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<私の観劇記>

「エリザベート」
(2001年10月13日&19日 博多座にて)

出演者:一路真輝(エリザベート)  山口祐一郎(トート)  鈴木綜馬(フランツ・ヨーゼフ)
     高嶋政宏(ルイジ・ルキーニ)  初風 諄(ゾフィー)  井上芳雄(ルドルフ)  
     寺泉 憲(マックス)  阿知波悟美(ルドヴィカ)  他


<博多座で山口祐一郎さん再び>
 博多座に山口祐一郎さんが初めて来られたのが2年前。「ローマの休日」だった。そこで、一目ぼれしてしまった私。しかし、その後博多座に来られることはなく、「レ・ミゼラブル」の上演を待ちわびるばかりだった。そんなところへ、「エリザベート」公演の話が!!宝塚で有名になったのは知っていたが、なんだか暗いお話のようで、あまり興味をもてないものの、山口さんが出られるのなら、とにかく行かなければ、とチケットだけはとっておいた。

<宝塚バージョンで予習>
 観劇する日の午前中に、友人から借りていた宝塚バージョン(しかも一路真輝がトートだったもの)を途中まで見て予習をした。私は、たいてい80%くらいしか理解しないまま、観劇を終えてしまうので、このビデオはとてもありがたかった。それに、想像していたのよりは、面白そう。そして、音楽もなんだかよさそうだ。これは、結構いいかも!そんな予感がしてきた。
 そして、博多座へ向かう。1年半ぶりの博多座。いつものようにオープニングが始まるのを待っていたのだが、何かが違う。そう、トートダンサーズの踊り。息遣いが聞こえてきそうな(でも、聞こえない)、肉体の美しさをめいっぱい表現した踊り。たまらない。劇場内を冷たい風が通りぬけるのが感じられた。

<出演者第一印象>
 最初は高嶋兄の登場。この人は、なぜかこういう役がぴったりだ。本当にうまい。妙につぼを押さえているような気がする。なんとも俗っぽい言い方が、エリザベートや他の登場人物と対照的で、観客の心をくすぐっているようだ。「王様と私」でも、個性あふれる王様を演じていたが、今回も、なかなか味のあるルキーニだった。
 続いて、山口トートのお出まし。さすが、素晴らしい!!!トート閣下の衣装が長身をいかして、とてもよく似合う。黒いコートをひるがえされると、ぞくぞくっときてしまう。2年ぶりに聞いた、パワフルな歌。本当にすごい歌唱力だ。今回は、「ローマの休日」に比べて、時にはしみじみ、時にはのびのびと歌っていて、客席をも、一瞬のうちに黄泉の世界へ連れて行ってくださった(笑)。
 そして、一路くん、いや、これからは一路さんと呼んだ方がいいのかもしれない。本当に愛らしい少女姿から始まった。しかし、話が進むに連れて自然に年齢を重ねていくのだ、これが。その移り変わりが見事に演じられていて、さすが!!と思うのである。

<涙したところ>
 さて、第一の感動シーン。それは、「私だけに」を歌うシーンだった。自由になりたい、その思いが劇場内の隅々まで届いて行くようで、衝撃的な感動だった。初めて聞いたとき、胸が突き動かされるような気がして、自然に涙がこぼれてきた。一路さんの魂、いえ、エリザベートの魂すべてがこめられているようで、本当に涙があふれてきて仕方がなかった。いつの間に、こんなにうまくなったの?一路さん。。。
 だけど、もし私が20代前半の時にこの場面を観ていても、今回のような感動はなかったかもしれない。また、一路さんが、もっと若い時にエリザベートを演じていたら、このような魂の込め方は出来なかったに違いない。聞く側と演じる側との人生によって、随分感激度も違うだろうなと思った。

 第2の涙あふれるシーン。それは第2幕の、ルドルフが自殺してしまった後の葬儀の場面だ。エリザベートが涙しながら歌ううた。。たまらない。親として何もしてやれなかった自分を責めるつらい思いが、胸につきささる。その前に、ルドルフが思いを母に打ち明ける場面が、これまた胸をしめつけられるから、余計なのだ。
 これも、今、自分が母親であるからこそ、そして、エリザベートのようにエゴイストな母親であるからこそ(!?)、この思いが痛いほどよくわかる。共感できるのである。
 しかし、何にせよ、一路さんがエリザベートそのものの魂を入れられたみたいに、歌にせよ、言葉にせよ、表情にせよ、すべてに思いがこめられていて、圧倒されてしまった。あどけない少女の顔から、けわしく、しかし寂しい皇后の顔まで、自然に、本当に自然に。「王様と私」の時よりも、数段素晴らしく、舞台上のエリザベートだけでなく、歴史上の本人にまで思いをはせてしまうくらい、素晴らしいエリザベート役なのである。

<山口トート閣下>
 さて、個人的な意見ばかり連ねさせていただくが、本当に山口トートは、色っぽい。(ごめんなさい、内野トートは見てません。)愛され、黄泉の世界へ何度も誘われるエリザベートがうらやましくなってしまうくらい、色っぽかった。吐息のもれる歌い方だろうか、やはり、外見だろうか、それとも、あの、冷たさの中にうっすらと見られる笑みだろうか。。。闇の世界に引きずりこまれたルドルフさえ、すごくうらやましくなってしまった。そう、2度目の観劇の際、オペラグラスで、井上くんの唇を奪っている姿をしかとレンズ越しに見てしまった。。。そ、そんな。。
 しかし、面白い。山口トート閣下が登場するたびに、客席の女性の腕が上がる。そう、オペラグラスをのぞきこむために。もれなく私もその一員だった。これがなかなかグラスをはずせないのだ。あの笑みを見てしまうと。
 「ローマの休日」ではあまり歌う場面がなかったせいか(そうだったかどうかは定かではないが)、今回は、本当にしみじみと歌を聞くことができ、最高の思いだった。「最後のダンス」など、気持ちよく歌ってらっしゃる部分もあったり(笑)、エリザベートへのいとおしさを吐露しながら歌うシーンでは、呼吸が聞こえてくるような感じさえあり、「ようこそ、山口祐一郎の世界へ・・・」であった。歌に酔うというのは、まさしくあの状態をいうんだな。

<作品の素晴らしさ>
 今回は、出演者の素晴らしさは言うまでもないが、作品がとにかく予想以上によかった。作品にほれこんだ人がかなりいるらしいが、うなずける。遠征してくる人たちの気持ちもよくわかる。私も独身でバリバリ働いていたら、絶対に各地を遠征していたはずだ。

 何がそんなにいいのか、一つは主人公エリザベートが自分というものを常にもっていて、ある意味「強い女性」であったこと、そのわりには、かなり自己中心的な部分もあったようで、なんとなく、今の私達にも通じるところがあること、そして、その強さ、エゴイストな部分がある反面、結婚後の人生が、実に悲しいものだったことにあるだろう。そこには、女性の苦しみ、悲しみ、もどかしさなどがこめられていて、それが時を越えて、現代を生きる私達女性にも共感できるのだ。自由になりたい、鳥のようにはばたきたい、そんな願いが痛いほどわかる。それが胸を打ち、涙を誘うのかもしれない。

 次に、ルキーニの語り。そして、死を具象化した観点。それが意表をつき、歴史的人物をとりあげたにもかかわらず、よく陥りがちな堅苦しい作品ではなく、斬新なイメージを抱かせるのではないだろうか。なんといっても、実際の話の舞台に対照的な、皮肉いっぱいで、あざ笑うかのような、合間合間のルキーニの語り。最高だった。

 それから、光と影の使い方。大道具の演出法。「レ・ミゼラブル」でもバリケードで驚かされたが、今回は例えば「私だけに」に見られる大きな扉。エリザベートが開くとまぶしい光がさしこみ、本当に未来が広がるようなイメージ。歌や音楽をより効果的にするような(逆も言えるが)、そんな演出が、あっと観客を驚かせてくれた。エリザベートのソロで、分散していた光が、エリザベートの頭上で1つにあわさる部分など、気持ちいい。

 そして、話の単純さ。わかりやすさ。これにつきるのかもしれない。歌でストーリーを綴るのは、なかなかわかりにくい部分もあるはずなのだが、今回は、ルキーニの語りがうまくマッチングし、また、1人の女性の人生を追うといった、明確なテーマがあるからなのか、とても話がシンプルな印象をもった。

<最高の音楽>
 なんといっても、この作品の成功の秘訣は、音楽にあると思う。全体的に物悲しいモチーフが連なっているのだが、あたたかさが広がるのを感じるのだ。例えば、「愛と死の輪舞」や「あなたが側にいれば」。悲しさ、せつなさを感じさせつつも、その奥に、「愛」を感じるメロディーなのだ。また、エリザベートのソロ「私だけに」の旋律の美しさには、身震いを感じたほどだった。また、「最後のダンス」は、ロック調で死の帝王の歌ではあるけれども、沈みがちな舞台に活力を与えてくれるような気がした。「闇が広がる」も、短調でありながら、とてものりやすい曲だ。そして、ルキーニの歌う「キッチュ」。これがまた、エリザベートの「裏」を感じさせるような、曲になっていて、とても面白い。

一つの作品の中の音楽が、似通ったものばかりでなく、様々なタイプのメロディーを取り入れたことが進行にメリハリをつけて、良かったのではないかと思う。

<まとめ>
 いつもミュージカルを観ると、パワーをもらうのだが、今回は、今までにないほど大きな感銘を受けた。恐らく、私自身、この1、2年で大きな人生の転機を迎えているため、今まで自分が抱いてきた様々な思いに、つながるからかもしれない。

 今まで「レ・ミゼラブル」が忘れられない作品として、私の中では印象的な作品だったのだが、この「エリザベート」も間違いなく、生涯忘れられない作品として残りそうだ。

 なんだか堅苦しいことを書いてしまったが、この作品をきっかけに、私のミュージカル熱に火がついたことには、間違いない。
 さあ、これから、観るぞ〜〜〜っ!!!

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