十字架の森
神奈川県在住のKAIROONさん提供

これは僕が小学生の頃なのですが・・・。
今はもう無いと思いますが、当時の僕の家からちょっと歩いたところに、『十字架の森』と 呼ばれる所があったんです。僕の仲間や先輩は何で十字架なのか、という事は別に疑問に思 わなかったのですが、僕はそれがどうしても知りたくて、いろいろな人に聞いて回りました。
仲がよかった先輩は「俺がここにはじめて来た時は、もう『十字架の森』って呼ばれてたよ」と言 ってましたが、何故十字架の森と呼ばれているのか、誰も知る人がいませんでした。

僕は友人の加賀山君(仮)と、その謎を解くために調査をすることにしました。
ちょっとした探検と言っても良いでしょう。懐中電灯を片手に、森の中に入っていって 手掛かりを探し回ったんです。
最初は何も見つからず、加賀山君はやめようと言い 出したのですが、僕はもう少し、もう少しと加賀山君の手を引っ張って森の中を探し回ったんです。

探検ごっこが始まってから、二週間ほどたった頃でしょうか。
その日も僕は加賀山君と森に入ったのですが、何だかいつもの森と違う雰囲気が漂ってたんです。 空気が重たく、風が無い。少し怖かったんですが、勇気を出して森を進んで行きました。 すると、今まで見たことが無いものを見つけたんです。錆びついた重そうな鉄の扉、それに凭れ掛 かってる赤黒い大きなシャベル。そして、近くには十字架が彫ってある古い樫の木。
僕らがしばらくそこに立ちすくんでいると、僕らの横の茂みからガサガサと音がしました。
そちらの方を見ていると、茂みから大きなお爺さんが出てきました。お爺さんは、
「君たち、何でここにいるのかな。」 優しく、しかし何かを激しく疑うような感じでおじいさんは僕らに話し掛けてきました。
「迷い込んで来ちゃったのかい。」
「はい。」
「この森が『十字架の森』って呼ばれてるのは知ってるかな。」
「はい。」
「君たちは、この森が何でそう呼ばれてるのか知りたい?」
「はい。最近、調べてるんです。」
そう僕たちが言った途端、老人の顔つきが厳しくなりました。 「そんな事、してはいけないよ。」
「何でですか?」
「あのねえ、そんな事をするとねえ、ここに閉じ込められちゃうんだ。」
そういって老人は、鉄の扉を指差しました。 「閉じ込められちゃうんですか?」
「僕の孫がねえ、君たちみたいにこの森の名前を調べてたんだ。ところが、この扉の中に 閉じ込められちゃったんだ。嘘じゃない。誰かがそういう子供を捕まえて閉じ込めるんだ。 幸い孫は帰ってきたけど、扉の中はとても怖い世界なのだそうだ。帰ってきた孫の髪の毛が、 白くなっていた。だから君たちも、そんな事をしちゃいけない。」
「お爺さんは、どうしてここに来たんですか?」
「君たちみたいな子供を捜して、やめさせるためだ。僕は子供が好きだから。」
そのとき、森の置くから叫び声のようなものが聞こえてきました。今まで聞いた事も無いような、とても不気味な声。
「何ですか、今の声は?」
「例の子供をさらっていく奴だよ。君たちを探しに来たんだ。さあ、僕と一緒に逃げよう。 森から出れば大丈夫だから。」
そう言うとお爺さんは右手で僕の手を、左手で加賀山君の手を握って森の中を走り出しました。
「いいかい、しゃべっちゃ駄目だからね。あいつに聞こえるから。」
また叫び声が聞こえました。さっきより近いような・・・。
「森から出てから、再び中に入っちゃいけないよ。それから、明日から一ヶ月間ここに近づかない事。いいね。」

僕らは森から出て、森の方を返り見ました。
やはりいつもの森でしたが、あの叫び声がコダマしていました。
僕と加賀山君はそこに近づかないようになり、別のところで遊ぶようになりました。

今思い出すと少し不思議な話でした。お爺さんがいなかったら、僕らは扉の奥で、何かを見ていたのでしょうか。

おじいさんに子供だからと遊ばれたのですね(^^;
きっと、私有地に入って遊んでいるから、怒る変わりに子供が怖がる様に、ちょっと意地悪い話をしたのではないでしょうか。
十字架の森と呼ばれたは、きっとこのお爺さんが子供たちを窘めるつもりで作ったお話が、子供たちの口から口へ、色々と 着色されながら広がったのではないでしょうか。
完全に、お爺さんにからかわれた様で.....。にゃはははは(^^、)