RPGnetゲームレビュー



[オリジナル英文を見る]

『ブループラネット第2版 プレーヤーズ・ガイド(Blue Planet V2 Player's Guide)』

著者:ジェフリー・バーバー(Jeffery Barber)、
   グレッグベンナージ(Greg Benage) 、
   アラン・グローエ(Allan Grohe)、
   ジョン・スネッド(John Snead)、
   ジェイソン・ウェルナー(Jason Werner)
カテゴリ:ゲーム
出版元:ファンタジー・フライト・ゲームズ社(Fantasy Flight Games)
シリーズ:『ブループラネット』
価格:27ドル95セント
ページ数:256 ページ
レビュー著者:マイク・ゼブロウスキィ(Mike Zebrowski)、2000年8月16日
ジャンル:サイエンスフィクション

レビュー翻訳:馬場秀和
レビュー翻訳者による『ブループラネット』紹介ページ
http://www004.upp.so-net.ne.jp/babahide/bpguide.html



[はじめに]

 『ブループラネット』第2版は、ハードSFロールプレイングゲームである。

 来るべき近未来、人類は太陽系の果てにおいてヘビ座のラムダ恒星系につながるワームホールを発見した。驚いたことに、ラムダ恒星系には人類が居住可能な惑星があったのだ。「ポセイドン」と名付けられたその惑星で、科学者たちは不老不死を可能にする鉱石を発見した。巨大企業国から個人探鉱者に至るまで、*誰もが*、一山当てようとして、そして、空前のゴールドラッシュが引き起こされた・・・。

 ブループラネット第2版は、未来のゴールドラッシュと、それが人類の運命をどのように変えてゆくかをテーマにしたゲームである。そこでは西部劇とサイバーパンクが結びつき、科学によって裏付けられた魅力的な背景世界が提供される。

[レビュー著者について]

 私は『ブループラネット』の長年のファンであり、第1版をプレイしたことがあり、ブループラネット・メーリングリストの常連で、さらには第2版のプレイテストの参加者だった。また、私はファンタジー・フライト・ゲームズ社(今後『ブループラネット』製品を発行するゲーム会社)のファンでもある。

 しかしながら、このレビューにおいては、お世辞やひいきは抜きにして、正直な評価を述べるつもりだ。さらに、読者が自分なりの意見を持てるように、なるべく客観的な事実を中心に書くことにする。

[レビューの対象]

 このレビューは『ブループラネット第2版 プレーヤーズ・ガイド』を対象にしている。なお、『ブループラネット』の背景世界については、既に第1版のレビューで多くの人が言及しているので、ここでは詳しくは説明しない。

[第2版出版までの経緯]

 1997年、『ブループラネット』第1版がバイオハザード・ゲームズ社から出版された。その後バイオハザード・ゲームズ社は、年に1冊のサプリメントを出すのが精一杯だった。なぜなら、この会社の規模は非常に小さく、しかも社員のほとんどが他に本業を持っているため、ゲーム会社を経営するだけで手一杯で、新しい製品を開発する時間がとれないという状況に陥ったからだ。

 1999年の終わり頃、バイオハザード社とファンタジー・フライト・ゲームズ社の間で契約が交わされた。バイオハザード社は『ブループラネット』製品の開発に専念し、FFG社が販売などのビジネス面を担当するというものだ。

 契約締結にあたって、FFG社は『ブループラネット』の改版を要求した。バイオハザード社は、改版を機会にファンからの要望を集めることにした。最も多く出された要望は次の通りであった。

[分冊化について]

 バイオハザード社は、『ブループラネット』第1版ルールブックと、最初のサプリメントである『アーキペラゴ(群島)』を合わせて、全体を整理し直し、2分冊化することにした。『プレーヤーズ・ガイド』と『モデレーターズ・ガイド』である。どちらにも、第1版に比べて新しい情報が追加されている。

 訳注:『ブループラネット』では、いわゆるゲームマスターのことを「モデレータ(調停者)」と呼んでいる。ちなみに略語はGM(ゲームモデレータ)であり、一般的なゲームマスターの略語と同じになる。

 キャラクター作成、ルールシステム、背景世界の基本情報、アイテム、といった情報は全て『プレーヤーズ・ガイド』に盛り込まれた。『モデレーターズ・ガイド』には、ポセイドン各地の様々な都市集落の説明と地図、動植物の設定情報、太陽系(地球、月、火星、他)の設定情報、巨大企業とGEOに関する設定情報が含まれている。そうそう、『モデレーターズ・ガイド』には、様々な秘密情報も書かれている。

 ゲームをプレイするために必要なルールと情報は、全て『プレーヤーズ・ガイド』に書かれている。『プレーヤーズ・ガイド』に書かれている背景世界情報だけで、大抵のRPGにおける「基本ルールブック+第1サプリメント+第2サプリメント」を合わせた分量をはるかに超えるだろう。なお、『モデレーターズ・ガイド』はプレーヤーには必要ない。

[製本とレイアウト]

 『ブループラネット』第2版の『プレーヤーズ・ガイド』は、がっしりとした製本のハードカバーである。表紙には魅力的なカラーイラストが描かれている。本文は2段組印刷で読みやすい。3〜5ページになんとか1枚という割合で白黒のイラストが付いている。イラストの出来は、RPG業界の平均よりややマシなくらいか。全体として平凡な作りで、特筆すべき点はない。

 レイアウトに関して問題があるとすれば、サイドバー(雰囲気を出すために挿入される架空の記事や報告書、日記など)の印刷だろう。区切り線と影付けによってサイドバーと本文を区別しているのだが、薄暗いところで読むと紛らわしいことがある。

 なお、目次と索引が付いている。

[全般的な問題点]

 全般的な問題点として、情報の検索が難しいということが上げられる。参照ページ数が間違っていたり、表から項目が抜けていたり、明確に書いてないので推測するしかない項目があったりする。致命的な欠陥ではないが、全体的な評価を下げざるを得ない。

[ゲームシステム]

 第2版における最大の変更点は、「シナジー・ゲームシステム」の採用である。これは「能力値+スキル値+修正」を目標値にする判定ルールで、ほとんどの場合10面ダイス3個までを振ることになる。

[基本ルール]

 ルールシステムの中核にあるのが12の能力値だ(8つの基本能力値と4つの副能力値)。能力値は正負の値をとる。人類の平均値は0だ。各種族によって平均値が決まっており、バイオテクノロジーによる身体改変を適用しない限り、能力値は種族毎の平均値からプラスマイナス3の範囲におさまる。

 ちょっと見ると、能力値の多くが重複しているように思える。しかしながら、実は各能力値の意味は少しづつ異なっており、これが作成できるキャラクターの幅を広げるのに役立つ。例えば、体格(Build) 、鍛練(Fitness) 、筋力(Strength)の3つの能力値は、同じようなものに思えるかも知れない。ちなみに、筋力は副能力値であり、体格と鍛練の平均になる。

 運動不足の大男は、体格2、鍛練0、筋力1ということになる。彼がトレーニングに励めば、体格2、鍛練2、筋力2になるかも知れない。逆になまけ放題でぶくぶく太ったなら、体格2、鍛練−2、筋力0になるというわけだ。普通の人が運動に励めば、体格0で、鍛練2、筋力は1になる。

[スキル]

 スキルは、0(スキルなし)から10(達人)までの値をとる。第2版で定義されているスキルは91種類もあり、様々な行動をカバーしている。中には「農耕(Farming)」といった、プレーヤーキャラクターには必要ないのではないか、と思えるスキルもあるが、それはまあシナリオによるだろう。各スキルには、才能(Aptitudes) が割り振られる。

[才能]

 才能は、生まれながらにして持っている得意・不得意を表している。才能には3つのレベルがあり、判定の際に振るダイスの数を決めるのに用いられる。「普通」だとダイス1個、「得意」だとダイス2個、「天才」だとダイス3個という具合である。能力値やスキルと違って、才能はゲーム中に変化したり成長したりすることはない。

[判定ルール]

 判定の際には、能力値とスキルと修正を加えて目標値を決める。それからプレーヤーは、才能によって決まる個数の10面ダイスを振る。各ダイスの出目のうち、最も低い出目が、目標値以下なら、判定は成功である。出目は必ず1〜10の範囲になるので、目標値が0以下なら必ず失敗だし、目標値が10以上なら確実に成功するわけだ。最も低い出目と目標値の差を行動値(action value)と呼ぶ。ほとんどの場合、行動値は無視される。が、ベテランGMなら何かうまい使い道を思いつくことだろう。

 一般的に、この判定ルールでは、才能よりもスキル値の方が重要になる。(経験は天才に勝るわけだ)

 例えば、「天才」的な才能を持っている(ダイス3個)がスキル値が4のキャラクターAと、「普通」の才能を持っている(ダイス1個)がスキル値が8のキャラクターBでは、通常の判定の成功率はほぼ同じ(約80パーセント)である。しかし、状況が悪化して不利な修正が加わると、才能だけでは乗り切れなくなってくるのだ。難易度が困難(−3)になると、天才だが経験不足のキャラクターAの成功率は27パーセントに落ちる。一方、普通の才能だが努力と経験に裏付けられたキキャラクターBの成功率は50パーセントをキープできる。

 なお、能力値だけで判定する場合、スキル値5、才能「得意」(ダイス2個)とみなして判定することになっている。

[戦闘]

 戦闘は、判定ルールをそのまま用いて解決する。戦闘は非常にデッドリーで、例えば経験豊かな射撃手は、ポセイドン最大の猛獣をピストルで倒すことが出来る(いや成功率は5000回に1回だけど。でも可能性があるというだけで凄いよね)。

[イニシアチブ]

 第1版のイニシアチブルールを気に入っていたプレーヤーは、第2版での変更にひどくがっかりすることだろう。新しいイニシアチブルールは、デザイナーが基本システムで全てを解決しようと望んだせいで、使いにくい駄目なものになってしまった。

 イニシアチブは、機敏(Reflexes)能力値による判定で解決する。目標値から出目(のうち最も低いもの)を引いた値、すなわち行動値によって行動順番を決める。行動値が+3以上だと2回行動できる。+6以上だと3回行動できる。

 ラウンド処理に入ると、行動値+10から始めて、最も低い行動値(大抵はマイナスの値である)までカウントダウンしてゆく。各キャラクターは、カウントが自分の行動値になったときに行動する。複数回行動できる場合、カウントが自分の行動値、行動値−3、行動値−6のときに行動する。ただし、カウントがマイナス値に突入すると、もう追加行動は出来ない。

 例えば行動値が+6であれば、カウント6、3、0のときに行動できるわけだ。もしこのキャラクターが自分の行動を保留して、カウント4のときに最初の行動を行ったとすると、次の追加行動はカウント1のときに行われる。(3回目の行動は出来ない)

 このルールだと、NPC全員についてGMが行動値を算出して行動順番を管理することになるが、これはひどく面倒だ。例えば、戦闘の各ラウンド毎に、全てのNPCについて、「5+敏捷値−負傷による修正」を目標値にダイスを振って出目との差分を書き留めなければならない。

[ダメージ]

 第1版と同じく、第2版でもヒットポイント制は採用されていない。負傷する毎に、キャラクターは1〜3ポイントの負傷ペナルティを受ける。負傷の数は勘定に入れないので、キャラクターはぶっ倒れるまでに多数の軽傷(−1)に耐えることも可能だ。

 このゲームに登場する武器には、1以上のダメージ値(damage rating) が割り当てられている(上限はない)。攻撃が命中すると、武器のダメージ値から、負傷者の体力(toughness) 値と防具の防御値を差し引いて、ダメージ目標値を決定する。それから3つの10面ダイスを振る。ダメージ目標値以下の出目を出したダイスの個数で負傷の度合いが決まる。ダイスが1個なら軽傷(−1)、2個なら重傷で、気絶判定が必要になる。3個なら致命傷で、死亡判定と気絶判定が必要になる。

 負傷の回復には非常に時間がかかる。重傷でも平均して10週間、致命傷だと平均して10カ月の回復期間が必要だ。適切な治療により回復期間を半減させることが可能である。

[キャラクター作成]

 キャラクター作成は比較的簡単である。第1版と同じく、第2版でも「長所・短所のバランスがとれた」キャラクターにするための仕掛けは何もない。その代わり、大雑把な「パワーレベル」が提供される。「平凡」「有能」「エリート」である。GMは、キャラクターのパワーレベルを調整することで、ゲーム全体の難易度を調整することが出来る。

 パワーレベルが決まったら、種族、能力値の増減、バイオモッド(生体改造)の選択、6〜9個のスキルパッケージの選択、そしてわずかなスキルポイントを割り振ってスキルを微調整して、キャラクターは完成する。

[種族]

 『ブループラネット』でキャラクターがなれる種族は数多い。イルカ、オルカ、人類という3つのカテゴリがあり、さらに人類は遺伝子操作により様々な亜種に分かれている。種族を選ぶと、能力値の初期値が定まる。能力値は後で調整することも可能だ。

[能力値調整]

 キャラクターの能力値を、初期値からプラスマイナス3の範囲で調整できる。このための方法は2通りある。ポイント割り振り制と、ランダム方式である。

 ポイント割り振り制を採用する場合、パワーレベルによって決まる追加ポイントを各能力値に割り振る。能力値のいくつかを下げることによって、追加ポイントを増やすことも可能だ。

 ランダム方式の説明はちょっと難しい。まず、パワーレベルによって決まるアドバンテージポイントという値を各能力値に割り振る。能力値のいくつかにディスアドバンテージ・ポイントを割り振ることで、アドバンテージ・ポイントを増やすことも可能だ。それから割り振ったポイントを目標値に、3個の10面ダイスを振る。出目が目標値以下であったダイスの個数だけ能力値を増減させる。もちろんアドバンテージ・ポイントの場合はプラス、ディスアドバンテージ・ポイントの場合はマイナスするのだ。

[スキルパッケージ]

 スキルパッケージは、関連するスキルを集めたものだ。『トラベラー』を初めとするGDW社の多くのRPGで採用されていた「出身部門」と似たようなものだと思えばよい。スキルパッケージには「出身」「背景」「職業」という3つのタイプがある。

 「出身」「背景」スキルパッケージは、キャラクターが若い頃に習得したスキルを表している。全てのキャラクターは、1つの「出身」と2つの「背景」を選択する。「職業」スキルパッケージの選択により、職を選ぶことになる。「職業」には3つのレベルがある。「初心者」「専門家」「エキスパート」である。パワーレベルに従って3〜5レベルの「職業」スキルパッケージを選択する。スキルパッケージで習得したスキルは累積するので、例えばあるスキルパッケージで「拳銃」スキルを2レベル習得し、他のスキルパッケージで「拳銃」スキルを1レベル習得したとすれば、「拳銃」スキルは3レベルになるわけだ。

 スキルパッケージを選択すると、キャラクター作成時に習得するスキルの大半が決まる。

[スキルポイント]

 パワーレベルによって決まるスキルポイントを使って、習得したスキルをのばしたり、新しいスキルを習得したりすることが出来る。

[各章の内容]

第1章

 第1章は背景世界の紹介から始まる。それからありがちな「ロールプレイングゲームとは何か」という話題になり、続いてシナジー・ゲームシステムについて簡単に説明される。最も面白いのは、背景世界を説明する15ページのストーリーだ。これは、「ポセイドン・サバイバルガイド」という体裁をとっており、語り手はポセイドンの全て(特にGEO)に対して毒舌を吐いている。始めてこのゲームをプレイする人は、ここだけ読めばキャラクター作成に取りかかることが出来るだろう。

第2章

 第2章には、キャラクター作成ルール(前述)と成長ルールが書かれている。また、PCとしてもNPCとしても使用できる9つのアーキタイプが提供されている。ただし、いくつかのアーキタイプはルール通りに作成したものではないという注意書きが付いている。

第3章

 第3章は奇妙な章だ。ここで説明されるキャラクター作成の追加ルールは、良く言ってもオプションということになるだろう。ここでは、「目標」「動機」「態度」といったものが規定される。また、手早くキャラクター作成したり、GMがとっさにNPCのデータを決める必要が生じたときなどに使えるデータも用意されている。これらを読めば、辺境惑星の住民がどのような人々であるかを理解することが出来るだろう。

第4章

 第4章では、シナジー・ゲームシステム(前述)が規定される。また、このゲームにおける戦闘がいかにデッドリーであるか、それはなぜか、ということについて半ページほど費やして説明されている。他のゲームでバリバリ銃撃戦するのに慣れたGMとプレーヤーは、ここをよく読んでおいた方がよい。

第5章

 第5章は、アイテムの章だ。銃器や乗物からコンピュータに至るまで、様々なアイテムが規定されている。その多くは武器や防具ではなくて、サバイバルグッズだ。この章は単なるアイテムリストではなく、その背景となっているテクノロジーに関する詳しい説明が付いているので、GMはこの情報を参考にオリジナルなアイテムを作り出すことが出来るだろう。

第6章

 ここもアイテムの章だが、バイオテック関連の情報が集められている。バイオテックには、サイバネティック技術と遺伝子操作技術が含まれる。第5章と同じく、ここに載っているほとんどのバイオテックはサバイバル用であり、戦闘用ではない。

第7章

 ここで『ブループラネット』の未来史が説明される。

第8章

 原住民、クジラ族、新参者、GEO、巨大企業といった、ポセイドンを動かしているパワーグループの説明。それぞれのグループの動機、生活、文化などの情報が提供されている。

第9章

 かの有名な「未来史年表」は、この最後の章に置かれている。非常に奇妙なことに、1997年から2010年までの年表は、なぜか削除されてしまった。

[おわりに]

 これは完璧なプレーヤーガイドだ。ゲームを始めるために必要なことは、全てこの本に書かれている。全ての情報は、背景世界における常識的なものばかりなので、プレーヤーが知っていても何ら問題ない。

 シナジー・ゲームシステムは、「リアルな」ゲームシステムであり、使いやすい(イニシアチブルールだけは例外だが、これは簡単に手直しして使うとよいだろう)。ただし、戦闘がデッドリーでキャラクターが死にやすいのが気に入らないプレーヤーもいるかも知れない。

 結局のところ『ブループラネット第2版 プレーヤーズ・ガイド』は素晴らしい作品だ。

完成度:4(よく出来ている)
内容 :5(最高!)


この記事は米国RPGnetの許可に基づき翻訳されたものです。日本語訳については当サイト管理者ben*at*land.linkclub.or.jpまたは翻訳者まで。記事の内容については本人へ英語で連絡してください。

タイトル・ページへ