お知らせ。

 第4金曜日の夕刻、それはやってくる。

 今日の執務は全て終えたので、少し早めに執務室を出たカナタ。向かった先は一緒に夕飯を食べる約束をしている、ゼノの執務室だ。ゼノももうすぐ今日の分が終わるようで、座って待っているよう勧められた。
 もう少しカナタが守護聖の執務に慣れていたなら、手伝おうかと声をかけることもできたのだろうが、如何せんまだ自分の執務さえおぼつかない。女王試験中であることを考慮されているそうで、通常の初心者レベルよりも更にイージーモードな執務しかまだ回されていない上に、量も少なめなのだという。流石に他の守護聖の手伝いを申し出るには難アリだ。
 仕方なく勧められた椅子に掛けるも、執務中のゼノに話しかけるのも気が引け手持ちぶさたになってしまう。バースにいた頃ならスマホを弄って暇を潰すところだが、ここにはない。見慣れた鋼の執務室をゆっくりと眺めて見るが、真新しい発見は特になく、最終的に視線が落ち着いたのは、執務机に座るゼノだった。
 普段は作業途中でも一旦手を止めて対応してくれるので、執務中のゼノを見ることは珍しい。今は対応するよりも終わらせてしまった方が早いと思ったからこそ、中断しないんだろう。
 柔和な雰囲気が消え、真剣な眼差しをしている恋人を見るのも、たまにはいいかもなんて暢気な感想を抱いてしまった。
 と、そこに来訪者を告げる音がする。顔を上げたゼノに、代わりに応対する旨を伝えて立ち上がった。直接の手伝いは無理でも、応対くらいはできるだろうから。
 少し申し訳なさそうな顔をしつつもお願いしてもらえたのを嬉しく思いながら、入ってきた二コラに自分が用件を聞くことを伝える。多分いつものだろうなと思いながら。
 案の定、ニコラが持ってきたのは、明日の連絡事項だった。4週に一度のすでに恒例になったポットラックパーティを、明日も定期審査の後にやるというお知らせ。それから、明日のテーマを記した手紙。
 バース出身のカナタから見て、この飛空都市がハイテクなんだかアナログなんだかわからなくなる瞬間でもある。守護聖全員に支給されているタブレットに配信すればいいのに、何故わざわざ敢えて手紙でテーマが伝えられるのだろう。謎だ。サイラスの趣味とかなんだろうか。
 カナタの分とゼノの分、2通の手紙を渡したニコラは、まだ数名見つからない守護聖がいると嘆きながら退室していった。……一斉配信では何故駄目なんだろうか。
「お待たせ、カナタ。ニコラさんの対応してくれてありがとね」
「あ、お疲れ。どういたしましてって言いたいとこだけど、オレの分もあったし」
 思わず去っていった背中と手の中に託された手紙とを見比べてしまったところで、ゼノから声がかけられた。どうやら執務が片づいたらしい。苦笑混じりに伝えながら、執務机に向かう。
「明日もあるんだね、ポットラックパーティ」
「なんか恒例になってきてて、無くなったら逆に変な感じしそう」
「あはは。女王試験が終わったら定期審査もなくなるし、パーティもなくなるのかもしれないよ?」
「だよな」
 ゼノ宛の手紙を渡してから、自分宛の封筒を開封する。中に入っていたのは2枚のカード。1枚目は明日定期審査後にパーティを行う旨が書かれていて、2枚目にテーマが記されている。前回と同じだ。
「……今回も妙に凝った設定だな……」
「ちょっと絶妙に細かい部分があるよね」
 思わずため息混じりに零してしまうと、力無く笑ってゼノが同意してくれた。
 女王候補の2人の為にと、サイラスが主催するポットラックパーティ。毎回微妙な拘りを見せるテーマは、一体どうやって考えているのだろうか。
 と、いうか。
「こんだけ凝った設定なら、もうちょっと早めに教えて欲しいよな」
「う~ん、確かに。通販で買えるのはありがたいけど、テーマに合った物ってなると、難しいもんね」
「時間限られてるし、明日早いから早めに寝たいし、テーマはなんか複雑だし。結局いつもわけわかんなくなってこれでいいやって決めちゃうんだよな~」
「わかるわかる」
 思わず愚痴をこぼしてしまったが、どうやらゼノも似たような意見だったらしい。いやもしかしたら、面倒になって適当に決めてしまうカナタと違い、ゼノは最後まで真剣に考えているのかも。そして寝不足のまま定期審査を迎えることになっていたりして……。
「あ。ゼノが良かったらさ、一緒に考えない?」
「いいけど……それって、趣旨に外れないかな?」
「相談するなとは書いてないし、いいんじゃない?」
 一緒にいる時にテーマを受け取ることがなかったので思いつかなかったが、今日はこれから夕飯も一緒に食べるし、たまにはいいんじゃないだろうか。と思って誘ってみると、小首を傾げて確認してくる。こっちも疑問符で回答してしまうが、まぁ禁止されてないし、一緒に選びましたと申告しなければ問題ないのではないだろうか。
 むしろ、一緒に過ごすのに別々で考えろというのはちょっと無理があるような。
「確かに注意事項ってなかったもんね。うん、いいよ」
「やった」
 カナタの思惑が伝わったのか、すぐに了承してもらえた。これでぎりぎりまでゼノと一緒に過ごせると思うと嬉しくて、つい返す声が弾んでしまう。
 ゼノに笑われてしまったが、隠す必要もない事実なので問題はない。どころか積極的に伝える方がいい気がしたので、ゼノの私室に着いたらとりあえず喜びをキスって手段で伝えてみようと思う。





+モドル+



こめんと。
7作目。支部(pixiv)での公開ラスト作。
お引っ越しのお知らせだけって味気ないよな~。
と、1時間半くらいでネタ出しから執筆まで。
飛空都市つか聖地ってハイテクなの? アナログなの?
神鳥の聖地も馬で移動する人も居れば、
エアバイク自作して乗り回す子もいるし。
ハイテクなの? アナログなの?
マジ昔から謎。
(2021.7.3)