生き人形2
匿名希望

この人形は、本文には全く関係ありません。

人形を持ってきた人の足に当たった人形の首は、悲しそうな目をして、 なんだか泣いているような気がしました。
私は人形の胴体と首を拾いあげ、名前が彫って有る場所を見ました。 間違いない。これは私が作った人形でした。
人形は何故ここまで表情が変ってしまったのだろうか……。 不思議な事もあるなぁ〜と思う反面、とても恐ろしくなりました。 人形を持ってきた人も、怖く感じたのか、人形を置いて 「娘の形見なんです。綺麗に治ったら、また伺います」 そう言って、そそくさ帰って行きました。
「えっ……娘さんの形見?」
またこの人形に関わった人が亡くなっていたのだと聞かされ、 私はとても悲しい気分になりました。
その日は人形の修理をする気にもならず、私は床に就きました。 そして私はまた、外人の女の子の夢を見ました。 これまでの夢とは違い、すごく怒っている夢を……。
「私、長い旅をして帰って来たのに、どうして私を人形扱いするの?私は生きてるのよ。 何故解ってくれないの?私、寂しい……」
そう言って、目からポタポタと涙を流し 「私を人形として扱わないで。約束よ。約束を守らないなら……」 その後の言葉は聞き取れなかったのですが、とても怖いと思い、そこで目が覚めました。 私は言いようの無い不安と恐怖が過ぎりました。 たかが一体の私が作った人形なのに……。その人形が話す訳が無い。 そう私は私自信に言い聞かせました。なぜそんな夢を見るのだろうか……?
人形に目をやると、私が新しく作った人形の横に仲良く人形が座っていました。 しかし私は人形の首をくっ付けた憶えも無く、またそこに人形を置いた憶えもありません。
無意識のうちに人形の首をくっつけて、置いたのだろうか?
やはりこの人形にはなんかあるのだろうか?
真っ暗な部屋でそんな事を考えているととても怖くなり、 私は今は大阪に住む姫に連絡を入れました。姫は機嫌悪そうに電話に出てきました。
「だれ?」
「私、人形師の……」そう言ったら、姫は「あぁ〜」と眠そうな声で解ってくれました。 姫はお世話になっている人の娘さんで、姫の家系は霊を見れる家系だったため、 今までにも色々と相談にのってもらっていました。 昔は姫のひぃおばぁさんに当たる人に相談をしていたのですが、その方が亡くなり、 随分年下ではあるけれど、霊に関しての知識はひぃおばぁさんと同じくらい有る方です。 私は私が作った人形を見てほしいと頼みました。
姫は「大学休みで、バイトが休みなのは3日後ね。 その日だったら良いよ」と言ってくれたので、私はその日までに人形を直し、姫に見せました。
姫は双子の姐の鈴姫も連れてきていました。 姫は霊は見えても、聞く事が出来ないから、姉を連れてきたと言いました。 姫の姉はわざわざ東京の大学を休んでまで来てくれました。
「この人形だが……」と紙袋を出すと、鈴姫が 「その人形生きてるよ。人形に魂が宿ってしまったのね」そう言いました。 姫は人形を袋から出したとたん「えぇーーーーーー」と驚いた顔をしました。 私と鈴姫が人形に目をやると、人形の表情が変わり、穏やかな顔だちだったのが一遍して憎悪が満ち、 目がメラメラと炎で燃えているような気がしました。
「この人形って、Sさんの子供の魂が入ってるのね。心当たりは?」
私は独身で、子供なんて作った記憶は有りませんでした。「なにかの間違いでは?」と言うと、 「間違いじゃ無いよ」と鈴姫に言われました。 姫達の話によると、昔付き合っていた人に子供が出来たが私と別れ、 子供を自分ひとりで育てて行く自信がなかったために、子供を殺してしまったのだと言いました。 また、子供を殺した母親もまた、子供を殺してしまった心の痛みに耐え兼ねて、 亡くなっているとの事……。
私は焦りました。確かに昔、アメリカ人の女性と恋仲になったのですが、 私達の若かった時代、外人とそういう仲になり結婚なんかしようものなら、 親戚にまで迷惑をかけるほど、まだまだ戦争後のゴタゴタが残っていました。 私は泣く泣く彼女と別れ、彼女はアメリカへ帰って行きました。 その彼女に私の子供が出来ていたなんて、私は信じられませんでした。
私はそれから、昔の彼女の消息を探しました。 異国の地なので彼女の消息はなかなかつかむ事が出来ませんでした。 私が彼女の消息を探しているのをどこからか知ったのか、姫から連絡がありました。 「その人、アメリカに帰ってなんかいないよ。 Sさん、昔彼女と神戸に住んでたでしょ。 彼女のお墓は神戸にあるはずだから、探してみると良いよ」 と言われ、私は狐に摘ままれた気持ちで、神戸のお寺や神社、外人墓地などを探しました。
やはり、彼女の消息はつかめませんでした。 その事を姫に告げると、姫は 「何言ってるの。その人は誰も来る事も無くなって、無縁仏となり、無縁墓地にあるはずよ」 と言われました。確かに彼女には親は無かったので施設で育っていたし、 友達もそれほど多いとは言えない人でした。 私は早速、無縁仏のある所を探し回りました。 名前も解らず、葬られた外人の墓を沢山見つけました。 私はまた姫に連絡を取りました。姫は「六甲の無縁だと思うから、また一緒に行って見ましょう」 と言ってくれました。
後日、姫と六甲の外人墓地の近くに有る無縁仏になってる墓に行きました。 姫は1時間ほどウロウロし「彼女お墓も作ってもらえなかったのね。」と言いました。 そして石が一つ置いてある所を指差しました。 彼女が本当にそこに埋められているのか、今となっては知る事も出来ません。 しかし私はなんとなくその場所に彼女が埋められているような気になりました。
私はその場所を買い、彼女のお墓を建てました。 そしてそのお墓に私の作った人形2体を埋め、彼女と私の子供の冥福を祈りました。
姫が子供の亡くなった命日は26日だと思うと言われたので、26日には必ずお墓参りをしました。
それから、私は人形の修理を頼みに来た人に、新しく青い目の人形を作り、それを渡しました。 もぅ何も無いだろぅと思って、私は少し安堵しましたが、それだけでは終わらなかったのです。
またしても、青い目の人形が私を恐怖のどん底に突き落とすことになるとは、 その時の私には思ってもいませんでした。 また私が新しく作って渡した人形の所有者が亡くなったのです。


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