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 集団の民主性とモラールの関係については、コチとフレンチによる次のような実験がよ
く知られている。アメリカのあるパジャマ工場で作業方法を改良し、それに伴って労働者
の配置換えをするについて、三つの集団にそれぞれ別の方法を試み、その後の生産高の変
化を記録した。第一の集団では新しい作業方法を説明するだけで、それをやらせた。第二
の集団では、作業の変化を実施する前に、計画の立案に労働者の代表だけを参加させた。
第三の集団ではメンバー全員を参加させた。その結果は第三の集団が最良、第一の集団が
最悪であった(6D,pp.102-106) 。
 実験の結果このような違いが現れたことについて、田杉競は二つの理由をあげている。
その一は、作業計画の立案に参加を認められた第二、第三の集団では、従業員が人間らし
く取扱われたのを喜び、彼らの自主性が高められたこと。その二は、彼らが民主的決定に
参加することにより、新しい作業方法の意味についてコミュニケーションがなされ、会社
の経営方針に関する従業員の理解が深められたことである(6D,pp.107-112) 。
 前に述べた集団の親和性はモラールの拘束力を基礎づけ、したがって各成員の勤労意欲
を均等化するけれども、その水準を押し上げるとは限らない。従業員の多くが会社の待遇
や作業条件を不満としているときには、職場の親和性は同盟怠業の基盤となり、各成員の
勤労意欲を低下させるであろう。
 そこで、集団のモラールを向上させるためには、集団の親和性とは別に、各人の勤労意
欲を向上させる方策がとられなければいけない。そのためには前述した誘因のそれぞれに
ついて適正な配慮をすることが第一に必要であるが、それとともに各成員が集団の目的を
共有し、行動の意味内容を理解することも重要である。集団の民主性は、集団の活動にた
いして、成員の自主的協力を促し、目的の共有を進め、行動の意味内容を各成員に理解さ
せることによって、モラールの向上に寄与する。


(3)活動の効率
 集団の活動を盛んにするためには、集団の目的や状況に応じて、前述したような誘因を
拡充強化しなければならない。しかし、そのための方策を具体的に考えてみると、活動を
促進する誘因の多くが実は逆に活動によって生産されていて、活動は誘因の結果であると
同時に、その原因ともなっていることが知られる。



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