読書の記録(1998年 7月)

「地球どこでも不思議旅」 椎名 誠  1998.07.01 (1982.11.00 小学館)

☆☆

 ご存知椎名誠さんの旅行にまつわるエッセイです(それって紀行文て言うんじゃないの)。日本各地の祭を見て回ったり,讃岐うどんの話やプロレスの話し等盛りだくさんです。しかしいろんな所へ出掛ける人ですよねえ。まあ,我々サラリーマンとは違うんだから,日頃の行動が違うのは当たり前か。祭の話しは面白いですよ。祭と言うと,有名な物もあれば,そうでない祭も有る訳ですが,ここで出てくる祭は後者です。物凄いマイナーな祭を見つけてきて見に行く訳です。祭の参加者にその由来を聞いたって,誰も判らなかったりします。だけど,そんな中で思いがけない経験や,面白い発見があります。まあ,要は感受性の問題なんだなあと思います。

 

「蒼穹の昴」 浅田 次郎  1998.07.08 (1996.04.18 講談社) お勧め

☆☆☆☆☆

 清朝末期の中国。地方地主の次男(梁文秀)と同郷の貧乏人の息子(春児)の物語。二人はある予言者によって国の中枢に進む事を告げられている。文秀は最難関と言われる科挙の試験に合格し,そのお供で付いていった春児は宦官となる決心をする。政府の中で次第に頭角を現わしていく文秀と,西大后に気に入られ出世していく春児。時の中国は日本を始めとする列強各国からの干渉を受け,外向的にも内政的にも行き詰まった状況である。これを自らの宿命として何とか国を引っ張っていこうとする西大后と,その西大后を排し革命を起こそうとする文秀等のグループ。だが,多くの人物の思惑が複雑に交錯する中,文秀らの試みは失敗する。

 壮大なるスケールで展開する物語。西太后や李鴻章,伊藤博文と言った歴史上の人物の意外な描写の仕方。そして時にはベネチアの伝道師やアメリカのジャーナリストの目で語られる中国。一つ一つの話が全て有機的に結びつく構成力の確かさに感心してしまう。歴史の流れに翻弄される二人の主人公。自らの信じる道を突き進む文秀,自分が聞かされた予言は嘘だと判った上で,敢えて自らの運命を切り開いていった春児の生き方が感動的だ。祖国を追われ日本に向けて脱走する文秀と春児の妹,そしてその二人を見送っているであろう春児との別れのラストシーンは,悲劇的な結末ながら希望に満ちて素晴らしかった。とにかく最近読んだ本の中では群を抜いた一冊だった。

 

「アフリカの爆弾」 筒井 康隆  1998.07.14 (1971.12.30 角川書店)

☆☆☆☆

 「台所にいたスパイ」,「脱出」,「露出症文明」,「メンズ・マガジン一九七七」,「月へ飛ぶ思い」,「活性アポロイド」,「東京諜報地図」,「ヒストレスヴィラからの脱出」,「環状線」,「窓の外の戦争」,「寒い星から帰ってこないスパイ」,「アフリカの爆弾」

 表題作はずっと以前に,山上たつひこ氏の漫画で読んだのが面白かった記憶がある。アフリカのどこかの国の出来事。隣の部族が核爆弾を装備したから,こっちも負けずに核爆弾を買ってくる。だけど発射台なんぞと言う物は無い。その爆弾一発で地球が全滅するほどの爆弾だったからそんな物は必要無かった。だけど核爆弾の何たるかも判っていない彼らの事。とんでもない取扱い方をしてしまう。後は「ヒストレスヴィラからの脱出」が恐い。

 

「霊長類南へ」 筒井 康隆  1998.07.16 (1974.08.15 講談社)

☆☆☆

 それはほんの些細な出来事が発端だった。中国から発射された核ミサイルがアメリカを襲う。それをきっかけにして,世界中で核戦争が勃発してしまう。かくして人類は滅亡の道を歩まざるを得なくなる。世界中が放射能で汚染されていく中,生き残った人達は何とか自分だけは助かろうとするのだが。

 恐い話ですよねえ。前半部分のドタバタ劇は笑って読む余裕が有りましたが,中盤から後半にかけての逃走劇は暗い気持ちになります。究極の状況に陥った時の,人間のエゴ。助からないと判っていても,どうしようもないあがき。最後まで読むと,前半の核戦争に至るドタバタが,決して有り得ない事には思えなくなってしまいます。東西冷戦が終結して,以前ほど核戦争の脅威が囁かれる事が少なくなってきています。アメリカ,ソ連と言う二つの大国のパワーバランスに支えられていた時は,それなりに良かったのではないでしょうか。湾岸戦争の例を持ち出すまでも無く,戦争が無くなった訳ではありません。誰の意志とかに関係無く,突然に人類の歴史に幕が降ろされる事が無い訳では有りません。最後の場面では,「猿の惑星」のラストシーンを思い出しました。

 

「恋は底ぢから」 中島 らも  1998.07.19 (1987.12.01 集英社)

☆☆

(文庫本のカバーから)
 「恋は世界でいちばん美しい病気である。治療法はない」。女子高生が一番いやらしいと断言できる訳について。結婚について。ご老人のセックス。いやらしいパパになる条件。清潔と身だしなみについて。親の心について。などなど。恋愛の至高の一瞬を封印して退屈な日常を生きる「恋愛至上主義者」中島らもの怒涛のエッセイ集。

 

「東海道戦争」 筒井 康隆  1998.07.23 (1965.10 早川書房)

☆☆

 「東海道戦争」,「いじめないで」,「しゃっくり」,「群猫」,「チューリップ・チューリップ」,「うるさがた」,「お紺昇天」,「やぶれかぶれのオロ氏」,「堕地獄仏法」

 東京と大阪で戦争をするって言うのが奇抜な発想だと思うのは,我々が日本人だからか。世界的に見れば,国なんて概念は,どこかの権力者が勝手に線引きして決めたもの。だから利害が対立すれば内戦も当たり前。まあ,巨人−阪神戦で盛り上がっているのが,いいところか。

 

「にぎやかな未来」 筒井 康隆  1998.07.28 (1968.08 三一書房)

☆☆

 「超能力」,「帰郷」,「星は生きている」,「怪物たちの夜」,「逃げろ」,「事業」,「悪魔の契約」,「わかれ」,「最終兵器の漂流」,「腸はどこへ行った」,「亭主調理法」,「我輩の執念」,「幸福ですか?」,「人形のいる街」,「007入社す」,「踊る星」,「地下鉄の笑い」,「ながい話」,「スペードの女王」,「欲望」,「パチンコ必勝原理」,「マリコちゃん」,「ユリコちゃん」,「サチコちゃん」,「ユミコちゃん」,「きつね」,「たぬき」,「コドモのカミサマ」,「ウイスキーの神様」,「神様と仏さま」,「池猫」,「飛び猫」,「お助け」,「擬似人間(ロボットイド)」,「ベルト・ウェーの女」,「火星にきた男」,「差別」,「到着」,「遊民の街」,「無人警察」,「にぎやかな未来」

 ちょっとしたショートストーリーに作者の非凡さを実感できます。「悪魔の契約」や「最終兵器の漂流」が好み。