『ジャック・ヴァレと秘密基地』

馬場秀和


 超常同人誌『Spファイル』が密かにリブートを企んでいるらしい、という噂を盛り上げる一助として、Spファイル創刊号(2005年8月発行)に書いた原稿を公開します。一部、読みやすくするために手を入れましたが、おおむね掲載時のままです。(掲載時タイトル『秘密基地』を改題)

 掲載からすでに十年以上の歳月が流れ、内容的にはどうしようもなく古びていますが、実は執筆時点でも充分に古かったのでそれはそれで問題ないかと思います。(2016年3月)



 というわけでジャック・ヴァレです。この名前を出せば、UFOについて大真面目な顔で目茶苦茶うさんくせ〜ことを語ろうとしているんですよ、というサインになるそうなので、大変便利です。

 で、ですね、ヴァレの著書"Revelations"(邦題『人はなぜエイリアン神話を求めるのか』)にこんなエピソードが出てきます。UFO信奉者集会の場で、ニューメキシコにあるという宇宙人の秘密基地のことが話題になったとき、彼は「ゴミはどうやって回収してるんだろう」とツッコミを入れたと。今回はこの話。

 正直いって「ヴァレ、あんた大人げなさすぎ」「場の空気を読めよ」とは思いますが、まあそれはさておき、宇宙人の秘密基地を、ゴミや下水道といった観点から考える、というのは面白い着想です。いかにも「一般人と信奉者の両方から煙たがられそう」というのがよろしい。私の好みです。というか私の生き方です。しくしく。

 そこで考えてみました。政府との密約に基づいて宇宙人が地球に基地を築いているとして、その維持費はどのくらいか? 地球側スタッフは何名くらい常駐しているのか? 光熱費や水道代やゴミ回収費は?

 宇宙人がどんな連中で何をやっているのかは知りませんが、基地の建造/維持/運営は結局のところ現地(つまり地球)の資源と人材に頼っているでしょうから、実は「米軍が海外の同盟国内に軍事基地を築くケース」と大差ないのではないか、と。

 だとすれば、米軍が日本政府との密約、じゃなくて条約に基づいて日本に築いている基地のスペックを参考にすれば、大筋で外れてないはず。ここでいう「基地のスペック」というのは、面積、人員、維持費などのことです。

 さっそくやってみることにしました。

 日本には多数の米軍基地がありますが、空飛ぶ円盤でやってきた宇宙人の基地のモデルにするなら、やはり空軍基地でしょう。そこで目を付けたのが横田基地(東京都)です。沖縄を除く本土最大の空軍基地で、現地(日本)最大の人口密集地(首都圏)にほど近く、しかし上空を飛行制限しても現地(日本)人が困らない程度に郊外、というか田舎、という位置にあります。米軍から見た日本/東京都/横田基地という立地条件は、宇宙人から見た地球/米国/ニューメキシコに相当すると言えます。横田基地のスペックがそのまま宇宙人の秘密基地にも適用できそうです。

 では、横田基地のスペックが大筋で宇宙人の秘密基地にも当てはまるんじゃないか、と仮定して続けましょう。

 東京都に申請して『福生市と横田基地』なる資料を入手しました。ただし、平成13年3月版です。もっと新しい版をくれと要求すると、これが最新版だと言われました。何でや、と思いましたが、そういえば911航空機テロが起きたのは平成13年の9月です。それ以降、情報公開が制限されているのかも知れません。だとしたら由々しき事態ですが、まあここでゴネて、いきなり米軍の憲兵にでも取り囲まれて「調査の目的は?」とか尋問されたりしても困るので、今回はこれで我慢することにします。

 資料によると、横田基地の人員は、平成12年時点で、米軍人とその家族が約9,000名、日本人常駐スタッフが約2,000名となっており、合計 11,000名が所属しているそうです。ニューメキシコの基地には、宇宙人と地球人が合わせて2万人いると言われてますから、どんぴしゃりの規模です。1万人と2万人じゃ大違いだろう、という人がいるかも知れませんが、今回のようにいい加減な仮定に基づいた大雑把な推測においては、ケタが合っていれば“ほぼ同じ”という感覚で良いのです。

 では、他のスペックはどうでしょうか。面積は約7,000平方Km、東西約3Km×南北約4.5Kmの長方形。空輸航空団が駐留する輸送基地です。常駐している軍機は、葉巻型(笑)の輸送機ばかりです。資料には事故のリストも載っていますが、平均して年に2回ほど墜落事故が起きて、警察や消防隊が現地封鎖に駆り出されています。いかにもですね。って言うか、ひょっとして横田基地は密かに宇宙人に乗っ取られてるってことはないでしょうね?

 基地の維持費ですが、米軍側は分かりませんが、現地(日本)側は毎年5,000億円以上の経費をかけています。内訳は、基地周辺対策費、施設整備費、各種補償費、従業員手当て、移設・拡張費、光熱費・水道代・ゴミ回収費など。基地周辺対策費というのは要するに騒音対策の費用ですが、これを「機密保持対策費」と読み替えれば、そのままニューメキシコかどこかにある宇宙人の秘密基地の維持コストとみなせそうです。

 というわけで、宇宙人の秘密基地の維持費は年間約50億ドルと推測されます。そうそう、ヴァレが突っ込んだ件ですが、日本の基地対策特別委員会の会合記録を見ると、「思いやり予算によるゴミ回収の是非」から、「ダイオキシン検査」に至るまで、横田基地のゴミ問題は何度も議題として取り上げられています。米国政府内にある宇宙人秘密基地特別対策委員会でも、同じ話題が延々と議論されてるに違いありません。ちゃんとゴミ回収の件について検討している担当者がいるんですよ、ご安心下さい、ヴァレ先生。

 まとめると、ニューメキシコかどこかに宇宙人の秘密基地があるとすれば、米国政府は年間50億ドルくらいの予算を議会に見つからないように使っており、約 2,000名の地球人スタッフを常駐させて箝口令を守らせ、建設会社からゴミ回収業者まで機密保持を徹底させ、約7,000平方Kmの施設を住民の目から隠蔽している、ということになりそうです。

 この結論から、「だからそんな話はヨタだ」とするか、「だから恐るべき大規模な陰謀なんだ」とするかは読者の勝手ですが、こういう風に具体的な数字を上げて考えることが大切なんだよ、という話でした。


超常同人誌『Spファイル』1号に掲載(2005年8月)
馬場秀和


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