航空写真と私


昭和24年生まれの私がはじめてカメラを手にしたのは小学校の4年生の頃だろうか、「フジペット」というカメラを買ってもらった時でした。ブローニー版のフィルムを使うごく単純なカメラでしたがいろいろなものを写して遊んでいました。中学生になった頃から写真にはそれほど興味はなくなりましたが、その間にカメラは35mmフィルム、そしてカラーが主流となりました。そして私も正確にはいつか覚えていませんが、普通の35mmのコンパクトカメラを手に入れました。大学を卒業するまで写真を撮ることは好きでしたが当時の1眼レフは学生には高嶺の花で手に入れることは出来ず、35mmコンパクトカメラでSNAPを撮影していました。

一方飛行機は子供の頃から大好きででした、プラモデルを作ったり、航空関係の雑誌をよく読んでいました。そして父親が海軍航空隊のパイロットだったこともあり、自分も将来はパイロットになろうと決めていました。宮崎の航空大学は短大卒か大学2年終了でないと受験できないため、取り敢えず普通の大学に進みましたが大学入学後運転免許を取った時に視力検査で自分が近眼であることを知り大きなショックを受けました。今は矯正視力でも大丈夫なようですが、当事は裸眼視力1.2以上は絶対的な条件で、泣く泣くパイロットは諦めました。その後就職するときも真剣に航空会社に入ろうか迷いました。機械系の学部にいましたので、技術的な仕事はいくらでも可能性がありましたが、航空会社へ入った後、身近にキャップテンと接した時に羨望というか複雑な気持ちになると思い航空会社への就職もやめました。(これは今でも後悔しています)今はマイクロソフトのフライトシミュレーターで果たせなかった夢の真似事をしております。

飛行機とは縁のない会社へ入り、念願の1眼レフを購入することが出来ました。当時はキャノンも人気がありましたが、昔から「1眼レフはニコン」と決めていたので迷わずNikon F2フォトミックを手に入れました。そして1眼レフ=望遠レンズが使える=飛行機の写真が取れるという図式から、Nikonの200mmの望遠レンズとケンコーの2倍のテレコンバーターを手に入れて、羽田に何度か撮影に行きました。当時は羽田にもまだ国際線が発着しており、世界のエアラインの機体を見ることが出来ました。

又、その頃はモノクロは自分で現像、プリントもこなしていました。そして航空写真を撮り始めてまもなく、当時愛読していた「航空ジャーナル」誌でキャノンと共催でAJ/Canon Photo Contest '77の作品が募集されていました。そのコンテストに京浜島から撮影したDC-8の写真で応募したところなんと1200点の中から佳作に選ばれました!残念ながら今はそのプリントもネガも残っていませんが、銀座のキャノンサロンに自分の写真が展示され賞品のキャノンのカメラバッグをもらったときは本当に嬉しかった。

        
      ( 佳作受賞作品と掲載された 航空ジャーナル 1978年1月号)
このコンテストの上位入賞者の中にはその後プロの航空カメラマンとして活躍している人もいたように、このコンテストは当時としてはレベルが高かったようで、そんなコンテストに入賞したのだから暫くは有頂天になっていましたが、その後急に飛行機の写真に興味を無くしてしまいました。熱し易く醒め易い性格が最大の理由ですが、アマチュアでは空港周辺の限られた場所でしか撮影できないため、200mmのレンズだけでは構図が単調というか同じような写真しか撮れない事で飽きてきたみたいです。もうひとつは当時は車を所有していなかったため、例えば京浜島へ行くにもモノレールの流通センターから歩かねばならずとても数多く撮影にはいけなかったためである。

その後写真はSNAPを中心に撮っていましたが、特に趣味といえるほどではありませんでした。そして2年程前、歳とともに目が衰えピント合わせが辛くなったので、AF一眼レフにしようと思いEOS-3と標準ズームを買いNikonとは決別しました。この時NikonのAFにせずCanonに乗り換えたのは、Nikonのレンズは数本持っていたものの全て古いMFでありどうせ使えない、そこで改めてNikonとキャノンを比較してキャノンにしました。例のコンテストがCanon主催だったこともあり何となくキャノンに良いイメージを持っていたのも事実です。でもEOS-3を手に入れた後も航空写真ははやりアマチュアである限り制約が多過ぎるというか、同じような写真しか取れないだろうという思いがあり再び飛行機を撮ろうとは思いませんでした。

そして今年(2003年)の春、書店の航空機のコーナーでふと目にとまった一冊の写真集が再び私を航空写真の世界に引き戻したのです。それはLuke H.Ozawa氏の「JETLINER LANDSCAPE」(イカロス出版)でした。


 Luke H.Ozawa氏は本名 小沢治彦、昭和34年生まれだから私より10歳年下、彼の撮った飛行機の写真1枚1枚に私は魅せられました、彼の写真は単に飛行機を写すのではなく、周りの情景を上手く取り入れ、そしてその情景はその土地柄や季節感が溢れていて全て素晴らしい出来です。彼はプロだから空撮やアマチュアが入れないエリアへ入って撮影した写真も多く見られますが、空港周辺の誰でも行ける場所から撮った写真も数多く載っています。この写真集を何度も眺め、私もライフワークとしてこのような写真を撮りたいと言う思いが強くなり、再び航空写真を撮ろうと決意したのです。

丁度その頃Canonから20万を切るデジタル1眼レフ EOS 10Dが発売されました。それを見てどうせやるならデジタルで行こうと決め、いろいろ考えました。その結果EOS 10D ではなく上級機の1Dと望遠レンズを手に入れ、約25年振りに飛行機の写真を再開したのであります。今は車もあるので1時間ほどで羽田、成田に行けます、しかし再開したのが4月、この頃からいわゆる春霞、そして梅雨となり飛行機を撮りに行って、いまだにスカッとした青空にはお目にかかっていません。でもライフワークというか老後の趣味と思い気長にやるつもりです。


  JETLINER LANDSCAPE(イカロス出版)