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   表1 自殺老人の家族類型所属    家族類型別に老人の自殺率を比較すると、
      自殺老人数   自殺率   表1で見られるように、市部、郡部ともに夫
      市部 郡部  市部 郡部  婦世帯と核家族では自殺率が低く、拡大家族
単身世帯   33  36  46.3  60.5  ではそれが高くなっている。自殺老人を出し
夫婦世帯   46  32  28.3  23.6  た家族は社会から白眼視されて、子や孫の縁
核家族    22  20  21.3  26.7  談や就職なども不利になるであろう。老人が
拡大家族  230  320  55.0  50.2  そのことを思えば、自殺したいという願望を
その他    20  17  56.4  52.3  自制して、子や孫のために、病苦に堪えて生
総 数   353  427   41.5  43.6  きて行かねばならない。普通一般には、家族
                    は自殺の抑止力になると考えられている。
 しかしそれは家族のきずなが強い場合のことである。現在の日本では、老人の大多数が
子や孫と同居しているとはいえ、その拡大家族の内容は昔とはだいぶ違っている。日本で
も最近は若夫婦が結婚後しばらくは親と別居するケースが多くなってきている。そして老
人の体力が弱ってから、いわば厄介者として子や孫の家に老人が入居する。だから昔と違
って老人の方が窮屈な思いをしている。また一般に敬老精神は衰え、生活様式がめまぐる
しく変わる現代では、老人の権威は失墜し、孫たちからも馬鹿にされる。拡大家族のこの
ような状況の中では、子や孫たちのために病苦に耐えて生きようとする老人の気力は弱く
なるであろう。一方、家庭不和によるアノミー的自殺が増えてくる。
 都市と農村を比較すれば、家族のきずなの弱い拡大家族は、農村よりも都市に多いであ
ろう。また自殺老人の遺族が世間から非難される程度も都市の方が弱いだろう。したがっ
て拡大家族の老人の自殺率が高い理由についての上記の推論が正しければ、その特色は農
村よりも都市において顕著に現れてくるであろう。表1でそれが見られる。
 1975年の国勢調査によると、熊本県で拡大家族に所属する老人の割合は、市部が 49.2 
%、郡部が 65.1 %である。拡大家族に核家族を加えて、いわゆる同居老人の自殺率を計
算すると、 48.0 であるのにたいして、単身世帯と夫婦世帯のいわゆる別居老人のそれは
 33.7 であり、常識的予想と違って同居老人の自殺率が高い。これは拡大家族に老人の自
殺が多いことを反映したものである。





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