それは二人の秘密

 フェリクスに怒られた。
 正直、めちゃくちゃ驚いている。何がって、原因になった聖殿の壁の薄さについて。こんな華美で豪奢なナリをしてるくせに、各部屋の壁がバースのマンションより薄いってのはどういう状況なんだろう。
 確かに、夜中にゼノとゲームで盛り上がっていたのは事実。でも、ずっと大声を出していたわけじゃない。ゼノが「すっごい意地悪にしてみたよ」と用意してくれた超高難易度設定のゲームに挑んでいて、クリアした時に「よっしゃ!」と声をあげたり、ゼノが「すごい!」と拍手してくれたりと、その程度。
 それでも夜遅い時間に他が騒がしいはずがなく、音が響いてしまったのだろう。だから、怒られたこと自体は納得できているし、反省もしている。一応夜は気を付けようと思っているけれど……あの程度で?とも思ってしまっていた。
 日中の話ではあるけれど、バースでもマンションに住む友人の部屋で同じように盛り上がったことがある。暑い夏休みの最中だったから、冷房を入れ窓も部屋のドアも締めていた。4人で集まっていたから昨日の夜よりもっと騒がしかったと思うが、リビングにいた友人の母親に声が届いていた様子はなかった。少なくとも、うるさいと言われた記憶はない。テレビを見ていたとか周りに音があった状況と比べるのは間違っているかもしれないが、マンションの一戸内でも伝わりにくい声が続き間でもない隣に伝わっているというのは、やはり壁が薄いと考えるべきだろう。
 というか、聖殿の各自の私室はどう作られているんだろう? 女王試験の為に設置されたみたいな話を聞いたから、もしかして元は私室として使うつもりじゃない部屋だったとか? それなら全く防音対策がされていなくても、納得はできる。
 ただ、私室の防音対策がほぼされていないというのは、心理的にキツイ。多少の音なら問題ないのだろうが、境がわからない上に、自室にいる間ずっと気にかけているのも結構な負担になりそうだ。なにせ一人でゲームをしていても、手こずっていた箇所をクリアした時には無意識で声が出るものだから。ましてゼノや他の誰かと一緒にプレイしていたら、自然とにぎやかにもなる。気を付けながら遊ぶ……というのは、案外難しい。
 他の守護聖はどう考えているのだろう。飛空都市は試験中の舞台で、終われば聖地というところに移動するらしいが……少なくともまだしばらく終わる気配はない。窮屈に感じている人はいないんだろうか。……いないのかもしれない。
 一緒に怒られたゼノ以外はみんな大人だ。ゲームで騒ぐような人は多分いないだろう。そもそも騒がしい印象を与えるのはユエだけで、他の守護聖たちにその印象はない。
 つまり、気を付けなければならないのは自分たちだけだという結果になる。なるほど、防音対策がなされないはずだ。ゼノだって、カナタが来る前は騒がしくなかっただろう。むしろ見てみたい、一人でも騒ぐゼノ。全く想像がつかないけれど。
 そのゼノは、今朝一緒に怒られて「ごめん、俺が時間を考えずに誘ったから」と落ち込んだ様子を見せていた。ゲームに夢中になっていたのはカナタで、騒いだのは2人共だから、ゼノだけが謝る必要ないと言ったけれど……ゼノの性格なら、多分まだ気にしているだろう。
 そろそろ昼になる。様子を見にいくついでに、気分転換を兼ねてカフェにでも誘ってみようか。
 午前中にやるべき執務は終わっていたので、ちょっと早いけれどと自分の執務室を出て、ゼノの元へと向かう。相変わらず無駄に広い廊下は静かで、気をつけても足音が少し響く。見た目も大事だろうが、実際に生活する場ではないだろうと改めて思う。なんでこんな世界遺産みたいな建物で寝食してるんだろうか。自分が守護聖になったことと同じくらい、カナタには謎だ。
 ゼノの執務室前に到着して、気が付く。落ち込んでいたら、なんと声をかけたらいいだろう? 慰めるのは上手くないし、気の利いたことを言えるタイプでもない。
「できた!」
 扉の前で逡巡していたら、唐突に少し籠ったゼノの声が耳に届いた。少しも落ち込んでるように聞こえない、むしろ嬉しそうな声が。というか今、できたって言っていたように聞こえた。
「ゼノ、入るよ」
 逡巡していた時間は無駄だったのかもしれないと頭の片隅で思いながら、声を掛けて扉を開ける。執務机に座っていたゼノがすぐに気付いて、笑顔で迎えてくれた。……やっぱり無駄だったらしい。
「カナタ! すごいね、タイミングばっちり!」
「えっと、なんの?」
「あ、ごめん。今ちょうど完成したところだったから」
 カナタの登場を喜んでくれるのはありがたいが、言葉が要領を得ないのは困る。笑顔で差し出された手のひらには、小型の箱が載っていた。正体は不明だが、これが今完成したものかつカナタに見せたかったのだろうとは推測がつく。
 でも、一体なんだろう。てっきり怒られて落ち込んでると思っていたゼノが作っていたもの。見当がつかない。
「聖殿内の防音状態があんまりよくないみたいだから、作ってみたんだ」
「まさか、防音装置?」
「うん。急ごしらえだから範囲は一部屋カバーできるかできないかってくらいだけど」
「嘘でしょ。さっきの今でもうできてるとか」
 ゼノの説明を先回りして尋ねると、当たりだったらしい。まだ怒られてから2時間程しか経過していないのにと、そのスピードにぎょっとした。
 近寄って、手のひらに収まる箱を凝視する。鈍い色を放つ金属製の無骨な箱で、カナタの握り拳ほどの大きさしかない。てっぺんに丸いスイッチらしきものがついているけれど、防音装置なんてすごい機能をもっているようには見えなかった。何か別の仕掛けの起動スイッチだと言われた方が納得できるだろう。昔、バースでみた古いアニメで悪役が持っていた爆破スイッチのようにも見える。
「試作のつもりでその辺にあった材料使ったから箱に入れちゃったけど、改良する時はもっとデザインも凝るつもりだよ。部屋に置いてあったら、これじゃ悪目立ちしちゃうもんね」
「その辺にあった材料で作れるって時点で信じらんないんだけど……」
「あ、心配しなくてもちゃんと効果はあるよ! 後で森に行って試してみよ?」
「いやそうじゃなくて」
 カナタが見ているのに気付いたらしく、ゼノが見当違いの説明をしてくれる。だが、気になったのは見た目のことではない。
 モノづくりを嗜んでいないカナタからしたら、『その辺の材料』で作ってしまったことこそが信じられないのだ。必要な材料を考えて調達しに行って、短時間で作ったのならまだわかる。なんでその辺にある材料だけでカナタには一切作り方も原理もわからないような物をこんな小型で作れるのか?
 そもそもゼノは作業が速い、と思う。作ってくれるゲームだって、カナタからしたらあっという間にできてしまうのだから。一体いつの間に作ってくれているんだろうと、ずっと疑問に思っている。
「試運転、付き合ってくれないんだ……?」
「え? 違う、それは付き合う。じゃなくて、オレが信じらんないって言ったのがさ」
 カナタの言葉を誤解したゼノが、残念そうな声で確認してくる。慌てて首を振って誤解だと説明した。でも、ゼノにとっては当たり前のことだからだろう、いまいち疑問が伝わった気がしない。伝わったとしても、今度はカナタが説明されても理解しきれないだろうから、誤解さえなくなればいいかと深追いはしないでおいた。
 ひとまず、お昼ご飯を食べた後で森に寄って試運転することで話はまとまったことだし。
「ゼノのことだから、落ち込んでるかと思った」
「怒られて?」
「いや、自分のせいでオレまで巻き込んだって考えそうだなって」
「あぁ、うん。申し訳ない気持ちは今もあるよ。でも、それで落ち込んでても、なんにもならないから。少しでも改善できるように、俺でもできることを考えなきゃいけないなって」
 カフェに向かう道すがら、気になっていたことを口にしてみた。応じてくれたゼノの声は、言葉通り落ち込んでいるようには聞こえない。むしろもっと前を見据えているようで、すごいなと思う。怒られたから気をつけようで終わらせないところは、見習うべきだとも。
 ただ、最後の言葉がひっかかる。防音装置なんて、ゼノでなければ作れないだろう。『俺でも』ではなくて、『ゼノなら』だろうと思うのだが……相変わらずのゼノらしさ、だろうか。カナタには作るという発想さえなかったのに。それを伝えてもいつもどおりゼノには響かないだろうから、言わないけど。
 ゼノの自分に対する過小評価は、カナタが褒めるくらいじゃ上方修正される気配がない。まだ2ヶ月程しか付き合いのないカナタにだってわかってしまう程、それは強固だ。訂正を試みても伝わらないどころか、「優しいね、カナタは。それなのに、俺は……」なんて更に哀しそうな顔をさせてしまうだけ。それがわかって以来、無為に訂正しようとは思わなくなった。ゼノのそれは、根深い問題なのだろうと気づいてもしまったから。
 なにせ、カナタ自身が人の問題に手を貸せる状況ではなかった。ゼノの支援や似た様な境遇の候補たちが前向きに試験に取り組んでいるのを見て、表面上はなんとか取り繕えるようになったが、諦め悪く未だに元の生活に戻る術はないかと探してしまうし、毎夜のように見る悪夢だって終わる気配がない。
 親友だと思っているゼノの存在に救われていても、彼の救いの一助を担うのはまだ荷が重すぎる。もちろん、カナタにできることならいくらだって手を貸す心づもりだけれど……今は、その一端さえわからない。だから、安易に口を出すべきではない、というのが今のところの結論だ。
 気付かなかったことにして、カナタでもわかることについて尋ねてみた。
「う~ん、惜しい、かな」
「マジで? 他に何があるんだろ……全然わかんない」
「ヒントいる?」
「いらない。自力でがんばる」
 怒られる原因にもなった、昨夜の超高難度ゲームについて。日付が変わる少し前私室に帰った後も少しだけと再開したら、どうしてもクリアできない箇所にぶつかった。ステージギミックの解除が出来なくて進めない。流石に夜遅いからと途中で切り上げたが、どうしても気にかかって朝から暇さえあれば考えている問題だ。
 思いついた方法をいくつか尋ねてみたけれど、製作者からの回答はイマイチ。嬉しそうに見えるのは、手こずっているからだろう。ゼノ曰くすっごく意地悪だそうだから、作り手として簡単にクリアされたら面白くないのはわかる。でもそれを悔しいと思うのとはまた別だ。
「ゼノ、今日も来る?」
「う~ん、どうしようかな。カナタがクリアできそうなら行こうかな」
「それ、できそうにないって思って言ってる?」
「あはは」
 プレイヤー側からやり返すなら、目の前でクリアしてみせることだろう。まぁ、ゼノは少し悔しがる程度で、クリアできたことを一緒に喜んでくれるけど。
 だから訊いてみたけれど、歯切れの悪い返事。というか、直前のやりとりで、まだクリアできないだろうと予測したのが明白だ。笑って誤魔化しているけど、悔しい。
 幸いにして、明日は土の曜日。定期審査の日でもないから、多少の寝坊は問題ない。今夜中にクリアまでは無理でも、せめて解除方法くらいは見つけださなければ。緊急要請でもない限り、明日の午後にはいつもどおりゼノが遊びにきてくれるだろうから。
 うっかりヒントになりそうなことを聞いてしまわないように、カフェではゲームに関係のない話をした。少し早めに訪れたのもあって2人が食べ終わる頃に混雑してきたから、のんびりとはせず森の湖に向かう。
 別名恋人たちの湖ともいうだけあって、日中は基本的にいつ来ても人がいる。仕事はどうしたんだろうと思わないでもないが、そもそも自分たちも執務の途中で息抜きに来ているので、とやかく言えた筋合いではない。でも気になる。なんでいつ来ても誰かしらいるんだろう。
「うん、試運転にちょうどいいね」
 数組の恋人たちがいるのを見て、ゼノが満足そうに頷いた。取り出したのはさっき完成したと見せてくれた金属製の小箱。……と。
「なにそれ」
「サイラスさん作、超音波発生装置」
「……なにそれ?」
「人に不快な超音波を発生して、人避けする機械だよ。女王候補たちの為に作るの、俺もほんの少し手伝ったら一つくれたんだ」
「へ、へぇ……」
 なんでそんなものが必要なんだろうと疑問が湧いたが、サイラスが関わっているなら訊かない方がいいような気がする。どうにも、サイラスは苦手だ。ここに来てあまり経たないうちに求めた説明の、怖い印象が先立ってしまうからだろう。たぶん。
 ゼノの手の中にある小箱と、銀色の鳥の顔に似た機械。それから、ゼノは耳栓を渡してくれた。すぐにつけるのかと思ったら、耐えられなくなったらつけてと説明される。
「まず、防音装置を起動……っと」
 説明を口にして、ゼノが小箱のスイッチを押した。小さな稼働音を立てた小箱から虹色の光が広がり、2人の周りを包み込んだ。小箱を中心に半球状に広がっている。ゼノの手の中にあるので、腰から下は光の外側だ。
 これなら部屋の中だけをカバーできるからだと追加で説明された。なるほど。おそらくこの虹色の半球内の音を、外に漏らさない仕組みなんだろう。球体状にすると階下の部屋も範囲に含まれてしまうからこの形か。
 ゼノが小箱を足元に置いた。虹色の光は立っているカナタの頭上を覆い、周囲はそれなりに広くカバーされているようだ。ゼノの説明によると、おおよそ半径2メートルほどらしい。モニターから自分たちまでを覆うのには充分すぎる広さだ。私室は割と広いから、部屋からはみ出てしまうこともないだろう。
 防音装置の前に、この光を出現させる仕組みがカナタにはわからない。それがこんな小箱に納まっている理由も。動力も一緒に入ってると考えると、更にわけがわからない。そのうち初歩の初歩から教えてもらいたいとは思うが、今は試運転に集中するべきだ。
「次に、こっちの装置を稼働させるよ。耐えられなかったら、耳栓つけてね」
「わかった」
「じゃあ、3、2、1、0」
 再度の提言に頷くと、ゼノがカウントダウンをしてから超音波発生装置を作動させた。途端耳が壊れるんじゃないかと思うほど高い音が鳴る。これを耐えられる人なんているんだろうかと、即座に耳栓を付けた。頭が痛い。
 耳栓の効果は凄まじく、けたたましい高音がぴたりとやんだ。止めたわけじゃないよなと片耳を緩めてみると、隙間から入り込んでくる音。慌てて塞ぐ。
 というか、ゼノは大丈夫なんだろうかと見ると、視線に気づいて自身の耳を指示してくる。カナタ同様耳栓がはまっていた。最初からつけていたということだろう。
「すっごい音でしょ」
「は? なんで声聞こえんの!?」
「あはは。これが発生させる音域だけを通さないように調整してるからだよ」
「な、なるほど……?」
 耳栓をしているのに、クリアに聞こえたゼノの声。驚くと、ゼノが笑いながら絡繰りを明かしてくれた。どうやらただの耳栓ではく、ゼノ作のハイパー耳栓だったらしい。ノイズキャンセリング機能の応用だろうと推測できたが、作れと言われたらカナタには無理だ。これでなんで「自分は何もできない」なんて思って、口にするんだろう。
 耳栓の効果に納得できたところで、改めて周囲を確認する。鳴り続ける超音波は先客たちに届いていないのだろう、先程までと変わった様子はない。虹色の光の外に出て耳栓を緩めてみたが、音は聞こえなかった。光の中に戻ると聞こえるので、改めて塞ぐ。
「すっげ……マジで全然聞こえない」
「でしょ? じゃあ、これを」
「あ」
 防音装置の効果を確かめて戻ったカナタが半ば呆然と告げると、ゼノが満足げに頷いた。それから、足元の小箱に手を伸ばして、ぽちっと。
 直後、静かな森の湖は阿鼻叫喚の地獄と化した。耳を塞いで我先にと出口へ駆けていく人々。茫然と見送っていると、間違えたと一言耳に届いた。
 顔を向けると、ゼノが苦笑しているのが見えた。耳栓をしていて自分には聞こえていないから、順番を間違えたんだろう。徐に手の中の超音波発生装置をオフにしていた。
「悪いことしちゃったな……。えっと、効果はこんな感じ」
「う、うん。すげーよくわかった」
 自分で試したこと以上に、今しがたの地獄絵図のような状況に強く、効果を実感した。あそこまで威力のある超音波を遮るなんてと。
 耳栓を外しながら頷く。この防音装置があれば、部屋の中で静かにしていなければと、四六時中気にする必要はなさそうだ。
 ゼノが手を差し出したので、耳栓をその手に載せる。この耳栓の威力もすごい。この間もらったワイヤレスイヤホンも高性能すぎてやばいと思ったが、匹敵するレベルだ。
「そうでもないと思うけど……いる?」
「欲しい」
「うん。じゃあ、明日遊びに行く時、これも調整して持っていくね」
「マジで! すげー嬉しい」
「大袈裟だなぁ。でも、喜んでもらえるなら、俺も嬉しいよ」
 返しながら耳栓も賞賛したら、照れくさそうに請け負ってくれた。カナタの所持品に、ゼノ作が増えていくのがなんだかおもしろい。さながら、主人公に協力してくれる発明家の博士みたいだな、なんて。
「じゃあ、これはカナタに預けておくね」
「え、いいの?」
「今日もするんでしょ? ゲーム」
「うん。助かる。ありがと」
「どういたしまして! ずっとつけてても次の土の曜日までは保つはずだから。改良品はちょっと待っててね」
 自分で思ったことに内心笑っていたら、ゼノが拾い上げた防音装置をそのまま手渡してくれる。ひとつしかないのにと反射的に尋ねてしまったが、先程考えたとおり、ゼノ一人でこれが必要なほど騒ぐことはないだろう。答えと合わせて納得できてしまったので、遠慮なく借りることにした。
 正直、カナタにはこれでも充分過ぎるのだが、ゼノなりのこだわりがあるんだろう。大人しく楽しみにしてると応じたら、任せてと嬉しそうに笑った。一体どんな改良品が出来てくるんだろう。
 カナタが思い描く以上のモノが出来上がってくるだろうから、考えるのはやめておいた。なにせ、カナタが今考えなければならないことは他にある。どうやってあのギミックを攻略すべきか、それが最重要だ。
 使った装置と耳栓を仕舞ったゼノが、くすりと笑うのがわかった。カナタが何を考えているのかわかったんだろう。
「やっぱり、泊まりに行こうかなぁ」
「朝まで耐久?」
「ちゃんと寝ましょう係で」
「必要かも。明日日の曜日じゃないし」
 完全に引っかかっているカナタが、ギミック解除を成し遂げる瞬間が見たくなったらしい。至極真面目な顔で言うから、笑いながら応じてしまった。大陸視察同行を求められる可能性は全員にあるので、どこかで切り上げてゼノの言うとおりちゃんと寝なければ。
「じゃあ、道具持って行くね」
「道具?」
「それの改良品作ろうかなって」
「え、なにそれ。そっちも気になるじゃん」
 並んで聖殿に向かって歩き出して、ゼノが告げる。目の前で作業が見れるとなれば、興味を惹かれるのは当然だろう。目を丸くして返したら、ゼノは声をあげて笑った。
「大丈夫、早くクリアしたら見れるよ」
「うわ、ゼノに煽られた」
「あはは」
 ものの見事に煽られて、カナタの闘志に火が付いた。絶対今夜中にクリアすると決めたのも、ごく自然流れだと思う。実際にできるかは別として、意気込みは大事だ。たぶん。
 ひとまずは、午後の執務を早く終わらせて、考えたり試したりする時間を作らなくては。

 そうして作られた防音装置が、その後2人にとって何より重宝することになることを、今はまだ誰も知らない。




+モドル+



こめんと。
18作目。
えー……最後の一文が一番書きたかったやつです。
タイトルもその部分を表してます。
実は最初っからこの設定がありました。
ただ、壁が薄い話のソースが本編で見つけられなくて。
まぁ今も見つかってないんですけど、書いちゃった!
いい加減ですんません。
ハイパー耳栓欲しいなぁ……。
(2021.8.27)