これはエゴなので
(『変わったおやつ』オマケ)
ゼノが用意してくれた「変わったおやつ」を粗方食べ終えた頃。そういえば昨日の今日でよくフォンデュに適した加熱台を入手できたなと思って、話を振ってみたら。
「あ、これね、作ってみたんだ」
「ごめん、もう一回」
「うん。これ、昨日の夜作ったんだよ」
「あぁうん、そっか、ゼノだもんね……」
ちょっと遠い目をする羽目になる話題だとは、思わなかった。通販で頼んだにしても早すぎると思ったが……、冷静に考えれば、至極ゼノらしい回答ではある。
ただ、昨日、候補との青空面談を終えたゼノが、カナタの私室を訪れていなければ、だ。
「ゼノ、昨日帰ったの結構遅い時間だったよね」
「うん、そうだ……った、っけ? あ、あはは……」
ジト目で確認すると、頷く途中で気付いたらしい。とってつけたような誤魔化しで、笑ってみせる。カナタからは溜息しか出ていかない。
カナタの誕生日に伝えた心配がようやくゼノに届くようになって以来、前よりずっと気を付けてくれているのは知っている。でも、突然降ってきた興味には抗いきれない――どころか、抗う意味さえ押し流されてしまうらしいことも、気付いている。
だから、カナタが出来るのは精々これ見よがしに溜息を吐くくらい。強要したいわけではないし、いくら親友兼恋人だとしても、そこまで干渉するべきではないだろう。ゼノが心配だから、一緒にいる時は流石に言うけれど。
「で、でも、ゼロから作ったんじゃないよ。前に似たようなのを作ったことがあって」
「少しは寝れた?」
「え? あ、う、うん。いつもよりちょっと遅かったくらい」
「そか。今日は早く寝てほしいけど」
「うん。努力する」
言い訳するゼノに、静かに尋ねる。予想外だったのか惑いながら答えるゼノにカナタの希望を伝えたら、強く頷いてくれた。カナタの心配をわかってくれているからこその慌てようが、少し嬉しいようなくすぐったさを感じさせる。
きっと、その努力は実らないだろうけど、姿勢が嬉しくて、愛おしい。
「あ、こーゆーのは? ゼノがオレの希望に従って早く寝てくれたら、オレもなんかゼノの希望叶えるって」
「嬉しいけど、カナタのは希望じゃなくて、心配だよ?」
「心配してるから、望んでるだけ。ゼノは? なんかない?」
ゼノだけに努力をしてもらうのは忍びなくて、思いつきを提案してみた。申し訳なさそうに首を傾げるゼノに、結局のところ自己満足というかエゴにまみれたものだろうと思いつつ、返す。
でも、ゼノはやっぱり眉尻を下げたまま。
「今は、特にないかなぁ……」
「じゃあ、思いついたら教えて」
「うん。でも、いいのかな」
「オレがそうしたいんだって」
申し訳なさそうに言うゼノに、切り替える言葉を返した。惑ったままのゼノに断言すると、ようやく「それなら」と頷いてくれる。どんな希望を言われるのか、ちょっと楽しみになってきた。
こめんと。
拍手お礼小話3本目。
随分新しいお礼投稿までに間が空いてしまいました。
『変わったおやつ』のオマケです。
カナタはよくゼノの寝不足を心配してますが、
ゼノはそれ以上にカナタが健やかでいるかを心配していました。
だから、ゼノからみたらどの辺がエゴなのかわからない。
みたいななんか欠片でも伝われば嬉しいです~。
(2022.3.13)