超地球人説

馬場秀和


 というわけでジョン・キールです。この名前を出せば、「これから書くことは最初から最後まで悪ふざけだが、それはそれとして真面目に書くので、そっちもそれなりに神妙な顔で読んでくれ」というサインになるそうなので、大変便利です。

 で、ですね、バクスターと言えばマンモス、キールと言えばモスマン。そうでなきゃいけません。な〜にが『プロフェシー』か。映画化されたからって浮ついちゃいかん。アレはあくまで『モスマンの黙示』です。見よ、このインパクト。オカルト本のキモは書名です。

 あと、インパクト満点だった『四次元から来た怪獣』も、えーと、何だっけ、思い出せないくらい弱い書名に改題されたし、『宇宙からのエヴァンゲリオン』に至っては何を言っておるのか人をおちょくるのもいい加減にせえという感じで、とにかくキールの翻訳本のタイトルは悲しいことになっています。どうか『UFO超地球人説』は再販にあたって変な改題されませんように。というかそもそも再販されますように。

 さて、巷のUFO研究家に言わせると、キールといえばモスマンじゃなくて「超地球人説」なんだそうです。そりゃ確かに、“UFO=宇宙人の乗物”という固定概念を崩した功績は分かりますが、皆さんここでよーく考えてみて下さい。超地球人って、いったい何ですか? 宇宙人じゃなく普通の地球人でもない、という以外に何も言ってません。これなら、「超地底人」だって、「超未来人」だって、「超ラテン系」だって、何だって言えます。っていうか「UFO=超ラテン系」ってイイ感じなのでメモメモ。

 で、この「UFOは宇宙から来たものではなく、地球に由来する現象である」という考えですが、そりゃ当然だけど口にしないのがオトナの態度ってもんでしょう。だって、昔のUFOはペンシルロケットだったんですよ。その前は飛行船でした。もっと前は帆船。そんなもんがはるばる宇宙からやってくるはずがありません。ええ。UFOの正体が何であれ、それが我々に由来することは確かです。あ、今、「UFOはボクらの心の中にある」というフレーズを思いついたのでメモメモ。

 そこで、この「超地球人説」をサカナに、ユーフォロジィ(UFO学)の基礎について、皆さんと一緒に考えてゆくことにしましょう。今、そう決めました。ユーフォロジィというと、ものすげぇうさん臭い感じがしますが、基礎だけならそんなにトンデモじゃありません。科学的と言っても語弊はないでしょう。例えば、いくつかのもっともらしい前提と、検証可能な仮説を置けば、UFOの正体について何も考察することなしに「超地球人説」の正しさを示すことが出来ます。嘘だろうって? それをやってみるのが今回の話です。まあ、眉にツバつけつつ読んで下さいな。

 さて、そもそも科学者というのは、実は超常現象を調べるプロなんです。ただし、科学者はそれらを「アノマリー」などと呼び、決して超常現象とは言いません。アノマリーという単語は“ノーマルじゃない”という意味ですから、超常現象と訳していいと思うのですが、科学者は絶対にそういう訳語を認めないのです。

 まあ、いずれにせよ、実験またはフィールドワークによって得たデータ群の中に、既知理論からは説明できない異常なデータが含まれていた場合、科学者は、とりあえずそれをアノマリーとして分離し、それから決まった手順でそれを解析してゆきます。これはもう、科学者なら生涯に何度も繰り返す手順です。科学者が超常現象を調べるプロだというのは、そういう意味です。

 では、UFO現象についても同じ手順でやってみましょう。科学者は、まず最初のステップとして、アノマリーがノイズあるいはフェイクではないかを徹底的に確認します。実験手順に間違いはないか、処理プログラムにエラーはないか、実験助手が二日酔いではなかったか、学生が仕組んだイタズラではないか、などなど。

 たぶんUFO現象はこのステップで「本物だと見なすだけの証拠なし」として棄却されることでしょうが、それでは話になりませんから、ここで前提を置きます。「UFO現象の大半は、既知現象の見誤りや幻覚などの“誤認UFO”だが、一部に既知理論では説明できない“真性UFO”が含まれている」という前提です。というか、この前提がないとユーフォロジーが成り立ちません。

 ついでに、「真性UFOは、宇宙起源であるか、地球起源であるか、どちらかである」「宇宙起源の現象と、地球起源の現象の間には、直接的な因果関係はない」という前提も認めて下さい。あと、「超地球人説」とは、“真性UFOは地球起源である”という命題のことだ、と定義します。さあ、これで準備はOKです。先に進みましょう。

 アノマリーが本物だと確認されたことにします。ここで「アノマリーの正体は何か」などと悩んではいけません。科学者は手続きに従って淡々と相関分析を行います。アノマリーデータ群をAとし、それと相関関係にある既知データ群Bを探すのです。ここで、AとBが相関関係にあるというのは、厳密に言うと難しい数式やら哲学的議論まであってややこしいのですが、とにかくAの増減と何となく連動して増減しているBを見つけるのです。

 もし見つかったとしても、いきなり「BがAの原因だったんだ」とか結論してはいけません。それでは「サザエさんの視聴率が株価を動かしている」ということになってしまいます。

 余談ですが、相関関係と因果関係をわざと間違えることで、いくらでもトンデモ本が書けます。そうですね、皆さんがUFO本を書いて出版界にデビューし、キールを目指したいとしましょう。そこで、例えば米国の各都市について、UFO目撃ケースの数(A)と、ゲームマシンの売り上げ(B)を調べて、それらのデータをチャートに書いてみます。たぶん、両者はかなり強い相関関係にあるはずです。

 ここで「AもBも都市人口が多いほど大きくなるデータだから当然」などと納得していては、いつまでたってもキールに追いつけません。あえて「AとBは因果関係にある」と結論づけ、『UFOの原因はゲーム脳だった!』という原稿を書いて、たま出版に持ち込むのです。まあ、ボツを食らったとしても、徳間書店に持ち込めばよいでしょう。ただしその際には、“PS3に隠された人類滅亡への戦慄の最終シナリオ”くらいの副題をつけておく必要があります。って何の話でしたっけ?

 話を戻して、ここで検証可能な仮説を一つ持ち込みます。毎年の、真性UFOの目撃数(A)と誤認UFOの目撃数(B)には正の相関関係がある、という仮説です。これは検証可能ですし、たぶん検証すれば正しいと認められると思うんですよね。

 というのも、あちこちのUFO本を調べたところでは、年によってUFO目撃ケースの絶対数は大きく変動する(特に多い年はフラップと呼ばれる)のに、“UFO目撃ケースのうち、説明がつかないケース(真性UFO)の割合”は常に3〜5パーセント前後で、あまり年によって変わらないし、目撃ケースの絶対数とも連動してないように見えるからです。つまり、Aが多い年はBも多い。Aが少ない年はBも少ない。すなわちAとBには正の相関関係がある。そう考えないと、目撃ケース全体(A+B)に占めるAの割合が、年によらず比較的一定していることの説明がつきません。

 さて、アノマリーデータ(A)と相関関係にある既知データ(B)が見つかった場合、科学者は「背後に共通要因Cが存在し、それぞれA=C、B=Cの間に因果関係が成立している」と考えます。さきほどの例で言えば、ある都市について、AがUFO目撃数、Bがゲームマシン売上、そしてCが人口、ということになります。科学者は、このようにAと相関関係にある既知ゲータをB1、B2、B3という具合にいくつも見つけてきます。Bnは既知データですから、それら全てと因果関係にある共通要因Cを見つけることはさほど困難ではありません。

 さあ、Cが見つかりました。ここで科学者は「Cがアノマリー(A)の原因である」という作業仮説を立てます。では、検証しましょう。ただし、ここで作業仮説を支持する事例を探すようでは、素人です。科学者は、作業仮説を否定する事例を探します。徹底的に反証を探して、どうしても見つからないようなら、ようやく作業仮説を「仮説」に昇格させます。ここまでくれば、ちょこっと論文なぞ書いて、同業者の厳しい批判を受ける準備が整ったことになります。

 では、これをUFO現象に応用してみましょう。

 さきほどの話で、毎年の、真性UFOの目撃数(A)と誤認UFOの目撃数(B)には正の相関関係がある、という(検証可能で、かつ正しそうな)仮説を置きました。すると、AとBの背後に、共通要因Cが存在することになります。共通要因の定義上、CとBは直接的な因果関係にあります。Bは明らかに地球起源の現象です。「宇宙起源の現象と、地球起源の現象の間には、直接的な因果関係はない」という前提を置いてますから、当然ながらCも地球起源の現象ということになります。そして、Cが共通要因であるからには、CとAも直接的な因果関係にありますから、Aも地球起源の現象ということになります。Aは宇宙起源か地球起源かのいずれかだという前提を置きましたから、Aの全ては地球起源の現象です。これはつまり「真性UFOは全て地球起源である」ということです。よって「超地球人説」は正しいということが証明されました。
Q.E.D。

 えーと、別に騙してはいませんよ。疑う方は、じっくり読んで確認してみて下さい。もちろん、途中で導入したいくつかの前提や仮定が正しいならという条件付きではありますが、「真性UFOは地球起源である」という命題は真なのです。では、それらの前提や仮定はどのくらい正しいと見なすべきでしょうか? そして結論に対する反証(真性UFOが宇宙起源だという明確な証拠物件)は実際のところ存在するのでしょうか? ユーフォロジーはこんな感じで議論する学問です。

 ここで強調しておきたいのは、ここまでの議論には一切「UFOの正体は何か」という当て推量が含まれてないということです。UFOの正体が何であっても、ここまでの議論には影響しません。考えて見れば、これはスゴいことですよね。



超常同人誌『Spファイル』1号に掲載(2005年8月)
馬場秀和


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