RPGnetゲームレビュー



[オリジナル英文を見る]

『アーキペラゴ(Archipelago)』

著者:ジェフリー・バーバー(Jeffery Barber)、グレッグ・ベンナージ(Greg Benage)、ブライアン・ブリードラブ(Brian Breedlove)、サム・ジョンソン(Sam Johnson)、ジェイソン・ワーナー(Jason Werner)
カテゴリ:ゲーム
出版元:バイオハザードゲームズ社(Biohazard Games)
価格:18.98ドル
ページ数:126ページ
レビュー著者:ツン・カイ・ポウ(Tun Kai Poh)、1998年7月27日
レビュー翻訳:馬場秀和
レビュー翻訳者による『ブループラネット』紹介ページ
http://www004.upp.so-net.ne.jp/babahide/bpguide.html



 『ブループラネット』は、今までに創り出されたSF−RPGの背景世界のうち最も荘厳なものだと思う。ファンタジーにおける『ミドルアース』、現代的な陰謀とホラーにおける『デルタグリーン』、オカルト西部劇における『デッドランド』、これらの世界が各ジャンルの代表作となっているように、『ブループラネット』の背景世界はハードSFを代表するものである。『ブループラネット』の基本ルールブックはゲームのルールブックというよりワールドガイドに近い。なにしろ未開の辺境植民地である海洋惑星ポセイドンの解説に200ページ以上を費やしているのだ。これらの解説は、ハイテクノロジーにばかり注目するのではなく(むろんハイテクの説明もあるが)、むしろ生物学、地理、政治、そしてセンス・オブ・ワンダーを伝えようとしている。ポセイドンは、生き生きとしたリアルな背景世界だ。プレーヤー達は、ここを舞台にしたゲームを気に入ることだろう。『ブループラネット』の第1サプリメントである『アーキペラゴ(Archipelago - 群島)』の発行はずいぶん遅れた。実のところ予告より1年近く遅れたのだ。しかし、待ち続けた日々は無駄ではなかった。その甲斐はあったのだ。『アーキペラゴ』は本当に素晴らしい出来ばえだ。

 正直に言って、私に偏見があることは認める。なにしろ、『アーキペラゴ』の導入部を書いたのは私自身なのだから(訳注:バイオハザードゲームズ社は、『アーキペラゴ』の導入部に入れる文章を、コンテストという形で一般公募した。レビュアーはその優勝者である)。しかし発行前に私が知っていたのは、その本にはポセイドンの「パシフィカ・アーキペラゴ(太平洋群島)」地域についての詳しい解説が載るということだけで、最終的な内容や本の外見についてはほとんど何も分からなかった。だから私は、バイオハザードゲームズ社が、基本ルールブックで見せた素晴らしい文章と編集のレベルを『アーキペラゴ』でも保てるかどうか心配だった。だが結果的には何も心配する必要はなかった。実のところ、『アーキペラゴ』はいくつかの点で基本ルールブックすら凌駕する優れた作品だったのだ。

 『アーキペラゴ』は、まず視覚面で基本ルールブックより優れたものになっている。思わず息を呑むような、写真のごとくリアルなカバーアート(実は『ナショナル・ジオグラフィック』誌に載った写真を修正したものだ)、各種マップ、イラスト、見事に編集されたテキスト。このソースブックは目の保養であり、そのレイアウトたるや最高級のプロがやってのけた仕事と言うべきだ。イラストの大半は、今回新しく起用された才能豊かなイラストレーター、ブライアン・デスペイン(Brian Despain) 氏によって描かれている。彼が描くイラストの雰囲気は『ブループラネット』にぴったりであり、基本ルールブックを担当したブレア・レイノルズ(Blair Reynolds)氏の不在を埋め合わせていると言えよう(デスペイン氏の方が野外シーンは上手いが、人物の顔についてはレイノルズ氏の方に軍配が上がる)。生物図鑑の章に収められた動植物のイラストは、基本ルールブックと同じくクリストファー・ベネディクト(Christopher Benedict)氏が担当している。おかげでポセイドン土着の動植物についての視覚的イメージは一貫している。ゲームデザイナーであるジェフ・バーバー(Jeff Barber) 氏によると、様々な地域や集落のマップを作るのに少なくとも120時間はかかったそうだが、確かにどのマップも素晴らしいプロ級の出来になっている。最後に、『アーキペラゴ』は、基本ルールブックと比べてさえ、より情報の密度が高まっている。なにしろ126ページに渡って有用な情報がぎっしり詰め込まれているのだ。くだらない文章、粗雑なイラスト、やたら広い余白、同じことを何度も書くテクニックといったものでページ数を水増ししているサプリメントも多い中で、『アーキペラゴ』の姿勢は高い評価に値する。この本に載っているくだらない文章は、1ページだけだ(その責任は私にある)。

 内容について言うと、『アーキペラゴ』の完成度は基本ルールブックに勝るとも劣らない。このソースブックは、様々な群島地域ごとにパートが分かれており、各パートには、その群島地域における集落、文化、争い、NPC、野生生物についての説明が書かれている。この新しい辺境世界における都市のうち、次のようないくつかについて解説が載っている。退役した宇宙船の船体から造られた工業都市「アル=マムラカー(Al-Mamlakah)」、ぽっかりと口をあけた大峡谷に架けられた空中都市「セカンド=トライ(Second Try)」、急成長しつつある中立港であり、ぶっそうな新ラスタファリアン主義者の本拠地でもある「キングストン(Kingston)」、水没した溶岩洞窟の迷路が原住民のレジスタンスグループの隠れ家となっている「バフィン島(Baffin Island)」、ハイテク楽園とも言うべき海上浮遊都市「ダイフェッド(Dyfedd)」。

 他にも、暗く、忌まわしい場所もある。人々が狂気に取りつかれ、自暴自棄になりつつある「コロラドステーション(Coronado Station)」の研究施設、逃亡者や追放者の巣窟となっている「大障壁(The Wall)」の広大な峡谷地域、密かに戦場と化している「ウエストケープ島(Westcape)」、絶え間ない攻撃を受けている「クルーゾー島軍事基地(Crusoe Island Military Base)」、あらゆるものが微妙に歪んでいる怪しい漁村「キープセイク(Keepsake)」。これらの各場所を説明した後には、「ゲームマスター専用」と書かれた秘密情報が載っている。いくつかの秘密情報はマジに凄いので、プレーヤーは油断してはいけない。それから各地域のパートには、アボリジニー(ポセイドンに生息する知的生命体)の活動と、彼らの人類に対する企てについての解説がある。基本ルールブックと同じく、アボリジニーについては好奇心を刺激する情報が載っているものの、全ての秘密が明らかにされるわけではない。アボリジニーについて完全に知りたいと思えば、将来のソースブックを待つしかないわけだ。アボリジニーの秘密が中心となるシナリオを作りたいと思っているゲームマスターにとっては、非常にイライラさせられる状況だ。ただ、少なくともシナリオにアボリジニーを登場させるだけなら、与えられている情報で十分だろう。

 それから13名のNPCについてプロファイルが載っている。善人、悪人、卑劣な奴といった具合に多彩なキャラクターだ。職業としては、指導者、兵士、開拓者、レジスタンスグループの戦士、犯罪者、保安官などがいる。また、GEO(世界環境機構)の生物学調査により発見された12種類の新種が載っている。食べることが出来るもの、人間を食べるもの、さらにはモーターボートを緊急発進させるために使えるものまでいる。掲載されているあらゆる生物が危険というわけではないのは喜ばしいことだ。この本は「モンスター・マニュアル」ではないのだから。

 この本に欠点を見つけるのは困難だ(まあ、さすがにこれは私の偏見だろう)。私はこの本をチェックするのに3週間かけたが、誤植は半ダースかそこらしかなかった。これはRPG関連の印刷物としては非常に良い品質だ。この編集品質の高さは、基本ルールブックのそれに匹敵する。誤植のうち記述内容を大きく損なうものはなかった。ただ、いくつかの記述内容(例えば96ページの「強迫観念」)は、それ自体が何かの間違いじゃないかという気がしたが。アボリジニーの秘密が明かされないのはゲームマスターにとって不満だろうし、「ゲームマスター専用」の秘密情報が多いのはプレーヤーにとって不満だろう。

 『アーキペラゴ』、『ブループラネット』の島めぐりガイドは、『ブループラネット』のファンにとっては最高の贈り物だ。5人の著者たちは素晴らしい仕事をやり遂げた。彼らは架空の島々に生命を吹き込み、設定情報に輝きを与えたのだ。もし君が既にポセイドンで冒険したことがあり、そこを気に入っているのなら、この本は君を再びポセイドンに連れてゆき、当分はそこから離してくれないことになるだろう。

完成度:5(最高!)
内容 :5(最高!)


この記事は米国RPGnetの許可に基づき翻訳されたものです。日本語訳については当サイト管理者ben*at*land.linkclub.or.jpまたは翻訳者まで。記事の内容については本人へ英語で連絡してください。

タイトル・ページへ