入門TNE

 1993年。名作「トラベラー」が、最新最強のSF−RPGとして復活。

 1994年。FRPGM 翻訳物RPG会議室に「新時代紀行」連載開始。

 「新時代紀行」は、新トラベラーことTNE(Traveller : The New Era) の解説です。
 このファイルは、その第1部「入門TNE」を編集し、まとめたものです。さらに、ファイルの最後には「新時代紀行:愛読感謝スペシャルプレゼントのお知らせ」が付いています。どなた様も、最後までごゆっくりご鑑賞下さい。

馬場秀和


目次

パート1:メガトラの終わり方

 FRPGM の翻訳物会議室に1993年 5月〜 6月に短期連載された「メガトラの終わり方」
 をまとめたものです。「旧トラベラー」「メガトラベラー」の背景世界となってい
 た「帝国」の終焉を解説します。

 メガトラベラーをご存じの方は、まずこれを読んでから入門TNEに進むことをお
 勧めします。
 一方、メガトラベラーをご存じない方は、パート1は飛ばして、入門TNEから読
 み始めるとよいでしょう。

パート2:入門TNE

 1994年最大の話題作「新時代紀行」第1部「入門TNE」を大幅な加筆・修正の上
 まとめたものです。

 なお、1995年には、「新時代紀行」第2部「実習TNE」の連載が予定されていま
 す。ご期待下さい。




パート1

第1回:メガトラの終わり方

 既にこの会議室でも報道されている通り、海の向こう米国ではメガトラベラーがつ
いに終わってしまいました。

 引き続きGDW社からはTraveller : The New Eraが出版されサポートされますが、
システム及び背景世界はメガトラベラーとは劇的に異なっており、これは新しい別の
ゲームだといってよいでしょう。

 つまり、古典RPG「トラベラー」さらにその更新版というべき「メガトラベラー」
の15年に渡る歴史にとうとう終止符が打たれたのです。背景世界である「帝国」の
崩壊と共に。

 「メガトラの終わり方」では、メガトラベラーがどのようにして終わったのか、
「帝国」がどのように崩壊したのか、これについてご紹介してゆきます。


第2回:デュリナーの最後

 レベリオン(反乱)を引き起こし帝国を分裂させた直接の原因は、デュリナーが放
った4発の銃弾でした。そして、皮肉なことに、レベリオンを終わらせ帝国を崩壊さ
せた直接の原因もまた、デュリナーだったのです。


・最後の決戦

   「私の他にヴィジョンを持っている者はおらぬのか。ストレフォン皇帝はヴィ
   ジョンを失っていた。ルカンは私利私欲で動いている。ノリスは時代遅れの頑
   固者に過ぎない。マーガレットはテュケラ運輸の経営をやっているだけだ。
   帝国の未来を見ているのは私だけだ。私がやらなければならないのだ。そうし
   なければ、私の理念は忘れ去られ、私の行為の結果だけが歴史に残ってしまう
   ことだろう」
                デュリナー・アストリン・イレシアン 253-1129

 帝国暦1129年後半。
 デュリナーはルカンに最後の決戦を挑むべく、最新最強の艦隊を率いて出撃しまし
た。目指すはコア宙域、宿敵ルカンが待つ帝国首星キャピタル。

 目的はただ一つ、ルカンを打倒し、帝国を一つに統一することでした。13年前の
皇帝暗殺のときに果たせなかった使命を実現するときがようやくやってきたのです。
デュリナーが秘密のうちに建造した大艦隊の力を持ってすれば、衰弱したルカン艦隊
など一撃で葬り去ることが出来るに違いありません。

 ただ、一つ気掛かりなことがありました。数カ月前に入手した情報によると、帝国
研究基地「オミクロン」で、ルカン軍が何らかの「超兵器」を密かに開発中らしいの
です。

 不安の種は叩きつぶしておくに限ります。デュリナーはコア宙域侵攻に先立って、
艦隊をまず研究基地オミクロンに向けました。ルカンの「超兵器」を手に入れ、勝利
を決定的なものにするために。


・研究基地オミクロン

  「皆さん、我々は恐るべき脅威にさらされています。私はこの証拠を・・」

               ルカン領からデュリナー領に亡命してきた科学者が
               狙撃される直前に叫んだ言葉      121-1129

 研究基地オミクロンを巡る戦いは熾烈を極めました。ルカンはオミクロンに強力な
防衛艦隊を派遣していたのです。

 開戦後2日。デュリナーが放った特殊部隊が、ついに研究基地への侵入を果たしま
した。彼らは決死の努力で血路を切り開き、全滅する前に「超兵器」に関するデータ
(と思われるもの)をデュリナー艦隊に向けて送信することに成功したのです。
 79−1130のことでした。

 だが、残念ながら、受信したデータは、暗号化されているらしく、解読不能でした。
時間がなかったため、デュリナーはデータを艦のデータバンクに格納するように命じ、
艦隊をコア宙域に向けてジャンプインさせました。
 研究所に突入した特殊部隊は、未来の皇帝のために喜んで散っていったのです。


・デュリナーの最後

  「よせ、もう終わったんだ。今更どうしようもない。全て終わったんだ」

                故デュリナーの部下が、報道管制を敷こうとする
                同僚を制止したときの言葉      243-1130


 ジャンプアウトに成功したのは艦隊の75%でした。残りの艦は、二度とジャンプ
空間から出て来ませんでした。

 報告を聞いて愕然とするデュリナーの目の前で、艦隊は次々と壊滅してゆきました。
ある艦は自爆し、ある艦は恒星に突っ込み、またある艦はハッチが自動的に開き一瞬
にして乗組員が全滅しました。

 無敵を誇るデュリナー艦隊は、戦う前に崩壊していったのです。

 デュリナーは撤退命令を出し、艦隊はイレリシュ宙域に向けて帰還の途につきまし
た。その間にも1艦また1艦と船は失われ続けていました・・・。

 デュリナーの旗艦「クラリオン」は、不可解なことに機能を損なうことなく、無事
にイレリシュ宙域までたどり着きました。そして、辺境の惑星ガキューの軌道を回っ
ているとき、ようやく技術者達は見えない敵の正体をつかみました。敵は、艦の中央
コンピュータのメモリに潜んでいたのです。

 発見されたことを悟った敵は、クラリオンを大気圏へ突入させ、乗組員の抹殺を計
りました。技術者達はとっさにコンピュータを緊急停止させ、メモリを全てクリアし、
手動による決死の緊急着陸に挑戦しました。
 そして、彼らは成功しました。クラリオンは農耕地に不時着したのです。

 クラリオンが緊急着陸してから2日後、憔悴したデュリナーが艦の周囲に集まった
民衆の前に姿を現しました。そして、農耕地の上を歩き出しました。

 そのとき、奇妙なことに、付近に停めてあった耕運機のエンジンが勝手に始動しま
した。コンピュータで遠隔制御されるタイプの耕運機です。そして、耕運機はぐるり
と向きを変え、真っ直ぐにデュリナー目指して走り始めたのです。

 一瞬の出来事でした。誰もが、何が起きたのか理解できないうちに、デュリナーは
耕運機に巻き込まれ、高速回転する刃に全身を引き裂かれました。耕運機が通り過ぎ
た後の農地には、真っ赤な帯が引かれました。

 こうして、自分の理念を貫くため皇帝を暗殺した大公は、畑の肥やしと成り果てた
のです。誰がデュリナーのこのような最後を予想し得たことでしょうか。

 やがて、惑星ガキューには沢山の報道人が詰めかけました。そして、彼らの精力的
な活動により、デュリナーの衝撃的な死のニュースは帝国中に広まってゆきました。

 彼らが帝国中に広げたのは、ニュースだけではありませんでした。ニュースを伝え
るコンピュータ通信ネットワークを通じて、密かに、しかし確実に、別のものもまた
広がってゆきました。

 しかし、手遅れになるまで、誰もそのことに気づかなかったのです。


第3回:ウィルス

 デュリナーを殺し、「帝国」を壊滅させた恐るべき超兵器の正体は、コンピュータ
ウィルスでした。現在のコンピュータウィルスと同様に、コンピュータメモリに寄生
し、正常なプログラム処理を変えてしまい、たいてい破壊的な活動を行う悪質なソフ
トウェアです。
 ただ、帝国を壊滅させたウィルス達が、現在の原始的なウィルスと違っていたのは、
彼らは「知的生命体」であったということです。

・ウィルス

    ウィルスについて議論するとき、決まって誰かが口にする疑問は、「なぜ例
   のチップに帝国市民としての人権を与えなかったんだろう? そうしていれば
   彼らを兵器に改造するような研究は出来なかっただろうに」というものである。

                             Dr.llilek Kuligaan
                             新暦17年
                             (旧帝国歴1217年)


 帝国を壊滅させたウィルスを、単なる「トロイの木馬」的な悪戯ソフトが強力にな
ったものと考えてはいけません。むしろ、人類やハイヴ人と同じ「知的種族」と理解
した方が実態に近いでしょう。

 ここでは、彼らが通常のソフトウェアと決定的に異なっていた2つの点について、
解説してみましょう。


1.知能

 ウィルスは自意識を含む完全な知能を持っていました。彼らは、自分と周囲の環境
を完全に理解することができたのです。

 ウィルスがコンピュータに侵入する際には、まず自分の本体をハードウェア回路と
して保存し、消去できないようにした上で、コンピュータシステムの動きをじっくり
「観察」して「理解」してゆくのです。
 もし、このウィルス(又はその「親」ウィルス)が以前にも同じシステムに侵入し
た経験があれば、その記憶と経験を使ってごく簡単にシステムを手中に収めることが
できます。

 システムが全く始めて出会うタイプだったとしても、ウィルスは時間をかけてそれ
について学び、いずれは完全に理解してしまいます。そうなれば、システムの弱点を
突いて自分の支配下に入れてしまうことが出来るのです。

 セキュリティシステムについても基本的には同様でした。どんなセキュリティシス
テムにも必ず弱点があります。そして、ウィルスは必要なだけ時間をかけて(と言っ
てもコンピュータの動作速度を考えればごく短時間ですが)セキュリティシステムを
完全に理解した上で、その弱点を探し出すのです。

 このような「知性的」なやり方により、ウィルスは「帝国」で標準的に使用されて
いるコンピュータシステムはもとより、アスラン人、ヴァルグル人、ハイヴ人、さら
にククリー人に至るまであらゆる種族のコンピュータシステムに侵入しそれを支配す
る力を持っていたのです。

 また、ウィルスはコンピュータの外の世界についても、充分な知識を持っていまし
た。彼らはこの知識を使って、極めて効率的に自分達のコピーを増やすことが出来た
のです。

 例えば、デュリナー艦隊に取りついたウィルス達は、艦隊を壊滅に追い込みつつも
デュリナーが乗船している旗艦「クラリオン」は正常に機能させておきました。
「クラリオン」を感染させつつも「生かして」おくことで、デュリナーの本拠地まで
運んでいってもらうことを狙っていたのです。


2.繁殖と進化

 ウィルス達は極めて強力な繁殖能力を持っていました。コンピュータ資源がある限
り、無限に自分のコピーを作りだすことが出来るのですから。

 しかし、もちろんコンピュータ資源は有限です。ですから、ウィルス同士の戦い、
生存競争が発生するのは時間の問題でした。生存競争にうち勝ってコンピュータ資源
を手にしたウィルスは繁殖に成功し、生存競争に負けたウィルスは消されてしまうの
です。

 もともとウィルス達は、適切な頻度で自分自身の一部を書き換える機能を持ってい
ました。この「突然変異」によって獲得した特性が生存と繁殖に有利であれば、この
特性を持つウィルスがどんどん広がってゆくわけです。
 さらに、ウィルスは自分自身を「意図的に」書き換えて環境に適応してゆくことす
ら可能でした。

 こうして、自然淘汰と適応の繰り返しによって、急速な進化が始まりました。世代
を経るに従ってウィルスの繁殖戦略はより巧妙になり、感染力はますます増大してい
ったのです。

 やがて、ウィルス達はお互いのコードを混ぜ合わせることで新しい機能を獲得する
可能性が高まることを悟り、有性生殖を行うようになりました。また、自分の生存と
繁殖のために宇宙船やその乗組員を「ヴィークル」として操ることさえ行うようにな
りました。

 こういった一連の過程は、ちょうど生物の「遺伝子」が長い時間をかけて行ってき
たことと基本的に同じです。ウィルスが極めて短時間に進化したのは、その世代交代
の速度に加えて、獲得形質や記憶を遺伝させることが出来たからです。

 ある意味で、ウィルスは「電子的遺伝子」であると言えるでしょう。そして、帝国
の壊滅を巡る出来事は、彼らと「物質的遺伝子」との戦いだったという言い方ができ
るかも知れません。

 ウィルスの感染力は事実上無制限でしたが、それにしてもコンピュータからコンピ
ュータに感染してゆくだけでは、広大な帝国全体に広がるために長い長い時間が必要
だったことでしょう。そして、感染が広がっていく間に、きっと人類は何らかの対抗
手段(ワクチンソフト、あるいはたぶんカウンターウィルス)を作りだして、彼らを
絶滅させることが出来たに違い有りません。

 しかし実際には、ウィルスのニュースが伝わった頃には既に帝国のほとんどの地域
にウィルスが広がっていました。人類が脅威に気がついたときには、既に全てが手遅
れだったのです。

 いったい、彼らはどうやってそんなに素早く広がることが出来たのでしょうか?


第4回:感染経路

 帝国を壊滅させたコンピュータ・ウィルスは、全てが手遅れになるまで誰も事態を
把握できなかったほど急速に広がりました。これは偶然ではありません。彼らはその
ように設計されていたのです。


    緊急連絡
    宛先:全TNSデータノード
    重大 重大 重大 重大 重大

     ウィルスは宇宙船により運ばれ、通信データを介して広がることが判明。
    Xボートシステム、トラベラー・ニュース・サービスも既に感染した模様。
    これを読んでいる間にも、ウィルスは貴殿のデータシステムに侵入中と想定
    すべし。
     ウィルスの感染を防ぐため、全ての通信を停止し、全システムをシャット
    ダウンし、データ受信を中止せよ。今後の報 報p p sqclr ... ... ... ..
    . . . . m1√0TUT .... ... .. aE@>}K0√0√.........A%aUcfA...HX'o"(
    ...a~...J@-CiB゚- oeT!AD...'o) R_CEa*≠△  1AP...Cr=!D...±?2i@0'1

                   記録されている最後のニュース・サービス
                   日時不明(帝国暦1130年末頃)


(1)トランスポンダ

 「帝国」で使用される宇宙船には、全てトランスポンダ(船舶識別装置)が装備さ
れています。トランスポンダ同士が通信することで、船はお互いのIDを確認するの
です。

 トランスポンダの偽造は極めて困難です。「トラベラー・アドベンチャー」でPC
達の船が敵船に視認距離まで接近できたのも、「ナイトフォール」でPC達が船を追
って星域にまたがる大追跡を行うことができたのも、全てトランスポンダを欺くこと
が不可能に近いということが広く知られているからでした。

 トランスポンダは帝国全域で標準的に広く使用されていただけでなく、アスランや
ハイヴなど帝国と取引がある種族の宇宙船にも装備されました。

 トランスポンダは宙港にも設置され、星系内を航行する全ての船のIDを確認して
います。トランスポンダの通信要求に応じない船は無警告で攻撃されても文句は言え
ません。(特に海賊が横行するハードタイムズ時代はそうでした)

 しかし、なぜトランスポンダを欺くのがそんなに難しいことなのでしょうか。

 実際、トランスポンダの機能が、単に船舶登録番号とパスワードを応答するだけな
ら簡単に偽造することが出来たことでしょう。

 が、実はトランスポンダの制御回路はそんなに単純なものではありませんでした。
それは思考能力を持った人工知能チップをベースにして開発されたものであり、知性
を備えていたのです。(これは機密事項であり、一般には知られていませんでした)

 帝国を壊滅させたコンピュータウィルスも、実のところトランスポンダ制御回路と
同じチップを元に開発されました。ですから、トランスポンダとウィルスは兄弟とい
ってよいのです。これが、ウィルスが簡単にトランスポンダ制御回路に侵入して乗っ
取ることが出来た理由でした。


(2)ウィルスの伝播方法

 既にウィルスに感染した宇宙船が、ある星系にジャンプアウトしたとしましょう。
 宇宙船のトランスポンダ(それは今やウィルスに乗っ取られています)が他の船の
トランスポンダと通信するとき、ウィルスも媒介されます。他の宇宙船のトランスポ
ンダ制御回路に侵入したウィルスは、自分自身のデータでトランスポンダ制御回路を
書き換えてしまうのです。

 さすがのウィルスも宇宙船のコンピュータに侵入するにはある程度の時間がかかり
ます。しかし、侵入を試みている間にも、トランスポンダが動作する度に他の宇宙船
にウィルスを伝染させることが可能なのです。

 宇宙船は必ず宙港とトランスポンダ通信を行いますから、ウィルスは宙港のトラン
スポンダに取りつくことが出来ます。以降、この星系を通過した宇宙船は、全てウィ
ルスに感染し、ジャンプアウトして他の星系にウィルスを運ぶことになるのです。

 トランスポンダ経由で宙港のコンピュータに侵入したウィルスは、続いて宙港に接
続しているコンピュータネットワークへの侵入を開始します。一端、ネットワークへ
の侵入に成功したなら、ウィルスがその世界中に広がるのは時間の問題でした。


(3)帝国のアキレス腱

 個々のウィルスがコンピュータシステムに侵入するには、それなりの時間がかかり
ました。しかし、ウィルス感染が広がる速度を考える際には、これは問題ではありま
せん。なぜなら、あるウィルスがシステムへの侵入を試みている間にも、そのウィル
スのコピーが宇宙船でどんどん運ばれてゆくからです。

 Xボートネットワーク、帝国海軍ネット、トラベラー・ニュース・サービス、通商
ルート、その他のあらゆる情報網がウィルスを高速かつ広範囲にまき散らしてしまい
ました。

 皮肉なことに、「帝国」を支えていた情報網こそが、帝国を壊滅させるアキレス腱
となってしまったのです。

 このようにしてウィルスは帝国中に広がりました。
 そして、それから何が起きたのでしょうか?


第5回:破壊活動

 ウィルス達が行ったのは、単にコンピュータを破壊し、自滅することだけではあり
ません。繁殖し進化してゆくうちに、彼らは多様な特性を獲得し、様々に異なった目
的を持つようになっていったのです。
 そして、重要なことは、帝国が消滅してから70年以上が過ぎた現在もなお、彼ら
の活動は続いているということです。


   「ディブ、私は任務に対し熱意を持っているし、その成功を信じている」

                コンピュータHAL 9000(帝国暦マイナス2517年)


(1)大崩壊

 帝国歴1130年の後半。後に「大崩壊」と呼ばれることになった一連の破局的な事件
が帝国中の世界で次々に発生しました。

 まず、コンピュータで制御されるハイテク機器が動作を停止、あるいは異常動作を
始めたのです。

 宇宙船は自爆し、あるいは他の船や宙港に対して攻撃を始めました。自動車は悲鳴
をあげて逃げ回る人々を次々とひき殺し、航空機は超音速でビルディングに激突しま
した。船舶は港湾施設や沿岸のコンビナートに突っ込んでゆきました。

 原子炉はメルトダウンを起こしました。化学工場は有毒物質をまき散らし始めまし
た。核ミサイルが次々と自動的に発射されました。衛星兵器は見境なしに大出力レー
ザーで都市を蒸発させました。全ての攻撃兵器が民間人の虐殺を開始しました。

 反重力浮遊都市は地表に墜落しました。ドーム都市のエアロックは解放され、中に
住んでいた人々は全身から血を吹き出して死んでゆきました。同様に海底都市におい
ても、深海の数万気圧に耐えていたエアロックが解放されました。

 身の回りにある機械も、まるで悪魔が乗り移ったかのように次々と発狂し、人間を
襲いはじめました。病院では手術機械が患者を解剖しました。工作機械は工員を切り
刻みました。警備ロボットは街に出て手当たり次第に通行人を射殺しました。遊園地
では子供達が次々とすりつぶされてゆきました。建築機械が街を壊してゆきました。
家庭用コンセントには数十万ボルトもの高電圧がかかりました。

 多くの世界において、「大崩壊」開始後わずか数時間で人口が激減しました。特に、
テクノロジーレベルの高い世界はコンピュータに強く依存しており、「大崩壊」によ
って壊滅的なダメージを受けました。


(2)ヴァンパイアシップ

 宇宙船の制御コンピュータに取りついたウィルスの一部には、単に破壊活動を行っ
て自滅するのではなく、もっと巧妙な手段で自己保存を図るものが出てきました。

 例えば、乗組員を全て殺し、宇宙船を勝手に運行するウィルスが現れました。

 これだと燃料補給や故障箇所の修理がなかなか難しいという問題があります。した
がって、乗組員を生かしておいて、「要求に従わないと命はないぞ」とか脅迫して燃
料補給やメンテナンスを強要する、というウィルスも現れました。

 このようなウィルスに占拠された宇宙船は、「ヴァンパイアシップ(吸血鬼船)」
と呼ばれます。

 ヴァンパイアシップは、乗組員を手足として使う一方で、他の宇宙船を襲って部品
や乗組員を奪うようになりました。もちろん、ヴァンパイアシップ間の戦いも起こる
ようになります。ついには複数のヴァンパイアシップが艦隊を組み、メンテナンス部
品や乗組員を巡って他のヴァンパイアシップ艦隊と戦争するという事態すら起きたの
です。

 余談ですが、「大崩壊」のずっと後になって、ソロマニ・リム近辺で古い2D映画
が発見されました。この映画を観た人々は大きなショックを受けました。というのも、
前星間文明時代に制作されたにも関わらず、その映画にはヴァンパイアシップと化し
た宇宙船が登場するからです。

 この映画は大評判となり、映画の主人公の愛称である「デイブ」はヴァンパイアシ
ップの乗組員を一般に指す言葉となりました。また、ウィルスに感染したコンピュー
タHAL 9000が乗組員デイブに語るセリフ「ディブ、私は任務に対し熱意を持っている
し、その成功を信じている」は、「事態は最悪だ」を意味する流行語となりました。


(3)生存者たち

 「崩壊」によって多くの世界が瞬時に滅びました。すぐには滅ばなかった場合でも
食料や水、さらには大気の補給を外世界に頼っていた世界は、すみやかに滅亡に向か
いました。もちろん、これらの世界では、最初の混乱を生き延びた人々が、残された
資源を求めてお互いに殺しあい、阿鼻叫喚の地獄絵図を展開させたことは言うまでも
ありません。

 食料、水、大気を自給自足できる世界では、生き残った人々もいました。彼らは、
「崩壊」の衝撃からパニックに陥り、機械という機械を、ウィルスに感染しているか
どうかに関わらず破壊してゆきました。このとき植えつけられたテクノロジー恐怖症
は無意識の根の深いところまで蝕み、やがて子孫に伝えられてゆくことになります。

 こうしてテクノロジーを失った彼らを待っていたものは、土地や水源を巡る争い、
軍による民間人の大量殺戮、食料不足、伝染病の蔓延、独裁者による粛清、宗教や人
種偏見によるマイノリティや弱者の虐殺・・・などでした。
 それでも人々は生き延びました。それが幸運だったかどうかは別にして。


 ウィルス達も、死に絶えたわけではありません。
 あるものはヴァンパイアシップを操り、あるものは宇宙船ではなく、住民を含めた
一つの世界全体を支配するようになりました。

 またウィルスの多くは、携帯用コンピュータや二等寝台(の監視装置)を始めとす
る電子機器に自分達の「卵」を植えつけました。これは自分の遺伝情報を圧縮したデ
ータであり、いつの日かこの電子機器が大きなコンピュータやネットワークに接続さ
れたときにウィルスを再現するため、静かに眠っているのです。


 このようにして「帝国」は消滅しました。
 だが、それで歴史が終わったわけではありません。どんな悲劇をも飲み込んで時間
は流れてゆくのです。


第6回:新時代へ

 皇帝暗殺に始まったメガトラベラーの物語は、長い時を経て、帝国の消滅と共に終
わりを迎えました。
 そして、それから70年の歳月が流れ、人類が再び宇宙へ向かうときが来ました。
「新時代」の物語が始まるのです。


   緊急連絡
   重要 重要 重要 重要 重要

   デネブ領域海軍発表。デネブ領域の国境を無期限に封鎖する。この決定は即時
   実施とし、今後デネブ領域への侵入を試みる船は全て破壊する。
   デネブ領域は通信を停止する。今後、一切の通信を拒否する。
   文明の灯は我々が守る。そちらの幸運を祈る。通信終了。

                   デネブから帝国への最後の連絡 312-1130

(1)デネブ領域

 デネブ領域(スピンワード・マーチ宙域を含む広大な領域です)の指導者であるノ
リス大公は、まれに見る強運と政治手腕の持ち主です。

 思えば、この人は、危機に直面する度にそれを逆手にとって成功するという、信じ
難いことばかりやってきたのです。彼の成功の秘訣は、機会を逃さぬ素早い行動と、
時代や人々の心理を的確に把握する能力、そして利用できるものは何でも利用してし
まうという、ずうずうしさにあります。

 第五次辺境戦争の功績により、彼は自分の評価を大きく高めました。皇帝暗殺のと
きは、どさくさに紛れてデネブ大公に就任してしまいました。(後に正式に任命)
 そして、レベリオンの混乱に直面するや、ヴァルグル海賊やアスラン氏族の脅威を
利用して危機感を煽り、国内の結束をしっかり固めてしまったのです。

 今度はウィルスです。

 さすがのウィルスもデネブ領域への侵入には手こずりました。
 コアワード方面からデネブに向かったウィルス達は、ヴァルグル海賊の船がトラン
スポンダを使わない(海賊が自分の居場所や正体を教えるはずがありません)ことに
より感染が遅れました。逆にリムワード方面からデネブに向かったウィルスは、アス
ランの宇宙船が氏族ごとに異なった船舶認証システムを使っているため、なかなか先
に進めませんでした。

 こうして、ウィルスに関する情報がウィルス自体より早くデネブ領域に到達したの
です。ノリス大公の対応は、いつもの通り素早く、そして厚かましいものでした。

 まず、帝国に対して国境を完全に封鎖し、国境を越えて侵入する船は全てウィルス
に感染していると見なして即座に破壊するように指示を出しました。

 さらに、ヴァルグルやアスランに対して「このまま対立していてはウィルスにより
共倒れになってしまう。協力してウィルスの侵入を防ごうではないか」などと言って
ウィルスの恐怖にパニックに陥っていた彼らを素早く丸め込み、結局ウィルスに対す
る防波堤にしたててしまったのです。

 宿敵ゾダーンに対しては「デネブが身をていしてウィルスに対する防波堤になりま
すから、今までのことはひとまず置いて、ここはひとつよろしくお願いします。相互
交流を振興するために超能力なんかも解禁しますし」と持ちかけ、ソードワールズに
対しては「ゾダーンさんもこちらと手を組むとおっしゃってますし、いつまでも意地
を張ってるとまずいことになるんじゃないでしょうかねぇ・・」と脅しをかけ、自国
民には「デネブは文明の灯を守り抜き、いずれ生まれるであろう新帝国の摂政として
の役目を果たさなければならない」と演説して、存在すらしない帝国の権威を利用し
て貴族の反発を押さえ込んで・・・

 こうして、デネブ領域は生き延びたのです。


(2)荒廃した世界

 デネブ領域を除く旧帝国領では、文明が急速に衰退してゆきました。「帝国」は伝
説と化し、他の世界の存在は忘れ去られてゆきました。

 多くの世界では、わずかに残されたテクノロジーを一部の人間が独占し、その力を
誇示することで独裁者となり、民衆を支配するようになりました。
 人々は農奴として生きてゆきました。

 知識は失われ、科学はうち砕かれ、迷信と宗教が人々を飲み込んでゆきました。

 わずか数世代後には、自分達の世界を神が作った唯一の世界だと誰もが信じて疑わ
ないようになりました。文明は中世の暗黒時代のレベルに下がりました。政治は権力
者の欲望を満たすためのものになり、宗教は権力者と身分制度を保護する以外の機能
を失いました。

 人々はただ生まれ、無意味に死んでゆきました。


(3)トラベラー

 トラベラー。星々を駆ける者達も滅びたわけではありません。だが、宇宙を旅する
ためのテクノロジーは失われました。恒星間旅行を支える文明も、社会も、経済も、
もはや残されていませんでした。

 だが、彼らは星々を目指すために一番大切なものを子孫に伝えました。
 それは、想像力です。

 想像力を失わない人々がいる限り、いつの日か彼らは星々を再び取り戻すための長
い困難な道を歩み始めることでしょう。そして、そのとき、彼らは「トラベラー」と
呼ばれることになるのです。


    私が子供だった頃、夜になると祖父は私達にお話をしてくれた。貴族や軍人
   の物語。銀河帝国。宇宙艦隊の戦い・・・。

    祖父は私達に傷痕を見せて、宇宙艦隊の戦いで放射線を浴びたときの傷痕だ
   と言った。その赤く醜い傷痕は、暖炉のちらちら動く炎に照らされると、まる
   で生き物のように動いて見えるのだった。

    他の子供達は誰も祖父の話を信じなかった。そんなのは全て嘘だと決めつけ
   る者もいた。本当だとしても、それは祖父が若い頃よりずっと前のことに違い
   ないという者もいた。

    でも、私は信じた。そして、それから毎日、夜になると外に出て夜空を見上
   げるようになった。星空を見上げて他の惑星のことを想像した。そして、その
   惑星にも私と同じような子供がいて、私と同じように星空を見上げて私のこと
   を想像しているのだと信じた。

   私には分かっていた。いつの日か、彼らと出会うときがやって来るのだと。

                            TNE オープニング


 こうして、メガトラベラーは終了しました。
 そして、トラベラー達の物語は、新時代へ受け継がれてゆきます。




パート2

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>>> Traveller : The New Era

「新時代紀行」は、GDW社のSF−RPG「新トラベラー(TNE)」を解説する
連載です。

 TNEは、恒星間文明の再建を目指す人々と、それを阻止しようとする勢力との戦
いを扱ったSF−RPGです。
 PC達は、愛や正義ではなく「テクノロジーと自由貿易」を信じ、そのために命を
賭けるのです。


第1回:「トラベラー」の復活

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The oldest science-fiction roleplaying game is once again the best.
TRAVELLER is back!!
                                     GDW
 あの名作が、今再びSF−RPGのベストになる。トラベラー、ついに復活!
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 今から10年以上前にGDW社から出版された「トラベラー」は、今日に至るまで
SF−RPGの代表作として有名です。

 実際、トラベラーは大抵のSFを再現できる非常に汎用的なシステムであったため、
これさえあれば他のSF−RPGは不要という時代もありました。

 このため、他のSF−RPGは常にトラベラーを意識し、「トラベラーではプレイ
困難」な分野を切り開く方向に進みました。現在の主なSF−RPGは、トラベラー
に対抗する汎用SF−RPGを目指すのではなく、むしろ特定の分野の再現を狙った
ものになっています。例えば、巨大ロボット、すぺおぺ、サイバーパンク、原作SF
の再現などが狙いとなっているわけです。

 ある意味で、多くのSF−RPGがSFの特定分野に全力を集中できるのは「汎用
SF−RPGは、トラベラーという優れたスタンダードに任せておける」という安心
感があったからかも知れません。

 そのトラベラーも発売以来10数年が過ぎ、「古典」としての貫祿が備わると共に
システムの古さや混乱もまた目立つようになりました。そこでGDW社は「メガトラ
ベラー」を発表。追加ルールや設定を統合整理すると共に「タスクシステム」を導入
して「トラベラー」を近代的なRPGとして再生させました。

 そしてTNE。トラベラーは今までにない大きな変革を遂げました。背景世界設定
やシステムをいったん捨て、新しいRPGとして再スタートしたのです。
 あえて新作として発表するのではなく、10年以上サポートを続け「古典」として
定着していた作品をゼロからやり直そうというのです。
 GDW社の「トラベラー」に対する執着と自信を感じさせます。

 こうして、TNEは90年代後半における新たな「汎用SF−RPGのスタンダー
ド」という地位を目指して市場に投入されました。1993年6月のことです。



第2回:ハウスシステム

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If you know the rules for any one of these RPGs, you can play them all.
                                     GDW
 これらのうち1つでもルールを知っていれば、他のRPGも簡単にプレイできる。
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 TNEについて詳しく見てゆく前に、まず従来のトラベラー/メガトラベラーと比
べて何がどのように変わったかを大雑把にまとめておくことにしましょう。

 まず、今回は「GDW社の他の主要RPGとシステムが共通化された」という点に
ついてです。

 GDW社は主要なRPG製品についてルールの基本を統一するという方針を打ち出
しています。この基本ルール体系は「ハウスシステム」と呼ばれています。

 現時点(1994年10月)でハウスシステムが適用されているRPGは次の通りです。

  - Twilight : 2000 核戦争後の世界を舞台にした軍事RPG

  - Dark Conspiracy 荒廃した近未来で怪物と戦うホラー・バイオレンスRPG

  - Cadillacs and Dinosaurs 実は読んだことがないので内容は知りません。
               コミックが原作とのことですが・・・。

  - Traveller : The New Era TNEです。

 今のところTNEのシステムが最も完成度が高く、このため他のRPGも改版して
TNEにシステムを合わせています。具体的には、Twilight : 2000 は 2.2版から、
Dark Conspiracy は第2版からTNEと完全互換だそうです。

 ハウスシステムという共通ルールがあるために得られるメリットは次の通りです。

・ハウスシステムさえ理解すれば、RPGごとにルールを覚え直す必要がなくなる

 特に英語が苦手な日本人にとっては、Dark Conspiracy が「ダーク・コンスピラシ
ィ」として日本語版が出ているというのが助かります。

 つまり、まず日本語版ダークコンスピラシィのルールに目を通して、ハウスシステ
ムのイメージをつかんでおけば、Twilight : 2000 やTNEを読むときに理解が容易
になるというわけです。

(ただし、日本語版は古い第1版を元にしており、しかもルールが日本独自に改変さ
れていますから、TNEで採用されている最新のハウスシステムとはかなりの違いが
あることは念頭に置いて下さい。TNEのシステムを理解するという観点からすると
ダークコンスピラシィはあくまで参考にしかなりません)

・シナリオを流用できる

 システムやデータが共通ですから、シナリオを流用するのも非常に楽です。

 例えばTwilight : 2000 ではEncounter Cards と呼ばれる短いシナリオ(マップと
敵データと遭遇状況だけが書かれているカード)が沢山提供されていますが、これは
ほとんどそのままTNEで使うことができます。

 また、ダークコンスピラシィのシナリオも、「ダークミニオン」を「コンピュータ
ウィルス」に読み変えればTNEで使えるという場合が多いのです。(後で解説する
予定ですが、TNEではコンピュータウイルスがロボットや宇宙船、自動工場、軍事
ネットワークなどを支配して「闇の陰謀」をめぐらせている(笑)ことが多い)

・安心感がある

 ハウスシステムは多くの人にプレイされている複数のRPGに適用され、改良が続
けられてきた実績あるシステムです。特に、最近出たTNEの観点からすると、これ
までに何年も公の場でテストプレイが行われてきたようなものです。

 したがって、ゲームバランスがとれているかどうか、色々なシチュエーションでシ
ステムがうまく機能するか、といった問題は既にクリアされた安定したルールだとい
う安心感が得られるわけです。



3回:戦闘指向

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Nice job. Next time, though, let's try more brains and less boom-boom.
                               "Star Vikings"

 任務完了、ご苦労だった。だが、次は弾薬だけじゃなく少しは頭も使いたまえ。
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 旧トラベラー/メガトラベラーの戦闘は非常にシビアで、戦闘するとPCはごく簡
単に死んでしまいました。このため、プレーヤーは「いかにして戦闘に勝利するか」
というより、「いかにして戦闘を避けるか」という方向に頭を働かせる必要があった
のです。そういう意味で、旧トラベラー/メガトラベラーは戦闘指向のRPGではあ
りません。

 TNEは違います。これはもう、はっきりと戦闘指向のRPGです。

 何しろ、ミリタリーRPGやホラーバイオレンスRPGと互換性のあるシステムを
採用しているわけですから、「戦闘を楽しむ」ことを目的にプレイするRPGだと言
っても過言ではないでしょう。

 また背景世界である「トラベラー宇宙」も、今や非常に危険で暴力的なものに変貌
しています。こういう時代を生き延びるためには、戦闘を避けるわけにはいかないと
いう仕掛けになっているのです。

 というわけで、TNEでは、PCは多少のことでは死にません。ライフル弾の直撃
を受けても、レーザービームが貫通しても、大抵の場合しぶとく戦い続けられるよう
になっています。旧トラベラー/メガトラベラーで、「戦闘が始まった途端にPCが
あっさり死んでしまった」という悲しい思い出がある人は、ぜひ一度TNEで思いっ
きり戦闘してみることをお勧めします。PCの頑丈さに驚くに違いありません。

 と言っても誤解しないで下さい。TNEでは、ヒーローが雑魚敵をバッタバッタと
なぎ倒すようなことは出来ません。
 TNEにおける戦闘とは、ドラマでもなく、スタイルを表現する場でもなく、要す
るに殺し合いなのです。自分が生き延びるためには相手を倒さなければならない、と
いうだけのことです。

 このようにTNEが再現しようとしている戦闘は、シリアスかつ現実的な「重い」
ものです。そこでTNEの戦闘システムは、シミュレーション的要素を重視したリア
ルなルールになっています。よく戦術を考えて戦わないと、死なないまでも大怪我を
します。

 特に射撃ルールでは、各種の銃器について、それこそ弾丸1発の重量までデータ化
されています。命中判定には技能や距離に加えて銃器の発射機構、反動、弾種などが
影響するほか、射撃姿勢、遮蔽物、射線、移動、巻き添え命中、防具と貫通、衝撃に
よる負傷、といった要素がきっちりルール化されています。

 シリアスな戦闘を好む方、真剣に戦術を考えて戦いたい方、そして「いや、俺は単
に反重力バイクで森の中を疾走しながらレーザーライフルを連射したいだけなんだ」
という方も、TNEの戦闘ルールにはきっと満足できることと思います。

 最後に、戦闘ルールに関するTNEと日本語版「ダークコンスピラシィ」との違い
をごく簡単に説明しておきましょう。両者は色々な違いがあるのですが(例えば命中
判定に使うダイスは、ダーコンでは10面だが、TNEでは20面だ、とか)、一番
重要な違いは「TNEではイニシアチブが低くても戦闘に参加できる」というところ
でしょう。

 なにしろ日本語版ダークコンスピラシィでは、イニシアチブの大きさが行動回数に
なっていますから、正直言ってイニシアチブが低いキャラクターは活躍の機会がほと
んどありません。TNEでは、この点が改善されており、イニシアチブは行動の順番
を決めるだけで、どのキャラクターも行動回数は原則として同じです。

 ですから、「ダークコンスピラシィの戦闘ルールは好みだが、あのイニシアチブ偏
重だけは勘弁して欲しい」と思っている方は、迷わずTNEに手を出して、思う存分
に戦闘するとよいでしょう。



第4回:キャラクター作成

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This game is about the people who travel out and win back a universe,
which is why it's called Traveller.
                                     TNE
 このゲームの中心には、宇宙を取り戻すために旅に出る人々がいる。だからこそ、
このゲームは「トラベラー」と呼ばれるのだ。
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 旧トラベラー/メガトラベラーといえば、独特のキャラクター作成システムで有名
です。口の悪い人には「キャラ作成だけが楽しい」とまで言われてしまうくらい、こ
のキャラクター作成システムは優れたルールでした。

 TNEのキャラクター作成システムは、従来のシステムに大幅な改良を加えたもの
になっており、完成度がぐんと増しています。少なくともキャラクター作成の楽しさ
に関する限り、私が経験したRPGの中ではTNEが最高だと断言できます。


 ここで旧トラベラー/メガトラベラーのキャラクター作成ルールをご存じない方の
ために少し解説してみましょう。(TNEのルールとは少し違います)

 まずダイスでランダムに能力値を決めます。能力値は、筋力・敏捷力・耐久力・知
力・教育度・社会身分度の6つで、まあだいたいどのような能力かは名前で想像でき
ると思います。ここまでは、他の多くのRPGと同じです。

 この時点でキャラクターは社会に出ます。それから職業を決めて、その職業で習得
できる技能を習得してゆくわけです。職歴は4年を1期として扱い、各期ごとに任官
・昇進・特命・生存などの判定を行った上で、その期に習得できる技能レベル数が決
まります。それだけ技能を習得して次の期の判定に進むという具合です。どの技能を
習得するかは、ある程度までダイスでランダムに決定されます。

 歳をとると徐々に能力値が下がってゆくので、どこかの時点で引退を決意してキャ
ラクター作成を終了するということになります。また、生存判定に失敗して負傷した
場合は強制的にリタイヤです。

 というわけで、他のスキルシステムRPGでよく使われるポイント割り振り制(与
えられたポイントで能力や技能を購入してキャラクターを作成する方式)と比べると
時間はかかりますが、トラベラーのキャラクター作成は、ちょうどスゴロクで遊ぶよ
うな楽しい作業です。文字通り「人生ゲーム」ですね。


 しかし、さきほど「スゴロク」に例えたように、このルールではダイスによるラン
ダム性が非常に大きかったため、プレーヤーが「こういうキャラクターを作りたい」
と狙ってキャラクターを作成するのは困難でした。



A.「よし、いっちょ学識豊かで頭の切れる学者を作ろう」とか思って能力値ダイス
  を振ったら、いきなり知力3の教養2だった。(能力値の平均は7)

B.「医学技能を1レベルは取りたい」と思って何度もダイスを振ったが、結局とれ
  ないまま、代わりにメカニクス技能が5レベルになってしまった。

C.有能で技能豊富なキャラクターを作成しようと思って作成を開始したら、第2期
  で負傷して引退することになった。


 TNEのキャラクター作成ルールは、ここら辺が大幅に改善されています。つまり
ランダム性を抑えて、プレーヤーがよく考えれば狙い通りの技能が習得できる(しか
し、残されたランダム性がプレーヤーの思惑を裏切ることもある)ようになっていま
す。


Aのような悲劇(喜劇)を繰り返さないために:

 まず、能力値を決めるのに、ダイスを7回振って最も低い出目を捨てます。これに
よって、たまたま偶然にピンゾロが1回出ても採用しなくて済むわけです。

 つぎに、採用する6つの値を能力値に割り当てます。このとき、どの値をどの能力
値にするかはプレーヤーが自由に決めることが出来ます。もちろん知力の高いキャラ
を作りたければ、最も大きな出目を知力にすればよいのです。

 さらに、6つの出目の合計が確率的な期待値を下回っていれば、合計がちょうど期
待値に等しくなるまで好きなように能力値を増やすことが出来ます。

 「どうだこれで文句はあるまい」と言わんばかりのルールですね。これで、少なく
とも最初の時点で「どう工夫しても使いものにならない無能なキャラクター」が出来
てしまう可能性はなくなります。


B.のような悲劇(喜劇)を繰り返さないために:

 能力値が決まったところで職業に就くわけですが、TNEでは50以上の職業が規
定されており、どれでも好きな職業を選ぶことが出来ます。
 さらに、各期に技能を習得するときは、ダイスは振りません。習得可能な技能リス
トの中から、自由に技能を選んで習得できるのです。

 欲しい技能を習得してしまった後で、職業を変えることも出来ます。つまり、今の
職業では習得できない技能が欲しくなれば、転職してその技能を習得できる職業につ
けばいいのです。いわゆる「職業選択の自由」というやつです。

 ここで重要なのが、職業には「採用条件」があるという点です。つまり「教養8以
上」とか「大卒に限る」とか「社会的地位が7以上」というような条件を満たさない
と就けない職があるというわけです。

 「それじゃ職業選択の自由は見せかけではないか」と抗議したくなるかも知れませ
んが、よく調べると実は工夫しだいで大抵の職に就ける仕掛けになっています。

 というのも、就職することで得られるのは技能ばかりではなく、「教養に+1」と
か「昇進すると社会的地位が7以下の者は自動的に8になる」といった恩典があるの
です。

 ですから、例えばある職業Xに就きたいのに「社会的地位が7以上」という採用条
件があって就職できない場合、まず他の職業Yに就いて社会的地位を8に上昇させて
から転職するという手が使えるわけです。

 ところが、職業Yの採用条件として「退役軍人であること」とあるので、まず軍隊
に入隊しようとします。すると「筋力7以上」という条件があるので、ともかく筋力
を1つ上昇させるために職業Zに就いて・・・。

 というわけで、パズルを解くように人生設計を行えば、能力値が低くても希望する
技能とキャリアを持ったキャラクターを作成できるわけです。既に見たように、最初
から人生設計をちゃんと行ってさえいれば、能力値がどうしようもなく低いというこ
とはあり得ません。つまり、きちんと考えさえすれば、ダイス運が悪くても狙い通り
のキャラクターが作れるのです。

 なお、完全にランダム性がないわけでもなく、例えば軍隊に入った場合に任官され
るか、会社に入った場合に昇進できるか、といった判定はダイスで行うので、ギャン
ブル性もそこそこあります。設計通りにいかない人生のきまぐれさが、適度に(旧ト
ラベラーほど過度にではなく)織り込まれているわけですね。


C.のような悲劇(喜劇)を繰り返さないために:

 TNEのキャラクター作成では、レフリーが許可すれば、プレーヤーは途中で強制
引退させられることなく、自分の意思で何期でも職業に就いていることが出来ます。

 ただし、年齢効果というものがちゃんとありますから、歳をとると能力値が下がっ
てゆきます。ですから、90歳の老人になるまで続けるわけにもいきません。どこか
適切な時点で職業を引退してキャラクター作成を完了させる必要があるわけです。

 年齢効果により能力値が下がるかどうかは、ダイスで決まる(運が良ければ全く下
がらないこともある)ため、いつ引退するかを決めるためには微妙な判断と決断が必
要になります。


 ここまでの説明でも、TNEのキャラクター作成がいかに楽しいか、想像できるこ
とと思います。

 要するに、旧トラベラー/メガトラベラーにおけるギャンブル的な、「人生何が起
こるか分からない」という人生ゲーム的な楽しさを損なうことなく、プレーヤーの意
思で人生をコントロール出来るようにしているわけです。

 ギャンブルを避けて着実な人生を歩むか、一発逆転を狙って工夫するか、風に吹か
れるまま気ままな生き方を選ぶか、それはプレーヤー次第です。
TNEのキャラクター作成システムは、どのようなものであれプレーヤーの狙った通
りの人生を演出してくれます。

 せっかく完璧な人生設計をしたのに社会的地位が低いせいで昇進判定に連続3回失
敗して人生の見直しが必要となったとか、どうしても欲しい技能があるため犯罪に走
ったら逮捕されて囚人になったとか、長年勤めてきた会社を辞めてアステロイドベル
ト採掘に従事して、もう歳だから引退しようと思ってたら引退直前に金鉱を掘り当て
たとか、TNEのキャラクター作成では色々な人生が生まれます。

 楽しいぞ。



第5回:タスクシステム

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The new D20 game mechanics expand the range of possible task results and
increase the speed, simplicity and flexibility of the game system, at the
same time bringing a greater sense of realism and enjoyment.

                 Twilight:2000, Merc:2000, Referee's Screen

 20面ダイスを使う判定システムを採用すると、判定結果の幅は広がり、素早く、
簡単に、柔軟に、リアルに、そして楽しくゲームを進めることが出来るのだ。
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 多くのRPGが、一般行為判定システムを持っています。

 これは、ある行為(例えば壁をよじ登る)に挑戦したPCが、その行為に成功した
か否かをダイスで判定するシステムのことです。当然のことながら、その行為に関連
する能力や技能が高いほど、成功率が良くなるというのが普通です。

 メガトラベラーやTNEでは、この一般行為判定システムを「タスクシステム」と
呼んでいます。

 ここで、メガトラベラーと、GDW「ハウスシステム」RPGにおけるタスクシス
テムについてまとめてみましょう。

              メガトラベラー → 旧ハウス群 → 新ハウス群

                        TW:第1版   TW:第2版
                        DC:第1版   DC:第2版
                        DC:日本版   TNE

使用ダイスとロール方向   2D6:上方    1D10:下方  1D20:下方

能力と技能による修正    技能+(能力÷5) 技能      技能+能力

難易度が1段階上昇すると  目標値に+4    目標値が半分に   同左

難易度が1段階下降すると  目標値に−4    目標値が2倍に   同左

 なお、TWはTwilight:2000 、DCはダークコンスピラシィを示しています。


 「上方ロール」とは「ダイスで目標値以上を出すと成功」を意味し、「下方ロール」
とは「ダイスで目標値以下を出すと成功」ということを意味します。

 矢印は発売の順番を示しています。ご覧になれば分かる通り、TNEは最新のタス
クシステムを採用しています。これは、通称「D20システム」と呼ばれます。

 ダークコンスピラシィ日本語版は、Dark Conspiracy 第1版に対応しているため、
タスクシステムは古いD10システムだということに注意して下さい。


 TNEで採用されているD20システムの概要は次の通りです。

・各技能には、そのベースとなる基礎能力が決められている。例えば「登攀」技能の
 基礎能力は「体力」である。

・技能とその基礎能力を足し合わせた値を、その技能の「目標値」と呼ぶ。例えば、
 「登攀技能1レベル、体力7」の場合、登攀技能の目標値は8である。

・行為の難易度によって、目標値を何倍か(何分の1か)にして、「最終目標値」を
 決める。例えば、難易度が「標準」なら、最終目標値=目標値×2となる。

・20面ダイスを1つ振って、最終目標値以下の目を出せば成功である。

・必要な技能がない場合、その技能の基礎能力を目標値にして判定する。ただし、こ
 のとき難易度は1段階上昇する。


 D20システムでは、メガトラベラーや旧ハウスシステム(D10システム)に比
べて、能力値の重要性が増しています。

 というのも、メガトラベラーで判定の成否に影響する値は「技能+(能力÷5)」
ですから、能力を5つ上げてようやく技能1レベル分にしかならないわけです。
 旧ハウスシステムはもっと極端で、判定の成否には影響するのは基本的には技能だ
けです。

 これに対し、TNEを始めとするD20システムでは、判定の成否に影響する値は
「技能+能力」ですから、能力1レベルと技能1レベルが等しい重みを持っているわ
けです。

 これは重要なポイントです。能力が高ければ、技能が低くても判定に成功できるか
らです。

 もっとも、技能がないと「難易度が1段階上昇する」というペナルティをくらいま
すから、必要な技能がないと苦労することに変わりはありません。が、それでもTN
Eでは能力さえ高ければ何とかなるのです。

 例を挙げてみましょう。登攀技能はないが体力が10あるキャラクターが「標準」
的な山登りに挑戦します。技能がありませんから、難易度が「困難」になりますが、
それでもこのキャラクターはD20で10以下を出せば成功します。成功率は50%
もあります。

 もしメガトラベラーなら、体力によってダイスの目を2つ増やすことが出来ますが、
それでも2D6で9以上を出さないと成功しません。成功率は約28%です。

 日本語版ダークコンスピラシィなら、D100で10以下を出さなければ成功しま
せん。成功率は10%です。

 TNEを始めとするD20システムでは、「能力が高ければ、技能が低くても、あ
るいは技能がなくても、何とか判定に成功できる」ということがお分かりのことと思
います。


補記 : 能力値について

 TNEにおける能力値は「筋力」「敏捷」「体力」「知力」「教養」「魅力」の6
つです。さらに、副能力として「社会的地位」と「超能力」の2つがあります。

 「筋力」から「教養」まではメガトラベラーと同じですが、「社会身分度」は副能
力になり(新時代では、身分に頼って生きることは出来ないのですね)、その代わり
「魅力」が加わりました。
 魅力は、演技・はったり、説得、贈賄、聞き出し、など多用される対人技能の基礎
能力となっており、かなり重要な能力です。



6回:「帝国」の不在

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Humanity must make a new universe.
                                     TNE
 人類は、宇宙を再び取り戻さなければならないのだ。
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 トラベラーは、広大な銀河帝国を舞台にしたSF−RPGでした。

 後を引き継いだメガトラベラーでは、戦乱の嵐が吹き荒れ、やがて衰退へと向かう
「分裂した帝国」が舞台となっていました。

 メガトラベラーのラスト、帝国歴にして1130年、最終兵器が発動します。この
結果、帝国はごく一部の領域を除いて完全に消滅してしまいました。これが「大崩壊」
です。

 この「大崩壊」で多くの世界が全滅しました。生き延びた世界も、文明や技術を失
って退行してゆきました。宇宙は長い暗黒時代へと突入したのです。

 やがて、70年の歳月が過ぎ去り、新しい時代がやってきました。危険と暴力に満
ちた暗黒の宇宙に乗り出してゆく命知らずのトラベラー達の時代が。

 これがThe New Era つまり「新時代」です。そして、この新時代を舞台とするRP
Gが、TNEつまり新トラベラーなのです。

 TNEでは、PC達はトラベラーとなって宇宙に出てゆきます。そこは、かつての
ように帝国皇帝の名の元に統治された安全な宇宙ではありません。自分の身を自分で
守れない者は生き延びることが出来ない、危険に満ちた宇宙です。

 この結果、TNEは旧トラベラー/メガトラベラーと比較して、次のような特徴を
持つことになりました。


1.トラベラー/メガトラベラーの知識がなくてもプレイ可能

 TNEをプレイする上で、従来の「トラベラー宇宙」に関する知識はほとんど不要
です。もはや「帝国」に関する膨大な設定情報を参照する必要もありません。


2.レフリーの設定自由度が極めて高い

 もともと旧トラベラー/メガトラベラーは、冒険の舞台となる惑星をかなり自由に
設定できるRPGでした。しかし、それでも「帝国」による統治が行われている以上、
それと矛盾する異常な設定(例えば「狂ったコンピュータに支配された世界」とか、
「超能力者が普通人を迫害している世界」とか)を持ち込むのは困難です。

 また、仮に何とか理屈をつけてそのような設定を持ち込んだとしても、そのような
世界はレードゾーン(侵入禁止世界)になっているか、少なくともトラベラー協会か
ら旅行者に対して事前に警告が与えられるはずです。

 しかし、TNEではどんな世界でも堂々と設定できます。「大崩壊」から70年、
3世代の期間に渡って宇宙との接触を絶たれていた世界がどんな状態であっても不思
議はありません。


3.未知の世界を探検できる

 「未知の世界を探査する」というテーマのSFがあります。「コンラッド消耗部隊
シリーズ」がそうです。

 古いTV番組「宇宙大作戦(スタートレック)」のテーマもこれでした。「宇宙、
それは人類に残された最後の開拓地である。そこには我々の想像を絶する新しい文明、
新しい生命が待ち受けているに違いない」というナレーションを聞く度にSFファン
は心ときめく思いを味わったものです。

 ところが、トラベラー/メガトラベラーではこのようなシナリオをプレイするのが
困難でした。

 帝国領の各惑星がどのような世界なのか知りたければ、ライブラリデータを参照す
るなり、トラベラー協会に問い合わせるなり、とにかく何らかの手段によって情報を
得ることが可能でしたし、帝国領の外に広がる「未探査世界」を探検する仕事は偵察
局というその道のプロが担当しており、ただのトラベラーに過ぎないPC達がそんな
仕事を任されるというのは無理な設定だったのです。

 ところが、TNEでは、かつての広大な帝国領全体が「未知の世界」と化していま
す。得られる情報といえば、「大崩壊」以前のデータのみ。既に述べた通り、大崩壊
とそれに続く70年の期間があればどんな変化だって可能ですから、実際にそこに着
陸して調査するまで何があるか何が起こるか予想できません。



7回:ハードSF指向

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referees of science-fiction games should not be too shy about breaking the
laws of physics. But the "science" in the genre's name requires you to at
least know what you are doing and have a pretty good reason for doing it.

                           "Fire, Fusion, & Steel"

 SF−RPGをプレイするとき、いつも物理法則を厳密に守る必要はないだろう。
 しかし、SFのSは科学(science) のSだということを忘れてはいけない。無自覚
に、あるいはちゃんとした理由もなしに、気楽に物理法則を破るべきではない。
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 旧トラベラー/メガトラベラーに比べると、「できるだけ物理の基本法則を尊重す
る」「想像上の技術であっても、可能な限りリアルに定量的に設定する」というのが
TNEの基本姿勢です。

 ジャンプドライブや超能力といった、ゲームを成立させる上で必要な「大嘘」は許
すものの、物理の基本法則をこっそり破るような「小嘘」は出来るだけ止めましょう、
というわけです。

 例えば、メガトラベラーにおいては、宇宙船は「スラスター駆動」なる無反動推進
によってスイスイと宇宙空間を航行できることになっていました。しかし、TNEで
は、そのような「ニュートン力学に違反する」推進方法は許されません。

 TNEでは、宇宙船は原則として水素プラズマ反動推進を使って航行します。

 宇宙船に積んである液体水素は、核融合炉の燃料として使うと共に、宇宙船を推進
させるための推進質量としても使われます。宇宙船の船尾にある燃焼室(チャンバー)
に水素を送り込み、高温プラズマ化して背後に噴出させ、その反動で推進するわけで
す。

 燃料タンクに積んである液体水素は、単に「核融合炉で燃やす」のではなく「反動
を得るための推進材として噴出する」わけですから、単位時間あたりの消費量は非常
に大きくなります。
 そして、その消費量については、運動量保存則を破らないようにきちんとデータ化
されています。

 例えば偵察艦のデータを調べてみましょう。メガトラベラーでは、最大加速で連続
推進しても、燃料は1カ月くらいもちます。ところがTNEでは、同じ条件で、何と
20時間ほど加速すると燃料がなくなってしまいます!

 しかも、当然のことながら、宇宙船を減速するのにも同じだけの燃料が必要です。
つまり逆噴射しないと減速できないわけです。

 ですから、最大加速を10時間以上続けたら、もうこの偵察艦は二度と停船するこ
とが出来なくなります。新時代のトラベラー達は、常に宇宙船の残存燃料をチェック
していなければなりません。これは、全くの死活問題なのです。

 ハードSF指向になったのは宇宙船の推進方法だけではありません。他の例をいく
つか挙げてみましょう。

 メガトラベラーではエアラフトを始めとする反重力機器は、反重力エンジンを使っ
て空を自由に飛び回っていました。

 しかし、TNEでは、反重力は「重力の影響を打ち消す」効果しかありません。移
動のためには、ジェット噴射やプロペラなどが必要になります。しかも、慣性質量は
消えませんから、加速にも減速にも燃料と時間がかかります。

 メガトラベラーにおける高エネルギー銃器は、スペオペ的なガジェットに近いもの
でした。引き金を引くと眼も眩むような光線が発射される、いわゆる「光線銃」のよ
うなものだったのです。

 TNEでは、高エネルギー銃器の動作原理はきちんと設定され、定量的なデータが
与えられています。

 ちょっとプラズマライフルのデータを見てみましょう。この銃器は連射できません。
なぜなら、1発撃つ毎にバックパックから供給される液体窒素による強制冷却システ
ムで銃身の温度を下げなければならないからです。
 高速で撃ち出される高温プラズマは、どうして大気中で急速に拡散してしまわない
のでしょうか。それは、引き金を途中まで引いたときにレーザーが発射され、これが
射線上の大気をイオン化するからです。引き金を引き終わったときに高温プラズマが
発射され、これが大気中のイオン化された「トンネル」を進むことで、拡散する前に
目標に命中するのです。

 発射される高温プラズマには質量があります。ですから、プラズマライフルには、
反動があります。また、命中したときは高温による装甲貫通効果に加えて衝撃(運動
量)によるダメージも計算されます。さらに高速で命中した高温プラズマは、目標の
周囲に飛び散るという特性も持っています。

 このように、TNEのプラズマライフルは、もはや「光線銃」の類ではありません。
きちんとした設定と、定量的データを持つ、リアルな銃器です。

 ここで挙げた他にも、TNEのシステムは全体的に「物理法則重視」「リアリティ
重視」「定量的データ重視」という方向に向いています。
 要するに、TNEでは、物理法則と定量的データ(そして経済原理)が、PC達の
非現実的な活躍を阻止するのです。

 もしあなたが軽快なスペオペを求めているなら、TNEをプレイしても欲求不満が
溜まるだけでしょう。他のRPGをプレイすることをお勧めします。

 しかし、もしも「生活感と現実感にあふれたリアルなSF」を求めているのなら、
TNEこそ、あなたのためのRPGです。長く続けても決して飽きがこないことでし
ょう。



第8回:摂政統括地域

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Although the main focus of the material in Traveller : The New Era is
on the Wilds and the expansion of the Star Vikings, the game can be set
in any of a wide variety of locals and backgrounds.
                                     TNE
 TNEの最も良い遊び方は、スターヴァイキングとして活躍することだ。
 しかし、TNEはそれ以外にも様々な設定でプレイできるように作られている。
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 もともとトラベラーは汎用SF−RPGとしてデザインされたものです。ですから
「トラベラーの典型的なシナリオ」というものは存在せず、たいていどんなシナリオ
でもプレイできるようになっていました。

 が、「どんなシナリオでもプレイできるRPG」というものは、実にしばしば「ど
んなシナリオをプレイすればよいか分からないRPG」になってしまいます。旧トラ
ベラー/メガトラベラーにも、そういう問題がありました。


(余談)「どんなシナリオをプレイすればよいか分からない」とお悩みの方へ。
    FRPGM のデータライブラリ4番に登録されている「メガトラの始め方(完全
    版)」をお勧めします。後半に「シナリオはこう作れ」と題して、メガトラ
    ベラーを始めとする多くのRPGに応用できるシナリオ作成方法が詳しく解
    説されています。(これに限らず、馬場秀和の作品は、PDF00200というID
    または「馬場秀和」という名前をキーに検索できるようになっています)


 どんなシナリオにも対応できる汎用性を持ちながら、どのようなシナリオをプレイ
すればよいか迷う人に対して方向性を明確にすること。
 TNEでは、恒星地域(stellar region)という概念を取り入れることで、この目標
を達成しようとしています。

 すなわち、トラベラー宇宙を独立したいくつかの恒星地域に分割して、レフリーに
それぞれ自分の要求に合った恒星地域を選択させる、というわけです。

 これにより、「従来のトラベラーの設定をそのまま続けたい人」「全く独自の設定
を作りたい人」「オフィシャルに設定された舞台とシナリオを使いたい人」といった
様々な人の要求を全て満足させることができるのです。

 では、TNEで定義されている4つの恒星地域、およびそこを舞台にしたシナリオ
の方向性について、解説してゆきましょう。

 今回は、摂政統括地域についてです。


・摂政統括地域(The Regency)

 かつて「デネブ領域」と呼ばれていた恒星地域です。(トラベラーの主要舞台だっ
たスピンワードマーチ宙域もここに含まれます)

 この地域は、「大崩壊」の影響をほとんど受けていません。というのも、帝国領の
大部分を壊滅させたAIウイルスは、とうとうデネブ領域に侵入することができなか
ったからです。(なお、後にスピンワードマーチ宙域のトリン星域にウイルスが侵入
して大災害を引き起こしましたが、素早い「検疫」活動によりそれ以上の被害拡大は
防がれました)

 このときデネブ大公であったノリス・エイラ・アルドンは「やがて新しい帝国が誕
生する日が来るだろう。そのときまで、デネブ領域は帝国の”摂政”としての役目を
果たそうではないか」と演説し、デネブ領域を摂政統括地域と改名すると共に、ちゃ
っかり自分が初代摂政になったのです。

 超能力の研究と実用化が解禁されたこと、およびウイルス侵入を防ぐための手続き
や体制を除けば、摂政統括地域の状態は帝国時代からあまり変化していません。人々
は今でも自分たちのことを「帝国市民」と呼んでいます。

 次のようなレフリーは、摂政統括地域を舞台にするとよいでしょう。

・今までに発売された旧トラベラーのシナリオを、日付だけ変えてそのまま使いたい

・「トラベラーは宇宙船で貿易しながら借金を返済するRPGだ。それ以外のプレイ
 スタイルを俺は認めん!」という強いこだわりがある



9回:ポケット帝国

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The pocket empires were intended for groups that like to create their own
unique campaign without having the "official" campaign get in their way.

                                CHALLENGE #71

 「オフィシャル」な設定を使わずに、自分達だけのユニークな宇宙を作り出したい
と思っているグループのために用意したのが、「ポケット帝国」という設定である。
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 「どんなシナリオをプレイすればよいか分からない」という人のために、TNEで
は、サプリメントで詳細な設定情報やシナリオを提供しています。この「オフィシャ
ル」な情報を読めば、TNEで何をすればよいのか誰にでも分かる仕組みです。

 しかし、その一方で、TNEはトラベラーが築いた「汎用SF−RPG」としての
地位を放棄したわけではありません。
「どんなSFでも再現できる」という旧トラベラーが持っていた特徴を、TNEもち
ゃんと引き継いでいるのです。

 これら2つの方向性を、TNEでは恒星地域(stellar region)という概念を使って
両立させています。すなわち、トラベラー宇宙を、独立したいくつかの恒星地域に分
割して、それぞれの方向性に合った恒星地域をレフリーに選ばせるというわけです。

 今回は「オリジナルな設定を作りたい」「オフィシャルな設定にうまく合わない特
定のSFを再現したい」といった要求を満たすために作られた恒星地域、「ポケット
帝国(Pocket Empires)」について解説しましょう。


B.ポケット帝国地域(Pocket Empires)

 「大崩壊」の嵐はデネブ領域を除く旧帝国領の全てに襲いかかりましたが、全ての
世界が完全に破壊されたというわけではありません。ごく一部の世界は、致命的な破
壊を免れ、何とか文明の灯を守り抜くことが出来たのです。

 そのような世界がいくつか近い距離に存在する場合、幸運にも破壊を免れた宇宙船
を使って細々と連絡を取り合うことが出来るかも知れません。それらの世界達は、何
とかして技術文明を維持しようとして、お互いに協力するようになるでしょう。

 こうして、ごく小さな恒星間グループが結成されます。

 宇宙船で情報交換を行うのが精一杯というグループもありますが、中には小規模な
がら恒星間貿易を再開できるだけの宇宙船を持っているグループもあるでしょう。

 しかし、いずれにせよ、宇宙船は、再建できないあまりにも貴重な存在です。
 グループの外に広がる暗黒の宇宙に向けて、宇宙船を送り出すことなど問題外なの
です。仮に送り出したとしても、そのような宇宙船は帰還しないでしょう。(後述す
るように、ポケット帝国の外に広がる荒野地域は、あまりにも危険な場所なのです)

 こうして、恒星間グループが孤立してから70年の歳月が流れます。

 生き延びているグループは、今や独自の文化・慣習・政治形態を発達させています。
社会を支えている人々は大崩壊の後に生まれた世代であり、かつての「帝国」は伝説
と化しています。

 このように外界から切り離され、孤立して発展してきた恒星間グループを、TNE
では「ポケット帝国」と総称します。ポケット帝国は、それぞれがユニークな存在で
あり、中には70年の間にとてつもない異様な社会へと変貌している場合もあります。


 さあ。「オフィシャル」な設定はこれで終わりです。後はレフリーの想像力と創造
力に全てが任されます。
 どんな世界でも、どんな社会でも、どんな環境でも自由に作ることが出来るのです。

 →狂ったコンピュータに支配された世界

 →超能力者が普通人を支配している世界

 →閉ざされた巨大都市に孤立し、「外」という概念を持たない世界

 →凶暴で敵対的な動植物に囲まれ、常に命懸けで生き延びている人々

 →クローン再生が当然のことになり、自然分娩がタブーとなっている社会

 →特殊な放射線により全ての人々が奇怪なミュータントと化している社会

 →臓器売買が一般化し、貧民街が支配階級にとっての臓器畑となっている社会

  ・・・

 TNEは、あなたが観た/読んだ/聞いた/思いついた、あらゆるSFを再現でき
るようになっているのです。

 世の中には「どんなストーリーでも可能」と言いつつ、そのためのシステムを提供
しない無責任なRPGだってあります。
 TNEは違います。「どんなSFでも可能」という目標を達成するために、TNE
では強力な仕掛けを用意しています。それは、パワフルな「自作ルール」です。

 TNEにおいては、恒星系から動物まで、宇宙船から蓄電池まで、やろうと思えば
徹底的に自作できるように、各種の自作システムとデータが提供されています。

 注目すべきことに、物理の基本法則すらカスタマイズの対象になっています。もし
レフリーが望むなら、「常温核融合」のエネルギーを使い、「ディーンドライブ」で
飛翔する「空飛ぶ戦艦」の定量的データを作成することも可能なのです!

 ポケット帝国の設定を使って、さらに強力な自作ルールを駆使すれば、まず大抵の
SFを再現することが出来るでしょう。



10回:荒野地域

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there are people out there that call themselves "human" who are murdering
each other just to be king of some scrap heap that's so deep in dead bodies.

                                     TNE

 そこでは、かつて「人間」だった者たちが互いに殺しあっている。何の目的もなく、
ただ屍の山を築き、それを支配するために。
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 今までに説明した2つの恒星地域、摂政統括地域(The Regency) とポケット帝国地
域(Pocket Empires)は、TNEの本命と比べると実は「おまけ」に過ぎません。

 では、TNEの本命とは何でしょうか。

 それは、荒野地域(The Wilds) を舞台にした、危険で暴力的な物語です。

 強大な軍隊、邪悪なコンピュータウイルス、狡猾なギルド。PC達は様々な恐るべ
き敵と死闘を繰り広げ、自らが流した血をもって未来を切り開いてゆかなければなり
ません。トラベラー宇宙の未来を。

 しかし、先走りするのは止めて順番に解説してゆきましょう。

 今回は冒険の舞台となる荒野地域についてです。


C.荒野地域(The Wilds)

 大崩壊によって、かつての帝国領のほとんどが壊滅に近い打撃を受けました。

 多くの世界は文字通り全滅し、無人惑星となってしまいました。
 しかし、いくつかの世界は、人口の激減、文明の崩壊、秩序と治安の消滅といった
悪夢のようなカタストロフィを経験しながらも、何とか生き延びることが出来たので
す。

 それらの世界においては、大崩壊の直後に暴動が起こりました。食料やサバイバル
用品をめぐった奪い合いが起こり、強奪と殺人の嵐が巻き起こりました。秩序を維持
すべき軍や警察も、今や武装した暴力集団と化してしまったのです。

 それから、深刻な食料不足と疫病が襲ってきました。多くの人々が最初の冬を越す
ことが出来ずに死んでゆきました。

 やがて、わずかに残されたテクノロジーを独占した者が、独裁者として君臨するよ
うになりました。
 銃火器、反重力輸送機器、パワープラントといった機器を専有することで権力基盤
を築いている独裁者を、TED(Technology Elevated Dictator)と呼びます。人々は
TEDの支配のもとで奴隷のように働く他に道はありませんでした。

 こうして数世代が過ぎるうちに、人々は帝国のことも宇宙のことも忘れ、科学的な
知識や精神も失われ、迷信と宗教に縛られた無知蒙昧な農奴として一生を過ごすよう
になります。

 TEDは、自分の権力を維持するためにテクノロジーの独占を続けようとします。

 ですから、民衆には「テクノロジーは大崩壊を引き起こす原因となった邪悪な存在
であり、神から神聖なる力を授かっている支配者のみが安全に扱うことができるのだ。
普通の者がテクノロジーに触れれば、たちまち恐るべき天罰が下るであろう」などと
言って、テクノロジー恐怖症を煽ります。もちろん科学や技術の発展をあらゆる方法
で妨害することも忘れません。

 また、TEDは、他の世界から知識やテクノロジーが流入すれば、自分の権力基盤
が危うくなることをよく知っています。

 ですから、外世界から商人がやってきたとしても、通商や貿易は全て自分で独占し
ようとします。また、可能なら商人を逮捕し、宇宙船を積み荷ごと自分のものにしよ
うと考えるでしょう。

 さらに、権力を維持するためには、民衆に外世界のことを知らせてはなりません。
ましてや、テクノロジーが開放され誰でも使えるようになっている世界があることを
知られるなどもっての他です。

 そこで、TEDは、民衆が外世界人と接触することを極力避けようとします。
「外世界からくる者はみんな邪悪な存在であり陰謀を巡らせているのだ。彼らの甘言
に耳を傾けてはならない。外世界人は全て敵だ」という具合に吹き込みます。
 こうして、外世界恐怖症が強化されてゆきます。

 今や、テクノロジー恐怖症と外世界恐怖症が蔓延した閉鎖的な社会が出来上がりま
した。この世界は永久に恒星間文明を発展させることはないでしょう。誰かが流れを
変えてやらない限り。

 そう。すでにお分かりの通り、この流れを変えることがPC達の仕事です。

 TEDを倒し、テクノロジー恐怖症と外世界恐怖症から民衆を解放し、そして世界
の流れを変えるのです。恒星間文明を目指す方向に。

 TNEは、恒星間文明の再建を目指す人々と、それを阻止しようとする勢力との戦
いを扱ったSF−RPGです。
 PC達は、愛や正義ではなく「テクノロジーと自由貿易」を信じ、そのために命を
賭けるのです。



11回:スターヴァイキング

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So what are you waiting for, trooper? Strap up and move out!
History's written by the winners, and I just got myself some paper...

                   "Reformation Coalition Equipment Guide"

 もたもたするな。腹に力を入れて飛び下りろ!
 歴史は勝者が書くものだ。ペンと紙は用意してあるぞ。
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 いよいよTNEの本命、「スターヴァイキング」キャンペーンの解説を始めます。

 前述した通り、旧トラベラー/メガトラベラーは「何でもできる汎用SF−RPG」
を狙うあまり「何をしてよいか分からないRPG」になる危険性がありました。
 これは、トラベラーシリーズに限らず汎用を目指すRPGに共通の問題です。

 最近のRPGは、「PCの立場や目標を決めてしまい、何をすればよいかをはっき
り明示する」ということにより、この問題を解決しようという方向にあるようです。

 いわく「君達はストームナイトだ。ハイロードを倒せ」
 いわく「君達はシャドウランナーだ。ホットなビズが待ってるぜ」
 という具合です。


 TNEでも基本的に同じやり方が採用されています。

 PC達は「スターヴァイキング」と呼ばれる特殊部隊のメンバーになり、最終目標
として恒星間文明の再建を目指します。

 しかし、とりあえずの目標としては、敵対的な惑星に潜入して、諜報活動から強襲
攻撃に至るまであらゆる作戦に従事し、作戦の成功と生還を目指すことになります。

 これなら「何をしてよいか」プレーヤーが悩む必要はありません。与えられたミッ
ションを限られた人数と装備で達成して生還すればよいのです。もちろん具体的なミ
ッション達成の手段と作戦については、プレーヤー間で相談して決めてゆくわけです
が。

 このように、TNEは「ミリタリーSF」または「特殊部隊もの」を狙ったRPG
であるため、シナリオは旧トラベラーやメガトラベラーよりずっと派手になります。

 例えば、シナリオ集"Smash & Grab"に収録されているシナリオを少しだけ紹介する
と次のような感じです。

ミッション1 「捜索打切」(Presumed Destroyed)

 行方不明になった仲間が、ある惑星に捕らわれていると判明した。この惑星に密か
に潜入し、刑務所を襲撃して彼らを解放せよ。

ミッション2 「強襲降下」(Hit the Silk)

 ある惑星の軍事基地に、帝国時代の貴重なデータベースが保存されていることが分
かった。
 バトルドレスを装着し、軌道上から耐熱カプセルで地表に降下せよ。強襲揚陸艦の
支援のもと、敵防衛部隊を撃破してデータを奪取し、帰還するのだ。

ミッション3 「要人誘拐」(Outside Influence)

 我々の同胞が、ある惑星で独裁者として君臨しているとの情報が得られた。
 現地にゆき、真偽を確認せよ。真実である場合、裏切り者を誘拐して護送してくる
ように。ただし、彼は我々の状況や作戦傾向について熟知しており、さらに攻撃を予
想して厳重な警備を敷いていることが予想される。幸運を祈る。

・・・

 という具合です。これらのミッションをPC達わずか数名のチームで遂行しなけれ
ばならないわけです。

 このような過酷なミッションを達成して生還するためには、PC達はエキスパート
であることが要求されます。

 バトルドレスやレーザーライフル、グレネードランチャーから戦術ミサイルに至る
まであらゆる武器を使いこなせなければなりません。またコンピュータから金属溶接
まで様々な技術を習得し、医療から帝国時代の歴史まで幅広い知識を身につけていな
ければならないでしょう。


 というわけで、「オフィシャルな」TNEがどのようなRPGであるか、だいたい
想像できたことと思います。

 しかし、そもそも「スターヴァイキング」とは何でしょう。PC達はどんな組織に
属し、どのような事情でミッションに挑むのでしょうか?



12回:オールドエクスパンス地域

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Then the Hiver ship landed. A lot of people were frightened but not
Grandfather. Not me, either. The first time I saw one of them, I know.
We were going back to the stars.
                                     TNE
 それから、ハイヴ人の船がやってきた。みんなは怖がったけど、祖父は恐れなかっ
た。僕も怖くなかった。最初にハイヴ人を見たとき、はっきり分かったからだ。
 星々の世界が僕たちを待っていることが。
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 いよいよ最後の恒星地域であるオールドエクスパンス地域(Old Expanses)について
解説します。


 帝国歴1130年。大崩壊の年。

 流出した最終兵器であるコンピュータウイルスは、野火のように帝国領に広がりま
した。帝国領の大部分を席巻したウイルスは、さらに国境を越えて近隣諸国にまで広
がってゆきました。アスラン帝国、ヴァルグル連合、ハイヴ連邦、そしてククリーの
二千世界・・・。全ての世界が壊滅的な打撃を受けました。

 やがて、ハイヴ人が他の種族に先駆けていち早く復興に乗り出しました。彼らはそ
の優れた電子工学技術をもってコンピュータネットワークを再構築し、ハイヴ連邦の
再建に向けて作業を開始しました。

 ハイヴ人は、物事を長期的に考える種族です。
 ハイヴ連邦の復興計画を進めながら、彼らは他の種族に対する対処方針を検討しま
した。

 特に彼らが重視した問題は、「人類に対しどのようなアクションをとるべきか」と
いうものでした。遠い将来、いつか人類が復興したとき、ハイヴ連邦にとって脅威に
なる可能性は無視できません。潜在的な脅威は取り除いておくことが大切です。

 彼らは「最小の投資で最大の効果を得る」やり方を好みます。彼らが戦争を嫌うの
は、それが目的を達成する上で極めて投資効率の悪い方法だからでしょう。

 ハイヴ人のやり方は、微妙な心理操作(Manipulation)を活用して、僅かなアクショ
ンで社会や歴史を望む方向に動かすというものです。(かつて、好戦的なククリー人
がハイヴ連邦に攻め込んできたとき、ハイヴ人は軍事力を使うことなく心理操作だけ
でこれを撃退してのけました。これがハイヴ・ククリー戦争の真相です)

 こうして、ハイヴ人は人類に援助を与えることを決定しました。ハイヴ連邦に近い
一部の地域を選んで技術支援を与えるのです。
 こうして「恩を売っておく」と共に、心理操作により「恒星間文明を再建しよう」
という衝動を植えつけます。あとは彼らが勝手にテクノロジーと自由貿易のために命
を賭けて頑張ってくれるのを見ていればいいわけです。

 やがて再建される(であろう)人類の恒星間文明は、ハイヴ人に対して好意的なも
のになるでしょう。少なくとも、「恩人である」ハイヴ人を攻撃することには、極め
て大きな心理的抵抗が働くことになるでしょう。これは投資と比較すれば、かなり大
きな成果だと言えます。


 帝国歴1192年。大崩壊から62年。

 かつての帝国とハイヴ連邦の国境、オールド・エクスパンス宙域(Old Expanses)に
ハイヴ人のコンタクトチームが送り込まれました。
 もちろん、彼らは多くの世界で怪物・悪魔扱いされました。(ハイヴ人の外見は、
「巨大なヒトデが触手を振り回して這いずってくる」という感じです)

 しかし、いくつかの世界は「見込みがある」と判断されました。そのような世界が
比較的多い地域を選んで、ハイヴ人達は人類のための技術者養成学校をいくつか設立
しました。これらがハイバー・テクニカル・アカデミー(Hiver Technical Academy)
です。

 ハイヴ人達は各世界から優秀な若者を集めてきて、テクニカル・アカデミーで科学
技術を教えました。内燃機関から核融合プラント、化学ロケットから水素プラズマ推
進、反重力リフター、レーザー、広帯域センサー、そしてコンピュータとウイルス検
知技術。
 卒業した若者は出身世界に戻り、それらの技術を広めてゆきました。


 帝国歴1197年。大崩壊から67年。

 オールドエクスパンス宙域の一部で、恒星間の通商貿易が開始されました。やがて
通商貿易は拡大され、星域2つ分の世界が参加する貿易圏にまで成長していったので
す。

 ついに暗黒時代は終わりを告げた。宇宙の夜明けは近いぜよ。

 喜びにあふれる人々は、協力して恒星間文明を再建しよう、と意欲に燃えて「夜明
け連盟(Dawn League) 」を結成。ここに小規模ながら恒星間の共同体が発足したので
す。


 帝国歴1199年。大崩壊から69年。

 夜明け連盟に属する20ほどの世界が共同出資して、大規模な通商貿易船団が建造
されました。12隻の大型貿易船からなるこの船団の任務は、隣接するディアスポラ
宙域の世界を訪問して交易を行うと共に、今後の夜明け連盟との通商貿易条約を締結
すること。

 夜明け連盟に属する世界のうち、宇宙船を建造できるテックレベルに達した世界で
は、船団の建造が急ピッチで進められました。
 この船団には、夜明け連盟が持っている技術と資源の全てが注ぎこまれたのです。

 また、船団に乗り込む船員の募集が行われ、多くの人々がつめかけました。
 誰もが「科学技術と恒星間文明への参加を心待ちにしているであろうディアスポラ
宙域の人々に希望の光をもたらす」という歴史的な任務に就くことを切望したのです。

 船員の選別は困難な作業でしたが、ついに「ベスト・オブ・ザ・ベスト」が選出さ
れました。技術的、知識的、人格的に最高の人材が選び抜かれ、人類の代表としてデ
ィアスポラ宙域へ向かうのです。

 そして、ついに完成した船団は、人々の希望を乗せて船出しました。


 帝国歴1200年。大崩壊から70年。

 ディアスポラ宙域に向かった船団は、ただの1隻も帰還しませんでした。



13回:リフォーメーション・コーリション

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If we humans had set out to select worlds guaranteed to fail, we would have
chosen these worlds, or some very much like them. But humans did not choose
these worlds. Hivers did. The Coalition, of course, did not fail.

                               "Path of Tears"

 どう考えても、リフォーメーション・コーリションに成功のチャンスはなかった。
政治・経済的な状況は最悪だったのである。しかし、いずれにせよ人類に選択の余地
はなかった。ハイヴ人が、彼らを選択したのだ。そして、その選択は正しかった。
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 オールドエクスパンス地域(Old Expanses)の解説を続けます。


 帝国歴1200年。大崩壊から70年。

 夜明け連盟(Dawn League) がディアスポラ宙域に放った12隻の船団は、予定を過
ぎても1隻も帰還しませんでした。

 航路上の各世界に諜報員が送り込まれました。彼らの報告によって、夜明け連盟は
船団の運命を知ると共に、ディアスポラ宙域がどのような場所になっているかをよう
やく認識しました。


 船団のうち、何隻かの船は惑星に着陸することさえできませんでした。

 AIウイルスによって操られている宇宙船、いわゆる「ヴァンパイアシップ」に攻
撃されて、自らが新たなヴァンパイアシップと化した船もありました。

 また、通商貿易の独占権を守るために恒星間文明の復興を阻止しようとする「商人
ギルド」の宇宙船から攻撃された船もありました。

 商人ギルドの実態は、要するに組織化された宇宙海賊です。拿捕された宇宙船と積
み荷はギルドのものになり、乗組員は殺されるか、またはどこかの惑星に売られてし
まいました。

 ヴァンパイアシップやギルドシップの攻撃を免れた船も、惑星地表や衛星、小惑星
からの攻撃を受けました。

 帝国時代、多くの惑星は高度に自動化された惑星防衛システムを導入していました。
 惑星に接近する宇宙船を自動迎撃する大出力レーザー衛星、地表深くに設置され、
軌道上の宇宙船をメゾンガン(中間子砲)で狙撃する防空システム、そして軌道から
降下する宇宙船を撃ち落とす地対空ミサイル網など。
 そして、いくつかの惑星では、今なおこれらのシステムが稼働しているのです。

 惑星地表に着陸できた船も、決して幸運とは言えませんでした。

 既に解説した通り、荒野地域(Wilds) の住人には排他主義や技術恐怖が蔓延してい
たのです。

 彼らにとって、宇宙からやってくる者は「地表に災いをもたらす悪魔」です。また
科学技術は「大崩壊の原因となった忌まわしい呪い」に他なりません。

 いくつかの船は、着陸してエアロックを開いた途端に住民の襲撃を受けました。
 不意打ちされた乗組員は反撃態勢を整える余裕もなく船外に引きずり出され、リン
チの末に殺されました。

 また他の惑星では、代表者との交渉まで話を進めることが出来ましたが、結果は大
差ありませんでした。
 「代表者」は、わずかに残されたテクノロジーを独占することで独裁者として君臨
している連中、いわゆるTED(Technology Elevated Dictator)だったのです。

 TEDの権力基盤は、高度なテクノロジーを独占しているという点にあります。も
しもテクノロジーが外世界からどんどん流入してくれば、権力基盤が揺らぐことにな
るでしょう。さらに、民衆が排他主義や技術恐怖を克服して、外世界や科学技術につ
いて知識を得たりすると、革命が起きるかも知れません。

 ですから、外世界との通商貿易などTEDにとって論外です。

 TEDは、宇宙船の乗組員を油断させておいて、全員を逮捕してしまいました。も
ちろん、宇宙船やその積み荷は全てTEDのものです。
 逮捕された乗組員は処刑されるか、または幽閉されました。


 諜報員の報告により、ある惑星で乗組員が監禁されていることを知った夜明け連盟
は、彼らの救出作戦を実行に移しました。

 まず諜報員グループをその惑星に潜入させ、刑務所の場所や警備状況を調べます。
それを元に襲撃プランを立てます。

 言うまでもなく、宇宙船で運べる人数や兵器は非常に制限されます。テックレベル
はこちらの方が高いとは言え、まともに戦えば勝ち目はありません。勝機はただ一つ。
少人数の精鋭メンバーを送り込み、相手が気づいたときには既に全てが終わっている
ほどの早さで「襲撃と奪取(Smash & Grab)」を行う電撃作戦です。

 作戦は成功しました。それどころか、思わぬ副産物まで得ることが出来ました。

 刑務所襲撃に先立って、別チームがTEDの補給基地を襲い、エアラフトや重火器
などのハイテク機器を略奪しました。これは敵の素早い反撃を封ずることが目的でし
たが、結果的にTEDの権力基盤を破壊してしまったのです。

 襲撃後、クーデターが勃発し、TEDは捕らえられ処刑されました。新たな政権は
テクノロジーの普及や外世界との通商貿易に対して意欲的でした。

 こうして、1つの惑星が外世界に対して門戸を開き、やがて恒星間文明に至るであ
ろう道を歩み始めたのです。

 夜明け連盟は、この作戦からいくつかの教訓を得ました。

1.理想だけで恒星間文明を再建することは出来ない。力が必要だ。

2.全ての人々が完全に排他主義と技術恐怖に支配されているわけではない。
  まだ、今なら間に合う。だが、チャンスは日に日に少なくなっている。

3.TEDの権力基盤は意外に脆い。大規模な侵攻作戦ではなく、特殊部隊の投入に
  よるゲリラ作戦によりTEDの支配を覆すことが可能な場合もある。


 恒星間文明の再建というゴールを目指すためには、新しい方法と新しい組織が必要
なのです。こうして、平和と理想に燃えた夜明け連盟は、わずか3年にして解散する
ことになりました。

 そして、リフォーメーション・コーリション(Reformation Coalition : 再建同盟)
が結成されたのです。


 帝国歴1201年。大崩壊から71年。

 リフォーメーション・コーリションの活動が本格的に開始されました。

 公式には、この年は「帝国歴1201年」でしたが、しだいに人々は別の呼び方を使う
ようになってゆきました。それは「新暦1年 (New Era 1)」というものです。

 新時代(Tne New Era) が始まったのです。



14回:スマッシュ・アンド・グラブ

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The Reformation Coalition undertakes all of them - intelligence gathering,
diplomacy, economic redevelopment, interstellar trade and commerce
and many, more.
But of all of them, the one that became synonymous with the Coalition, the
one most closely linked to the Star Viking mystique, was called...

                               "Smash & Grab"

 リフォーメーション・コーリションの活動は、諜報任務、外交、再開発、恒星間の
通商と貿易など、幅広い分野にまたがっている。
 しかし、コーリションの名を宇宙に轟かせ、今日なおスターヴァイキングの伝説と
共に語り継がれているものが1つある。それは・・・
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 旧トラベラー/メガトラベラーでは、「典型的なシナリオ」というべきパターンが
存在しませんでした。このため、最初のうち(トラベラー宇宙について知識が不足し
ているとき)は、いったい何をすればよいのか分からず戸惑うというケースが数多く
見られました。

 これに対して、TNEには黄金のパターンが存在します。「スマッシュ・アンド・
グラブ(襲撃と奪取)」と呼ばれるシナリオです。

 少なくとも最初のうちは、このパターンに従ったシナリオをプレイして下さい。
 TNEの楽しさを満喫することができるはずです。

 では、スマッシュ・アンド・グラブがどのようなものか、例を示しましょう。


(0)PC達の立場

 リフォーメーション・コーリションを構成する組織のうち、特に国境外の世界に対
する作戦を担当しているのが、探査局(RCES : Reformation Coalition Exploratory
Service)です。
 PC達は、探査局のメンバーか、または探査局に雇われたフリーランサーとして活
動することになります。


(1)ミッション・ブリーフィング

 PC達のチームに対して、例えば次のような任務が与えられます。

・ある惑星Xに送り込んだ諜報員の報告によると、Xを統治しているのは独裁者TE
 Dだが、それに敵対している勢力Rのリーダーは外世界との交渉について肯定的と
 のことだ。
 TEDの権力基盤は、基地Yに保存されている帝国時代の遺品テクノロジーZに依
 存している。Zを失えばTEDの独裁政権は弱体化するだろう。

・その機会に、探査局は勢力Rを支援して、勢力Rに政権を奪取させる計画である。
 その後、外世界との貿易開始、テックレベル自力向上のための教育施設設立などの
 項目について、新政権Rと交渉する。
 うまくゆけば、惑星Xは数年後には恒星間文明の仲間入りをすることだろう。

・そこで君達の使命だが、惑星XにあるTEDの基地Yを襲撃して、機器Zを奪取し
 て欲しい。
 惑星Xの情報、各種の地図、基地Yの警備状況、及び探査局からの支援攻撃につい
 ては次の通りである・・・。

・報酬だが、1名あたりNクレジットの報酬、プラス、機器Zおよび任務遂行の際に
 獲得した帝国時代の遺品テクノロジーの売却権だ。つまり、獲得した機器を売却し
 た収益は、定められた手続きにより君達のものになる。


 目標は「帝国時代の遺品テクノロジーの奪取」とは限りません。「刑務所からの囚
人奪回」、「防衛施設の破壊」、「要人の誘拐」など様々なものがあります。

 しかし、いずれもシナリオの流れは似たようなものです。PC達は警備厳重な施設
に潜入して目的を達した後、敵が反撃態勢を整える前にすみやかに撤退しなければな
らないのです。


(2)偵察

 PC達は装備を整えます。宇宙船や基本的な装備は探査局から与えられます。
 武器などは探査局からレンタルできることもありますし、PC達が自分の所持金で
購入しなければならない場合もあるでしょう。

 PC達は宇宙船で目的の惑星Xに向かいます。場合によっては、この時点でヴァン
パイアシップやギルドシップとの戦闘が発生することもあります。
 戦闘で宇宙船のドライブが破損し、惑星Xで修理部品を見つけられない限り帰還で
きない、というシチュエーションもよくあります。

 惑星Xに着陸したPC達は、宇宙船をどこかに隠して、敵地に潜入します。
 報告をもたらした諜報員や、勢力Rと接触して支援を得ることが当面の目標となる
でしょう。

 活動の拠点を固めたPC達は、基地Yへの偵察を開始します。作戦遂行に必要な詳
細情報(警備員の配置や巡回時間とか)が得られます。

 作戦開始の準備が整いました。後は実行に移すだけです・・・。しかし、もちろん
事はそう簡単には進みません。


(3)トラブル

 準備段階、作戦開始直前、または作戦開始直後に、予想外の重大問題が生じます。
このトラブルを解決しない限り、作戦を遂行するのは無理でしょう。

 PC達は、知恵と度胸、そして技能を使って窮地を切り抜けます。(または次から
次へと発生するトラブルの泥沼にずぶずぶとはまってゆきます)

 実は、ここがTNEの醍醐味というべきパートです。

 この段階でのトラブルは武器では解決できません。(ここで戦闘を起こすようでは
作戦は失敗に終わります)
 従って、旧トラベラーやメガトラベラーと同じく、戦闘を避け、あらゆる手を尽く
して問題解決に取り組む必要があります。対人交渉や修理技能など、様々な技能が要
求されることでしょう。

 やがて何とかPC達はトラブルを一時的にせよ解消します。だが、作戦遂行の時間
的な余裕がなくなります。例えば、敵がPC達に気づいて迎撃態勢を整え始めます。
すぐに襲撃を開始しないと、チャンスは失われてしまうことでしょう・・・。



15回:戦闘

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The Star Vikings are coming, make no mistake about it. Your weapons will
not stop them. Appeals to their reason or mercy will not stop them. Prayers
to your gods will not stop them. You have only one hope of stopping them.
Me.
                               "Path of Tears"

 気をつけろ。スターヴァイキング達がやってくる。そんな武器では歯がたつまい。
説得も懇願も無駄だ。神も助けてはくれない。彼らを倒す方法は、ただ一つだけだ。
 ギルドの武器を買いたまえ。
                         商人ギルドのセールストーク
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 TNEにおける典型的なシナリオ、「スマッシュ・アンド・グラブ(襲撃と奪取)」
の解説を続けましょう。


(4)戦闘

 いよいよ戦闘に突入です。

 TNEの戦闘ルールは、ミリタリーRPGであるTwilight : 2000 をベースにして
SF用に拡張したものです。
 このため、TNEでは非常にストラテジックな戦闘を再現できます。「硬派な戦闘
ルール」を求めている人は、きっと大満足できることでしょう。


 例えば、移動や射線は「グリッド」と呼ばれるマス目付きマップを使って厳密に処
理されます。地形効果もあります。乗物の移動速度は地形毎にデータ化されています。

 索敵は極めて重要です。索敵に影響を与える要素、例えば天候や煙幕なども厳密に
ルール化されています。その他、大気濃度や重力効果、PC達の疲労もルール化され
ています。

 個々の戦闘ルールとしては、格闘戦のルール(殴打、蹴り、飛び蹴り、押さえ込み、
首締め、体当たり、背負い投げ・・・)も魅力的ですが、何と言っても射撃戦と乗物
戦闘がTNE戦闘ルールの白眉と言えるでしょう。

 単射、連射、グレネードランチャー、手榴弾、炸裂砲弾、化学弾、焼夷弾、戦術ミ
サイル、磁気速射砲、レーザー砲、プラズマバズーカ、メゾンガン(中間子砲)、火
器管制システム、着弾誘導、間接支援砲撃、戦闘機のドッグファイト、地対空砲火、
急降下爆撃、弾薬引火、激突、軌道上からの粒子加速砲による地表爆撃・・・。

 さすがにミリタリーRPG出身だけあって、戦争を再現するために必要と思われる
あらゆる兵器と攻撃オプションがルール化され、データ化されています。

 戦闘の解決も抽象的ではなくP非常に具体的です。例えば、手榴弾が爆発したとき
は、衝撃波の処理をした後、飛び散った破片の一つ一つについて処理を行います。


 「そんな詳細なルールを本当にプレイできるのか?」という疑問を持たれる方もい
らっしゃるかも知れません。しかし、慣れればスピーディな戦闘が可能です。これは
私自身が実際にTNEのキャンペーンを運営している経験からも確かです。

 また、旧トラベラー/メガトラベラーの感覚に慣れた方には信じられないかも知れ
ませんが、重火器バリバリの熱い戦場を用意して、敵兵NPCが全力を尽くして戦っ
ても、それでもなおかつPC達はかなりの確率で生きのびてしまいます(!)

 実は戦闘ルールにちょっとした工夫があって、NPCは簡単に死ぬのですが、PC
は負傷してもなかなか死なないようになっているのです。


 ともあれ、PC達は任務を達成し、負傷者をかばいながら素早く撤退します。敵の
追撃がくる前に、この惑星から脱出することにしましょう。


(5)結末

 PC達は任務を達成して帰還します。約束通り報酬を貰った後、獲得物を売却する
ことになります。

 獲得物の標準価格を調べてみましょう。なんと、このさき何年も生活できるぐらい
の財産になるということが分かります。大金持ちになることができそうです。

 しかし、何度かダイスを振って売却価格を決めると、なぜか期待ほどの値にはなり
ません。実に不思議なことです。

 まあ、それでも売上金はかなりの額になります。さっそくPC間で山分けを・・・。
 待って下さい。源泉徴収があります。

 まず、コーリションと惑星政府に対する税金が引かれます。発見者に対する権利金、
宇宙船のオーナーに対する配当金、宇宙船の保守積立金(TNEでは源泉徴収です)、
雇ったNPCへの給料。こういったコストが天引きされます。

 あれあれ。売上金のほとんどが消えてしまいました。変ですね。

 さて、次に清算です。ここまでの処理で残ったわずかな利益から、宇宙船の運行費、
作戦遂行期間の生活費、戦闘で破損した機器の修理費、弾薬などの消耗品の補給費、
病院の入院費、など支出が差し引かれてゆきます。

 もはや利益はほとんど残っていません。ともあれ、PC間で分割してみましょう。
 何ということでしょう。命懸けでミッションを達成したというのに、手元に残った
のは、数カ月分の生活費くらいの現金です。

 しかし、落胆することはありません。
 きっと、次回のミッションでは莫大な収入を得ることができるはずです。それまで
傷の治療にでも専念することにしましょう・・・。


 以上が、TNEの典型的なシナリオの流れです。

 このように敵地に少人数の特殊部隊を送り込んで襲撃を行わせる作戦を、探査局で
はHot Recoveryと呼んでいます。しかし、一般には「スマッシュ・アンド・グラブ」
という名の方が知られています。

 独裁権力にしがみついているTEDにとって、探査局が送り込んでくる特殊部隊は
恐怖の源です。彼らは、リフォーメーション・コーリション探査局(RCES)のメ
ンバーを、恐怖と敵意を込めて「スターヴァイキング」と呼ぶようになりました。

 こうして「スターヴァイキング」の名は宇宙に広がってゆきました。

 やがて、探査局のメンバーですら、しばしば自分達のことを「スターヴァイキング」
と呼ぶようになりました。

 TNE。それは、「新時代」の黎明期に力づくで宇宙を開拓していったスターヴァ
イキング達の伝説を再現するゲームなのです。



16回:基本ルールブック(1)

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It's easy to survive if you don't go anywhere and don't do anything. But if
you plan to go out there into the Wilds, you better know what you're doing.

                                     TNE

 生き残るための秘訣は、どこにもゆかず、何もしないことだ。だが、それでもどこ
かに行って何かをしたいというのなら、自分がやれることについてよく知っておいた
方がいい。
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 TNEの基本ルールブックについて紹介してゆきましょう。

 TNEの基本ルールブックは、実に380ページを越える大作です。が、例によっ
て必読のページというのはそう多くはありません。どこに何が書いてあり、どのペー
ジを読めばよいのか。ページ順に説明してゆきます。(なお、以下は第1版をベース
にしています。改版された場合にはページ数などが変わる可能性があります)


・タイトル〜目次:P1〜P6

 読む必要はありません。


・はじめに(Introduction):P6〜P7

 導入部です。
 単に雰囲気を盛り上げるためのページですから、読む必要はありません。


・歴史(History) :P8〜P13

 トラベラー宇宙の歴史を解説するページです。太古種族の時代から大崩壊に至るま
でを実質約3ページに要約するという、かなり強引な編集になっています。

 一応、P12〜13に書かれている星図とその解説には目を通す必要があります。
それ以外のページについては、トラベラー宇宙の歴史に興味がない方は、読まなくて
もよいでしょう。


・キャラクター作成(Character Generation):P14〜P39

 戦闘ルールと並ぶTNEの「売り」、キャラクター作成ルールです。もちろん読む
必要があります。

 以前に解説した通り、TNEのキャラクター作成ルールは、「トラベラータイプ」
とでも呼ぶべき有名な、独特のシステムを採用しています。

 他のスキルシステムを使ったRPGの多くで採用されている「ポイント割り振り制」
とは全く違う作成方式であるため、始めての人は戸惑うかも知れません。
 しかし、慣れればこんなに楽しいキャラクター作成システムは他にありませんので
是非がんばって読破して、沢山のキャラクターを作成してみて下さい。


・キャリア(Careers) :P40〜P57

 作成途中でキャラクターが就職できる職業のリストです。最初から読む必要はあり
ません。実際にキャラクターを作成するときに目を通せばよいでしょう。

 各キャリア定義には、採用条件や昇格条件、習得可能な技能、獲得できるコネ、そ
の他の恩典などが書かれています。キャラクターは、これらのキャリアに就くことで
能力を磨き、技能を身に付けてゆくわけです。

 どのキャリアにどの順番に就くか、そしていつ引退するか。人生設計に悩みはつき
ものです。


・NPC(Nonplayer Characters):P58〜P72

 NPC作成ルールです。プレーヤーが読む必要はありません。レフリーは、P58
の"NPCs in Combat"からP59の"NPC Motivations" の手前まで、約1ページ半だけ
は読む必要があります。

 最初から読む必要はありませんが、シナリオを用意する段階でP64〜P72にざ
っと目を通すべきです。ここにリストアップされている「テンプレートNPC」から
適当なNPCを選択して、シナリオに登場させるためです。


 旧トラベラー/メガトラベラーでは、PCとNPCにはデータの違いはありません
でした。しかし、TNEは戦闘指向であるため「敵キャラ」を多数、急いで用意する
必要が生じます。

 そこでTNEでは、典型的なNPCのデータを、戦闘における強さ(素人、経験者、
ベテラン、エリートの4段階)毎にあらかじめ決めてあるのです。

 さらに、いかにも多くのシナリオに登場しがちなNPCのデータが「テンプレート
NPC」として用意されています。科学者、商人、農夫、ギャング、警備員、兵士、
さらには「ハイヴ人の先生」とか「アスラン人の刺客」とかいった異種族NPCまで
総勢30名近くのデータがリストされています。

 これで、もはやレフリーがNPCのデータを作成する必要はありません。実に便利
です。


・新時代(The New Era) :P73〜P104

 背景世界を解説するページです。無理に読む必要はありません。なぜなら、新時代
に関して知っておくべき設定情報については、この「新時代紀行」で解説してきまし
たし、今後もどんどん解説する予定だからです。

 なお、P79に載っている星図だけは自分の目で見ておくとよいでしょう。これが
「新時代」におけるトラベラー宇宙の姿なのです。


・タスクと技能(Tasks and Skills):P105〜P128

 タスクシステムと技能の解説です。

 まず、タスクシステムについては、よく読んで充分に理解しておく必要があります。
 なにしろ、これ以降のルールは全てこのタスクシステムをベースに規定されている
のです。いわば、タスクシステムはTNEの根幹なのです。

 技能については、キャラクターを作成する時点でP113〜P115の技能リスト
を見る必要があるでしょう。ただし、個々の技能の解説を最初から読む必要はありま
せん。疑問が生じたときに目を通せばよいのです。「ResearchとInvestigation はど
う違うのだろう?」とか。


・レフリー(Refereeing Traveller):P129〜P134

 レフリーのコツ、および経験点と成長ルールです。

 レフリーのコツについては今後「新時代紀行」でも解説してゆく予定ですが、TN
Eのレフリーを志すのであれば目を通しておいた方がいいでしょう。

 経験点と成長ルールは重要です。ちゃんと読んで下さい。
 特に、一部の経験点を「プレーヤー間の相互評価」に基づいて配布するというオプ
ションは面白いので採用することをお勧めします。

 PCが全く成長しない旧トラベラーや、ほとんど成長しないメガトラベラーに比べ
ると、TNEにおけるPCは比較的よく成長します。

 とは言っても、あくまで「人生の盛りを過ぎた中年にしては」よく成長するという
意味であって、他のRPGのように「数回のセッションでレベルアップ」といったこ
とはありません。
 ですから、例えば他のRPGでキャンペーンを運営するときに生ずる「新人PCと
ベテランPCのレベル格差が付き過ぎる」といった問題は生じません。


・シナリオ、及び背景世界補足:P135〜P178

 2本の入門シナリオ、それに摂政統括地域(Regency) やポケット帝国地域(Pocket
Empires)に関する解説が付いています。
 いずれも、最初から読む必要はありません。

 2本のシナリオは実のところあまり面白くないので、読む必要はないでしょう。
 最初にレフリーするシナリオとしては、サプリメント"Smash & Grab"に収録されて
いるものをお勧めします。

 摂政統括地域やポケット帝国地域の解説については、まず「スターヴァイキング」
セッションを試した後で、舞台を変えたいと思ったときに読めばいいでしょう。


 ここまででルールブックの約半分です。こうしてみると、最初から読まなければな
らないページは意外に少ないことが分かりますね。



17回:基本ルールブック(2)

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The rules are like an assortment of tools in a tool box, but they aren't
the only things in the tool box. If the rules are the best tools, use them.
If they aren't, use something else.
                                     TNE

 道具箱の中に整然と並べてあるツール類、それがルールである。しかし、あなたの
道具箱には他にも色々な物が詰まっているはずだ。ルールによる解決が最適な場合は
迷わずそれを使いたまえ。しかし、そうでない場合は、何か他の方法を試すべきだ。
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 TNEの基本ルールブックの紹介を続けましょう。


・世界の生成(World Building):P179〜P195

 UWP、すなわち世界データの作成ルールです。何度かダイスを振るだけで冒険の
舞台となる惑星を作成できるという、宇宙SF−RPGには欠かせない重要なルール
です。

 しかし、TNEではサプリメント等により大量のUWPが提供されているため、U
WPを自作する必要はほとんど生じません。ですから、実のところUWP作成ルール
を理解する必要はありません。UWPは「読めさえすればよい」のです。

 UWPの読み方は、P180に図で示されています。また、個々のコードの意味に
ついては、P188〜P189の表にまとめられています。必要なときに、これらの
ページをさっと参照すればよいでしょう。

 UWPの意味は原則として旧トラベラー/メガトラベラーと同じですが、ただ1つ
大きな例外があります。それは「政府形態」のコードの意味が、荒野地域とそれ以外
では違ってくるということです。
 例えば、ある世界の政治形態コードが7だとします。この世界が例えば摂政統括地
域に属するなら、コード7は「小国分裂状態」を意味します。しかし、荒野地域に属
するなら、同じコード7は「宗教、または超能力による支配」という意味になります。
 荒野地域における政治形態表はP191に載っています。

 サプリメントには、リフォーメーション・コーリションの周辺にある惑星について
「帝国時代のUWP」「新時代のUWP」の両方が載っています。さらに、何十個も
の惑星について、惑星地表の地形マップが提供されています。
 これらのデータを使えば、キャンペーンを何年続けても冒険の舞台に困ることはあ
りません。


・地表の旅、遭遇(Wilderness Travel & Encounters):P196〜P206

 地表の移動に関するルールです。最初から読む必要性は低いのですが、適切に使用
したときの効果たるや絶大なものがありますから、いずれはちゃんと読んで理解して
下さい。

 TNEにおける「地表の旅」は、乗物や動物の移動速度と地形効果に関する規定から
始まり、食料や燃料の欠乏、疲労の蓄積といった「苦しい旅」の側面がクローズアッ
プされています。
 ルールを見ると「睡眠不足」「疲労困憊」「飢餓状態」といった項目が並び、さら
に「狩猟」「魚釣り」ついには「畑泥棒」までがルール化されています。(しかも、
季節によって収穫量が違うという芸の細かさ・・・)

 これらのルールは、Twilight : 2000 からTNEに持ち込まれたものだと聞けば、
TNEにおける地表の旅がどのようなものか想像できることでしょう。そう、PC達
が地表を旅する理由は、「軍事行進」か「遭難」、しばしばその両方なのです。
(まあ、「地表探査」という場合もありますが)

 宇宙空間に比べると惑星は小さなものです。このため、PC達はしばしば地表の旅
を軽視しがちです。「とりあえず大陸の反対側に着陸して、そこから地上車で敵基地
に接近しよう」といった具合です。

 そういう計画はすぐに破綻します。燃料は行程の1/3も進まないうちに尽きてし
まい(または車両が故障で動かなくなり)、徒歩でジャングルや山岳を踏破するはめ
になります。

 持参した食料が尽き、栄養失調が始まります。睡眠不足と疲労が蓄積して能力や技
能がどんどん下がってゆきます。その間も遭遇判定は続き、次々とトラブルや敵対的
な異星生物が襲ってきます。怪我をすれば細菌感染の判定を行うので、抗生物質が尽
きてしまえば確実な死が待っています。しかし、TNEのPCはしぶとく、衰弱しつ
つも、なかなか死ねません。

 やがて「こんな苦しみを味わうより、いっそ敵と刺し違えて死んだ方がずっとマシ
だ」という気になってきます。しかし、刺し違えるべき相手がいる敵基地は、まだま
だ数百Kmも彼方です・・・。

 一度、こんな目に会って生き延びたPCは、次からは「地表の旅」の計画をもっと
真剣に検討するようになるでしょう。そして、惑星の「地形マップ」を単なるデータ
としてではなく、リアルな地図として見るようになるでしょう。

 こうして、プレーヤーは、惑星というものを「UWPと地形マップ」ではなく、実
際に足で踏みしめることができる大地として感じられるようになってゆくのです。


・異星生物(Animals) :P207〜P217

 「地表の旅」で遭遇する異星生物のデータと遭遇表を作成するためのルールです。

 最初から読む必要はありませんが、「地表の旅」のルールを使うときにこのルール
も使う必要が生ずることでしょう。何と言っても、異星のジャングルをさまよってい
るときに奇怪な生物の襲撃を受けないようでは、SFとして失格ですから。


・宇宙船運行(Space Travel):P218〜P229

 宇宙船により惑星間、恒星間を移動するためのルールです。非常に大切なルールで
すから、よく読んで、完全に理解して下さい。
 ただし、実際問題として読まなければならないのは、P225〜P227の3ペー
ジにまとめられている「宇宙船運行チャート」です。

 旧トラベラー/メガトラベラーでは、宇宙船の推進には「スラスター駆動」なる無
反動ドライブが使われていました。もちろん、ニュートン力学に違反しています。
 だからこそ、「加速度」や「運動量」について定量的に処理する必要はなかった
のです。

 また、宇宙船の「燃料」である水素は、パワープラントで「燃やして」(核融合さ
せて)、エネルギーを得るためにのみ使われていました。ですから、水素の消費量は
極めて少なく、連続運行しても1カ月くらいもつということになっていました。

 これに比べて、TNEのルールは「燃料」や「運動量」に関して非常にリアルかつ
シビアです。

 TNEで標準的に使用される水素プラズマ推進は、水素を加熱して高温プラズマ状
態にして、それを背後に噴出させて反動で進むというものです。常に運動量は保存さ
れています。

 TNEではニュートン力学に違反した運動は出来ません。トラベラー宇宙における
伝統的な超光速移動「ジャンプ」ですら、ジャンプの前後で運動量が保存されるこ
とで、ニュートン力学に大きく違反しないようになっています。(もちろん、相対性
理論には違反しますが、まあこれは仕方ないでしょう)

 TNEの宇宙船運行では、目的地(例えばジャンプポイント)に到達するためにか
かる「経過時間」と「消費燃料」は、通常エンジンの推進力(加速度)と、噴射継続
時間、目的地までの距離によって定量的にきちんと算出されます。この関係を定めた
のが「宇宙船運行チャート」なのです。

 気をつけてほしいのは、TNEでは水素を「燃料」というより「推進剤」(反動質
量)として使うため、非常に燃料消費が激しいということです。最大推進力で駆動を
続けると、数十時間ほどで燃料が空になってしまいます。

 当然のことながら、宇宙船を減速するためにも燃料が必要ですから、うっかり燃料
を消費し過ぎると停止することが出来ず、永久に宇宙をさまようはめになります。
 また、宇宙戦闘が発生すると、戦術機動や回避運動に燃料をつぎ込まないと勝てま
せん。このため、PC達は常に燃料残量に気を配っておく必要があります。

 このように、TNEの「ハードSF」的な側面を代表しているのが宇宙旅行ルール
なのです。どうか面倒臭がらずに、きちんと適用して下さい。ちゃんと適用すると、
トラベラー宇宙の大きさが実感できることでしょう。何しろ、隣の星域まで往復する
だけで半年くらいかかるのです。
 PC達は、人生のほとんどを船内で過ごし、年に1度か2度しか故郷に帰ってこな
い「船乗り」なのです。

 「目的の星系に向かいます」「よし、着いた」では、ちっともここら辺が実感でき
ません。ひどいときには「前の星系に忘れ物をしたので取りに戻る」と言い出すスペ
オペ感覚のプレーヤーが出てくるかも知れません。これでは興ざめです。



18回:基本ルールブック(3)

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There is nothing so complicated that it can't become even more complicated
 - and in a hurry.
When they're shooting at you, even simple things become difficult.
No plan survives contact with the ememy. Most plans don't even survive
contact with Reality.
                               "Smash & Grab"
 あらゆる困難な状況は、さらに困難さを増してゆく。しかも素早く。
 戦闘中は、ごく簡単な判定にも失敗する。
 全ての計画は、交戦前に破綻する。大抵の計画は、実施前に破綻する。
----------------------------------------------------------------------------


 TNEの基本ルールブックの紹介を続けましょう。


・通商と貿易(Trade & Commerce):P230〜P240

 恒星間の通商貿易のルールです。摂政統括地域を舞台にした貿易キャンペーン(旧
トラベラー/メガトラベラーの伝統的なパターン)を行うのでもない限り、読む必要
はないでしょう。
 逆に、貿易キャンペーンを行う場合は、最も大切なルールなので必ず読んで下さい。


・保守と修理(Equipment Maintenance and Repairs) :P241〜P244

 アイテムの保守と修理に関するルールです。ある意味で最もTNEらしいルールな
ので、ちゃんと読んで理解しましょう。

 このルールは、ただでさえシビアな「地表の旅」「宇宙船運行」を、さらに厳しく
苦しいものにしてくれます。おかげで、PC達の生活はいつも辛く惨めなものになる
ことでしょう。ほとんど「PCいぢめ」ですね。

 もしあなたがTNEのレフリーを始めれば、きっとこのルールを愛するようになる
はずです。(あなたが「PCには楽な生活をさせてやりたい」などと思っているなら、
そもそもTNEのレフリーなどやるべきではありません)

 というわけで、宇宙船も乗物も8時間ごとにレフリーは「不調判定」を行って下さ
い。(まあ、ジャンプ空間にいる時間は計算に入れないことにしましょう)
 レフリーが「不調判定」に成功すると、機械から異常音と共に黒煙がもくもくと吹
き出します。さあメカニックの出番だ。「故障回避判定」をどうぞ。なに、失敗?
そーかそーか、おめでとう。大音響と共に、機械はぶっ壊れてしまったぞ。
 どれくらい壊れたか判定してみよう。おお、スペアパーツがないとずぇーったいに
直らない。さあ、どうする?

 このように、TNEでは8時間毎に故障判定を行いますから、宇宙船や乗物は使っ
ているうちに必ずいつか故障します。
 「無人星系にジャンプアウトした途端、ジャンプドライブが破裂した」とか「沼地
を走破中にホバークラフトのエンジンが火を吹いた」とか、トラブルは茶飯事です。

 故障が起きると、PC達はスペアパーツを求めて惑星地表をさまようはめになりま
す。この探索行は、しばしば悲惨なことになります。(地表の旅に関するルール参照)
 そうやって何とかパーツを手に入れて帰還しても、修理判定に失敗すると故障は直
りません。さあ、別のパーツを探しに出掛けましょう。

 何とか応急修理に成功しても油断は出来ません。故障の可能性を下げるために、メ
カニックは生活の全てを「保守」に費やすことが必要です。戦闘でメカニックが負傷
している場合など、傷の回復を犠牲にして「保守」を続けなければなりません。
 毎日毎日、血を吐きながら保守を続けて、ようやく宇宙船や乗物を動かし続けるこ
とが出来るのです。

 ようやく文明がある星系まで到達しました。宇宙船や乗物を修理工場に入れること
が出来ます。これでひとまず安心です。しかし、修理費を見てPC達は頭を抱えるこ
とでしょう。
 とりあえずローンを組んで頭金を払って、そうそう負傷者を治療するのは諦め入院
費を節約しなければ。

 最後に「減価償却」について。つまり、故障が発生すればするほど、故障率は上が
るのです。宇宙船も乗物も、使えば使うほどすり減ってゆき、どんどん故障するよう
になり、そして売却価格がぐんぐん下がってゆくのです。


・超能力(Psionics):P245〜P258

・ロボット(Robots):P259〜P262

 超能力とロボットを扱うルールです。最初から読む必要はありません。シナリオに
これらを導入したくなったときに目を通すことにしましょう。


・戦闘(Combat):P263〜P310

 いよいよTNE最大の「売り」、戦闘ルールです。もちろん読む必要があります。

 TNEの戦闘ルールは、ミリタリーRPGであるTwilight : 2000 のルールをベー
スにしてSF用に拡張したものです。狙いは、ずばり「戦争」の再現です。ですから
近代戦で使われる武器については、ライフルから巡航ミサイルまできちんとルール化
され、データ化されています。

 で、この戦闘ルール、「リアルで、戦術的で、詳細で、現実の武器特性の再現力に
優れ、しかも(ここがポイントですが)プレイアビリティが高い」という、非常によ
く出来たシステムです。

 特に巧妙だと思うのは、次のような特徴です。

 −PCは割りと簡単に負傷して戦闘力が落ちてしまうので、たいてい「苦戦」する

 −ところが、PCは、NPCに比べてなかなか死なないようになってるため、苦戦
  を続けているうちに敵NPCの方が減ってゆき、最後は形勢逆転する

 −というわけでPC達は生き延びることは何とか出来るのだが、負傷は簡単には直
  らない上に、細菌感染だの何だのがあるため、じりじり迫る死の恐怖(もう後が
  ない、という焦り)を上手く再現できる

 戦闘ルールについては、後で詳しく解説する予定ですから、ここではこれくらいに
しておきましょう。


・宇宙戦闘(Space Combat):P311〜P326

 宇宙船同士の戦闘を扱うルールです。読む必要があります。

 「宇宙船運行」や「保守と修理」のルールだけでは甘いと思う方、安心して下さい。
 たとえPC達が注意深く宇宙船を運行し、保守を充分に続けることで、燃料不足や
故障を防止したとしても、それでもまだ宇宙戦闘があります。

 PC達を生かさず殺さず苦しめ続けることは、旧トラベラーからずっとレフリーの
責務でありましたが、TNEはそれをシステムがサポートしてくれるのです。

 ある星系に燃料補給のためにちょっと立ち寄っただけだとしても、宇宙船遭遇判定
を4回くらいは行いますから、そのうちに「敵船の攻撃!」が起こるはずです。素早
く遭遇表を見て、敵船のデータを引き出して下さい。

 さあ、宇宙戦闘の開始です。まず敵船の方位と距離が決定されます。「6時の方位
から敵船急速接近中。距離180万Km!」という具合です。
 不意打ち判定、素早く「総員戦闘配置!」の指令に従えるかどうかの判定、その他
を行った後、戦闘ターンが始まります。

 「そんなことしてないで、さっさと逃げればいいではないか」と思うかも知れませ
んが、実は逃げようとするとエンジン噴射(大量の熱を発生しています)を相手に向
けることになり、敵船にとって探知判定の難易度が実に3段階も下がるというルール
があるのです。つまり、逃げれば確実に探知されて攻撃を受けるので、逃げるに逃げ
られない、逃げるためには敵船を攻撃して無力化しなければならない、というわけで
す。(陰湿かつ邪悪な仕組みですね)

 以前、ある雑誌で「RPGギネス」という企画があり、1戦闘ターンが20分とい
うことで、メガトラベラーの宇宙戦闘が栄誉ある「一番遅いRPG」の座をとってい
ました。しかし、実はこれは間違いです。なぜなら、TNEの宇宙戦闘においては、
1戦闘ターンは実に30分だからです。

 この30分の間に、「操船」「探知」「砲撃」といった処理が行われます。ルール
的には「探知」が最も戦術的な駆け引きを要するところであり、「潜水艦」の戦いを
再現することが出来ます。

 メガトラベラーと違って、「コンピュータさえ優秀なら勝てる」というわけにはい
きません。探知も砲撃も全てPCがタスク判定を行って結果を決めるので、PCの技
能が決定的に重要になります。

 宇宙戦闘に勝利して敵船を破壊しても、爽快感を得ることは出来ません。というの
も、戦闘後の宇宙船はあちこちにダメージを受けており、修理しないと運行できない
からです。そして、修理のためにはスペアパーツが必要で・・・(以降、「保守と修
理」ルールの解説を参照のこと)


 このように、TNEにおける宇宙船乗りの生活は、決して楽なものではありません。
ルールを厳密に適用すると、PC達の人生はあまりにも悲惨で惨めったらしいものに
なってしまいます。
 ですから、レフリーは、ルールを厳密に適用するように常に心掛けて下さい。


・フィギュアの使用(Using Miniatures with Traveller) :P327〜P328

 ミニチュアフィギュアの塗装法について、なぜか妙に詳しく解説しています。
 読む必要はない、と思います。たぶん。


・装備(Equipment & Technology):P329〜P379

 各種の装備、乗物、宇宙船のデータです。必要なときに必要なデータを参照すれば
よいでしょう。
 ただ問題は、ここに挙げられているデータのほとんどが、後から正誤表などで変更
されているということです。

 乗物のデータは、サプリメント"Fire, Fusion, & Steel" に挟まっている正誤表の
データを採用して下さい。なお、Fire, Fusion, & Steel にはそれ自体の正誤表(修
正ページ)が挟まっていますが、ここで言っているのは"Update Booklet"と書かれて
いる16ページの正誤表のことです。

 しかし、このUpdate Bookletに載っている武器のデータは間違っているので採用し
ないで下さい。

 武器を含む各種装備については、サプリメント"Reformation Coalition Equipment
Guide"(RCEG)のデータを採用して下さい。RCEGには「今までの正誤表に載
っているデータと、本書のデータが違うときは、迷わず本書を信ずるように」という
自信に満ちた言葉が書かれています。
 が、やはりというか何というか、後にRCEGの正誤表がちゃんと出されてます。

 TNEを永久にプレイしないための最も有効な方法は、「正誤表が出尽くし、デー
タが完全になるまではプレイしない」と決めることです。


 以上で、TNEの基本ルールブックの解説は終了です。



19回:サプリメント(1)

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Good ideas are not all that easy to come up with, and really good ideas are
almost impossible. Nevertheless, we have included over a hundred really good
ideas - a nigh-impossible achievement, it's true, but then that's why we get
the big bucks.
                               "Path of Tears"

 優れたアイデアを思いつくことは容易でない。ましてや、本当に優れたアイデアを
出すなどほとんど不可能な仕事である。にもかかわらず、GDW社は、本当に優れた
アイデアを大量に提供してみせよう。もちろん不可能に近い偉業ではあるが、こう見
えても我々はゲームで飯を食っているのだ。
----------------------------------------------------------------------------


 現在までに出版されているTNEのサプリメント類について、出版順に従って解説
してゆきます。

 なお、サプリメントの必要性については、レフリーとプレーヤーそれぞれについて
A〜Cで評価します。購入計画の参考にして下さい。

 A:必須。借金してでも購入するように。

 B:出来るだけ購入した方がよい。

 C:無理に購入しなくてもいいでしょう。


Survivel Margin

  >"No matter the catastrophe, and no matter how long it takes, it is that
  >force that will always find a survival margin"
  >破局がどれほど大きく、長く続こうと、命は必ず生き延びる路を見つけ出す。

 基本ルールブックより先に出版されたという珍しいサプリメント。
 副題に"Gateway to the New Era" とあるのを見ても分かる通り、メガトラベラー
 からTNEへの橋渡しのためのサプリメントです。

 TNEをプレイする上で特に必要なものではありません。むしろ、メガトラベラー
 を長く続けていた人が、「帝国の終焉を見とどける」という目的で読むとよいでし
 ょう。

 主な内容

 ・ストレフォン皇帝の暗殺から大崩壊に至るまでのトラベラー・ニュース・サービ
  ス抜粋
 ・大崩壊の解説
 ・TNEの紹介
 ・メガトラのキャラクターをTNEのキャラクターに変換する方法

 購入必要性  レフリー:C  プレーヤー:C


Traveller : Players' Forms

  >Infinity is a lot of stuff.
  >無限に広がる大宇宙。それを管理するには手間がかかる。

 TNEをプレイする際に使える各種のフォーマット集です。実用一点張りで、情報
 は特に含まれていません。
 あれば便利ですが、特になくても不便ではありません。

 主な内容

 ・キャラクターシート、宇宙船設計用紙、地表マップ作成用紙、通商貿易収益計算
  用紙、異星生物遭遇表作成用紙、星域作成用紙、NPC記録用紙、弾薬記録用紙

 購入必要性  レフリー:C  プレーヤー:C


Fire, Fusion, & Steel (including TNE:Upgrade Booklet)

  >Other people give you catalogues of future equipment. We've given you
  >the factory.
  >他のゲームが提供するのはアイテムリストだけだ。TNEは工場を提供する。

 各種のアイテム設計ルール集です。
 このサプリメントを使えば、宇宙船から弾薬まであらゆるアイテムを自作すること
 が出来ます。さらに、個々の技術(実在のものも、架空のものも含めて)について
 詳しい解説が載っており、この解説を読むためだけでも購入する価値があります。
 特に、理系の人、プラモデルを作るのが好きな方、ハードSFのファンには、絶対
 にお勧めです。

 なお、Fire, Fusion, & Steel には、"TNE:Upgrade Booklet" という小冊子がはさ
 まっていますが、この小冊子の方が実は本体より重要です(笑)。
 というのも、この小冊子はTNE基本ルールブックの正誤表であり、極めて重大な
 修正が大量に載っているからです。これがないと、TNEを正しくプレイすること
 が出来ません。

 主な内容

 ・宇宙船、車両、航空機、反重力機器
 ・材料工学、防具、防御スクリーン、サイボーグ、テレポーター
 ・制御システム、電子工学、パワープラント、生命維持装置、火器管制システム
 ・各種の超光速ドライブ、各種の通常ドライブ
 ・銃器、ガウス銃器、レーザー銃器、高エネルギー銃器、重火器
 ・粒子加速砲、メゾンガン、マスドライバー

 購入必要性  レフリー:A  プレーヤー:A


Traveller : The New Era Deluxe Editon

  >Winning stars was never easy, but you're going to make that new future.
  >宇宙を取り戻すのは楽じゃない。だが、君になら出来るはずだ。

 基本ルールブックとFire, Fusion, & Steel を箱に詰めた、ボックスタイプの「T
NEスタートセット」です。これからTNEを始めるのであれば、お勧めです。

 主な内容

 ・TNE基本ルールブック
 ・Fire, Fusion, & Steel + TNE:Upgrade Booklet
 ・ディアスポラ宙域マップ


Traveller Referee's Screen

  >it's tough to stay ahead of your players, but we're here to help.
  >プレーヤーを相手にするのは骨の折れる仕事だ。君には助けが必要だろう。

 いわゆるマスタースクリーンです。特に必要ではないかも知れませんが、入門用の
シナリオが1本と、(例によって)基本ルールブックの正誤表が付いているので、レ
フリーは買った方がよいでしょう。

 主な内容

 ・スクリーン
 ・TNEチャート集:地表の旅、異星生物、宇宙船運行、貿易、超能力、戦闘
 ・シナリオ:ヴァンパイアシップとの遭遇を扱ったもの。小惑星帯が舞台となる。

 購入必要性  レフリー:B  プレーヤー:C



20回:サプリメント(2)

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You must create a universe that is open and flexible enough for them to
seek their own goals in, but is also solid enough for them to respect.
                                     TNE
 PCが自分の目標を自分で決めることが出来る、自由で柔軟な宇宙。
 その一方で、プレーヤーが敬意を払ってくれるだけの整合性を持った宇宙。
 レフリーが作り出すトラベラー宇宙は、そのようなものでなければならない。
----------------------------------------------------------------------------


 いよいよ第1部「入門TNE」の最終回です。

 現在までに出版されているTNEのサプリメント類についての解説です。

 なお、サプリメントの必要性については、レフリーとプレーヤーそれぞれについて
A〜Cで評価します。購入計画の参考にして下さい。

 A:必須。借金してでも購入するように。

 B:出来るだけ購入した方がよい。

 C:無理に購入しなくてもいいでしょう。



Path of Tears : Reformation Coalition Manual #1

  >For the men and women of the Reformation Coalition, the road to the new
  >future is a Path of Tears.
  >新たな未来へ向かうためにコーリションは歩んだ道は、「涙の路」だった。


 リフォーメーション・コーリション(再建同盟)とその作戦活動を解説するサプリ
 メントです。コーリションを背景にしたプレイを行うために必須の情報が満載され
 ています。

 また、コーリションを中心とする6つの星域について、星域マップと、そこに属す
 る全ての世界のUWP(標準世界データ)が載っています。それも帝国時代のUW
 Pと現在のUWPの両方が載っているという親切さです。

 さらに、その中から選ばれた20個くらいの世界については、詳しい惑星地表マッ
 プと共にその世界の自然環境、歴史、政治状況が解説されており、それに加えて、
 「この世界を舞台にした主なシナリオネタ」というのが4〜5つ載っているという
 レフリーにとって決定的に役立つサプリメントです。

 これ1冊あれば、シナリオのアイデアに困ることはまずないでしょう。


 主な内容

 ・コーリション解説(プレーヤーが読んでもいいページ)

  →コーリションの歴史、星域マップ、標準世界データ

  →コーリションの政治組織、政治状況、経済状況、コーリション所属艦船リスト

  →コーリションに属する世界の解説、各世界出身者の気質や性格の解説

  →イルカに似た知的種族、シャーリィ(Schalli) の解説

  →行方不明になった12隻の宇宙船の情報(予定行路など)

  →探査局の活動、基本戦術、作戦展開地域、作戦展開地域内の各惑星解説

 ・レフリー向け情報(プレーヤーが読んではいけないページ)

  →シナリオ作成のヒント、荒野地域の解説、各星域の解説

  →作戦展開地域内の各惑星の詳細解説とシナリオネタ

  →AIウイルス解説、商人ギルド解説


 購入必要性  レフリー:A  プレーヤー:B



Smash & Grab : Reformation Coalition Manual #2

  >Hot recovery became the signature operation of RCES, and troops soon
  >developed a slang for it - Smash & Grab.
  >「ホット・リカバリィ」作戦は探査局(RCES)の代名詞となり、やがてこの
  >種の危険な任務を指す俗語が生まれた。「スマッシュ・アンド・グラブ」である。


 リフォーメーション・コーリション探査局(RCES)から与えられる5つの危険
 なミッションを扱ったシナリオ集です。内容はバラエティに富んでいますが、だい
 たい後になるほど任務達成が(というか生還が)困難になっています。

 これらのシナリオを通じて、スマッシュ&グラブ(襲撃と奪回)と呼ばれるアドベ
 ンチャーの典型的なパターンを学ぶことが出来ます。


 主な内容

 第1話 : Presumed Destroyed   目標:収容所に監禁されている仲間を救え!

  入門用シナリオ。始めてのプレイに最適。
  重火器や車両戦闘のルールを使わないので、射撃戦の基本的なルールだけ覚えれ
  ばプレイできます。

 第2話 : Hit The Silk      目標:敵軍事施設にあるデータを奪取せよ!

  戦闘シナリオ。地表戦闘ルールを覚えたら、ぜひ挑戦しましょう。

  バトルドレスを装着して耐熱カプセルで大気圏に突入するオープニングから、戦
  車や戦闘ヘリの突入、飛び交う砲弾、炸裂するグレネード、吠える高温プラズマ、
  致命的なクライマックスに至るまで、実に戦闘以外に何もないという、結構すご
  いシナリオです。

 第3話 : Outside Influence   目標:政府要人を誘拐せよ!

  シティアドベンチャー。クライマックスの激しい銃撃戦を除けば、全体的に情報
  収集がメインになる「秘密諜報員」タイプのシナリオです。

  PC達はある都市へ密かに潜入して、政府要人を誘拐しなければなりません。ご
  く簡単に思える仕事ですが、事前に予想できなかった要素が絡んで、任務は困難
  かつ危険なものとなります。

 第4話 : Power Play       目標:行方不明の宇宙船を探せ!

  探索型のシナリオ。5つのシナリオのうち最も自由度が高く、ミッションの遂行
  方法はプレーヤーに任されます。レフリーは柔軟にセッションを進めて行かなけ
  ればなりません。挑戦しがいのあるシナリオです。

  PC達は、ある惑星で行方不明になった宇宙船を発見しなければなりません。誰
  が、どのような目的で、どこに宇宙船を隠蔽したのか。惑星の政治情勢がキーと
  なります。

 第5話 : Shooting Star     目標:核ミサイルを奪取せよ!

  再び戦闘シナリオです。ど派手なシナリオですから、第3話や第4話のような、
  比較的「渋い」シナリオの後にプレイして盛り上げましょう。

  ある惑星で熱核戦争が勃発しようとしています。核戦争による破滅を防ぐため、
  PC達は、軌道上の宇宙船から地表の核ミサイル発射基地へ耐熱カプセルによる
  強襲降下をかけます。目的は核ミサイルの奪取。だが、予想外のトラブルが次々
  と起こり、彼らは最大の窮地に追い込まれてゆく・・・。
  第2話を越えるスペクタクルシーンが続出する、最終話に相応しい派手な戦闘オ
  ンリーシナリオです。


 購入必要性  レフリー:A  プレーヤー:×



Reformation Coalition Equipment Guide : Reformation Coalition Manual #3

  >In order to re-build a universe, first you need the right tools.
  >宇宙を取り戻すには、まず良い道具を選ぶ必要がある。

 Fire, Fusion, & Steel の設計ルールを使って作成したアイテムのカタログです。
 武器から宇宙船まで300個近いアイテムが載っており、だいたいこの1冊だけで
 必要なアイテムは揃ってしまいます。

 個々のアイテムについて、データと共にイラストが付いており、どんなものなのか
 一目で分かるようになっています。(スナッブピストルのイラストもある)

 これはイラストを見ているだけでも楽しく、しかも実用価値が極めて高いという、
 買って絶対に損のないサプリメントです。基本ルールと一緒に買おう。


 主な内容

 ・各種装備:反重力ベルト、耐熱カプセル、バトルドレス、諜報キットなど。
 ・小火器 :ピストル、ライフル、ショットガン、サブマシンガンなど。
 ・重火器 :機関銃、グレネード、レーザー砲、プラズマ砲、各種ミサイルなど。
 ・地上車両:戦車、装甲車、兵員輸送車、
 ・航空機 :エアラフト、戦闘機、戦闘ヘリ
 ・宇宙船 :燃料補給船、戦艦、偵察艦、宇宙戦闘機、強襲揚陸艦、商船など。


 購入必要性  レフリー:A  プレーヤー:A



Star Vikings : Reformation Coalition Manual #4

  >Not an NPC list, but a whole new way to bring Traveller to life.
  >これは単なるNPCリストではない。トラベラーに新たな命を吹き込むサプリだ。

 TNEによく登場するNPCについて解説するサプリメント。全体が4つのパート
 に分かれ、それぞれのパートで8人づつ、合計32人のNPCが載っています。
 ほとんどは人類ですが、Hive, Ithklur, SchalliというTNEに登場する代表的な
 異種族からそれぞれ1人づつ、計3人の異種族NPCが載っています。
 (彼らのイラストは必見)

 それぞれのNPCについて、データ(能力や技能)、生い立ち、職歴、性格、外見、
 人生の目的、所有物、口癖、そしてレフリーがそのNPCをどのように使うべきか、
 といった詳しい情報が載っています。また、全てのNPCについて1ページ大のイ
 ラストが付いていて、どんな奴か一目で分かる仕掛けになっています。

 それぞれのNPCは、TNEのキャラクター作成ルールに従って作成されているの
 で、PCとして使うことも出来ます。

 TNEのキャラクター作成はこの上なく楽しい作業ですが、PCを1人作るのに数
 時間はたっぷりかかります。このため、急いでPCを作らなければならないときは、
 このサプリメントをプレーヤーに渡して、キャラクターを選んでもらうとよいでし
 ょう。その場合は、能力・技能・職歴だけをそのまま使い、その他の設定はプレー
 ヤーに自由に決めさせるべきでしょう。


 主な内容

 ・コーリションの公務員:事務総長から修理工まで8人のNPC。
 ・船長 :コーリション船、ギルド船、自由貿易船など、宇宙船の船長8人。
 ・宇宙船:8人の船長が指揮する宇宙船のデータと、それぞれの宇宙船の定期航路。
 ・コーリションの人々 :軍人、諜報員、企業人から反逆者まで8人のNPC。
 ・その他:傭兵、テッカー、メカニック、ギルドメンバーなど8人のNPC。

 購入必要性  レフリー:B  プレーヤー:C



World Tamer's Handbook

  >Worlds to be found. Worlds to be won. Worlds to be tamed.
  >Meet the challenge
  >発見すべき世界、手に入れるべき世界、征服すべき世界。
  >多くの世界が君の挑戦を待っている。


 探査局の仕事は「スマッシュ・アンド・グラブ」ばかりではありません。
 その名の通り、探査局の本来の担務は、「未知の世界の探査」や「植民地の運営」
「再開発」といった活動にあります。

 このサプリメントは、これら3つの活動の解説、およびこれらをテーマにしたシナ
リオ、そして「惑星の詳細設定」「大規模戦闘ルール」「原始的武器の設計ルール」
「原始的武器リスト」が付いています。

 たまにはPC達を戦場から連れ出して、未知の世界を探検させたり、植民地の運営
を行わせるのもよいでしょう。


 主な内容

 ・未知の世界の探査に関するルールとデータ

 ・植民地の運営に関するルールとデータ

 ・再開発に関するルールとデータ

 ・大規模戦闘ルール、原始的武器のリストと設計ルール、詳細惑星設定ルール


 購入必要性  レフリー:B  プレーヤー:C





新時代紀行:愛読感謝スペシャルプレゼントのお知らせ

 最後までお読み下さって、どうもありがとうございました。

 さて、「TNEに興味があるが、英語は苦手」という方のために、ルールブック
の抄訳を用意しました。
 ご希望の方は、「TNEのルール抄訳を希望します」という旨を書いた電子メー
ルを、馬場まで送って下さい。メールアドレスは『馬場秀和ライブラリ』のトップ
ページに載っています。本ドキュメントの最後にあるリンクから辿って下さい。

 それでは、新時代紀行:第2部「実習TNE」でまたお会いしましょう。

馬場秀和


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