『この円盤がすごい!  1965年版』


馬場秀和




 さあ、「UFO手帖」の執筆者たちが各自のスゴ盤について勝手に熱く語る「この円盤がすごい!」のページがやって参りました。今夜のお相手はわたくし、馬場秀和でございます。

 さて、スゴ盤、すなわち「すごい円盤」とは何でしょうか。そもそも円盤が空飛ぶだけでかなりすごいことなのに、そのなかでもことさらに「すごい」というのは、いったいどこがどんだけすごいのでしょうか。

 一口に「すごい」といっても様々なすごさがあります。まずは「プロペラとキャスターが付いていた」といった「形状がすごい」円盤というのがあります。「目撃されたことに気づいて、もはやこれまでと観念して自爆した」といった「挙動がすごい」円盤というのも、ええ、あります。

 他に「数時間に渡るコンタクトを、“まつげのせい”で片付けられた」みたいな「扱われ方がすごい」円盤というのにも味わい深さがありますね。もちろん円盤搭乗者の言動がすごい、というのもアリです。搭乗者は円盤の一部です。

 こんな具合に、まったくの主観と偏った嗜好で選んだすごい円盤、「私のスゴ盤」について、各自が持ち回りで語るという、ひとりよがりというか、読者無視というか、これはそういう企画です、よ?

 というわけで、今回、数ある「すごい円盤」のなかで私がイチオシしたいスゴ盤は、「円盤着陸・搭乗者不在」ケースであります。これは何かと申しますと、そのものずばり、空飛ぶ円盤が着陸してたけど搭乗者はいない、えーと、これ、どうすればいいんだ? という事例。

 例えば、いま話題の『マゴニアへのパスポート』から一例を挙げますと、ケース48がこれに相当します。

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48.1933年夏 朝 クリスヴィル(ペンシルベニア州)
ある男性が、この町とムーアズタウンの間に、うすぼんやりした紫色の光を目撃した。そちらに向かっていったところ、彼は直径2メートル、幅2メートル、ドア状に開く開口部を備えた卵形の物体を見つけた。ドアを押してみると、そこには紫色のライトでいっぱいの部屋があって、たくさんの機械類があったが、乗員はいなかった。アンモニアの臭いがした。(APRO7月号, 64)
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『マゴニアへのパスポート』(ジャック・ヴァレ、花田英次郎:翻訳) 単行本p.229

 「アンモニアの臭いがした」という生々しいリアリティ。ぞくぞくします。

 これ、明らかに再突入カプセルとか脱出ポッドの類ですが、この事件が起きたのは1933年であることに注目して下さい。有人宇宙飛行を目指すマーキュリー計画の開始が1958年、ガガーリンによる人類初の地球周回飛行が1961年ですから、それより四半世紀以上も前に再突入カプセルを目撃しちゃったというのは、何というか、さすがは円盤世界というか。「時代よりも少し未来の乗物の形を真似る」という円盤精神をきっちり守った事例ということになるでしょう。

 では続いて、今回のスゴ盤をご紹介しましょう。1965年、この円盤がすごい。ジョン・A・キール氏がレポートします。

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 1965年10月のある日、ミスター・ハーツキは、カルガリーに近いサークル・ジェイ・ランチの牧草地で馬に乗っていて、小さな飛行機のようなものが地上に置いてあるのを見つけた。それは色がシルヴァー・グレーで、後退角(三角)翼がついていた。彼の推測では、それは長さが約16フィート、翼長12フィート、胴体の厚み4ないし5フィートだった。彼は馬を走らせてそばへ行き、それを注意深く調べた。
 その外面は、彼の報告によると、「ワッフルのように」不規則だった。透明なプラスティック様のドームが操縦室をおおっていた。それを透して、彼には複雑な装置、14インチの「TVスクリーン」、二つの小さな、透明ガラス様のバケット・シートが見えた。目に見えるモーター、プロペラ、ジェットなどはなく、どんな種類の標識ないし認識マークもなかった。(中略)どうやらそれはかなり小さいパイロット用につくられたもので、ジェットやプロペラを必要としない何らかの未知の原理で飛ぶもののようだった。
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『UFO超地球人説』(ジョン・A・キール、巻正平:翻訳) 単行本p.119

 これはすごい。掛値なしにすごい。

 ちなみに、キール氏は「航空機に“擬態”する円盤」という発見に大興奮しておられます。なるほど。どんな目撃談についても、小賢しい懐疑主義者から「ただの航空機だろう」と指摘されたとき、「違うよ、航空機に擬態した空飛ぶ円盤だったんだよ!」と力強く反論できるわけですから、これはもうたまりませんよね。

 しかしながら、私が強調したいのはその点ではなく、むしろその、いかにも乗り込んでみようかなという気にさせる、そそるフォルムであります。目撃者が手を触れたら、さあどうぞ、と言わんばかりに、キャノピーがするすると開いたのではないか。軽飛行機に擬態しているのは、地球人、というか米国人の警戒心を解くことが目的ではないか。目の前に軽飛行機が無防備に置いてあったら、それはとりあえず乗り込んでみますよね?

 もし目撃者が乗り込んでいたなら、どうなったのでしょうか。いきなりキャノピーが、ばしゅっと閉じ、周囲の計器がぼんやりとした光を放ち始め、細かい振動と共に、何かの機械音がどんどん高まってゆく……、といった光景が容易に思い浮かびます。そう、これはトラップ。分かっていても抵抗できない恐るべき罠。どうする、目撃者!

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その物体の周りには人影がなく、仕事のスケジュールの関係で、彼にはあとでもう一度引き返してさらに調べるといったことは許されなかった。
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『UFO超地球人説』(ジョン・A・キール、巻正平:翻訳) 単行本p.119

 ちょっと待て。この状況で「仕事のスケジュール」を優先させるのか。それでいいのか。仕事第一の人生に悔いはないのか。

 しかし冷静に考えてみると、そういう目撃者だったからこそ、このケースが報告されたわけです。目撃者がまんまとトラップに引っ掛かった事例、いわば「円盤着陸・搭乗者不在・目撃者拉致」ケースは、そもそも報告されないでしょう。そう、あれだ。「私たちは生還した目撃者の話しか聞いてないのではないだろうか」。

 「円盤着陸・搭乗者不在」ケースの報告が極端に少ない、という事実こそが、この推測を裏づけています。つまり、今日も誰かが「ついつい乗り込んでみたくなるような魅惑的なフォルム」の円盤、いわばルアー円盤が着陸しているのを見つけて、ふらふらと乗り込んでしまい、そのまま行方不明になっているに違いないのです。すごいよ、ルアー円盤。

 ところで、日本ではどうでしょうか。

 米国とは違って、一般に軽飛行機への親しみが薄いので、上のようなフォルムで警戒心を解くことは難しいでしょう。そのあたりを考慮して、地域毎にルアーの形状を変えているに違いありません。ローカライズ大切。

 報告されないだけで日本でも起きているに違いない「円盤着陸・搭乗者不在・目撃者拉致」ケース。そのルアー円盤はどんな形をしているのでしょうか。見かけたら、ついつい乗り込んでしまうような、そんなフォルム。罠だと分かっていても引っ掛かってしまう、魅惑のルアー円盤。

 これは私の推測ですが、うーん、日本のあちこちに着陸しているであろうルアー円盤って、たぶんですけどね、おそらくですけどね、あー、ガンダム、でしょうねぇ。ええ、形がね、こう、ガンダム。

 まあ想像してみて下さいよ。人里はなれた場所に、ガンダムがさり気なく置いてあるんですよ。コクピット開いたままで。「仕事のスケジュール」がどうあれ、やっちゃいますよね、どうしたってね。こいつ・・・動くぞ!



『UFO手帖 創刊号』掲載(2016年11月)
馬場秀和


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