ボルト&ナット

馬場秀和


写真にも写り
レーダーにも写り

東の牧場に墜落すれば、破片をまき散らし
西の穀物畑に着陸すれば、丸い痕跡を残し

決して捕獲されることなく
捕獲されたとの噂絶えることなく

プラズマでもなく
生き物でもなく

ボルト&ナットな重量感を持つ

そういうメカでUFOはありたい


 今回は「ボルト&ナットなUFO=空飛ぶ円盤は、どういう原理で飛んでいるのか」という深遠なテーマについて書いてみたいと思います。

 さて、何しろ空飛ぶ円盤ですから、とにかく翼もないのに軽々と空を飛ばなきゃいけません。急旋回、急停止、瞬時加速、木の葉運動など、航空力学どころか重力も無視した挙動を軽々とやってのけるくせに、やたら墜落するという、不思議な不思議な池袋。

 色々と調べたのですが、空飛ぶ円盤の飛行原理についてちゃんと書かれた本というのは意外に少ないんですね。というか無いです。そこで、基準を緩くして、ちゃんとでなくてもいいから、とにかく何か書いてある本を集めて並べてみると、まあ大雑把に言って、空飛ぶ円盤の飛行原理については次の3種類の説があることが分かりました。

  1. 現在の科学では知られていない未知の原理で飛んでいる
  2. 重力を制御している、あるいは反重力を使っている
  3. よく分からないが、電磁場に関係しているようだ

 1.や2.だと話が全く進まないので、とりあえずここでは3.の電磁場説を採用したいと思います。この説の良いところは、まずUFO遭遇事件でしばしば報告される電磁気異常(消える照明、ラジオや電話に混じるノイズ、動かなくなる車のスターター、謎の発光あるいは放電現象、など)の説明がつきそうな気がすることです。次に、テスラ、ベアデン、ハチソン、清家新一先生など、オカルト電磁気現象の研究家の仕事がヒントになるかも知れないこと。最後に、チャネリングなどの電波系、じゃなくて精神世界系の話題と何となく相性がよいことです。

 では、まず電波(正確には電磁波)について、基本から見直してみましょう。

 電子を加速運動させると、いや減速運動させてもそうですが、もれなく電波が放射されます。これは高校の物理の時間に教わる基本中の基本ですが、これを教わった瞬間、良い子は必ず手を挙げて、大きな声で質問しなければなりません。

「先生! アインシュタインの等価交換原理によれば、重力と加速度の効果は区別できないはずです。すると、地上で静止している電子は、無限に電波を放射し続けるんですか?」

 これはもう定番質問でして、これが出ないと物理の教師は大いに失望すると言われています。この文章を読んでいる高校生の皆さんは、まだ若いのにこんなもん読んでんじゃねーよ、是非この質問を出してあげて下さい。そうすれば、物理の教師もちゃんと答えてくれるはずです。

「いいか、アインシュタインが提唱したのは、“等価原理”だ!」

 話を電波に戻します。要するに電子を加速すれば良いのですから、電波を作り出すのは割と簡単です。ワイヤなど導体を適当に丸めてコイル状にして、両端にかける電圧を変動させてやればよろしい。電子は導体中を右往左往して、コイルの長軸方向に電波が放射されるという仕掛けです。

 さて、電波は波ですから、波の重ね合わせの法則に従います。ある電波に、それと位相が180度ずれた(波形が反転している)電波を重ね合わせてやると、お互いに打ち消されて消滅するわけです。これは、最近流行りのヘッドフォンに付いているノイズキャンセラ機能の原理ですね。

ノイズキャンセラというのは、周囲の雑音を検知して、それと位相が180度ずれた(波形反転の)音波を発生させ、波の重ね合わせにより消音するという仕掛けです。科学忍者隊ガッチャマンが、ギャラクターの殺人音波攻撃を受けたとき、それを打ち消すのに使ったアレです。高校生の皆さんは読むなと言ったはずです。

 さきほどのコイルと同じものをもう一つ作って、位相が180度ずれた電圧をかけてみましょう。波の重ね合わせにより、最初のコイルから放射される電波は、打ち消されて弱まってしまいます。2つのコイルをぴたりと重ねたとすると、互いに逆波形になっている電波もぴたり重なって、互いに打ち消し合い、完全に消滅します。今や、電波は一切検知できなくなりました。

 しかし、ここでよく考えてみましょう。どちらのコイルも、もともと電波の形でエネルギーを放射していたのです。エネルギー保存則からして、両者を重ね合わせた状態でも、両コイルはエネルギーを放射し続けているはずです。電波は全く検知できないにも関わらず、エネルギーは放射され続けているのです。すなわち、検知できない何か特殊な電波が放射されているのですね。

 この検知不能な電波は、よく「スカラー波」と呼ばれます。最近この用語はちょっとマズいらしいので、提唱者のベアデンさんには申し訳ないのですが、ここでは仮に「ゆんゆん波」と呼ぶことにさせて下さい。気に入らなければ、以降の文章をエディタに入れて「ゆんゆん」を「スカラー」に一括変換してから読むとよいでしょう。

 前述したように、ゆんゆん波は通常の方法では検知できません。ということは、ゆんゆん波は通常の物質とは相互作用しないということを意味します。しかし、ゆんゆん波と相互作用するものがこの世に2つだけ存在します。その一つは人間です。

 なんでやねんっ、という突っ込みは分かりますが、すでに話はマクー空間に入って3倍の強さになっています。そんな突っ込みなどかすりもしません。そう、人間の脳は、ゆんゆん波を受信することができるのです。これはつまり、ゆんゆん波による放送、ゆんゆん放送が可能だということです。

 さきほど説明した、ゆんゆん波放射コイル(逆位相電圧をかけた2つのコイルを重ね合わせたもの)に、変調器とマイクを取り付ければ、ゆんゆん放送局の出来上がりです。マイクに入力した音声は、ゆんゆん波に乗って放射され、不幸にして同調してしまったリスナーの脳内で再生されます。

なんて物騒な命令を24時間ぶっ続けで聞かせるとか、

などと吹き込んでやってもよいでしょう。こうやって電波で宇宙人とお話しているのが、いわゆるチャネラーです。なお、チャネラーのうち、実は電波など受信してないのにネタとしてやっている者は、2チャネラーと呼ばれます。

 ゆんゆん波は通常の物質と相互作用しないので、電磁遮蔽することができません。よく頭にアルミホイルを巻くとよいとか、部屋の壁全面にアルミ箔を張り付けて閉じこもるとか、白い布だとか、アースの紋章だとか、ゆんゆん放送を遮蔽できると思っている人がいますが、残念ながらそれは無理です。

 対策はただ一つ、同調を外すことです。やり方はお医者さんが知っています。皆さんも、不幸にしてゆんゆん放送を受信したら、下手な素人考えで遮蔽しようとしたりしないで、すぐに精神科あるいは心療内科に駆けつけて下さい。適切な薬を飲むだけで、すっきり同調が外れますよ。

 ゆんゆん波は放送に使えるだけではなく、エネルギーの伝達手段としても使えます。ゆんゆん波放射コイルの出力を大幅に高めましょう。ゆんゆん波兵器です。放射される高出力ゆんゆん波が、ターゲットとなる場所に集中するように、沢山のゆんゆん波兵器を慎重に配置します。犠牲者がターゲットエリアにいることを確かめた上で、全てのゆんゆん波兵器をONにします。高出力ゆんゆん波が集中すると、人間はひとたまりもありません。一気に加熱されて、身体から炎を吹き出して焼死してしまうことでしょう(足だけ残して)。

 ゆんゆん波は人間としか相互作用しませんから、壁や床、それどころかカーテンやソファに至るまでほとんど焼けません。完全犯罪ですね。

 そして、ゆんゆん波によって運動エネルギーを伝えることも出来ます。

 ゆんゆん波も電磁波ですから、その媒体である「ゆんゆん電磁場」があるわけです。ゆんゆん電磁場に置かれたゆんゆん波放射コイルには、当然のことながら電磁力が働きます。フレミング左手の法則というやつですね。さきほど「ゆんゆん波と相互作用するものがこの世に2つだけ存在します。その一つは人間です」と書きましたが、もう一つが、もちろん、ゆんゆん波放射コイルそのものです。

 この原理を応用すると、ゆんゆん電磁場によるリニアモーターカーを作ることが出来ます。ゆんゆん電磁場発生コイルを地表に並べて、ゆんゆん電磁場をリニアモーターと同じやり方で変動させます。ここに、ゆんゆん波放射コイルを内蔵した乗物を置くと、乗物は電磁力によって浮上し、前進します。

 ようやく、話が空飛ぶ円盤にたどり着きました。そう、空飛ぶ円盤は、ゆんゆん波放射コイルを搭載したボルト&ナットな乗物であり、地表に多数配置されたゆんゆん電磁場発生コイルによって飛んでいるのです。

 こう考えると、空飛ぶ円盤に遭遇したときに生ずる電磁気異常現象、脳内に響くテレパシー、などが生ずる理由がよく分かります。あれは、ゆんゆん波が原因だったんですね。

 また、空飛ぶ円盤がなぜ墜落するのかも理解できます。空飛ぶ円盤に搭載されているのは、航法制御、姿勢制御のためのコイルだけです。浮力と推進力は、地表に設置されたゆんゆん電磁場発生コイル(が発生させるゆんゆん電磁場)から与えられるのです。

 円盤を整備しているのは謎の搭乗員だとしても、地表設備のメンテナンスを担当しているのは地球人でしょう。それも、その大多数は、自分が保守しているものが何であるか知らされずに仕事をしている下請け社員、さらにはアルバイトに過ぎません。不備もあるでしょう。人手不足で手が回らないこともあるでしょう。手抜きだってあるかも知れません。

 そうやってゆんゆん電磁場発生コイルが機能停止すると、その付近を飛んでいた円盤はもちろん墜落します。搭乗員からすれば、「空飛ぶ円盤はやたらと墜落する」と言われるのは心外に違いありません。「俺たちのせいじゃねぇよ。下の整備担当に言ってくれよ」という気持ちをくんでやって下さい。

 では、地表に多数配置されたゆんゆん電磁場発生コイルはどこにあるのでしょうか?

 答え:電信柱の上に堂々と搭載されています。よく観察してみて下さい。

 そもそも前世紀のうちに、電力ケーブルの埋設工事は全て完了しています。今や、電力線は全て地下を通っているのです。では、いまだ街中に乱立している電信柱は何のためにあるのでしょうか。そう、ゆんゆん電磁場を発生させるためですとも。あれは空飛ぶ円盤のために用意された交通インフラなのです。

 電信柱で支えられている電線は、どこかに電力を運ぶためにあるのではありません。電信柱の上にある装置に、電力を供給するためにあるのです。

 では電力会社が黒幕か、と思うでしょうが、それは私には何とも申し上げられません。ただ、全ての企業の生命線である電力を支配し、全国に張りめぐらせた最大の通信インフラ(光ケーブル)をおさえ、国中のあらゆる原子炉を支配している組織が、何の陰謀もやってないと考える方が変ではないでしょうか。



超常同人誌『Spファイル』1号に掲載(2005年8月)
馬場秀和


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