なことに使おうとするに違いない。

 要するに、グラスルーム・インタフェースというアイデアは、ゲームマスターおよび他のプレーヤーの都合だけしか考えておらず、ハッカーのキャラクター、およびそれを選んだプレーヤーへの配慮がまるで欠けているのだ。

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 ハッカーであることを選んだあなたが、ゲームマスターからこう言われたと考えてみよう。

 「君はハッカーだけど、傭兵と同じ行動しかとれないことにしよう。それを強制するために、傭兵と同じ行動しかとれない仮想空間を用意するよ。そうすれば、君も基底現実における傭兵部隊の一員になって、彼らと一緒に行動できるんだ」

 これは、つまるところハッカーを止めろ、ハッカーという名前の傭兵になれ、と言われているのと同じだ。

 なぜこうなるのか。もともと設定した課題が、よく考えてみると「ハッカーに、他のキャラクターと同じ非ハッカー的な行動を強制するにはどうすればよいか」というものだったからだ。こういう馬鹿げた課題に対して、真面目で性格が良く、物事を深く考えないコラムニストが取り組むと、こういう回答が出てくるわけだ。

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 似たような課題を考えてみよう。「魔法使いのキャラクターに、戦士と同じように肉弾戦をさせるには、どうすればよいか」

 私の回答は「肉弾戦なら戦士にやらせたまえ。魔法使いには他にやるべきことがあるだろう」といったものだ。いや、そりゃ確かに、マスター・ヨーダだってライトセーバーをぶん回して戦ったが、そうは言ってもRPGには役割分担というものがあって、戦士の役割と魔法使いの役割は異なっているのだ。

 だが、こういう回答もあり得る。

 「まず、特別な魔法一式を定義しよう。“戦士と同じ武器や防具を使う魔法”、“戦士と同じ戦闘スキルや戦闘能力を発揮する魔法”、そして“戦士と同じ戦闘ルールが適用されるようになる魔法”だ。さあ、戦闘シーンになったら、これらの魔法を全て使えば、君も戦士と肩を並べて肉弾戦に突入できるんだ」

 もちろん、これが誰もが馬鹿げたアイデアだと思うだろう。しかし、「グラスルーム・インタフェース」と、「戦士になる魔法」は、実のところ大差ないのではなかろうか。

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 では、どうすればよいのか。

 本当に考えなければならない課題は、ハッカーと他のキャラクターを一緒にアクションさせることではなくて、「プレーヤーの分割処理は、ゲームマスターにとって手間がかかる」という点と「アクションシーンでハッカー役のプレーヤーが孤立して不公平感を持つ」という点だ。

 私の考えでは、これらに対する実用的な解決策は、「ハッカーのキャラクターを1人のプレーヤーに占有させるのは止めて、全員の共有にする」というものだ。これは、実際に私自身が試して、うまくゆくことを確認している。

 すなわち、ハッカーのキャラクターの行動は、みんなで相談して決めることにするのだ。そうすれば、まず少なくとも「孤立感、不公平感」の課題は解決される。分割処理の手間の課題は完全には解決しない。だが実際には「皆で共有しているプレーヤーキャラクター」は、感覚的には限りなくNPCに近いので、その処理を大幅に手抜き出来る(手抜きしても誰も文句を言わない)ことから、手間を劇的に軽減できる。実のところ、共有キャラクターについては、何でもダイスロール一発で決めることにしても、誰も不満を持たないものだ。

 もちろん、他にも優れた実用的アイデアはあると思う。あなたも考えてみると良いだろう。ただし、これだけは念頭に入れておくべきだ。「ハッカーの処理が難しいから、ハッカーを実質的にハッカーじゃないものにしてしまえ」というのでは、課題を避けているだけで、課題を解決したことにはならない。

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 さて、私の予想では、この「読者の声」と同時に、"Bag o' Nifties"の次回作の翻訳が掲載されるはずだ。楽しみである。いや、何がって言われても・・・。


馬場秀和


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