自殺者2
大阪府守口市 奈々子さん提供
場所は大阪の私鉄沿線

つい先日、私は事故現場を目撃してしまいました。 今でもその時の恐ろしさに、思い出してはガタガタと震えるぐらい酷いものでした。 事故と言っても車両事故ではなく、私鉄の電車に人が飛び込んで亡くなったんです。 中年の男性による自殺でした。
私は帰宅途中にある私鉄電車に乗っておりました。
いつもと変わらない光景。
いつもと変わらない通勤路。
少しウンザリしていました。全く変わり生えしない毎日に「なんか刺激的な事起こらないかなぁ」 なんて不謹慎な事を考えていたら、電車がいきなり急停車。電車の中に居た乗客は急ブレーキにびっく りして、前に倒れた人、前の席に突っ込んだ人、頭を窓で打った人などおり、恐怖の瞬間でした。 何が起こったのか判らずにキョロキョロしている奴、気絶してしまっている人などさまざまでしたが、 私は何が起こったのか知っています。だって私は運転席の後ろの窓からズッと外を見てたんですから ……。
私が乗っていた電車は特急で通過駅に近づいて来た時です。
ホームからフラフラ〜って男性が来て「この電車はこの駅には止まらないのに、 勘違いしてるんだな」って思って見ていました。そしたら突然「ファ〜」 って体が浮いたと思った次の瞬間……男性がグシャって音と共におびただしい血と肉片が窓にこびり 付きました。
「キキキキキーーー!」って凄い音と共に電車が急ブレーキ。
「えっ……」何が起きたのか私は一時、理解出来ませんでした。
目の前に広がっている夥しい血痕と肉片をボーっと眺めていると、車内アナウンスが流れました。 でも、今の私の状態ではアナウンスが何を言っていたのか、全然憶えていません。
「あっ……」その事を理解するまでに少しばかり時間が掛かりましたが「男の人が飛び込み自殺し たんだ」と理解すると同時にゾォーっと怖くなってブルブル震えてきました。
そうしたらなんだかその飛び込んで来た男の人と一瞬目が合った様な気がしてきました。 なぜそんな事を思ったのかは理解出来ませんが、 ボーっとしてても車掌さんの後ろからずっと外を見ていたんです。 その人と目が合ったのかはちょっと解かりませんが、 しっかり自殺した所を見たのには違いがありませんでした。
暫く電車はその駅で止まっていましたが、新しい電車がホームに入って来たのでその電車に乗り換 える様にまたアナウンスが流れました。
「早くこの電車から降りたい……」そう思いましたが、 さすがに一両目の車両から降りる気にならず、三両目まで行き、そこから降りようとしました。 すると前に降りてホームに立ってた人が電車を指さして
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
と声にならない声で何かを言おうとしていました。
「まだ何かある?これ以上何か有ったら……」 と私はその人が指差している方向を電車から降りる時、振り返りながら見ると……
そこには自殺した人の頭らしいものが電車の屋根に乗っかっていました。
私はビックリして声にならない声を出し、新しく来た電車に飛び乗ってガタガタと震えながら帰宅しま した。
暫くの間私はその事が頭から離れず、会社に行くのも怖くなって、その私鉄には乗らずに地下鉄で 大回りだけれど乗って会社に出勤していました。
月日が流れ、人の記憶と言うのは面白いもので「忘れたい」と思っていながらも全然忘れる事が出 来ず、あの私鉄電車の車体を見てはあの光景を思いだして震えが止まりません。
あんな事があったのにやっぱり地下鉄では不便と、私は沢山の人が乗っているし大丈夫よ! とまた会社の行き帰り私鉄の電車を利用していました。
何度か私鉄電車に乗るようになって徐々にあの時の事を忘れかけていた時です。
ホームにボォーっとしているおじさんが妙に気になりました。
「何処かで見た事あるおじさんなんだけどなぁー。何処で会ったんだろうか。それとも気のせい? 」なんて思いながらそのおじさんを相手に気付かれない様にマジマジと見ているとフッとそのおじさん がこちらを見て、悲しそうなそれでいて苦痛そうな顔をしたかと思うとどこかへかき消す様に消えてし まいました。
「エッ、今のは一体???」私は我が目を疑いました。今までそこにいたおじさんが消えた。 こんな事ってある!?
「きっと気のせい、見間違えよ……」私は自分にそう言い聞かせました。
私は自分の気を落ち着かせ会社に出勤し、朝の出来事を忘れようと努めました。
仕事が終わり帰ろうとした時、今日に限って部長のご機嫌がムチャムチャ悪く、 私は部長に呼ばれました。
「君ここに勤めて何年になるんだ?こんなミスするなんて」 と嫌みタラタラと説教を垂れてくれました。私は部長のイヤミに付き合う気に全くなれなかったし、 なにより自分のミスではなかったので部長に反論しました。 するとその反論が部長を余計に腹を立てさせる結果になってしまい、 結局私が他人の後始末をさせられるハメとなり、残業する事になってしまいました。
「なんで私が!!」部長に腹を立て、ミスした人に対しても腹を立てながらの残業。 しかもそのミスも始めの方でしてるもんだから、結局ほとんど私がやり直しって感じなのである。
「くっそぉー!!」腹を立てながら必死でその仕事をやりこなし、 結局仕事が終わったのは深夜1時を回っておりました。
やっと終わった……。ホッとして自分がいるフロアーを見渡すと誰もいない。当たり前かぁー。 なんて思い、さっさと会社を出ました。
この時間は既に私鉄が無いので仕方なくタクシーに乗って帰ろうと、 広い道路に出てタクシーを探しました。しかし今日に限って全然タクシーが見つかりません。 それだけでなく通行している車さえいないんです。
誰も歩いていない、車のない道を 「早く帰って寝たい」と私は車が深夜でも多く通る道まで急ぎました。 しかしその日に限って全くと言っていいほどタクシー、いいえ車自体全く見ません。
少しイライラしつつ、仕方がないので少しずつ家に向かって歩き始めました。
「はぁあ……」何度もため息をつきながら1時間ほど歩いて来た時です。 私鉄の駅が見えてきました。夜中の3時なので駅のホーム、 いいえホームだけではなく駅全体の電気も消えてシーンと静まりかえっていました (夜中3時だから当たり前かぁー)。
駅の横を通りすぎ、線路に向かってまたテクテクと歩き始めました。 するとフッと目の前に黒い人影が目に入りました。 その影はフラフラと夢遊病者みたいに歩いているみたいなのですが、 影だけでその影の主の姿が見えません。変だなと思いつつもその影の横を通りすぎようとすると
「あっ……」
私は声にならない声をあげ、その影の前で金縛りにあった様に体が動かなくなりました。 私は焦って体を動かそうとするのですがまったく動きません。
焦っているとフッと背筋に悪寒が走りました。
私は怖くて震えながらその黒い影を見つめていると、どんどんその影が人間らしくなり、 はっきり確認できる様になりました。
「あなたは……」その影の顔がはっきりした時、その影が誰なのか解かりました。
そうです。
あの私鉄電車のホームから飛び込み自殺したあのおじさん!
なぜ私の前に出て来るのよ!?
私は心の中で叫び「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」と唱え始めました。
するといつの間にか自殺したおじさんもあの影も消えていました。

貴方は霊によって行動を決められて、 そう行動する様に仕向けられているように感じられます。 残業させられた事やタクシーに乗れずに歩かされたりと、大変だったようですね。 偶然乗り合せただけでここまで現れるとは、 よほど貴方に何かを訴えたいのか引き込みたいのか・・・。 それは判りませんが、自殺した方の冥福を祈り、霊が出た場所にお花と線香、 お酒をお供えしておいた方がいいと思います。