シリーズ 超常読本へのいざない

第1回「ロズウェルの聖杯」

馬場秀和


「何百本もの下品な映画ともっと下品なテレビ番組が量産され、また粗製濫造の悪書が山のように積み上げられて、現在でも貧困な地方ではテーブルを支える脚代わりにされている」
(ジョン・A・キール 『プロフェシー』著者あとがき)

 超常現象を扱った書籍、特にそれを「肯定的」に取り上げる本には、正直いってハズレが多いことは否定できません。キールの言葉を引くまでもなく、読者の皆さんもそれはよくご存じのことでしょう。なかでも、いわゆる「ロズウェル本」の沼地ときたら、いつまでも消えることなく密林の片隅に溜まり続け、おそらく半減期は二万四千年ほど、むしろ目を離したすきにこっそり増えてるときますから、多くの方々がうんざりするのもまあ無理はありません。

 しかし、こう考えてみてはどうでしょうか。もしもこの世のどこかに本物の宝が隠されているとするなら、このロズウェル湿地帯ほどそれにふさわしい場所は他にないかも知れない、と。

 超常本の堆積物に分け入って、肯定派、否定派、懐疑派、そのスタンスを問わず超常モノが大好きな読者なら誰もがきっと気に入るに違いないお値打ちものを紹介する「シリーズ 超常読本へのいざない」。今回は、ロズウェルに墜落した空飛ぶ円盤の残骸、少なくともその一部、を探し続けている人々のための三冊です。


『ロズウェルにUFOが墜落した  臨終の証言者たちが語った最後の真実』
(ドナルド・シュミット、トマス・キャリー、並木伸一郎訳)

 1947年7月、米国ニューメキシコ州ロズウェルに空飛ぶ円盤が墜落。残骸と搭乗員の遺体が軍により密かに回収された・・・。もはや語り尽くされ、論じ尽くされた観のある「ロズウェル事件」。いつの間にか荒唐無稽な陰謀論とパラノイアに埋もれてしまったこの事件、多くの研究家が手を引くなか、断固として諦めず、ひたすら真相究明の努力を粘り強く続けている人々がいる。本書の著者たちである。

 彼らが二十年にわたって集めてきた目撃証言の数々を整理し、理論や仮説ではなく、「目撃者たちは実際に何を語ったのか」を、ただそれだけを提示することで、事件の全貌を明らかにしようとする気迫あふれるレポート。単行本(学研)出版は、2010年10月です。

 まず最初に、本書は徹底した肯定派の立場から書かれています。むろんロズウェルに空飛ぶ円盤が墜落したことは疑う余地のない事実であり、目撃証言をつなぎ合わせることでその真相を明らかにする、というのがその概要です。

 従って、本書を読むときは、たとえ貴方が否定派、懐疑派であっても、まずはその立場をいったん離れ、関係者は何を証言しているのか、という「事実」を受け入れ、その内容が真実であるか否かは棚上げにする、いや読んでいる間は素直に信じることにする、という姿勢が大切になります。そうしてはじめて、本書がはらむ熱気と興奮を存分に堪能できることでしょう。

 さて、全体は六部構成になっています。

 第一部「物証」では、事件の調査がどのような状況にあるかを概説し、目撃証言の重みが強調されます。

 第二部「発見」では、事件の発端となった残骸の発見から、事件が報告されるまでの数日間に、現場に見物にいった大勢の地元住民、軍による公式発表、その撤回まで、一連の動きに関わった人々の証言が並びます。

 第三部「回収」では、残骸と遺体の回収作戦に従事した軍人、格納庫に運びこまれた遺体を目撃してしまった政治家、軍の空港まで回収物を運搬したトレーラーの運転手など、それぞれの立場からの証言が明らかにされます。

 第四部「遺体」では、現地の病院における驚くべき目撃証言、墜落現場での遺体回収から輸送機への運び込みとフォートワースへの空輸作戦に従事した軍人たち、さらには葬儀屋や医者など現場にいた民間人による証言が集められています。

 第五部「沈黙」では、軍による情報統制、関係者に対する箝口令や口封じの実態についての生々しい証言が提示され、第六部「告白」ではその沈黙を破り、あるいは臨終を前にしてはじめて告白した証人たちが何を語ったのかが示されます。そして最後の証言として、封印宣誓供述書の全文がそのまま掲載され、その衝撃とともに本書は幕を閉じます。

 通読してまず感じるのは、その異様なまでの高揚感。ロズウェル事件における主な目撃証言について、情報としては知っているつもりでしたが、総計600人以上にのぼる証人たちが実際に語った内容を読むと、その臨場感に圧倒されそう。

 著者が勝手な想像でつけ加えたり捏造したりした情報はなく、全てが実際の証言に基づいて構成されている、ということを強調するため、ほぼ段落ごとに「×年×月×日の誰それへの直接インタビューより」といった具合に出典を明記した註釈が付いていて、これがまた説得力を高めています。

 そして個々の証言をつなぎ合わせることで事件の全体像が浮かび上がってくるところ、これがこれが、もう。個人的に特に気に入ったのは、トレーラーや輸送機による運搬作戦の詳細。たいていの本では、回収された残骸と遺体は軍用機でどこそこに運ばれた、くらいにしか書かれてないのですが、実際に空輸作戦に従事した人々が語る具体的な手順や様子はまるで映画のように面白く、一気に引き込まれます。

「どの目撃者も事件の全容を知っているわけではなく、ただ自分が見た、自分がかかわったことを証言しているにすぎないが、私たちはそれらをジグソーパズルのようにつなぎあわせて大きな絵にし、何十年も前に起きた事件の真相を描き出してきた」
(単行本p.42)

 空飛ぶ円盤の墜落、残骸と遺体の回収、軍による隠蔽工作。

 あまりに繰り返し語られ、分析され、批判されたせいで、もはや真面目に扱うのが難しくなった陳腐なストーリーが、多くの人々の生々しい言葉と、著者の不屈の熱意によって新たな命を吹き込まれ、子供の頃にはじめて知ったときの興奮が胸の奥からぐりぐり突き上げてきます。感無量。

 さらに本書全体を覆っている緊迫感、切迫感、そして使命感がまた印象的です。

「キャリーは十七年、シュミットは二十年にわたって調査を続けてきたのだ(中略)現在もなおロズウェル事件を活発に調査しているのは、私たちくらいになってしまった。(中略)UFO墜落の物的証拠、いわばロズウェル事件の「聖杯」を探す私たちの旅はいまも続いているのである」
(単行本p.25、 p.34)

「現実問題として、私たち研究家は死と競争しているようなところがあり、調査活動は限界に近づきつつある。(中略)私たちがロズウェルを究極のコールドケースと呼ばざるをえないのは、物的証拠が決定的に不足していること、証拠資料が破棄されたこと、そして何より、六十年という歳月からくる目撃者の減少が原因である」
(単行本p.38、p.39)

「こういう状況でもなお、ロズウェル事件は解決されるべきミステリーとして、二十世紀からいまへと引き継がれている」
(単行本p.39)

 もはや常軌を逸しているというか、不可解なほどの情熱。

 でも、今どき陰謀論にも内ゲバにもハマらず、壮大な仮説やスピリチュアル妄想を掲げたりもせず、ひたすら目撃証言を集めて記録するという地味な仕事を何年も何年も続けるなんて、宗教的なまでの情熱や使命感がないと無理なのかも知れません。

 これだけの証言をもってしても、何しろ物証がない以上、ロズウェルに空飛ぶ円盤が墜落した、という主張を受け入れることは困難です。本書の主張に対する批判は簡単でしょう。何しろ、証言の多くは、「ロズウェル・ストーリー」が有名になり、繰り返しTVで放映され、数多くの書籍が書かれた、その後になって出てきたものなのです。そして、人間が自分の記憶をいかに簡単に改竄あるいは捏造して、それを本気で信じ込んでしまうものか、心理学者たちが繰り返し明らかにしてきたのですから。

 しかし、本書の読了後、それもこれも全部ひっくるめた上で、証言者、研究家、そしてこの事件そのものに対する、何というか、敬意が生まれたのは確かです。読者の皆さんにも、ロズウェル事件に対するこの「敬意」を共有してほしくて、本書を紹介しました。

 結局のところ、やはりロズウェル事件はキング・オブ・UFO事件であり、私たちは長く語り継がれるであろう「伝説」の成立過程を、自分の人生に重ねてリアルタイムに見守ることができるという歴史的な幸運に恵まれた世代なのです。

 少しでもUFOに興味がある方、子供の頃のあのドキドキ感を懐かしむ方は、まずは本件に関する知識や先入観をいったん捨てて、頭をリセットしてから、著者の情熱と切迫感を自分のものとしつつ読み進めることをお勧めします。そして、かつて「空飛ぶ円盤」や「UFO」という言葉がまとっていた興奮と不安と熱気が、奇跡のように蘇ってくる数時間を、どうか心ゆくまで楽しんで下さい。


『エリア51  世界でもっとも有名な秘密基地の真実』
(アニー・ジェイコブセン、田口俊樹訳)

 ロズウェルに墜落した円盤の残骸や異星人の遺体が持ち込まれた、月着陸捏造映像の撮影場所だ、地下に秘密のトンネル網がある・・・。様々な噂や伝説に彩られたネヴァダ砂漠の軍事施設、通称「エリア51」。そこで本当は何が行われてきたのか。実際にそこに勤務していた30名以上を含む多数の関係者への取材を通じて明らかになったその驚くべき実態とは。単行本(太田出版)出版は、2012年4月です。

「本書はノンフィクションである。ここに書かれているのはすべて実話であり、本書に登場するのもすべて実在の人物だ。本書を書くにあたってインタヴューした74人はいずれもエリア51に関する稀少な情報、すべて自らの体験に基づいた情報、を持っており、そのうち32人は実際にこの秘密基地内に住み、そこで働いた経験を持つ人々である」
(単行本p.7)

 ジャーナリストが徹底的な取材を通して、「世界で最も有名な秘密基地」ことネヴァダ砂漠にあるエリア51と呼ばれる施設の秘密に迫った一冊です。核実験、キューバ危機、ベトナム戦争、朝鮮戦争、といった冷戦時代の様々な事件に、この秘密基地がどのように関わってきたのか、その「裏の歴史」が、関係者の証言によって明らかにされてゆく様には興奮させられます。

 読み所はいくつもあります。まず最初に、U-2偵察機、A-12オックスカート偵察機、F-117ステルス爆撃機といった、超高高度を超音速で飛行するステルス偵察機の開発秘話。これはシンプルに燃えます。

「1962年4月の晴れたその日、エリア51に存在したその航空機は、ロッキード社がこれまでにCIAのために完成させた唯一のA-12オックスカートだった。(中略)U-2と異なる点は技術的に40年、時代を先行しているところだ。A-12がこれから打ち立てる記録のいくつかは次の千年紀まで残ることになる」
(単行本p.240)

 地対空ミサイルですら到達できない超高高度をマッハ3で巡行し、レーダーに映らないステルス偵察機。不可能としか思えない要求性能に挑む技術者たちの挑戦。マニュアルもない実験機を命がけで飛ばすパイロットたち。度重なる墜落事故や政治的危機を乗り越え、なおも進められる極秘開発プロジェクト。

 ソビエト連邦で、キューバで、北朝鮮で、ベトナムで。エリア51で極秘開発された偵察機がどのような作戦に従事したかが詳しく述べられ、軍事ノンフィクションとして読みごたえがあります。わくわくします。

 次の読み所は、エリア51に隣接する広大な試験場における核実験の数々。ここは、はっきり言って、読んでいて気分が悪くなるような記述に満ちています。

「105発の原爆がこの実験場の地上で、828発が地下トンネルや地底深くまで掘られたシャフト内で炸裂した」
(単行本p.8)

「1958年9月12日から10月30日のあいだに、なんと38個の核爆弾が爆発することになっていたのだ。高い塔のてっぺんで、トンネルや縦坑のなかで、地面で、さらに気球からぶら下がった状態で。(中略)どれもエリア51からほぼ30キロ以内の近さだった」
(単行本p.173)

「エリア51を襲った爆風の威力はものすごく、西側を向いた建物では金属製の扉がいくつもゆがんでしまっていた。(中略)放射能の灰が空から舞い降りていた。そのようにほとんどたえまなく放射性降下物が降り注いでいたにもかかわらず、警備上の問題が優先されたのだ。ミンガスは五ガロン容器から直接水を飲み、爆発による煙が消えるのを待った」
(単行本p.170)

「ロケットは真上に打ち上げられ、オドネルと配線・起爆チームのメンバーが作業をしていた真上で炸裂してしまうのだ。ほんとうは42キロ南で爆発しなければならないのに。驚異的な火球が上空を焼き尽くす下で、サンダルに短パン姿の男たちが身を屈めるそのときの様子が、修正の施された記録映像には鮮明に映し出されている」
(単行本p.232)

「六名のパイロットが放射能を帯びたキノコ雲とその柱の中心への飛行をおこなうという決定がくだされる。この六名はいずれも志願者だった。このほかにも、放射性降下物が発生すると予想されるゾーンの外縁部に沿って飛行するという任務を命じられたパイロットの一団が」
(単行本p.302)

「実験初期のパイロットはどれほどの放射線にさらされたのか。放射線関連の病気で亡くなったのはどのパイロットなのか。そういったことに関する記録の大部分は破棄、あるいは紛失と伝えられている」
(単行本p.300)

「高度2万5900メートルに近づくにつれ、決まって現れる小さな黒点が風防ガラスに出現しはじめた。(中略)無数の昆虫が爆発で殺され、キノコ雲に乗って2万7000メートル上空に送られ、さらに軌道に乗って循環しているのである」
(単行本p.316)

 飛行しただけで風防ガラスを染みだらけにする昆虫の死骸・・・。繰り返される核実験により想像を絶する量の土砂が放射性物質とともに成層圏まで吹き上げられ、ジェット気流に乗って地球全体を周回していることがありありと分かります。

 冷戦という狂気が横溢していた時代とはいえ、これはあまりにひどい。

 被験者の同意を得ることなく人体にプルトニウムを注射する、住宅地の近くで密かに放射能漏れを起こす、原子炉をわざと破壊してどれくらいの汚染が生じるか確認する、など気が狂ったような実験を平気でやっていたそうで、しかも除染作業なし、放射能拡散は放置、というのですから、監視も予算制限もない軍事研究というものの実態を垣間見るよう。身の毛がよだつ思いがします。

 エリア51の支配権をめぐるCIAと空軍の激しい権力闘争、米ソの諜報戦など、他にも読み所はたっぷり。車で爆心地を突っ切るシーン、ソ連領内で撃墜されたパイロットが決死の脱出を試みるシーン、核実験の準備中に「襲撃」を受けるシーンなど、軍事スリラー小説のような手に汗握る箇所も散在しており、大いに楽しめます。

 ちなみに、UFO、墜落した円盤、異星人の遺体、といった話題についてはあまり触れられていません。ただ、最後の章でロズウェル事件の「真相」が語られるのですが、正直、これには落胆させられました。

 いくら何でもそんな与太話、信じるなよ、というような無茶な証言を大真面目に取り上げるのです。おかげで説得力のある生々しい迫真の軍事ノンフィクションであるはずの本書が、この最終章のせいで、何だかいかがわしい読後感を残してしまいます。UFOが関わっている限りどんな荒唐無稽な説でも知っておきたい、という熱心な円盤マニア以外は、ここは読みとばした方がいいかも知れません。

 というわけで、UFOや異星人の話を期待して読むと失望しますが、冷戦時代の軍事開発、核実験、諜報戦の歴史を知りたい方にはぴったりの一冊です。秘密基地、という言葉によってかきたてられる興奮と不安、その両方をたっぷり味わうことが出来ます。あと核兵器開発に対する嫌悪感も。市民による監視や予算の制限がないとき人間が何をやるかという事実の方が、UFOや異星人の伝説よりずっと超常的かも知れません。


『宇宙を拓くダウジング  H2ロケットエンジンはどのようにして発見されたのか』
(秋月雲母)

 1999年11月。日本の宇宙技術の威信がかかった純国産ロケット、H2ロケット八号機が打ち上げられた。だがそれは失敗に終わり、爆破処理された残骸は海底に沈む。原因を究明するためにはエンジンを回収することが必須だが、はたして広い海のどこに沈んでいるか分からない金属塊を発見することなど可能なのだろうか。このとき海底探査計画の切り札となったのは、小さな振子と棒だったのである・・・。

 惑星探査から気象衛星、巡航ミサイル誘導システムまで、宇宙開発の最前線で活躍するダウジング技術について一般読者にも分かりやすく解説してくれる一冊。ブルーブックス新書(講段社)出版は、2012年2月です。

 本書は五つの章から構成されています。

 「第一章 H2エンジン回収作戦で活躍したダウジング」では、宇宙開発事業団(NASDA)と海洋研究開発機構(JAMSTEC)が協力したH2エンジン回収作戦を、ダウジング技術の活用という側面を中心に解説してくれます。

「この回収作戦の様子は「NHKスペシャル」でも放映されたので、ご存じの方も多いでしょう。指令船の吊架室(船体振動が伝わらないようワイヤで全体を吊り下げた特別作業室)にこもって海図の上に水晶振り子をぶら下げ、精神集中しているダウザーの映像に驚いたのではないでしょうか。あの振り子が、ダウジングペンデュラムです」
(新書p.17)

 振り子の動きで落下予想海域を絞り込み、ダウジングロッドが組み込まれた深海探査船「かいこう」で落下地点を確定する、という二段構えのダウジングが、あの奇跡的とも云われるエンジン発見と回収につながったのです。

「「かいこう」に組み込まれていたのは、古典的なY字型やダブルL字型ではなく、立体探査が可能となる三軸直交型ダウジングロッドでした。ロッドの軸間ジョイント部分には超精密ベアリングが用いられており、これも日本が誇る精密微細加工部品です。日本のダウジング技術が、宇宙開発を支えていることを象徴する出来事でした」
(新書p.21)

 「第二章 ヤナギの枝からレーザーまで」では、ダウジングの歴史をざっと振り返ります。十五世紀ドイツにおける鉱脈探査、十七世紀英国での水脈探査、二十世紀米国の油田探査、という具合に、ダウジングが各国の資源開発にいかに重要な役割を果たしてきたか、それが様々なエピソードと共に語られます。

「最初は木の棒に過ぎなかったダウジングロッドが、やがて精密加工された金属製になり、鏡面反射で往復するレーザービームをダウジングロッドとして使うレーザー干渉型ロッドへと進化したのですから、技術革新のスピードには恐るべきものがあります。最新式レーザー干渉型ロッドの探査精度たるや、条件が良ければ衛星軌道上から地下に埋まっている直径一メートルの物体を見つけることが出来る、というのですから驚嘆すべき性能です」
(新書p.57)

 私たちがいつも持ち歩いているUFO探知機にも、超小型レーザー干渉型ロッドが内蔵されています。もしもレーザー発振器が劇的な小型低価格化を果たさなかったとしたら、そもそもモバイルUFOウォッチングなど不可能だったかも知れないのです。

 「第三章 ロズウェルとバミューダ海域」では、ダウジング技術の地上での応用について、現場の様子が活き活きと語られます。いくつか引用してみましょう。

「ロズウェルに墜落したUFOの残骸はすべて米軍によって回収されたとされていますが、ごく小さな破片(どんなにくしゃくしゃに折り畳んでもすぐ元に戻ってしまう超弾力性金属)が墜落現場付近に埋まっていたり、回収作戦が行われる前にやってきた見物人がこっそり持ち帰って隠した、という可能性は捨てきれません。世界中から現場にやってくる研究者たちは、様々に工夫をこらしたダウジングツールを用いて、この金属片、ときに「ロズウェルの聖杯」とも呼ばれる墜落のハードエビデンスの探査を続けているのです」
(新書p.163)

「バミューダ海域を常時徘徊している特異渦動(ヴォルテックス)をダウジング以外の方法で探知することは極めて難しく、二十世紀の後半に至るまで、この海域を横切る船舶や航空機がそれと知らずに渦動に突っ込んでしまうという事故が絶えませんでした。今日、気象衛星ダウサット2が特異渦動の現在位置を常に追っているからこそ、私たちは安心してこの海域を旅行できるのです」
(新書p.201)

「巡航ミサイルの誘導システムにもダウジング技術が使われています。GPS、慣性誘導、さらには地形照合といった誘導方式で目標近くまで到達した巡航ミサイルを、目標地点に正確に到達させるのは、小型のレーザー干渉型ロッドの仕事です。熱や振動によるノイズを除去して、レーザー波形に生じるわずかな歪み(ダウジングディストーション)の変化をリアルタイムに読み取る技術は、今のところ米国しか持っていない軍事機密だとされています」
(新書p.225)

 ダウジングというと昔は地下探査、今は惑星探査、というイメージが強いのですが、他にも身近なところで活躍していることがよく分かります。

 「第四章 宇宙探査機の時代」および「第五章 宇宙を拓くダウジング」では、超新星爆発など宇宙で大きなイベントが起きたとき天体望遠鏡を(光学的に観測可能となる前に)当該方向に自動的に向けてくれるダウジング誘導式架台の話題から始まり、木星の内部構造や衛星エウロパの海底地形を明らかにした宇宙探査機型ダウジングロッドの話まで、天文観測や宇宙開発の分野でダウジング技術がどのように使われているかを分かりやすくまとめてくれます。

 さらに、将来の計画として、2017年に軌道上に打ち上げられる予定の超精密ダウジングロッド重力波観測衛星「グラヴィウム」、そして世界各地の天文台で大型の水晶振り子を同期させることで地球サイズの巨大ダウジングペンデュラムを仮想的に作り上げ、宇宙の巨視的構造(ダークマター分布マップ)を明らかにするという計画まで、タイトル通り「宇宙を拓くダウジング技術」の最前線についても書かれています。

 全体を通読して、ダウジングというそれ自体はかなり古い技術が、最新の材料工学やレーザー光学の発展、自由落下状態の実現など、最新のテクノロジーと組み合わせることで、驚異的な成果を次々と生み出してゆく様に、驚きと胸の高まりを覚えました。

 また社会状況の変化によりこれまで想定してなかった場所でダウジングが活躍するという事例(例えば原子炉の安全基準として、定期的なダウジング検査が義務づけられた等)も印象的です。

 テクノロジーの発展というと「新しい技術が次々と出てきて古い技術を時代遅れにしてゆく」というイメージが強いのですが、ときに新たな技術が古い技術を活性化し、両者の連携により急激な発達が起こることもある、という教訓を鮮やかに教えてくれる一冊です。



超常同人誌『Spファイル10号』に掲載(2012年8月)
馬場秀和


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