8月6日,群馬県水上町の湯桧曽川で鉄砲水が発生し,近くにハイキングに訪れていた大人と子供31人が巻き込まれ,一人の方が亡くなると言う事故が起こった。川での事故と言う事で,ちょうど1年前に起こった神奈川県の玄倉川での事故を思い出す方もいるだろう。川の中州にテントを張っていた18人が,度重なる警告を無視して,川に流され13名の方が亡くなった事故だ。山の中の川で起こった事故と言う共通点はあるだろうが,この二つの事故は全く性格が異なる。昨年の事故は,言っちゃあ悪いが全く同情の余地は無い,無謀な行為の果ての事故だ。しかし今回の事故は違う。
事故のあった土合と言うところは,「トンネルを抜けるとそこは雪国であった。」で有名な,清水トンネルの群馬側の入り口にあたる駅のある所だ。この土合を流れる湯桧曽川は最終的には利根川に流れ込む川だが,事故のあった土合あたりでは小さな川だ。おそらく水源まで10km程度しか無いだろう。しかしこの川を取り囲む山々は険しい。湯桧曽川の東側には,白ヶ門山,朝日岳,そして北側の清水峠を経て西側には谷川岳が聳える。ロッククライミングの名所で,遭難事故の多い一ノ倉沢,マチガ沢,幽の沢,芝倉沢などが,この湯桧曽川に流れ込んでいる。上流にダムがある訳では無い。事故現場で大雨が降った訳でも無い。おそらくこの近くの山で瞬間的に大雨が降り,何等かの悪条件が重なり鉄砲水が発生したのだろう。誠にお気の毒と言わざるを得ない。
最近はアウトドアブームだそうだ。私も良く行くビクトリアとかアルペンと言ったスポーツ用品店では,色鮮やかなテントやタープをはじめとするアウトドア用品がかなり広い売場を占めている。車だって売れているのはワゴン車などのRV車がほとんどだそうだ。今は特に夏休みの時期だから,ちょっと有名なオートキャンプ場など,なかなか予約が取れなかったり,河原でバーベキューを楽しむ人達を見る事も多い。別に私はここで自然の恐さを殊更声を大にして叫ぶつもりも無いし,ブームに乗っかって安易にアウトドアを楽しむ人達を非難する気も無い。と言うより逆だ。この様な事故が起こると,せっかくのアウトドアブームに水をさすのではないかと心配している。
私達の住んでいるまわりでは,どんどん自然が無くなって行く。子供の頃は原っぱだった土地には家が建てられ,虫取りをした森は姿を消した。部屋の中でゲームばかりしている子供を責める事はできない。だって外には遊び場なんて無くなっているんだもの。だからこそ自然と触れ合えるアウトドア生活は貴重なものだと思っている。自然は私達に多くのものを与えてくれる。子供にとってそれは貴重な体験として,人格形成に多いに役立つものだと信じている。だからこそ私は子供をなるべく自然に触れさせる様にしている。そしてそれは子供だけではなく,大人にとっても貴重なものだし,多くの人達に自然に親しんでもらいたいと思っている。
だから「自然は恐い。」と言って,自然の中に出て行くのを嫌がる様な事はして欲しくは無い。確かに自然は危険な一面も持っている。私の知り合いには海で溺れ死んだ者もいるし,山で転落して死んだ者もいる。そこまでいかなくても,怪我をしたり,虫に刺されて腫れたりする事もあるだろう。またヘビに噛まれたり,植物にかぶれたりする事もあるだろう。私だって自然の中で恐い思いをした経験は何度もある。だけど恐い思いは自然の中だけで起こる事では無い。車の運転中だって,道を歩いている時だって,電車の中だって危険な事は起こり得る。その様な危険に比べれば,自然の中で起こる危険の方が,自ら回避できる可能性が高い様にも思える。
どんなに気を付けて車を運転していたって,居眠り運転の車に突っ込まれてはどうしようもない。だけど自然の中では,ルールを守ったり,経験者のアドバイスに耳を傾けたり,無理な計画を立てない様にしたり,事前の準備をしっかりしたりする事で危険を減らす工夫はできる。ようは自然の中での危険とはどの様な物なのかを知り,それを回避する為にはどうしたらいいのかを考えて実行する事が大切だ。どうか皆さん,「自然は恐い。」などと尻込みせず,大いに自然を楽しんで下さい。だけど,マナーだけは守りましょうね。