※R18※ 今日のオーダー サンプル
週末恒例、土の曜日のお泊まり会の日。朝、ゼノから視察同行を頼まれたと連絡があったので、今日の集合場所は公園だった。カフェで昼ご飯を食べるためだったが、普段外で待ち合わせなどしないからデートみたいでちょっと楽しかった。一緒にいられる時間が少し減ってしまった分を補っても、お釣りがくると思えるほどには。
食後向かった森の湖では、ゼノの新作ガジェットの試運転をしてきた。小型軽量化を目指して小さく改良したエアボードは、バランスが取りにくい。二人してうまく乗りこなせなかったので「このまま安定感を出すには……」と、ゼノが考え込んでしまう場面もあった。
東の空が茜色に染まり始める頃まで遊んでから、改めて今日のお泊まり会会場であるゼノの私室に移動。昨夜から用意してくれていたという煮込み料理をメインにした夕食を、美味しいからとつい食べ過ぎて。バースから取り寄せてもらった体も動かせるリズムゲームを、腹ごなしという名目で遊んでから交代で風呂に入った。
ゼノが先に入ったので、カナタが出た時にはすでに髪は乾かし終えた後でちょっと残念に思いながら、次のゲームに着手。こちらもバースのレースゲームだ。単純なレースに留まらず様々な形態のミニゲームが収録されているので、気がついたら二時間が経過していた。
今日はこれで最後にしようと始めた、難度の高いテクニカルコース。最終ラップの終盤、不意にゼノがぽつりと呟いた。
「あ。座ってしたいな」
「え?」
少しでも気を抜けば容易くコースアウトしてしまう最大の難所を走り終えた直後のカナタは、その呟きの大半を聞き逃した。反射的に聞き返したが、まだ意識はレースに向いている。
カナタに続いてゼノの操るカートも難所を抜けた。次のヘアピンカーブを曲がれば、ゴールまでは一直線だ。僅差とは言えない距離が開いていて、カナタの勝利はほぼ確定している。勝敗に拘るではないけれど、気持ち的にも会話をする余裕があった。
「今日ね、座ってしたい」
「座って、って、今、座ってるけど」
「え? あはは、違うよ。えっちする時に」
「あぁ、えっち……、は!?」
ガコン、と残念な音がモニターから響いてきた。
「えっ? カナタ!?」
「あー……やっちゃった」
予想外の返答に操作ミスをした結果、カーブを曲がり損ねてクラッシュした。といっても、すぐにNPCが直してくれるのでレースに復帰できるのだが、タイムロスは大きい。直前の予想は覆り、ゼノの勝利こそが確定した。
が、ゼノは慌ててポーズ画面に切り替えてしまう。
「ご、ごめん! カナタがそんなに狼狽えるなんて思わなくて!」
「いや、大丈夫。ちょっと予想外で驚いただけだし」
「うぅ、ほんとごめん!」
タイミングが悪かったと、コントローラーを手放したゼノが何度も謝ってくれる。でも、ゼノに妨害する意図がなかったのはわかるから、謝る必要なんてない。勝敗で何かを賭けていたとかならまだしも、ただ楽しく遊んでいただけだから。
いつでもできるレースの勝敗よりも、呟きの真意の方が気になる。
「それより、座ってしたいって」
「あ、うん。あのね。座って、カナタと抱き合ってしたいなぁって、思って」
最後と決めていたし、二人共に続ける意志もない。なら片づけてしまおうと電源を落としながら尋ねると、気付いたゼノも手伝ってくれた。その口から零れるのは、熱を感じさせる声と言葉。
顔を見れば、ほんのり頬に朱が差している。
「ダメ? カナタはその気分じゃない?」
「まさか。もちろんいいよ。珍しくゼノが希望言ってくれて、嬉しい」
「え~? 俺の方が嬉しいよ?」
返答も忘れて見つめていたせいで、不安にさせたんだろう。ゼノは滅多に希望を言ってくれないから、珍しいと思う以上に嬉しい。問いかけを強く否定してから返答すると、ゼノも嬉しそうに笑ってくれた。
照れたように笑う様に見惚れるほど可愛いが、なにを切欠にそう思ったんだろう。呟きが零れた時、ゼノはちょうど難所を攻めているところだったと思うのだが……。
「すぐ準備してくるから、ベッドで待ってて」
「あ、うん」
ゲーム機の片づけを済ませて立ち上がったゼノは、熱を感じさせる声で言い残し部屋を出て行った。応じながらも考えてしまう。向かい合って座ったままするのも初めてじゃないから、以前した時のことでも思い出した……とかならありえるし、突然の呟きにも納得がいく。でも。
「あそこで思い出す余裕、よくあったな……?」
少しでも気を抜けばコースアウト必至の難所なのにと、カナタは首を捻ってしまう。少なくともカナタには無理だと断言できるくらいの離れ業だ。もし思い出してしまったらその瞬間集中が途切れるだろう。奈落に飲み込まれていくカートの映像が、容易く想像できる。
訊いたら教えてくれるかもしれないが、切欠なんてなんでもいいかと思い直した。大事なのはゼノが希望を言ってくれたことで、結論に至った過程じゃないから。
考えるのを切り上げ、ゼノの勧めに従い寝室に移動した。棚から潤滑剤と事後の始末に使う物を持ち出して、ベッドの端に置いてから自分も上がる。潤滑剤だけ手元に引き寄せ、手持ちぶさたに寝転んだ。
途端にゼノの匂いが鼻をくすぐって、熱が灯りそうになる。直前までゼノ本人と一緒にいても大丈夫だったのにと、思わず苦笑。場所のせいか、これからするからか。どちらもかもしれない。
さっきのようにする前からゼノが自らどうしたいかを言ってくれるのは、初めてだ。一度あるいは二度達した後に、次はこうしたいと言われたことはある。でも、その日最初にする時は、尋ねても「カナタはどうしたい?」か「カナタの好きなのでして欲しいな」とか返ってくるから。
ゼノに告白の返事をもらってから、もう三ヶ月。初めてじゃなくなったことも多いが、そうじゃないこともまだたくさんある。だって、ゼノと出会ってからまだ一年経っていない。もっとずっと長い時間を一緒に過ごしているように感じていても、実際の経験はほんのちょっとだ。
これから先にはもっとずっと、たくさん。ゼノと一緒に経験する初めてがあるんだと思うと、無性に嬉しくなってくる。
「何かいいことあった?」
「え? あ、おかえり、ゼノ」
「ただいま、カナタ。嬉しそうな顔してるよ?」
寝転がっていたのでカナタからは見えなかったが、戻ってきたゼノからは見えていたらしい。それも、表情までばっちりと。少し不思議そうに尋ねてくる、ゼノの方こそ嬉しそうだ。
「ゼノも嬉しそうだけど」
「俺は、カナタが嬉しそうだから」
「うわ出たゼノの殺し文句」
「あはは」
答える前に尋ね返すと、頷いてから教えてくれた。思わずぼやいてしまうくらい、ゼノはこういう発言をする。体を繋ぐ前後は遭遇確率が非常に高い。カナタだったら思いつかない、あるいは思いついても照れが勝って口にできないような言葉だって、ゼノにとっては照れる必要もないんだろう。
笑いながらベッドに上がったゼノは、寝転んだままのカナタに触れるだけのキスをした。風呂上がりから解いたままの後ろ髪が肩から零れて、剥き出しの首もとをくすぐっていく。
「それで、カナタは?」
「ん。ゼノが最初にこうしたいって言ってくれんの、初めてだなって」
「それが、嬉しい?」
「うん」
唇が離れると、次はゼノの手が頬に触れた。撫でるでもない手の心地よさを覚えながら応じると、そっかとゼノ。
この続きは本でお楽しみください!
こめんと。
年末にがーっと書いたがっつりえっちなカナゼノの本です。
サンプル全然えっちなとこに辿り着いていませんが(笑)、
BOOTHでのサンプルより長めにしています。
pictSPACE店舗
にて頒布受付中ですので、
オトナな皆様はどうぞよろしくお願いします~!!
当社比ですけどいちゃらぶえっちです。
(2022.2.1)