CMのクラシック

ハウス食品「黒豆ココア」 (ヴェートーヴェン作曲 交響曲第6番「田園」) 2004年10月掲載

 あの氷川きよしさん他何名かで「♪クロマメココア〜ナンタラカンタラ」と唄っているCMです。クロマメ,つまり大豆で作ったココアなんでしょう。健康には良さそうですが美味しそうじゃないですね。ちなみに「イソフラボン」と言うのは黒豆に含まれている成分で,女性の健康と美容の維持に大変有用だそうです。さてここで歌われている曲は,ベートーヴェン作曲「交響曲第6番ヘ長調『田園』」の第一楽章冒頭部分です。

 「田園」と言うタイトルからも判る通り,田園風景をモチーフにした交響曲で,大変親しみに溢れた曲です。のどかな田園風景,鳥のさえずり,農夫の踊り,突然の嵐などなど,様々な光景が目に浮かびます。ベートーヴェンの交響曲と言うと,「ジャジャジャジャーン」の第5番「運命」が有名ですが,ほぼ同じ時期に書かれたそうです。この全く相反するイメージの曲を同時に書くとは,さすが天才と言うか,何と言うか微妙ですね。名曲だけに数多くのCDが出ていますが,綺麗な録音で聴きたいんだったら,カラヤン指揮ベルリン.フィルハーモニー(1982年録音)では如何でしょうか。

 

東京ガス「ピピッとコンロ」 (ヴェートーヴェン作曲 ピアノ協奏曲第5番「皇帝」) 2004年 7月掲載

 まるで高級オーディオのアンプのようなガスコンロの前面を,カメラがなぞっていく。そしてツマミに映った田村正和さんの顔。ピピッとコンロS‘TYLISH。最後は人差し指からガスの炎が出て,「まさにガスだね!」の決めゼリフ。最近の東京電力のコマーシャルでは,ビリー・ジョエルの「ピアノ.マン」を使った物が印象的ですが,田村さんは置いといて,こちらのCMもいいですね。さて派手なピアノ曲が使われていますが,これはヴェートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」の第三楽章です。

 ピアノ協奏曲ではチャイコフスキーのものと並んで最も代表的な曲ですが,いかにも「皇帝」と言う名にふさわしい堂々とした曲です。第二楽章の最後にこの第三楽章の主題が静かに奏でられ,突如華麗な第三楽章が始まります。テレビCMでの演奏は中村紘子さんだそうですが,私がいつも聴いているのはルービンシュタインの演奏(ラインスドルフ指揮,ボストン交響楽団,1963年録音)です。もう30年以上前にレコードで,この演奏を初めて聴いた時の印象が強くて,他の人の演奏だと何か違和感を感じてしまうんです。今もCDで聴いています。これとは別に5年ほど前に,ルービンシュタインが88歳の時に,バレンボイムの指揮で録音されたCDが出されていて,評判がいいので今度聴いてみたいと思っています。

 

文明堂のカステラ (オッフェンバック作曲 天国と地獄) 2003年12月掲載

 もしかしたら日本のCFで最も有名かも知れません。熊のぬいぐるみが,この曲をバックにラインダンスを踊ると言うシンプルなものです。そしてこの曲に付けられた歌詞が,“♪カステラ一番,電話は二番,三時のおやつは文明堂〜”。このTV−CMは1963年(昭和38年)から放送されているそうで,当然いくつものバージョンがあるのですが,基本的な構成は同じ。私も子供の頃から見ているCFですが,疑問が二つあります。一つ目は,あれは熊ではなくて猫じゃないのか。そして二つ目は,“電話は二番”って何の事。

 この軽快な曲はこのCMの他にも,学校の運動会なんかでも使われる事が多い様ですから,たぶん聴いた事が無いと言う人はいないでしょう。運動会では玉転がしとかリレーとかで使われるイメージが大きいですね。さてこの曲は,ドイツ出身の音楽家オッフェンバック作曲のオペレッタ「天国と地獄(原題は地獄のオルフェ)」の序曲です。お勧めのCDは特に無いのですが(ゴメンナサイ),オペラ等の名曲集などに収められている事が多いので,他の曲との組み合わせで選んでみてはいかがでしょうか。

 

アイホン (JSバッハ作曲 G線上のアリア) 2003年12月掲載

 地鎮祭をやっていると,近くで主婦がヒソヒソ話。何でも最近は物騒で〜何て話をしています。それを聞いたご主人,「うちもアイホンつけるか」。すると神主さんがすかさずアイホンをご主人に。と言った感じのCMなんですが,その後ろで何気なく流れているのが,J.S.バッハ作曲「管弦楽組曲第3番」第2曲「エア(アリア)」,いわゆる「G線上のアリア」です。

 本当に美しい曲ですね。もともとは管弦楽の曲ですが,ヴァイオリニストのウィルヘルミによって,ヴァイオリン独奏用に編曲された際,G線(4本あるヴァイオリンの弦の内,一番低い音を受け持つ弦)1本で弾く様になった事から,この名前で呼ばれる様になったそうです。CDは室内管弦楽として演奏された物が多いのですが,オーケストラでの演奏,ヴァイオリンではなくチェロ,トランペット,ハンドベル,シンセサイザー,さらには琴による演奏なんてものもあるそうです。私が持っているCDは,室内管弦楽でイタリア合奏団,オーケストラではオーマンディ指揮のフィラデルフィア管弦楽団なんですが,変わったところではジャック.ルーシュ.トリオによるピアノ.トリオによる演奏のもあります。名曲は何で弾いても名曲ですね。ちなみにビクターエンターテイメントから出されている「クラシック.オン.TV」と言うCD(VICC-60268)に,このCFで使われている演奏が収録されています。

 

パナソニック「VIERA」 (ショパン作曲 エチュード第3番「別れの曲」) 2003年9月掲載

 不思議な空間を歩く,黒い背広姿の男性の横を,薄い金属の板がクニャクニャ曲がりながら伸びて行きます。そしてその板はやがてテレビの形に。「一枚の知性体」だそうです。最近ディスプレーはドンドン進化していますが,それにしてもこのテレビ薄くていいですねえ。

 この後ろに流れている,女性が歌っている曲は,サラ.ブライトマンが歌う「夜の踊り」と言う曲だそうです。原曲はショパンのピアノ曲で,エチュード(練習曲ですね)第3番「別れの曲」です。あまりショパンは聴かないのですが,この曲はちょっと想い出があったりして,昔から好きでした。いかにも「別れ」を連想させる,しっとりとした名曲です。昔レコードではルービンシュタインで聴いていましたが,今CDではアシュケナージで聴いています。ルービンシュタインの演奏の方が私の好みです。ちなみにCMで使われている曲は「サラ.ブライトマン/アヴェ.マリア〜サラ.ブライトマン.クラシックス(東芝EMI:TOCP−65933)」に収録されているそうです。

 

読売新聞 (シューベルト作曲 楽興の時 第3番 ヘ短調) 2003年8月掲載

 何か新聞のコマーシャルで大江健三郎さんがひょっこり出てきたんで,てっきり朝日新聞のCF(ちょっと偏見でしょうか)かと思ったのですが,読売新聞のCFでした。我が家もここ数年間は読売新聞を取っているのですが,新聞に連載されている小説は読んだ事無いので,誰が小説を書いているのか知りませんでした。

 楽興の時は,シューベルトが作曲したピアノの6曲からなる作品です。中でもリズミカルで愛らしい,この第3番が特に有名でしょうか。子供がピアノのレッスンで弾くような曲ですが,こういった曲をいわゆるピアノの大家が,楽しそうに弾いている光景を想像すると,何だか微笑ましくなってしまいます。私の持っているCDはバックハウスです。でも,あの人の顔からは楽しそうにピアノを弾く姿は想像しにくいですね。

 

太田胃散 (ショパン作曲 24の前奏曲 第7番 イ長調) 2002年9月掲載

 お寺の廊下で雑巾がけをする長嶋一茂くん。どうも胃の調子が良くなさそう。そしたら廊下の先には太田胃散が!。競争の末に目出度く太田胃散を手にした一茂くん。薬を持って決めの一言。「太田胃散。ありがとう,いーいクスリです。」

 さてこの最後のセリフとともに,長年変わらずバックに流れている愛らしいピアノ曲。ショパンの前奏曲(プレリュード)では,15番の「雨だれ」が有名ですが,この7番も親しまれている曲ですね。とても短い曲で1分程度の曲です。ショパンは様々なピアノ曲を書いている作曲家ですが,この24の前奏曲では,色々なショパンが味わえます。CDはアシュケナージの全曲版を持っています。

 

トヨタ自動車 イスト”ist” (ヴィヴァルディ作曲 協奏曲集「四季」) 2002年6月掲載

 どこかヨーロッパの古い町並み(チェコのプラハだそうですが)に佇む,ヘッドフォンをつけている男性,口紅をつけている女性。そんな彼らの後ろをシルバーメタリックのイストが走り抜けて行きます。そしてそこに流れる軽快な弦楽曲。

 演奏しているのはボンド(bond)と言うヨーロッパの女性4人からなる弦楽アンサンブル(ヴァイオリン*2,ヴィオラ,チェロ)で,曲目は「ヴィヴァ Viva」。この四人,美形ですし,コスチュームも決まっています(彼女達のホームページはこちら)。もともとの曲はヴィヴァルディ作曲「四季」の,協奏曲第4番ヘ短調「冬」の第一楽章。題名の通り,春夏秋冬をモチーフにした協奏曲集で,この「冬」の第一楽章は厳しい冬の寒さが伝わって来るような激しい曲です。やはりこの曲は「イ.ムジチ合奏団」の演奏で聴くのが一般的ですね。ただ何回も録音しておりまして,何枚もCDが発売されています。私が持っているのは,4代目コンサートマスターのピーナ.カルミレッリ(1982年録音)のものです。

 

野村證券 FIFAワールドカップ チケットキャンペーン (ホルスト作曲 組曲「惑星」 より 「木星」) 2002年2月掲載
 「今,野村證券とのお取引で,FIFAワールドカップ観戦チケットが当たります〜。」と言うナレーションとともに,サッカー場が映し出されます。全体的に青みがかった映像が印象的です。ここで歌われている曲がホルストの木星です。

 イギリスの作曲家ホルストが作曲した組曲「惑星」は,太陽系の7つの惑星とその惑星に与えられている神話のイメージをモチーフに作曲された曲です。「火星(戦争の神)」,「金星(平和の神)」,「水星(翼のある使いの神)」,「木星(快楽の神)」,「土星(老年の神)」,「天王星(魔術の神)」,「海王星(神秘の神)」の7曲から成っています。この中でも木星が一番ダイナミックでポピュラーな曲でしょうか。ちなみに9つ目の惑星である「冥王星」は,この曲が作曲された時点ではまだ発見されておりませんでした。CDに関してはショルティ指揮のロンドン.フィルハーモニック.オーケストラの物を持っております。持ってはおりませんが,オーマンディかメータあたりでも聴いてみたいと思っています。

 

アース製薬 バスロマン (モーツァルト作曲 セレナーデ第13番 「アイネ.クライネ.ナハトムジーク」) 2002年1月掲載

 湯船に浸かっている細川ふみえさん。「♪お風呂にバスロマン〜」なんて気持ち良さそうに唄っております。ここで唄っている曲が,モーツァルトのセレナーデ第13番,第一楽章出だしの部分です。勿論もともとの曲は,入浴剤やお風呂,ましてやFカップの事を唄っている訳ではありませんし,そもそも歌詞なんてありません。それにしても泡が邪魔ですねえ。

 さてセレナーデと言う曲は,そもそもムードを盛り上げる為に演奏された曲です。モーツァルトの時代には,恋しい人の住む家のバルコニーの下かなんかで演奏されたとの事。中世ヨーロッパの貴族は,一体何を考えて恋をしていたんだろうか。「アイネ.クライネ.ナハトムジーク」と言うのはドイツ語で,「ひとつの小さな夜曲」と言う意味だそうです。夜曲と言うには,明るく開放的で親しみやすいなメロディで,モーツァルトの多くの曲の中でも,最も有名な曲ではないでしょうか。さてバルコニーの下で弾くんですから小編成の管弦楽による演奏が本来の姿なのかも知れません。それでもベーム指揮のウィーンフィルハーモニーの大規模なオーケストラを使った演奏が,私は好きです。