RPGnetゲームレビュー



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『ブループラネット(Blue Planet)』

著者:ジェフリー・バーバー(Jeffery Barber)
カテゴリ:ゲーム
出版元:バイオハザード・ゲームズ社(Biohazard Games)
レビュー著者:ツン・カイ・ポウ(Tun Kai Poh)、1997年8月3日
レビュー翻訳:馬場秀和
レビュー翻訳者による『ブループラネット』紹介ページ
http://www004.upp.so-net.ne.jp/babahide/bpguide.html



 バイオハザード・ゲームズ社の2番目の製品にして同社の代表作『ブループラネット』は、最高によく出来た、リアルな“ウォーターパンクRPG”である。(ウォーターパンクというのは、海洋世界を舞台にしたサイバーパンクのことだ)

 幸運なことに、私はオリジン会場でこの作品のデモを見て、出版されたばかりのルールブックを何とか手に入れることが出来た。『ブループラネット』の背景世界は、これまでに私が知っているどのSF(映画、小説、ゲーム)と比べても出色の出来ばえである(ちなみにルールも悪くない)。350ページ近くもある大作ルールブックは、実際にはほとんどワールドブックだと思っていい。なにしろ、全体の5/6は異世界の説明に費やされているのだ。

 その背景世界の何と素晴らしいことか・・・。

 TV番組、映画、ゲーム製品の場合は特にそうだが、とにかくロボットや異星人、宇宙旅行にハイテク機器といった小道具が登場するだけで、何でもかんでも「サイエンス・フィクション」あるいは「サイファイ」と呼ばれてしまうことがあまりにも多い。しかし悲しいことに、大抵の場合それらの作品には、フィクションはあってもその背後にサイエンスがない。例えば、コンピュータウイルスが異星人のコンピュータに感染する『インディペンデンス・ディ』とか、何やらハイテクめいた名前が氾濫するだけで何の動作原理も説明されない『スタートレック』といった作品がそうだ。それに、急激な減圧によって引き起こされるあり得ない現象を描いた多くの映画がそうだ(急に真空にさらされたからって、人間の身体は爆発したりしないんだってばっ)。この手の「サイエンス・ファンタジー」にも良い作品はあるが(『スターウォーズ』とか)、私は常々もっとリアルなハードSFを望んできた。

 『ブループラネット』の背景世界は、その科学的な正確さと、リアルさの点で、他のSF-RPGから抜きん出ている(『トラベラー』よりも・・・なにしろ超能力が出てこない!)。このゲームの背景世界である「ポセイドン」を創造したデザイナーは、この海洋惑星が非常にリアルな異世界になるように、気象、地理、生態系、政治状況などの設定を作るに当たって慎重に考え抜いたに違いない。これらの設定の細部までよく練られていることには、海洋学者ですら感心するだろう。これは、ある意味では当然のことだ。なにしろデザイナーのジェフ・バーバー氏は、『ブループラネット』に没頭してないときは、海洋学の教授をやっているのだ。だが、これだけ細部まで正確に作られているにもかかわらず、ポセイドンは決して退屈だったり生真面目すぎたりはしない。ここは危険と陰謀が渦巻く辺境の惑星であり、1ダースものキャンペーンをやっても飽きることはないだろう。

 今から200 年の後、人間の手によって地球環境は徹底的に破壊され、数えきれない動植物種が既に絶滅してしまっていた。人類は、75年に渡る全世界的な飢餓からようやく回復しつつあるところだ。破局が訪れる直前に、太陽系の外周からかなり先の地点で、人工的に建造された謎めいたワームホームが発見された。調査の結果、ワームホールは太陽系から35光年の彼方にある別の恒星系につながっていること、そしてその恒星系の第2惑星は、広大な海に覆われ、驚くなかれ人類の生息に適していることが判明した。「ポセイドン」と命名されたその惑星に大型植民船が送り込まれた直後に地球は壊滅状態となり、植民者たちは見捨てられたのだった。

 だが、最近になって、GEO(Global Ecology Organization - 世界環境機構)、および様々な大企業(Incorporates - 「メガコーポ」)が、地球の経済環境を回復させることに成功した(自然環境までは回復できなかったが)。彼らがポセイドンに再コンタクトしたときには、植民者たちは補給できなくなったテクノロジーに頼るのは止めて、魚釣りのような原始的な生活を営む原住民(native)になっていたのだ。そして、ポセイドンで発見された「ゼノシリケイト(xenosilicate)」鉱石により遺伝子工学に革命が起こった。移民者が押し寄せてゴールドラッシュになり、ポセイドンは人々の欲望と大企業間の戦争に覆われ、その生態系は危機にさらされた。原住民の中には、エコテロリストグループを作って自分たちの海を環境破壊から力ずくで守ろうとする者も現れた。GEOは遺伝子工学で強化した兵士で構成されるスーパートルーパー部隊(Supertroopers)や、保安官(Marshall)を投入して治安維持を図る。そのころ、深海に棲息する珍しい謎めいた種族「アボリジニー」たちは、人類に対して戦いを挑もうとしていた・・・。

 ルールブックには、この未来の歴史とポセイドンについての細かい設定情報が、精密にかつ面白く書かれている。どのページにも内容の濃い文章がびっしり並んでいるが、読みにくくはない。ページのレイアウトは本格的だし、囲み記事もよく書けている。惑星全体と主な舞台となる群島については地図が載っている。「ゲームマスター専用」と表示された部分には沢山の秘密情報が書かれていて、そのほとんどは良いシナリオアイデアを提供してくれる。これを使って短いシナリオを作ることも出来るし、もっと長いキャンペーンを作ることだって出来る。科学的なデータも豊富に提供されているが、その大半は専門家でなくても理解できる用語で説明されており、教科書よりは『ナショナル・ジオグラフィック』誌のように気楽に読める。原住民、移住者、GEO、様々な大企業、5つの主な植民地、生態系(地表、海面、海中)、「ロング・ジョン」(鉱石のあだ名)の採掘、途方もない暴風雨、太古種族の遺産である謎めいたアボリジニーと、彼らが駆使するエンパシー(共感)能力(と言うとまるで「Xファイル」みたいだが、むろんスカリー捜査官も納得するような立派な科学的説明が付いている)。アボリジニーとその秘密に関する設定は見事な出来だが、いくつか謎も残されている。それらは、将来のソースブックで解明されるに違いない、とだけ言っておこう。

 ここまでポセイドンについて詳しく書いてあるからには、2199年の地球や太陽系についての設定情報は後からソースブックで追加することになる、と思うのが普通だろう。だが何と、基本ルールブックにはそのための章が用意されているのだ。この章の大半は、地球と、地球で大企業がやっている所業についての説明に費やされているが、月面都市、火星植民地、木星衛星植民地についても、シナリオを用意できるだけの充分な情報が書かれている。

 ルールブックは全てモノクロで、カラーページはないが、ビジュアルデザインは非常に良い。枚数は多くないものの、ポセイドンの日常生活を描いた立派なイラストが載っている。他にも、出来の良い(ただし鑑賞するには小さすぎる)イラストと共に、ポセイドン土着の動植物(水素で膨らむ飛行クラゲから、潜水艦をひと飲みにする体長75m の巨大ウナギまで)のデータが載っている章もある。ここは私が最も好きな章の1つだ。アイテムを規定している章には、大小さまざまな種類のコンピュータ、センサー、サバイバルグッズ、武器、乗物のデータ(『バビロン・プロジェクト』よりずっと多く、『シャドウラン』に匹敵する)に、やはり良く出来たイラスト(もっともパラジウムブックス社のゲームには及ばないが)が付いている。私の見たところ、たった1つ不足しているイラストは、典型的な海底基地のレイアウト図だ。少なからぬシナリオが海底基地を舞台にするに違いないのに。

 サイバーパンクのファンのために、よく考えられた有用なサイバーテクノロジーとバイオモッド(biomods - 生体改造)が提供されている。テクノロジーの多くは海 洋惑星で生きてゆくために必要なものであって(新陳代謝を改造して海水を飲めるようにするとか、エラ呼吸を可能にするとか)、ありがちなサイバーパンクゲーム(何とは言わないが)のように戦闘バリバリ派を喜ばせるためのものではない(ただし、スーパートルーパー強化パッケージと、神経加速手術は例外)。

 さて、知性化されたイルカのことは話したっけ?『ブループラネット』のルールブックは、遺伝子工学により改造され人間に近いIQを獲得したクジラ類についての記述に1ダースやそこらのページ数を割いている。クジラやオルカのキャラクターをプレイするために必要なルールはほぼ充分だが、人間の職業テンプレートをクジラ類の職業テンプレートに変換する仕事は(いくらかガイドラインが提供されているものの)ゲームマスターに任されている。見たところ、知性化されたクジラ類という設定は後から思いつきで追加されたものではない。というのも、ほとんどどの章にもクジラ類に関する記述があるのだ。最初の植民者の子孫、GEOに雇われているイルカやオルカ、クジラ類のためのサイバーテックによる人類との協力、さらには全従業員がイルカという大企業州の設定に至るまで。

 『ブループラネット』のルールブックは、ほぼ全体がワールドブック以外の何物でもない。『スターウォーズ』や『バビロン・プロジェクト』とは違って、「ロールプレイングゲームとは何か」を初心者に長々と説明するような導入部はなく、ただ1ページ半ほど費やして「これは子供向きのゲームではなく、経験豊かなゲーマー向けの製品である」ということをはっきり宣言している。ルールシステム自体は、スキルをベースに能力値で修正した目標値に対してパーセントダイスで判定するだけの単純なものだ。実際にプレイしてみたが、他のパーセントダイス型システム(例えば『クトゥルフの呼び声』)と同じ感じだった。

 ルールシステムの唯一の問題は、キャラクター作成が複雑だということだろう。(『トラベラー』や『バビロン・プロジェクト』のように)キャラクターの過去を全て作成するわけではないにせよ、キャラクター作成にかかる時間は、『トワイライト2000』に匹敵する。能力値が14種類、「知覚」能力をベースにした副能力が5種類(そう、要するに五感のことだ)、スキルへのポイント割り振り、40種類の職業テンプート。言い換えれば、各プレーヤーがキャラクターを作成するのに、少なくとも初めてプレイするときは、1時間はかかるということだ。ああ、もちろんコピーして配布するキャラクター作成ワークシートが付いている。

 一方、このキャラクター作成ルールは非常に自由度が高い。キャラクターの財産、教育レベル(これでスキル割り振りポイントが決まる)、受けている生体改造の数といった点については、ルール上の制限は特になく、ゲームマスターが任意に制限を決めてよいことになっている。ルール通りにやれば自動的にバランスがとれるというシステムではなく、あくまで自分たちでバランスを考えてキャラクターを作れるだけの経験を持ったゲームマスターとプレーヤーを相手にしているわけだ。

 『ブループラネット』が、映画的なノリではなくリアルさを重視しているということは、戦闘が短時間に片づき、しかも致命的だということを見てもよく分かる。ヒットポイントの代わりに、バイオハザード・ゲームズ社の前作である『キラー・クロスヘアー(殺意の照準)』のものを簡単にしたような痛打表を適用し、さらにダメージを受ける度に累積してゆく「負傷レベル」で気絶判定を行う。イニシアチブロール、およびそれに失敗すると行動できないというルールは、明らかに多くのゲーマーにとって馴染みがないコンセプトであり、慣れるまで時間がかかることだろう。

 三次元の乗物戦闘ルールもあり(このルールがないというのも、私が『バビロン・プロジェクト』に感じていた不満点の1つだ)、潜水艦戦から戦闘機の一騎討ちまで解決できる。このルールはまだプレイしてみたことがないのだが、充分にシンプルであるように思える。なお、乗物データには戦闘ターン単位の移動速度が明記されているのに、長距離の移動を扱うために必要な「時速」のデータがないのは困りものだが、幸いなことに変換用の係数が提供されている。(もしあなたが『ブループラネット』を他のゲームのシステムでプレイしようと思うのなら、移動速度のデータを時速に変換できるのは便利だろう。ただし、戦闘ダメージは『ブループラネット』特有のスケーリングシステム用にデータ化されているため、武器データを他のゲームシステム向けに変換するのはもっと難しい)

 入門用シナリオが付いてない点は気に入らないが、何度も言うようにこの製品は自分でシナリオを作れるだけの経験を積んだゲーマー向きなのだ。様々な人物や組織に関する「ゲームマスター専用」の秘密情報が大量に提供されているので、シナリオネタに困ることはないが、実際にプレイできるだけのシナリオを用意するにはずいぶん時間がかかる。

 最後に、索引は良い出来だが、相互参照が必要な個所があまりにも多いので、これでは不充分である。

 まとめてみよう。ルールシステムは必ずしも採用しなくてもよい。しかし、ポセイドンの背景設定(280ページ以上ある)は凄い。他のどんなSF-RPGと比べてもソースブック2、3冊ぶんの情報量がある。『ブループラネット』の開発には数年かかったそうだが、この情報の密度を見ればそれも頷ける。価格29ドル95セント分の価値は充分にある(編集者注:実際には27ドル96セント)。それに、環境問題をテーマにした作品だということで、『ブループラネット』から得られた利益の1割は、故クストー船長(『ブループラネット』は彼に捧げられた作品である)の遺志を継ぐ「カリプソ協会」に寄付されることになっている。利益が出ればの話だが。私の友人は、「利益が出ればその一部を寄付すると宣言したということは、要するに利益が全く出てないということだろう」などと言っている。私としては、真に知的なSF-RPGがちゃんと市場に受け入れられ、利益を出すことを望むばかりである。

完成度:5(最高!)
内容 :5(最高!)


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