メガトラの始め方

タイトル : メガトラの始め方    第1部「ルールはこう読め」    第2部「シナリオはこう作れ」

連載   : 第1部 1992年8月31日〜1992年11月3日
       第2部 1992年12月2日〜1993年1月2日

連載場所 : Nifty-Serve ロールプレイングゲーム・メインフォーラム(FRPGM)

著者   : 馬場秀和

補足   : 「メガトラの始め方」の連載を編集した完全版です。


第1部 「ルールはこう読め」

はじめに(92/08/31)

 実は、私は日本におけるメガトラベラーの将来にかなりの不安を持っています。

 と言うのも、私の知る限り、現在メガトラベラーのレフリー/プレーヤーをやって
いる人のほとんどは、トラベラー時代から続けてきているのですね。
「トラベラーの経験はありませんが、メガトラベラーから始めました」という人は、
ほとんどいないんじゃないかという気がします。(私自身が引きずり込んで始めさせ
た人は何人かいますが)

 このまま、メガトラを新たに始める人が増えなければ、いずれメガトラ人口は激減
し、ゲームショップの棚にはメガトラが並べられなくなり、日本の出版元はサポート
を打ち切ってしまうかも知れません。

 そういうのは困る。個人的にメガトラのサポートがなくなると非常に困る。つらい。

 それに、「もしメガトラベラーに出会っていたらずっとRPGを続けてくれたはず
の人が、ライトファンタジーRPGしか経験しなかったためRPGに飽きて去ってゆ
く」というケースがあるのではないかと思うと、すごく残念です。

 メガトラを始める人を増やしたい、と思います。メガトラ愛好者として。

 メガトラベラーというRPGは、誰の助けもなしに一人で始めるのはちょっと難し
い、というかコツをつかむまでに時間と努力が必要なRPGです。コツをつかんでし
まえば、「クセになる」「ハマる」「生活習慣と化す」という飽きがこない(可能性
が高い)RPGなのですが。

 ですから、メガトラベラーを始める人を増やすためには、本来なら雑誌の記事や出
版物の形で、プレイノウハウ・背景世界の解説・シナリオなどのサポートが行われる
ことが望ましいのですが、どうもそこら辺が不十分だという気がします。

 だが、不平を言っても仕方ありません。
 自分に出来ることを始めようと思います。

 私自身がメガトラベラーを始めてから(私はトラベラーを経験したことがありませ
ん)経験したことをベースに、メガトラベラーを始める方法について解説してみます。

 「これを読めば、苦労しないで楽にメガトラの面白さを味わうことが出来る」など
とは思わないで下さい。ただ、「途中で挫折しないで、最終的に、払った苦労に十分
に見合う楽しみを獲得する」可能性が高い道を示すことは出来るだろうと思っていま
す。


第1回(92/08/31)

 メガトラベラーを始める最も簡単な方法は、誰か親切な人にレフリー(メガトラベ
ラーでは、ゲームマスターのことをレフリーと呼びます)をやってもらい、自分はプ
レーヤーになることでしょう。
 この方法なら、分からないことはレフリーに聞けば済みます。

 しかし、日本でのメガトラベラーの普及率から考えて、実際には「メガトラを始め
ようにも、助けてくれる人が近くに誰もいない」というケースがほとんどではないで
しょうか?

 そこで、この連載では、メガトラを始めるために「メガトラベラーのルールブック
を購入して一人で勉強して、自分でレフリーを始めなければならない」という状況を
想定して話を進めてゆきます。

 心の用意はいいですか?
 それでは、まず「ルールブックの購入」から始めることにしましょう。


第2回(92/09/02)

 メガトラベラーを始めるためには、何はともあれルールブックを手に入れなければ
なりません。そこで今回は「ルールブックの購入」について説明します。

 メガトラベラーのスタートセットは、「ボックスタイプ」と呼ばれるように、箱に
詰まった形式で販売されています。(最近はルールブックのバラ売りもありますが、
やはりメガトラを始めるつもりならボックスを購入して下さい)
 ボックスタイプのゲームは普通の書店には置いてないことが多いため、メガトラベ
ラーのスタートセットを購入するためには大きなゲームショップまで出掛ける必要が
あります。

 もし、「メガトラベラーが置いてあるようなゲームショップなんて知らないぞ」と
いうことでしたら、次の手を試してみて下さい。

 1.RPG関連雑誌(例えばRPGマガジン)の広告をよく調べて、行ける範囲に
   あるゲームショップを探す

 2.このフォーラムの適切な会議室に、「私は××に住んでいる者ですが、近くに
   ボックスタイプのテーブルトークRPGを売っているゲームショップはありま
   せんか?」という質問を書き込む。
   (大抵、同じ地域に住んでいる人から回答があるはずです)

 3.大都市に旅行や出張で出掛ける知人に頼む

 4.通信販売を利用する

 メガトラベラーは文庫タイプのRPGより入手が困難ですが、海外未訳RPGほど
困難というわけではありません。努力さえすれば、道は開けるはずです。

 次回は、具体的な「メガトラ購入リスト」について解説します。


第3回(92/09/02)

 メガトラベラーを始めるためにルールブックを手に入れなければならないことはお
分かりですね。では、他に何を購入すればいいのでしょうか?
 今回は「メガトラ購入リスト」について説明します。

 さて、何とかゲームショップまで辿りつくことが出来た場合、ボックスタイプのテ
ーブルトークRPGのコーナーを探してみましょう。そこにメガトラベラーのスター
トセットがあるはずです。価格は6500円(だと思う。忘れてしまった)

 高いですか? ファミコンのゲームカセットを買うことを考えれば安いものだと思
います。ひょっとしたら、この先何年も遊べるかも知れないのですよ。

 この際、スタートセット以外も購入しておこうという方。まずは「反乱軍ソースブ
ック」を探して下さい。表紙に紫の文字でREBELLIONと書かれている冊子で
す。このソースブックは、すぐには必要ありませんが、メガトラベラーで遊び続けよ
うと思うなら、いずれ必ず手にいれなければならなくなるときが来るでしょう。

 まだお金があるという方。続いて「ナイトフォール」を探して下さい。表紙に赤で
KNIGHTFALLと書かれている冊子です。これはメガトラベラーのキャンペー
ン・シナリオなのですが、「メガトラベラーでどんな冒険が出来るのか」ということ、
及び「シナリオの表記方法」を学ぶ上で非常に役立ちます。
 ただし、これを読んだら、「ナイトフォール」にプレーヤーとして参加することは
出来なくなることは覚悟して下さい。(が、ナイトフォールにプレーヤーとして参加
することが出来る可能性が低いと思ったら、ためらわずに購入して下さい)

 同じ棚に「ハードタイムズ」があるかも知れません。表紙に黄色の文字でHARD
TIMESと書かれている冊子です。これは、メガトラベラーが扱う時代の末期を解
説するソースブック+シナリオなのですが、当面は必要ありません。メガトラベラー
が気に入って、長く続けてゆこうと思ったときに買えばよいでしょう。

 せっかく来たのだから、他にもメガトラ関連を購入したい?
 実は、メガトラベラー関連の日本語の出版物は他にはありません。(1993年末現在)

 しかし、ひょっとしたら絶版になった「トラベラー」関連のボックスがまだ棚に残
っているかも知れません。メガトラベラーを始める上で特に必要ではありませんが、
参考になるので探してみて下さい。
 トラベラー関連から一つ購入するとしたら、私は「トラベラー・アドベンチャー」
を推薦します。理由は後ほど説明しますが、ともあれこれを発見したらためらわずに
購入していいでしょう。


 さて、以上でお終いです。購入リストをまとめてみましょう。

 名称              : 形態     : 価格    :必要性

・メガトラベラー スタートセット : ボックス入り : 6500円 : 必須

・反乱軍ソースブック       : 冊子     : 2500円 : 重要

・ナイトフォール         : 冊子     : 2500円 :  中

・トラベラーアドベンチャー    : ボックス入り : 不明(^_^;) :  小

・その他のトラベラー関連ボックス : ボックス入り : 不明(^_^;) : 微小


 次回は、「ルールを読む前に」です。


第4回(92/09/02)

 メガトラベラーのスタートセットを購入してきました。さて、後はルールを読んで
レフリーの準備をするだけなのですが・・・。
 実は、メガトラベラーを始めることが出来なかったケースを見ると、一番多いのが
「最初にルールブックを開いたときに挫折した」というパターンなのですね。
 というわけで、今回は挫折を避ける第一歩、「ルールを読む前に」です。

 メガトラベラーのスタートセットの箱を開けて見ましょう。分厚いルールブックが
3冊ありますね。あと、何やら怪しげな六角形(ヘックス)が並んでいる地図のよう
な物が入っています。それだけです。

 ボックスタイプなので珍しいものが入っていることを期待していた人は、ちょっと
がっかりするかも知れません。そうそう、メガトラベラーを始めるためには、6面ダ
イス(普通の立方体サイコロ)が2つ必要です。できれば3つあった方がいいでしょ
う。これはボックスに入っていないので、自分で入手する必要があります。

 さて、ルールブックを手に取ってパラパラとめくってみると・・・慣れてない人は
めまいがするかも知れません。びっしり書き込まれたルール、山ほどあるチャート、
飛び交う専門用語・・・

 ここがメガトラを始める上で最大の難関です。
 いきなり「あかん。こりゃとても無理だ」と諦めてしまってはいけません。

 いいですか、よく聞いて下さいよ。このルールブックに書いてあることの大半は、
実は「はったり」なのです。つまり、ルールブックに載っている情報のほとんどは、
実際のレフリーを行う上では不必要なのです!
 レフリーを行う上で頭に入れておかないといけないルールが書かれているページ数
は、実際のところ10〜20ページくらいです。

 そんな馬鹿な、とお思いの方。とりあえず私の言うことを信じておいて下さい。
 10〜20ページくらいなら、何とか我慢して読むことも出来るでしょう。
 残りの部分は、必要になったときに目を通せばよいのです。

 では、とりあえず最初にどこを読めばいいのでしょうか?
 どのルールは覚えるべきで、どのルールは最初は無視してよいのでしょうか?
 これについて、次回から詳しく見てゆくことにしましょう。


第5回(92/09/06)

 最初にメガトラベラーのルールブックを読むとき、最初から全体を読むのは賢明な
やり方ではありません。途中で挫折する危険性が高いためです。
 では、最初に読むべきルールとは何でしょうか。

 メガトラベラーのスタートセットに含まれている3冊のルールブックを並べてみま
しょう。いったい、本当にこんなに分厚い本を読んで、しかも理解することなど出来
るのでしょうか?

 落ちついて、まず最初に以下の部分に目を通してみて下さい。じっくり読む必要は
ありません。ここはメガトラベラーの紹介であり、ルールではないのです。

・「プレーヤーズ・マニュアル」より「はじめに」(P6〜P10)
・「レフリーズ・マニュアル」より「はじめに」(P5〜P10)

 いかがでしたか。簡単ですね。
 ここに書いてあることは今は別に覚えておく必要はありません。ただ、後で実際に
レフリーをやるときに、もう一度ここに目を通すときが来るでしょう。

 では、続いて、メガトラベラーのルールの一つ、最も大切な一つを理解することに
しましょう。以下の部分をじっくり読んで下さい。ここは、きちんと理解しなければ
なりません。とは言え、たった4ページなので大して苦労はしません。

・「レフリーズ・マニュアル」より「レフリーと行為」(P12〜P15)

 これが、いわゆる「タスクシステム」です。メガトラベラーでは、ほとんどの判定
をこのタスクシステムを使って行います。従って、これさえ理解すれば「メガトラベ
ラーのルールの本質を把握した」と言ってかまいません。

 タスクシステムを理解したら、次に自分でUTPを作れるようにしましょう。次の
部分に目を通して下さい。

・「プレーヤーズ・マニュアル」より「技能」(P28〜P40)

 ここに書かれている技能の説明を全て暗記することは無理ですし、そんな必要はあ
りません。ただ、どんな技能があったか大雑把に把握しておき、必要なときにP30
〜P31の技能一覧表を開いてさっと目的の技能の説明を探し出せるようにしておく
ことが必要になります。

 技能の説明に目を通せば、タスクシステムを使ってどんな判定を行うのかが分かる
でしょう。そして、今やあなたは、プレーヤーキャラクター達が行うありとあらゆる
行為−宇宙船の操縦、戦闘、値切り交渉、修理、犯罪、賄賂、知識を思い出すこと、
そして肉体的運動の全て−について成功・失敗を適切に判定することができるように
なりました。

 それだけではありません。失敗したときにどれだけ怪我をしたか、どれだけ深刻な
トラブルが起きたか、その行為を行っている間にどれくらいの時間が経過したか、そ
ういった、他のRPGではしばしばマスターが指針無しに勝手に決めなければならな
い要素についても、タスクシステムに従って決定することができるようになったので
す。


第6回(92/09/08)

 さて、タスクシステムについてはよく分かりましたか?

 「タスクは分かったから、早くキャラクター作成をやりたい」と思っている人がい
るかも知れません。しかし、焦りは禁物です。まずは、「少なくともタスクについて
はちゃんと分かった」と言えるだけの自信をつけることに専念しましょう。
 では、次の問題について考えてみて下さい。(続きを読む前に考えるのだよ)

〔問題〕

 全く平均的な特徴ポイント(全ての特徴ポイントが7)を持つキャラクターが、次
のタスクに挑戦するとき、このキャラクターが持っている<技能X>のレベル(技能
を持っていない、0レベル、1レベル、2レベル)ごとに成功率をパーセントで求め
なさい。(パーセントの少数点未満を四捨五入)

    並、<技能X>、(1分)


 実は、この問題を解くのはそう簡単ではありません。すぐにそれが分かった人は、
かなりタスクシステムを理解していると言えるでしょう。

 が、いきなり難しいことを考えるのは止めて、まずは単純に計算してみましょう。
(自分で計算した結果と比べてみて下さい)

技能がない場合 :  8パーセント
技能0レベル  : 58パーセント(50パーセント増加)
技能1レベル  : 72パーセント(14パーセント増加)
技能2レベル  : 83パーセント(11パーセント増加)

 技能がないと成功率は10パーセントを切ってしまいます。まず失敗すると思った
方がいいでしょう。
 それに対して、技能があれば、たった0レベルであっても成功率は5割を越えます。
つまり、失敗するより成功する確率の方が高くなるのです。技能無しと比べた成功率
増加は、実に50パーセントです。

 さらに、技能が1レベル増える毎にだいたい10パーセントづつくらい成功率が増
えてゆき、技能2レベルあればまず成功すると考えてよいことも分かります。

 いかがですか?
 メガトラベラーにおいては技能の有無は非常に重要であることがお分かりになった
でしょうか。

 では次に、このタスクを実行する場合に経過時間は重要でないと仮定して、「慎重」
に行動した場合の成功率を計算してみましょう。

技能がない場合 : 16パーセント
技能0レベル  : 33パーセント
技能1レベル  : 39パーセント
技能2レベル  : 47パーセント

 技能がない場合には、「慎重」に行動するべきであることが分かります。


 さらに、このタスクは何度でも挑戦できると仮定して、「再挑戦」のルールを考慮
して成功率を計算してみましょう。(ダイスの目が目標に一つ足りないときは無条件
に再挑戦可能だが、二つ以上足りないときは注意力持続判定が必要なことに気をつけ
て計算して下さい)
 再挑戦のルールにより、技能の有無による成功率格差は縮まるでしょうか、それと
も拡大されるでしょうか?

 経過時間の期待値はどうでしょう。
 例えば、技能2レベルの場合、経過時間の期待値は8.5分でしょうか?
(ヒント:DMの値にかかわらず、最低でも時間単位の3倍の時間が経過することに
注意して計算して下さい)

 個々の技能を取るより、<万能>技能を取った方が有利かもしれません。
 <技能X>を取っていないキャラクターは、<万能>技能を何レベル取れば、<技
能X>を1レベル取っているのと同じになるでしょうか?

 技能だけでなく特徴ポイントがDMとして使える場合はどうなるでしょう?
 難易度が「難」ではどうなるでしょうか?

 色々な場合について考えてみて下さい。きっと、タスクシステムをもっと深く理解
できるに違いありません。


第7回(92/09/08)

 何はともあれ、キャラクターを作成しないとRPGをプレイすることは出来ません。
 タスクシステムを理解したら、次はいよいよメガトラベラーのキャラクター作成ル
ールを使ってキャラクターを作成してみましょう。

 メガトラベラー(トラベラー)のキャラクター作成ルールは非常に特殊です。
 「人生をシミュレートする」というメガトラベラーの基本コンセプトにふさわしく、
キャラクターは人生の前半を「体験」する形で作成され、旅立ちの準備を整えます。

 タスクシステムと技能について理解したら、いよいよキャラクター作成です。
 以下のページに目を通して下さい。

・「プレーヤーズマニュアル」より「「キャラクター」(P11〜P27)

 いかがですか? これが名高いメガトラベラーのキャラクター作成ルールです。

 最初はよく分からないかも知れません。そういう場合は、試しに一人キャラクター
を作成してみるとよいでしょう。時間制限はありません。ルールを何度も確認しなが
ら、じっくりと作成してみて下さい。

 技能の種類や、そのレベルについては既に頭に入っていますね。ですから、技能の
選択にはあまり悩まないはずです。役に立ちそうな技能を狙って下さい。

 一番最初にキャラクターを作成するときのコツは、とにかく途中で止めないで最後
までやってみるということです。多少ルールが分からなかったり、又はルール違反を
してしまったことに後から気づいても、構わず最後まで作成して下さい。

 一人キャラクターが完成したら、続いて二人目を作成してみましょう。このときは、
何か目標(例えば、<ハンドガン>と<ライフル銃手>と<レーザー火器>を全て2
レベル以上とるぞ、とか、一人で宇宙船を飛ばせるようにするぞ、とか)を立てて、
それを目指してダイスを振ってみて下さい。

 どうですか。なかなか思う通りにはいかないでしょう。・・・「それが人生さ」

 気の済むまで何人でもキャラクターを作成して下さい。
 ルール上、気をつけることは特にありませんが、「自動習得技能」と「階級・部門
による特典技能」を記録するのを忘れないように。(たとえ0レベルでも技能を持っ
ているのといないのでは大違いだということは、もう理解してますね?)

 出来たキャラクターを実際にゲームで使用する場合には、キャラクターシートに記
録する必要があります。キャラクターシートはルールブックにも含まれていますが、
ちょっと使いにくいので、自分で使いやすいオリジナルシートを作るとよいでしょう。

 参考までに、私が自分で作ったキャラクターシートを示します。

   メガトラベラー・キャラクターシート      作成:馬場秀和(PDF00200)
   ----------------------------------------------------------------------
   キャラクター名(性別):
   プレーヤー名 (ID):

           筋敏耐知教社          筋敏耐知教社
   UPP(通常):        UPP(現在):
   耐久値(通常):  /     耐久値(現在):  /

   年齢:  歳  経歴部門:   勤務期数:   期 最終階級:

   技能       技能レベル合計:    ≦ 経験度(知+教):

    <     − >  <     − >  <     − >
    <     − >  <     − >  <     − >
    <     − >  <     − >  <     − >
    <     − >  <     − >  <     − >

   恩典:  個   恩典表でのDM=

   所持金
    Cr
    特等チケット: 枚  一等チケット: 枚  二等チケット: 枚
    恩給:        トラベラー協会:

   防具(現在着用しているものの左に鉛筆で印を付けておくこと)

    名称  TL 重量(Kg) 価格(Cr) 装甲度   着用条件、その他
       :  :    :    :  [ ]:
       :  :    :    :  [ ]:

   装備(現在携帯しているものの左に鉛筆で印を付けておくこと)

    名称  TL 重量(Kg) 価格(Cr) 損傷有無  使用条件、持続時間など
       :  :    :    :     :
       :  :    :    :     :
       :  :    :    :     :
       :  :    :    :     :
       :  :    :    :     :

   射撃武器(現在携帯しているものの左に鉛筆で印を付けておくこと)

    名称  弾種 弾数 貫/減 ダメージ 射程 フルオート 範囲 音光 反動 難易度
       :  :  :   :  :  :  :  :  :  :
       :  :  :   :  :  :  :  :  :  :
       :  :  :   :  :  :  :  :  :  :

   近接戦闘武器(現在携帯しているものの左に鉛筆で印を付けておくこと)

    名称  貫通力 防御値 ダメージ
       :   :   :   :
       :   :   :   :

   メモ



   ----------------------------------------------------------------------


第8回(92/09/11)

 メガトラベラーでの冒険の舞台は多種多様です。真空の小惑星、重力制御で浮遊す
る都市、汚染された大気のジャングル・・・。そこに済む人々の文化、価値観、生活
習慣、政治形態もまた自然環境に劣らずバラエティに富んでいることは間違いありま
せん。

 キャラクター作成に慣れたら、いよいよメガトラベラーを特徴づける極めて重要な
ルールについて学んでゆくことにしましょう。

 メガトラベラーがSF−RPGの代表作だと言われるのはなぜでしょうか。
 宇宙船に乗れるから? レーザーガンが撃てるから? 異星人が出てくるから?
 確かにそういうのもSFの楽しみではありますが、やはりこれぞSFらしい特徴、
と言えば「PC達が多種多様な環境を体験すること」ではないでしょうか。

 ライトファンタジーRPGをプレイしていて、訪れるどの街どの村も本質的に同じ
であることに気づいて失望したことはありませんか。ライトファンタジーの多くが
「中世ヨーロッパ的」な背景世界を持っている以上、これはある程度止むを得ません。
設定のバリエーションに限りがあるのです。
 ライトファンタジーRPGが、環境設定よりも、キャラクターやイベント(事件、
ストーリー展開)を重視する傾向があるのは、このためかも知れません。

 しかし、ちょっと想像してみて下さい。もし「中世ヨーロッパ的」世界の重力が、
地球の1/10しかなかったとしたらどうでしょう。建築物、交通、日常生活、戦争
のやり方、そして人々の価値観や宗教観にどれほど大きな違いが生ずるか考えてみて
下さい。

 もし特定の植物のそばでないと大気を呼吸できないとしたら、街や人々はどんな暮
らし方をするでしょうか。共産主義が何百年も続いていたとしたらどうでしょう。
 人口が極端に多く食料が貴重品だとしたら、どんな社会が生まれるでしょう?

 そして、むろん科学技術の影響があります。中世のヨーロッパと現代のヨーロッパ
では、科学技術の進歩により人々の生活が根本的に変わっているため、それぞれの時
代を代表するヨーロッパ人が出会ったとしても、相互理解は極めて困難に違いありま
せん。これは、現代のヨーロッパと100年未来のヨーロッパについても同じことで
しょう。

 ちょっと環境が異なるだけで、文化や生活にどれほど驚くべき差異が現れるか、ち
ょっと考えてみて下さい。別の言い方をすれば、あなたが「普通の生活」「普通の習
慣」「普通の考え方」と思っていることが、実は環境(この惑星、この時代、この国)
の産物であり環境が異なれば全く変わってしまうのだ、ということをよく考えてみて
下さい。

 もし訪れる街ごとに、このように異なる環境、異なる文化、異なる体験が待ってい
るとしたら、旅はどんなに楽しいでしょう。
 次の街はどんな場所だろう、と想像するだけで胸がときめくとは思いませんか。

 これが、トラベラー(旅人)、そしてメガトラベラーというRPGの最大の楽しみ、
長く続く、飽きがこない魅力なのです。

 想像力の及ぶ限り多種多様な世界を舞台にできるのが、メガトラベラーの大きな特
徴です。
 このように様々な世界を想像力だけで作るのは、普通の人にとって大変な作業とな
ります。メガトラベラーでは、レフリーの想像力を助け、最小限の手間で様々な世界
を創造するための基本データが提供されています。これが標準世界データ(UWP)
です。

 標準世界データは世界を想像するとき、非常に便利です。と言うか、標準世界デー
タなしに世界を想像するのは、普通の人にとって至難の技です。

 例えば、何の制約もなしに「奇妙な社会(ただし、ある程度のリアリティと整合性
を持つこと)を自由に想像せよ」と言われて、あなたなら簡単に想像できるでしょう
か。

 ところが、「重力が0.02G。真空。地表の60パーセントが水界。宗教的リー
ダが独裁制を敷いている。ルネサンス期くらいの科学技術レベル」という条件が与え
られた上で奇妙な社会を想像せよ、と言われれば何とかなるのです。

 ちょっとやってみましょうか。

 真空で地表の60パーセントが水ということは、分厚い氷が地表を覆っているので
しょう。人々はどこに住んでいるのでしょうか。ひょっとしたら、氷盤の中に大気の
巨大な泡が点在しており、その中でなら呼吸できるのかも知れません。泡の直径は何
10Kmもあるのでしょう。人々は氷を削って建物を作っているのでしょうか。
 重力が低いので、泡の中全体に街が広がっているのかも知れません。人々はふわふ
わと泡の内壁から内壁へ漂うように移動しているとしたら面白いでしょう。
 寒さはどうやって克服しているのでしょうか。二酸化炭素や排泄物の処理はどうし
ましょう。ここはSFらしく、何か特殊な植物と共生しているという設定はどうでし
ょう。例えば、泡の内側の氷面を特殊なコケがびっしり覆っているとか。
 このような場所に済む人々はどのような文化を持っていると思います?

 標準世界データの読み方さえ分かれば、このように、どんどん世界を想像すること
が出来ます。次回は、この標準世界データの読み方、そこから世界を想像するやり方
について具体的に説明します。


第9回(92/09/13)

 メガトラベラーのルールブック、シナリオ、そしてここFRPGのデータライブラ
リから、膨大な数の標準世界データ(UWP)を得ることが出来ます。
 UWPを解読、解釈し、そこから具体的な世界のイメージを導き出すことが出来る
ようになれば、これらの山のようなデータがあなたの財産になります。もはや舞台設
定に困ることは二度とないでしょう。


 標準世界データ、すなわちUWPがメガトラベラーにとってどれほど大切なものか
は分かりましたね。
 では、このUWPを解読できるようにしましょう。以下のページを読んで下さい。

・「レフリーズマニュアル」より「世界の作成」(P16〜P23)

 一度理解すれば、UWPを解読するために必要な情報は全てP22〜P23の2ペ
ージにまとめられていることが分かるでしょう。この2ページを開いて、縮小コピー
をかけて1枚にすることをお勧めします。このコピー1枚を見れば、UWPが解読で
きるわけです。

 ここで注意しておきたいのは、「UWPは、読めさえすればよく、作成する必要は
ない」ということです。P24〜P29にUWPの作成ルールが載っていますが、こ
れを読む必要はありません。

 なぜなら、最初にも述べたように、一生使いきれないほどの膨大なUWPが「公式
に」提供されているからです。普通にレフリーするなら、わざわざUWPを自作する
必要はありません。
(UWP作成ルールが必要なケースとしては、どうしてもオリジナル自作宇宙を舞台
にしたい場合、プレーヤーがUWPを知ることができないことが重要である場合、等
が考えられます。いずれにしても、最初は必要ないでしょう)

 UWPの読み方が分かったら、「帝国百科」の「スピンワード・マーチ宙域」(P
95〜P99)を眺めて下さい。ここに並んでいるデータがUWPです。
 適当に一つUWPを選んで、解読結果を紙に書いてみて下さい。「宇宙港タイプ:
B、規模:中型(直径9600Km)、大気:・・・」という具合です。
 出来ましたか?

 慣れれば、UWPの解読結果を見ただけで世界のイメージをつかむことが出来る
ようになります。しかし、最初はちょっと難しいかも知れません。そこで、まず解読
結果を「解釈」して、それから世界イメージを導き出すことにしましょう。
 次のような感じです。

 UWP→解読結果→解釈結果→世界イメージ→実際に舞台にするための設定を用意

 解読結果の解釈方法を以下に示します。


・宇宙港タイプ

 宇宙港タイプは、その世界の重要性を大雑把に表していると解釈して下さい。

 宇宙港タイプがAの世界には、人・商品・資本・情報・技術・施設などが集中しま
すから、この世界は極めて重要な価値を持っていることになります。政治、経済にと
って重要であるばかりか、場合によっては軍事的、宗教的、または歴史的な重要性を
持っているかも知れません。

 宇宙港タイプがEの世界は逆です。滅多に宇宙船が訪れることもなく、政治的にも
経済的にも価値のない辺境の田舎なのでしょう。

 また、宇宙港タイプは旅行者や貿易商人(つまりPC達)が得ることの出来るサー
ビスの度合いも示します。タイプAの宇宙港には様々な施設が付随しており、宇宙船
の修理から劇場のチケット予約まであらゆるサービスが提供されます。もちろん、宇
宙港周辺には大きな宙港街が広がっており、たくさんの人々が生活していることでし
ょう。
 逆に、タイプEの宇宙港では、満足に食事が出来る店があるかどうか心配しなけれ
ばなりません。


・規模

 規模、すなわち世界の直径は、地表重力を大雑把に表していると解釈して下さい。

 どの惑星も同じ密度で組成が均一だと仮定すると、地表重力は惑星の直径に比例し
ます。(注1)
 従って、惑星の直径を12800Km(地球の直径です)で割れば、地表重力のだ
いたいの目安が得られます。(大抵は地球より低重力になるでしょう)
 重力の大きさは、建築・交通・軍事に大きな影響を与えます。建物の構造や移動手
段について想像するときには、重力を考慮するのを忘れないで下さい。

 それに、異星生物を想像するときにも、重力を考慮しなければなりません。極低重
力の世界に、がっしりとした骨格や筋肉を持つ動物がいるとは思えません。

注1)惑星の地表重力は、惑星の質量に比例し、惑星の重心から地表までの距離の2
   乗に反比例します。惑星の密度が一定で組成が均一だと仮定して、惑星の直径
   がn倍になった場合を考えると、体積(つまり質量)はnの3乗倍になります
   が、重心から地表までの距離はn倍になるので、地表重力はn倍になるのです。


・大気と水界度

 大気と水界度は、その世界における自然環境を表していると解釈して下さい。

 大気が薄すぎたり汚染されている世界では、人々は屋外に出ないか、または特殊な
装備(マスクやコンプレッサーから宇宙服まで)を着けないと屋外に出られません。
 このような世界では、恐らく建物は完全な密封構造になっており、出入口はエアロ
ック式でしょう。それに、気密漏れを引き起こす可能性がある行動(射撃など)は厳
しく禁止されているはずです。人々は自然環境を嫌悪したり、また「しゅーっ」とい
う気密漏れの音を聞くとパニックを起こすかも知れません。

 水界度が小さい惑星では、水が貴重品になっている可能性が高いでしょう。(砂漠
に建てられた都市を想像してみて下さい)
 逆に水界度が大きい惑星では、治水が大きな問題となっていたり、極端な惑星では
海面に浮遊する都市が建造されているかも知れません。(あるいは海底都市とか)

 なお、水界度といった場合、液体の水とは限りませんから注意して下さい。同じ水
界度であっても、氷が地表を覆っている惑星や、液化アンモニアの海がある惑星もあ
るのです。重力や大気のデータと合わせて、矛盾ないように想像して下さい。

 なお、気温に関するデータはないので、これは自分で考える必要があります。同じ
UWPであっても、気温が異なればまったく異なる世界になることは容易に想像でき
るでしょう。

 それから、異星生物は大気と水界度の影響を強く受けます。その世界にどのような
生物がいるかを考える際には、大気と水界度を考慮するのを忘れないで下さい。


・人口と政治形態

 人口と政治形態は、その世界における社会を表していると解釈して下さい。
 とは言え、全く架空の社会を想像することなど普通の人に出来るのでしょうか。

 幸い?なことに、地球上には、歴史上さまざまな人口と政治形態を持つ国家が乱立
してきました。現代でもこの事情は同じです。従って、UWPが示す人口と政治形態
がある程度当てはまる実際の国をモデルにして、その社会を想像すればよいことにな
ります。

 モデルにする国は、出来れば歴史上でなく現代の国家、それも観光ガイドブックが
出ている国をモデルにした方がいいでしょう。なぜなら、観光ガイドブックさえあれ
ば、PC達が必要とする情報を素早く的確に与えることが出来るからです。(PC達
は要するにトラベラーなのであり、観光ガイドブックはまさにトラベラーが必要とす
る情報を与えるために存在するのです)

 メガトラベラーのレフリーを志すのであれば、世界の主要都市の地図や各国の観光
ガイドブックを持っておくことをお勧めします。宇宙港やホテルなどの施設について
は、観光ガイドブックに構造からサービスまで載っている実際の空港や国際ホテルを
モデルにして簡単に想像することが出来ます。交通手段や食事などの情報も、観光ガ
イドブックを見てちょっと想像力を働かせれば簡単に作ることが出来るでしょう。
 宙港街の地図などは、実際の街の地図をベースにちょちょいと細工すれば出来上が
ります。


・治安レベルとテクノロジーレベル

 治安レベルとテクロノジーレベルは、PC達がとれる行動や入手できる装備に制限
を与えるものだと解釈して下さい。

 治安レベルが高いと武器の購入や所持に制限が付きますし、情報の入手にも制限が
付きます。治安面の遭遇(警察に目をつけられる、という奴です)も多くなり、違法
な行動には大きな危険が伴うようになります。
 逆に治安レベルが低いと、制限は少なくなりますが、かわりに危険も多くなります。
自分の身は自分で守れというわけです。

 テクノロジーレベルが低いと、入手できる装備に制限が付きます。反重力輸送機器
や公衆コンピュータネットワークがあるかどうかで、PC達がとれる行動に大きな違
いが生ずることは明らかでしょう。

 一般的な目安として、テクノロジーレベルも治安レベルも高い世界で冒険するとき
には、プレーヤーには知恵と狡猾さ、対人技能が要求されます。
 テクノロジーレベルも治安レベルも低い世界での冒険は、度胸や戦闘力、それに道
具を使用したり修理したりする技能が要求されることが多いでしょう。


 この他に、基地や遺跡があったり、アンバーゾーン(危険地域)やレッドゾーン
(侵入禁止地域)などもUWPに示されています。具体的にどのような基地、遺跡、
危険があるのか決めなければなりませんが、これらはシナリオに直結することが多い
ので、とりあえずは無視しておき、その世界を舞台にしたシナリオを作成するときに
決めることにするのがよいでしょう。


 さあ、ここまで「解釈」を進めれば、世界イメージを構築するのは容易でしょう。
 この世界での冒険はどんなものになるでしょうか? もし、この世界が気に入らな
くても心配することはありません。宇宙には、それこそ星の数ほどの世界があります。
きっと、あなたが冒険の舞台に選びたくなるような世界が存在するはずです。UWP
をよく調べてみましょう。

 「ナイトフォール」を購入していたら、P84〜P88にマッシリア宙域のUWP
が並んでいるので、ここも見てみるとよいでしょう。さらに、P89〜P100には、
UWPから具体的に世界イメージを導き出した例が載っているので、これも是非とも
参考にして下さい。

 さらに、FRPGのデータライブラリには、膨大なUWPデータがアップロードさ
れているので、必要なとき(スピンワードマーチ、マッシリア以外の宙域を舞台にし
ようと思ったときでしょう)にはいつでもダウンロード出来ます。

 さあ、これでUWPの活用法も、UWPの入手方法も分かりました。文字通り何千
もの世界があなたを待っています!


〔補足〕UWPには、ここで説明しなかった重要な側面があります。それは貿易に
    関するものですが、これについては、今のところ気にする必要はありません。


第10回(92/09/19)

 今までにタスクシステム、キャラクター作成、標準世界データ、という順番でメガ
トラベラーのルールを読んできました。これで、舞台と登場人物と判定方法を理解し
たわけです。では、これだけでプレイを進めることが可能でしょうか?

 結論から言うと、プレイを進めることは可能ですが、メガトラベラーらしいプレイ
にならない可能性が高いでしょう。
 では、メガトラベラーらしいプレイとは何でしょうか。それはファンタジーRPG
とは違うのでしょうか。そして、それを理解するには、どのルールを読めばいいので
しょうか。


 メガトラベラーにおけるプレイの進め方は、他のRPG、特に伝統的なファンタジ
ーRPGとはかなり異なります。これを理解しないでメガトラベラーをプレイしても、
さほど面白くないプレイになってしまうことでしょう。

 実際、伝統的ファンタジーRPGの感覚でメガトラベラーをプレイして「メガトラ
ベラーはあんまり面白くない」と思う人も多いと聞きます。
 そこで「メガトラベラーと伝統的ファンタジーRPGでは、どのように適切な(つ
まりそのRPGの楽しみを最大限に引き出す)プレイスタイルが異なっているか」と
いうことについて説明してみましょう。


 PC達が、「町外れにある古い廃坑に怪物が住みついて付近の住民を襲っている。
これを退治してほしい」という依頼を受けたとしましょう。
 もしシステムが伝統的ファンタジーRPGだとしたら、きっとこれは古典的なダン
ジョン探索シナリオですね。

 伝統的ファンタジーRPGでは、PC達は武器と防具それにランタンやロープを持
って、すぐに廃坑に向かうことでしょう。「廃坑の地図を入手しよう」とか「戦わず
にモンスターを一掃できる方法を探そう」などと考えるPCはあまりいないはずです。
 なぜでしょうか。それは恐らく次のような理由によります。

・古典的なダンジョン探索シナリオの楽しみは、構造の分からないダンジョンを一歩
 一歩進むサスペンス、そしてモンスターとの戦いのスリルにある。
 もし、ダンジョンに入る前にその構造が分かってしまったり、モンスターを戦わず
 に倒す方法があったりすれば、この楽しみが阻害され退屈なプレイになるだろう。

・従って、古典的なダンジョン探索シナリオでは、PC達が「ダンジョンの正確な地
 図」や「怪物との戦闘を回避する手段」を手に入れることは出来ないようになって
 いる。
 これが「常識」として普及した結果、プレーヤーは最初からPCにそういうものを
 求めさせようともしなくなっている。

 つまり、古典的なダンジョン探索シナリオの楽しみは、予想できない危険に立ち向
かってゆくサスペンス、勝てるかどうか分からないモンスターと戦うときのスリル、
この2つであり、多くの伝統的ファンタジーRPGのルールや設定はこの楽しみを最
大限に引き出すように考慮されているというわけです。

 これは単純ながら非常に魅力的なプレイの方向性です。今も昔もRPGプレーヤー
の多くが、ダンジョン探索を楽しんできましたし、今後もきっと廃れることはなくプ
レイされ続けることと思います。

 しかし。

 メガトラベラーに同じ発想を当てはめてはいけない、と私は思います。
 私の考えるところでは、メガトラベラーの楽しみは、危険を予想しそれを回避しよ
うと努力すること、勝てるかどうか分からない戦闘を避け確実に安全に目的を達成し
ようと知恵を絞ること、にあるのです。(戦闘は勝てるときしか行わない)

 言い換えれば、ダンジョン探索に代表されるファンタジーRPGの方向性が「危険
に立ち向かってゆくこと」から楽しみを引き出すのに対し、メガトラベラーでは「危
険をいかにして回避するか考えること」から楽しみを引き出すのです。

 メガトラベラーで先程のシナリオをプレイするとしたら、PC達がどうするか考え
てみましょう。

 彼らは、きっと廃坑の地図を入手しようとして鉱山の管理会社を訪れたり、図書館
に行って記録を調べたり、公衆データライブラリを検索したりすることでしょう。
 もし地図が手に入らなければ、質量探知機(物体内部の密度分布を表示する装置)
を使うことを検討するでしょう。

 廃坑に入る場合には、地図に加えて、照明用具、赤外線(+光量増幅)ゴーグル、
通信機、慣性誘導装置(自分達の移動を記録する装置)、生物探査装置、大気分析器、
ニューロ探知器(精神活動を検出できる装置)、放射能探知器、防護マスク、それに
念のため指向性炸薬(障壁破砕用)や登山用具、プラスティールケーブル、可能なら
それらに加えて反重力ベルトを手に入れようとするはです。
 さらに、どんな場合でも医療キットと各種薬品、それに修理器具(電子工具セット、
機械工具セット、金属細工セット)や携帯コンピュータ、翻訳器は手放さないでしょ
う。
 これだけの装備に加えて武器、ガス手榴弾、防具があれば、ダンジョンに入る気に
なるというものです。

 したがって、このシナリオでは、「いかにして装備を揃えるか」「PC達の行動を
妨害しようとするグループ(例えば、許可を出したがらない官庁役人とか、過激な動
物保護団体など)との対立をどのように処理するか」がメインになるはずです。

 優れた(つまり邪悪な)レフリーであれば、問題の怪物が実は知的生命であったと
いうような展開にして、さらにジレンマ(知的生命に危害を加えることは法に触れる
が、仕事を達成しないとローンが払えない、など)の解消という課題を突きつけてく
ることでしょう。

 それはテクノロジーレベルが高いからで、もしテクノロジーレベルが低かったら、
結局ファンタジーRPGと変わらなくなる、と思いますか。
 いえ、これは装備の種類という問題ではなく、あくまでプレイスタイルの問題なの
です。もし装備や情報が手に入らなかったとしたら、メガトラベラーのPC達はきっ
と廃坑には入らないでしょう。そして、他の方法(例えば、廃坑の外に罠を仕掛けて
おき、怪物を廃坑の外におびき出して/追い出して、その罠にはめるようにする、な
ど)を考えるはずです。

 このように、メガトラベラーの楽しみは、他のRPG、特に伝統的なファンタジー
RPGのそれとはかなり異なっています。
 ここを理解しておかないと、メガトラベラーを楽しむことは出来ないでしょう。


第11回(92/09/20)

 情報と装備がメガトラベラーのプレイスタイルに決定的な影響を与えていることが
分かりました。では、まず装備について学ぶことにしましょう。

 以下のページに、メガトラベラーで使用される装備があいうえお順に並んでいます。
 まず全体に目を通して下さい。

・「帝国百科」より「装備」(P51〜P68)

 武器や防具、それに乗り物(輸送機器)については後に学ぶことにするので、今は
それ以外の装備についてだけ読むことにしましょう。

 目を通したら、装備を分類し、一覧表を作成してみることにしましょう。こうする
ことで、どのような装備があるかが頭に入りますし、特定の状況ではどの装備が役に
たつのか理解することが出来ます。それに、プレーヤーが買い物をするときに、装備
が一覧表にまとまっていると、非常に便利です。

 分類の方法は自分なりに工夫すればよいのですが、私の場合は次のように分類して
います。
 この分類表に、テックレベルと価格を付ければ、便利な「メガトラベラー:装備購
入リスト」になります。著作権問題が生じないように、これらの情報はわざと省略し
てあります。また、省略した装備も多いので、ぜひ自分で完成させてみて下さい。

A.汎用性が高く、たいていの冒険で役に立つ装備

 A1:医療

  ・医療キット
  ・解毒剤、抗生物質、メタボリクス
  ・医療用スロードラッグ
  ・ファーストドラッグ
  ・対抗薬

 A2:修理器具

  ・電子工具セット
  ・機械工具セット
  ・金属細工セット
  ・木工道具セット

 A3:調査、偵察

  ・双眼鏡(各種)
  ・ゴーグル(各種)
  ・大気分析器
  ・質量探知器
  ・生物探査装置
  ・探知器(金属、放射能、神経活動、緊張度)

 A4:データ処理、記録、コミュニケーション

  ・携帯コンピュータ
  ・データディスプレイ
  ・レコーダー(各種)
  ・通信機(各種)
  ・コムダット
  ・翻訳機

 A5:その他

  ・バックパック
  ・ケーブル、又はロープ
  ・トーチ、ランプ、冷光ランタン
  ・錠
  ・反射鏡
  ・炸薬(障壁破砕用)
  ・反重力ベルト

B.宇宙

 B1:宇宙服、気密

  ・宇宙服(各種)+ヘルメット
  ・酸素ボンベ
  ・スーツパッチ
  ・磁気装着盤
  ・LRTP
  ・壁ふさぎ
  ・携帯用エアロック

 B2:救命

  ・救命バブル
  ・レスキューボール
  ・ビーコン(非常用)

C.野外活動

 C1:探検一般

  ・慣性航法装置
  ・慣性方向指示装置
  ・地図スクリーン
  ・磁気コンパス
  ・基地、プレハブ小屋、テント
  ・防護布
  ・水浄化キット、水分留蒸留装置
  ・信号銃、発煙照明弾
  ・なた

 C2:特殊大気

  ・スーツ(防護、重防護)+加熱器、空気調整器
  ・マスク(防護、濾過)
  ・濾過呼吸装置、人工呼吸装置

 C3:砂漠

  ・砂漠用衣類
  ・スーツ(砂漠用)
  ・砂漠生存キット
  ・水分抽出器

 C4:氷雪

  ・防寒用衣類
  ・加熱服+バッテリー(又はパワーパック)
  ・雪上靴
  ・アイゼン
  ・氷用の斧

 C5:登山

  ・登山セット
  ・登山靴
  ・鉤爪
  ・ハーケン
  ・ハンマー
  ・巻き上げ機

 C6:海洋

  ・水泳道具
  ・スーツ(潜水用、完全防水、加熱防水)
  ・マスク(水中)
  ・足ひれ
  ・えら
  ・シュノーケル
  ・重りベルト
  ・酸素ボンベ(水中用)
  ・酸素再生器
  ・残圧計
  ・深度計
  ・音響探知器
  ・水性染料

D.犯罪

 ・錠前キット
 ・盗聴器
 ・盗聴探知器
 ・変装キット


第12回(92/09/29)

 装備と並んでメガトラベラーのプレイ進行に大きな影響を与えているのが、NPC
とのやりとりです。

 「未開惑星の探検」といったNPCが登場しないシナリオを別にして、典型的なメ
ガトラベラーのシナリオでは、プレイ時間の少なくとも半分はNPCとのやりとりに
費やされることになります。
 実際、メガトラベラーのシナリオの多くは、PC達が絶え間なくNPCと接触し会
話し交渉することを前提としています。

 このように、NPCとの接触を通じて様々なことを実現してゆき、結果として最小
限のトラブルや危険で目標を達成する、というのがメガトラベラーの典型的なプレイ
進行の一つだと思って下さい。

 PC達が対人行為によって実現できることを大きく分類すると次の通りです。

  1.仕事の依頼を受ける
  2.NPCを雇う(NPCに仕事を依頼する)
  3.協力・援助を引き出す
  4.情報を引き出す
  5.装備を入手する
  6.手続きを行ってもらう

 対人行為のコツを学ぶことは、レフリーにとってもプレーヤーにとっても重要なこ
とです。もし、プレイ進行がスムーズにゆかないときには、すぐに対人行為の活用を
考えてみるようプレーヤーを誘導する習慣をつけて下さい。

 例えば、シナリオを進める上でどうしても必要な技能をPCが誰も持っていないと
します。メガトラベラーに不慣れなプレーヤーの場合、そこで壁にぶつかってプレイ
進行が止まってしまうということがあります。

 このような場合には、すぐに「じゃあ、この技能を持っている人を雇おう。そのた
めには、どこに行って何をすればいいかな」などとNPCに言わせて下さい。再びプ
レイはスムーズな進行を始めることでしょう。こうして、このプレーヤー達は、メガ
トラベラーのプレイのコツを一つ学んだわけです。次はきっとレフリーの助け船がな
くても巧くやってのけることでしょう。

 さて、ゲームである以上、レフリーは対人行為の最終的結果、例えばNPCの協力
を引き出せたか、NPCを騙せたか、NPCはワイロを受け取ったか、などをきちん
と決定しなければなりません。
 この決定は難しいものです。判定対象が物理的現象ではなく、人間の心だからです。

 特に、PC達の努力が無駄に終わるという決定を下すのは、かなりの心理的抵抗を
伴います。レフリーの一存で対人行為が失敗に終わった場合、プレーヤーはレフリー
に対して不満を持つことになるかも知れません。

 メガトラベラーでは、「ゲームとしてきちんと判定を下さなければならないものの
判定が難しい対人行為」の典型的なものを取り出してルール化しています。判定に困
ったときには、これらのルールを適用してプレーヤーにダイスを振ってもらうべきで
す。プレーヤーは、ルールに従ってダイスを振った場合には、たとえ失敗しても納得
するものです。

 対人行為ルールについては、以下のページを読めば理解できます。

・「レフリーズ・マニュアル」より「対人行為」(P44〜P45)

 ここに書かれているルールを応用すれば、多くの対人行為が判定できるでしょう。
特にP45にある一連の表を状況に従って読みかえることで、NPCの心の動きを決
定しなければならないケースの大半に対して判定が可能となります。

 最後に、対人行為を機械的に判定することは避けて下さい。

 対人行為は、基本的にはロールプレイ(つまり、レフリーの口を借りたNPCと、
プレーヤーの口を借りたPCとの、実際の会話)によって解決することが望ましいの
です。そうでないと、コンピュータRPGで「話す」コマンドを打つだけでNPCが
情報を教えてくれるのと変わりなくなってしまいます。

 判定を行う場合でも、その前に必ず実際の会話を行うように習慣づけて下さい。そ
の会話のなりゆきによって判定の難易度を調整するのです。良い(つまり邪悪な)レ
フリーは、プレーヤーが頭を使えば使うほど対人行為の難易度を下げるという報酬を
与え、プレーヤーに対して「対人交渉の方法を自分で考える」「きちんとした会話を
行う」という癖をつけさせるよう心掛けているものです。


第13回(92/10/02)

 装備と対人行為が、シナリオを進めてゆく手段を提供するものの代表だとすれば、
動機を提供するものの代表は、ずばり「クレジット通貨」でしょう。

 メガトラベラーを始めてプレイした人の感想が、「お金にきたなくなるRPGだな
あ」であった、という話があります。また、「メガトラベラーのプレーヤーはダイス
を忘れることはあっても電卓を忘れない」という話もあります。
 実際、しばしば冗談のタネになるくらい、メガトラベラーのPCに貧乏や借金はつ
きものです。これは、一体なぜでしょうか?

 トラベラー/メガトラベラーは、文字通りPC達が旅を続けるRPGです。旅を続
けること、次々と新しい世界を訪れ未知の体験をすること。これがトラベラー/メガ
トラベラーの楽しみです。

 従って、プレーヤーは、出来るかぎり長く自分のPCに旅を続けさせたいと願うも
のです。ところが、宇宙を旅するにはとてもお金がかかります。最初の所持金などす
ぐに旅費や生活費として消えてゆくことでしょう。お金が尽きれば、旅は、つまりゲ
ームは、あるいは人生は、そこで終わりです。

 こうして、プレーヤーはPCにお金儲けをさせようという強い動機を持ちます。
 特に、所持金が乏しくて旅費が出せない場合や、銀行の預金が尽きようとしている
のに借金の返済日が迫っている場合など、お金さえ手に入るなら多少やばい仕事にも
手を出そうという気になるものです。(プレイしてみると分かりますが、この辺の感
覚は結構リアルで、怖いものがあります)

 レフリーは、この心理を利用します。PCに対し、常に「破産して人生(ゲーム)
から脱落するかも知れない」という圧力をかけておけば、大抵の仕事は引き受けさせ
ることが出来るものです。

 さて、仕事を引き受けたPCは、既に解説したように装備や情報を入手しようとし
て行動を開始します。
 ところがところが、世の中は何をするにもお金が必要です。装備の購入にも、対人
行為にもお金がかかります。じっとしていても生活費が出てゆきますし、装備が故障
すれば修理費がかかります。戦闘で怪我でもした日にゃあなた、治療費が入院費が薬
代が、と、お金は湯水のごとく消えてゆきます。

 せっかく命懸けで危ない仕事をやったのに、報酬の大半はこういったことに消えて
しまい、借金を支払った後に残ったお金でようやく次の星までの旅費が出た・・・
 これがトラベラー/メガトラベラーなのですね。

 次回は、レフリーから見たPCの所持金管理について解説します。このコツさえつ
かんでしまえば、PCをあなたの思うがままに誘導できます。お金の処理がきちんと
しているレフリーは、プレーヤーからも信用されます。良い(つまり邪悪な)レフリ
ーは、PCの負傷状態よりも所持金の状況に気を配るものなのです。


第14回(92/10/03)

 事業を成功させるために必要なことは「ヒト、モノ、カネ、情報」の管理だとよく
言われます。
 メガトラベラーのセッションも同様です。このため、今までヒト(キャラクター)、
モノ(装備)、情報(対人行為)の扱い方を学んできたのです。
 今回は、いよいよカネ(所持金)の管理について解説します。これを理解すれば、
あなたはレフリーを行う上で基本となるテクニックを全て学んだことになります。

 所持金管理は基本的に次のようにして下さい。

・収入支出についてはレフリーがきちんと指示する。

・PCの所持金の増減額計算は、プレーヤーにやってもらう。

 収入や支出をレフリーはきちんと指示して下さい。この指示がいい加減だと、ゲー
ムのリアリティと、レフリーに対する信頼感が急速に失われてゆきます。
 お金に関する限り、一度でもいい加減な処理をすると、レフリーに対する信頼を回
復させることは二度と出来ないのだ、というくらいの覚悟でいて下さい。
 現実にもそうですが、お金というものは非常にシビアなのです。

 なお、大切なのは「きちんと指示する」ということであって、その指示の内容が厳
密かつ正確である、ということではありません。架空の世界の物価について正確なこ
とが分かるはずはありませんから、もちろんレフリーが適当な思いつきで価格を決め
なければならない場面はいくらでもあります。その場合でも、「きちんと価格を決定
して伝える」「一度決めた価格については責任を持つ」ということさえ忘れなければ
よいのです。

 しかし、所持金の計算自体はプレーヤーに担当してもらった方がいいでしょう。こ
れは、レフリーが煩雑な雑事から逃れてもっと重要な仕事に専念できる、ということ
だけでなく、自分の手で所持金を計算させることでプレーヤーの感情移入を強めると
いう目的があります。

 なお、自分達の宇宙船を持っているキャラクター、特に貿易を行っている場合には、
所持金管理はかなり複雑になります。慣れないプレーヤーの場合、レフリーが所持金
計算を代行してあげた方がよいかも知れません。

 では、具体的に支出と収入について見てみましょう。ここでは、宇宙船を所有して
おらず、旅費を払って旅を続けているPCについて示します。

支出

1.生活費

 これについては既に学びました。え? 覚えてない?
 「技能」のルールを読み直して下さい。PCが1カ月(4週間)生活するのに必要
な金額は「社会身分度×250」だと書いてあります。

 このルールは非常に便利でして、大して重要でない支出は、いちいち計算しないで
全てここに含めてしまうことが出来ます。例えば、PC達が食事をする度に支出を計
算していては大変ですね。生活費はそのような「日常的な」支出を全てカバーすると
考えて下さい。

 生活費に含めてしまえる支出としては、食事、衣服、宿泊費、チップ、各種運賃、
各種手数料、光熱費、税金、娯楽費(書籍や映画など)があります。

2.旅費

 以下のルールを読んで下さい。

・「帝国百科」より「旅行」(P86〜P94)

 ただし、今はP86とP87に書いてあることを理解すれば十分です。

 これが旅費に関するルールです。普通、PCは2等寝台を避けて、せめて1等客室
で旅をしようとしますから、旅を続けていれば最初の所持金が長持ちしないことはす
ぐに分かるでしょう。

3.修理・治療

 装備は必ずいつか壊れます。例えば、普通に使っていても、タスクで致命的失敗を
すれば故障が生じます。精密電子機器を落としたり濡らしたりすれば、やはり故障す
るでしょう。戦闘をすれば、PCは怪我をします。
 修理と治療のための支出はきちんとルール通り計算する必要があります。

 修理費のルールについては既にタスクシステムの説明のところで学びましたね。
(覚えてない人は、「レフリーズ・マニュアル」のP14を参照のこと)

 治療費のルールについては、以下を読んで下さい。

・「プレーヤーズ・マニュアル」より、「ダメージの適用」(P76〜P77)

 ただし、この治療ルールについては、戦闘に関するルールを読んでないと正確には
理解できないことと思います。ここでは、怪我の状態によって治療費や入院費が決ま
ることだけ覚えていればよいでしょう。

 それと、軽傷の治療費のルールには重大な誤植があります。外科手術をする場合の
治療費と外科手術をしない場合の治療費が逆になっているのです。

 治療費の目安ですが、普通の特徴ポイントを持つPCが銃で一発撃たれたとすると、
そのPCは「気絶」し、「軽傷」を負います。完全治癒にはだいたい2週間かかり、
手術費と入院費の合計は平均してCr5000ほどです。これは、だいたい50万円
くらいに相当します。(もちろん入院期間は収入はないし、旅をすることも出来ませ
ん。その間にもローン返済日はやってきます・・・)

4.装備

 装備の価格については既に学びましたね。装備リストに載っていないものについて
はどうすればいいでしょう?

 PCが、装備リストに載っていないものを購入する場合、それがシナリオを進める
上で意味を持つものであれば、きちんと価格を決めて下さい。例えば、普通に腕時計
を購入するのであれば生活費として扱って構いませんが、請け負った仕事のため特別
な(耐震性とか完全防水とか通信機能付きとか)腕時計を購入するのであれば、レフ
リーは価格を決めて、生活費とは別に所持金を減らすように指示して下さい。

 これは、要するに「人間、自分で金を払ったものには愛着を覚える」という心理を
利用して、装備にリアリティを持たせることが目的です。

 例えば、腕時計を購入するときでも、単に「生活費で腕時計を買う」というのでは
なく、きちんと価格を決めて所持金を減らせば、その腕時計は単なるデータではなく
リアリティを持った装備となるのです。出来れば、購入の際には様々な性能・デザイ
ン・価格の腕時計があることを示し、PCに選ばせるともっとよいでしょう。「選択
して購入した」という事実は、その装備に対する愛着を深めます。

 装備リストに載っていない物品については、装備リストを見て「同じくらいの価格
だろう」と思える装備を捜し出して、その価格にプラスマイナス20パーセントくら
いの修正をかけて決めて下さい。

 もし、そのような装備がなければ、だいたい現実の価格(円)を100で割って、
クレジット価格にして下さい。例えば、PC達が家庭用電気冷蔵庫を購入するとして、
装備リストを見ても似たような装備というのがありませんね。この場合、「まあ現実
には5万円〜10万円くらいだから」というので、500〜1000クレジットくら
いにしておけばよいのです。

 いずれにしても、レフリーは価格を素早く決めて下さい。厳密さよりも素早さです。
 PC達が店に入って店員に製品の価格を尋ねるシーンで、レフリーがうんうん唸っ
ていては興ざめです。このようなときは、素早く「ああ、それなら××クレジットで
す。何々機能が付いてないクラスの製品ですと3割ほどお安くなります。それにこち
らは2割ほど価格はあがりますが性能は上でして、長くお使いになるのでしたらこれ
がお買い得かと」などと言えば、ゲームはよどみなく進行することでしょう。
 レフリー作業は何でもそうですが、要は度胸です。

 もちろん、価格を決めたら素早くメモして、以降は状況が変わらない限りその価格
については責任を持って下さい。PCに「えーと、ところで、さっきの製品はおいく
らでしたっけ?」と聞かれて店員が絶句するようではいけません。
 また、すでに決めた価格と矛盾する(機能が上の製品の方が価格が安いなど)価格
を決めてもいけません。
 もっとも、良い(つまり邪悪な)レフリーは、プレーヤーから価格の矛盾を突かれ
ても全く動揺しないで「いや、そちらは有名ブランド製品でして」などとぬけぬけと
言い逃れするものですが。

5.その他の支出

 装備だけでなく、シナリオを進める上で特別に発生する支出は全てその場で価格を
決めて下さい。例えば、ある人物を見張るために、最高級ホテルに自費で宿泊しなけ
ればならなくなったとすれば、ちゃんと一泊の宿泊費を決めて生活費とは別に払わせ
て下さい。

 価格の決め方は同じです。だいたい日本円で目安をつけて、それを100で割って
クレジット価格にするのです。

 価格を決めるのが面倒だと思う場合、仕事の依頼主(パトロン)が手配してくれた
ことにしても構いません。ただし、この場合には「ありがたみ」や「リアリティ」が
薄れてしまうことは承知しておいて下さい。
 最高級ホテルに宿泊する例の場合、パトロンがホテル代をもってくれることにすれ
ば処理は楽ですが、それよりは「夕食にいくらかかった」「ルームバーのビールが、
一本いくらだった」「立体TVのニュースを見るのにいくらかかった」と支出を計算
させた方が、実感を持たせることが出来るでしょう。


収入

 収入は、恩給などの例外を別にすれば、仕事に対する報酬だけです。報酬額はレフ
リーが任意に決めて構いませんが、あまり報酬を与えすぎると冒険意欲は萎えるし、
メガトラベラーの楽しみである「お金の苦労」がなくなってゲームがつまらなくなる
し、ロクなことはありません。

 報酬の目安としては、一つの星で1週間かかる仕事を請け負って、PC一人当たり
Cr10000くらいが適当でしょう。
 これで、だいたい一等客としての旅費と生活費が出ますから、旅を続けることは可
能です。もちろん旅費と生活費以外の支出がありますから、PCがお金持ちになる心
配はありません。

 レフリーは常にPC達の所持金をよく認識しておいて下さい。貧乏なときに収入が
あると嬉しいものです。この勤労の歓びを台無しにすることがないように、常に所持
金は少なめにしておくことを忘れないように。

 とは言え、たまには大きな報酬を与えてPCを(プレーヤーを)喜ばせてあげて下
さい。逆にときには思わぬ出費を強いて危機感を煽って下さい。こうして、プレーヤ
ーがPCの所持金の増減に一喜一憂するようになれば、メガトラベラーのキャンペー
ンは人生の一部と化し、いつまでも続く楽しみとなることでしょう。

[補足]ここでは収入は全て通貨ということで解説しましたが、もちろん冒険の報酬
    は現金とは限りません。むしろ、必要な物品や便宜、コネなどが報酬として
    得られるパターンの方が普通でしょう。


第15回(92/10/12)

 メガトラベラーにおいては、戦闘はあくまで「目標達成のための一つの手段」に過
ぎません。それも「割に合わない、スマートでない手段」です。
 ここをきちんと理解できるかどうかが、メガトラを楽しめるかどうかの分かれ目だ
と言っても過言ではないでしょう。

    「RPGにおいては戦闘がやたらに起きる。たぶんその理由は、RPG
    をプレイするような連中は粗野で社会性に欠けるガキであり、他にやる
    べきことを思いつかないからだろう」
    ("Tales from the Floating Vagabond"RPGの
    「反社会的な振る舞いルール」序文より)

ここまで言い切るのはナンですが・・・


 メガトラベラーでも、もちろん戦闘は頻発します。戦闘が全く起きないシナリオは
極めてまれだと言ってよいでしょう。それに、トラベラーに比べるとメガトラベラー
は、ルール的にも背景宇宙の設定も、明らかに「戦闘指向」色を強めています。

 実際、RPGをプレイしていて、戦闘は他の行為に比べて分かりやすく興奮の度合
いも上であることが多いでしょう。また、戦闘する以外に解決することができない状
況に置かれることもまれではありません。
 ですから、戦闘を無理に避ける必要はありません。

 しかし、メガトラベラーにおいては、「戦闘は割に合わない行為である」というこ
とは、ちゃんと理解しておいて下さい。

 なぜ戦闘は割に合わないのか。それは次のような理由によります。

・戦闘によるメリットがルール的にない

 伝統的なファンタジーRPGでは、戦闘により敵を倒すと「経験点」が入りキャラ
クターが成長するというルールが一般的です。これは、そのようなRPGが基本的行
動として戦闘を想定しており、そのためなるべく戦闘が起きやすいようにと配慮して
作られたルールなわけです。
 ところで、メガトラベラーでは戦闘をしても経験点は入りません。ルール的には、
戦闘を行うことによるメリットは何もないのです。

・戦闘は危険である

 メガトラベラーでは、普通の人がピストルで一発打たれた場合、重傷を負って意識
を失います。2発入れば即死か、運が良くても瀕死でしょう。
 このように、メガトラベラーは戦闘に関する限り非常に現実的です。満身創痍にな
りながらも剣を振るってドラゴンに立ち向かう勇者も、怪我を呪文一つで治してくれ
る僧侶も、そして一晩泊まるだけで傷を全快させてくれる宿屋も、メガトラベラーの
宇宙には存在しないのです。
 メガトラベラーにおける戦闘とは、基本的に「一発入れば最後」という極めて危険
なものなのです。

・戦闘による出費が大きい

 運良く戦闘を生き延びたとしても、怪我をすれば病院で治療を受けなければなりま
せん。(でないと、傷が悪化して最後です)
 治療費は大変な負担となります。その上、治療をしている間は他のことは一切でき
ません。入院費を払うばかりで、収入はありません。旅行も出来ません。
 また、戦闘中に故障した装備はちゃんと修理しなければなりません。この修理費も
馬鹿になりません。
 結局のところ、戦闘をしても損をするだけなのです。

・戦闘は違法である

 多くの星では戦闘は違法です。それどころか、武器を所持しているだけで犯罪とな
るところも少なくありません。(現在の日本を考えてみて下さい)
 町中で銃撃戦でもやれば、たちまち司法当局に逮捕されてしまうでしょう。


 このように、メガトラベラーにおける戦闘はデメリットが大きいため、気軽に行う
わけにはいかない行為です。

 ですから、戦闘を行う前に、少なくとも以下のことはチェックして下さい。


1.その戦闘は、目標を達成するための手段になっているか?

 明確な目的無しに戦闘をしてはいけません。例えば、街でチンピラにからまれたと
して、いきなり戦闘に突入するのはあまりにも無茶な行動です。(こういう行動を、
「対ワンダリングモンスター用自動戦闘モード」といいます)

 戦闘を行う場合には、いつも「この戦闘に勝利すれば、最終目標の達成に役立つだ
ろうか」と自問して下さい。
 そして、戦闘に勝っても特に目標達成に意味がないのであれば、戦闘を避けるべき
です。必要なら逃げて下さい。何度も言うようですが、戦闘は手段であって目標では
ないのです。

2.他の手段で解決できないか?

 戦闘をしなくても、装備の使用/情報の収集/対人行為によって目標を達成できる
のであれば、何も戦闘をする必要はありません。

 例えば、ある倉庫の中を調べる必要があるのだが、見張りがいて中に入れてくれな
いとしましょう。ここでいきなり見張りと銃撃戦を始めるようなやり方では命がいく
らあっても足りません。

 まず探知機で離れたところから倉庫内を調べるわけにはいかないでしょうか。
 見張りに見つからないように倉庫に侵入する(上空から、地下から、荷物に隠れて、
などなど)方法はありませんか。
 その倉庫の中に入ったことがある人物を探して話を聞くというのはどうでしょう。
 役所や運輸会社の事務所でその倉庫に関する情報が得られないでしょうか。
 見張りにワイロを渡して入れてもらうことは出来ないでしょうか。
 警官に変装した仲間が見張りを尋問しているすきに別のPCが倉庫内に忍びこむと
いうのはどうでしょう。
 見張りの雇い主のところに行って、新しい見張りとして雇ってもらうという手はど
うでしょうか。
 いよいよとなれば、プロの泥棒を雇って、こっそり倉庫に忍び込んで写真を取って
くるよう指示するという手だって使えます。

 実のところ、戦闘をしないと解決出来ない状況というものは多くはありません。何
か手はないかと考えてみる癖をつけて下さい。それがメガトラベラーの本当の楽しみ
なのです。

3.勝ち目は大きいか?

 戦闘を行おうと決意した場合、確実に勝てるようにして下さい。「勝てるかどうか
分からない相手に果敢に立ち向かってゆく」というのは伝統的ファンタジーRPGの
勇者だけで結構です。メガトラベラーでは、「勝てない戦闘はしない」が鉄則です。

 戦闘に勝利するための方法はよくご存じのはずです。「敵の情報を得る」「味方の
状態を把握する」「敵より人数、武器、装備で優るようにする」「戦う時と場所を、
自分達が有利になるように選ぶ」などなど、常識的なことをきちんと守ることです。

 助言をしておくなら、「装備」と「不意打ち」を活用して下さい。
 こちらが赤外線ゴーグルを持っていて相手が持っていないのであれば、夜間に照明
を破壊してから戦闘に突入するだけで勝利は確実でしょう。こちらが反重力機器を持
っていて相手が持っていないのなら、上空から攻撃するべきでしょう。
 不意打ちについては言うまでもないでしょう。本格的な戦闘が開始される前に、一
人でも多くの敵を倒しておくことは重要です。特に指揮官クラスを狙って下さい。

 正々堂々とした戦いを好む人は、戦闘を避けた方がいいです。メガトラベラーでは、
戦闘を行う以上は、卑怯な手であろうと何だろうとひたむきに勝利を目指して下さい。
そうでない者は早死にします。
 諺にも言うではありませんか。「死した屍、卑怯者なし」と。

4.戦闘ルールをちゃんと活用しているか?

 援護物の陰から撃つ、戦術ポイントをつぎ込む、妨害(インターラプト)を活用す
る、移動方法と速度に注意する、など戦闘の基本的ルールを理解していないと勝利は
おぼつきません。
 戦闘を行う以上、それを管理するルールの基本についてはよく勉強しておいて下さ
い。かかっているのはあなたの(PCの)生命なのです。


第16回(92/10/24)

 激しい銃撃戦が発生したとき、一発撃つ毎にレフリーがうんうん唸りながらルール
ブックを調べていては興ざめです。戦闘の解決はスピーディに行うのが鉄則です。
 そのためにレフリーは何をしておけばよいでしょうか。


 メガトラベラーの戦闘ルールは大きく二つに分かれます。個人戦闘と宇宙戦闘です。
 ここでは、個人戦闘のルールについて学ぶことにしましょう。以下のページを読ん
で下さい。

・「プレーヤーズマニュアル」より「メガトラベラーの戦闘」「ダメージの適用」
 「特殊ルール」(P67〜P95)

 戦闘ルールについて理解できたでしょうか? おそらく、一度読んだだけではよく
分からないことと思います。心配する必要はありません。はっきり言って、ここのル
ールの書きかたが悪いのです。もうちょっと分かりやすく書いて欲しいものです。

 さて、不平を言っていても仕方ないので、ルールを読みながらそれをチャートにま
とめてゆく作業を行いましょう。この作業を行うことでルールが理解できることと思
います。また出来上がったチャートは、レフリーを行うときにそのまま利用できるの
で非常に便利です。

 作成する戦闘チャートは全体で5種類に分けられます。

1.戦闘準備チャート群

 戦闘ラウンドの最初に必要な確認作業や判定についてまとめたチャート群です。
 内容は次の通り。

  ・確認作業一覧:PCとNPCのデータ、戦術ポイント合計、距離、速度申告
  ・判定方法一覧:不意打ち判定、イニシアチブ判定、妨害判定
  ・基本データ :距離帯と距離とマス目の対応、移動ポイント表、武器や防具
          のデータ

2.射撃戦闘チャート群

 射撃を行う際に必要な情報をまとめたチャート群です。
 内容は次の通り。

  ・射撃戦闘タスク :射撃戦闘に係わるタスク(UTP)をまとめたものです。
  ・射撃基本難易度表:距離帯と付属物の組合わせに対応した射撃基本難易度の表
  ・射撃難易度修正表:射撃難易度が上昇する条件と下降する条件の表
  ・射撃戦闘解決表 :個々のキャラクターと距離帯ごとに、射撃難易度とDMを
            記入して、実際に射撃を解決する表
  ・ダメージ決定表 :「ダイスの出目+DM−目標値」と「貫通力/装甲度」の
            組合わせでダメージを決定する表

3.近接戦闘チャート群

 近接戦闘を行う際に必要な情報をまとめたチャート群です。
 内容は次の通り。

  ・近接戦闘タスク :近接戦闘に係わるタスク(UTP)をまとめたものです。
  ・近接戦闘解決表 :近接戦闘を行うキャラクターの組ごとに、近接戦闘難易度
            とDMを記入して、実際に近接戦闘を解決する表
  ・ダメージ決定表 :「ダイスの出目+DM−目標値」と「貫通力/装甲度」の
            組合わせでダメージを決定する表

4.ダメージ適用チャート群

 ダメージの適用を行う際に必要な情報をまとめたチャート群です。
 内容は次の通り。

  ・ダメージ適用表 :ダメージ適用方法、負傷表
  ・治療表     :診断・治療のタスク(UTP)、治療ルール

5.選択ルールチャート群

 レフリーが使用すると決めたルールをまとめたチャート群です。
 内容は次の通り。

  ・詳細な戦闘ルール:射線、致傷範囲、巻き添え命中、オートマチック射撃、
            速射、反動、ねらい撃ち、間接射撃、機体への命中
            手投げ

  ・特殊な戦闘ルール:地形、連絡、士気、移動(地形効果、武器積載)、視線
            長射程間接射撃、弾薬補給

  ・選択ルール集  :車両スタート、各種の移動、真空、重力、火災、
            建造物破壊、破孔、爆薬、化学弾

 これらのチャートの作り方について、次回に解説しましょう。


第17回(92/10/24)

 戦闘をスピーディに解決するために、戦闘チャートは必要不可欠だと言ってよいで
しょう。(少なくとも戦闘ルールが完全に頭に入るまでは)


 メガトラベラーのレフリーを志すのであれば、戦闘チャートを自作することを強く
お勧めします。ちょっと考えると面倒ですが、一度作成してしまえばルールが把握で
きる上に、実際にレフリー作業を行うときも機械的にチャートに従えばよいので非常
に安心です。騙されたと思って作成に挑戦してみて下さい。

 というわけで、2回に分けて戦闘チャート作成のコツを解説することにしましょう。
 まず今回は、戦闘準備チャートと射撃戦闘チャートについてです。

「1.戦闘準備チャート群」より「確認作業一覧」

 戦闘ラウンドの最初に確認する項目を全て書いておきます。これをチャート化する
ことで、実際のレフリー作業を行っているときに戦闘が発生しても「えーと、まず何
をすればよいんだっけ(^_^;)??」と焦ることなく、余裕を持って戦闘に突入すること
が出来ます。

 内容としては、各キャラクターのデータ(耐久値、関連技能レベルとDM、装甲度、
使用武器)をメモすること、対立するグループ双方の戦術ポイント合計を確認して表
示する(大きなダイスでみんなに見えるように表示するとよいでしょう)こと、各キ
ャラクターをマップ上に配置すること、各キャラクターの移動速度を申告させること、
などです。


「1.戦闘準備チャート群」より「判定方法一覧」

 命中判定を除く全ての戦闘関連判定についてまとめておきます。

 内容としては、不意打ち判定、イニシアチブ判定、妨害判定、移動方向を合わせる
判定、などです。


「1.戦闘準備チャート群」より「基本データ」

 戦闘に関係する基本的なデータをまとめておきます。

 内容としては、次のようなデータが入ります。

・距離帯(至近、近、中、・・・)と距離(メートル)とマップ上マス目数の対応関
 係をまとめた表。プレーヤーズマニュアルP75にあるのでこれをコピーしてもよ
 いでしょう。

・移動ポイント表。プレーヤーズマニュアルP75にありますが、回避の場合につい
 て追加して下さい。

・武器と防具のデータ。レフリーが使うと決めたものだけを載せて下さい。
 射撃武器についてはプレーヤーズマニュアルP78とP79に、近接戦闘武器につ
 いては同じくP75にありますが、さらに「テックレベル」と「携帯が合法である
 治安度上限」のデータも追加して下さい。なお、P80〜P83の武器はまず使う
 ことはないので、チャートに載せる必要はありません。(これらの武器を使うと決
 めたときだけ作成して下さい)


「2.射撃戦闘チャート群」より「射撃戦闘タスク」

 射撃の命中判定のタスクを記入して下さい。


「2.射撃戦闘チャート群」より「射撃基本難易度表」

 プレーヤーズ・マニュアルP73の表をコピーして使ってもよいでしょう。
 同じ紙に、次の「射撃難易度修正表」を載せると便利です。


「2.射撃戦闘チャート群」より「射撃難易度修正表」

 射撃の際に命中難易度が1レベル上昇する条件、下降する条件をまとめます。


「2.射撃戦闘チャート群」より「射撃戦闘解決表」

 次の例を見て下さい。

 ----------------------------------------------
 攻撃側キャラクター名:           :←攻撃側キャラの名前
 攻撃側武器とダメージ:           :←武器とダメージ
 距離        :至近: 近: 中: 遠:
 武器の貫通力    :  :  :  :  :←武器のデータを見て記入
 命中難易度     :  :  :  :  :←基本難易度表と難易度修正表
                         を見て記入します。
 攻撃側武器技能DM :+ :+ :+ :+ :←射撃の技能レベルによるDM
 攻撃側敏捷力 DM :+ :+ :+ :+ :←敏捷力によるDM
 攻撃側移動  DM :− :− :− :− :←攻撃側移動速度によるDM
 防御側移動  DM :− :− :− :− :←防御側移動速度によるDM

 DM合計      :  :  :  :  :
 ----------------------------------------------

 このような表をあらかじめ沢山用意しておき、記入してゆくのです。最初の一発は
表に記入する手間がかかりますが、同じキャラクターの二発目以降は表を見るだけで
難易度とDMが分かります。


「2.射撃戦闘チャート群」より「ダメージ決定表」

・「ダイスの出目+DM−目標値」の値(0、+1、+2〜+3、+4〜+7)
を縦に

・「武器の貫通力/防御側の装甲度」の値(1未満、1〜2、2以上)
を横に

・「ダメージ倍率n倍」又は「固定ダメージp点」
を交差する欄に記入した表です。

 命中判定でダイスを振ったとき、「射撃戦闘解決表」と「ダメージ決定表」を見れ
ば、すぐに命中の有無と命中したときのダメージを決めることができます。
 これは非常に便利ですから、ぜひ実際に作成してみて下さい。


第18回(92/11/02)

 強力な火器を手にしていれば、近接戦闘を行う必要はない・・・でしょうか?
 アクション映画を見れば分かるとおり、たとえ主人公が拳銃を持っていても、
格闘シーンは必ず発生するものです。


 強力な銃器があるにも係わらず、メガトラベラーで近接戦闘が発生することはよく
あります。例えば、次のような場合です。

1)キャラクターが銃器の技能を持ってない、あるいは近接戦闘の技能の方がレベル
  が上である

2)銃器が故障した、弾切れを起こした、手から落とした

3)銃器が発射できない状況(例:銃を発射すると爆発生ガスに引火する、弾が当た
  ると致命的な装置のそば、無重力なので反動が危険、銃の音光が発見されるとま
  ずい、銃器の使用が禁止されている、等)

4)相手がこちらの行動を「妨害」して先に銃を発射することが出来ないように、近
  接戦闘を仕掛ける。さらに、うまく成功すれば相手の銃器をたたき落とす。


 4)は「仲間を撃とうとしている敵に、背後からとっさに飛び掛かって格闘に持ち
込む」といった、ありがちなアクションシーンを再現しています。

 メガトラベラーの戦闘ルールには、このような定番的なアクションシーンを再現す
る仕掛けが沢山ありますので、色々とルールの真意を読んで活用するように心がけて
下さい。ルールがカバーする状況を想像してみれば、「ははぁ、アクション映画の定
番シーンで使われるアレだな」とすぐに分かるはずです。

 さて、前置きが長くなりました。戦闘チャート作成の続きです。


「3.近接戦闘チャート群」より「近接戦闘タスク」

 近接戦闘に係わるタスク(UTP)をまとめたものです。
 実は、日本語版ルールブックには、近接戦闘に関するかなり致命的な混乱がありま
す。そこで、英語版にある以下のルールの方をチャートには書いておいて下さい。

    近接戦闘に関する2つの行為判定を、1つの行為判定で代用する簡易ルール

    近接戦闘で他のユニットへの攻撃を命中させるには:
    並、攻撃側=<武器技能>、筋力
      防御側=<武器技能>、武器の「防御」値、(確定時間、対立)
    レフリー:攻撃側に<武器技能>がない場合、難易度が1段階上がります。
    防御側に<武器技能>がない場合、難易度が1段階下がります。
    素手または棒きれにより近接戦闘を行う場合には、<格闘>技能を武器技能
    として使用します。
    防御側は身を守るために、自分の武器(現在使っている武器。近接戦闘用で
    ない武器ならば下記参照)の防御値をマイナスのDMとして使うことができ
    ます。武器の「防御値」はプレーヤーズマニュアルP75の表にあります。
    武器が鈍器(ライフルの銃床のような)ならば棍棒として扱い、鋭利なもの
    (割れた瓶のような)ならば短剣として扱います。
    この行為判定の失敗は、防御側が近接戦闘をブロックしたか、もしくは攻撃
    が回避されたことを意味しています。
    防御側のユニットがまだ行動を行なっていなければ、この後で自分の武器を
    使い、近接戦闘による反撃を行なうことができます。防御側は妨害行動で、
    攻撃側の先手を取ることも可能です。防御側のユニットが近接戦闘を妨害し
    て先に攻撃しようとする場合、妨害判定には移動速度のDMではなく、敏捷
    力DMを用いてください。防御側のユニットは自分が直接関係している近接
    攻撃以外の行動を妨害することはできません。


 近接戦闘の成功と命中を一つの判定で行う、この簡易ルールをお勧めします。
 その方がスピーディな処理ができるからです。

 なお、レフリーは、使用する近接戦闘ルールについてプレーヤーにあらかじめ説明
し話し合っておくことを忘れないで下さい。


「3.近接戦闘チャート群」より「近接戦闘解決表」

 近接戦闘を解決する表です。射撃戦闘解決表と同じように使用します。

 次の例を見て下さい。

 ----------------------------------
 攻撃側キャラクター名:     :←攻撃側キャラの名前
 攻撃側武器とダメージ:     :←武器とダメージ
 武器の貫通力    :     :←武器のデータを見て記入
 命中難易度     :     :←攻撃側と防御側の技能レベルにより決定

 攻撃側筋力  DM :+    :←攻撃側の筋力によるDM
 防御側防御値 DM :−    :←防御側の武器の「防御値」によるDM

 DM合計      :     :
 ----------------------------------


「3.近接戦闘チャート群」より「ダメージ決定表」

 射撃戦闘チャート群のダメージ決定表と全く同じものです。ただし、だからと言っ
て「射撃戦闘チャート参照」とだけ書いて省略するようなことはしないで下さい。
 近接戦闘に必要な情報は全て近接戦闘チャートに載せるようにしないと混乱が起こ
ります。


「4.ダメージ適用チャート群」

 プレーヤーズ・マニュアルのP76とP77に載っているルールを、自分なりに分
かりやすく整理してチャート化して下さい。


「5.選択ルールチャート群」より「特殊戦闘ルール」

 戦闘ルールのうち、詳細な(あるいは特殊な効果を表現するための)ルールは、最
初は使用しない方がいいでしょう。戦闘に慣れてくるに従って、だんだんとこれらの
ルールを使用してゆけばよいのです。
 このチャートには、以下のルールのうち使用すると決めたものを、まとめて記入し
て下さい。レフリーとしての経験を積むに従ってこのチャートの分量は増えてゆくこ
とでしょう。最初は、このチャートは白紙でもいいのです。

・特殊な武器 : 致傷範囲、巻き添え命中、オートマチック射撃、速射、手投げ

・特殊な射撃 : ねらい撃ち、間接射撃、機体への命中、射線

・特殊な状況 : 地形、連絡、士気、移動(地形効果、武器積載)、視線
         長射程間接射撃、弾薬補給


「5.選択ルールチャート群」より「選択ルール」

 プレーヤーズ・マニュアルP84〜P95には、戦闘においてだけでなく一般に使
用できる様々なルールが書かれています。
 これらのうち、使用すると決めたルールをまとめて記入して下さい。どれを使用す
るかはシナリオによっても異なります。例えば、無重力や宇宙服の破孔に関するルー
ルは宇宙を舞台にしたシナリオでよく使われます。

 また、レフリーの趣味という点も見逃せません。何かというとすぐにPC達を焼き
うちにしたがるレフリーなら、火災に関するルールは必須でしょう。最後の戦闘で敵
の親玉を倒したらそいつが自爆スイッチを押し、PC達は秘密基地が爆発炎上する前
に脱出しなければならない、というシチュエーションをこよなく愛しているレフリー
なら、車両のスタート、建造物破壊、など是非このチャートに載せておきたいもので
す。


第19回(92/11/03)

 ここまでの解説でメガトラベラーの基本は理解できたはずです。
 今回は、第1部「ルールはこう読め」の最終回です。


 さて。ここまでの解説を書くにあたって、私は2つのことを心がけてきました。

 一つは、ルールの解読を通してメガトラベラーというRPGの特徴を理解してもら
おうということです。

 単にルールを理解するだけなら、ルールブックをちゃんと読めば済むことです。ル
ールブックに書いてあることをまとめるくらいなら、ルールに関するQ&Aコーナー
を設けた方がよほど気がきいてるでしょう。

 そこで、私はルール自体の解説は最小限にとどめておき、それより「このルールは
何を目的にデザインされたものか」「このルールが示唆しているメガトラベラーのプ
レイスタイルとは何か」に重点を置いて解説をするようにしました。結果として解説
には大量に私個人の独断と偏見が混入することになりました。納得のゆかない方もい
らっしゃるかとは思いますが、毒にも薬にもならない解説よりは独断だろうが偏見だ
ろうが何らかの主張を込めた作品にしたい、と考えたのです。

 なお、「ルールの示唆するものを読み取る」という姿勢は、RPGのルールを理解
する上でとても大切なことだと思います。メガトラベラーに限らず、他のRPGのル
ールを読むときも、これを忘れないようにすることをお勧めしておきます。

 もう一つ心がけてきたのは、ルールの理解を実際のシナリオ作成やレフリー作業に
結びつけようということです。
 このため、なるべくルールの適用例を挙げるようにし、また解説するルールも「最
初のレフリー作業に必要」という観点から選択しました。言いかえれば、ここまで解
説したルールを理解しているだけで、シナリオ作成を含むレフリー作業が出来るとい
うことになります。

 今回は「ルールはこう読め」の最終回ということで、今までに解説したルールが実
際のセッションでどのように使われるかをまとめておきましょう。
 それを理解するには、イベントやシチュエーションを示すキー情報、いわゆる5W
1Hとルールの関係を示すのがよいでしょう。セッションはつまるところイベントや
シチュエーションの集合であり、個々のイベントやシチュエーションをルールを参考
に処理してゆくのがレフリー作業ですから。

  5W1Hと基本ルールの対応

   舞台(Where):世界の作成(UWP)
   人物(Who)  :キャクラター作成(UPP)
   行為(What) :タスク判定(UTP)
   動機(Why)  :所持金管理
   手段(How)  :装備、対人行為、戦闘

 4W1Hしかありませんが、これは時代(When)に対応するのが、メガトラベ
ラーの背景宇宙に他ならないからです。背景宇宙については後から「シナリオはこう
作れ」で解説します。

 ついでに、「ルールはこう読め」で解説しなかったルールについて、ごく簡単にま
とめておきましょう。

1)詳細設計ルール

 以下のルールは、メガトラベラー宇宙に登場するものを、出来るかぎり細かく自分
で設計したいという、凝り性のレフリーのためにあるものです。
 普通のレフリーにとっては、ルールブックやソースブックに載っている公式のデー
タで十分(実は必要以上に大量のデータが揃っている)ですし、必要以上に詳細な設
定は不要でしょうから、これらのルールは永久に必要ない場合が多いでしょう。

 なお、「輸送機器の設計」については、確かに設計ルール自体は不要なのですが、
設計の結果として出てくるデータ(UCP)については読めるようにする必要があり
ます。

・上級キャラクター作成(プレーヤーズ・マニュアル P44〜P66)
・世界作成の詳細(レフリーズ・マニュアル P24〜P29)
・輸送機器の設計(レフリーズ・マニュアル P55〜P93)

2)選択ルール

 以下のルールは、特定のシナリオで必要となったり、レフリーの嗜好に従って採用
したりする選択ルールです。普通のレフリーは、最初はこれらのルールについては存
在だけ認識しておいて、シナリオ作成の時点で必要に応じて勉強すればよいのです。

・キャラクターの成長(プレーヤーズ・マニュアル P41〜P43)
・超能力(プレーヤーズ・マニュアル P96〜P101)
・異星生物(レフリーズ・マニュアル P30〜P36)
・宇宙戦闘(レフリーズ・マニュアル P94〜P105)

 なお、宇宙戦闘のルールを理解するためには、「輸送機器の設計」についてもある
程度は読んで、輸送機器のデータ(UCP)が読めるようになる必要があります。

3)キャンペーンルール

 以下のルールは、主にキャンペーンを運営するときに必要となるものです。中には
非常に大切なルールもあるのですが、メガトラベラーの特徴を理解する上でも最初の
レフリー作業でも必ずしも必要ないということから、あえて解説しませんでした。

・遭遇(レフリーズ・マニュアル P37〜P43)
・通商と貿易(レフリーズ・マニュアル P46〜P53)



第2部 「シナリオはこう作れ」

第20回(92/12/02)

 お待たせしました。いよいよ連載再開です。
 さっそく始めましょう。


 「メガトラの始めかた」第1部の解説に従ってルールを読んでくれば、何とか挫折
しないでメガトラベラーの基本を理解することが出来たものと思います。

 しかし、次に大きな難関が待ち構えています。
 それは「ルール(のうち重要なものだけ)は理解したように思うが、シナリオをど
のように作ったらいいのか見当もつかない」ということです。

 なぜシナリオが作れないのでしょうか?
 それは次のような理由によります。


1.スタートセットに入門用シナリオが含まれていない

 多くのRPGでは、スタートセットに入門用の簡単なシナリオが付属しているもの
です。入門シナリオを読めば、そのRPGの雰囲気や特徴、典型的なストーリー等に
ついて理解することが出来るように、との配慮からでしょう。

 ところが、驚いたことにメガトラベラーのスタートセットには参考になる入門用シ
ナリオが付いていません。これでは、始めての人はどうしていいやら途方に暮れるの
も無理はありません。

2.典型的な「定番シナリオ」が存在しない

 伝統的ファンタジーRPGなら「ダンジョンに入ってモンスターと戦って宝物を手
に入れ帰還する」といった、入門用の定番シナリオが存在します。ですから、ルール
を理解したら、まずこういった定番シナリオでゲームマスターをやって慣れてゆく、
という手法が使えます。

 伝統的ファンタジーRPGでなくても、ホラーやヒーローアクション物などを題材
にしたRPGであれば、やはりそのジャンルの典型的なストーリーというものが存在
するため、それを参考に定番シナリオを作成するのは困難ではありません。

 ところが、メガトラベラーには「定番シナリオ」が存在しません。これは、伝統的
SFに「典型的なストーリー」というものが存在しないということからきているのか
も知れません。あるいはメガトラベラーが特定のストーリーの再現を目的としない、
極めて自由度の高い汎用SF−RPGを目指していることが原因かも知れません。

 いずれにしても、典型的なストーリーが存在しないため、最初のシナリオを作成す
るのは困難な作業となります。

3.背景世界の把握が困難

 メガトラベラーは、背景世界である「トラベラー宇宙」を前提にデザインされてい
ます。確かに自分だけのオリジナル宇宙を設計することも可能ですが、実際問題とし
ては必ずトラベラー宇宙を舞台にすべきだと言ってよいでしょう。

 ですから、メガトラベラーのシナリオを作成する際には、トラベラー宇宙について
最小限の知識が必要となるわけです。ところが、スタートセットをざっと読んだだけ
でトラベラー宇宙について理解するのは、まず無理です。

 これは、背景世界の解説である「帝国百科」の編集に問題があります。あいうえお
順に並んだ項目の羅列を読んで、簡単に全体像が把握できるはずがありません。せめ
て「トラベラー宇宙の基礎知識」のような冊子を入れてほしかったと思います。

 大雑把にでも背景世界が把握できてないと、不安でシナリオが作成できないという
人は多いでしょう。


 このように、メガトラベラー入門においては「ルール概要を理解する」というとこ
ろから「シナリオを作成する」までの間に大きな飛躍が必要です。
 この飛躍に失敗して挫折する人の何と多いことでしょう・・・。

 「メガトラの始め方」第2部では、シナリオの作成について丁寧に、かつ具体的に
解説してゆきます。第2部を最後まで読んだ頃には、簡単にシナリオを作成すること
が出来るようになっているはずです。


第21回(92/12/03)

 いよいよシナリオ作成についての解説を始めましょう。


 最初に断っておきますが、これから解説するシナリオ作成方法は、あくまで一つの
例に過ぎません。シナリオ作成法は千差万別であり、人によって向き不向きがありま
す。中には、ここで解説する方法が全く向いてない人もいることでしょう。そういう
人は、もちろん自分に向いた方法でシナリオを作成すればいいのです。

 ですから、これからの解説は、特定のシナリオ作成方法について解説しているとい
うより、むしろ一つの例をもとにシナリオ作成のコツや留意点を解説しようとしてい
るのだと解釈して下さい。そして、参考になる点があれば、自分の手法に取り込むこ
とを考えて下さい。

 では、今回はシナリオ作成全体の流れを整理してみましょう。


ステップ0:基礎知識の習得

 メガトラベラーのシナリオを作成するためには、ある程度の基礎知識が必要です。
例えば、背景世界であるトラベラー宇宙について基本的なことは理解していなければ
ならないでしょう。
 しかし、御存知の通りトラベラー宇宙の設定情報は膨大なものです。最初のシナリ
オを作成する前に最小限の手間でトラベラー宇宙について学ぶには、どうすればよい
のでしょうか?
 ステップ0の解説では、トラベラー宇宙についてなるべく簡単に把握する方法につ
いて示します。


ステップ1:基本ストーリーの作成

 まず、ストーリーの基本線を思いつくところからシナリオ作成を開始します。と言
っても独創的なストーリーを作る必要はありません。小説や映画からほとんどそのま
ま流用してしまえば済むのです。ただし、流用するときには、重要なポイントだけを
きちんと押さえ、不要な要素は捨てる必要があります。こうして、基本的ストーリー
ラインを作成するのです。

 ステップ1の解説では、ストーリー流用のコツについて示します。


ステップ2:シナリオの詳細化

 基本的プロットを元に、メガトラベラーのアドベンチャーらしくしてゆきます。
 この段階で、メガトラベラーのルールシステムの知識、トラベラー宇宙の知識が必
要になります。フレーバーや演出効果といった技も効かせるべきでしょう。

 ステップ2の解説では、プロットを詳細化してメガトラベラーに相応しいシナリオ
に加工してゆく作業について示します。


ステップ3:シナリオの表記

 一本道でストーリーが固定されたシナリオはあまり良くありません。PC達の行動
によって話の流れは柔軟に変わるべきでしょう。かと言って、PC達の行動によって
ストーリーが完全に変わるようでは過剰なアドリブ処理が必要となり、セッションを
うまく運用できない(行き当たりばったりになって破綻する)可能性が高くなります。

 PC達には大きな行動の自由を与え(と言うかPC達に大きな行動の自由が与えら
れているとプレーヤー達に感じさせ)、かつレフリーの負担を下げる工夫が必要です。
このための一つの試みとして、シナリオの表記を工夫するという手があります。

 ステップ3の解説では、シナリオの表記について示します。


 では、ステップ0から解説してゆくことにしましょう。


第22回(92/12/06)

ステップ0:基礎知識の習得

 シナリオ作成の前に、まずメガトラベラーの背景世界である「トラベラー宇宙」に
ついて最小限の知識が必要となります。


 トラベラー宇宙は動き続けています。

 「トラベラー」と「メガトラベラー」は、どちらも同じトラベラー宇宙を背景にし
たRPGであり、両者が扱っている時代はほんの10年ほどしか違いません。しかし、
その10年の間に「帝国」の状況は激変しました。「トラベラー」時代の設定情報の
うち、あるものは大幅な変更が必要となり、またあるものは全く時代遅れになってい
ます。

 この変化は、メガトラベラー発売後もずっと継続しています。「ハードタイムズ」
では帝国は衰退の一途を辿っていますし、新作Traveller : The New Era では帝国は
とっくに滅びています。

 このように変化が激しい背景世界のことですから、まず時代の流れを大雑把に捉え
ておくことが混乱を避けるために重要です。

 そこで、トラベラー宇宙の各時代を次のように分類して把握するようにしましょう。
(いきなり「帝国暦」とか「レベリオン」とか見慣れぬ用語が出てきますが、心配す
ることはありません。いずれトラベラー宇宙について学んでゆけば理解できます。今
は細かいことは気にしないで、全体の流れを把握するようにして下さい)


帝国暦1104年以前

 帝国暦1104年以前の時代は「歴史」あるいは「伝説」であり、直接にRPGの
舞台になることは(何らかの理由でレフリーがあえてそういった時代を舞台にしよう
としない限り)ありません。


帝国暦1105年〜1107年

 キーワード  : 「帝国」
 帝国の状態  : 安定した帝国
 典型的な舞台 : 陰謀うずまく辺境の宙域
 RPGルール : トラベラー
 代表的シナリオ: トラベラー・アドベンチャー

 1105年から1107年までの帝国が「トラベラー」の舞台です。
 人類が作った最も偉大で巨大な恒星間国家である「帝国」は揺るぎない安定を保ち、
 順調に発展を続けています。

 やがてやってくる第五次辺境戦争も、帝国はもとよりスピンワード・マーチ宙域に
 すらダメージを与えることが出来ませんでした。
 帝国は、さながら不滅の存在であるかのように威容を誇っていたのです。

 「メガトラの始め方」では、トラベラーは解説の対象としないため、この時代につ
 いては過去の歴史として扱うことにします。


帝国暦1116年〜1124年

  キーワード  : 「レベリオン(反乱)」
  帝国の状態  : 分裂した帝国
  典型的な舞台 : 戦乱の嵐吹き荒れる帝国中核宙域
  RPGルール : メガトラベラー(スタートセット)
  代表的シナリオ: ナイトフォール

 1116年から1124年頃までの帝国が「メガトラベラー・スタートセット」の
 舞台です。
 1116年、皇帝暗殺をきっかけに帝国はいくつかの勢力に分裂します。それぞれ
 の勢力は銀河の覇権を求めて激しい戦いを繰り広げてゆくのです。
 このレベリオン(反乱)のために帝国は巨大な戦場と化してしまいます。

 「メガトラの始め方」では、この時代を対象に解説を行ってゆきます。


帝国暦1125年〜1129年

  キーワード  : 「ハードタイムズ」
  帝国の状態  : 衰退する帝国
  典型的な舞台 : 文明崩壊の危機にさらされた宙域
  RPGルール : メガトラベラー(ハードタイムズ・ソースブック)
  代表的シナリオ: ハードタイムズ・キャンペーン

 1125年頃から1129年までの帝国が「メガトラベラー・ハードタイムズ」の
 舞台です。
 銀河に吹き荒れた激しい戦乱の嵐は、帝国を支えていた屋台骨を破壊してしまいま
 す。通商や交通が途絶え情報が流通しなくなり、各世界はばらばらに切り離されて
 しまいます。恒星間文明を維持することは次第に困難になりつつあるのです。

 「メガトラの始め方」では、この時代は解説の対象としません。


帝国暦1201年〜

  キーワード  : 「新時代」
  帝国の状態  : 帝国消滅後
  典型的な舞台 : テクノロジーが失われた世界
  RPGルール : トラベラー新時代(Traveller : The New Era)
  代表的シナリオ: キャンペーンシナリオは未発表(93年末現在)

 1200年代の帝国が「トラベラー新時代」(TNE)の舞台です。
 帝国暦1130年、恐るべきコンピュータウィルス兵器により、ついに帝国の息の
 根が止められてしまいます。そして暗黒時代がやってきます。

 だが、人類は滅びたわけではありません。そして人類が生き残っている限りトラベ
 ラー宇宙もまた歩みを止めることはありません。
 帝国崩壊後70年、銀河に新たな物語が始まろうとしています。これが新しいトラ
 ベラー、「トラベラー新時代」です。

 「メガトラの始め方」では、この時代は解説の対象としません。


第23回(92/12/14)

ステップ0:基礎知識の習得

 トラベラー宇宙全体の流れと、その中で「メガトラベラー・スタートセット」が扱
う時代について概略は分かりましたね。では、勉強を始めることにしましょう。

 スタートセットに載っている背景世界の解説のうち、トラベラー宇宙を理解する上
で必要不可欠と思われる情報を選択しました。まずは、ここに目を通して下さい。

 以下のリストは単純にページ順に並べたものですから、必ずしもこの順番に読むこ
とが最も理解し易いというわけではありません。ですから、分からないことがあって
も気にしないで最後まで目を通して下さい。
 全部を一応読んでからもう一度読み直せば、最初に読んだときには分からなかった
点も今度ははっきりと理解できるはずです。


プレーヤーズ・マニュアルより

・P16 帝国暦
・P17 ソロマニ仮説
・P34 銀河公用語
・P38 メガコーポレーション
・P40 ジャンプ空間
・P71 銀河系における方位
・P93 スピンワード宙域
・P97 超能力弾圧
・P99 超能力研究所

レフリーズ・マニュアルより

・P7  恒星間種族
・P9  最初の恒星間種族
・P108  帝国の領域
・P111  反乱の主戦場
・P112  第三帝国

帝国百科より

・P10〜P11 ストレフォンの後継者
・P12〜P15 貴族
・P17 アスラン人
・P18 アンバー・ゾーン、ヴァングル人
・P19 ヴィラニ人
・P21 宇宙港、Xボート基地、Xボート・ネットワーク
・P22 海軍基地
・P23 ガス・ジャイアント、キャピタル
・P24 銀河公用語
・P25 群小種族、コイン
・P26 工芸品、皇室会議、GK信号、ジャンプ空間
・P27 主要種族、小惑星帯採掘
・P28 侵入禁止、人類
・P29 スピンワード・マーチ宙域、星域、星系、ゼロ年
・P30 ゾダーン人
・P31 ソルセック、ソロマニ人、ソロマニ自治区、ソロマニ連合、ソロマニ仮説
・P33 第一帝国、第五次辺境戦争、太古種族
・P34 第三帝国
・P35 大裂溝、地球連合
・P36 宙域、中継基地、超能力、超能力研究所、超能力弾圧
・P37 通貨、通商ルート、帝国
・P38 帝国研究基地、帝国公文書
・P39 帝国の紋章、帝国暦、偵察局基地
・P40 テラ、トラベル・ゾーン、ドロイン人
・P42 ハイヴ人
・P44 ベルター、方角、メイン、休みの年、郵便協会、傭兵部隊、領域
・P46 レッド・ゾーン、6大種族
・P47 インペリアル運輸、Xボート・ネットワーク、コイン
・P48 ゾダーン人、太古種族
・P49 超能力研究所、超能力弾圧


第24回(92/12/18)

ステップ0:基礎知識の習得

 トラベラー宇宙についていくら断片的な知識をため込んでも、それだけではシナリ
オを作ることは出来ません。次に成すべきことは、トラベラー宇宙を舞台にした冒険
のパターンを把握することです。そうすれば、トラベラー宇宙の本当の姿が見えてく
ることでしょう。


 トラベラー宇宙についてかなり細かく見てきました。と言っても、実のところ、帝
国百科に載っている情報などトラベラー宇宙に関する設定のほんの一部にすぎないの
ですが・・・今はこれ以上細かい設定を知っても仕方ありません。

 とりあえず設定情報の勉強はここまでにしておき、次にトラベラー宇宙を舞台にし
た冒険のパターンについて見てみましょう。

 メガトラベラー・スタートセットを買うとき、一緒に市販シナリオである「トラベ
ラーアドベンチャー」と「ナイトフォール」も購入しましたか?
 もし購入していれば、今こそこれらに目を通すべきときです。一読すれば、すぐさ
まトラベラー宇宙における冒険のパターンをつかむことが出来ることでしょう。

 「トラベラーアドベンチャー」は、帝国暦1105年〜1107年、つまりトラベ
ラー時代を扱ったキャンペーンシナリオです。ストーリーは複雑で、様々なプロット
がなかば平行して進みます。プレーヤーには、どれが本筋なのか、なかなか分からな
いことでしょう。
 しかし、実のところ本質は極めて簡単なお話なのです。すなわち

1.権力者(大企業や海賊など)に迫害/弾圧されている人がいる。
  PC達は、旅の途中でたまたま彼らに出会う

2.PC達は、義理や人情のしがらみから彼らを助けようとする。この過程で、彼ら
  は恐るべき陰謀の存在を発見する。

3.PC達の活躍により、悪は滅び、権力者はうち負かされ、陰謀はついえ去るので
  あった。(ついでにPC達は大儲け) そして、再び旅は続いてゆく・・・

という具合です。こうして書いてみると、なんとまあ気恥ずかしい古典的なパターン
だとは思いませんか。西部劇から水戸黄門にいたるまで、それこそ無数の物語がこの
黄金パターンを使ってきたことは指摘するまでもないでしょう。

 いっぽう「ナイトフォール」は、帝国暦1120年、つまりレベリオン(反乱)が
泥沼化への道をたどりつつある混乱した時代を扱ったキャンペーンシナリオです。
 こちらの話は実に単純です。それはもう、呆れてしまうくらいで

1.PC達は、何者かに追われている女性を偶然に助ける。
  実は、彼女こそ銀河最大の秘宝への鍵となる人物だった!

2.一方、彼女を追っていたのは強大かつ無慈悲なルカン軍であった。
  ルカン艦隊を敵に回して決死の逃避行を続けるPC達。

3.ついに明らかになった秘宝のあり場所。三つ巴のデッドヒートの果てに、秘宝を
  手にするのはルカンかPC達か、それともデュリナーなのか。最後の戦いに勝利
  した者こそ、レベリオンに終止符をうつことが出来るのだ!

といった具合です。これって冒険物語の基本パターン以外の何物でもありませんね。

 基本パターンを外してるのは、PC達に助けられる女性が美少女ではなく40代の
おばさんだという、ごく些細な(人によっては些細ではないと思うかも知れないが)
点だけです。まあ、メガトラベラー宇宙では未成年に出番はないのだから仕方ありま
せん。

 というわけで、いずれのシナリオも古典的な冒険物語のパターンを踏襲しているこ
とがお分かりのことと思います。トラベラー宇宙には、このような古典的な物語が似
合うのです。

 ここでよく考えてみましょう。

 そもそも、トラベラー宇宙に存在するものは全て古典的なものばかりです。広大な
帝国、強力な軍隊、誇り高い貴族、抜け目ない貿易商人、冷酷な海賊、冷静な学者、
命知らずのハンターに杓子定規な役人・・・

 はっきり言って、精神的文化的には、全く時代遅れの設定です。

 ついでに指摘しておくと、トラベラー宇宙では、クローン再生/サイバーウェア/
臓器移植/人工知能/記憶操作、といった「下手をすると人間性の根幹を危うくする」
ような「現代的」テクノロジーは注意深く避けられています。

 トラベラー宇宙におけるテクノロジーは、もっぱら超光速航行、反重力ベルト、レ
ーザー銃といった「古典的な」ガジェットを生み出すために使われています。それを
精神的文化的に「古き良き時代」の人間が使用して、古典的な冒険物語を作ってゆく。
 これがトラベラー宇宙です。

 というわけで、結論は明らかです。

 トラベラー宇宙の本質は決して「未来」ではありません。それは「過去」、もっと
正確に言えば「古き良き時代」に属しているのです。

 これは、とても重要なことですから、よく認識しておいて下さい。トラベラー宇宙
を舞台にしたシナリオは、「古典的」な物語であるべきなのです。古典的冒険物語で
ありさえすれば、別にSFでなくてもよいのです。(むしろSFでない方がシナリオ
を作りやすい)

 逆に、SFであっても現代的なもの、例えば「テクノロジーによる人間性の変容」
といったテーマは、トラベラー宇宙で扱うべきではありません。サイバーパンクSF
はトラベラー宇宙とは無縁なのです。

 さあ。これで準備は整いました。いよいよシナリオ作成に取りかかりましょう。


第25回(92/12/20)

ステップ1:基本ストーリーの作成

 いよいよシナリオ作成にとりかかりましょう。いったい最初に何をすればよいので
しょうか。


 シナリオ作成の一番困難な部分は、恐らく一番最初の作業、すなわち「基本となる
ストーリーを決める」というところかと思います。

 これについては、よく雑誌の記事やRPGのルールブック(あるいは解説本)など
に次のような手法の解説が載っています。

・クライマックス(またはラスト)シーンを頭に浮かべ、それを元に基本ストーリー
 を決めてゆく。
・出したいモンスター(またはNPC)を決め、それを元に基本ストーリーを・・・
・とにかく普段からアイデアをメモしておき、気に入ったアイデアを元に・・・

という具合です。

 しかし、この手の「自力でアイデアを思いつく」「独創的なシナリオを目指す」と
いうのは、あくまで売り物になるシナリオを目指す「プロ」の姿勢であり、アマチュ
アがこういう姿勢を持つ必要はないのでは、と思うのです。
 単に自分のセッションのためにシナリオを用意するのであれば、原作を用意してそ
れを流用すればよい、というのが私の考えです。

 自力で基本ストーリーを決めるよりも原作の基本ストーリーをそのまま流用する方
が楽ですし、たぶんその方が出来がよくなります。(何と言っても原作のストーリー
は、その道のプロが作成し、編集者やプロデューサーが評価し、あなたが選択したも
のなのです)

 原作を流用することのデメリットは、「作品として発表することが出来ない(盗作
になる)」「プレーヤーが原作を知っている可能性がある」という2点です。

 前者のデメリットは、自分のセッションのためにシナリオを作成する場合は問題に
なりません。

 後者については、気にする必要はない、と思います。
 もしプレーヤーがセッションの途中で「この話は知ってる」と言いだしたら、レフ
リーはにんまり笑ってそのプレーヤーの方をぽんぽんと叩いて「よろしい。では原作
以上の活躍を期待しているよ」とでも言えばよいのです。大丈夫、レフリーを2、3
回やればすぐにこういう厚かましさが身につきます。

 というわけで「メガトラの始め方」第2部では、シナリオの基本ストーリー作成は
「原作を流用する」という手法で行うことを前提にして解説を続けることにします。

 メガトラベラーのシナリオを作るのは始めてという人は、とにかくこの手法に従っ
てシナリオを作成して何回かレフリーをしてみて下さい。独創的なシナリオに挑戦す
るのは、それからでも遅くはありません。


第26回(92/12/22)

ステップ1:基本ストーリーの作成

 さて、とりあえず最初のシナリオは、原作を選んでその基本ストーリーを流用する
ことに決めたとして、原作はやはりSFでないといけないのでしょうか?

 もしあなたが古くからの(銀背集めに燃えたりサンリオの翻訳に怒ったりした思い
出がある)SFファンであれば、冒険SFを原作に選べばいいでしょう。

 だかといって「SFをあまり知らないという人(普通はそうです)は、無理をして
でもデュマレスト・サーガを読まないとシナリオが作れない」というわけでは決して
ありません。

 前にも書きましたが、SF以外のジャンルの作品でも、問題もなくメガトラベラー
のシナリオ原作にすることが出来ます。逆に、SFは背景世界の特殊性に依存する傾
向があり、扱いにくいことが多いので、最初のシナリオはむしろSF以外のジャンル
の作品を原作にした方がよい、と思います。

 ではメガトラベラーのシナリオ原作に向いている作品とはどんなものでしょうか。

 結論から言うと、古典的なストーリー展開でアクションシーンが多い大衆娯楽作品
(小説、映画、コミック等)は、ジャンルを問わずシナリオ原作にすることが出来ま
す。

 以下に、メガトラベラーのシナリオ原作に向いているジャンルについて示します。

1.SF

 メガトラベラーはSF−RPGですから、SFはもちろん原作に向いたジャンルで
す。といっても、SFなら何でもいいかというと、そんなことはありません。古典的
な、軽めの、ただしスペオペほど軽くはない宇宙冒険SFがお勧めです。
 作家でいえばハインライン、ニーブン、ヴァン・ヴォークト、ジャック・ヴァンス
あたりがよいでしょう。
 それに、宇宙を舞台にしたSF映画は、だいたい全てシナリオ原作に使えます。

2.冒険・アクション

 実は、このジャンルはSF以上にメガトラベラーのシナリオに向いています。

 人生の重みを感じさせる渋い中年が、事件に巻き込まれたり復讐を誓ったり娘を守
ったりして、愛が燃えたり友情が生まれたり大自然の猛威が襲ってきたりブローニン
グ自動拳銃が火を吹いたりするわけですが、だいたいこの手の話はそっくりそのまま
シナリオにすることが出来ます。
 作家で言うと、ヒギンズ、マクリーン、バグリイといった古い作家の作品がよいで
しょう。
 また、この分野の映画やドラマは山ほど作られており、(出来はともかく)たいて
い定番パターンをきちんと守っているので、シナリオの原作には最適です。

3.戦争もの、スパイもの

 メガトラベラーにおけるレベリオン(反乱)は、もちろん戦争やスパイをテーマと
したシナリオをやるために作られた設定です。そして、この分野の小説や映画には、
膨大な蓄積があります。
 ただ、このジャンルのシナリオは扱うのが難しいため、レフリー作業に慣れるまで
は手を出さない方がよいかも知れません。

4.刑事もの

 命令を無視して一人で突っ走るくせがあるため署内でうとまれている刑事が、人の
よい相棒と組んで事件の捜査に当たっているうちに大きな陰謀に巻き込まれてどーの
こーのするという、そういう映画やドラマは数多くあります。
 プレーヤーに推理力を求めたりしなければ、刑事ものをシナリオ原作に使用するこ
とは簡単です。

5.ホラー

 純粋に恐怖をテーマとした作品をメガトラベラーのシナリオ原作にすることは無理
です。しかし、主人公達が恐怖の源と対決したり、命がけで脱出したりする話であれ
ば、冒険・アクションものと同様にシナリオ原作に向いています。
 作家で言うと、ビアースやラヴクラフトは言うまでもなく、キングもシナリオにす
るのは難しいでしょう。しかし、クーンツやマキャモンならシナリオに向いています。

6.西部劇

 西部劇はあらゆるドラマの基本となる定番パターンの宝庫です。当然のことながら
メガトラベラーのシナリオに適しています。
 西部劇は主に映画作品になりますが、幸いなことに現在では駄作は淘汰され消えて
しまっています。つまり、現在ビデオレンタルショップに置いてある西部劇のビデオ
は時代を越えて生き延びた名作ばかりです。どれか一本借りてきて見れば、すぐにシ
ナリオを作成することが出来るでしょう。


 というわけで、メガトラベラーのシナリオ原作に選べる作品はそれこそ無数にあり
ます。あとは趣味に従って好きな分野から選べばいいわけです。

 なお、以降の解説では、とりあえず例として「冒険・アクション」ものを原作にし
てシナリオを作成することにしたいと思います。


第27回(92/12/28)

ステップ1:基本ストーリーの作成

 原作を選ぶ際には、そのジャンルよりもっと大切なことがあります。それは、原作
のストーリーを、メガトラベラーのルールで扱えるか(扱うのが相応しいか)という
点です。少し長くなりますが、この「シナリオとシステムの相性」という点について
書いておきます。


 RPGの捉えかたは人によって様々ですが、「RPGで何を再現したいか」という
点から、例えば次の2つの考えかたがあるとしてみましょう。

A)RPGは、「仮面ライダーごっこ」にゲームとしてのルールを付けた遊びである

B)RPGは、「シミュレーションゲーム」に演劇の要素を加えて、キャラクターに
  感情移入するゲームである

 この2つは、目指すもの(プレイする目的)が異なってきます。もちろん個々のR
PGシステムはAとBの両方の要素が混ざっているわけですが、ここでは差を際立た
せるために、プレイ目的を次のように極端に分類してみます。

A)現実のプレーヤーには出来ないようなカッコいい大活躍を、何らかの意味で超人
  的なヒーローを演ずることで疑似体験する。胸のすくような大活躍をすることが
  目的であるから、ドラマチックな展開が重要である

B)現実のプレーヤーが体験できないことを、自分とは性格や境遇や立場が異なる人
  物を演ずることで疑似体験する。現実ではないことを現実であるかのように疑似
  体験することが目的であるから、現実的な展開が重要である

 さらに、RPGのシステムは、そのベースとなる考えかたがAに近いかBに近いか
によって、次の2つの両極端のうち、どちらか一方よりになっているものです。

A)仮面ライダーは改造人間であるため、普通の人とは異なる「超人的ヒーロー」と
  なっている。また、彼は自分を改造した悪の組織「ショッカー」と一人で戦う運
  命にあり、かつ仮面ライダー以外にショッカーの野望を挫くことが出来る者はい
  ないというのが前提であるため、仮面ライダーはいちいち「戦うべきかどうか」
  とか「警察に依頼すべきか」とか悩む必要がない。また、ストーリーは必ずドラ
  マチックな展開になり、ショッカーの怪人の能力により危機に陥った仮面ライダ
  ーは、最後にはライダーキックで怪人に逆転勝ちすることになっている。

  仮面ライダーごっこから進歩した遊びであるRPGでは、同様に

  A1:PCを超人的ヒーローとする(ここぞというときには決して失敗しない、
     やろうと思えば伝説的な成功をおさめることが出来る、物理的に不可能な
     ことをやってのける、等)ための仕掛け

  A2:PCが悩まずヒーロー的行動をとれる(というよりヒーローになることが
     強制される)ような背景世界設定

  A3:展開をドラマチックにする(最初は窮地に陥って、ラストで必殺技が炸裂
     する等)ためのルール

  が用意されている。

B)シミュレーションゲームでは、シミュレートの対象となる事象をうまく再現でき
  る側面をいくつか取り出して、その動きや変化の法則をルールにする。よく出来
  たゲームでは、シミュレートの対象となる事象を、比較的簡単なルールでうまく
  再現している。

  個人の生き様(心理、行動、人生)をシミュレート対象としたゲームであるRP
  Gでは、同様に

  B1:PCを”現実的な”(つまり、背景世界の住民に相応しい)キャラクター
     にするための仕掛け

  B2:PCが様々な動機(義理、人情、お金、名誉、プライド、愛情、怨恨、等)
     を持ち、色々な行動パターンや生きかたを選択できる背景世界設定

  B3:展開のパターンが決まっておらず、色々な経験をすることができるルール

  が用意されている。


 もちろん、AとBのどちらが正しいかという問題ではありません。ただ、RPGシ
ステムの選択/シナリオ作成/プレーヤーの募集/セッション運営、という一連の流
れにおいては、首尾一貫してAかBかどちらか一方の考えかただけを採用すべきだと
思うのです。

 さて、メガトラベラーを考えてみると、これはもうはっきりBの方向に向かってい
るRPGです。

 確かに、メガトラベラーでAの考えかたに基づいた「PC達が超人的な大活躍をす
る」シナリオをプレイすることは不可能ではありません。

 しかし、そのためにはレフリーがルールを曲げたり、状況を操作したりする必要が
生じます。メガトラベラーには、Aのような仕掛けがないからです。
 最悪の場合には、ドラマチックな展開のためにルールを無視するということにすら
なりかねません。いわゆる「失敗するとノリが削がれるので」判定を省略する/判定
結果を厳密に適用しない、という奴ですね。
 Bを向いたRPGを使ってAを向いたシナリオをプレイしていると、このような悪
い習慣がついてしまう恐れがあります。

 やはり

・Aを向いたシナリオをやりたいのであれば、Aを向いたRPGを選ぶ
・Bを向いたRPGを選んだのであれば、Bを向いたシナリオをやる

というのが大切な基本姿勢だと、私はそう思います。

 メガトラベラーに限らず、RPGをプレイする際には、この「シナリオとシステム
の相性」の問題を常に忘れないようにして下さい。


 このようなことを理解した上で、何らかの必要性から「メガトラベラーでPC大活
躍タイプのシナリオをプレイする」というのなら、あえて止めはしません。しかし、
私としては、PC大活躍タイプのシナリオをプレイしたいのなら、メガトラベラーで
はなく、ちゃんとAの方向を向いたRPGを選ぶことをお勧めします。

 始めてメガトラベラーのレフリーを行う場合、シナリオはBの方向を前提に考えて
下さい。つまり「PCが、危険や損失をなるべく避けつつ目的を達成できるよう色々
と行動を選んで、様々な体験をする」というタイプのシナリオを作って下さい。

 また、プレーヤーを募集する際にも、よくこのことを説明して下さい。
 プレーヤーがAを期待している状態でメガトラベラーのセッションを行うと、破綻
するか、プレーヤーが不満を持つか、それともメガトラベラーにならないか、いずれ
にしても悪い結果になる可能性が非常に高くなります。

 では、あなたの選んだ原作のストーリーがAの方向を向いている場合、もうこれを
原作にメガトラベラーのシナリオを作成するのは無理なのでしょうか?
 実はそんなことは滅多にありません。ちょっとした工夫をすることで、Aを向いた
原作のストーリーを、Bを向いたシナリオに変換することが出来るのです。
 次回は、このテクニックについて書きます。


第28回(93/01/01)

ステップ1:基本ストーリーの作成

 原作のストーリーをそのままメガトラベラーのシナリオの基本ストーリーにできる
ことは非常にまれです。多くの場合、多少の手を加える必要が生じるでしょう。

 以下に、原作のストーリーをそのままシナリオにすることが出来ない原因の例を並
べ、その原因を取り除く方法について示してみます。参考にして下さい。


1.ストーリーが複雑過ぎる

 小説の場合、説明や心理描写が出来るため、わりと複雑で錯綜したストーリーを用
意することが出来ます。しかし、RPGのシナリオでそんな複雑なストーリーを扱う
ことは無理です。プレーヤーがついてゆけませんし、レフリーだって処理に困ること
でしょう。
 特に最初にレフリーをするためのシナリオであれば、ストーリーは単純明解であれ
ばあるほど良いと言えます。

 シナリオの単純さの目安ですが、大雑把に言って次の5つの要素が明確で、プレー
ヤーが序盤のうちにそれをはっきり悟ることが出来る、というのが良いでしょう。
 なお、「利点」だけは、シナリオが進むにつれて段々と分かってくる、あるいはラ
スト近くになってようやく判明する、というのでも構いません。

・目的:何を達成すればシナリオをクリアできるのか。具体的な勝利条件。

・脅威:もし「制限」内に「目的」を達成できなければどういう事態になるのか。

・制限:目的達成までの時間制限、空間的制限、装備の制限、テックレベルや治安度
    による行動制限など、守るべき制限

・障害:目的の達成を妨げる要因であり、PC達が克服しなければならない対象。

・利点:PC達が有利な点。「障害」の克服のためには、この利点を最大限に活かさ
    なければならないだろう。

 もし、この5つの要素を具体的に明解に示すことが出来ないのであれば、そのスト
ーリーは複雑すぎるのです。このような場合、原作のストーリーのうち、5つの要素
が明確な一部のエピソードだけを取り出し、シナリオの基本ストーリーとします。

 例を挙げてみます。

 トム・クランシーの「レッド・ストーム・ライジング」をメガトラベラーのシナリ
オにしたいとしましょう。
 この原作は、第3次世界大戦を扱った小説ですから、メガトラベラーのレベリオン
(反乱)の設定によく合います。しかしながら、原作のストーリーは大戦の全局面を
扱っていますから、とても複雑すぎてそのままシナリオにすることは無理です。

 そこで、原作の一部のエピソードを取り出してシナリオの基本ストーリーにしてみ
ます。この場合、アイスランドに潜伏するエドワーズ中佐(だったっけ?)のエピソ
ードが良いでしょう。次のようになります。

・目的:友軍が救出を試みてくれる地点まで移動すること

・脅威:全員死ぬか、よくても捕虜となる

・制限:敵がこの地域を完全掌握する前に目的を達成しなければチャンスはなくなる
    食料が尽きる前に目的を達成しなければならない
    装備はたまたま敵襲のときに持っていたものだけで、補充/補給は出来ない

・障害:敵のパトロール兵、民間人の密告者、敵の無線盗聴の可能性

・利点:PC達は徒歩で夜間に移動するので、発見されにくい。
    敵はまだこの地域を完全には掌握しておらず、他のことに忙しいので、PC
    達の捜索に力を注ぐ余裕はない。
    無線により友軍との連絡が取れる


2.運が悪いとシナリオがクリアできない

 特に映画の場合に多いのですが、ストーリーが成立するために主人公はすさまじい
幸運か超人的な能力を発揮しなければならないケースがあります。
 そこまでゆかなくても、重要な判定でダイスの目が悪ければそれでお終い、という
ストーリーもあるでしょう。(と言うか、ほとんどの冒険小説やアクション映画のス
トーリーはそうだと言い切ってよいでしょう)

 このようなストーリーをメガトラベラーのシナリオにする場合、危険を減らしてや
る必要があります。ただし、危険を減らしすぎると緊迫感がなくなってつまらないと
いうことになります。また、危険を減らすためには原作のストーリーを変えなければ
ならなくなり、最初からシナリオを考えるのと大差なくなるケースもあります。

 そこで、原作のストーリーは変えずに、ただ「主人公をずらす」というテクニック
を使います。原作で危険に立ち向かってゆくヒーローはNPCにしておいて、PC達
は彼(又は彼女)を支援する立場に立たせます。もちろんPC達が目的を達成できな
ければヒーローもまた失敗して死んでしまうことでしょう。ヒーローもPC達も危険
に巻き込まれますが、真の危険はヒーローが引き受け、PC達には緊迫感を維持する
ために必要な程度の危険を与えます。

 例えばジャック・ヒギンズの「鷲は舞い降りた」をメガトラベラーのシナリオにす
ることを考えてみます。(余談ですが、レベリオンの設定は、第2次世界大戦を背景
とした冒険小説を原作にするのに非常によく合います)

 チャーチル首相を誘拐するべくパラシュート降下を行うドイツ精鋭部隊をPCにし
てはいけません。彼らは(悲劇の)ヒーローであり、メガトラベラーのPCに相応し
くないのです。
 この場合、事前に現地に潜入して、作戦遂行の準備を整える役をPCに割り振るべ
きです。そして、精鋭部隊が全滅しようが何しようが、ちゃっかり生き延びてしまう
のです。

 そこで、シナリオの基本ストーリーはこうなります。PC達はあらかじめ現地に潜
入して精鋭部隊が降下してくる前に重要な情報を探りださなければなりません。もち
ろん、この情報がないと作戦は失敗するのです。で、PC達は作戦が遂行される前に
現地から撤退する予定になっていたのですが、もちろんトラブルのため精鋭部隊と共
に戦いに巻き込まれることになります。精鋭部隊は悲劇の運命をたどりますが、PC
達は(愚かな行動を取らない限り)何とか逃げ延びることが出来ます。

・目的:作戦遂行に必要な情報(首相の行動スケジュール詳細とか?)を得る

・脅威:作戦は失敗し、PC達は全滅するか、正体がばれて逮捕される

・制限:精鋭部隊のパラシュート降下までに目的を達成しなければならない
    現地の村人に正体がばれてはならない。村人とトラブルを起こしてはいけな
    い。このため、装備や行動には大きな制限がつく。

・障害:たまたま現地にきていた敵側の訓練部隊。排他的な(又はよそ者に好奇心を
    持つ)村人。PC達の正体を知っている警部。

・利点:PCは現地の言葉、風俗習慣に慣れており、正体がばれる危険性は少ない。
    現地に長年住んでいる味方のスパイが協力してくれる。


 この手法で「特殊任務につく精鋭部隊もの」はたいていメガトラベラーのシナリオ
にすることが出来ます。コツをもう一度まとめておくと、

A.特殊任務に向かう精鋭部隊(又は単身ヒーロー)はNPCにする

B.精鋭部隊やヒーローを支援/援助/救援する役をPCが受け持つ。任務の成否、
  精鋭部隊/ヒーローの生死が、PCにかかっているという状況を作る

C.何らかの理由(たいてい、トラブルが発生したためである)で、PCは精鋭部隊
  やヒーローと行動を共にする羽目になる。

D.原作通り話を進める。敵や危険が襲いかかるが、本当の危険は精鋭部隊やヒーロ
  ーの方にぶつけ、PCの方には(ダイスの目が悪くても何とか生き延びることが
  できる程度の)危険を与える。
  ただし、プレーヤーに対しては、原作と同じくらいの敵や危険に会った、という
  錯覚を与え、緊迫感を失わせないようにする。


第29回(93/01/04)

ステップ1:基本ストーリーの作成

 さて、原作のストーリーを加工するテクニックについて続けましょう。


3.一本道ストーリーから外れると回復が困難

 RPGでは、小説/映画と違って、PC達の判断や行動によってストーリーが変わ
ります。愚かな判断や行動をすれば、ストーリーが破綻することもあるし、PC達が
全滅することもあります。

 もちろん「RPGはゲームなのだから、状況がプレーヤーに対してフェアである限
り、ストーリーの破綻やPCの全滅を避ける必要はない」いう考えもあるでしょう。

 しかし、やはり初心者レフリーにとっては、こういう結果になるとショックが大き
いものです。また、プレーヤーがメガトラベラーを避けるようになる恐れもあります。

 ですから、よい(つまり邪悪な)レフリーとしては、少なくとも最初のうちはプレ
ーヤーに首尾よくシナリオをクリアさせてやるべきでしょう。だんだんと慣れてきた
ら、破綻/全滅しても「次はうまくやってやる」とプレーヤー、レフリーとも思うよ
うになってきます。

 というわけで、レフリーは自由に判断/行動するPC達に対応し、話の流れを柔軟
に変更し、しかもごく自然にシナリオをクリアさせる技を身につけておく必要があり
ます。

 この技には、大きく分類して「流れを柔軟に変更しやすいシナリオ作成」と「実際
のセッションにおけるアドリブ処理」の2種類があり、どちらも重要な技術です。

 前者を重視するレフリーの場合、次のようにして話の流れの変更に対応します。

A)分岐の可能性もあらかじめ考えて、シナリオをきちんと構造化しておく。つまり
 「どこまで基本ストーリーの変更を許すか」「変更時にはどのように処理するか」
 「変更時にどのようにして基本ストーリーに戻すか、または最後まで戻さないか」
 「許されない変更をどう防止するか」といった点も含めてシナリオを作る。
  実際のセッションでは、アドリブ処理は最小限に止める。

 後者を重視するレフリーの場合、次のようになります。

B)シナリオでは、あまり細かい点は決めないで、ポイントとなるシーンだけを決め
  ておく。展開はいくつかの可能性を大雑把に考慮しておくだけに止める。実際の
  セッションではアドリブ処理を多用して進める。

 ある程度レフリー作業に慣れたらBでも良いのですが、最初のうちはAを目指した
方がいいでしょう。少なくとも、Aのようなレフリーを経験しないでBに慣れてしま
うというのは、あまりお勧めできません。何事も基本が大切ですよ。

 Aを行う場合、シナリオの構造化という作業が必要となりますが、これについては
後からシナリオ作成のステップ3で詳しく解説します。ここでは、ステップ1の段階
で行うことだけを解説しましょう。


 さて、前ふりが長くなってしまいました。原作が、極めて柔軟性の低いストーリー
展開をしているということはよくあります。「もし、ここで主人公がこう判断/行動
しなかったら」ストーリーが成立しない、というケースです。

 このような場合、シナリオの基本ストーリーを作る際に、原作のストーリーに強力
な「押し」「引き」「救済」の3要素を加えるか、または原作に登場するものにその
3要素を割り当てるのが原則です。

 初心者レフリーの場合は、やや乱暴ですが、次の2人のNPCを追加する(または
原作の登場人物をNPCにして次の役目を割り当てる)ことに決めてしまった方があ
れこれ悩まずに済むので楽でしょう。

・PC達と行動を共にする美女

 パーティに美女のNPCを入れます。彼女は、PC達のパトロンでもよいし、PC
達を現地まで案内する役、PC達に護衛される役、PC達を監視する役、なんでもよ
いから一行と行動を共にする理由を持っています。
 彼女には遠く離れた地に夫がいて、聡明ですが勝気でわがままで、決して中身を見
せようとしないバッグを持っていて、何か隠された事情があることをほのめかす言動
を取ります。

 もちろんバッグの中身や隠された事情については、最初はレフリーも知りません。
しかし、プレーヤーはきちんと設定があると信じて頭をひねることでしょう。多少の
謎はプレーヤーをシナリオに引き込むのに有効です。


 彼女の役目は、必要なときにPC達の行動を制限/誘導/救済することです。

 「聡明」なのは、PC達が何か重要なことを見落としていたり気づかなかったりし
たときに、それを彼女が指摘しても不自然でないようにするためです。

 「勝気でわがまま」なのは、PC達の行動に反対したり、逆にある行動をとること
を主張したり提案したりすることを自然に行うためです。

 「中身を見せないバッグ」を持っているのは、必要な装備や現金がないときに彼女
がバッグを開けてそれを取り出すことが出来るようにするためです。「どうしてそん
なものを運んでいるのか」「今までそのことを黙っていたのはなぜか」という疑問に
ついては、次を見て下さい。

 「何か隠された事情がある」ように見えるのは、必要な情報や技能がないときに彼
女がそれを持っている理由を「実は・・・」と説明できるようにするためです。
 また彼女が不自然な行動(もちろん、PC達の行動を制限/誘導/救済するために
必要だったのです)をとったときに、その理由を「実は・・・」と説明できるように
するためでもあります。

 なお、「夫がいる」のは、単に「レフリーが美女だと言った途端に、みさかいなく
口説こうとするPC」というのがいたときのガードです。(きっとあなたはそういう
PCに出くわすことでしょう)
 こういうときは、夫がいるということを本人の口から示し、それでも言い寄ってく
るPCには平手打ち/肘鉄などお好きなように。


・謎の人物

 シナリオの導入部でPC達が出会う謎の人物です。いかにも何かありそうなNPC
ですが、その正体は明らかにならないまま、PC達は彼と別れることになります。
 PC達が自力、または上記の「美女」の協力だけでシナリオをクリアできれば彼は
二度と登場しません。単なる偶然の遭遇だったということです。

 しかし、PC達が窮地から抜けられなかったり、あわや全滅ということになれば、
いきなり彼が現れてPC達を助けてくれます。
 実は彼こそは、海軍情報部/ゾダーン連盟/ソルセック(ソロマニ秘密警察)/ヴ
ィミーン(テュケラ運輸秘密保安部)から派遣されてきた秘密工作員だったのです!
そして、彼の雇い主には、PC達の任務達成を望む理由があるというわけです。

 もちろん、彼はPC達を助けた直後に敵の凶弾に当たるなどして死んでしまうか、
または他の任務があるとか言って姿を消してしまいます。


 美女も秘密工作員も、レフリーの好みによってバリェーションを加えて下さい。要
はパーティに紛れ込ませる札と、最後の切り札の、2枚のカードを用意すればよいわ
けです。

 前回に述べた5つの要素(目的、脅威、制限、障害、利点)を明確にし、さらにこ
の2人のNPCを用意しておけば、PC達はあなたの掌の上にいるも同然です。彼ら
は行動の自由を満喫できますが、掌から外に出てしまう心配はしなくてよいのです。


第30回(93/01/06)

ステップ1:基本ストーリーの作成

 さて、原作のストーリーを加工するテクニックについて今まで述べてきたことをま
とめてみましょう。

(1)原作の一部分だけを取り出して完結させることで、単純なストーリーにする
(2)原作の主役ではなく、別の役をPCに割り当てる
(3)PC達を誘導したり救済したりするためのNPCを用意する

 原作をシナリオに変換する場合、この3つのテクニックで何とかならないか工夫し
てみて下さい。

 なお、特に(2)の「主人公をずらす」テクニックを使うときには、原作のストー
リーの面白さを損なわないように充分に気をつけて下さい。

 例えば、バグリィの名作「高い砦」をメガトラベラーのシナリオにするとします。
この小説のストーリーの魅力は、「窮地に追い込まれた主人公達が、手作りの原始的
武器(弩や投石機!)を作りだし、力を合わせて近代兵器を持つ敵と戦う」という点
にあります。
 これを「危険度が高すぎるから」といって、「窮地に追い込まれたNPC達を救出
に向かう武装レスキュー部隊」をPCにしてしまっては、原作を選んだ意味がなくな
ってしまいます。

 こういう場合は、PCの立場は原作通りとし、何らかの「利点」をつけてバランス
をとるようにしましょう。例えば、敵が仲間割れするとか、現地の生物が銃声を聞く
と凶暴化して銃手を襲うという性質である(PC達は原始的武器を使うので安全)と
か、そういった利点です。


 また、場合によっては、(2)の「主人公をずらす」の応用で、主人公と敵の立場
を逆転させるという大技も使えます。

 例えば、映画「ダイ・ハード」をメガトラベラーのシナリオにするとします。
 主人公がほとんど孤立無援であるというのがストーリーの要ですから、これを何人
ものPCが集まったパーティでプレイするのは困難です。
 かと言って、ビル外部から彼を支援する警察の役をPCに割り振ってしまっては、
「近代的ハイテクビルの内部構造をジャングルに見立てたゲリラ戦ごっこ」という原
作の楽しさが完全に損なわれてしまいます。

 こういう場合は、思い切ってビルを占拠する側をPCにします。彼らは一定時間以
内にビルの地下にある大金庫を開けて中身を盗み出さなければなりません。(理由は
後から考えればよいことです)
 ビルを占拠したことが外部に気づかれないうちに作戦を完了する予定でしたが、占
拠の際に一人を逃してしまったため計画は破綻しかけます。果たしてPC達は無事に
目的を達成して現場を脱出することが出来るでしょうか?


 このようにして、原作のストーリーを単純化し、危険度のバランスをとり、誘導と
救済の仕掛けを混ぜたら、基本ストーリーが出来上がります。
 実際に自分がプレーヤーとしてこのストーリーに参加することを想像してみて下さ
い。わくわくして胸がときめき、「自分がレフリーでありプレーヤーになれないのが
残念」という気になるようならOKです。

 基本ストーリーが完成したら、ステップ1は終わりです。ここまでの作業は頭の中
で行うことが出来ることでしょう。ただし、シナリオ構成の5大要素(目的、脅威、
制限、障害、利点)と、PC達の行動の制限/誘導/救済のために配置した要素(N
PC等)については、紙に簡単にメモしておきましょう。

 ステップ2では、いよいよ舞台をトラベラー宇宙に移し、惑星からNPCまで各種
データを用意し、フレーバーを振りかけ、といった作業を行うことになります。


第31回(93/01/23)

ステップ2:シナリオの詳細化

 シナリオの基本ストーリーが決まったら、それをいくつかのシーンに大雑把に分け
て、シーン毎に詳細化してゆくことにしましょう。

 シーンの詳細化を行う場合、まずそのシーンを映画のように画像として想像してみ
ます。続いて、音・臭い・触覚など五感で受け取る情報をきちんと想像して下さい。
シーンによっては、目に見える光景よりも、臭いや音の方が大切な場合もあります。

 こうしてシーンを具体的に想像しようとすれば、自然と細かいことを決める必要性
に気がつくことでしょう。時刻はいつか、明るさはどうか、部屋の広さはどうか、と
いった点から、NPCの口調といった点まで、決められることはどんどん決めてゆき
ましょう。決めたことは紙に書き出してゆきます。
 この時点での記録は単なるメモですから、別にきちんと書く必要はありません。
ただ、メモはシーン毎に別々の紙に書いておいた方がよいでしょう。

 さらに、PC達やNPC達がそのシーンでどのような言動を取るかを想像して下さ
い。彼らがそのような言動をとることにはちゃんとした理由があるでしょうか。性格
に矛盾することはないでしょうか。
 ここでも、キャラクター達の心理について決められることはどんどん決めてゆきま
す。特に重要なのは動機です。なぜ、そのシーンでキャラクターがそのような言動を
行うのか、納得のゆく動機を(もし決まってないのなら)決めて下さい。

 こうして、書き散らしたメモを見ながら何度もシーンを想像します。必要に応じて
設定を変更したり追加したりして下さい。これを何回か繰り返せば、シーンの詳細化
は完了です。簡単でしょう?

 なお、この段階では「レフリー処理」や「判定方法」について決める必要はありま
せん。このステップでは単に設定やデータを決めるだけでよいのです。それらの情報
をどのように処理し判定するかは、次のステップで決めることになります。


 さて、「決められることはどんどん決めてゆきます」と書きましたが、実は決める
のにコツが必要な設定情報がいくつかあります。具体的には次の通りです。

1.舞台となる世界

 「帝国」は、1万を越える星系が含まれます。
 スピンワードマーチ宙域に限ったとしても、400を越える星系があります。どの
世界をシナリオの舞台にすればよいのでしょうか?

2.登場人物のデータや名前

 RPGの中心となるのは登場人物(もちろん非人類も含みます)です。
 登場人物は、どんなRPGのシナリオにおいても、最も重要な設定となります。
 NPCの設定については全てレフリーが用意しなければなりません。PCについて
も、どこまでレフリーが決めどこからプレーヤーに決めさせるのか、を決めておくの
も大切な設定です。

3.登場するアイテムと情報

 「メガトラベラーは、アイテムと情報がとても大切なRPGだ」と第1部で強調し
ました。あらかじめこれらの設定をきちんとしておかないとシナリオを進めることが
出来ないことでしょう。

4.地図、各種施設の詳細

 プレーヤー達は、現在いる場所について知るために地図を必要とするでしょう。
 普通の地図に加えて、鉄道の路線図、道路地図なども用意しなければならないかも
知れません。
 さらに、建物内部の見取り図が必要です。宙港/宙港街/トラベラー協会/メガコ
ーポレーションの支社/役所/鉄道の駅・・・

5.「トラベラー宇宙」とのかかわり合い

 もちろんシナリオの基本ストーリーは、トラベラー宇宙の設定と関係ないローカル
な出来事を扱っていてかまいません。しかし、出来れば反乱(レベリオン)を始めと
するトラベラー宇宙の設定とわずかであれかかわり合いを持っていた方がメガトラベ
ラーらしくてよいでしょう。
 このためには、その世界の政治状況、外交(帝国や「反乱」に対する対応や立場)
を考える必要があります。

6.SFらしさを演出するための小道具(フレーバー)類

 せっかくSF−RPGをプレイするのだから、ちょっとは独創的なSF的設定がほ
しいところです。ほんのすこし小道具を工夫するだけで、プレーヤーは「始めて訪れ
る未知の世界を旅しているのだ」という実感を持ってくれます。
 最初のシナリオにおいては、これは大した問題ではありませんが(なにしろトラベ
ラー宇宙そのものがプレーヤーにとって「始めて訪れる未知の世界」でしょうから)
そのうちこれこそがメガトラベラーの醍醐味だということが分かってくるはずです。


 以降、ステップ2の解説では、これらのポイントについて設定を決めてゆくための
コツについて具体的に書くことにします。


第32回(93/01/30)

ステップ2:シナリオの詳細化

 まず、背景世界を具体的に決める方法について解説します。

1.舞台となる世界

 何はともあれ、舞台世界のUWP(標準世界データ)について考えましょう。
 まず「自然環境」、次に「社会環境」を考える必要があります。

 最初にレフリーするのであれば、自然環境は出来るだけ地球に近い世界にしておく
のが無難でしょう。

 自然環境が地球と大きく異なる世界を舞台にすると、そこの社会・文化・生活習慣
も必然的に地球とは異なるものになってしまうため、レフリーの負担が大きくなるの
です。かと言って、舞台設定の手を抜くため「自然環境が地球と異なるのに社会や文
化は現在の地球と全く同じ」ということにでもしたら、背景世界から最低限のリアリ
ティというものが失われ、嘘っぽい馬鹿げた世界になってしまうことでしょう。

 いずれは、地球とは異なる環境、それに適応した異質な文化・社会を創造する楽し
さを発見するときが来るでしょうが、今はレフリー作業に慣れることに集中すること
にしましょう。

 というわけで、「地球と似た自然環境」と言える条件ですが、UWPのうち3つの
項目が次の条件を満たしていれば、だいたい地球と似た自然環境だと考えることが出
来ます。

・規模:4〜8  大気:5、6、8  水界度:3〜9

 規模が4〜8であれば、おおよそ地表重力は0.5G〜1Gになります。この範囲
であれば「地球と似た重力」と言ってもよく、特に重力に気をつけなくても地球にい
るのとほぼ同様に行動できるでしょう。

 大気が5、6、8であれば、特別な器具を使わなくても野外で呼吸が可能です。

 水界度については、さほど神経質になる必要はありません。液状の酸化水素をベー
スとする「海」と、その海面に「陸」や「大陸」が存在さえすれば、だいたい地球と
同じ環境と言ってよいでしょう。海と陸の比率はさほど重要視しなくて構いません。

 UWPには現れませんが、気温も大切です。これは地球と大体同じ(地表の平均気
温が摂氏15度くらい)としておけばよいでしょう。


 次に「社会環境」を考えてみます。シナリオの内容によっては、社会環境に条件が
付くことがあるからです。

 例えば、シナリオ上、コンピュータで公衆データライブラリにアクセスして情報を
検索することが必要だとしたら、それなりのテックレベルが必要です。町中で銃撃戦
が行われても警察が介入してこないとしたら、治安度が低くないといけません。

 PC達の宇宙船が修理(またはオーバーホール)されている間の出来事を扱うつも
りなら宇宙港のクラスに条件が付きます。「国王のあと継ぎ問題」にPC達が巻き込
まれる予定なら、政治形態を考えなければなりません。
 シナリオが大都会を舞台として想定しているのに、背景世界の人口データが0だと
したら、ちょっと困ったことになります。

 もっとも、社会環境は、自然環境に比べてずいぶん融通が効きます。

 例えば現在の地球を考えてみて下さい。UWPはきっと「X867944−8」で
しょう。しかし、これは地球全体のうちたまたまGDW社が存在する地域をもとにし
た値です。地域によって政治形態や治安度、人口密度が全く異なることは言うまでも
ないことでしょう。
 地球上のテクノロジーレベルは地域によって様々です。地球に宙港は存在しません
が、国際空港がある街の様子は宙港街のそれとさほど変わらないはずです。

 ちなみに帝国暦1120年の地球のUWPは「A867A69−F」ですが、西暦
1993年現在と本質的に変わらない生活をしている人々がいることは間違いないと
思われます。

 要するに、UWPが示す社会環境は単なる目安に過ぎないのです。適当な理由さえ
つけば、シナリオにとって必要な社会環境を作ることが出来る場合で多いことでしょ
う。
 テクノロジーレベルが高すぎると思えば、何らかの事情でハイテクノロジーが手に
入らない地域を設定すればよいですし、逆にテクノロジーレベルが低すぎれば、外世
界からの輸入(何なら密輸でもいい)品が流通している地域を設定すればよいことに
なります。


 ここまでで準備は整いました。具体的に舞台世界を選んでみましょう。

 「帝国百科」を開いて下さい。
 スピンワードマーチ宙域に属する星系のUWPがP95〜P98に並んでいます。

 この中から上で示した「地球に似た自然環境」の条件を満たす世界をリストアップ
します。
 つぎに、それらの世界の宙港、人口、政治形態、治安度、テックレベルをよく見て
「ある程度考えれば、何とかシナリオが想定している社会環境を作ることが出来そう
な」世界を選びます。

 最後に、候補として残った世界の場所を「スピンワードマーチ宙域図」で確認しま
す。「ゾダーン領」や「ヴァングル海賊の占領地域」に含まれている世界をシナリオ
の舞台にするのは、出来るだけ避けた方がいいでしょう。

 このようにして、舞台となる世界を一つ選びます。UWPをよく見て、どんな世界
なのか色々と想像してみて下さい。

 参考までに、スピンワード宙域に含まれる星系のうち、自然環境が地球に似た(つ
まり、規模:4〜8 大気:5、6、8 水界度:3〜9)もののヘックス番号を次
に示します。帝国百科のP95〜P98のリストに印を付けて下さい。

0133 0140 0202 0215 0240 0301 0425 0427
0429 0511 0526 0527 0534 0538 0605 0607
0610 0613 0620 0627 0632 0705 0710 0732
0822 0830 0834 0838 0904 0921 0940 1004
1006 1011 1102 1123 1138 1210 1238 1320
1340 1417 1424 1434 1520 1523 1524 1529
1531 1607 1611 1628 1634 1706 1711 1727
1807 1910 1916 1927 1935 1937 2111 2137
2202 2204 2224 2231 2308 2331 2336 2402
2414 2416 2509 2514 2523 2538 2540 2620
2624 2708 2715 2733 2833 2905 2930 2934
3005 3016 3024 3112 3119 3220

 ご覧のように、100近い星系が「地球に似た」自然環境を持っています。あなた
のシナリオの舞台に相応しい世界が、きっとこのリストにあるはずです。


第33回

ステップ2:シナリオの詳細化

 どんなRPGにおいても、印象的なNPCを登場させることはとても大切です。

 プレーヤーがNPCを単なる背景としてではなく、個性を持つ生きた人間(必ずし
も人間とは限りませんが)として認め、自分のPCと対等の存在だと見なしてくれる
ようになれば、セッションの成功はあらかた約束されたも同然です。
 では、そのような生き生きとしたNPCを出そうと思ったら、例えば生い立ちを細
かく設定しておかなければならないか、というとそんな必要はありません。

 決めておかなければならないのは「動機(行動目的)」「個性(性格)」「外見」
それに「しゃべり方」です。それと、各種判定を行う必要が生じたときのために一応
データも用意しておいた方がよいでしょう。

 まずNPCの「動機」と「個性」について設定し、その他の設定は後回しにして下
さい。何をおいてもまず決めるべきは、「動機」と「個性」なのです。

 さて、メガトラベラーでは、NPCを登場目的別に4種類に分類しています。レフ
リーズ・マニュアルのP6をご覧下さい。ここに示された「エキストラ」「情報提供
者」「パトロン」「トラブルメーカー」がそれです。
 初心者レフリーは、これに「救援者」を付け加えた方がいいでしょう。
 ここでは、これら5種類のNPCについて、動機(行動目的)と個性(性格)をど
のようにして用意するかについて示します。


 「エキストラ」については、動機も個性も設定する必要はありません。セッション
の最中に適当だと思ったときに典型的な人々を登場させ、ステロタイプに行動させ、
お約束のセリフを吐かせればよいのです。エキストラにそれ以上の設定は必要ありま
せん。手を抜くところは手を抜いて、他のNPCに力を注ぎましょう。

 ですから、チンピラは「覚えてやがれ」と叫んで逃げればよく、横柄な役人は公然
とワイロを要求し、勇敢な戦士は郷里の恋人の写真が入ったペンダントを持っていれ
ばそれでよいのです。

 「情報提供者」については、出来るだけユニークな動機と個性を持たせましょう。

 彼らは基本的にPC達に情報を与えるために存在し、それ以上シナリオ進行に関わ
りませんから、変なキャラクターにしても後腐れがありません。安心して下さい。
 特にユニークな動機や個性を思いつかない場合は、「偏執狂」的な性格にして下さ
い。これで、動機と個性が決まります。

 彼(彼女)は何かに異常にこだわります。PC達の話をちっとも聞かないで自分の
関心事についてしゃべり続けます。PC達がこの点について褒めたり、興味を示した
ふりをすると、彼(彼女)は有頂天になって「君はみどころがある。私と一緒に何々
の道をきわめようではないか」などと言いだす始末です。
 彼(彼女)から情報を引き出すためには、ちゃんとしたロールプレイが必要だ、と
プレーヤーに告げます。プレーヤーとロールプレイによる会話を楽しんだ後、対人行
為判定ルールにより成功度に応じた情報を与えます。もちろん、ロールプレイの出来
や、話の持ってゆき方によって難易度やDMを変えることは言うまでもありません。

 「パトロン」の扱いはシナリオによって様々に異なります。単に導入部で仕事を依
頼(命令)するために登場し、後はシナリオの最後まで出てこない場合もありますし、
PC達と行動を共にする場合もあります。

 前者の場合、ありがちな動機(仕事を依頼する理由)さえ決めておけばよく、特に
個性は必要ないでしょう。

 後者の場合、前述した「PC達と行動を共にする謎の美女」の行動パターンにする
のが楽です。それに合わせて動機や個性を設定します。PCと一緒に行動するのです
から、印象的で興味深い人物にする必要があります。

 かっこいいセリフを決めておくのも良いでしょう。定番的に振る舞いつつもどこか
外れている、というのもいいでしょう。愛用の品に固執するのも悪くありません。
 ここら辺は、映画や小説、コミックなどを参考にして下さい。

 「トラブルメーカー」は2種類に分けられます。「敵」と「足手まとい」です。

 前者の設定は楽です。とにかくPCが阻止すべき陰謀なり計画なりを推進している
相手です。「狂信者」「誤った信念の持ち主」「世間知らず」「冷酷なサディスト」
「権力欲に取りつかれた奴」「上の命令に盲目的に従う、想像力が欠如した奴」など、
ありがちな悪人のパターンを踏んでおきましょう。
 敵は単純な方が、話が分かりやすくて良いのです。したがって、敵については動機
も性格も単純にしておき、NPCとして演じるときには少々オーバーにやって丁度よ
いくらいでしょう。

 後者の「足手まとい」は、うまく設定すると非常に効果的です。本人に悪気はない
のですが、臆病だったり頑固だったり、お役所主義だったり妙な信念を持ってたりし
て、PCの邪魔をするのです。ポイントは「邪魔だが、妙に憎めない奴」という点に
あります。従って、「PCの邪魔をしつつも、夕方5時になった途端に帰宅してしま
う」とか、「娘の話を始めると親馬鹿まるだし」とか、そういう妙な律儀さや人間臭
さを出すとよいでしょう。
 また、邪魔者だと思っていたのがラスト近くでPCをかばって犠牲になるとか、敵
の非道ぶりを見てPCの味方になるとか、そういうパターンに持ってゆくのも味があ
ります。

 「救援者」は前述した通り、PCがへまをして絶対絶命の危機に陥ったときに救出
に駆けつけてくれるNPCです。シナリオが破綻しないように、いつでも使える「救
援者」を用意しておくことは、特に初心者レフリーにとっては大切なことです。

 彼(彼女)については動機が大切です。前述した通り「PC達の成功によって利益
を得る組織の放ったエージェント」というのが最も簡単ですが、他にも「PC達の勇
敢な行動を見て奮起した市民」とか「PC達と似た行動をとった息子(親友)を死な
せてしまったことを今も悔いている老人」とか、そういうのも良いでしょう。

 彼らにはあまり強い個性は必要ありません。PCを窮地から救い出すのと引換えに
命を落とせば、それだけで十分に印象に残るからです。忘れてはならないのは、あら
かじめシナリオの最初の頃に、伏線として彼(彼女)を登場させておくことです。も
ちろん、この時点では彼(彼女)が救援者になることは決して分かりません。(実際、
PCがへまをしなければ、彼(彼女)はそのまま二度と登場しません)


 全般的な注意ですが、「ありがち」なパターンを避けてはいけません。パターンは
効果的で優れているからこそパターンとして生き残っているのです。独創的な動機や
個性を作ろうとするのは、定番的なパターンやお約束の行動を自由に駆使できるよう
になってからにしましょう。


 さて、動機と個性が設定できたら、そのNPCについて想像してみます。外見やし
ゃべり方は自然と決まってくるでしょう。決まらないようなら、動機や個性の設定が
まだ不十分なのです。

 こうして「動機」「個性」「外見」「しゃべり方」が決まったら、データを用意し
ます。以下のページを読んで下さい。

 「レフリーズ・マニュアル」よりP43、「NPCの簡易作成」

 このNPCの簡易作成ルールに従って能力値、年齢、技能レベル合計を決めます。
技能の詳細について決める必要はありません。技能はセッションの最中に必要になる
度に、その場に合わせて適当に決めればよいのです。

 例えば、PC達が誰も「コンピュータ」技能を持ってないのにコンピュータにアク
セスする必要が生じたら、PCのそばにいるNPCが「実はコンピュータ技能を2レ
ベル持っていた」ということにしてしまえばよいわけです。(そのNPCがアクセス
に失敗したら、「実は<万能−3>だっ」と言いだして振り直させる、というのも、
ありがちな話です)
 もちろん、NPCが必要な技能を持っているかどうかについては、レフリーの判断
に任されます。

 最後に名前を決めます。決めかたは色々とあるでしょうが、私は「文庫解説目録」
を使っています。「ハヤカワ文庫:解説目録」とか「創元推理文庫:解説目録」とい
うのが書店で無料で手に入りますね。あれの海外作家名の索引を見ると、ずらーっと
海外作家の姓名がアイウエオ順に並んでいます。

 アーヴィング(ディヴィッド)、アイゼンシュタイン(フィリス)、アイリッシュ
(ウイリアム)、アシモフ(アイザック)・・・という具合です。

 このリストから適当に性と名を取り出して組み合わせれば、いくらでもNPCの名
前が出来ます。
 主要NPCの名前を決めた後も、あらかじめ20くらい名前を作っておいて、紙に
メモしておきましょう。エキストラのつもりで出したNPCの名前を聞かれたときに
慌てずにすみます。


第34回

ステップ2:シナリオの詳細化

 シナリオの進行を管理する上で、「情報」の扱いは決定的な重要性を持っています。

 なにしろ、プレーヤーはレフリーから与えられる情報だけを頼りにPCの行動を決
定するのです。レフリーが情報をうまく管理すれば、プレーヤーに不満を与えること
なくPCを思うがままに操ることも可能です。
 つまり、情報をうまく管理すれば、シナリオの展開を好きなように制御することが
出来るというわけです。まさに、「情報を制する者はセッションを制する」です。

 ここでは、実際のシナリオ例を元に、まず情報をどのように用意するかを示します。
情報の使い方については、次回に解説する予定です。

 さて、シナリオ例として、PC達が「ある男(Y)が持っている物品(X)を手に
入れてほしい」という依頼を受ける話を考えてみます。

 紙に、次のように重要な情報を書き出してゆきます。

 A :重要な情報

 A1:正しい方向にPC達を導くための情報

  ・男(Y)には愛人(W)がいる
  ・物品(X)はあるマンション(Z)にある愛人(W)の部屋に保管されている
  ・マンション(Z)の住所

 A2:PC達の役に立つ情報

  ・マンション(Z)には警報装置がついている。
  ・警報装置にひっかかると、数分以内に警備員が駆けつけてくる
  ・警報装置の場所と解除方法

 A3:A1とA2の存在を示唆する情報

  ・物品(X)をどこに隠しているか、男(Y)の知人の誰かが知っている可能性
   がある
  ・どうも男(Y)の自宅には物品(X)は隠されてないようだ
  ・マンション(Z)は高級住宅街にある
  ・先日、マンション(Z)に忍び込もうとしたこそ泥が警備員に逮捕されるとい
   う出来事があった。

 これらの情報は、PC達に何をすべきか教え、警告を与え、シナリオが想定してい
る方向に誘導するためのものです。

 したがって、これらの情報を「誰が(あるいは何が)」「いつ」「どのような条件
が成立すれば」PC達に教えるのか、それをきちんと決めておく必要があります。

 PC達が途中でどう行動しようと、適当なところでAの情報を渡してやれば、シナ
リオの本筋(この場合は、マンションZに警報装置にひっかからないように侵入し、
物品Xを盗み出す)に誘導できるのです。
 情報Aさえ押さえておけば、PC達を自由に行動させても安心してセッションを進
めることが出来る、というわけです。

 B :誤導のための情報

 B1:PC達を誤導する真実の情報

  ・男(Y)は、重要な品物はいつも鞄に入れて持ち歩いている
  ・男(Y)は土曜の夜には婦人とコンサートに出掛ける習慣である。このとき、
   鞄はクロークに預けられる。

 B2:PC達を混乱させる虚偽の情報

  ・男(Y)は物品(X)を処分してしまった
  ・PC達は密かに警察に見張られている。

 PC達が簡単にAの情報を獲得しては面白くありません。そのため、PC達を誤っ
た方向に誘導し、迷わせ、混乱させるためにBの情報が存在します。Bの情報は使い
方を誤るとPC達がシナリオの本筋に戻らないばかりかAの情報まで信用しなくなる
という危険があります。しかし、うまく使えば、単純なシナリオを起伏に富んだドラ
マチックなものにすることが出来るのです。

 例えば、PC達が「これぞシナリオの本筋」と思った方向に進んで失敗し、落胆し
ているところに、何気なく重要な情報が転がり込んで解決の道が見えます。あるいは
物事がうまく進んでいると思っていたときに、いきなり致命的な問題が発生し、PC
達は衝撃を受けます。

 C :無関係な情報

 C1:背景世界を解説する情報

 C2:トラベラー宇宙との関わりを示す情報

 C3:単なる噂

 背景世界や他のNPCはPC達の目的とは関係なく動いています。ですから、PC
達が得る情報がシナリオに関わるものばかりでは不自然です。
 当然、NPC達は自分達の目的と興味を持って生きていますから、PC達が興味を
持つことばかり話すはずがありません。

 レフリーは、シナリオと関係ない情報もたくさん用意しておくべきです。でないと
まるで下手なコンピュータRPGをプレイしているようなセッションになってしまう
でしょう。

 ですから、アイドル歌手の話題、スポーツやギャンブルの話題、近所の人の噂、等
の情報をあらかじめ用意しておいて下さい。「そんなの、とっさにいくらでも思いつ
くさ」と思ってはいけません。実際のセッションではレフリーは忙しくて、たあいも
ない噂話やどうでもよい情報をとっさに思いつくのは意外と困難なのです。

 それと、できるだけ背景世界の特殊性やトラベラー宇宙との関わりに触れるような
情報を用意しておいて下さい。ちょっとした配慮で、背景世界のリアリティをぐんと
増大させることができるのです。

 次回は、このように用意した情報をどのように使うかについて解説します。


第35回

ステップ2:シナリオの詳細化

 さて、A〜Cの情報を書き出したら、各情報をPC達に与える「手段」と「タイミ
ング」を考えます。Cの情報はその場の思いつきで与えて構いませんが、AとBにつ
いては、シナリオ作成時にきちんと与え方の「手段」と「タイミング」を決めておく
ことが大切です。

 ここでは、まずタイミングの問題について解説します。次回に、手段について解説
する予定です。ですから、今回の解説では単に「情報を与える」といった書きかたを
するだけで、情報を具体的にどのように(例えば、どのような判定を行って)与える
かについては触れません。

 さて、情報を渡すタイミングについては、シナリオの構成に大きく依存します。シ
ナリオ構成については後のステップで解説しますが、慣れないうちは次の基本構成を
守るように心がけておけば楽です。

 (1)導入部(起)

   PC達に(大抵はパトロンからの仕事の依頼という形で)シナリオの要素が示
  されます。(シナリオの要素とは、前述したように、目的/脅威/制限/障害/
  利点のことです)

   ベテランプレーヤーを相手にしているのなら、ここでPC達に好き勝手に行動
  方針を決めさせていいでしょう。彼らは言われなくても情報収集に乗り出すはず
  です。

   しかし、慣れてないプレーヤー(特に伝統的なファンタジーRPGしか経験し
  たことがないプレーヤー)の場合、まず何をすべきか分からず、途方に暮れてし
  まうことがあります。

   このため、最初のうちはレフリーがパトロンの口を借りてA3の情報を渡し、
  「A1、A2の情報を獲得する」という当面の目標を与えることをお勧めします。
   PC達がこの当面の目標に向かって活動を開始すれば、シナリオは次の段階、
  すなわち展開部1に進みます。

   シナリオ例の場合、パトロンの口から次の情報(A3)を与えます。

  ・物品(X)をどこに隠しているか、男(Y)の知人の誰かが知っている可能性
   がある

   そして、パトロンに「とりあえず物品(X)の隠し場所を発見しないとどうし
  ようもない。男(Y)の知人に聞き込みをしてみるといいだろう」などと言わせ
  るのです。

   なお、すでに与えた情報には印をつけて、まだ与えられてない情報はどれかが
  一目で分かるようにしておいた方がよいでしょう。


 (2)展開部1(承)

   PC達は当面の目的、つまり情報Aの獲得に向けて行動します。当然ながら、
  この段階での活動の中心は情報収集になるでしょう。色々なNPCに会って話を
  聞いたり、図書館や端末で情報を検索したり、司法当局や役所、宙港やトラベラ
  ー協会などの施設に出向くかも知れません。
   PC達の行動を束縛してはいけません。自由に行動させ、柔軟に対応するよう
  に心がけます。

   この段階では、Aの情報を少しづつ小出しにして下さい。
   決してA1の情報をあっさり与えてはいけません。そんなことをしたら、ゲー
  ムが単純でつまらないものになってしまいます。かと言って、PC達がいくら努
  力しても何の成果も上がらないようでは、プレーヤー達が大いに不満を持つこと
  でしょう。

   ですから、レフリーは、PC達の努力に応じてすこしづつAの情報を与えるよ
  うにします。
   そして、A1の情報のうち決定的なものだけを残して他の情報が十分に与えら
  れた時点で、次の段階、つまり展開部2に進みます。

   シナリオ例の場合、展開部1では次の情報を与えるとよいでしょう。これらの
  情報を与える「情報提供者」NPCを用意しておきます。

  ・男(Y)には愛人(W)がいる
  ・どうも男(Y)の自宅には物品(X)は隠されてないようだ


 (3)展開部2(承)

   PC達は誤った方向に誘導されます。「これぞシナリオの本筋」と思って追い
  かけていた方向が間違いであり、苦心は徒労だったと判明したとき、PC達(そ
  してプレーヤー達)はショックと混乱を覚えることでしょう。
   さらに追い打ちをかけるように、致命的なトラブルが降りかかってきます。

   この段階では、B1の情報を与えてPC達を誤った方向に誘導します。そして
  PC達がその方向にある程度進んだところで、それが間違い(または罠)だった
  ということを明確にします。
   PC達が混乱から立ち直る前に、さらにB2の情報を与え、「もはやこれまで
  か」という悲愴な追い詰められた雰囲気を作ります。

   ここで大切なのはスピードです。PC達(プレーヤー達)を混乱させ、何をど
  うすればいいか冷静に判断する余裕を与えないで次々と事件を起こします。そし
  て、そのまま次の段階、すなわち転換部に進みます。

   シナリオ例の場合、次の情報を与えるとよいでしょう。

  ・男(Y)は、重要な品物はいつも鞄に入れて持ち歩いている
  ・男(Y)は土曜の夜には夫人とコンサートに出掛ける習慣である。このとき、
   鞄はクロークに預けられる。

   この情報を得たPC達は、すぐに「土曜の夜にコンサート会場に行って、クロ
  ークを買収するなり何なりして鞄の中身を調べよう」と判断するはずです。

   しかし、鞄の中に物品(X)はありません。しかも、鞄を探っている現場に、
  いきなり男(Y)が現れます。そして次の情報を与えます。

  ・男(Y)は物品(X)を処分してしまった

   セリフとしては「コソコソ嗅ぎ回っているようだが、無駄なことだな。例の物
  はとっくに始末してある」という感じでしょうか。拳銃など突きつけるのが定番
  的でよいかも知れません。
   さらに、男(Y)の通報で現場に警察がやってくる(パトカーのサイレン音が
  近づいてくる)となれば、なかなか危機感が盛り上がることでしょう。

   何にせよ、PC達は逃げだすことに成功します。PC達がうまく逃げだせない
  ようなら、例によって「救援者」NPCを使います。


 (4)転換部(転)

   混乱し追い詰められたPC達に、決定的な情報が与えられ、何をなすべきかが
  はっきり分かります。さらに制限が厳しくなります。
   PC達は急いで行動しなければなりません。

   この段階に至れば、あっさりとA1のうち決定的な情報をPC達に与えます。
   ここでは情報を小出しにする必要はありません。次々と「もつれた糸が解ける
  ように」情報を与え、何をすべきかはっきり分かるようにします。
   さらに、時間的な制約がいきなり厳しくなります。今まで5日以内に、という
  条件だったとしたら、それがいきなり「今日中」になるわけです。

   ここでのコツは、プレーヤー達を追い立てることです。じっくり考える暇を与
  えてはいけません。どんどん時間を進めてゆき、プレーヤーを焦らせます。
   目の前に進むべき進路を示し、背後から時間制限で追い立ててやれば、PC達
  は迷うことなく次の終結部(結)に飛び込んでゆきます。

   シナリオ例の場合、いきなりパトロンから連絡があり、今日中に物品(X)を
  入手しなければならなくなった事情を告げられます。さらに次の情報が与えられ
  ます。

  ・PC達は密かに警察に見張られている。

   この情報は虚偽なのですが、PC達を追い詰める効果は抜群です。

   続いて、「情報提供者」の一人がPC達のところにやってきて、PC達に物品
  (X)のあり場所を教えます。

  ・物品(X)はあるマンション(Z)の、愛人(W)の部屋に保管されている

   もちろん、なぜこの「情報提供者」がこのような行動を取るのか、なぜ今まで
  このことを黙っていたのか、といった点について説明を用意しておき、あらかじ
  め伏線を張っておくことが大切です。

   私なら、この「情報提供者」を男(Y)の夫人にします。小説やドラマを参考
  にして夫人の境遇と性格を熟慮すれば、納得のゆく動機を用意することが出来る
  でしょう。


 (5)転換部(転)

   PC達はシナリオの目的を達成して(または惜しくも達成できず)、シナリオ
  は終了します。

   この段階では、必要な情報は全て与えるようにします。また、必ずしも必要で
  ないがあると有利な情報については、その存在を示唆する情報を与え、後は自分
  達で入手させます。

   シナリオ例では、電話帳や端末などから次の情報を得ることが出来ます。

  ・マンション(Z)の住所

   さらに、マンション(Z)について調べると、次の情報が得られます。

  ・マンション(Z)は高級住宅街にある
  ・先日、マンション(Z)に忍び込もうとしたこそ泥が警備員に逮捕されるとい
   う出来事があった。

   もしPC達が、マンション(Z)の警備状況を調べようと努力するなら、比較
  的簡単に次の情報を与えます。

  ・マンション(Z)には警報装置がついている。
  ・警報装置にひっかかると、数分以内に警備員が駆けつけてくる

   次の情報はPC達が納得のゆく方法を考えださない限り入手できないでしょう。

  ・警報装置の場所と解除方法

   いずれにせよ、これで用意してある情報は全て処理しました。

   後は、PC達がマンション(Z)に侵入して物品(X)を手に入れることが出
  来るかどうかを処理するだけです。


第36回

ステップ2:シナリオの詳細化

 用意してある情報を与えるための最も基本的な方法は、NPCの口を借りてPC達
に情報を話すことです。
 しかし、重要な情報をそうそう簡単に聞き出せるはずはありません。PC達が情報
を獲得できるかどうかの判断を、どのようにして行えばよいでしょうか。

 一つの極端な方法は、全てロールプレイに任せるというものです。つまり、NPC
としてPC達と会話して、「NPCが話す気になるだろうと思ったら」情報を与える
のです。

 この方法の欠点の一つは、情報を得ることが出来るかどうかがほぼ完全にレフリー
の主観的な判断に任されてしまうため、プレーヤーが不公平感を持つ可能性があるこ
とです。

 だが、それよりもっと重大な問題は、この方法だとRPGのゲーム面がおろそかに
なってしまうことです。

 よく「ルールを使うのは戦闘のときだけ。それ以外のシーンでは全てロールプレイ
とその場のノリだけで処理してしまう」という人がいますが、これではゲームシステ
ムがうまく機能しません。

 早い話が、このやり方だとプレーヤーはキャラクター作成の際に戦闘技能ばかりを
重視してしまい、対人技能を誰も取ろうとしなくなってしまうことでしょう。また、
「口のうまい」「ロールプレイが得意な」プレーヤーにNPCとの交渉を任せてしま
い、他のプレーヤーはロールプレイをしなくなってゆく恐れもあります。

 メガトラベラーでは、NPCとの対人行為も、戦闘や宇宙船運行と同じく作業分担
するように考慮されています。

 戦闘では、銃を撃つ者、格闘が得意な者、他のグループとの通信を担当する者、指
揮をとる者、というように各自の技能により作業分担し協力しますね。宇宙船を運行
する際にはパイロット、ナビゲータ、エンジニア、船医、スチュワードというように
やはりPC間の作業分担が重要です。

 同じように、対人行為でも、上流階級のパーティに出席して貴族と会話する者と、
薄暗い路地裏でストリートキッズ達と取り引きする者と、役人にワイロを渡して便宜
を計ってもらう者というように、それぞれ得意な技能を活かして作業分担することが
大切なのです。

 メガトラベラーの技能リストに沢山の対人行為技能が含まれているのは、このよう
に、場面に応じてPC達が作業分担できるように、との配慮からなのです。

 状況に応じて最適な技能を持ったPCが対応することで、全てのプレーヤーに対人
行為面での活躍の機会が与えられます。また、プレーヤー間で分担・協力するという
RPGの基本に沿ったプレイを楽しむことが出来ます。

 ですから、「対人行為は全てロールプレイで」方式は、お勧めできません。


 逆の方向に極端な方法として、「判定ロールだけ」方式もあります。

(プレーヤー)「パーティ会場でその人と話して、何か情報を聞き出そうとします」
(レフリー) 「並、<社交>、社会身分度で振って」
(プレーヤー)「ダイス6、DM=2で成功」
(レフリー) 「では、次のような情報を聞き出した・・・」

 これではコンピュータゲームと大差なくなってしまいます。


 ですから、両方の方式を組み合わせると良いでしょう。例えば、次のように処理す
るのです。

1.まずプレーヤーに「どのようにして情報を聞き出そうとするのか」をなるべく具
  体的に細かく説明させます。

  「パーティ会場でその官僚に近づいて、自分は何々だと自己紹介する。で、何々
  を調査しているので知っていることがあれば教えて欲しいと言う」


2.レフリーは、判定に使う技能について決め、プレーヤーにそれを伝えます。

  「自己紹介までのところで<社交>で判定する。あと、会話のところで<接触>、
  <管理>あたりの判定だな」


3.プレーヤーはレフリーと相談して、自分のPCの技能を活かすように行動申告を
  変更してかまいません。また、誰が対人行為を行うかも変更してかまいません。
  (誰がどのように技能を活かすか知恵をしぼるあたりがゲームの面白さです)

  レフリーとプレーヤーがお互いに納得するまで相談して、判定に使う技能を決め
  ます。

  「えーと、じゃあ、誰それが変装して、いかにも身分が高い貴族のふりをして、
  普通に会話しつつ次第に話題をそちらに向けるようにしたい。<変装>と<イン
  タビュー>で判定させてもらえるかな?」


4.実際にNPCとPCの間でロールプレイによる会話をします。このとき、慣れて
  ないプレーヤーは(ときにはレフリーさえも)「何々について話す」とか「これ
  これだと言う」というように単なる行動申告で済ませようとしがちです。しかし
  これは決して許容してはいけません。必ずロールプレイさせて下さい。(プレー
  ヤーを教育するのもレフリーの仕事の一つだと思って下さい)

  会話はぎこちなくても良いのです。つっかえて言い直したり、しゃべってから気
  が変わって「今のは無し」と言って言い換えたりしてもいいのです。大切なのは
  下手でもよいからきちんとロールプレイすることです。
  ちゃんとロールプレイするまで、ダイスを振ることを許可してはいけません。

  ロールプレイは慣れの問題です。慣れれば、すらすらとセリフが口をついて出る
  ようになり、キャラクターを演じることに楽しみを見いだすようになります。
  逆に、恥ずかしいから、照れくさいから、といってロールプレイを避けていれば、
  いつまでたってもRPGの本当の楽しさを知ることは出来ないでしょう。

  レフリーも慣れないうちはロールプレイが恥ずかしいかも知れません。しかし、
  覚悟を決めて挑戦して下さい。


5.判定の難易度を決定します。状況や会話の進め方、NCPの性格などを考慮に入
  れます。PCがうまく話を進めた場合には、能力値(例えば「知力」や「社会身
  分度」)によるDMも与えるなどして評価してあげて下さい。
  ここで言う「うまい」とは、プレーヤーの演技力のことではありません。NPC
  の性格をよく読んで適切な質問をしたとか、巧妙に話を進めてNPCをその気に
  させたとか、そういう意味です。

  ここでダイスによる判定を行います。成功の度合い(または失敗の度合い)に応
  じて情報を加減して与えます。もちろん、NPCとPCの会話を再開して、会話
  の中でセリフとして情報を与えるのです。


6.セッションの進行に大きく影響する重要な情報については、1回の判定であっさ
  り結果を出すのはもったいないと感じるかも知れません。
  レフリーが、ある情報について「もったいぶりたい」と思ったときは、レフリー
  ズマニュアルのP44〜45に書かれている「反応表」や「反応段階」を使うと
  よいでしょう。
  「じわじわと相手をその気にさせる」とか「丁々発止の鋭い応酬」とか、そうい
  う対人行為による人間の心の動きを、段階を踏んで何回も判定を行うことで表現
  しようというのが、「反応段階」のルールなのです。

  レフリーは反応段階を参考にNPCの態度や話しかたを調整して、NPCの心の
  動きをロールプレイで表すように努めて下さい。「彼の反応は中立に変わった」
  と説明するより、「分かりました。まあ、話だけでもうかがいましょうか」とセ
  リフを口にした方がずっと雰囲気が出るでしょう。



 以上で情報に関する解説は終わりです。3回に渡って説明してきた、情報の準備、
情報によるセッションのコントロール、情報の渡し方、を身につければ、戦闘などな
く単に情報収集するだけのシナリオでも充分にエキサイティングなセッションが可能
となることがお分かりいただけたことと思います。


第37回

ステップ2:シナリオの詳細化

 「装備の購入」はレフリーにとって頭の痛い問題です。プレーヤーに自由に選ばせ
ると、プレーヤーは迷いに迷い、決定するまでにひどく時間をかけるからです。
 キャラクターを作成して装備を購入するだけで何時間もかかってしまい、シナリオ
に入る時間がなくなってしまった、という失敗は実によくあることです。

 このような失敗を防ぐためには、キャラクターはプレロール(あらかじめレフリー
が何人分か作成しておき、プレーヤーがデータを見て選択する)方式で決めてしまい、
さらに「装備リスト」をシナリオ毎に用意しておくと良いでしょう。

 ここでは装備リストの作り方について説明します。

 まず「帝国百科」の装備リスト(P51〜P75)を開きます。そして、シナリオ
の種類にあまり依存せず、大抵のアドベンチャーで必要になると思われる装備に印を
つけてゆきます。
 このような装備を、ここでは「汎用装備」と呼ぶことにしましょう。汎用装備には
次のようなものが含まれます。

 ・医療キット、コンピュータ(携帯用)、翻訳機
 ・宇宙服、酸素ボンベ、スーツパッチ、マスク類
 ・電子工具セット、機械工具セット、金属細工セット
 ・ゴーグル類、双眼鏡類、慣性航法装置(慣性方向指示装置)
 ・コムダット、通信機類、レコーダ類
 ・バックパック、ロープ、反射鏡、トーチ類
 ・エアラフト、その他の乗物類

 これらの汎用装備を選んだら、そのTLや重量、価格をまとめて表にしておきまし
ょう。一度これを作っておくと、色々なシナリオで使えるので便利です。

 次に、今回のシナリオで必要となる装備を選んでゆきます。シナリオの舞台となる
世界や、アドベンチャーが行われる場所をよく考えながら、必要になりそうな装備を
選んで下さい。このとき、武器や防具はとりあえず除きます。
 ここでは、このような装備を「シナリオ装備」と呼ぶことにしましょう。シナリオ
装備を選んだら、同じようにTLや重量、価格を表にします。
 さらに、シナリオ装備には、「実は全く必要ないが、何となく必要になりそうな気
がする」という装備もいくつか混ぜておいた方が面白いでしょう。(あまり沢山混ぜ
てはいけません)

 さらに、今度は武器や防具などの「戦闘装備」を選びましょう。

 武器ですが、レフリーが戦闘ルールに慣れていないのなら、とりあえずプレーヤー
ズ・マニュアルのP78「個人用弾丸射出武器」のうち「レボルバー〜サブマシンガ
ン」から幾つか選んでおき、あとはP75の「小型刀剣」を追加すればいいでしょう。
 防具は、はっきり言って「クロース」以外はほとんど必要ありません。ただし、リ
ストには、対レーザー防具である「アブラット」「リフレック」を入れておくとよい
でしょう。

 さあ、ここまでのリストを見ながら、どれを「支給する」か考えます。支給すると
いうのは、要するにPC達に購入させずに、シナリオの最初(または途中)で「この
冒険を始める前からの所持品」「宇宙船の備品」「パトロン(仕事の依頼人)が与え
てくれた」とかいった理由で手に入れさせるということです。
 支給品はリストから消して、「支給品リスト」としてまとめます。

 舞台となる世界のTLや治安度の制限に引っ掛かったり、高価で購入できそうにな
かったりする装備で、シナリオを進める上でPC達に与えてやりたいと思うものは、
支給してしまえばよいでしょう。(武器、乗物、宇宙服、薬品、など)

 支給品を除いて残った装備のうち、あまりにも高価なもの、あまりにも舞台となる
世界のTLや治安度とかけ離れているもの、その他の理由により購入出来そうにない
ものを削除します。(TLが1〜2高いくらいなら、輸入品として購入できる可能性
があります)

 ここまでで残った装備(汎用装備、シナリオ装備、戦闘装備)をまとめて一つのリ
ストにしましょう。これで出来上がりです。これを「支給品リスト」と共にプレーヤ
ーに配れば、装備の購入は結構スムーズに進みます。


第38回

ステップ2:シナリオの詳細化

 シナリオ作成の際に一番時間をとる面倒な作業は、マップを用意することかも知れ
ません。出来ればマップなど用意しないで口で説明するだけで済ませてしまいたいと
ころですが、そういうわけにもいきません。少なくとも戦闘が発生する場所について
はマップが必要でしょう。
 なぜなら、メガトラベラーの戦闘ルールはマップ(ヘックス、又はマス目)を使っ
て解決することを想定しているからです。

 戦闘解決に限らず、セッションを進めるに当たってマップは非常に有効です。口で
説明するよりマップをさっと見せた方が、ずっと効果的に位置関係などの情報を伝え
ることが出来ますし、舞台のリアリティを格段に増すことにもなります。

 ですから、なるべく楽をして簡単にマップを用意するコツをつかむことが大切だと
いうことになります。

 さて、マップですが、まず縮尺によって次の5種類に大別してみましょう。


・星系規模のマップ

 一つの星系内の惑星の配置、軌道などを描いたマップです。もし「ナイトフォール」
をお持ちでしたら、P89以降をご覧下さい。そこに示されている「星系全図」や、
「星系中心部の軌道図」がこれに相当します。

・惑星規模のマップ

 大陸の構成、主要都市の配置など、惑星規模の地形を描いたマップです。「ナイト
フォール」のP89以降における「地表図」がこれに相当します。

・都市規模のマップ

 都市の大まかな構造(住宅地区、工場生産地区、ビジネス地区、研究地区、公園、
歓楽街、スラム街、宙港街・・・)と、流通網(道路、鉄道路線、船舶航路、航空路、
地下通路、電力網、下水路、・・・)を描いたマップです。
 「ナイトフォール」のP11の地図がこれに相当します。(はっきり言ってP11
の地図は得られる情報が少なすぎて役に立ちませんが・・・)

・建物規模のマップ

 1ブロック程度の範囲に入っている道、建物、施設、その他を描いたマップです。
15mマスで描くと戦闘などの際に便利でしょう。
 「ナイトフォール」のP75のマップがこれに相当します。(これは、あまりにも
特殊なマップですが・・・)

・フロア規模のマップ

 建物内の構造をフロア単位に描いたマップです。1.5mマスで描くと戦闘などの
際に便利でしょう。


 さらに、星域図や宙域図もマップの一種ですが、これはスタートセットに付属して
いる「スピンワードマーチ宙域図」や、「ナイトフォール」に付属している「マッシ
リア宙域図」等をそのまま使えばよく、レフリーが用意しなければならないことはほ
とんどないので、ここでは省略します。


 さて、これらのマップを全て用意しなければならないシナリオは、まずないと言っ
てよいでしょう。
 普通は、PC達が立ち寄りそうな場所(中でも、特に戦闘が起きそうな場所)につ
いて「フロア規模」のマップを用意しておくだけで充分です。

 PCが立ち寄りそうな場所としては、次のようなものがあります。

 ・宙港、および付随施設
 ・宙港街、歓楽街(特に酒場)
 ・商店街、大規模店舗(デパート等)
 ・トラベラー協会施設
 ・偵察局基地施設、海軍基地施設
 ・地元の有力貴族の屋敷
 ・宿泊施設(ホテル等)
 ・図書館、データ端末施設
 ・駅、バス停、タクシー乗り場
 ・役所、政府関係施設
 ・病院、医療施設
 ・企業、ビジネス施設
 ・大学、研究所、研究施設
 ・建築現場
 ・公園、レジャーランド、博物館、動物園、教育施設
 ・住居、アパート、マンション

 これらの場所について、全てマップを用意するのは無茶というものです。
 では、どうすればいいのでしょうか。


第39回

ステップ2:シナリオの詳細化

 前回、全てのマップを用意する必要はなく、多くのシナリオでは「フロア規模」の
マップを用意すれば充分だと述べました。しかし、「フロア規模」のマップを用意す
るだけでも、実はかなり大変な作業が必要です。

 現実的に考えて、一つのシナリオのために用意する詳しいマップは1枚〜2枚程度
が限度でしょう。それ以上のマップを用意するくらいなら、もっと別なことに手間を
かけた方がよいと思って下さい。

 では、マップを用意していない場所にPCが立ち寄り、そこで戦闘(に限らずキャ
ラクターの位置関係が重要になるシーン)が発生したときはどうすればいいのでしょ
うか。

 簡単なことです。おもむろに白紙を取り出して、その場でとっさにアドリブでマッ
プを描くのです。そして、そのマップ上にキャラクターを示すコマを配置すればOK
です。
 このとき、アドリブだということをプレーヤーに悟られてなりません。
「プレーヤーに不安を与えないために、レフリーはどんな場合でも自信ありげな態度
を取る」というのは鉄則ですが、特にアドリブ処理をしているときは尚更のこと自信
と余裕にあふれた態度をとるように気をつけて下さい。

 と言っても、アドリブで、それも自信と余裕にあふれた態度でマップを描くなんて
とても無理だと思えるかも知れません。
 しかし、これは誰にでも可能なことです。ただ、このためには日頃の努力が必要で
はあります。

 では、アドリブでマップを描くための訓練について解説してみましょう。

 まず試しに、白紙を広げて、あなたにとって馴染みのある場所(現在いる場所は除
きます)の見取り図を記憶に頼ってさっと描いてみて下さい。職場でも学校の教室で
も喫茶店でも構いません。脳裏にその場所の視覚的イメージを思い浮かべて、それを
見取り図として描いてゆくのです。

 描けますか? おそらく大雑把な構造は描けると思います。しかし、細かいところ、
例えば机や椅子の数と配置、壁に時計がかかっている位置、窓の大きさ等といった点
については記憶が曖昧で思い出せないのではないでしょうか。

 馴染みのある場所でもこうなのですから、あまり馴染みのない場所になると記憶だ
けで見取り図を描くのは困難です。これは実際にやってみるとよく分かります。

 そこで、手帳を一冊買いましょう。この手帳をどんなときも持ち歩いて、いろんな
場所の見取り図を書き込んでゆくのです。

 例えば、駅で電車を待っているときは、駅のホームの構造をメモしてゆきましょう。
どこに自動販売機が置いてあるか、椅子はどこにいくつ設置されているか、階段はホ
ームのどこら辺にあるか、などをメモに書き込んでゆきます。縮尺など気にする必要
はありません。誰に見せるわけでもありませんから、自分だけに分かるメモで構わな
いのです。

 他にも銀行に行けば銀行のロビーの見取り図を、本屋で立ち読みをする際には本屋
の見取り図を、ハンバーガーショップで並んでいる間に店内の見取り図を、という具
合に手帳にメモしてゆきます。最初は時間がかかるでしょうが、慣れてくれば素早く
見取り図を書き込むことができるようになります。

 さて、この訓練を積んでから、再び白紙を広げて、一度メモをとった場所について
記憶だけで見取り図を描いてみて下さい。今度はかなり楽に描けることと思います。
 これは、手帳に見取り図をメモするために、その場所を意図的に注意して観察した
からです。このために、その場所の構造が視覚イメージとして記憶に残っているとい
うわけです。

 さらに、記憶だけではよく描けなかった細かい部分について、今度は手帳に描いた
メモを見ながら描き足してみて下さい。メモに記入した点について、視覚イメージを
脳裏に思い浮かべながら描いてゆきます。
 どうですか? メモと記憶を合わせるとかなり細かいところまで見取り図が描ける
のではないでしょうか。

 これで、ゲーム中に場所の構造や位置関係を示す必要が生じたときに、手帳を取り
出してさらさらとマップを描くことができるわけです。メモのうちで、描こうとする
場所に一番近いと思われるものを選んで、それを使って上の要領で見取り図を描くわ
けです。

 しかも、この方法で描いたマップについては、細かい部分まで、まるで見てきたか
のようにリアリティあふれる説明が出来ることでしょう。なにしろ、あなたは本当に
その場所を見てきているわけですから。

 もちろん、ゲームの舞台に合わせてマップに細かい変更を加えることは必要です。
 この場合、機能的に似たような物に置き変えるのがコツです。

 例えば実際の飲み屋でTVが置いてある場所には、「壁面スクリーン」だの「3D
ホロビジョン」だの適当にSF的なものを配置すればいいわけです。逆にテックレベ
ルが低い舞台なら「ジュークボックス」とか「据え置き型ラジヲ」を置けばよいでし
ょう。もっとテックレベルが低い場所なら、この場所にはきっと「吟遊詩人」が静か
に座っているに違いありません。

 他にも、公衆電話を「公衆データ端末」に、エレベータを「反重力シャフト」に、
警備員を「ガードロボット」に、という具合に実際の場所にあるものを安直にSF的ガ
ジェットに変換しておきましょう。これだけで、SF的な舞台が出来上がります。

 機能的に似たような物に置き換えるというテクニックは、場所自体についても成立
します。
 例えば、トラベラー協会のマップを描くときには、駅にある「旅行案内所」のカウ
ンターをホテルのロビーに置いた見取り図を描けばよいのです。偵察局基地はなかな
か難しいところですが、思い切って適当な役所の見取り図で代用して下さい。

 最後に、マップを描く白紙についてですが、全くの白紙だと使いにくいので、マス
目が薄く印刷されているものを探してくるとよいでしょう。文房具屋さんに行けば、
2センチ四方のマス目が薄く印刷された大きな(テーブル一杯に広げられるくらい)
紙を売っています。これを買ってきて、適当な大きさにハサミで切って使いましょう。

 2センチ四方のマス目にはゲームのコマ(なければ6面ダイスをコマ代わりに使っ
てかまいません)がちょうど置けるので、これを1.5mマスとして扱うと便利です。


第40回

ステップ2:シナリオの詳細化

 メガトラベラーほど広大かつ詳細な背景世界を持ったRPGは稀です。せっかくこ
れだけ充実した背景世界「トラベラー宇宙」を舞台にしたシナリオを作成するのです
から、出来るだけシナリオ内容はトラベラー宇宙の動きと関わり合いを持たせるよう
にした方がいいでしょう。

 これは、プレーヤー達に「自分達が出くわした比較的ささいな事件が、背後で大き
な歴史の流れとつながっている」という感触を与えるためです。
 実のところ、メガトラベラーのように背景世界の動きを大切にするRPGをプレイ
する最大の楽しみは、このゾクゾクするような感触を味わうことだと言っても過言で
はありません。

 まだここら辺はピンとこないかも知れませんが、何度かプレイしているうちに自然
と分かるようになるでしょう。今はこれだけを覚えておいて下さい。メガトラベラー
のようなタイプのRPGにとって、背景世界はとても大切なものなのです。背景世界
と無関係なシナリオをプレイしていても、メガトラベラーの本当の楽しさは分かりま
せん。


 というわけで、まずはシナリオのストーリーを少しでもいいから「トラベラー宇宙」
と関係させてみましょう。

 まずストーリーを見直して、そこから「対立関係」を抽出して下さい。たぶんPC
達が引き受ける仕事(又は巻き込まれる事件)の背景には、個人や組織の対立がある
はずです。
 対立関係を整理できたら、後は簡単です。その対立する個人や組織の背後に、レベ
リオン(反乱)に参加している勢力がいることにするのです。

 例えば「政府の役人に依頼されて、ある政治家をテロリストの襲撃から守る」とい
うシナリオを考えてみましょう。ここで対立関係にあるのは政府とテロ集団です。
 ここで、この政府がデュリナーを支持していることにして、テロ集団の背後にはル
カン帝国の秘密工作員がいることにします。
 これで、このシナリオはトラベラー宇宙の流れと関連づけられたことになります。

 誰の背後にどの勢力を置くか。
 これを考える前に、何はともあれ「反乱軍ソースブック」に目を通しておいた方が
よいでしょう。ただし、全体に目を通す必要はなく、レベリオン(反乱)に参加して
いる勢力の説明だけ読めば結構です。

 目を通したら、最初に各勢力のイメージを考えてみます。

 トラベラー宇宙は「スターウォーズ」のような勧善懲悪の単純な世界ではありませ
んから、どの勢力が正義でどの勢力が悪かというような絶対的な基準はありません。
しかし、それでも大雑把に「悪玉」のイメージが強い勢力、「善玉」のイメージが強
い勢力というのはあります。

 最初のうちは、PC達のパトロンの背後になるべく「善玉」を置くか、少なくとも
PCの敵側の背後に「悪玉」を置いてやった方がいいでしょう。

 例えば、「ナイトフォール」を見て下さい。
 PC達は自由貿易商人のグループですから、テュケラ運輸を嫌いでしょう(と決め
つけるのも何ですが・・・)。ですから、PC達はテュケラ運輸の経営者であるマー
ガレット女帝に対して個人的には好感を持ってないはずです。
 しかし、強大かつ残酷なルカン軍をPC達の敵として設定したために、マーガレッ
トに対する評価は「ルカンよりは数段まし」ということになります。

 次に、PC達が出会う個人やグループの行動が、背後にいる各勢力の理念と整合し
ているかどうかを検討する必要があります。

 例えば、ソロマニ連合を支持する政府は、きっとソロマニ人中心主義に傾いている
でしょう。あるいはマーガレット女帝を支持する個人は、名誉や伝統といった価値観
よりも利害を重視した行動をとるはずです。

 その他に、歴史的な問題、地理的な問題、文化的な問題、宗教的な問題、も考慮す
る必要があります。

 次回は、レベリオン(反乱)に参加している主な勢力について、実際のシナリオで
どのように使えばよいかを解説します。


第41回

ステップ2:シナリオの詳細化

 では、レベリオン(反乱)における代表的な勢力について、それぞれ「実際のシナ
リオで使うコツ」のようなものを解説してみましょう。

 まず一般的に言えることは、「悪役に労力を注げ」ということです。これはRPG
のシナリオを作成するときの鉄則だと言っても過言ではありません。
 実のところ、PC達に「悪役玉に対する恨み」を持たせることが出来れば、それだ
けでセッションは成功したも同然なのです。

 そこで、以降では、各勢力を「いかにして悪役を作るか」という観点で解説するこ
ととし、次のような項目を示します。

 ・悪役度 : この勢力がどれくらい悪役に向いているかを5段階評価で示します。

 ・悪辣さ : この勢力を悪役に使うとき、どのような点を強調すればよいか。

 ・怨恨作成: PC達がこの勢力に恨みを持つように仕向けるためのコツ。

 ・悪人像 : この勢力を背景にした悪人のパターン


1.ルカン帝国(悪役度:5)

・悪辣さ

 複雑で現実的なトラベラー宇宙にあって、ルカン皇帝は珍しく純粋な悪玉です。
 無能で自己中心的で幼児的で残虐で・・・となれば、ルカンを敵にするだけでもう
迷わず勧善懲悪の単純なストーリーを作ることができます。実に便利な存在です。
 最近、翻訳版が出版された「ハードタイムズ」を読めば、ルカン皇帝の悪逆非道ぶ
りを詳しく知ることが出来ることでしょう。

・怨恨作成

 レフリーが何もしなくても、敵の背後にルカン帝国があると分かっただけでPC達
は乗り気になってくれるでしょう。もしルカンに対する怨恨が不足していると思えば
PC達に災難とトラブルを思う存分に与えて下さい。そして、それらは全てルカンの
無茶な命令のせいにするのです。
 具体的な例は「ナイトフォール」をご覧下さい。

・悪人像

 背後にルカン帝国がいる場合、安心して漫画的な悪人を出すことが出来ます。特に
「権威をかさにきて弱者をいたぶる奴」「皇帝の命令だからと言って非道なことを平
気で行う奴」「自分より弱い者を迫害するのが大好きだという奴」といった、信念も
展望も野望もない、卑劣な悪人を出すチャンスです。


2.ソロマニ連合(悪役度:5)

・悪辣さ

 ソロマニ連合の場合、「人種差別政策」がポイントとなります。
 なにしろ、人種差別と人権侵害さえしていれば、悪役としての立場は約束されてい
ます。

・怨恨作成

 PC達はソロマニ人とヴィラニ人の混血でしょうから(少なくとも純血なソロマニ
人であることを示す証拠は持ってないでしょうから)、ソロマニ連合の息のかかった
政府の役人を通して、嫌がらせ、妨害、人権侵害、侮辱を与えてあげましょう。そう
すれば、PC達はソロマニ連合に敵対するグループであれば何でも支援してやろうと
いう気になるというものです。

・悪人像

 「人種差別思想を持つ権力者」と「狂信的かつ過激なソロマニ中心主義者」が2大
悪人パターンです。

 前者は、地方政府の高官からソルセック(ソロマニ秘密警察)の監視員に至るまで
地位や役職は様々ですが、要するに純血のソロマニ人でないという理由だけで弱者を
痛めつけている(しかもそれが正しいことだと思っている)奴です。

 後者は、ソロマニ中心主義にとっての障害物を暴力で排除しようとする単純で粗暴
な連中です。要人暗殺、爆弾テロ、無差別殺人などあらゆることを平気でやってのけ
るわけです。


3.宇宙海賊(悪役度:5)

・悪辣さ

 言うまでもなく、海賊は悪役にふさわしい反社会的な行為です。
 海賊をダーティヒーロー的なかっこいい存在として描いた物語もありますが、少な
くともトラベラー宇宙においては彼らは卑劣な犯罪者集団です。宇宙船、重要施設、
場合によっては一つの惑星自体、ともかく他非武装の相手を襲い、罪もない犠牲者を
惨殺し、資源や積荷を略奪するのです。
 もしシナリオの舞台としてデネブ領域、あるいはコリドー宙域やヴランド宙域を選
んだのであれば、海賊はきっとヴァルグル海賊でしょう。

・怨恨作成

 海賊の襲撃によってPC達に間接的な被害を与えて下さい。例えば「PC達が必要
とする物資が手に入らなくなる」「星系内の宇宙船運行が一時的に禁止され、PC達
は足止めを食らう」「PC達が購入する貿易品やチケットの価格がはね上がる」とい
った具合です。
 さらに、PC達が好感を持っているNPC(またはその家族)が海賊に襲われ虐殺
されます。
 これでPC達は海賊を退治するためなら協力しようという気になることでしょう。

・悪人像

 血も涙もない冷酷な人物を海賊のリーダーにするとよいでしょう。ただし、部下か
らは絶対的な信頼を得ており、非常に有能だというのがパターンです。
 その他、海賊像については「ハードタイムズ」に詳しいので、ご覧になって下さい。


第42回

ステップ2:シナリオの詳細化

 レベリオン(反乱)における代表的な勢力について、それぞれ「実際のシナリオで
使うコツ」の解説を続けます。


4.デュリナー(悪役度:4)

・悪辣さ

 デュリナーは真面目で情熱的で自己陶酔型で視野が狭く、そのくせ統率力と実行力
があるという、要するに思いつめると何を仕出かすか分からない迷惑なタイプです。

 こういう奴は「自分こそ正義だ」と信じているので、周囲の状況や他人の迷惑など
眼中にありません。

 「ハードタイムズ」時代、すでに実質的に帝国は滅びているというのに、あい変わ
らずデュリナーには「ルカンを打倒し皇帝の座を手に入れるのだ」という発想しかな
く、そのために極秘で大艦隊の建造を進めています。「このハードタイムズにおいて
他にやるべきことは色々とあるだろう」と言いたくなります。

・怨恨作成

 「打倒ルカン」とか「帝国再建」という大義名分のもとに一般大衆に犠牲を強いる
というパターンを使って下さい。
 例えば、PC達の船や財産が軍に徴発されそうになるとか、PC達が恩義を感じて
いるNPCを「ルカン帝国のスパイ」の嫌疑で射殺するとか、治安維持のためと称し
てPC達を逮捕監禁して1週間ほどほっておくとか、そういったトラブルを起こしま
す。
 そして、責任者がPCに言います。「これもデュリナー様がルカンを打倒し正式な
皇帝となるためのことだ。つまり、全ては帝国市民のためなのだ。多少の犠牲など止
むを得まい」
 これでPC達は、デュリナー許すまじ、という気になるでしょう。

・悪人像

 「自分だけが正義だと独善的に信じている」「視野が狭い」「そのくせ熱意と実行
力がある」という権力者が相応しいでしょう。本人には悪意はないのですが、何かの
計画や作戦を情熱的に推進するあまり、周囲における多大な迷惑や犠牲に気づいてな
いというわけです。



5.マーガレット(悪役度:3)

・悪辣さ

 マーガレットは今までに見てきた勢力に比べるとずっとマシな指導者ですが、善玉
に分類するには難があります。

 第1に、彼女はトラベラーにおける伝統的な悪役である「テュケラ運輸」のボスで
す。

 第2に、彼女は身分、富、名声に恵まれた貴族であり、貧しい庶民に対する共感や
同情心が欠落しています。
 例えばハードタイムズ末期に「多くの人々が失業者、難民、あるいは実質的に奴隷
となっていることをどう思うか」と聞かれたマーガレットは「働かざる者、食うべか
らず、という言葉があります。労働力が経済の発展に寄与せず無駄になっているのは
残念なことです」と驚くほど無神経な発言をしたというエピソードがあります。

 第3に、彼女は経済を偏重するあまり他のことに目が向きません。
 例えば、ある星がルカンの侵攻を受けそうだとして、防衛軍を派遣するかどうかを
「その星の経済価値は何クレジットに相当するか」といった観点で決定します。あな
たの故郷が経済的理由で見捨てられたとして、納得できますか?

・怨恨作成

 PC達が自由貿易商人であれば、「テュケラ運輸による嫌がらせ」というのが伝統
的な手法です。ブローカーを脅してPC達との取り引きを止めさせるとか、PC達が
見つけた「おいしい貿易品」の売買契約に対して違法だとか何とか難癖をつけて無効
にして横取りするとか。そしてテュケラ運輸の社員がPC達に「俺たちのボスはマー
ガレットだぜ。逆らわない方が身のためだな」とか言うわけですね。

 それ以外の手法としては、「貧しい虐げられた人々を見捨てる統治者。彼らの窮地
を知ったPC達は義憤に燃える」というのが便利です。マーガレットを支持する統治
者の発想だと「貧しい虐げられた人々は助けるに値する経済価値を持っていない」と
いうことになるわけです。

・悪人像

 やはり「弱い者、貧しい者、虐げられた者」の気持ちを全く想像できず、そういう
人々をあっさり見捨てる統治者、というパターンでしょう。
 こいつは、弱者について「自助努力不足」だと言い、戦争による犠牲者を「経済生
産力に換算するとXXクレジットになるが、これはYカ月で回復できる」などと評価
し、身分の低い者とは会見しないわけです。


第43回

ステップ2:シナリオの詳細化

 レベリオン(反乱)における代表的な勢力について、それぞれ「実際のシナリオで
使うコツ」の解説を続けます。

 積極的にか、それとも「他の勢力に比べればマシ」という程度に消極的にかはとも
かく、PC達は今回紹介する勢力を支持することになるでしょう。つまり、これらの
勢力は、まあ相対的に見て「善玉」ということになります。
 従って、今回は「悪役度」や「悪辣さ」といった評価は無しです。

6.ストレフォン

 「真の」ストレフォンの正体については、既にGDW社より「正解」が出されてい
ます。
 しかし、レフリーはこれについて知っている必要はありません。またプレーヤーが
正解を知っていたとしても気にすることはありません。各レフリーがこの「正解」を
採用するかどうかは自由なのです。

 その正体はともかく、ガシェメグ宙域のストレフォン皇帝は良き統治者だと言える
でしょう。(全ての勢力の中で最も保守的ではありますが)
 彼の(あるいは「それ」の?)勢力下の世界は、レベリオン勃発前の「帝国」と同
じ伝統的なやり方で統治されています。

 不幸なことに、これらの世界はルカンの焦土作戦(無法戦争)の犠牲になり、ハー
ドタイムズに打ちのめされ、略奪に抗う術もなく、やがてやってくる「大崩壊」によ
って息の根を止められる運命にあります。
 「悲劇」「宿命」「滅びの美学」といった雰囲気に酔いたいときは、ストレフォン
の勢力下にある星域を舞台にしたキャンペーンがよいでしょう。

 さて、ストレフォン勢力下にある星域を舞台とするシナリオですが、やはりここを
舞台とする以上、「ストレフォンの正体が判明するかも知れない」とPC達が期待す
る話をやるべきでしょう。例を挙げてみます。

 ・ストレフォン皇帝の侍医が誘拐された。秘密のうちに救出しなければならない。
  (侍医ならストレフォンの正体を知っているに違いない)

 ・ストレフォン皇帝のかつての親友(または忠臣)だった貴族が、彼に会うために
  ガシェメグ宙域までやってくる。PC達はこの貴族を護衛しなければならない。
  (親友や忠臣なら、今のストレフォンが本物かどうか見分けられるに違いない)

 ・「ストレフォン皇帝と名乗っているロボットを造ったのは私だ。そして、私はあ
  のロボットの作動を永久停止させるパスワードを知っている」と著名なロボット
  工学博士が発表した。彼に会ってそのパスワードを聞き出せば膨大な礼金を払う
  という依頼がPC達に舞い込む。

 しかし、なるべくなら「PC達は目的を達したが、ストレフォンの正体は解明でき
なかった」ということにしておくことをお勧めします。あっさり回答を出してしまっ
ては興ざめです。ストレフォンの正体というのは、旧トラベラーにおける「太古種族」
と同じくプレーヤーの好奇心と想像力をかき立て、冒険を生き生きとしたものにする
大切な「引き」なのですから。


7.ノリス大公

 レベリオンに勝者がいたとすれば、それはデネブ領域のノリス大公でしょう。

 今日ではよく知られているように、1126年に正式に任命されるまでの10年間、
ノリスは「大公」としての身分を詐称していました。しかし、そのことで彼を非難す
る人はほとんどいません。
 彼の卓越した指導力と、大公としての権力が揃っていなければ、デネブ領域が生き
延びることができなかったであろうことはまず間違いないからです。

 ノリス大公の手腕に加え「大裂溝」により帝国中心部から切り離されているという
地理的な条件のおかげで、デネブ領域(かのスピンワード・マーチ宙域を含む領域)
はレベリオンの戦火に巻き込まれることもなく、ハードタイムズの辛苦をなめること
もなかったのです。

 やがて「大崩壊」の波が大裂溝横断ルートに押し寄せてきたとき、無数の人々が命
がけでそれを阻止しようとしました。彼らは帝国がもはや助からないことを悟ってい
ました。たった一つ残された希望のために、彼らは命を投げ出したのです。
 彼らの犠牲は無駄にはなりませんでした。「大崩壊」の波はついに大裂溝を渡るこ
とができなかったのです。デネブ、スピンワード・マーチは生き延びました。

 デネブ領域、特にスピンワード・マーチ宙域を舞台にする場合、レベリオンのこと
を気にかける必要はありません。つまり、レベリオンやハードタイムズと関係なく、
「古きよき帝国時代」を背景として使いたい場合には、ここを舞台にするとよいでし
ょう。
 特に、旧トラベラーのシナリオをメガトラベラーで使いたい場合には、ここを舞台
にすることをお勧めします。



 今回で「トラベラー宇宙との関わり」に関する解説を終わりますが、最後に一つ。
トラベラー宇宙に関するプレーヤーの知識を当てにしてはいけません。

 普通のプレーヤーはトラベラー宇宙についてほとんど知りません。「ルカン」とい
う名を知っていればましなほうで、中には「帝国」が分裂して内乱状態になっている
ことすら知らない人だっています。

 背景世界を手短に、しかし的確に説明するのもレフリーとしての務めです。セッシ
ョンの最初に各プレーヤーがどれくらいトラベラー宇宙について知っているか確認し
知らない人には説明して、全員がセッションに必要な知識を持つようにして下さい。

 次回から「フレーバーの使い方」について解説します。


第44回

ステップ2:シナリオの詳細化

 「フレーバー」という用語は色々な意味で使われますが、ここでは「ストーリーの
進行や行為判定にほとんど影響しないが、臨場感を高め、雰囲気を盛り上げる目的で
使用されるもの」全てをフレーバーと呼ぶことにしましょう。このような意味のフレ
ーバとして代表的なものには、開催場所・小道具、語り口・状況描写、アイテム・エ
キストラ・背景設定、等があります。

 フレーバーに気を使うと、セッションのノリがぐんと違ってきます。

 学生時代に、修学旅行やクラブの合宿のとき、皆で怪談を話し合った経験はありま
せんか。そういうとき、ごくたわいもない怪談が、うまい話し手にかかると、思わず
背筋が凍りつくほど怖い話になるということがあったはずです。中には恐怖のあまり
泣きだす人すら出てきます。

 これは、フレーバーの活用がいかに人間の心理に強い影響を与えることができるか
を示すよい例です。そこで、怪談におけるフレーバーの活用法を分析し、RPGのセ
ッションへの応用について考えてみることにしましょう。

〔開催場所〕

 合宿における怪談が盛り上がるのは、夜中であること、静かであること、普段生活
しているのと違う場所(宿)であること、などの条件が大きく効いているのです。も
ともと心の中に不安が生まれるような条件が整っているわけです。

 しかも、怪談の名手は、さりげなく「そういえば、ちょうど今と同じ時刻に」とか
「ここと同じような宿に若い男女が泊まったんだけど、そのとき」といった類のセリ
フを口にします。人によっては、そのものずばり「この宿の中庭に大きな岩があるで
しょう。宿の人に聞いた話なんだけど、あれは昔ここが墓地だった頃に・・・」と切
り出したりします。

 すでにお分かりの通り、こういったセリフや設定は聞き手の不安を煽り、臨場感を
高める効果を持っています。「自分の身にも同じことが起きるかも知れない」という
恐れを聞き手に持たせることで、雰囲気は異様に盛り上がります。

 RPGのセッションにおいても、開催場所のセッティングについて少し気を使うべ
きでしょう。メガトラベラーのセッションは一般にシリアスな雰囲気で進めるべきで
す。周囲がワイワイうるさいと、シリアスな雰囲気を保つのは困難です。

 もちろん、コンベンションやクラブの例会などでは開催場所や開催時刻を選ぶこと
は出来ない場合が多いので、そういうときは仕方ありません。けれど、選択の余地が
あるのなら、なるべく静かで落ちついた場所と時間を選んで下さい。ややうす暗い方
がプレーヤーの集中力が高まるのでよいでしょう。(もちろんキャラクターシートが
見える程度の明るさは必要です)

〔小道具〕

 照明を消して蝋燭の明かりで怪談をやると、雰囲気抜群になります。蝋燭がゆらゆ
ら揺れ、その度に影が怪しくうごめく。それはもう、誰もが雰囲気に飲まれてしまい
どんな平凡な怪談にでも恐怖を覚えるようになります。

 この場合、蝋燭が雰囲気を高める小道具として使われているわけです。他にも怪談
の名手は周囲にある利用できるものは何でも小道具として使います。仏壇の位牌、壁
の染み(うす暗いと必ず人の顔に見える)、天井についた汚れ(子供の足跡に見えな
いか?)、蚊取線香の煙、正体不明の物音や動物の鳴き声、床や壁のきしみ・・・

 RPGのセッションの際に、マップやミニチュア・フィギュアを小道具として使う
人は多いと思います。こういった小道具を、実用本位ではなく雰囲気を盛り上げるフ
レーバーとして活用できないか考えてみて下さい。何も大袈裟なことをしなくてもよ
いのです。プレーヤーに見せる「手紙」に「打ち間違いを修正した痕」とか「涙で滲
んだ箇所」を作るとか、そういった工夫を考えてみようということです。

 マップも、単に必要な事項を明確に記入するだけでなく、例えば空白の「未探査地
域」とか、「第5次辺境戦争の際に破壊された旧宇宙港跡」とか、そういった「シナ
リオに関係ないが、雰囲気を高める要素」を入れておいた方がいいでしょう。

 これは戦闘用の室内マップも同じことで、壁やドア、家具といった戦闘に影響する
ものだけでなく、例えば「転がっている子供のおもちゃ」「床にこぼれたコーヒーの
染み」「机の上に並んでいるワークステーションと、接続ケーブルの束」などといっ
た要素を記入しておくことも大切です。

 後は、自宅で開催する場合など、CDラジカセを使ってBGMをつけるというのも
良い手です。特にセッション後半、緊迫したシーンやアクションシーンに相応しい曲
を選んでおいて流すと、映画のような劇的な盛り上がりを作ることも出来ます。


 次回は、最強のフレーバーと言ってよい「レフリーの語り口、状況描写」について
解説します。


第45回

ステップ2:シナリオの詳細化

 前回は「ストーリーの進行や行為判定にほとんど影響しないが、臨場感を高め、雰
囲気を盛り上げる目的で使用されるもの全て」をフレーバーと呼び、フレーバーのう
ち開催場所や小道具について解説しました。
 今回は情景描写におけるフレーバーについて解説しましょう。

 情景描写というのは、プレーヤーを感情移入させるために非常に大切なものです。
これを手抜きすると、何だかコンピュータRPGのような味気ないセッションになり
かねません。

 「宇宙船は無事に着陸した。君達は宇宙港にいる」
 「タクシーをつかまえてホテルに向かう」
 「よし、ホテルのロビーについた」
 「何が見えます?」
 「カウンターに女性が立っている。他には宿泊客が2〜3人いるだけだね」

 これでも確かにセッションは成立します。しかし、ちょっと工夫の余地がありそう
だとは思いませんか?

 こういうとき、情景描写に力を入れて下さい。それだけで臨場感が全然違ってきま
す。別に文学的な表現をしたり、長々と細かく解説する必要はないのです。ただ、次
の点を心がけるべきだと思います。


1.舞台が変わるときは、数秒間くらい黙想して、頭の仲で情景を想像すること

 例えばPC達が「宇宙港」に到着したら、レフリーは目をつぶって「空港」に自分
がいる情景を想像するのです。(空港に行ったことがなければ、大きな駅にいるとこ
ろを想像してもかまいません)
 そうやってイメージを脳裏に描くことが出来たら、次に進みます。


2.視覚情報だけでなく、他の感覚(特に聴覚・嗅覚)情報も示すこと

 例えば次のように各種の感覚で受け取る情報を想像しなければなりません。

  ・目に見えること:各航空会社のサービスカウンター、歩き回る警備員達、雑踏、
   各種店舗、大きな発着便掲示板

  ・耳に聞こえること:発着便のアナウンス、他の旅行者の会話

  ・鼻に匂うこと:香水、口臭、塗料、消毒剤

  ・皮膚で感じること:強すぎる暖房、ムシムシする湿気、吹きつけてくる風


3.描写の順番の基本は、触覚→嗅覚→聴覚→視覚

 1と2で想像した各種の情報をプレーヤーに伝えなければなりません。このとき、
原則として触覚→嗅覚→聴覚→視覚という順番で描写してゆくのです。
 これは小説などでよく見られる手法です。

「外に出たとたん、熱気が押し寄せてきた。暑かった。溶けたアスファルトの匂いが
鼻をつく。ぶーんという羽音を立てて何かの虫が耳元を飛び回っていた。追い払おう
としたとき、ふと、前方に大きな黒いジープが停まっていることに気づいた」

といった具合です。

 宙港の様子なら、こんな感じになります。

「床は、何だかふわふわした、奇妙な感触の敷物で覆われている。むっとするような
動物の体臭が漂ってるな。頭上のスピーカーが雑音まじりの大きな音で発着便の案内
を何度も何度も繰り返している。聞いていると頭が痛くなりそうだ。すぐ後ろで動物
の唸り声がしたので驚いて振り替えると、ワニのような爬虫類を抱いた若い女性が通
り過ぎてゆく。周囲には沢山の人が忙しそうに歩いているが、なぜかみんなペットを
連れている。どれも爬虫類だ。宙港内にはペットショップがいっぱいあるぞ」


4.情景描写には、奇妙な、エキゾチックな点を1つ混ぜておくこと

 プレーヤーを旅の雰囲気に引き込むコツは、情景描写の際に奇妙な点を1つ混ぜて
おくことです。これが、好奇心を刺激し、エキゾチックな雰囲気を作りだし、異世界
に旅をしているという実感を生み出すのです。

 例えば、上のように宙港の描写をすれば、きっとPC達は(プレーヤー達は)奇妙
に思うはずです。なぜ、この世界の人々は爬虫類を連れて歩いているのでしょう?
PC達は周囲の人に理由を尋ねてみるかも知れません。たぶん答えは「当たり前じゃ
ないか。みんなそうしてるんだ」とかいったものでしょう。(実のところ、レフリー
は深い意味など考えてないのです)

 このように奇妙な点を1つ混ぜておくだけで、この宇宙港の光景は印象深いものと
なります。と同時に、このようなエキゾチックな習慣に触れることで「旅の実感」と
いうものが湧くのです。

 慣れるとこういう「奇妙な点、エキゾチックな習慣」をアドリブで思いつくことも
できますが、最初のうちはシナリオを作成する時点で決めてメモしておくとよいでし
ょう。

 ただし、「外出の際は爬虫類を連れてゆく」といった習慣は、ちょっと突拍子もな
さすぎて冗談になる恐れがあります。
 そこで、まず海外旅行ガイドの類を買ってきて、色々な国の生活習慣に関する情報
を得て下さい。そして、それを誇張するのです。


第46回

ステップ3:シナリオの表記

 いよいよシナリオ作成も最後の段階までやってきました。

 ここまでの解説で、納得のゆくシナリオが作成できたことと思います。後は、それ
を「紙に書く」という仕事が残っているだけです。

 まず最初にお断りしておきますが、プロが作成する製品としてのシナリオでもない
限り、個人が自分で作成したシナリオをどんな風に紙に書こうが、それは勝手だとい
うのが大原則です。各人が、自分で最も気に入ったやり方で表記すればいいのです。

 ここで解説しようと思うシナリオ表記方法は、「分かりやすい」とか「読みやすい」
といった点を狙うものではありません。自分で書いたものを自分で読むのですから、
たとえ他人には意味不明な記述でも、自分が分かりやすいと思った方法で表現すれば
いいだけのことです。

 ただ、「レフリー作業がやり易い」表記方法のコツというものはあります。ここで
は、このような表記について解説します。試しに、これから説明するやり方でシナリ
オを書いて、レフリーしてみて下さい。おそらくレフリー作業を行う上での精神的プ
レッシャーが随分と減るものと思います。


 それでは、レフリー作業し易いシナリオ表記とはどのようなものでしょうか?
 一般に、次のような特徴を持っているシナリオ表記が、レフリーし易いと言われて
います。

  ・ストーリーの分岐、シナリオ全体における各シーンの位置づけ、各シーン間の
   関係などが、一目で把握できるようになっていること。

  ・各シーンのアドリブ変更や、予期せぬハプニングを、他のシーンやシナリオ全
   体の流れに影響しないように処理できるようになっていること

  ・あるシーンを処理しているときは、特定の紙だけを見ていればよいようになっ
   ていること


 簡単に言うと、「レフリーがパニックを起こしているときに頼りになる」ような表
記をしておけ、ということです。

 実際にレフリー作業をしてみるとよく分かりますが、セッション中のレフリーの頭
は、実のところパニック状態にあります。
 プレーヤーから見ると、レフリーは「どんなときにも落ちついて、余裕を持ってセ
ッションを進めている」ように見えるかも知れませんが、そういう風に見せることも
レフリーの仕事の一つなのです。実際には頭の中がパニックを起こして空白になって
いようと、演技力と厚かましさを使って(特に後者)、落ちついているように見せか
けているだけなのです。

 例えば、アドリブで何かを処理しようとしたときに「う、こんな変更をして後で困
らないか?」という疑問が脳裏に浮かんだら、もうパニックです。必死で後のシーン
のことを思い出そうとしてシナリオに目を通そうとします。プレーヤーは、NPCの
返事を待っています。場を持たせるために、すぐに何か答えなければなりません・・

 こんなとき、すばやく「現在のシーンに対応する紙」に目を通すと、現在シーンが
どれくらい重要な場面で、変更するならどのような条件を満たせばよいのかが明記さ
れていれば、どんなに心強いか想像してみて下さい。

 次回は、このようなシナリオ表記方法について具体的に解説します。


第47回

ステップ3:シナリオの表記

 それでは具体的にシナリオの表記法について解説してゆくことにしましょう。

 「ナイトフォール」をお持ちの方は、これに目を通してからこの解説を読むと理解
し易いでしょう。


1.ナゲット作成

 まず、ストーリーをいくつかの単位に分解します。

 この単位は色々な名前で呼ばれます。例えば「幕」「シーン」「場面」「セグメン
ト」「パート」といった具合です。ここでは、メガトラベラーの慣例に従って、あえ
て「ナゲット」という呼び方をしておきましょう。
 分解の仕方にも1階層、2階層、多階層など色々ありますが、難しいことを考えず
ここは単純に1本のシナリオを5〜6個のナゲットに分解することにして下さい。

 1つのナゲットは、何らかの意味で独立した場面に対応します。具体的には、シナ
リオ「ナイトフォール」を見て下さい。ここで「場面」と呼ばれているものが、原文
でいうところの「ナゲット」です。

 ナゲットに分解したら、個々のナゲットに名前を付けて下さい。分かりやすく印象
的な名前の方がよいでしょう。再び「ナイトフォール」をご覧下さい。「脱獄」とか
「対決」、さらに「クリスタルの在りか」「見つかった!」といった名前が付けられ
ていますね。このように、どういう場面だったか自分で思い出せるような名前を付け
るとよいでしょう。
 ただ、以降では説明の都合上、ナゲットの名前はABCで表すことにします。


2.ナゲット相関チャート作成

 シナリオをナゲット相関チャートという形式で視覚的に表現します。

 まず、ストーリーの本道を1本道のチャートで表して下さい。

  A→B→C→D

 次に、PCの行動や判断で大きくストーリーが分岐するのなら、新たなナゲットを
追加してチャートに示します。

  A→B→C→D  とか  A→B→C→D  とか  A→B →C→D
    ↓            ↓ ↑          ↓↑
    E→F          E→F         E、F、G:任意

 左のチャートは、ナゲットBでのPCの行動や判断によっては「ABEF」という
違うストーリー、違うエンディングを迎えるというシナリオです。

 真ん中は、ナゲットBでの選択肢によってはEFという「脇道」を通ってから、次
のナゲットCに進みます。しかし結局はC→Dという道を進むことになります。

 右は、ナゲットBでの選択肢が色々あり、それぞれに対応するナゲット(E、F、
G)があります。EFGを通った後、シナリオはナゲットBに戻り、そしてナゲット
Cへと進みます。なお、「任意」というのは、EFGはどれか1つが実現してもよい
し、いくつか連続して実現してもよい、順序は重要ではない、という意味です。

 もちろん、ここに示したのは単なる例です。他にも色々なチャートが考えられます
し、「任意」ではなく「どれか1つだけ」というケースもあります。自分で一番分か
りやすいと思うチャートを書いて下さい。シナリオを読むのは自分だけなのですから
必要以上に厳密に書式を守ることはありません。

 ただし、チャートを複雑にしないように気をつけて下さい。このチャートの目的は
「一目でシナリオ構造を把握できる」という点にあるのですから、網の目のようにな
って何だか分からないチャートを作っては無意味です。

 というわけで、チャートに出てくるナゲットは、出来るだけ10個以内にして下さ
い。もちろん、PCの行動や判断には無限のバリエーションがありますから、処理す
る(かも知れない)場面を書いてゆけばどんどんナゲットが増えてゆきます。
 しかし細かいバリエーションは「ナゲット内で処理する」ことにして、大きく処理
が分かれる場面だけをナゲット化するようにします。

 例えば、情報収集シーンで、「公衆データ網にアクセス」「図書館で新聞を閲覧」
「Mr.某と会見」・・・という具合にどんどんナゲットを作ってはいけません。単
に「情報収集」というナゲットを作ればよいのです。どういう手段によって情報を得
るかは、このナゲット内で処理する問題だということにするのです。

 慣れればチャートの作成は簡単なことです。「ナイトフォール」も参考にして、ど
んどん作ってみて下さい。


 次回は、個々のナゲットを紙に書くやり方について解説します。


第48回

ステップ3:シナリオの表記

3.ナゲットの表記

 いよいよ、個々のナゲットを紙に書きます。
 ナゲットに対応する紙を「ナゲット用紙」と呼ぶことにしましょう。

 このとき大切なのは、次の2点です。

  ・1つのナゲットについてナゲット用紙1枚を対応させること

  ・そのナゲットをプレイしているときにレフリーが必要とする情報を全てナゲッ
   ト用紙に書いておくこと

 必要とする情報をナゲット用紙に全て書いておくということは、あえて冗長な表記
をすることになります。例えばNPCのデータを表記するなら、そのNPCが登場す
る可能性がある全てのナゲット用紙に同じデータを記入するのです。

 これは紙の無駄に思えるかも知れません。NPCのデータを1枚の紙に全てまとめ
て「NPCシート」とした方が分かりやすいのではないでしょうか?

 確かにシナリオを読む上ではその方が分かりやすいのですが、実際にセッションを
行うときにはナゲット用紙を独立させておいた方が良いのです。
 前にも言ったようにセッション中のレフリーはパニックを起こしています。このと
き「そのシーンに対応するナゲット用紙に全て必要な情報が書かれている、他の紙は
見なくてよい」と確信できることは非常に嬉しいことなのです。

 NPCのデータはNPCシートに、PCに与える情報は情報シートに、という具合
にコンパクトにまとめるやり方だと、パニックを起こしたときにどの紙に何が書いて
あったか分からなくなって混乱する可能性が高いのです。これは実際に経験すると嫌
というほどよく分かります。

 ですから、冗長性は気にしないでナゲット用紙には必要な情報を全て書きましょう。
 この文章を読んでいる人はたぶんパソコンかワープロをお持ちでしょうから、同じ
データを何度も複写するのは簡単なことでしょう。

 ナゲット用紙には、まず次のような情報を書いて下さい。

  ・ナゲットの名前
  ・このナゲットの目的、ナゲットをクリアするための条件
  ・ナゲット相関チャート、他のナゲットとの関係

 ナゲットの目的というのは、例えば「PC達は何々と戦闘する」、「PC達はどこ
そこに行く」、「PC達は何々を知る」といったことです。このとき、そのナゲット
を終了する条件、例えば「戦闘が終了する」、「何々という情報を得る」といったこ
とを明記しておきます。この条件が満たされれば、そのナゲットの処理を終わって他
のナゲットに移動するわけです。

 ナゲット相関チャートは、既に説明したチャートをそのまま書きます。ナゲット用
紙に対応するナゲットに印を付けておくとよいでしょう。(つまり現在位置を示すわ
けですね)

 そして、他のナゲットとの関係をまとめます。他のナゲットとの関係とは、次のよ
うな感じのものです。要するにゲームブックの選択肢みたいなものです。

  ・PC達が勝利し、敵の生存者がいなければ → ナゲットCへ
  ・PC達が勝利し、敵の生存者を捕虜にすれば → ナゲットDへ
  ・PC達が敗北し、敵に捕らえられた場合 → ナゲットEへ

  ・PC達がXという情報を得たら → ナゲットCへ
  ・PC達がXではなくYという情報を得たら → ナゲットDへ
  ・PC達が情報を得ずに出発すると決めたら → ナゲットEへ

 ナゲットの目的と、他のナゲットとの関係を書いておくのは、実際にレフリー作業
を行うときに頭を使わなくて済むようにするためです。ですから、細かい条件につい
てもちゃんと忘れないように記入して下さい。
 例えば、上の例で「戦闘が終了する」というのをナゲットのクリア条件にしました
が、実際には「応急手当」とか、「死体の隠蔽」とか、そういうナゲットを終了する
前に処理する可能性があることはちゃんと考えて書いておきましょう。

 ナゲット間の関係については、「PC達がどんな行動をとっても、どれか1つのナ
ゲットに移動して(またはナゲットを移動しないで)、そのナゲット内で処理する」
ことが出来るようにあらかじめ考えておいて下さい。

 ここが、PC達を自由に行動させつつ、ちゃんとシナリオを管理するコツです。
 少なくとも最初のうちはナゲット間の関係を決して崩さないようにして、PC達の
予定外の言動についてはナゲット内で柔軟に処理するようにしましょう。

 これは、ちょうどダンジョンタイプのシナリオの考え方と同じです。ダンジョンの
各部屋で起こる出来事は柔軟に処理する(各シーンでPC達は自由な行動がとれる)
が、ダンジョンの構造は変化させない(PC達はダンジョンの構造に沿って進んでい
くしかない)ようにするのです。
 このようにすることで、一般のシナリオをダンジョンシナリオ並に容易に管理する
ことが可能になります。

 レフリー作業をうまくやれば、プレーヤーはほとんど行動の制約を感じないのに、
レフリーから見るとPC達の行動にダンジョンシナリオと同じくらい強い制約を与え
ている、というセッションが可能になります。要するに、行動の制約を「ダンジョン
の壁」という目に見える形にするのではなく、「ナゲット間の関係、ナゲット相関チ
ャート」というプレーヤーに見えない形にしたことで、プレーヤーは壁の存在を意識
しなくて済むようになるわけです。

 次回は、ナゲット用紙の書き方について続けます。


第49回

ステップ3:シナリオの表記

3.ナゲットの表記(続き)

 ナゲットの基本情報の記入が終わったら、ナゲット用紙に次のような情報をメモし
ます。

  ・必要なデータ(NPC、乗り物、武器、経過時間、金額・・・)

  ・必要な図表(マップ、見取り図、遭遇表、情報表、タイムチャート・・・)

  ・このナゲットを処理するために必要になるルール概要メモ

  ・状況描写、NPCのセリフ

  ・その他メモ

 前述したように、「そのナゲットを処理する際に必要な情報は全てナゲット用紙に
記載しておく」という原則に従って、そのナゲットで必要となるデータや図表を全て
書いて下さい。

 さらに、ナゲット内の処理に使うルールで自信がないものはメモを書いておきまし
ょう。例えば、通常の銃器戦闘ルールは問題ないものの、「巻き添え命中」の処理に
自信がない場合、巻き添え命中のルールをメモしておくのです。

 そんなものはルールブックを素早くめくればよい、と思うかも知れません。しかし
実際にやってみると中々そうは簡単にルールブックの必要箇所をさっと捜し出すこと
はできないものです。特に、まだルールを完全に把握していないときはそうです。

 また、状況描写やNPCのセリフは必ずメモしておきましょう。

 シナリオ作成時にせっかく印象的なセリフを思いついたのに、本番でセリフをど忘
れしてしまったというのはよくあることです。また、周囲の状況を説明するのをうっ
かり忘れていて、プレーヤーを混乱させてしまうということもありがちです。

 用意したセリフが無駄になったり、プレーヤーが混乱するくらいならまだましです。
下手をすると、大切な情報を伝え損なったとか、プレーヤーが状況をひどく誤解した
(例えば、レフリーが夜だということを伝え忘れたために、プレーヤーは昼間で明る
いと思って行動した、など)ためにプレーヤーとレフリーの間でトラブルが起こると
いうこともあり得ます。
 このような問題を未然に防ぐため、そのナゲット内で使う描写やセリフをきちんと
書いておくのです。


 以上でシナリオ表記は完成です。いつでもレフリー作業に取りかかることが出来る
わけです。

 いくつか補足をしておきましょう。

 必要な情報を全てナゲット用紙に書いておくというやり方をしていると、情報が多
すぎて1枚の紙に入りきらないことがあります。このようなときは、紙を追加して、
それらをホッチキスでしっかりと留めて下さい。そして、このように束ねた数枚の紙
を「ナゲット用紙」として扱うのです。

 実際にレフリーを行うときは、現在処理しているナゲットに対応するナゲット用紙
を手に持っておきましょう。これによって、常に自分の「現在位置」を把握すること
が出来ます。
 ナゲット用紙には、このナゲットを処理するのに必要な情報が全て書かれているわ
けですから、他のナゲットに移動するまでは別の紙を取り上げる必要はないのです。

 レフリー作業を行っているときは、ナゲット相関チャート、及び現在ナゲットの基
本情報(目的、クリア条件、他のナゲットとの関係)だけを頭に入れておきます。

 何か予想外の状況が起こったときは、次の順序で対応を考えるのです。このように
することで、どんな事態にも余裕を持って(あまりパニックを起こさずに)対応する
ことが可能になります。

  ・現在ナゲット内で処理するか、それとも他のナゲットに移動してから処理する
   かを決める。

  ・処理を行う場所(ナゲット)が決まったら、そのナゲット内でどのように処理
   するかを決める。


第50回

 「メガトラの始め方」も、いよいよ最終回です。

 連載を始めてから16カ月、第2部を開始してから1年が過ぎてしまいましたが、
何とかここまで来ることができました。長期連載は始めての経験なので、色々と悩ん
だこともありましたが、まずまず連載開始当初に予定していた内容を書き切ることが
出来てほっとしています。

 「メガトラの始め方」は、メガトラベラーというRPGを題材にしてはいますが、
第1部における「ルールの読み取り方」、第2部における「シナリオの作り方」は、
他のRPGにも応用が効く汎用的な内容です。メガトラベラーに興味がない方にも、
きっと参考になると信じています。


 今回は最終回ということで、この連載を通じて一番言いたかったことを書きましょ
う。それは、「労力を惜しむな」ということです。
 なんか校長先生の訓示か、スポーツ根性物のセリフみたいですけど。


 どうもRPGの初心者の一部には、「ルールやデータが多いRPGは上級者向けな
ので避ける」とか「背景世界の情報が多いRPGは勉強しないとプレイできないから
遠慮しておく」とかいった傾向が見られるようです。

 しかし、私は言いたい。
 初心者こそ、最初はきちんとした背景世界や多くのデータが用意されているRPG
を選んでじっくりやり込め、と。

 自分で自由に背景世界を作りたいと思う人もいるかも知れません。
 しかし、魅力的な背景世界を作るというのは、天才的な才能か、長年の努力を必要
とする作業です。正直に言って、普通の人が作る背景世界は、薄っぺらで安直なもの
で、本人は気に入ってるのかも知れませんが、他人から見ると何の魅力もないという
ものになります。

 それでも1回や2回のプレイは楽しめますが、何回もプレイしているとすぐに飽き
が来るでしょう。その後は変則プレイ(コミックや小説のパロディ、ファンタジーR
PGでSFをする、無茶苦茶にレベルの高いPCでプレイする、など)を数回やって
それで飽きてしまい、RPG自体を止めてしまう・・・。

 そういう道を辿る人がいるかと思うと、私は悲しい。

 RPGは奥の深い、長続きする趣味だと思います。できるだけ多くの人に、この楽
しみを味わって欲しい。そのために、「労力を惜しむな」。

 ルールの理解に労力をかけて下さい。
 ルールの行間には、デザイナーの意図が密かに、あるいははっきりと、書かれてい
ます。それを読み取って理解するように努めて下さい。理解したと思っても、何度か
プレイした後でもう一度読み直してみて下さい。きっと新たな発見があるはずです。

 背景世界の勉強に労力をかけて下さい。
 背景世界の情報1つ1つには、「こういうプレイを期待しているぞ」というデザイ
ナーからのメッセージが含まれています。それを読み解いて下さい。その背景世界の
住人になったつもりで生活を想像して下さい。シナリオのテーマになるような冒険で
はなく、普通の人が営む日常生活を脳裏に浮かべられるようにして下さい。

 努力を止めないで下さい。
 プレイの前に、必ずルールや背景世界を読み直して下さい。プレイが終わったら、
反省点をまとめ、改善の努力をして下さい。

 なぜ、労力を払うのか。
 それは、労力を注げば注ぐほど、得られる楽しみ、喜びが大きくなるからです。

 労力を払わないなら、RPGはすぐに飽きがくる遊びに過ぎないでしょう。労力を
惜しまず、努力を続けるなら、RPGから得られる楽しみに限界はありません。これ
は本当です。

 ですから、労力を惜しまないで下さい。初心者は、ルールシステム、背景世界設定、
各種データが充実し、サポートがしっかりしたRPGを選んで、それを徹底的にやり
込んで下さい。
 そうして、ルールの読み方、背景世界の読み方、シナリオの作り方が身についたら、
他のRPGにも手を広げてみましょう。きっと「これだ」と思うRPGが見つかるに
違いありません。そうしたら、今度はそのRPGについて同じようにやり込むのです。

 きっと、RPGが一生止められない大切な趣味になっていることに気づきますよ。

 これで、「メガトラの始め方」の最初に次のように言っておいた意味が分かること
と思います。

>「これを読めば、苦労しないで楽にメガトラの面白さを味わうことが出来る」など
>とは思わないで下さい。ただ、「途中で挫折しないで、最終的に、払った苦労に十
>分に見合う楽しみを獲得する」可能性が高い道を示すことは出来るだろうと思って
>います。

 いかがでしょう。この16カ月の連載で、このような道を示すことが出来たでしょ
うか?

馬場秀和


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