恐怖の一夜
岩手県在住 埼さん提供

私は怖い話とかが大好きな、ごく平凡な主婦です。これは私が旅行先で体験した話です。
まだ私達夫婦には子供が居ないため、一年に2回旅行に行きます。場所は大概日本国内で、 観光地と言われている所はほとんど回りました。その中でも、 私と主人の大のお気に入りの場所があります。それは、和歌山にある、那智勝浦海岸です。 自殺の名所で有名な場所ですが、なんとも言えない、とても美しい所です。
私達は、海に吸い込まれそうな感覚を感じ、感動し何度も遊びに行きました。
今年のゴールデンウィークに、また遊びに行きました。那智の滝も見、那智浦海岸を見て、 予約を取っていた旅館へ行きました。その旅館は那智の滝近くにあり、とても古い旅館でしたが、 なんとも言えない雰囲気があり、私も夫もとてもその旅館が気に入っていたので、 和歌山に来た時は必ずその旅館に泊ました。
温泉に浸かり日頃の疲れを癒し、部屋に帰ると夕食の用意がテーブルいっぱいにしてありました。 旅の楽しみは、綺麗な場所が見れ、色々な体験が出来、自分で料理しなくても食事が出来る事。 しかもその料理が豪華でおいしいならなおさら良い。
私達はテーブルに置いてある料理を早速食べ始めました。
「いつ来てもここの料理美味しいはねぇ〜」
そん事を話しながら食べていたと思います。食事をしていると、旅館の女将さんが来て 「いつもご利用頂いてありがとうございます。料理の味はいかがですか?」などと聞いたと思います。 私はここの料理に満足していると告げると、女将さんは満足そうに部屋から出て行きました。
私達は夫婦水入らずで楽しい時間を過ごす事が出来、とても幸せな気持ちになっていました。
食事も終わり、私達は旅館の外へ会社の人や両親へのお土産を買いに行きました。 旅館の近くには沢山のお土産屋があり、どこに入って買うか、とても迷いましたが、 その迷いも楽しいものでした。
しばらく歩いていると、那智の滝の音が聞こえてきました。 私達はなんとなく滝の方に歩いていき、滝を見に行きました。
夜の滝は昼間と違って見え、不気味でもあり、神秘的でもありました。私達はじっと滝を眺め、 少し体が冷えてきたのを感じると、土産をまだ買ってない事に気付き、 土産屋のある所まで戻りました。土産物屋はシャッターをおろしかけていました。
「仕方無いから、土産物は明日にしましょう」と私が言うと、主人も顔を縦にうなずいたので、 明日に土産を買う事にし、旅館に戻りました。
旅館に帰った頃には、体は冷え切ってしまい、部屋に戻ってまた温泉に入る事にしました。
部屋に入ると、先ほどまであったお皿などは片づけられており、 そのかわり布団がしていありました。
「あぁ〜なんにもしなくって、全部してもらうなんて、とっても幸せ」私は主人の顔を見て、 微笑みました。主人も私の満足そうな笑みを見ると「今回の旅行も良かったなぁ〜」 と言ってくれました。
私達は部屋を出、温泉に浸かり床に付きました。
夜中に私は目を覚ましました。なんとなく人が枕元を通った気がしたのです。 私は泥棒?と思って、主人の寝ている布団に目をやると、そこには主人はいません。 あぁ、主人がトイレにでも行ったのだと思い、私はまたウトウトとし始めました。
しかし、なんとなく主人の事が気になって、私はまた目をさましました。 主人はまだトイレから帰ってないようでした。
あれ?私はその時やっと変な事に気が付きました。部屋にトイレがあっても、 トイレに電気がついていません。私はトイレを覗き、主人の居ないのをたしかめ、 部屋の玄関へ行き、主人の靴が無いのに気が付きました。
眠れないので、ブラブラと外にでも行ったのかなぁ〜と思い、 私も部屋を出て何処に行ったか解からない主人を探しに旅館を出ました。
旅館の外は電柱の明かりはあるものの、真っ暗です。不安になりながら主人を探し回りました。
どこをどう探し回ったのか、いつしか私は那智浦海岸の近くに来ていました。
フッと前に誰かが歩いているのが見えました。夜中にこんな場所に来るのはもしかして、 自殺志願者?私は恐る恐る近づいて行くと、主人でした。
「あなたぁ〜」私が声をかけても主人は知らん顔をしてフラフラ歩いていきます。
「あなた、ってばぁ〜!」私は主人の肩を叩いてみましたが、 主人は何事もなかったかのように夢遊病のようにフラフラと歩いていきます。ちょっと腹が立ち、 力任せに背中を叩きました。すると「じゃましないで!」という声が聞こえてきました。
辺りを見回しても誰の姿もありません。
「あれ?」
私は首を傾げましたが、今は主人の事が気になるので、空耳だと思い主人を何度も呼び、 背中を叩いたりしました。そんな事をしてるうちに、主人と私は海岸の崖の上ので来ていました。
崖の所には白のブラウスにスカートと今の時期には少し寒すぎる格好で、女性が立っていました。 すると主人が彼女に駆け寄ろうとしたので、私は主人を必死になって止めました。
「じゃましないで!」とまた声が聞こえたかと思うとすごい突風が吹き、 私と主人は突風によって飛ばされそうになりました。そこでようやく主人が我に帰り 「おれ、ここで何してるんだ?」と、今までの事を全く憶えていませんでした。
「こっちに来て……」か細い声で女性が呼びます。主人は行かなくては……と言って、 その女性の方に行こうとしましたが、だめーーーーーーーー!と言って、 私は主人の手を放しませんでした。するとその女性は顔をあげ、 私を睨みつけ主人に近づこうとしました。私は咄嗟に主人の前に出て、その女性に 「私の主人よ。私の主人をどうしょうというの?主人を取らないで!」
私は女性に向かって叫ぶと、その女性は悲しそうな顔をし、スゥーっと消えていきました。
私と主人は怖くなって、旅館まで走ってその場から逃げ帰りました。
これが私が体験した話です。

ご主人は、 もしかしたらここの海岸で水死した女性に誘われたのかもしれませんね。もし、 貴方がいなかったらご主人は死んでいたかもしれません。なんにせよ、 怖い体験はしましたが大事にいたらなくて良かったと思います。 いつどこで霊が私達生きている人間を狙っているかもしれません。気を付けてくださいね。