ドライブ
兵庫県神戸市 麗香さん提供

私たち女三人で六甲の夜景を見ようと車で出かけました。 良く通る有馬街道から裏六甲の山道へと車を進め、山頂を目指して登っていきました。
暫く車を走らせていくと、ポッポッ雨が降り始めてきました。 この位ならすぐに止むだろうと考えて先に進みましたが、 段々雨の量が増え先へ進むにつれて激しさはますます酷くなる一方でした。 ワイパーをフル回転して走っていますが、前が見えなくなるほど雨の量が増えてしまい、 これ以上進と危ないだろうと判断し暫く雨が小降りになるのを待ちました。
二時間ほど車の中でペチャクチャと他愛も無い話をしていまたが、 いつまでたっても雨は衰える事無く、酷くなる一方で段々不安になってきました。
普段なら夜の九時ごろだとカップルが夜景を見に来るのか、車を良く見かけますし、 帰ってくる車も沢山見かけるはずなのに今日に限ってまったく車を見かけません。 そんなことを思うとますます不安が募っていくばかりてした。
私は危なく無い程度にゆっくりと車を進め、 方向転換が出来そうな場所を探しましたがなかなか見つからず、 先へ進んでいくと突然車がものすごいスピードで走り始めました。 ブレーキを踏み込んでも全く効く様子も無く、ハンドルを操作するのがやっとでした。
他の二人は、危ないからもっとゆっくり走らせてほしいと頼みましたが 「アクセルは全く触ってないのに車が勝手に走るの」 なんて言ったらますますパニックになるだろうと思い、黙って前を見、 ハンドル操作をしていました。
キキキッー!と物凄い音がしたと思ったら頭と胸を思いっきりハンドルに叩き付け、 意識が無くなってしまいました。
気が付くと病院のベットに寝かされ、 他の二人も同じ部屋に寝かされてまだ起きていなかったので看護婦さんを呼んで、話を聞きました。
私たちの車は、 電信柱にぶつかっている所を他のドライバーに発見され病院に運ばれて来たそうです。 「神戸から来て事故ったなんて災難だったわねぇ」と看護婦さんに言われて「あれぇ?」 と思いました。六甲山は確か神戸なのに、変な事言う看護婦さんだなぁと思い、 少し意地悪く「ここは神戸市じゃないの?」と聞いてみました。すると
「なに言ってるのよ、ここは山梨よ。きっと事故で記憶が曖昧なのね」
「やっ山梨ー!なんでー」しばらく呆然としました。
六甲へ上ってただけなのにどうして山梨に私たちはいるのかまったく理解できません。 「またー看護婦さんたら冗談ばっかり」と答えると三人の両親が病室に入って来ました。 看護婦さんは私達に微笑みかけ、両親に挨拶をかわしました。そして部屋を出る時に 「彼女たち、まだ事故で記憶がはっきりしてないようなので、そっとしててあげてくださいね」 と言って部屋を出て行きました。
母達は「あんたたち、六甲行くって出かけておいて、なに山梨に来てるの。 おまけに事故までおこしちゃって」とぼやいていました。さいわい三人共怪我はたいした事はなく、 一応検査のために二日ほど入院しましたが、なぜ六甲に登っただけで、山梨県にいるのか、 今でも良く分かりません。

六甲山から山梨県まで山道だけを使って行ける道を色々調べてみ ましたが、無いようなのですが……。これはきっとなんらかの偶然によって六甲山から山梨県まで 瞬間移動してしまったのではないでしょうか。そうでなければ説明が付かない事があります。 六甲へ出発したのが夜の7時、車の中でじっとしていた時間は2時間なので、 この時点で9時になっています。暫く走って事故が起きた時間は分からないそうですが、 発見された時間は午後11時。いくら車を飛ばしても2時間で神戸から山梨県まで行けるはずがありませ ん。やはり瞬間移動してしまったのでしょうか。