1997.08 高妻山

1997.08.23(土) 晴れ  戸隠キャンプ場(06:10〜08:00)一不動(08:00〜09:00)五地蔵(09:00〜11:00)高妻山(11:30〜13:35)一不動(13:35〜15:00)戸隠キャンプ場

 この高妻山を初め妙高,火打,雨飾と4つの日本百名山を数える北信の山に登るのは初めての事である。好き嫌いが激しいとかそうではないとかいった事では無いのだが,どちらかと言うと同じ山域に何度も行く傾向があるのは性格的なものであろうか。事実谷川岳をはじめとする上越国境の山々には何度も行っているのだが,それ程距離的に変わらないこの地域には今まで行こうとすら思った記憶が無い位である。

 さて昨日よりここ戸隠キャンプ場で家族揃ってキャンプを楽しんでいるのだが,今日は長男Tと二人で山登り,妻Mと長女Mは付近の散策と観光である。朝雲っていた空も日の出とともに晴れてきて,二人の見送りを受けて朝の牧場の中を歩きはじめる。すぐ目の前に戸隠連峰が望まれ,一不動の鞍部などすぐにでも着きそうなところに見えるのだが,そんなに甘いものでは無いだろう。

 沢状の道は徐々に急な登りになっていき,程なく水場に到着する。そこからは鎖場が続く。まずナメ滝を直上し,不動の滝を左側から巻く様に登っていき,帯岩と呼ばれる一枚岩を左から右へトラバ−スしていく。ちょっと緊張するところである。そこから一登りで一不動に到着。下から見た感じでは1時間もあれば登れそうに見えたが,やっぱりコ−スタイム通り2時間かかっている。甘くないよね。

 この高妻山は父が日本百名山登山を達成した際,100山目となった記念すべき山である。その時はこの一不動の小屋に泊まり乙妻山まで往復したと聞いていたが,戸隠から高妻へと続く狭い尾根上に作られたかなり小さな避難小屋であった。先月登った白馬岳を始めとする北アルプスの眺めを期待していたのであるが,稜線上は高い木々にさえぎられあまり眺望は良くない。

 この一不動から高妻山頂上の十阿弥陀まで,一つ一つのピ−クに仏様の名前がつけられているそうであるが,それらを忠実に辿るのはなかなか骨が折れる。稜線上を進むとしばらくして回りの景色が望まれてくる。すぐ間近に高妻山がスクッと頭をもたげている独特の姿をあらわし,後立山連峰も意外と近くに望まれる。白馬から五竜までの稜線,白馬大雪渓,そして双眼鏡を覗くと我々が泊まった白馬山頂宿舎さえも確認できた。これで目標の一つは達成。妻M達がいる長野側は雲海の下になっている。

 小さなピ−クをいくつも超えて行く。それぞれのピ−クに奉られているはずの石仏もあったり無かったりであり,信仰の山と言ってもやはり中心は戸隠山の方なのであろうか。五地蔵山を超えたあたりからササと灌木の道となり,高妻山はますます近く高くそびえて見える。八丁ダルミと言う場所は気がつかずに通り過ぎてしまったが,最後の登りを前に急な登山道を眺め二人で覚悟を決める。

 それでも最初はそれ程急な登りでもなかったが,徐々に急になっていき,そこら中のササや木々を引っ張りながらの登りとなる。もしこれらの木や草に神経があったらさぞかし毎日痛い思いをしている事であろう。高妻山の頂上付近に生まれてしまった事を恨んでくれ。やはり最後の急登に苦労した空木岳や皇海山が思い出される。もう少しで頂上に着きそうでなかなか着かない。いい加減にしてくれと言いたい気分になった頃,細長い頂上の端っこに不意に飛び出す。


高妻山を望む

 三角点は一番北側の岩場にあり,そのさらに先には写真で見覚えのある乙妻山がひっそりと佇んでいる。長野側からガスが上がってきておりまわりの山々はほとんど見えなくなっていた。苦労して登ってきた分,憎たらしいやらいとおしいやらの頂上である。昨日の夜行できた単独行のオバサン,水戸から愛犬と登ってきたオジサンを始め何人かの登山者は長男Tに声を掛ける。子供が登る事が意外に思える様である。白馬の時もそうであったが,確かに長男Tは良く登ったものだ。我が息子ながら感心する。

 こうして見ていると最近の登山者は年配者が多い。やはり夫婦で来ていた年配の女性から「ちょっと若い様で申し訳ないのですが。」と渡された紙は中高年登山者に対するアンケ−ト用紙。日頃の運動の事や登山に対する考え等を答えるものあったが,快く引き受ける。これで晴れて私も中高年登山者の仲間入り。


高妻山頂から見た乙妻山

 乙妻山まで足を伸ばそうなどという気のきいた考えはさらさらなく,今きた道を戻る。歩いてきたばかりの道だから,その長さが充分過ぎる程判るのが辛い。急な下りに足がガクガクになり,ネマガリダケの枝に足を滑らせ,登りかえしの道にハアハアいいながら下る。実際こんな道を良く登って来たもんだとつくづく思う。あたりはすっかりガスにつつまれ,時折戸隠へと続くゴツゴツした稜線が望まれる。

 途中で一緒になった登山者から,昨年この山で3組の登山者が行方不明になり,その内二人は親子だと聞かされる。確かにちょっと間違えば下の沢まで一気に滑落しそうな場所が何カ所もあった。それでもなんとか一不動まで戻ってきてホッとする。登りの時はそれ程感じなかったが,下の水場で飲んだ水の冷たい事といったら無かった。途中帯岩のトラバ−スで,ちょっと気をゆるしてしまい危うく落ちそうになったが,事なきを得た。後から考えると少々やばかった様な気がする。登り初めて9時間後,やっと戸隠キャンプ場に下りてきた。やっぱり日帰りの登山は苦しいものだ。