「コンサート・レポート」TOPへ戻る)

及川 浩治 vs 近藤 嘉宏
ソロ&デュオ
ピアノリサイタル

(04.8.19 アクロス福岡シンフォニーホールにて)
主催/オフィス・ムジカ 後援/福岡市、福岡市教育委員会、(財)福岡市文化芸術振興財団

Program
 ≪2台ピアノ≫
 チャイコフスキー/花のワルツ
 ラフマニノフ/組曲 第1番「幻想的絵画」 第1楽章 舟歌
 ラフマニノフ/組曲 第2番 第3楽章ロマンス 第4楽章タランテラ

 ≪及川浩治ソロ≫
 スクリャービン/エチュード op8-12
 リスト/コンソレーション 第3番
 リスト/愛の夢 第3番
 リスト/メフィスト・ワルツ 第1番「村の居酒屋での踊り」

 ≪近藤嘉宏ソロ≫
 ショパン/エチュード「別れの曲」
 ショパン/エチュード「革命」
 ラフマニノフ/ヴォカリーズ
 リスト/ハンガリー狂詩曲 第6番

 ≪2台ピアノ≫
 ラヴェル/「ダフニスとクロエ」 第2組曲

 ≪アンコール≫〜ネタばれになるので見たい方は白黒反転で〜
 ラヴェル/マ・メールロワより
 
シューベルト/軍隊行進曲
<夢のようなコンサート企画>
 HPを開設した頃設置した「おすすめ音楽アンケート」に「及川浩治さん」の名前を見たのが、初めての出会い(!)だった。教えてくださった方は絶賛していて、私も聴いてみたいと思っていたのだが、なかなか機会がなく、そのままになっていた。
 一方、近藤嘉宏さんも、ネットで知り合った音楽関係の方からお名前を聞いていて気にはなっていたものの、同じく機会に恵まれずにいた。
 ところが、今年の5月にクラシックおたくの夫にCDのお使いをたのまれ、CDショップの普段あまり足を踏み入れないクラシックコーナーに久々に行ってみると、なんと2人の名前が並んだコンサートのポスターがあるでは!!夏休みということもあり、娘を預けやすいので行きたい・・・と思いは募ったものの、やっぱりコンサートに行くなんて(散々CHEMISTRYやミュージカルにお金を注ぎ込んでいたので)贅沢かなあと思い、我慢することにした。
 だが、図書館で近藤嘉宏さんのCD『英雄ポロネーズ〜ピアノ名曲集』を借りて、そのクールでガラスのように繊細なピアノタッチに心を奪われ、夫にコンサートの話をすると「誕生日と母の日のプレゼント代わりにあげよう」とチケットをとってくれることに!!こうして私の数年越しの夢がかなったのだ♪

 なにせ、こんなに贅沢な機会はない!!2人の演奏が一緒に聞けるのだ。しかも、ソロあり、2台での演奏ありなのだ!プロのピアニストの2台での演奏なんて、あまり聴く機会はないと思う。コンサートの日までとにかく楽しみで、近藤さんの王子様チックな顔にも少し惹かれたりして、ワクワクドキドキしていた。
 
<圧巻といわずして何といおう>
 お2人は私と同世代。今までクラシックコンサートといえば、自分達より年輩者がするものと思っていたから、今回は親しみやすい感じがしていたが、お二人のなごやかな登場にさらに親近感を覚えた(^o^)。

 まずは、チャイコフスキーの「花のワルツ」。昔、私がヤマハのジュニア科にいたころ、年に1度の発表会(アンサンブル)でピアノパートを友達との連弾で担当した思い出の曲だ。それが、すごい!すごいのだ。ピアノだけでどうしてあんなに幅のある音楽が奏でられるのか。持参していたオペラグラスで二人の手を眺めると、まるで風にたなびく羽衣(!)のようにヒラヒラさらさら交互に動いている。しばらくみとれてしまった。あまりの気持ちよさにしょっぱなから目も耳も釘づけだ!

 そして、演奏が終わると及川さんがマイクを近藤さんに渡して、なんとトークが始まった!でも、真面目な曲の紹介のみで、ちょっと残念^^; また、近藤さんの今までイメージしていた王子様像と生のお姿とのギャップにかなりウケてしまった!(スミマセン)。なんだか、声も高くてとても女性的というか、中性的な感じの方で、びっくりしてしまった。及川さんと近藤さんの雰囲気の違い(?)にも、かなり心を奪われてしまった(^^)。

 続いて、ラフマニノフの「組曲」第1番「幻想的絵画」第1楽章 舟歌が。なんと綺麗な音色なんだろう。目の前に水面がキラキラと輝いている情景が広がって、自分がまるで舟にのって漂っているような気分になった。やわらかくキラキラした音。あの心地よさが忘れられない。

 そして、ラフマニノフの「組曲」第2番 第3楽章ロマンス、第4楽章タランテラが流れた。「ロマンス」は甘ったるい感じの曲調で、ラフマニノフらしい音楽だった。一方「タランテラ」はとにかくダイナミックだった。2台ならではの音の迫力が充分楽しめた曲だった。それにしても、どうしてあんなに指が動くのかというくらい2人ともすさまじい動きだった。及川さんの情熱的な弾き方とは対照的に、近藤さんは涼しげな感じですごい指さばきだ。その2人の違いも面白かった。

 ここで一旦2人での演奏は終わり、及川さんのソロとなる。近藤さんが曲の紹介をするのだが、ほんとに、私がこの数ヶ月間作り上げていた王子様像とは違っていたので、びっくりしつつも楽しかった。なんだか面白い方(^^) 真面目な曲紹介ではなく、もっと個人的な話を聞きたかったな(爆)。

 まずはスクリャービンの「エチュード」op8-12。及川さんの弾く姿を見ていると、音とともに吸い込まれそうになる。スクリャービンって図書館で借りたCDにもあったけど、私はあまり聴いたことがなかったので新鮮な曲調に思えた。

 そして、リストの「コンソレーション」第3番。及川さんの弾く姿に完全に目を奪われていたので曲自体はよく覚えていないのだが、私もあんなに弾けたらなあ・・・としみじみ思った。。。気持ちよさそうだなぁ。

 続いて、リストの「愛の夢」第3番。有名な曲なのであまり好きではなかったのだが、さっきまでの迫力とはまた違った甘い感じの弾き方で、心地良かった。自分に囁かれている気分になった(^o^)←妄想癖か。

 そして及川さんソロ、ラストの曲。リストの「メフィスト・ワルツ」第1番「村の居酒屋での踊り」。かなりの大曲だった。居酒屋で踊りながら誘惑する話だと近藤さんが紹介していたが、本当に物語のような曲になっていた。それにしても、ほんとに迫力たっぷりで、時々響く、舞台の床を踏みしめる靴の音が、またたまらなかった(笑)。ダイナミックかつ情熱的という言葉がぴったりの演奏だった。曲が終わったあとの拍手も、しばらく鳴り止まなかった。ピアノという楽器でこんな情景を醸し出せるとは・・・。初めての体験だった。


 ここで休憩。小走りでロビーにCDを買いに行った(笑)。実は、入場した際「CDをお買い求めになられた方には、サイン会があります」との案内を聞き、何を買おうか、またどちらのCDを買おうか迷っていたのだ。前半が終わって、及川さんのも欲しいが今回は近藤さんのショパンが入っているCDにしようと、「Piano Best Collection」を購入。ところが、及川さんの演奏を聴いてしまうと及川さんのサインももらっておきたくなり、家で落ち着いてじっくりCDも聴いてみたいものだと、結局両方買った♪(及川さんのは「及川浩治 ショパンの旅」) サイン会の場所と、2人ともホントにサインしてくれるのか、ちゃ〜んと確認して客席へ戻った。こういうことは私の世代になると、抜け目ないのだ。

 いよいよ、待ちに待った近藤嘉宏さんのソロ。及川さんの曲の紹介のあと、私の大好きな曲ショパンのエチュード「別れの曲」が始まった。しかし・・・指さばきのすごさにはびっくりしたものの、さっきの情熱的な弾き方をしていた及川さんに比べて、どうしても弾いている姿がクールな近藤さん。物足りなく感じてしまうのは私だけだろうか。。。「別れの曲」は私の好きな曲なのだが、個人的にはちょっとねちっとした未練ったらしい「別れの曲」が好きだったので、近藤さんのわりとあっさりした、いかにもエチュード風な弾き方を聴いて(CDでも聴いていたはずなのだが^_^;)、こんな演奏もあるんだなあと思った。

 次に、ショパンのエチュード「革命」。これもまた有名だが、私は昔挫折した曲なので指の動きに注目していた。近藤さんは、何の苦もなく(当たり前なのかもしれないが)まるで鍵盤の上を指がなでていったかのように動いていく。それに、近藤さん、手が大きい!指も長い!サイン会で握手してもらえるのかなあ、頼んだりしたらダメかしら、とそんなことを考えながらサラサラ流れていく手を見つめていた(~_~;)。

 そして、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」。実は、私はこの曲のもったり感があまり好きではなく、ラフマニノフのCDでもとばして聴いていたくらいだった。ところが、なんと、近藤さん、この曲すごく良かった!(笑) 私の中では「近藤さん=ショパン=細かな音の速弾き」というイメージがあったのだが、意外とこのような切ない曲ぴったりだった。弾いている姿にぴったりといった方が正しいかもしれない。自分の情熱を体全体で表現するタイプの方ではなさそうなので、このような切なく、押し殺したような曲調が実は得意なのかもと思ったくらいだ。予想以上に近藤さんの「ヴォカリーズ」は好きだった。もう一度聴きたい。。。

 そして、近藤さんソロ最後の曲、リストの「ハンガリー狂詩曲」第6番。ハンガリーは、昔新婚旅行で行った国なので馴染み深い(たった1週間の滞在だったのに(^_^;))この曲は聴いたことがなかったが、ハンガリー風の旋律が流れてきて、懐かしさを感じた。そして、この曲で私の好きな近藤さんのキラキラした音が充分楽しめたのだ。冷たく、かたい、ピアノならではの音。そして、情熱的に弾く近藤さんも初めて見ることができ、ちょっと満足だった♪


 あっという間に時間が過ぎて(近藤さんも言っていましたが)、とうとうラストの曲、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」第2組曲になった。ピアノ2台で締めくくりなのだが、曲名は聞いたことがあってもメロディーは知らないので、楽しみだった。そして、私は完全にノックアウト状態になった・・・・・。
 なんと、素晴らしい演奏なんだろう。どうしてあんなに迫力が出るんだろう。あんなにめまぐるしい指の動き、それでいて息がぴったりで、見ていて聴いていて本当に心地よかった。言葉で言い表せない感動がたっぷりあった。

 スタンディングで拍手したい気分だった。日本のクラシックコンサートではあまりできないもんな。立ち上がりたい気持ちをこらえて、とにかく拍手をおくった。
 そして、アンコール。(以下は、まだ終わっていない地域もあるので白黒反転にてお楽しみ下さい。)
 1曲目はラヴェルの「マ・メールロワ」より。曲の紹介はなかったので何の曲かなと思っていたら、隣にいたクラシックおたくの夫が「ラヴェルかな」と。恐るべし夫よ・・・。ラストの「ダフニスとクロエ」があまりに激しく迫力満点の曲だったため、この「マ・メールロワ」は甘い優しい感じでコンサートの終わりの余韻に浸れた。
 そして、再度の拍手に2曲目、シューベルト「軍隊行進曲」を。近藤さんが及川さんの隣に座り、なんと1台のピアノを2人で連弾!!!なんともかわいらしい図だった(^O^) そして、この曲、子どもの発表会で弾くくらいメジャーな曲だが(確かうちの弟も弾いた)、それをとっても小粋に、おしゃれに弾いてくれた。あんな「軍隊行進曲」は初めてだ。楽しかった〜。
 
<お楽しみサイン会。そして・・・>
 
アンコールも終わり、二人が舞台から去って拍手が沈静化したのを見計らい、すぐさまロビーへと急いだ。もちろん、サイン会のためだ。同じような早歩きの女性がぞろぞろ扉から出てきた。確認しておいたサイン会の場所には、見る間に列ができ、サインをしてもらいたい箇所を用意して待機。まもなく2人が登場したようで、拍手が沸きあがった(角を曲がったところにいたので見えなかった)。2人にしてもらえるのか不安だったが、並んで座っているのがわかり、ドキドキしつつも何か言おうと台詞を必死で考えた。

 そして、まずは及川さんの前だ!にこやかな笑顔で迎えてくださった及川さん。サインしてもらう部分を渡しながら準備しておいた言葉を伝えると、笑顔できちんとこちらを向いて話してくださった及川さん。そして、なんとサインが終わったあと、自ら握手をして下さった!!!きゃ〜〜〜っ(*^^*) とっても人がよさそうな及川さんの柔らかい手の感触にひたりつつも、次はいよいよ王子様ヨッシー♪(近藤さん:我が家での愛称)。ちょっとイメージと違って驚いた部分もあったが、やはりあのピアノタッチは好きだ。底までうちつける硬く冷たい音色が本当に好きなのだ。なもんで、迫りくる順番にまた、頭の中で必死に台詞の準備。

 そして、いよいよヨッシーの前だ〜!解説を渡しながら言葉を伝えようとすると、ヨッシーが何か言っている。「ここ見えなくなっちゃうけどいいかな?」。私の開いた部分が曲名のところだったのだ。でも、そこしか背景の白いところがないので、「あ、いいです。」といいながら、今度こそはと伝えたら、聞いてくれたのかくれてないのか、爽やかな笑顔で「ありがとう」と(笑)。ヨッシーは自ら握手というのはなかったので、「お願いします!」と、まるでねるとん(パーティー)みたいに手を差し出すと、「あっ」と言いつつも爽やかに握手してくれた。ヨッシー、近くで見ると、本当に綺麗なお顔だった〜〜〜。やっぱり顔は王子様だ(*^O^*)

 こんなわけで、無事2人のサイン&握手&会話をGETできた!!しっかしヨッシーの手は熱かったなあ。予想通り大きかったし(^^) やはり、演奏前に塗りたくっていたリップクリームが熱をこもらせているのか(笑)。
<コンサートが終わって・・・>
 とてもとても贅沢で優雅なひとときだった。こんな企画、2度とないだろうな。。。またあったら絶対行くのにな(涙)。

 何より、ピアノという楽器の奥深さを改めて知り、またピアノを弾きたくなった。2人がとても気持ちよさそうに連弾しているのを見て、舞台の上で弾きたいなあと思った。気の合った仲間と連弾したらどんなに幸せだろう。

 2人の弾き方は本当に対照的だった。及川さんは情熱を外に出すタイプのように見えて、大きく体を動かしながらピアノを弾いていた。一方近藤さんは、情熱を内に秘めながら演奏するタイプのような気がする。体はどちらかというとあまり動かないのだが、思いがふつふつとピアノの音色に移っていき、あたりへ流れ出していくような感じがした。
 及川さんの勢いと深みのあるピアノの音色と、近藤さんの細かくクールで、鋭さのある音色がうまい具合に重なったり分担しあったりしていて、2人ならではの演奏が楽しめたと思う。

 中学の頃コーラス部の顧問の先生が、よく、「音楽は『ため』が大事なのよ」と言っていた。「ため」とは「ためる」こと。フレーズの終わりなどで、音を、息を、思いをためるのだ。その「ため」がそれまでのフレーズを生かし、次のフレーズを美しくする、といったようなことを言われた覚えがある。今日は、まさにそのことを実感した。2人のピアノの何が美しい、って「ため」が素敵なのだ。テンポが遅いメロディになればなるほど、その「ため」が生きてきて、心を震わせるような気がする。

 そして、徐々に音を強くしていくところなど、2台のピアノでの演奏となると頃合いが難しそうだが、微妙な強弱までとても丁寧に表現されていて、それがあの幅のある音色を生み出していたのかなあと感じた。

 途中で何度も、「今、どちらがメロディー弾いているんだろう?」とオペラグラスで手を見ても、わからないことがあった。音の羅列の間にメロディーが隠れているのだが、どうしてもそのメロディーの音だけ別に聞こえてきて、テクニックの素晴らしさに改めて感嘆した。

 今回のコンサートをきっかけに、忘れかけていたピアノへの思いが蘇ってきた。特に、リストの「メフィスト・ワルツ」は印象的で、リストがあのような曲を書いていたとは知らなかったので、あらためてリストの楽譜をひっぱりだし、CDを借りてきてはにらめっこしている。いつか、弾けるようになれたら・・・・・。無理かな(^_^メ)

 本当に楽しいコンサートだった〜!!近藤さんの、演奏前に手にリップクリーム塗り塗りも面白かったが、及川さんが演奏前にどうも鼻をかんでいるように見えて、気取らない2人だなあと、これからも応援していきたい気分になった。是非、また福岡にきてほしい!!必ず、行きます(^O^)

「コンサート・レポート」TOPへ戻る)