数年前、まだ二十代前半の頃……
僕は家を飛び出して友人の部屋に転がり込んで暮らしていました。
真面目に働く気も起きず、餓死寸前まで行ってしまったことを、今になって思い出します。
人間死ぬ寸前までイクと、死に対する恐怖が出てくるものです。
それから、その日暮らしの日々が始まりました。
その日は珍しく、日中の日雇いのバイトが取れず、
余り気の進まない夜勤のバイトをすることに成りました。
深夜に働く人は凄いと思います。夜中に眠くなったり飽きたりで、結局最後まで仕事が出来ず、
僕らは2時頃には仕事を途中でホッポリ出して、そのまま帰ることにしました。
しかし、深夜だけに電車などはすでに走っている時間ではなく、
私鉄であればなおさら電車は無い。
このまま朝までボーっとしていてもしょうがないと、
僕らは私鉄の線路沿いに最寄の駅まで歩いて行くことにしました。
たあい無い話をしながら、真っ暗な線路沿いの道を歩く。
ある程度の間隔で設置してある電車用の信号機が、不気味に光っている……。
こんな状況で黙って歩くのは、誰だって嫌なものです。
7〜800メートル先に踏み切りが見えてきました。
最初に気が付いたのは僕でした。
遠くから踏み切りの音が聞こえる。
「あっ、踏み切りの音だ」
僕の言葉に友人も耳を済ます。
「あぁ、ホントだ」
どうやら、友人にも聞こえたらしいのです。
もう一度耳を済ましてみる……
心なしか、先ほどよりも音が大きくなったような気がします。
「こんな時間に、走ってたっけ?」
「いや、それはないな……」
「向こうの本線の方かな?」
「そうじゃぁないかぁ」
それでひと段落しました。
また歩き始めると、音に近づいているのか、段々と音は大きくなってきます。
すでに、本線とは2キロぐらいは離れているはずなのに……。
「なんか、音が近づいてない?」
友人が言いました。
確かに近づいているみたいです。
遠くの踏み切りの音……
いや、違う!まるで先に見えてる踏切が鳴っているような大きさでした。
歩みを止めて、あたりを見回したが、電車がくる気配は一向にありません。
それどころか、音はするものの、踏み切り特有の赤いランプすらも見えないのです。
説明しておきますが、この単線は大きな駅から数百メートルはカーブしているものの、
それ以外の部分はほとんど直線と言っていいほどまっすぐに伸びているのです。
しかし、音は続いています。友人も聞こえているようなので、聞き間違えではなさそうです。
僕達は怖くなって、自然と走り出していました。
とにかく、この音から逃げなければ!
目の前に見えている車が遠い存在に感じ、まるで別世界に居るような錯覚に襲われます。
音は未だに鳴っています。
僕らはその音から逃げるように無我夢中で走りました。
気が付くと部屋に帰っていました。
すでにあの音は無く、のどがカラカラで僕らの荒い息だけが聞こえました。
あの音は何だったのでしょうか……
もしあのままあの場に留まっていたらどうなったのか……
あの時に感じた別世界に居るような錯覚……
僕らはもしかしたら、本当に別世界の片隅に迷い込んだのではないのでしょうか。
あの後、気になり色々と調べてみたましたが、あの時間には走っている電車は無かったようです。
また、バイト先の近くには、
小平霊園という関東ではそれなりに名の知れた心霊スポットがあります。
それが原因なのでしょうか?
最後に……
丑三つ時にはくれぐれも注意したほうがイイかもしれません。
もしかしたら、今とはちょっと違う世界に迷い込んでしまうカモシレナインデスカラ……
小平霊園の近くで、電車の事故はあったのか、
図書館で調べたのですが、見つかりませんでした。一体なんだったのでしょうね。
姫の友人に小平霊園の近くの線路を写真に撮って、送ってもらい、霊視を試みましたが、
結局霊園の霊によって邪魔されるようで、霊視は失敗しました。
なにが原因で、音が聞こえたんでしょうね。 |