病院1
新潟県新潟市 関さん提供

私は都内の謀産婦人科の看護婦をしています。毎日多くのBABYちゃんが生まれる中で、 親の身勝手で産まれて来れない赤ちゃんも中にはいます。
こんなこと言うと非難を浴びますが、降ろされた赤ちゃんのほとんどがごみ箱へ捨てられて焼却 されています。手のひらより小さく、手と足と頭が出来かけているのに、なんだか猫や犬の死骸を扱 うかのように焼却されていきます。私は始めの頃は良心がいたんでいましたが、慣れは恐いもので、 次第に平気になっていきました。
私の体験は、このゴミの中に捨てられてしまった赤ちゃんに纏わる話です。

いつものように勤務に付いた私は、産まれた赤ちゃんの居る新生児室でおむつを変えたり熱を計っ たりしていました。しばらくすると「看護婦が今日に限って二人も休んでいるから、手の足りない所へ 回ってください」と婦長に言われて、普段は私の担当でない手術室へ渋々行く事になりました。 他の人に変ってもらいたいと思いながら手術室のある三階へ向かいました。
手術といっても、降ろすだけの手術だけとは限りませんが、ほとんどが堕胎手術が多いので、 気が進まなかったのです。
その日も既に三人の堕胎手術が終わり、後二人の手術予定がありました。 患者が来院し手術を終えて、後かたずけをしていました。血の付いたガーゼやガーゼに包れた胎児、 手術に使った精製水の入れ物や点滴の容器(針は含まない)などを一緒に黒いビニール袋へ入れて、 病院の裏の焼却炉へ持って行きました。
焼却炉には病院から出たゴミが何個か置かれ、まだ焼却されていませんでした。 私は外のゴミの横にゴミ袋を置いて戻っていきました。
そしてまた一人、患者さんが来られ、手術を終えてゴミ袋を持っていきました。 病院の外は既に暗くなっており、真っ黒な空に煙が上っていくのが見えました。 きっと炉に火が付いたのでしょう。
再び焼却炉の前へ来ると、側にあったゴミ袋は焼却炉の中に入れられてしまったのか、 一つもなくなっていていました。
私は焼却炉の側に袋を置いて帰ろうとすると、私が持ってきた袋が、 ガサゴソと動いた様な気がしました。風でも吹いて動いたのだろうと思いましたが、 袋の中でなにかが動いているように見えました。 もしかしたら……と私は赤ちゃんが生きてるのかもと袋を開けて見ました。
そこには可愛らしい男の赤ちゃんが手と足をバタバタさせて入っていたのです。 私は思わず抱き上げ、病院に急いで戻ろうとした時、急に目の前が真っ白になりました。
ここからは、看護婦仲間から聞いた事ですが、私が病院の中へ戻りナースセンターの前を通った時、 看護婦仲間が私に気付いてびっくりしたそうです。白衣や手が血だらけで、何かを持っているような 格好で虚ろな目をし、どこかへ行こうとしているみたいでした。声をかけても、 体をゆすってもうつろな目をして、なんの反応も示さない私を心配して、 先生を呼んで見て貰おうことにしました。
看護婦の一人が先生を呼びに行き、私の側へ来てもらいました。 するといきなり先生の首を締め始め、ナースセンターにいた看護婦三人で先生から私を引き離そうと 試みたそうですが、すごい力でまったく歯がたたなかったのです。 仕舞いには側にあったバケツに水を入れ、私に頭からかけて正気にもどそうとしました。 私は、頭から水を浴び、目を覚ましましたが、また目の前が真っ白になったかと思うとその場に倒れて しまいました。

再び目が覚めると、仮眠室に寝かされていました。どうしてこんな所に寝かされてるんだろうと、 全く覚えていませんでした。
ナースセンターに顔を出した時、ビクッとした顔を外のナースにされました。 「私、一体どうしたんだろう。」とキョトンとして言うと、安心した様な顔つきで、 私のおかしかったことなどを教えてもらいました。まさか……。 と思いましたが、確かに記憶の中に赤ちゃんを抱っこしたような覚えがありました。 それに今考えたら、二ヶ月や三ヶ月の赤ちゃんがお腹から取り出されて生きていけるはずが無いのに、 生きた赤ちゃんを見た覚えがあるのはなぜなんでしょうか。

すごい体験をした様ですね。 きっとその赤ちゃんは産まれたかったのではないでしょうか。 二ヶ月や三ヶ月の形もほとんど出来ていないのに、その子に意志なんて無いと誰もが思いがちですが、 実は、赤ちゃん達がお父さんやお母さんを選び、お母さんに命を拓し、産まれてくるのです。 なにを言ってるのだと思われるかと思いますが、良く考えてみてください。 赤ちゃんが欲しくても出来なかったり、望まないのに出来てしまう事は世の中にはたくさんあります。 そして仮に産まれたとしても波乱万丈な人生で、何故自分だけと思う事もたくさんあると思いますが、 それはその人に与えられた使命なのです。 ですからいらない人間なんて一人もこの世には存在しないのです。 この赤ちゃんも何かをしに産まれたかったのではないでしょうか。