『馬場秀和のマスターリング講座』

第1章 システム選択

 本ファイルは、Nifty-Serve のRPGメインフォーラム「マスター/プレイヤー会議室(第16番会議室)」で連載された「馬場秀和のマスターリング講座」のうち、「第1章 システム選択」を加筆・修正の上まとめたものです。
1996年7月  馬場秀和


[全体構成]
  第1章 システム選択
  第2章 シナリオ作成
  第3章 セッション・ハンドリング
  終章  ライフ・アズ・ア・ゲームマスター
  付録  コスティキャンのゲーム論

[頻出略語]
  PC : プレーヤー・キャラクター
  NPC: ノン・プレーヤー・キャラクター


マスターリング講座を始めるに当たって

 この講座は、既にゲームマスターを何度か経験している方々を対象に「ゲームマ
スターとしてもっと上達するには、どのようなことを念頭に置き、何を努力すれば
よいのか」という疑問に答えることを目的としています。
 要するに、マスターリング全般に関して「方法論」を提供すること、これが本講
座の狙いです。

 どんな趣味でもそうですが、始めのうちは「習うより慣れろ」でスタートしても、
上達を目指すためには方法論を学ぶ姿勢が必要となってきます。うまくゆかなかっ
た場合に、「なぜうまくゆかないのか」「どうすればうまくゆくのか」を分析・評
価する方法論がない限り、反省も改善もあり得ないからです。

**

 市販のRPG解説書の多くに欠けているのが、この「上達を目指す人々のために
方法論を提供する」という発想です。

 解説書には、よく「RPGのゲームマスターは誰でも簡単にできますよ」といっ
たことが書かれています。それは必ずしも嘘ではありませんし、初心者を引きつけ
るために、そういう言い方になるのも止むを得ないでしょう。

 しかし、それらの解説書が抱えている問題は、たいていその後のことが何も書か
れてないということです。つまり、簡単に始めたはよいが、その後に上達するため
に何をすればよいのか分からないのです。これではとても上達は無理ですし、そも
そも「上達を目指そう」という発想すら生まれません。

 どんなにRPGが面白かろうと、上達を目指す姿勢を持たない限り、いつかは飽
きがきます。

 最初はとにかく楽しくて仕方なかったマスターリングも、似たようなセッション
を繰り返すだけなら、次第に面倒になってくるでしょう。マスターリングを続ける
ためには、はっきり言って多大な労力と根気が要求されます。いったん面倒になっ
てしまえば、それ以上マスターリングを続けるのはかなり困難です。

 こうして、一時のブームに乗ってRPGを始めた人の大半が、「上達を目指す」
という姿勢を持ちえなかったがゆえに、言い換えれば上達するための方法論を与え
てもらえなかったために、わずか数年後にはRPGに飽きて別の趣味に移ってしま
った・・・。それが、1996年7月現在、日本のRPG市場が崩壊寸前と言って
よいほど冷え込んでいる理由ではないでしょうか。

**

 では、ゲームマスターとして上達すると何が良いのでしょうか?

 その答えは2つあります。

 1つは、既に説明した通り、上達を目指す姿勢によりRPGに飽きることを防止
できることです。何年もRPGを続けるためには、上達を目指す姿勢は必須と言っ
てよいでしょう。

 もう1つは、RPGをずっと深く楽しむことが出来るようになることです。

 そもそも、何事にせよ、努力して上達しないと本当の楽しみを得ることは出来な
いものなのです。努力なしに得られる娯楽など薄っぺらい皮相的なものです。無料
の昼食はありません。卵を割らずにオムレツは作れません。汗を流さずにスポーツ
の真の喜びを味わうことは出来ません。RPGも同じことです。

**

 ですから、「RPGに小難しい理屈はいらない。楽しければそれでいいじゃない
か」「たかがゲームに努力なんてしたくないよ」などと思う方にこそ、この講座を
読んでもらいたい。私はごく簡単なことを伝えたいのです。RPGは努力して上達
すればするほど楽しくなるんだ。いや、努力それ自体、うんと楽しいんだ。そして、
上達の喜びこそ、他の何よりも価値ある収穫なのだ、と。



「馬場秀和のマスターリング講座」

第1章 システム選択

         ** システムを選択するところからゲームが始まる **


[第1章を始めるに当たって]

 上達のためには経験が必要です。何度も失敗を繰り返し、そこから学んでゆくこ
とこそ、上達の秘訣なのです。

 しかし、経験を通じて上達するためには、失敗したときに「なぜ失敗したのか」
「どうすればよかったのか」を分析できなければなりません。同様に、成功したと
きには「なぜ成功したのか」「もっと改善するにはどうすればよいか」を評価しな
ければならないでしょう。
 ただ漫然と、あるいは闇雲に色々なことを試し、失敗しても成功しても何ら分析
も評価も行わないのでは、まず上達は望めません。

 上達のためには、成否の要因を判断するための基準、すなわち方法論が必要とさ
れるのです。本講座の狙いはここにあります。

 本講座では、「RPGはゲームである」という前提の元に、RPG上達のための
方法論を提供してゆきます。

**

 ところで、この前提を認めない人がいることは承知しています。

 現に、世の中には「RPGはゲームではなく、ごっこ遊びだ」と主張する人がい
ます。(そういう人は「ごっこ遊び」ではなく「ロールプレイ重視」といった表現
を好むようですが)
 彼らの主張はいつも似たようなものです。要するにシステム(ルールや背景世界)
より、いわゆる「ロールプレイ」や「ノリ」あるいは「参加者が楽しむこと」の方
を重視すべきだというのです。

 いったい、どうやったら、そんな主張をベースに「上達のための方法論」を構築
できるのでしょうか。私には、そんなことが可能だとは到底思えません。

 この手の主張をする人は、本当にそういう主張を元にRPG上達のための方法論
を提供できると信じているのでしょうか。むしろ、彼らはただ「自分がRPGを気
に入っている理由」に固執しているだけではないでしょうか。だとすれば、それは
ひどく無責任な態度です。

 既に、RPGにとって「上達を目指すことが大切である」「上達のためには方法
論が必要不可欠である」ということを示しました。ですから、上に述べたような、
上達のための方法論も提供できないような主張は、きっぱり否定されなければなり
ません。

**

 RPGはゲームか否か。RPGと他の一般的なゲームとの違いは何か。そもそも
RPGの定義は何か。本講座のラスト近く(終章の後半)で、そういった理論的な
分析を行います。

 ですが、結論だけを念頭に置いておけば、第1章を読み進める上では充分でしょ
う。

 RPGはゲームです。ゲームにとって最も大切なのはシステムです。
 従って、RPGにとって最も大切なのはシステム(RPGの場合、ルールと背景
世界)なのです。

 そこで、システムをどのように選択すればよいかという問題が、本講座の最初の
章にふさわしいテーマということになります。

 よろしいですね?

 では、第1章を始めましょう。


1.0 システム選択のポイント

 何はともあれ、RPGシステムを決めないと、シナリオ作成にもセッションハン
ドリングにも手をつけることが出来ません。ゲームマスターとしての仕事は、まず
システム選択から始まると言ってよいでしょう。

 ところで、あなたはRPGシステムをどのような理由で選択していますか?

 おそらく誰もが最初の頃は、「たまたま参加したセッションで使われていたから」
とか、「有名だから」「近所の本屋さんで売っていたから」「ファンタジーが好き
だから」といった理由でRPGシステムを選ぶに違いありません。

 しかし、上達を目指すあなたは、RPGシステムについて常に次の2つのことを
念頭に置いておくべきです。

 A.出来るだけ多くのシステムを経験するよう心掛けること
   (少なくともプレーヤーとして)

 B.自分がゲームマスターを務めるときに使うシステムの選択については、自分
   なりに明確な判断基準を持つこと

 A.は、優れたゲームマスターになるためには、RPGについて広い視野と幅広
い経験を持つことが不可欠だからです。これは、まあ、言うまでもないことでしょ
う。ただし理屈で分かっていることと実践することは全く別物ですが。

 本講座で解説するのは、B.の方です。

**

 第1章では、システム選択の判断基準として次の5つを取り上げ、順番に検討し
てゆくこととしましょう。

  1.方向性
  2.役割分担
  3.背景世界
  4.ジャンル
  5.記述言語

 上の項目は私が「重要性が高い」と考える順番に並べたものです。1が最も重要
で、次が2です。

 ところが、色々な人の話から推察するに、多くの人はRPGシステムを選択する
ときにこれらの項目について考える順番は逆になっているようです。つまり、まず
5、次に4、3ときて、2や1はほとんど意識しない、というわけです。
 これはちょっと困ったことだぞ、と私には思えます。

 以降では、1から5について順番に解説すると共に、個々の項目の重要性につい
ても説明します。そうすれば、なぜ私がこの順番で重要性が高いと判断しているの
か理解できることでしょう。


1.1 方向性

 プレーヤーは何を求めて、他の種類のゲームではなく、あえてRPGをプレイす
るのでしょうか。心理学的には様々な説明が可能かとも思いますが、私の経験から
するとおよそ次の2つがミックスされているようです。

  (1)ヒーロー願望

   ・ヒーローとして大活躍したい、カッコよく決めたい、という願望です。

   ・自分のPCが大活躍して、最後にはカッコよく勝利(成功)する、とい
    うのが目標となります。

   ・一般的には、自分のPCが(かっこよくない)苦労をすると「ゲームは
    苦境にある」と感じ、最後にPCが敗北(失敗、あるいは死亡)すると
    「ゲームに負けた」と感じます。
    ただし、「勝利」よりも「カッコよく決める」方を重要目標にする人も
    いて、そういう人は、「カッコよく敗北(失敗、死亡)する」ことがで
    きれば「ゲームに勝った」と感じます。

   ・毎回、お約束に従って同じパターンで「勝利」しても、あまり気にしま
    せん。「敗北」を味わうよりはずっとマシです。

   ・ストーリーや設定が少々いい加減だったり、ご都合主義だったりしても、
    さほど気になりません。そもそも「大活躍するヒーロー」がそんなこと
    を気にしてはいけないのです。

  (2)疑似体験願望

   ・現実には出来ない様々な体験をしたい、という願望です。

   ・今までにない新しい疑似体験をするというのが目標となります。
    一応、ゲームの目標に合わせて「勝利」「成功」を目指すものの、実際
    には結果は重要ではなくて、途中経過で何を体験できるかが大切になり
    ます。

   ・自分のPCが苦労しても、敗北しても、あるいは死亡しても、さほど気
    にはしません。それも疑似体験の1つだからです。
    疑似体験をリアルに感じることが出来れば「ゲームに勝った」と思いま
    す。逆に、疑似体験が薄っぺらでリアリティがないと感じると、PCの
    成否、勝敗とは関係なく「ゲームに負けた」と思います。

   ・新しい体験が出来なくなることを嫌います。
    ですから、毎回、お約束に従って同じパターンで「勝利」するくらいな
    ら、毎回違うパターンで苦労、敗北した方がずっとマシです。

   ・ストーリーや設定に関するいい加減さや、ご都合主義を、非常に気にし
    ます。疑似体験のリアリティを損なうからです。
    リアルで説得力のある「借金苦」や「恐怖による発狂」を疑似体験する
    方が、ご都合主義でいい加減な「大活躍」よりずっと好みです。

**

 この2つの指向は、どちらが正しいというものではありません。両方のバランス
が大切なのです。一方に極端に偏ったプレーヤーは、色々と問題を引き起こします。

 例えば、「ヒーロー願望」に偏ったプレーヤーは、わがままなプレイを行いがち
です。自分のPCを無闇に強くし、PCに不幸や災難が降りかかると文句を言い、
自分のPCが目立つことを最優先に行動します。他のプレーヤーのことなど気にも
かけません。

 そのようなプレーヤーにとって、これらの言動は全く正当なものなのです。ゲー
ムに負けないよう最善の努力をするのは当たり前じゃないですか。だって勝利する
ことが目標なんですから。

 逆に「疑似体験願望」に偏ったプレーヤーは、はた迷惑なプレイを行いがちです。
 ゲームマスターの設定に文句をつけ、ルールの細かい解釈にこだわり、依頼人に
根掘り葉掘り質問して矛盾を見つけては追求し、そのあげく「この依頼人は信用で
きないから、この話は断ります」と言い出します。

 そのようなプレーヤーにとって、これらの言動は全く正当なものなのです。疑似
体験を可能な限りリアルにするべく努力しなければなりません。設定がおかしかっ
たり、話が矛盾していたり、時と場合によってルールの解釈が変わるようなことを
認めてしまったら、その時点でリアリティ維持の努力を放棄したことになるじゃな
いですか。

**

 繰り返しますが、どちらの指向が正しいというものではありません。ゲームマス
ターはこのことを理解した上でプレーヤーに接しなければなりません。

 よくある誤りが、ゲームマスターがどちらかの指向を無批判に「正しくないプレ
イスタイル」だと信じていて、そのような指向に基づいたプレーヤーの言動を「R
PGというものはだね・・・」と頭ごなしに説教するというものです。

 よほど人間性に問題のあるプレーヤーを別にすれば、誰も他の参加者に迷惑をか
けてでも自分だけが楽しみたいなどとは思っていません。ですから、自分の基本的
な指向を皆に認めてもらった上で、他の参加者との協調やバランスを求められるの
であれば、特に反発する理由はないのです。

 しかしながら、自分の指向を、他人から「RPGはそういうものじゃないんだよ」
等と一方的に否定されれば、怒って反発もするでしょう。場合によっては、自分の
人格を否定されたように感じるかも知れません。

 これは間違いなくトラブルを引き起こします。喧嘩になってもおかしくありませ
ん。そのあげく、喧嘩した両者とも、後から「最近は困った問題プレーヤーが増え
たものだ」としか思わない(衝突の原因が分かってない)ため、何度でも同じトラ
ブルを繰り返すことになるのです。

 ですから、まずゲームマスターは、両方の指向があることをよく理解し、どちら
か一方が間違っているなどと決めつけないように心掛けて下さい。

**

 どんなプレーヤーも、まあ、だいたいどちらかの指向に偏っているはずです。

 極端に偏ったプレーヤーは最初から相手にしないことにするとして、ゲームマス
ターとしては、なるべく同じ指向を持ったプレーヤーを集めてセッションを開くの
が望ましいでしょう。

 指向の異なるプレーヤーが同じセッションに参加すると、トラブルが発生する率
が跳ね上がる上に、ゲームマスターの負担が大きくなります。

 とは言っても、現実にはプレーヤーを選ぶことは困難です。せめてセッションを
開始する前に、次のように説明して下さい。

 ・今日のシステムは「クトゥルフの呼び声」なので、PCは散々苦労したあげく
  にきっと全員が死ぬか発狂して探索は失敗に終わると思う。探索の過程やスリ
  ルを楽しめればそれでいい、と思う人だけ参加して下さい。

 ・今日のシステムは「すぺおぺひーろーず」なので、設定はいい加減だし、話は
  ガンガンご都合主義に走るつもりです。そういうのを許せる人だけ参加して下
  さい。

**

 というわけで、ようやくRPGシステム選択の話に戻りました。そう、既にお分
かりの通り、RPGシステムには方向性があり、それとプレーヤーの指向が合って
ないとセッションがうまく進まないのです。この問題を避けるため、「プレーヤー
に合わせてシステムを選択する」という発想が重要になってくるわけです。


1.1 方向性(続き)

 前回の話を整理します。

 ・プレーヤーがRPGをプレイする目的は、大きく2つに分類できる。
  これを「プレーヤーの指向」と呼ぶことにする。

   (1)ヒーロー願望を満たす
   (2)疑似体験願望を満たす

 ・ゲームマスターは、可能な限り同じ指向のプレーヤーを集めてセッションを
  開催すべきである。
  それが無理でも、開催するセッションが(1)と(2)のどちらを指向して
  いるかを参加プレーヤー全員に明示し、協力を依頼すべきである。

 「プレーヤーがRPGをプレイする目的」という言い方について補足しておくと、
プレーヤーがRPGをプレイする目的と、PCの行動目的とは別です。

**

 (1)指向のプレーヤーの場合、プレーヤーとPCの目的は概ね一致することが
多いようです。例えば、次のような具合です。

  ・プレーヤーがRPGをプレイする目的 : ヒーロー願望を満たす

  ・PCの行動目的           : 敵に勝利する

 このケースは単純で、PCが大活躍して敵に勝利すれば、全ての目的が矛盾なく
満たされます。

 ですから、こういうケースでプレーヤーが立ち向かう課題は、非常に素直で単純
なものです。要するに、いかにして活躍し、勝利するか。どうやってPCを強くし
どんな戦術で敵を叩くか。(1)指向のプレーヤーは、こういう課題を好む傾向に
あるようです。

**

 これに対して(2)指向のプレーヤーの場合、プレーヤーとPCの目的は一致し
ないこともあります。例えば次のように。

  ・プレーヤーがRPGをプレイする目的 : 恐怖やスリルの疑似体験

  ・PCの行動目的           : 事件の真相を発見する。
                       犯人を見つけて逮捕する。

 この場合、例えばプレーヤーはPCに「わざわざ一人で危険な場所を調べにゆく」
といった行動をとらせることがあります。こういう行動は、PCの行動目的にとっ
ては不利益になるのですが、プレーヤーの目的には合致するわけです。

 こういう場合、プレーヤーは「いかにしてPCとしての目的を追求しつつ、かつ
プレーヤーとしての自分の目的も達成するか」という、より複雑な課題に立ち向か
う必要があります。(2)指向のプレーヤーは、こういう課題を好む傾向にあるよ
うです。

 (1)と(2)の違いは、課題が単純(自分の目的とPCの目的が矛盾しない)
か、複雑(自分の目的とPCの目的が矛盾を起こすことがある)か、というだけの
ことです。

**

 さて、プレーヤーの指向の話が分かったところで、次はシステムの方向性です。

 プレーヤーの指向を合わせる(同じ指向のプレーヤーを集めるか、またはプレー
ヤー達を説得して特定指向に合わせてもらうようにする)のも重要ですが、それと
RPGシステムの方向性を合わせることも極めて重要です。

 RPGシステムの方向性、などというと非常に難しい話題のようですが、何のこ
とはない、要するに「どちらのプレーヤー指向を満たすべくデザインされているか」
ということです。

 例えば「クトゥルフの呼び声」「メガトラベラー」といったRPGは、明らかに
(2)の疑似体験指向プレーヤーを想定してデザインされています。
 一方、「トーグ」「スペオペヒーローズ」といったRPPは、(1)のヒーロー
指向プレーヤーを想定したシステムです。

 もちろん、両方の方向性をあわせもったシステムも多いのですが、それでも主に
どちらか一方の方向性が強くなっているはずです。

 どのシステムがどちらの方向かというのは、入門用シナリオを1回プレイすれば
だいたい分かります。様々なRPGシステムに関する知識が豊富だと、ルールブッ
クにざっと目を通しただけで、どちらの方向性が強いシステムかが分かるようにな
ります。

 だから、ゲームマスターは、沢山のRPGシステムを勉強し、少なくともプレー
ヤーとして多くのシステムをプレイして下さい。その経験によって、的確にシステ
ムの方向性を把握することが出来るようになるのです。

**

 繰り返しになりますが、システムの方向性とプレーヤーの指向を合わせることは
非常に大切です。

 例えば、「クトゥルフの呼び声」を、雑魚モンスターくらいバッタバッタなぎ倒
せるのが当たり前の「ヒーロー指向」RPGシステムしか経験してない「ヒーロー
指向」プレーヤーばかりでプレイしたとします。結果は悲惨なことになりかねませ
ん。PC達が情報収集もロクにしないで、魔物だ突っ込め方式でモンスター退治に
向かうとか。

 こうなった場合、ゲームマスターが打てる手は次のいずれかになります。

  A.ルールを正しく適用してPCを全滅させる
  B.ルールを曲げ、ダイスを誤魔化して、何とかバランスをとる
  C.ルールの適用を止め、ノリでPCを活躍させてプレーヤー達を喜ばせる

 Aはきっとプレーヤーに大不評でしょう。ゲームマスターもよい気分ではないは
ずです。誰も目的を達成できません。セッションは失敗です。

 こうなるのが嫌さに、BやCに走るゲームマスターがいます。Bくらいなら、ま
あ止むを得ない手段かも知れません。しかし、Cまでゆくのは問題です。

 ところが、Cをとるゲームマスターのなかには、「プレーヤーが楽しんでくれた
のだからCでも何でも問題ない。セッションは成功だった」と信じている人がいる
ようです。もっと進むと「そもそもRPGはそういうものだ」と主張する人までい
て、これは非常にまずいと思います。

 A〜Cのいずれかを選択しなければならないということは、そもそもプレーヤー
指向とRPGシステムの方向性を合わせることが出来なかったのが原因なのです。
つまり、マスターリングは最初から失敗しているのです。

 それを自覚して、根本的な点を改善するように心掛けない限り、マスターリング
に上達することはありません。

**

 特に、Cに走っている人に心から忠告したいのですが、「ルールを厳密に適用す
ることより、参加者が楽しむことの方がずっと大切」などとCを正当化するのは、
止めて下さい。

 いえ、参加者を楽しませるなと言っているのではありません。Cでプレーヤーが
みんな楽しんでくれるかも知れない。けれど、次回もCで対応したとして、また参
加者が楽しんでくれるかどうかは分かりません。Cの手法でマスターリングが上達
するとも思えません。

 さらに言うなら、Cで楽しんでくれたプレーヤーが、これからもRPGを続けて
くれるかどうか、非常に心もとないと思えます。

 なぜなら、Cで楽しんだプレーヤーは、結局のところ集まってにぎやかに話すこ
とを楽しんだだけで、RPGというゲームのユニークさ(課題の解決や、役割分担
など)から生ずる、RPG特有の楽しみを味わったわけではないからです。

 Cの方法でRPGを楽しんだとしても、それは単に楽しむ手段がRPGだったと
いうだけで、別にカラオケでも麻雀でも雑談でも手段は何でもよいということにな
ります。なら、わざわざ面倒なRPGをプレイする必要がどこにあるでしょうか。

 大げさに言うなら、Cの方法でプレーヤーをもてなしているゲームマスターは、
長い目で見るとRPGプレーヤー数を減らし、RPGの将来を暗くするのに一役買
っていると見なすことさえ可能です。

**

 今回の結論は次の通りです。

 ・プレーヤーに指向性があるのに対応して、RPGシステムには方向性がある。
  ゲームマスターは、セッションにおいて両者が矛盾しないように細心の注意
  を払うべきである。

 ・これに失敗した場合、セッション中に何らかの手段でフォローするのは止む
  を得ないが、それはあくまで「失敗のフォロー」であり、結果的に参加者が
  楽しんだとしてもマスターリングが成功したわけではないことをよく自覚し
  なければならない。そうでない限り、改善は望めず、すなわち上達もない。

 ・一般的に、ゲームマスターはプレーヤーを選べないケースが多い。そのよう
  な場合、プレーヤーの指向に合わせてRPGシステムを選択することが必要
  となる。
  この選択の幅を広げるためにも、ゲームマスターは様々なRPGシステムを
  知り、理解しておくことが大切である。
  また、言うまでもなく、ゲームマスターは、どちらの指向にも対応できるこ
  とが求められる。

 RPGシステム選択における項目として、私が「方向性」を最も重要とした理由
が、今やお分かりのことと思います。


1.2 役割分担

 RPGシステム選択の第1のポイントは、その方向性だと申し上げました。
 次に、第2のポイントに移ります。それは、「役割分担」という項目です。

 「役割分担」と言われても何のことか分からない人も多いことでしょう。
 実はこれ、私としては「ロールプレイ」の訳語のつもりなんです。

 なぜ、ロールプレイを「役割分担」と訳したのか、これが今回のテーマです。

 これを説明するためには、まず最初にどうしても「ロールプレイ」という用語に
ついて見直しを行わなければなりません。なぜなら、この用語は非常に混乱した使
われ方をしているため、以降でこの用語を安直に用いると誤解を招くことが避けら
れないためです。

**

 唐突ですが、ここに山田さん(大手製造業社勤務、37歳、技術課長)という人
がいるとします。
 朝、山田さんは、娘(真理、2歳)に「まりちゃ〜ん、パパ、かいしゃにいって
きまちゅね〜」と言ってから出勤します。
 午前中、山田さんは「田中君、きみ、いったい何年仕事してるのかね。どうした
らこんな初歩的なミスを見逃せるんだ!」などと部下を叱りつけます。
 午後、山田さんは顧客を訪問して「我が社の製品についてご説明申し上げます」
などとプレゼンテーションします。
 退社後、山田さんは別の会社に勤務している同期の友人と飲みに行って、会社や
部下への不満について「ったく、やってらんないよなー」などとしゃべります。

 さて、時と場合によって山田さんの態度や言動が全く異なりますね。山田さんは
異常人格者なのでしょうか。いいえ、そうではありません。誰だって社会に生きて
いる以上、山田さんと同じように、時と場所によって態度や言動を変えるはずです。

 要するに、山田さんは相手によって、ふさわしい(つまり他人が期待している)
社会的役割を果しているのです。その社会的役割というのが、娘に対しては優しい
パパであり、部下に対しては厳しい上司であり、顧客に対しては信頼できる担当者
であり、同期に対しては親しい友人である、ということです。

 これが、本来の意味の「ロールプレイ」です。

 社員研修やある種の精神療法で「ロールプレイ」を行う場合、それは「実際とは
異なる社会的役割」が与えられたと仮定して、その社会的役割を果してみる、とい
う形になります。それにより、異なる社会的役割について理解を深めたり、あるい
は自分について見直すきっかけが与えられたりするわけです。

**

 ここで指摘しておきたいのは、本来の意味の「ロールプレイ」は、他人との関係
を円滑に進めるため、大げさに言うなら社会秩序を維持するためにあるということ
です。これがロールプレイの目的です。

 もし、ある日、山田さんが、娘に対して「真理君、きみ、いったい親孝行という
ものをどう考えているのかね。今後3年間の親孝行計画についてレポートを書いて
提出したまえ。月曜日、朝いちだ!」と怒鳴り、部下に「さて、それでは当課の業
務遂行上、不満な点についてご説明申し上げます。ご質問などありましたら、適宜、
ご指摘下さるようお願いします」と叱り、顧客に「うちのぱそこんはかっこいいで
ちゅう〜」などと説明していれば、きっと本人も周囲の人も困った事態に陥ること
でしょう。

 人間の集団、組織、社会が円滑に動き、何であれ目的の達成に近づくためには、
そのメンバーは多かれ少なかれロールプレイすることが必要なのです。
 以降では、この本来の意味でいうロールプレイを、「社会的ロールプレイ」と呼
ぶことにします。

 ここまでの結論をまとめておきます。

 ・本来の意味の「ロールプレイ」は、集団や組織の各メンバーが、「他の人に
  期待されている役割」を果たすことを意味する。その目的は、集団や組織を
  円滑に動かすことである。
  これを「社会的ロールプレイ」と呼ぶことにする。

 ・社会的ロールプレイは、本質的に「他人から期待される役を演ずる」もので
  あり、自分がやりたい役を演ずるものではない。(たまたま両者が一致する
  こともある)

**

 RPGの話に戻りましょう。

 RPGにおける「ロールプレイ」というのは、もともとプレーヤー間に協調関係
を作り、全員がゲームに参加できるようにするために考案された仕掛けなのです。

 ゲームにおいては、参加者に対して「目標」と、その目標を達成するために克服
しなければならない「障害」が与えられます。一般的なゲームでは、「プレーヤー
間の競争、対立」が障害として機能します。

 RPGも基本的には同じなのですが、ごく一部の例外を除いて、「プレーヤー間
の競争、対立」は存在しないか、少なくともゲームの主眼にはなりません。RPG
においては、ゲームとしての「障害」はゲームマスターが用意し、プレーヤーは互
いに協力、協調してそれを克服しようと試みるのです。

 このとき、もし強いPCが1人だけで障害を克服して目標を達成できるのなら、
そのプレーヤーが他のプレーヤーと協力する必然性はなくなります。また、セッシ
ョンにおいては、そのPCだけが活躍し、目立つことになるでしょう。
 これでは、他のプレーヤーは面白くありません。

 そこで、RPGのデザイナーは、実に巧妙な仕組みを考え出しました。

 その仕組みとは、次のようなものです。

 ・ルールで、明確に「役割(ロール)」を定義する。

 ・複数の「役割(ロール)」が協力しないと、障害を克服できないようにする

 ・各PCがそれぞれ1つの「役割(ロール)」を分担し、各人が自分の役割を
  「遂行(プレイ)」することを義務づける。

 これは、素晴らしい着想です。
 これにより、どのPCも一人では障害を克服することが出来なくなり、否応なし
に協力しなければならないようになるのです。

 最初のRPGにおける主な障害はモンスターやトラップだったので、これらを克
服するための「役割(ロール)」として定義されたのは、「モンスターの撃退担当」
「魔法的な課題の担当」「治療の担当」「トラップの発見解除の担当」の4つでし
た。この4つの役割(ロール)が協力しないと、ダンジョンから生きて帰ってくる
ことが出来ない、というわけです。

 そして、これらの役割(ロール)を分かりやすく「戦士」「魔法使い」「僧侶」
「盗賊」などと呼んだのです。

**

 このように、もともとRPGでいうところの「ロールプレイ」は、すなわち自分
のPCに期待されている役割(モンスターを撃退するとか、トラップを解除すると
か)を果たすことを意味していたのです。
 役割(ロール)を遂行(プレイ)する、すなわちロールプレイです。
 以降では、このようなロールプレイを「役割分担のロールプレイ」と呼ぶことに
しましょう。

 前回、私は「RPGシステムの最大の特徴は、プレーヤーの目的と、PCの目的
を分離独立させたことだ」というようなことを申し上げましたが、その次に重要な
特徴はと問われれば、この「複数の役割をPC間で分担し、それぞれの役割が協力
しないと障害を克服できないようにすることで、プレーヤー間に協力を強制してい
ること」ことを挙げます。

**

 さて、このようにしてプレーヤー間で協力することになると、それは集団・組織
が構築されたことになります。PCの集団・組織は「パーティ」と呼ばれます。こ
れに対応する「協力関係にあるプレーヤーの集団・組織」を示す用語がないのです
が、ここでは「プレーヤー・パーティ」と呼ぶことにしましょう。

 プレーヤー・パーティは人間の集団・組織ですから、前述したように集団・組織
を円滑に動かすために、「社会的ロールプレイ」が必要になってきます。つまり、
各人が「役割にふさわしい(と他人が期待する)言動」をとることで、各人の役割
がより明確になり、協力関係が円滑に進むわけです。

 具体的に言うと、例えば「戦士」は勇敢(獰猛)で無教養(野蛮)な言動をとり、
「魔法使い」は落ちついた神秘的な物腰をとる、といった具合です。

 気をつけてほしいのは、これは「社会的ロールプレイ」であり、すなわち他人の
期待に応えるために演技しているのだということです。繰り返すようですが、社会
的ロールプレイとは、自分が望むように演技することではありません。

**

 ここまでの話を整理してみましょう。

 ・初期のRPGは、ルール上、複数の役割を定義してPCに分担させ、それら
  の役割が協力しないと障害を克服できないようにしている。
  これが「役割分担のロールプレイ」である。
  「役割分担のロールプレイ」の狙いは、プレーヤー間の協力関係を構築する
  ことである。

 ・協力関係により生ずるプレーヤーの集団・組織を円滑に動かすために、一般
  的な社会と同じく「社会的ロールプレイ」が用いられる。
  これが「戦士らしい言動」や「魔法使いらしい言動」として表れる。これら
  は、社会的ロールプレイであるから、他人の期待に応えるための演技である。

 ここまでは、RPGがゲームとして適切に機能し、プレーヤーが円滑に協力する
ために必要なことです。

**

 ところが、RPGが普及するにつれ、「役割分担のロールプレイ」「社会的ロー
ルプレイ」を行うだけでは不満なプレーヤーが出てきました。彼らは、PCの個性
も表現したいと考えたのです。

 これは、悪くない考えです。PCの性格や個性をうまく表現することが出来れば、
感情移入が促進され、ゲームはより面白くなります。
 そこで、このように「PCの個性の表現」のための演技を「キャラクタープレイ」
と呼ぶことにしましょう。

 強調しておきますが、このような「キャラクタープレイ」はRPGを面白くする
味付け、雰囲気を出すためのちょっとした工夫であって、それ以上のものではない
ということです。

 つまり「キャラクタープレイ」というものは、「役割分担のロールプレイ」や
「社会的ロールプレイ」を前提にしているのであって、これらを覆すものではない
のです。

**

 「役割分担のロールプレイ」はゲームメカニズム上、「社会的ロールプレイ」は
プレーヤー間の関係を動かすために、それぞれ本質的に重要な意味を持っています。

 これに対して「キャラクタープレイ」は、雰囲気を高め感情移入を促進するため
に付け加えられる要素であり、実のところ本質的な重要性を持っていません。

 ところが、この「キャラクタープレイ」は、感情移入をあまりにも強く促進し、
プレーヤーに強い興奮・感動・喜びを与えます。これが非常に印象的であるため、
一部のプレーヤーは「キャラクタープレイ」を本来のロールプレイより優先するよ
うになってしまいました。

 それどころか、単に「ロールプレイ」と聞けば「キャラクタープレイ」のことだ
と思い、本来のロールプレイの意味を知らない人すらいるようです。

 結果として「このPCはそういう性格じゃないから」といった理由で、ゲーム上
そのPCが果たすべき役割を放棄する、といった本末転倒なプレーヤーすら登場し
ます。しかも、これを悪意を持って行うのではなく「RPGはそういうものだから」
と信じてやるのです。

**

 これでは、生活の楽しみを増やすために飲みはじめた酒が止められなくなり、つ
いに酒を飲むために生活を犠牲にするようなものです。非常によくない傾向だと思
います。

 どうしてこうなったのか考えてみるに、雑誌を始めとするRPGの紹介に問題が
あったのではないでしょうか。

 「RPG=キャラクターのロールプレイを楽しむもの」「RPG=皆で協力して
ストーリーを作るもの」といった、間違った(少なくとも偏った)解説が氾濫した
結果、初めてRPGに触れる人々が、本来のRPGの遊び方を知らないままRPG
をプレイし始めたのではないでしょうか。

 このような遊び方でRPGをプレイしている人は、進歩も上達もなく同質の楽し
みを繰り返すだけであり、また同じ楽しみがRPG以外でも得られるため、いずれ
RPGに飽きて止めてしまうに違いありません。これは何度も強調した通りです。

 このような遊び方でRPGをプレイする人が増えることは、一時的にプレーヤー
の増加を招くとしても、長い目で見て決してRPGにとってプラスに働かないだろ
うということは容易に分かります。

**

 本講座は、マスターリング上達のための基本的な考え方を明確にするものなので、
ここで「キャラクタープレイ」の重要性をはっきり否定しておきます。
 つまり、こういうことです。

 ・RPGにとって(少なくともRPGの上達にとって)重要なロールプレイは、
  「役割分担のロールプレイ」と「社会的ロールプレイ」だけである。
  「キャラクタープレイ」は、上の2つをきちんと果たした上で、補足的に持ち
  いるべきものである。

 「役割分担のロールプレイ」や「社会的ロールプレイ」については、それが上手
いか下手か、適切か不適切か、上達したかしてないか、などを、割と客観的に論ず
ることが出来ます。つまり「方法論」を立てることが出来るわけです。それに対し
て「キャラクタープレイ」について同じことを客観的に論ずることは困難で、そも
そも「方法論」を立てることが出来ないと思えます。

 最初に申し上げた通り、「上達」を目指す本講座としては、方法論不在の手法を
認めることは出来ません。

**

 前振りがずいぶんと長くなってしまいました。次回は、ロールプレイとRPGシ
ステムの関係、クラスシステムとスキルシステムについて解説し、システムの選択
における重要ポイントの1つを示すことにしましょう。


1.2 役割分担(続き)

 RPGにとって、「役割分担」が本質的に重要な役目を持っていることは前回に
説明しました。
 では、RPGシステムは、役割分担をどのように扱っているのでしょうか。

**

 「役割分担」を扱う最もダイレクトな方法は、ルールではっきり役割を定義して、
それをPC間で分担するよう明に規定することでしょう。
 この方法を採用するRPGシステムでは、役割のことを「クラス」と表現するこ
とが多いため、一般にこのようなシステムは「クラスシステム」と呼ばれます。

 「クラス」というのを単に「職業」のことだと思っている人がいるのですが、こ
れは正確な理解ではありません。

 クラスというのは、ゲームの目的を達成するために必要な役割、職務を指してい
るのです。例えば「情報収集担当」とか「対人交渉担当」「機械修理担当」「敵対
的暴力の排除役」といった具合です。

 クラスの名称がしばしば「傭兵」「メカニック」「商人」といった職業名になっ
ているのは、単にそのほうが分かりやすいからに過ぎません。本質的なのは「ゲー
ムの目的を達成する上で、そのPCはどんな役割を分担しているのか」です。PC
のクラス名(職業名)に必要以上にこだわることはありません。

**

 さて、クラスシステムのメリットは、参加者に「役割分担」をはっきり意識して
もらえる、という点にあります。ですから、RPGに慣れていないプレーヤーを相
手にするときは、まずはクラスシステムのRPGを選択することをお勧めします。

 クラスシステムを使うと、プレーヤーに対して「自分のPCの役割」をはっきり
告げて、何をすればよいか教えることが容易になります。

 ・君は「戦士」だから、パーティがモンスターに遭遇したら先頭に立って戦わ
  なきゃいけないよ

 ・君は「盗賊」だから、ドアや宝箱を開くときにはトラップがないか調べるの
  を忘れないように

といった具合です。あるいは

 ・君は「私立探偵」だから、聞き込みや捜査による情報収集が役目だ

 ・君は「医者」だから、止むを得ない場合を除いてなるべく戦闘には参加しな
  いで、他のPCへの応急手当ての準備をしてくれ

ということもあるでしょう。いずれにしても、クラスシステムのRPGにおいては、
「自分のPCに何をさせればよいか」が割と明確に見えるので、RPGに慣れてな
い初心者プレーヤーでもプレイしやすいのです。

**

 初心者プレーヤーでなくても、「役割分担」意識が希薄なプレーヤーがいます。

 よくあるのが、「RPGでは、やりたいように自由に行動できる」などと錯覚し
ているプレーヤーです。(雑誌や解説本の無責任な記事が、このようなプレーヤー
を増やしているような気がしてなりません)

 RPGにおけるPCの行動は、ルール、背景世界、戦略など様々な面から制約を
受けます。なかでも、最も重要な制約は次の2つです。

  ・PCは、分担した役割を果たすべく努力しなければならない

  ・PCは、分担した役割を逸脱しないよう気をつけなければならない

 ところが、役割分担という意識が希薄なプレーヤーは、こういった制約について
よく認識していません。ですから、自分の役割をさぼったり、他人の役割に手や口
を出したりして、いらぬトラブルを引き起こすのです。

 そこで、こういうプレーヤーを相手にするときには、クラスシステムのRPGを
お勧めします。そして、次のように「他のPCと役割分担し、協力してゲームを進
める」という基本的な姿勢を強いるのです。

 1.キャラクター作成前にプレーヤー間で「役割分担」を決めさせる。
   それから、各プレーヤーに、役割にもっともふさわしい「クラス」を割り
   当てる。

 2.決定した役割にふさわしい能力や性格を持ったPCを作るよう指示する。

 3.セッション中も、各PCが与えられた役割を果しているか監視し、著しく
   怠慢または役割を逸脱した言動についてはゲームマスターから指摘して、
   それが役割分担という観点から許容される言動かどうか他のプレーヤー達
   に判断してもらう。

**

 さて、ゲーム中にとれる行動の選択肢が多くなり、可能な役割のバリエーション
が広がってくると、単純なクラスシステムではうまく機能しなくなってゆきます。

 例えば、ダンジョン探索だけのRPGなら、4つのクラス(戦士、盗賊、僧侶、
魔法使い)でうまく役割分担できることでしょう。しかし、シティアドベンチャー
(街を舞台にしたシナリオ)になると、4つのクラスだけでは役割が足りないよう
になります。例えば、買物をするときに店員と交渉する役割とか、馬に荷物を運ば
せる役割、酒場で情報を聞き出す役割、といった具合に決めなければならない役割
が増えるわけです。
 これが現代社会や未来社会を舞台にするRPGになると、さらに行動の選択肢が
増えます。クラスシステムだけではうまくゆきません。

 この問題を解決するために考え出されたのが、「スキル」というパラメタです。

 「スキル」は、クラス」に比べて非常に細かい役割分担を表しています。
 さきほどの例で言うなら「店員と交渉する役割」「馬を扱う役割」「情報を聞き
出す役割」をそれぞれスキルとして定義し、それをPC間で分担するのです。

 こうして、あるPCは「乗馬」スキルを持ち、別のPCは「交渉」と「聞き出し」
スキルを持つ、という具合に役割を分担することになります。

**

 お分かりの通り、「クラス」と「スキル」は対立する概念ではありません。それ
どころか、ある意味ではこの2つは非常に似ています。「クラス」は大雑把で広い
範囲の役割分担であり、「スキル」は詳細で狭い範囲の役割分担なのです。

 これは、例えば「メカに関しては全て君が担当ね」と分担を決めるのと、「電子
機器は僕の担当で、機械部品は君の担当だよ。大型機械は彼の担当だね」というよ
うに分担を決めることに相当します。

 どちらも「役割分担」を明確にするための手法という意味では同じなのです。

 ですから、最近のクラスシステムは、大雑把な役割分担を「クラス」で決め、細
かい役割分担を「スキル」で決めるという、相互補完型になっているようです。ま
た、役割分担に不整合が起こらないように、クラスによって取れるスキルに制限を
付けるというのが一般的なようです。

 こういうシステムを、「スキル補完型のクラスシステム」と呼ぶことにしましょ
う。

**

 しかし、RPGシステムのなかには、クラスという考え方を止めてしまい、全て
スキルで役割分担させるようになったものもあります。このようなRPGのことを
一般に「スキルシステム」と呼びます。

 ここで強調しておきたいのは、「スキルシステムのRPGでは、役割分担しなく
てよい」わけではないことです。(ときどき誤解しているプレーヤーを見かけるも
ので、あえて強調しておきます)

 上でも説明した通り、スキルは役割分担のためにあるのです。「スキル補完型の
クラスシステム」と「スキルシステム」に大きな違いはありません。前者は、役割
分担に大雑把なくくりがあるというだけのことです。

**

 スキルシステムでは、役割分担を細かく自由に調整することが出来ます。このた
め自由度は広がりますが、その代わりにプレーヤーがよく話し合って役割分担を調
整しなければなりません。

 例えば、代表的なスキルシステムである「メガトラベラー」を取り上げてみまし
ょう。このRPGでは、例えば対人交渉だけでも、上流階級との交渉、役人との交
渉、商売の交渉、異邦人との交渉、暗黒街での交渉、それぞれに別々のスキルが定
義されています。

 ですから、プレーヤーはよく話し合って、誰がどの交渉を担当するか決めなけれ
ばなりません。

**

 役割分担という意識が希薄なプレーヤーを相手にするときは、スキルシステムは
お勧めできません。何しろ、役割分担はプレーヤー間で自主的に決めるというのが
前提となっていますから。

 しかし、役割分担の重要性をよく分かっており、役割の分担を細かく調整したい
と思っているプレーヤーが相手なら、スキルシステムはお勧めです。

 なぜなら、役割分担のバリェーションが非常に幅広くなり、一人のプレーヤーに
可能な疑似体験の種類が広がるからです。「対人交渉の役割」を1人だけが担当す
るのに比べて、全員が各人にとって「得意な相手」と交渉できる方が、疑似体験の
種類が広がるわけです。

 このため、一般に疑似体験指向のプレーヤーは、スキルシステム、あるいはスキ
ル補完型クラスシステムでもスキル重視のRPGを好むようになってゆくようです。

**

 まとめると、次のようになります。

 ・RPGシステムでは、役割分担を明確にするのに「クラス」や「スキル」と
  いうパラメタを使用する。「クラス」は大雑把で広い範囲の役割分担であり、
  「スキル」は詳細で狭い範囲の役割分担である。

 ・RPGシステムは、役割分担のやり方によって、「クラスシステム」「スキ
  ル補完型のクラスシステム」「スキルシステム」等に分類される。

 ・RPGに慣れてないプレーヤー、または役割分担の意識が希薄なプレーヤー
  を相手にするときは、クラスを重視するRPGシステムを選択するとよい

 ・役割分担を細かく調整したいときには、スキルを重視するRPGシステムを
  選択するとよい

 これが、RPGシステムを選択する際の第2の着眼点である「役割分担」です。


1.3 背景世界

 ゲームがゲームとして機能するために重要な要素には、「目標」「障害」「意志
決定」などがあります。

 既に解説しましたが、「RPGシステムの方向性」は、ゲームとしての「目標」
と関連していました。

 同様に、RPGにおける「役割分担(ロールプレイ)」というものは、ゲームと
しての「障害」(の克服)にストレートにつながってゆきます。これも以前に解説
した通りです。

 要するに、これらはRPG特有の項目というわけではなく、ゲームとしての普遍
的な要素に深くかかわり合いを持っているのです。
 私が、これらの項目を「RPGにとって本質的に重要」と考える理由はそこにあ
ります。

 さて、以前に「RPGシステム選択のポイント」として「背景世界」を挙げたの
は、そう、背景世界というものがゲームの普遍的な要素に関わっているからです。
その普遍的な要素とは、「意志決定」です。

**

 RPGの魅力の多くが、その背景世界にあることは論を待たないでしょう。
 もし「グローランサ」がなかったとしたら、ルーンクエストがこれほどの人気を
誇っているかどうかは分かりません。

 いくつかのRPGの背景世界が余りにも魅力的であるため、しばしば「背景世界
というものは、プレイの雰囲気作りや演出のためにある」と思い込んでいる人がい
るようです。

 実際、オリジナルな「背景世界」を作っている人の多くは、雰囲気作りや演出の
ことしか念頭にないように思えてなりません。

 確かに雰囲気作りや演出も背景世界にとって大切なことです。しかし、ここでは、
多くのRPGに「背景世界」が存在する本質的な理由について考えてみることにし
ましょう。そうすれば「優れた背景世界」「不適切な背景世界」といった客観的な
分析評価が可能になります。

**

 まず最初に、RPGにおける「行動の自由」について考えてみましょう。

 「RPGにおいては、PCは自由に行動できる」というようなことがよく言われ
ます。しかし、これはあくまで「コンピュータRPGに比べれば」という意味であ
って、文字通り「自由に行動できる」わけではありません。

 実際、もし完全に自由に行動できるとしたら、何をしてよいか分からず、結局の
ところ何も有意義な行動がとれないのではないでしょうか。

 ゲームにおいてプレーヤーが意志決定を行うためには、有限個の(おそらく片手
で数えられる程度の個数の)選択肢が与えられ、かつ各々の選択肢についてある程
度の情報が得られていなければならないのです。

 無限の選択肢など、与えられても困惑するばかりです。
 そもそも人間が求めている「自由」というのは「選択の自由」なのです。完全で
無制限な自由など、本当のところ誰も望んではいません。

 というわけで、RPGがゲームとして成立するためには、PCの自由を束縛する
ことで、「ゲーム中にプレーヤーが選べる選択肢を絞り込む」こと、さらに「選択
肢について判断を助ける情報を与えること」が必須になります。

**

 RPGにおいて最初に用いられた「ゲーム中にプレーヤーが選べる選択肢を絞り
込む」ための仕掛けは、ダンジョンでした。

 ダンジョンは、極めてダイレクトにPCの行動を制限します。

 PCはダンジョンの構造に沿って移動するしかなく、プレーヤーが選べる選択肢
も「ドアを開ける」「通路を調べる」「次の曲がり角まで進む」といったものに限
定されます。(もちろん、「グリーンスライム相手に下品なジョークを飛ばす」と
いった無意味な行動も可能なのですが、ここではゲーム的に有意義な選択肢につい
てだけ考えることにします)

 このように、初期のRPGでは、ダンジョンという舞台設定によりプレーヤーの
選択肢が厳しく絞り込まれたため、それ以上の仕掛けは不要だったのです。

**

 シティ・アドベンチャー(街や村が舞台となるシナリオ)が可能になると、PC
には大幅に行動の自由が与えられます。

 ところが、「さあ、ここは街だ。どこに行って何をしてもいいよ」と言われても
プレーヤーは困ります。何でも出来るということは、実は何も出来ないということ
に限りなく近いのです。

 あるいは、「インターネットにアクセスする」「国王に会いにゆく」「エルフの
娘に結婚を申し込む」「36億年前にタイムトラベルする」などと口々に言いだし
て収拾がつかなくなるかも知れません。

 ゲームを成立させるためには、プレーヤーの選択肢を絞り込むことが必要なので
す。つまり、PCに何が出来て何が出来ないのかを決めるための情報が求められる
のです。

 では、PCに出来ることと出来ないことをルールで規定してはどうでしょうか。

 第1条:タイムトラベルは不可能である。

 第2条:インターネットは存在しない。

 第3条:人間の街にエルフは生活していない。
     エルフとの遭遇ルールについては第67条を参照。

 第4条:国王に会うことは可能だが、十分な理由がないと許可されない。
     国王に会うための理由については第32860222条を参照。

といった具合に、考えられる全ての行動についてルールで規定するのです。

 ・・・無理ですね。

 ですから、現実問題としては、個々の行動についてそれぞれルールで可否を決め
るのではなく、全体的で大雑把な指針を示すことになります。

 第1条:以降で特に明記されてない事柄については、トールキンの「指輪物語」
     の世界をモデルにして判断すること

 第2条:人口の2%が魔法使いである。魔法の存在は広く信じられ、恐れられ
     ている。魔法が使われることは滅多にない。魔法を目撃した一般大衆
     の反応は次の通りである。・・・

 第3条:人間以外の知的種族としてエルフとドワーフが生息している。各種族
     の基本的な特性は次の通りである。・・・

といった具合です。お分かりの通り、「背景世界」の構築が始まったのです。

**

 米国で最初に「トラベラー」が出版されたとき、このゲームには全く背景世界が
ありませんでした。プレーヤーはどこの星に行って何をしてもよかったのです。
完全な自由、無制限の選択肢。何と素晴らしいこと・・・だったでしょうか?

 ユーザの反応は、はっきりしたものでした。「背景世界を!」と彼らは要求した
のです。自由度の高いRPGは、背景世界なしでは遊べなかったのです。出版元の
GDW社は、こうしたユーザの声に応えて、オフィシャルな背景世界の構築にとり
かかりました。
 こうしてRPG史上、最も著名な背景世界の一つ「トラベラー宇宙」が誕生した
のです。

 同じように、当初はルールシステムだけしかなかったD&Dにも、シティ・アド
ベンチャーの普及に伴って、後からオフィシャルな背景世界が追加されてゆきまし
た。

 背景世界は決して「雰囲気を高めるため」といった理由で登場したのではありま
せん。RPGというゲームは、他のゲームに比べてプレーヤーの選択肢が広いため、
どうしても背景世界による制限が必要になるのです。

**

 ここまでの話をまとめてみましょう。

  ・ゲームにおいて、プレーヤーが「意志決定」するためには、選択肢が絞り
   込まれていること、各々の選択肢についてある程度の情報が与えられてい
   ることが必要である。

  ・一般のボードゲームは、この「選択肢の絞り込み」を、ルールで規定して
   いる。つまり、特定の選択肢から行動を選ぶようルールで強制し、かつ、
   それぞれの選択肢がどのような効果を持つかルールで規定されている。

  ・これに対して、RPGというゲームでは、一般のボードゲームに比べてプ
   レーヤーの選択肢が広いため、ルールではなく「背景世界」という形で選
   択肢を絞り込み、また選択肢に関する情報を提供している。

  ・すなわち、RPGにおける「背景世界」の存在意義は、プレーヤーの「意
   志決定を支援する」ことにある。

 これで、背景世界を評価するポイントがお分かりのことと思います。それは、そ
の背景世界がいかにしてプレーヤーの意志決定を支援しているか、というところに
あるのです。

 また、オリジナルな背景世界を設定するときに何を検討すればよいかも明らかで
す。それは「どうすれば魅力的な世界になるか」でもなく、「どうすればもっとも
らしい歴史が作れるか」でもなく、「プレーヤーの意志決定をどのように支援しよ
うか」ということなのです。

**

 次回は、最近のRPGにおける背景世界について概説し、それらがプレーヤーの
意志決定を支援する様々なやり方について考えます。さらに、RPGシステム選択
において背景世界をどのように考慮すればよいかを示しましょう。


1.3 背景世界(続き)

 今回は、色々なRPGの背景世界をとりあげて、それがプレーヤーの意志決定を
どのように支援しているかを概観してみることとしましょう。

**

[カテゴリ1:PCの立場や行動パターンをあまり制限しないRPG]

 ルールブックでは、PCの立場として「各地を放浪する冒険者」とか「報酬さえ
見合うなら、どんな依頼でも引き受ける仕事人」といった、ごくごく曖昧なものを
想定しているRPGです。こういったRPGでは、PCの信条、生き方、どの組織
がバックについているか、といったポイントは特に強くは制限されず、原則として
GMとプレーヤーで割と自由に決めることが出来ます。

 具体的には、「ルーンクエスト」「トラベラー/メガトラベラー」「シャドウラ
ン」といった作品がカテゴリ1に分類されます。

 こういうRPGは、プレーヤーの意志決定を次のように支援します。

 ・行動の選択肢を全般的に絞り込むための仕掛けを提供する

   例:ルーンクエストにおける「カルト」
     トラベラー系における「借金返済」
     シャドウランにおける「スタイル」

 ・プレーヤーが取りうる選択肢ごとに、それを支援する情報を提供する

 これらのRPGにおける背景世界デザインの発想は「基本的にプレーヤーの選択
肢はなるべく制限しないようにしましょう」「その代わり、各選択肢について十分
な情報を提供しましょう」というところからきています。

**

 お分かりの通り、こういうRPGの背景世界情報は膨大なものになってゆきます。

 軍に入隊してドンパチやるという選択肢を選ぶプレーヤーのためには軍事の設定
情報が、商売を始めて儲けたいプレーヤーのためには経済の設定情報が必要になり
ます。スパイになりたいプレーヤーには政治の、警官(あるいは犯罪者)になりた
いプレーヤーには犯罪の、神官になりたいプレーヤーには宗教の設定情報を用意し
なければなりません。

 結果として、次々にサプリメントが提供され、どんどん背景世界情報が蓄積され
てゆくことになります。
(注意:1996年7月現在、「シャドウラン」の背景世界情報はほとんど翻訳さ
れていません。日本語版しかご存じない方は、このRPGには膨大な背景世界情報
が用意されているのだということを念頭に置いてお読みください)


 これは、メリットでもあり、またデメリットでもあります。

 メリットというのは、こういう背景世界が気に入れば、PCの立場や行動パター
ンとして色々なものを次から次へと(サプリメントが出る度に)試しながら、ずっ
と飽きずにプレイし続けることが出来るということです。

 現に、これらのRPGの背景世界には固定ファンが付いており、彼らは基本シス
テムが発売されてからずっと(作品によっては10年以上も)同じ背景世界でプレ
イを続けているのです。

 デメリットというのは、その背景世界情報があまりにも膨大になってくるため、
またプレーヤーが背景世界をよく知って能動的に遊ばないと面白くないため、初心
者が気楽に始めることが出来ない、また固定ファンにならない限りプレイを続ける
ことが困難、ということです。

 ついでながら、次々にサプリメントを出さなければならないということも、ゲー
ム会社にとってデメリットと言えるかも知れません。

 ですから、カテゴリ1のRPGは、「のめり込んでサプリメントをガンガン買い
続けることになるか、すぐに投げ出してしまい一度もプレイしないか」どちらかに
なりがちです。つまり、基本ルールブックを購入する際に覚悟が必要です。

 逆に言えば、こういうRPGは「名作として長くプレイされるか、すぐにプレイ
されなくなるか」というどちらかの運命を辿ることになりがちです。そういう意味
で、出版する方にも覚悟が要求されるといってよいでしょう。
(明らかにカテゴリ1の発想でデザインしたRPGなのに、ろくにサプリメントも
出さないでサポートを打ち切るという「基本ルール出し逃げ詐欺」をやる気なら別
ですが・・・。悲しいことに、日本ではこういう詐欺商法は珍しくありません)

 こういった深刻なデメリットにも関わらず、カテゴリ1の作品は「RPGの王道」
というか何というか、とにかくRPGを続けるなら絶対に手を出してほしい作品で
一杯です。ゲームマスターとして技量向上を目指すなら、これらのRPGにいつか
必ず挑戦して下さい。

**

 さて。

 さきほど、カテゴリ1のRPGのデメリットとして「背景世界情報が多くなり過
ぎて、古くからの固定ファン以外には付いてゆけなくなる。特に初心者が気楽にプ
レイすることが出来なくなる」という点を挙げました。
 このデメリットを解消するにはどうすればよいでしょうか。

 すぐに思いつく解決方法は、背景世界の情報をばっさりと切り捨てることです。

 実際、これは誰でも思いつくらしく、背景世界の情報を捨てることでカテゴリ1
のRPGをリニューアルしようという試みは珍しくありません。

 具体的に言うと、「ルーンクエスト'90s」「トラベラー:ザ・ニュー・エラ」が
これに当たります。それぞれ、カテゴリ1の代表作であるルーンクエストとトラベ
ラーの背景世界をばっさり切り捨てた作品です。

 しかし、こういう作品は、狙ったほど新規プレーヤーを獲得することが出来ず、
しかも古くからのファンにはそっぽを向かれ、結局のところ商業的に失敗する運命
にあるようです。

 そこで、最初から「カテゴリ1のRPGに比べてかなり少ない背景世界情報で、
しかもプレーヤーの意志決定を十分に支援する」というのを狙ってRPGをデザイ
ンすることが必要になります。
 どうすれば、こんなことが可能になるでしょうか?

**

[カテゴリ2:PCの立場や行動パターンを制限するRPG]

 そう。PCの立場や行動パターンを制限すればよいのです。そして、そのパター
ンで必要になる設定情報だけを用意します。そうすれば、自由度が下がる代わりに
必要な設定情報を(カテゴリ1のRPGに比べて)大幅に減らすことが出来るわけ
です。

 例えば「メックウォリアー」を見てみましょう。

 このRPGでは、PCは(タイトルの通り)メックウォリアーと呼ばれる戦士に
なり、巨大ロボットを操縦して戦争することになります。これ以外の遊び方は許さ
れません。

 このようにPCの立場と行動パターンを制限することで、背景世界情報としては
政治、軍事だけの情報で済んでいます。

**

 「トーグ」は様々な点で画期的なRPGですが、PCの行動パターンを制限する
ために新しい手法を編み出したという点でも注目できます。

 その手法とは、まずPCの行動パターンをいくつか決めて、各行動パターン毎に
専用の背景世界を設定するというものです。(もちろん、指定された行動パターン
を強制するための仕掛けがいくつも用意されています)

 例えば、難しいことを考えず感情的・衝動的に行動するための背景世界、活劇と
オーバーアクションのための背景世界、陰謀と裏切りのための背景世界、といった
具合です。

 これにより、特定の行動パターンで必要になる情報だけを用意すればよいので、
個々の背景世界の情報を削減できるわけです。

**

 PCの行動パターンを制限するための別の方法として、小説や映画の背景世界を
原作として使うという手があります。

 「クトゥルフの呼び声」では、ラブクラフトが書いたクトゥルフ神話と呼ばれる
一連の作品を背景世界として使うことで、PCの行動を制限しています。

 ラブクラフトの作品においては、怪事件に遭遇した主人公は、一人で(あるいは
友人を連れて)世間に知られないようにこっそり探索を行い、その恐怖の源を見つ
けて死んだり発狂したり禁断の書物を執筆したりします。

 もし、この原作がなく、「クトゥルフの呼び声」をルールシステムだけでプレイ
したとすれば、きっと誰もが「警察に届ける」「新聞社に連絡する」「傭兵または
ボディガードを雇う」「サブマシンガンとダイナマイトを購入する」といった行動
をとるでしょう。

 PCに古典的ホラー小説的な行動を強制し、プレーヤーの選択肢を絞り込んでい
るのは、原作小説なのです。


1.3 背景世界(続き)

 前回は、背景世界の情報を割と豊富に提供するタイプのRPGについて解説しま
した。今回は、背景世界の情報に乏しいRPGについて見てみることにしましょう。

 RPGにおいて背景世界が必要になる本質的な理由は、雰囲気作りでも演出でも
シナリオソースでもなく、プレーヤーの意志決定支援である。これは何度か強調し
てきた通りです。

 ですから、逆に言えば、「選択肢を絞り込み、意志決定を支援する仕掛け」さえ
ちゃんと用意すれば、特に背景世界の情報を大量に用意する必要はないわけです。

**

[カテゴリ3:PCの立場や行動パターンを固定するRPG]

 「パラノイア」は様々な意味でユニークなRPGですが、特にその背景世界のぶ
っとび方は他のRPGの追随を許しません。

 パラノイアの背景世界は、狂ったコンピュータに支配された巨大な核シェルター
都市です。PCはコンピュータ(つまりゲームマスター)に命令されたこと以外は、
何をすることも何を知ることも許されません。命令に違反した者は、反逆者として
即座に処刑されます。もちろんPCは反逆者ですから、何もしなくても処刑されま
す。何かしても処刑されます。コンピュータの命令に忠実に従うつもりでも処刑を
逃れることは出来ません。なぜなら、そもそも命令は実行不可能か、または相互に
矛盾していてどれかに違反するしかないからです。

 ではどうすればよいのか。ルールブックは、この疑問に明解に答えてくれます。
 自分にとって邪魔な(まずいことを知っている、目撃した)他のPCを事故か何
かに見せかけて始末し、その責任をさらに他のPCに押しつけて処刑に追い込み、
とにかく自分だけが少しでも長く生き延びることを狙うのです。

 実に分かりやすい背景世界ですね。とにかく、PCの立場も行動パターンも決め
られており、プレーヤーには他に選択肢はありません。つまり、選択肢は最初から
いきなり絞り込まれているわけです。

 そこで「パラノイア」の背景世界ですが、ほとんど設定情報が用意されていませ
ん。いや、実は背景世界の説明はあるにはあるし、何冊もサプリメントが出ている
のですが、はっきり言ってその全ては愚かなブラックジョークに占められており、
普通の意味での設定情報はごくごく僅かに過ぎません。

 このように、PCの立場や行動パターンを固定し、プレーヤーの選択肢を絞り込
む仕掛けを用意すれば、設定情報が無いに等しい状態でもゲームが成立するのです。

**

 ほのぼのメルヘンRPGである「ウイッチクエスト」は、前述のパラノイアとは
まさに対極にある作品ですが、背景世界について同じ手法を使ってデザインされて
いることは注目に値します。

 ウイッチクエストのPCは2種類しかありません。13歳の魔女と、その使い魔
の猫です。PCにとれる行動は事実上「色々な人(または猫)に会って話を聞いて、
困っている人(または猫)がいたら助けてあげる」というものしか許されません。
(13歳の魔女っ娘と猫に、他に何が出来るでしょうか?)

 PCの性別、年齢、行動パターンを全て固定するという、よく考えてみれば非常
に大胆な発想により、プレーヤーの選択肢は徹底的に絞り込まれているのです。

 ですから、このRPGは、背景世界の情報が皆無に近い有り様でありながら、何
とも驚くべきことに、ちゃんとプレイすることが出来るのです。

**

 これらの例を見れば、RPGの背景世界にとって本質的に重要なのは意志決定を
支援する仕掛けであり、設定情報そのものではないことがよくお分かりのことと思
います。

 最後に、背景世界の情報に乏しく、それに代わる「意志決定を支援する仕掛け」
もないRPGについて触れておきましょう。


[カテゴリ4:意志決定を支援する仕掛けのないRPG]

 背景世界の情報に乏しく、それに代わる「意志決定を支援する仕掛け」もない、
そんなRPGがプレイできるでしょうか。

 結論から言うと、プレイできます。方法は3つあります。


・方法1:ダンジョンシナリオだけをプレイする。

 既に説明した通り、ダンジョンシナリオ、またはそれに相当するシナリオ(荒野
を旅する、など。以降ではこれらもダンジョンシナリオに含めます)をプレイする
だけなら、既にプレーヤーの選択肢は十分に絞り込まれており、従って背景世界の
情報はほとんど必要ありません。

 「トンネルズ&トロールズ」といった、背景世界情報が提供されていないRPG
でも、ダンジョンシナリオをプレイするだけなら問題は生じません。


・方法2:ゲーム要素である「意志決定」を放棄し、やりたいことをやって楽しむ。

 ゲーム要素である「意志決定」を放棄して、単にプレーヤーが「やりたい」と思
ったことをPCにやらせて楽しむという遊び方も可能です。RPGを「ごっこ遊び」
にするわけです。

 例えば、酒場で宴会(または乱闘)して楽しむとか、背景世界における社会構造
や価値観の相克といった課題を気にもかけないで(というか現代日本のごく一部地
域の特定世代の特定グループのそれを無条件に前提にして)勝手に「正義の味方」
になるとか。あるいは、とにかくグリーンスライム相手に下品なジョークを飛ばす
とか。

 何にせよ、こういうRPGの遊び方は邪道だと思います。邪道というのが言い過
ぎなら「このような遊び方には、努力目標も、課題解決も、方法論もなく、したが
って技量向上も生じない。ゆえに、このような遊び方から得られる楽しみなるもの
は底の浅い一過性のものに過ぎず、本講座の主旨からして到底受け入れられない」
とでも言っておきましょう。

 なお、もともとこういう遊び方を想定したRPGもあります。特にギャグRPG、
ドタバタRPGに多いようです(例えば「フローティング・バガボンド」)
 こういうRPGは、プレイすればしたで楽しいのですが、やはり上に示したよう
に本講座の主旨とは相いれないものです。


・方法3:ゲームマスターが、デザイナーの代わりに背景世界情報を作る。

 これは理論的にはうまくゆきます。しかし、現実には決してうまくゆきません。

 私が問題だと思うのは、ゲーム会社やゲームデザイナーが、「ユーザを縛りたく
ないので、背景世界についてはあまり詳しい設定は作りません。各自で自由に設定
を補ってプレイして下さい」と公言するケースです。あるいは、背景世界の情報が
少ない方が「初心者向け」だと思っているゲーム会社やデザイナーがいるという噂
すらあります。

 これはまずいと思います。

 なぜなら、まず第一に、こういう姿勢は無責任だからです。

 RPGは、意志決定を支援する仕掛けがどうしても必要となるゲームです。それ
を作り手が提供しないということは、作品として、あるいは商品として不完全なも
のを売って、ユーザに自分で補って遊べと言っていることになります。

 例えばプラモデルを買ってきて箱を開けたら、プラスチックの板が何枚かと、加
工用の工具、それに「各自で自由にパーツを設計し切り離してプラモデルを作って
下さい」と書かれた紙しか入ってなかったとしたら、あなたはどう思うでしょうか。
「素晴らしい自由度の高さ」「特定のパーツ構成にユーザを縛らないようにしよう
というデザイナーの配慮」などと感心するでしょうか?

 もちろん、喜んでパーツ設計にとりかかるユーザだっているでしょうが、少なく
ともメーカ側がそういう製品を通常のプラモデルとして売るのは問題でしょう。

 意志決定を支援する仕掛けがないRPGというのは、本質的にはこれと大差ない
のです。

 第二に、こちらの方が問題なのですが、ほとんどの人は背景世界を作る能力など
持っていないということです。

 私自身、何度か「オリジナルワールド」と称する背景世界を舞台にしたセッショ
ンにプレーヤーとして参加したことがあります。その経験から言わせていただくな
ら、素人が作った背景世界にロクなものはありませんでした。

 ファミコンRPGにも劣るような薄っぺらな世界観、意志決定の役にも立たない
単なる設定情報の羅列、ひとりよがりと自己満足と内輪受けを除くと後には何も残
らないような「背景世界」では、まともなプレイなど出来ようもありません。
 いきおい、参加者は上に書いた「方法2」に流れてゆきます・・・。

**

 こういった痛い経験から、私はそれなりの自信を持って主張することとします。

 ・カテゴリ4に属するRPGでは、ダンジョンシナリオ以外はプレイするな。
  それ以外のシナリオをやりたければ、他の(背景世界、またはその代替とな
  る意志決定支援メカニズムがある)RPGを選べ。

 ・オリジナルワールド作成は結構だが、間違ってもそれを舞台にしたセッショ
  ンを開いて他人を巻き込むような真似はするな。
  あなたの作った「背景世界」は、あなた以外は誰も楽しめないものだという
  事実を直視せよ。

 もちろん「RPGなんて楽しければ何でもいいじゃん」と思っている人は勝手に
楽しんでいただいて構わないのですが、本講座を参考にして技量向上を目指そうと
いう人は、どうかこれを守って下さい。お願いします。

**

 というわけで、「背景世界」をどのように分析・評価すればよいか今やお分かり
のことと思います。

 RPGシステムを選択するときは、そのRPGにおける背景世界の方針がカテゴ
リ1〜4のどれに属するのかよく見極めるようにして下さい。そして、プレーヤー
に対して常に適切な選択肢と情報が与えられるよう気を配って下さい。ゲームマス
ターのこの作業こそが、RPGを「ごっこ遊び」ではなく、奥の深い「ゲーム」に
してくれるのです。


1.4 ジャンル

 前回までの解説では、RPGシステム選択において考慮すべき項目のうち「意外
に認識不足の人が多いようだけど、これは本当はすごく重要なポイントなんだよ」
と思えるものをとりあげてきました。
 ですから、論調も自然とその項目の重要性を強調するものになっていました。

 ところが、今回の解説は、論調が逆になります。すなわち、私は「これは、皆が
思っているほど重要なポイントじゃないんだよ」ということを強調するつもりなの
です。

 そのポイントとは、RPGの「ジャンル」です。

**

 どうも、RPGシステムを選択するときに、その「ジャンル」を不必要に重視す
る人が多いような気がしてなりません。

 例えば、「SF−RPGは難しいから」といってSF系のRPGを敬遠する人が
います。他にも「サイバーパンクRPGとは相性が良くないから」「ホラーRPG
は苦手だから」「ファンタジーRPGは飽きた」といった具合に、どうも個々のR
PGシステムの特性だの何だのを無視して、それが属する「ジャンル」だけで頭か
ら拒否する姿勢を示す人は決して少なくありません。

 さらには、例えば「私はファンタジーRPGが好きだから、ファンタジーRPG
以外には手を出さない」といった、特定ジャンルに閉じこもって外に出ようとしな
い人までいるようです。

 こういう態度を批判するのは割と簡単です。「幅広い経験を積むためにゲームマ
スターは苦手なジャンルにもチャレンジしてみよう!」などと煽るのも簡単です。
でも、多くの人は、そう言われてもきっと「苦手なものは苦手だもん」と思うだけ
に違いありません。好き嫌いの問題は、なかなか理屈で説得できるものではありま
せんから。

 そこで今回の解説では、「苦手なものにもチャレンジしろ」という方向ではなく、
「あなたが苦手と思っているのは、ひょっとして錯覚じゃありませんか」という方
向で書いてみようと思います。

**

 まず最初に、「特定のジャンルが嫌いだ、苦手だ」という人は、単にそのジャン
ルに属する良質のエンターティメントに触れた経験が少ないだけではないか」とい
うことについて。

 よく考えてみて下さい。

 あなたが特定のジャンルを苦手に思っているとして、それは単にそのジャンルに
について不慣れで知識が少ないというだけではないでしょうか。もし、そのジャン
ルで広く人気のあるエンターティメント作品(映画や小説)のいくつかに触れれば、
そのジャンル全体が気に入るという可能性はないでしょうか。

 もしその可能性があるのなら、まずはそのジャンルの人気作(必ずしも代表作で
はないことに注意)に目を通してみてはどうでしょう。

 そもそも、RPGが作成されるほどの人気ジャンルであれば、あなたが読んでも
(観ても)すごく面白い、という作品が含まれている可能性は高いことでしょう。
それを「そのジャンルは苦手だから」というだけの理由で見逃すのは惜しいと思い
ませんか。

**

 次に「そのジャンルの人気作を何冊か読んだが、やっぱりついてゆけなかった」
という方。確かに、あなたはそのジャンルと相性が悪いのかも知れませんね。

 しかし、待って下さい。仮にあなたが本当にそのジャンルと相性が悪いとしても、
それでも「そのジャンルのRPG」は楽しめるかも知れません。なぜなら、あるジ
ャンルに対する相性と、そのジャンルのRPGが楽しめるかどうかということは、
割と関係ないケースが多いのです。

 例として、「サイバーパンクRPG」について考えてみます。サイバーパンクは
好悪がかなりはっきり分かれるジャンルです。惚れ込むか、嫌悪するか、という感
じですね。

 そこで、サイバーパンクの代表的作家と呼ばれるウイリアム・キブスンの小説を
読んでみましょう。

 最初はその特異なスタイル(文体)や次々とくり出されるガジェット(小道具)
に頭がくらくらするかも知れませんが、そこは我慢して何とか最後まで読み切りま
す。そして、スタイルやガジェットを意図的に無視して、ストーリーや登場人物に
ついてよく考えてみましょう。

 すると、登場人物、セリフ、ストーリーなどは、実は伝統的な「ハードボイルド」
からの借物であることにすぐ気づくことと思います。

 そう、ギブスンに限らず、サイバーパンクと呼ばれている作品のほとんどが、実
のところスタイルとガジェットを新しくしたハードボイルドに他ならないのです。
 いや、そう断言すると怒られそうなので、「少なくとも、サイバーパンクRPG
の多くは、特殊な用語と特殊なガジェットを駆使しているだけのハードボイルドに
他ならない」くらいにしておきましょう。

 ともあれ、サイバーパンクの「カッコよさ」は、要するにハードボイルドの「カ
ッコよさ」であることを理解すれば、サイバーパンクRPGをプレイするのは簡単
です。

 まずハードボイルドなキャラクターを作成しましょう。そして、ハードボイルド
なセリフを口にしながら、ハードボイルドに仕事をこなし、ハードボイルドな生き
様を他人に見せつけましょう。そして、ときどき「ジャックイン」とか「マトリッ
クス」とか謎めいたジャーゴン(専門用語)を口にすれば、もうあなたはサイバー
パンクRPGの帝王です。

・・・かどうかはまあともかく、日本でサイバーパンクRPGが流行っているのは、
米国SF界の改革運動としてのサイバーパンク・ムーブメントとも、テクノロジー
によるヒューマニズムの変容がどうたらこうたらといった問題意識とも関係なく、
単に「日本にはメジャーなハードボイルドRPGがない」ためじゃないかと思えて
なりません。

**

 そもそもジャンル区分というのが、かなり便宜的なものです。

 映画「スター・ウォーズ」は便宜上SFに分類されていますが、実際は「日本の
時代劇:40%、西洋風ファンタジー:40%、SF:20%」くらいではないで
しょうか。
 だとすれば、「ファンタジー大好き。SF苦手」という人も、「時代劇は心のふ
るさと」という人も、「スターウォーズRPG」をプレイして楽しめるはずです。

 ラブクラフトの小説は純然たるホラーですが、ホラーRPGである「クトゥルフ
の呼び声」RPGは、「ミステリー:80%、ホラー:20%」のような気がしま
す。というのも、このRPGにおけるプレイ時間の大半は、謎めいた事件に関する
捜査、調査、聞き込みに費やすことになるからです。
 ですから、ミステリー好きなら、ホラーに興味がなくとも「クトゥルフの呼び声」
で満足ゆくプレイが出来るに違いありません。

 このように、一般に特定のジャンルAに分類されているRPGも、たいてい他ジ
ャンルBやCの要素を含んでいます。それどころか、よく考えるとBやCの要素の
割合の方がAよりずっと多かったりするのです。
 そうであれば、Aが性に合わない人でも、BやCが好きであれば、このRPGを
楽しくプレイできる可能性は高いのです。

**

 いかがでしょうか。RPGシステムの「ジャンル」は単に便宜上ついているだけ
で、たいして重要でないことがお分かりでしょうか。

 どうか、RPGシステムを選択するときは、前回までに解説したポイント(方向
性とか役割分担とか背景世界とか)に目を向けるようにし、ジャンルには不必要に
こだわることがないようお願いします。


1.5 記述言語

 ゲームの特性という論理的な観点からはどうでもよいはずなのに、実際のシステ
ム選択において決定的に重視されている奇妙なポイントがあります。それが今回の
テーマである「記述言語」です。

 記述言語というのは、要するにRPGのルールブックやサプリメント類が日本語
で書かれているか外国語で書かれているか、ということです。

 ただ、日本では英語以外の外国語で書かれたRPGはほとんど流通してないよう
なので、以降では外国語としては英語だけを考えることにします。

 記述言語に関して私が言いたいことは簡単で、「英語で書かれたRPGに手を出
しなさい」ということです。

 こう言った途端に「私は日本語以外は読めないから関係ないや」と思った方も多
いと存じますが、まあ最後まで目を通して下さいな。

**

 まず、「日本で手に入るRPGの大半は英語で書かれている」という点を確認し
ておきましょう。こう言うと、「えっ?」と驚かれる方がいるかも知れませんが、
これは事実です。海外の(少なくとも米国の)RPGの多くは、日本で入手可能な
のです。その数は、日本語で書かれているRPGと較べて間違いなく数倍はあるこ
とでしょう。

 輸入RPGを置いている書店やゲームショップに行けば、それこそ書棚を埋め尽
くす量の海外RPGが並んでいますし、そのような店に行けない場合でも、最近は
オンライン通販で海外RPGを購入することも出来ます。今や、あなたが日本全国
どこに住んでいようと、ほんの少しの努力で海外のRPGを購入することが可能に
なっているのです。

 このように、日本で手に入るRPGの記述言語は、量から言ってもまず英語、次
に日本語の順になります。「私は日本語以外は読めないから」といって英語で書か
れたRPGを拒否するということは、手に入るRPGの大半を捨て去るということ
になるのです。ほうら、惜しくなってきたでしょう?

 「英語のRPGを読む苦労を考えれば、手に入るRPGの大半を捨てたって惜し
くないや」と思いましたか。そういう人、よく聞いて下さい。英語のRPGに手を
出さないということは、RPGの進歩から取り残されることを意味するのですよ。

**

 RPGの進歩、と言われてもぴんとこない人がいるかも知れません。

 ひょっとして、あなたは「RPGって、ジャンルや原作が異なるだけでしょせん
は似たようなシステムが次々と出版されては廃れてゆくだけのもの」と思っていま
せんか?

 そうだとすれば、あなたは間違っています。少なくとも視野が狭いと言わざるを
得ません。RPGシステムは、単純に技術面だけを見ても、激しい勢いで進歩を続
けているのです。

 例えば、「NPC」「背景世界」「スキルシステム」「一般判定ロール」「アイ
テム自作ルール」「ヒーローポイント」「ポイント割り振り式キャラクター作成」
といった、今や広く様々なRPGシステムで当たり前のように使われているテクニ
ック。これらは、最初からあったものではなく、後から誰かが考え出し、RPGに
次々と付け加えられていったものです。つまり技術革新ですね。

 RPG技術革新は、現在もたゆまなく続いています。

 比較的新しく登場した技術を見ても、「テンプレート選択式キャラクター作成」
「マルチジャンル、クロスジャンル指向の背景世界」といった既に多くのRPGに
取り入れられつつある技術、あるいは「対数バリューシステム(トーグ)」「オー
バレイシート(ミレニアムズ・エンド)」といった今後の普及・応用が楽しみな新
技術、さらには「キャラクターではなく背景世界自体をジェネレート対象とする」
とか「キャラクターシートを廃止してダイス自体をキャラクターとして使う」とい
った突飛なアイデアに至るまで、RPG界には毎年いくつもの新しい技術が生まれ
ているのだということを認識して下さい。

 RPGは、まだ生まれて20年ほどしか経っていません。人間ならようやく成人
式をむかえたというところですか。青春期と言ってよいでしょう。RPGは、決し
て成熟し完成したゲームではないのです。むしろ現在は、今世紀になって登場した
新しいゲーム「RPG」が潜在的に持っている様々な可能性が模索されている時代
ではないでしょうか。

**

 しかし、残念なことに、こういった優れた新しい技術がどんどん開発され、普及
し、その応用がまた新しい技術を生む、といった進歩は米国中心で進んでいます。

 少なくとも1996年現在、日本でデザインされたRPGの大半は、このような
技術革新に取り残されていると言っても過言ではないでしょう。

 そこにあるのは、目先だけ変えて何度も垂れ流される欠陥だらけの古くさいシス
テム、単に奇をてらっただけで何らRPG界に技術革新をもたらさない愚かなシス
テム、そして単に初刷がある程度さばけて利益が出ればそれでいいやという思想で
作られたとしか思えない投げやりなシステム、そんなものばかりです。

 いや、全てがそうだとは言いませんし、米国RPG市場にだってそういう作品は
流れているわけですが、それにしても誰かが「全体的に見て、日本でデザインされ
るRPGは米国のRPGに較べてレベルが低い」と断言したとしても、私はとうて
い反論できません。

 逆に言うと、進歩の最先端にある最高レベルのRPGは、全て英語で書かれてい
ると思ってよいのです。英語で書かれたRPGを拒否するということは、その時点
で最も優れた、最もホットなRPGに背を向けるということになるのです。

**

 「たとえそうだとしても、優れたRPGならいずれ翻訳されるし、新しい技術は
やがては日本でデザインされるRPGにも取り入れられてゆくだろうから、慌てて
英語のRPGに手を出す必要はないのではないか」という人もいるでしょう。
 はい、私もそういう立場でした。数年前までは。

 しかし、今となっては、この立場は捨てざるを得ません。

 なぜなら、1996年現在、日本のRPG市場は衰退の一途を辿っており、ごく
近いうちに事実上消滅することがいよいよ確実になってきたからです。製品の出版
数や売れ行きは激減し、プレーヤーはRPG離れを起こしています。要するに日本
においては、RPGは飽きられてしまったのです。
 にも関わらず、RPG市場を支えよう、建て直そうという動きはほとんど何も見
られません。

 ですから、今となっては新しい優れたRPGが翻訳されることも、最新の技術を
取り込んだRPGが日本でデザインされることも、もう期待できないでしょう。

**

 「私は、気に入ったシステムをずっとプレイし続けるつもりだから、別にRPG
の進歩に取り残されても構わないよ」という人。今回、私が最も説得したいと思う
のは、あなたです。

 そういうあなたが見逃している大きな問題があるのです。「RPGは継続的なサ
ポート無しに長く続けることは困難である」ということです。

 あるRPGのサポートが打ち切られたとして、そうですね、それから2年以上そ
のRPGをプレイし続ける人はほとんどいないでしょう。いや、たいていの人は、
半年以内にそのRPGのプレイを止めてしまうはずです。

 自分でデータを追加したり背景世界を拡張したりして何年も同じRPGをプレイ
し続ける? そんなことは普通の人には極めて困難です。

 日本のRPG市場が消滅しようという現在、あなたが今プレイしているRPGを
どんなに気に入っていようと、やがてサポートは打ち切られます。というか、もう
打ち切られていると思った方がよいかも知れません。少なくともこれから継続的に
サプリメントが出版されることは、まずあり得ません。

 すると、そのRPGのプレイを止めた後、あなたはどうすればよいのでしょう?
 そのときには、もう日本語で書かれたRPGは全て絶版状態になっているに違い
ありません。

 おそらく、日本で新しいRPGが手に入らなくなった時点で、大半の人は「RP
Gは終わった」と考えて、そこから離れてしまうでしょう。色々と工夫してRPG
を続ける人もいるでしょうが、そういう人はごくごく少数でしょうし、またそうい
う方向が建設的だとは思えません。

 しかし、必ずしも失望することはありません。

 一時に比べて沈静化してきたとはいえ、まだまだ米国のRPG市場には将来があ
ります。それを支えるプレイ人口も、ゲーム会社の数も、デザイナーの質と量も、
日本のそれの比ではありません。少なくとも今世紀中は大丈夫だと思います。

 今なら、まだ間に合います。

 プレイするRPGを徐々に米国産RPGにシフトしてゆくのです。そうすれば、
日本のRPG市場と心中する必要はなくなります。あなたは、日本のRPG市場が
消滅しても、RPGを続けることが出来ることでしょう。

**

 本講座の目的はRPGの技量向上を目指す人を手助けすることにあります。今後
もRPGを続けてゆくことは技量向上の前提となりますから、私としてはあなたに
末永くRPGを続けてもらうためにこう言わざるを得ません。

 「英語で書かれたRPGに手を出しなさい」

 数年前なら、きっと私は「出してみてはどうでしょうか」とか「出した方がいい
ですよ」などと言ったことでしょう。
 しかし、今や私は「出しなさい」と言います。英語で書かれたRPGに背を向け
ている人は、今から5年以内、いやきっと2年以内にRPGを止めることになると
確信しているからです。あなたには、どうかRPGを止めないでほしい。だから、
あえて脅すような口調で言うことにします。

 「英語で書かれたRPGに手を出しなさい。でないと、日本のRPG市場と心中
  することになりますよ」と。


[第1章を終えるに当たって]

 第1章では、RPGシステムの選択にあたって考慮すべき点を解説してきました。
 これで、皆さんはRPGシステムを、好き嫌いではなく「方法論を持って」評価
できるようになったわけです。

 これからRPGシステムを選ぶときは、英語で書かれているからといって、ある
いは苦手なジャンルだからといって、敬遠しないようにしましょう。

 ルールブックに目を通すときには、すでに解説したいくつかの重要なポイントを
意識しながら読み進めて下さい。方向性ははっきり打ち出されているか、役割分担
は明確で工夫されているか、背景世界は意志決定を適切に支援するよう練られてい
るか。他にも解説しなかった重要なポイントはいくつもあります。それらは自分で
考え、見つけていって下さい。

 こうしてシステムを評価することに慣れると、RPGを観る目がどんどん肥えて
ゆきます。「名作」とされるRPGがなぜ名作なのか納得でき、どんなに人気があ
ろうとクソゲーはしょせんクソゲーだということも理解できるようになります。

 システムの出来、不出来を評価できるようになれば、RPGはぐんぐん面白くな
ってゆきます。それはもう、今までやっていたのはRPGの真似事、「RPGごっ
こ」だったんだな、としみじみ感慨にふけってしまうほどです。

 そして、RPG技量向上の道は、ここから始まるのです。


馬場秀和のマスターリング講座 「第1章 システム選択」 完結


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