日の曜日の約束の

 現在、飛空都市では、令梟の宇宙存続を掛けた女王試験の真っ最中。何を置いても優先されるのは女王試験であり、女王候補たちの選択・行動が重要視されている。育成・妨害に関わらず、人となりを知る為の会話に青空面談、夜中の緊急要請から果てはデートまで。守護聖同士の関係性など二の次で、とにかく女王候補たちが最優先。
 当然、新米守護聖のカナタにもそれは適用される。例え土日の休みを秘密の恋人と過ごしたいと考えていても、日の曜日の約束をと求められてしまえば断る術がない。青い髪の女王候補に森の湖へと連れ出されると、恋人がいるのに何をしてるんだろうともちょっと思う。公言できない関係なので、従うしかないけれど。
 自分が応じるのも複雑だが、ゼノが連れ出されるのはそれ以上に複雑な想いになる。端的に言うと「オレのゼノなのに」だろうか。平日のデートや土の曜日の視察はまだ仕方ないと飲み込めるが、日の曜日の約束をしたと聞かされた時の悔しさはちょっといただけない。
 まだ学校生活の感覚が抜け切らないんだろう。土曜の夜ならどれだけ遅くまで起きていても、予定さえなければ翌日は昼まで寝ていても大丈夫だという解放感。ひっくり返して、日曜日以外に寝坊する・させるのは良くないことという感覚だ。
 つまり、日の曜日の約束があると、折角夜更かしできる日に恋人との時間を心行くまで楽しめないというところに、カナタは悔しさを覚えている。事情を知っているもう一人の女王候補は約束を避けてくれている為、確率的にとても低いからこそ、余計に悔しいのかもしれない。とりあえず、二週続けてという最悪の事態にならなくて良かったと言うべきだろうか。ただでさえ持て余し気味なのに。
「カナタ? どうかした?」
「二週間ぶりのゼノを堪能してる」
「あー……ごめんね。俺が約束しちゃったから」
「ゼノのせいじゃないじゃん。そうしなきゃいけないんだし」
 どちらも日の曜日の約束をしていない、土の曜日の夜。カナタの私室・ベッドの上で、諸々の準備万端なクセにただただゼノをぎゅっと抱きしめていたら、あやすように頭をぽんぽんと叩きながらゼノが気遣う言葉を口にする。気負わせたくなくてただ行為の意味だけを伝えたのに、ゼノには原因まで伝わってしまったらしい。背中に回されている片腕に少し力が籠って、先程ぽんぽんとしてくれた腕が頭も抱きしめてくれた。
 謝らせてしまったけど、反論どおりゼノのせいじゃない。決められた優先順位は理解している。でも、週に一回だけの機会なのにと思ってしまっただけだ。来週はもしかしたら自分が約束している可能性にも気付き、尚更ゼノ成分を補給しておきたくなったとも言える。
 ちょっとかっこ悪い気もして隠したくなったが、誤解を与えるよりはとそのまま伝えてみた。何故か頭を撫でられる。
「土の曜日だけじゃなくてもいいのに」
「や、その……止まんなくなりそうだから」
「少しくらい遅くなっても大丈夫だよ?」
「じゃなくて、その……毎日?」
 撫でる手と同じくらい優しい声が許可をくれるけど、甘えてしまうと自制が一切できなくなりそうで怖い。返答を誤解されたので、少し言い淀みながらもより正確なところを告げる。撫でる手が止まった。
 ゼノがくれた許可は、恐らく平日の夜に夜更かしすることだろう。物づくりをしていて徹夜することも間々あるから、大差ないと考えているのかもしれない。別の負担も加わるのにと心配になるが、ゼノ本人は気にしていなさそうだ。
 ただ、カナタが意図したのは土の曜日と同様に止まらないのではなくて、平日にも許されてしまえば毎日でも連れ込んだり押しかけたりしそうだなという頻度の方で。一晩で何回もではなく、一回でも毎晩を望んでしまうのを恐らく止められない。いつだってゼノに触れたいのだから。
 手が止まっても、ゼノは何も言わない。呆れられてるんだろうか。もう少し控えめに告げるべきだったかもしれない。旺盛すぎると引かれたら嫌だなと今更思う。
 毎日は言いすぎたと撤回すべく口を開いたら、こつんと頭に微かな衝撃を受けた。
「我慢しなくていいって言ってるのに。カナタは優しいね」
 続いて告げられたのは、呆れとは無縁の言葉。直前のこつんは、ゼノが頭を寄せた結果らしいとここで気付く。優しいはこの場合そぐわない気はするが、恐らくゼノの中では彼の負担を考えた結果として躊躇ってると映っているのだろう。それもなくはないが、どこまでも自堕落になりそうなのが怖いという方が割合として大きい気がする。
 抱えられていた頭が解放され、ゼノが少し身じろぎした。強く抱き着いていた腕から力を抜くと、ゼノが顔を正面にもってくる。赤い頬の優しい笑顔が近づいて、唇が重なった。拒む理由など一片もあるわけがなく、迎え入れる。
 ……そういえば諸々の準備万端だったんだっけ、と、キスの最中に思い出した。力は緩めても抱きしめたままだった右手で背中を撫でると、腕の中の体がぴくりと跳ねる。それでもキスは解かれなくて、愛しさが溢れてまた強く抱きしめたくなってしまう。
 とはいえ、愛しい恋人と素っ裸で抱き合ってるこの状況。別の欲求も強く覚えるわけで。
「ゼノ、このままオレの上のってくれる?」
 元々座った状態で抱き寄せていたので、ねだってみる。一瞬きょとんとした表情を覗かせたのを間近に見て、堪らず頬に唇を寄せてしまった。離れると、直前より頬の赤みが増したような。
 自分から受け入れて欲しいという欲求だと伝わったんだろう。いつもどおりゼノを押し倒してもいいのだけれど、まだ先程のゼノ補給も足りていないから、くっついたまま繋がりたくて。強要する気はなく、後で抱き上げるのでもいいんだけれど。
 吸い付かないように気を付けつつ首筋に口付けながら言い訳すると、ゼノが小さく笑った。
「ごめん。カナタが可愛くて、ちょっと見惚れちゃった」
「は? 何言ってんの?」
「もちろんいいよ。うまくできるかわからないから、支えててくれるよね?」
 顔をあげたカナタの額に口付けたゼノに抗議するも、スルーされてしまった。ゼノは時折カナタを可愛いと言うけれど、どう見たってゼノの方が可愛い。
 釈然としないけれどおねだりは了承してもらえたので、カナタもそれ以上の反論は飲み込んでおいた。今する話じゃない。どうせ決着のない議題だから、一度抗議しただけで終わらせておくべきだろう。
 ゼノの確認に頷いて、背中に回していた両手で腰を支える。言い出したのはカナタだが、どうすればゼノの負担を散らせるのか見当がつかない。これで大丈夫だろうか。何せ、このやり方は初めてなので。
 カナタの肩に片手を置いて膝立ちになったゼノも、少し不安そうな表情を覗かせている。どうしたら取り除けるだろうと考えていると、不意の刺激に思考が中断させられた。肩に置かれてない方の手がカナタの熱に触れたせいだと気付き、同時に不安を軽減する方法にも思い当たる。
 カナタから挿れる時と違いお互いに見えていない状況が不安なのだろう。なら、誘導できれば少しは。
 片手を腰から撫ぜる様に滑らせて、受け入れやすいように少し開いてあげる。気付いたゼノが微笑んで、ゆっくり腰を落としていくのを妨げないよう従って。
「……んっ」
 触れはしたものの、うまくいかずに滑ってしまう。至近距離で漏れた熱い吐息に、ちょっとぞくりとした。興奮はダイレクトに熱に伝わり、触れているゼノにもバレてしまう。
「……カナタ、ちょっと」
「ご、ごめん」
 少し膨張した熱を持て余すように軽く睨まれて、謝る以外の術がない。というか、眦を赤くして睨まれても怖くないし煽るだけなのでやめてもらいたいと思うのは、勝手すぎるだろうか。
「あのさ、両方……してもらえる?」
「え、でも……あ、うん。わかった」
 仕切り直すように一度深呼吸をしたゼノが、改めて腰を上げる。控えめな指示に、支えがなくなるのではないかと疑問が湧くが、必要なのは倒れない為の支えではないのだろうと思い直し頷く。
 従ったカナタの額に再度口付けてから、ゼノが少し息を吐いた。改めてゆっくりと腰を落とす様を見つめ、わかりやすくなるかもと思いついて指先を縁に這わせてみる。一瞬動きを止めたが、ゼノは何も言わなかった。
「……ッ、ん」
 目の前の顔が顰められた直後、熱の先がきつく締め付けられる。今度は上手くいったらしい。一度動きを止めたゼノが、照れくさそうに笑う。
「第一関門突破、かな」
「なんでそういう可愛いこと今言うの」
「え、言葉通りだと思うんだけど、可愛いって……?」
 強引に腰を引き寄せたくなる衝動を、役目の終わった両手で抱きしめて散らす。疑問を零す口にも噛みつくように食いついた。驚いた気配が伝わってくるも、拒む様子はないので遠慮せず。
 再びゆっくりと腰を下ろしていくゼノの邪魔をしないように、だけどキスは解かない。時折ぴくりと反応を返して留まる体に感じてんのかなと思うと、カナタの方が昂ぶってしまう。
 ほどなくして、腿に軽い衝撃が伝わってくる。気付いてキスを解くと、大きく息を吸い込んだゼノが笑った。
「できた、よ。全部……入った、ね」
 照れくさそうな声で告げられ、堪らずまた口付けてしまう。それも受け入れてくれるから、もうほんとにゼノって存在は危ない。
「なんでそんな可愛いことばっか言うの。あーもー、好き。ゼノすっげー好き」
「えぇ? 何がカナタの琴線に触れてるのかわかんないなぁ。俺もカナタのこと大好きだよ」
「あーもー!!」
 キスに満足してから、ぎゅうっと抱きしめてぼやく。困惑しながらも返してくれたゼノは、鼻先にちゅっと。
 激情のままに声を張り上げる。好きで好きで大好きで毎日ゼノのことばっかり考えているなんて、バースにいた頃の自分に言っても信じないだろう。恋愛なんて先の話で、自分にはまだかかわりのないことだと思っていたから。実際に大好きなゼノにキスして抱いてる今だって、ちょっと信じられないくらいなのに。
 抱きしめてなかったら、繋がっていなかったら、両手で髪を掻きむしってその辺を転がっていたかもしれない。実際にやる場面を想像するとないなと思うけど、それくらいの衝動が身の内に溢れている。
 恋愛ってすごいエネルギーだよななんて、全く場にそぐわないことを考えてしまったのは、ちょっとした逃避行動かもしれない。この激情をそのままゼノにぶつけてしまわない為の。
「カナタ、その……重くない?」
 深く繋がったまま抱きしめてキスをしていたら、ゼノが身じろぎした。苦しいのかとキスを解き腕の力を少し抜くと、視線を合わせて言いにくそうに尋ねてくる。
 何この生き物。なんでこんなに可愛いの?
 思わず真剣に胸の内で呟いてしまう。こういうのも色ボケって言うんだろうか。
「この重みがいいんじゃん。ゼノだって実感できる重さって感じで」
「そ、そういうもの、なんだ?」
「ん」
 頬を摺合せて答えると、くすぐったいのか小さく身を捩ったゼノ。そのまま頬に口付けて、背中に回していた両手を先程と同じように腰に向けて滑らせる。感じるのか、体がぴくりと跳ねた。
「ごめん、もう我慢できないかも。動かしていい?」
「うん、いいよ。……俺も、欲しい」
 許可を求めると、笑顔で頷いてくれるゼノ。続けられた言葉に、よく理性が飛ばなかったなと後で思った。
 先週はできなかったから、二週間ぶりの行為。加えて際限なく煽ってくれる可愛くて大好きな恋人ががんばってくれた結果、呆気なくも果ててしまった。ギリギリのところでゼノの熱にも触れて、一人で果てる失態だけは回避できたけれど。
 乱れた息が落ち着くだけの間があって、ゼノが小さく笑う声が聞こえてきた。というか伝わってきた。視線だけで問うと、口元にも笑みが湛えられている。
「ん、カナタだなぁ……って」
 意図的なのか無意識なのか、カナタには判別できなかった。でも、口にしながらそっと下腹に手を這わせるゼノは、凶悪だと思う。
「~~ッ、ごめん、ゼノッ!」
 ぷちんと音がする前に、辛うじて謝れた。でも、理性の切れた後は、ただただ嵐。繋がったままゼノを押し倒したことだけは、明確に覚えている。
 あと。
「いいよ、明日は何もないもんね」
 ゼノが耳元で囁いたのも、なんとなく。

 二週間ぶりに予定のない日の曜日。どれだけ寝坊をしたって、誰も文句なんか言わないでしょう?




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こめんと。
8作目。ここからサイト専用。
で! ぴんくいカナゼノを! 書きました!!!
あんまりえろいの得意じゃないので滅多に書かないけど、
書き始めてちょっと経つと書きたくなる。
R18の表記に期待した方はごめんなさい。
歴は長いけど、えろだけはどうにも上達せん。
萌えるえろってどう書くの?は生涯のテーマかも。
あと、ピンクの髪の女王候補は、
カナタの相談相手なので関係を知ってます。
詳細はそのうちに。
(2021.7.6)