■2001年8月16日〜8月31日
□8月31日(金)
星里もちる『本気のしるし』3巻。
この作品の評についてはこちら(スズキトモユさん@見下げ果てた日々の企て)が的確にまとめられているので参照してください。
で、3巻。とりあえず、浮世の旦那が最凶&諸悪の根元という様相を呈しつつありますが、もちろん浮世自身もそのJOKERとしての存在価値をいや増して今回は「自己中心的な女」と「被害者」として二面性を遺憾なく発揮し、一方、少しずついい人ぶりが目につくようになってきた辻と、安定した立ち位置を再度確保しつつある細川、すでに半ば舞台から退場したも同然のみっちゃん(それとも、後でまた本筋にからむのか?)、辻の耳元に「真実」を囁きかける悪魔のような存在の脇田、といった登場人物がからみつつ、相変わらず厭な雰囲気を漂わせて淡々と物語は進行していきます。
巻末には辻の学生時代の恋愛を描く「外伝」も収録。
星里もちるの「ビックコミック スペリオール」掲載作品は今までちゃんとチェックしていなかったんで、ちょっと読んでみようかと思っています。既読作品だと個人的には『いきばた主夫らんぶる』がベストかな。
島本和彦『吼えろペン』1・2巻
好きなんだけど、こまめにチェックして新刊を必ず買うというほどでもない漫画家が何人かいて、島本和彦もその1人。で、久々に買ってみたのがこの作品。
熱い絵、熱い台詞、熱いストーリー。
「いつ読んでも自分の描いたマンガは最高だ!」とか、もう最高です。
でも、あんまり続けて大量に読むと、ちょっとあきるんだよね(小声)。
原作:大塚英志/作画:田島昭宇『多重人格探偵サイコ』7巻
今回の感想。
●つまらない。
●田島昭宇はアクションシーンが下手(でも、これは原作者の責任だと思う)。
田村由美『シカゴ』2巻(完結)
戦う女の子を描かせたら日本一(推定)の漫画家。いわゆる「戦闘美少女」ではないので、念のため。ストーリーや絵の細部の粗さを勢いでごまかして突っ走る作風は好き嫌いが分かれるところだろうし、基本的な物語の骨格がどの作品も似通っているなど欠点も多いけど、私は非常に好きです。
で、『シカゴ』ですが、いきなり終わっていてびっくりした。巻末のあとがきによると打ち切りではなく本人の意向で終了となったようですが、無理矢理終わらせたという感じ。
そろそろ腰を据えて長編を描いてほしいなぁ。
□8月30日(木)
浦沢直樹『MONSTER』17巻購入。
ルーエンハイム編に入って俄然おもしろくなってきたと思ったら巻末を見て愕然。「次集完結」!? って、本当にきちんと終わるんでしょうか? 発売はなぜか2002年早春。もっと早く出せ〜! ていうか、もっと早く出してください。
□8月29日(水)
●浦賀和宏『彼女は存在しない』★★★
著者初のハードカバー。前作に続いて、2作目のノン・シリーズ作品。
近親相姦とカニバリズムに対する並々ならぬこだわりを感じますが、いささかその導入の手続きが強引で、あんたも好きだね、と言いたくなります。
二重人格もの、ということで、当然のようにトラウマが語られるわけですが、そのちょっとひねた扱いには好感を覚えます(もちろん、ミステリとしての技術的な要請もあるわけだけど)。例えば、次の文章。
私は優柔不断な人間だと自分でも思う。
こういう時、私みたいに親に虐待された人間は楽だ。私が優柔不断なのは私のせいじゃない、親のせいだ、と責任転嫁して自分に言い訳できるからだ。
自分のくだらなさをすべてトラウマのせいにできるなんて、これも私のように過去に虐待を受けた者だけの特権だ。
しかし、正直なところ、作者がどういうつもりでこの文章を作中に書き記したのか、ちょっと判断に困るところですが……。
あと、ミステリ的な謎解きにかんしては、作者は無理に危ない橋を渡りすぎではないかと思った。
もう〈安藤シリーズ〉は書かないのかなぁ。
□8月27日(月)
●スティーヴン・キング(リチャード・バックマン)『最後の抵抗』(再読)
なんか違和感があると思ってたら、タイトルが変わってたんですね。旧邦題は『ロードワーク』。前の方が良かったと思うけど。
ひたすら自滅へと向かっていく主人公を描いた物語。高速道路の延長工事によって自宅と職場を失うことになった男の抵抗……というあらすじは間違いではないんだけど、取りこぼしが多いのもまた確か。
話の構造としては一見『キャリー』あたり近いように見えて、実際、物語の大半は主人公がストレスを溜め込んでいく課程に費やされ、最後の最後で読者の期待通りに一気に爆発する、という点では同じといえないこともないんだけど、『キャリー』においてはそれがきちんとカタルシスとして機能しているのに対して、この作品は前ふりがひたすら長いわりに、肝心の反撃の部分は読者に充分なカタルシスを与えることなくごくあっさりと終わってしまう。物語的には、山場で盛り上がり損ねているように感じる。
しかし、これがおもしろいんだなぁ。滝本誠の解説から引用すると、「スティーヴン・キングの小説から、ホラーの要素(たいていが借りもの)を抜いたときに残るオリジナリティ=ディティールが怪物化していく核家族の内部不和咄が、バックマン名義の本書において純粋状態で抽出される」。
圧倒的なディティールの前に、物語は膝を屈している。この作品では、特にそれが顕著にあらわれている。以前はそのことに不満を感じたけど、今回は非常に楽しめた。
□8月26日(日)
「Netscape6.1」をダウンロードしようとしたんだけど、「IE5」ではどうしてもうまくいかない。「iCab」でもダメ。「Virtual PC」を立ち上げてWindowsの「IE5.5」で試してみたら、ようやく成功。謎だ。
で、さっそくインストールして起動。以前にα版をインストールして以来、Fizilla(Carbon版のMozilla)くらいしか触ってなかったんだけど、かなり良くなってる。でも、例えばアドレスバーにカーソルがあるとマウスのホイールが効かなかったり、ダイアログが表示されるテキストの横幅よりも狭いサイズで表示されるなど、細かい部分で使い勝手が悪い。
まぁ、しばらくは今までと変わらず「IE5」をメインに、「iCab」と2ちゃんねる専用ブラウザ「マカー用。」(まだα版だけど)を併用して使っていきます。
□8月25日(土)
単行本購入率がわりと高いので買うのはもちろん立ち読みも避けていたんですが、書店に寄って何となく買ってしまった「アフタヌーン」10月号(ちなみに、新刊が発売されたら必ず購入するマンガは現在5作品)。
富沢ひとし『ミルククローゼット』は最終回。途中の話が未読のせいもあるんだけど、さっぱりわかりません。とりあえず、評価は4巻が出るまで保留ということで。沙村広明『無限の住人』。257ページの2コマ目とかかっこいいなぁ。いい感じの新キャラ(だよね?)多数登場。遠藤浩輝『EDEN』。これは前の話を完全に忘れているなぁ。要再読。来月に新刊が出るのでそれで補完しなくては。もちろん短編集も買う。植草理一『夢使い』。わはははは。いつもどおりですね。そして、一挙3話掲載(でも、短くない?)の鬼頭莫広『なるたる』。伝聞によると先月号はかなり壮絶な展開だったらしいけど、今月はいわば「宴の始末」編。まったりとしていてちょっと物足りない。様々な伏線が最終的にきちんと回収されそうなので、そういう意味では安心かな。
あ〜、今後はやっぱり単行本でまとめ読みすることにします。
□8月23日(木)
無事ダウンロードした「Mac OS 9.2.1 Update」でバックアップもとらずにiMac DV(Slot Loading)のメインのシステムをアップデート。我ながら怖いもの知らずというか何というか。基本的にはMac OS X上のClassic環境としての安定性・互換性の向上を目的とするアップデートらしいので、起動システムとして使う分にはどこが変わったのかまったくわかりません。今のところこれといった不具合もなし。
まあ、本当のお楽しみは9月のMac OS X 10.1(プーマタン)までお預けということですね。
ウプデータン(´Д`;)ハァハァ
ついでにiBook(Dual USB)のメインのシステムもアップデート。こちらは何となく動作が速くなった気がするけど、たぶん、気のせいだろうなぁ。
□8月22日(水)
現在、100MBを超える「Mac OS 9.2.1 Update」をダウンロード中。
やっぱり、ISDNは遅い……。今晩は放置して就寝する予定。
昨日書いた乙一『きみにしか聞こえない−CALLING YOU−』の感想ですが、我ながら何がそんなに気にくわなかったのか、いまひとつ判然としません。なんか、ちょっと気に入ったチョコレートを見つけて立て続けに食べて、そのせいで早々に飽きてしまい、「俺はもっと塩辛いものが食べたいんだ! ポテトチップスを見習え!」と怒っているようなものだという気がしなくもないんですけど。う〜む。かといって、すぐに再読する気にもならないんで、少し時間をおいてからまず『石ノ目』を読んで考えてみたいと思っています。
とはいえ、これは昨日の感想で書いたことを全否定するものではないことをお断りしておきます。人の死を安直にプロットに組み込みすぎる点に否定的であることには変わりありません。ただ、特に「華歌」にかんしては、自分としても、もっと好意的な評価をする可能性もあったのではないかと思えるので、読んでいたときの体調や精神状態以外に否定的な評価の理由や根拠があるのかないのか、確認する必要を感じています。
□8月21日(火)
●乙一『きみにしか聞こえない−CALLING YOU−』★★★
「CALLING YOU」、「傷−KIZ/KIDS−」、「華歌」の3編を収録。
正直なところ、「華歌」の半分くらいまで読んだところでうんざりして、この本の感想は「人の死なない話が読みたい」とだけ書いて、評価は★★だな、と思っていたんですが……ごめんなさい。見くびっていました。とりあえず(以下に書く評価はともかくとして)、一読の価値はあります。
とはいえ、「人の死なない話が読みたい」というのは本心で、全体的に暗いトーンで覆われた物語には心底辟易しました。まあ、どの話も最後には救いが用意されているんだけど、「切なさの達人」(表4の惹句)などと書かれているのを見るにつけ、どうにもあざとさばかりが目につきます。
次はぜひとも、「失踪HOLIDAY」路線の軽快なコメディタッチの作品を書いて欲しいです。
で、残る『石ノ目』を読むかどうかは現在思案中(なぜか発売直後に買って持っているんだけど、未読なのです)。
8月8日の日記に書いた舞城王太郎『煙か土か食い物』の感想に若干の修正を加えました。
□8月20日(月)
「ビックコミック・スピリッツ」は毎週買って読んでいるので浦沢直樹『20世紀少年』の単行本は10巻くらい出てからまとめ読みするつもりだったんだけど、勢いづいて1〜5巻を購入(6巻はなかった)。改めて通して読んでみると、結構、置き去りにされてるネタが多いなぁ。特にドンキーが理科室で見た何かの正体は、最後までにちゃんとあきらかにされるんでしょうか?
それはさておき、このマンガの一番の見所といえば、坊主頭で眼鏡で白ブリーフはいて「やっぱり、“癒しのCD”はいいよな〜〜。癒されるもんな〜〜」とか言って母親に「マー君」なんて呼ばれているキャラクタが平気で人を刺し殺してしまうような、オウム真理教をふまえた後でさえ常識人たる作家なら躊躇してもうちょっとシリアスに描いてしまうであろう不条理なリアルさを平然とふざけた筆致で描いてしまうところだと個人的には思っています。
さて、今週の「ビックコミック・スピリッツ」では、ヒラマツミノル『アグネス仮面』が続投決定なのは喜ばしい限り。おもしろいもんなぁ。ただ、虎嶋のキャラの天然ぶりに依存しすぎているのがちょっと気がかりですが。
『ヨリが跳ぶ』みたいにときどきシリアスな展開をまじえながらも、笑えるライバル続々登場という展開希望。
スズキトモユさんの「見下げ果てた日々の企て」で知った「解題・ムーノーローカルの作り方」。今まで一度もこのサイトを見たことがなかったのが悔やまれます。本当に。定期的にチェックしていた読者は、よくできた叙述トリックのミステリを読んだときのようなカタルシスを味わったのではないでしょうか。この「解決編」だけ読んでも感動します。すごいです。
□8月18日(土)
普段、あまり覗かない漫画板@2ちゃんねるで過去ログを漁る。富沢ひとしのスレッドで『エイリアン9』にかんするおもしろい意見を見つけたので引用してみます。
690 名前:673 長文スマソ 投稿日:2001/06/25(月) 01:25
>>685
つまりフーコーの言説に代表されるように学校は近代以降には労働者の
供給機関として存在していたと。そこでは生徒は社会の要求に相応しい
人材になるため色々条件付けをされるわけで(例えば一時間ずっと席について
教師の話を聞くとか他にも色々)。これはある意味、子供が本来もっていた性質を
矯正する過程なわけで、それが許される唯一の根拠は「社会に出た後、必ず子供の
ためになる」という矯正する側の確信=通念にあると。
んで、その確信が「ドリル族と共生するのが一番しあわせ」というような社会
においては教師は嬉々として子供に過酷で欺瞞に満ちた茶番劇を用意して社会
に相応しい人柱に調整していき、子供の方にはそれに対してほとんど選択の余地
がないと(そういえば対策係は受験免除というシステムは象徴的だよな)。
つまり、学校は社会的に正当性を付与されたなら子供に対してどんな酷い
ことでも(教育的指導!)やってしまうわけでそれがエイリアンという
フィルターを通すことで現実社会に住む我々の目に赤裸々に晒されると
いう。その辺が「学校の持つグロテスクな部分を提示してみせた」という
感想につながってゆくのですな。
なるほど、と思わずうなずいてしまいました。
あと、鬼頭莫宏のスレッドを読んで『なるたる』について詳細な感想を書いておきたくなったんだけど、今、単行本が手元にないので保留。これ、現時点では一番続きが楽しみなマンガです。
それから、浦沢直樹のスレッドで、思いのほか『MONSTER』に対する酷評が多いので、衝動的に1巻から全巻一気読みしてしまう。このクオリティでこれだけの物語を描ける力量のあるマンガ家って、ちょっと他には思いつかないけどなぁ。
まあ、確かに上記引用部分で語られているような「そもそも教育が持つグロテスクな部分」に無自覚だったり、世界観が二元論的で単純な分、作品としての凄みに欠ける気がするのは否めないけど。
□8月17日(金)
●乙一『失踪HOLIDAY』★★★
主人公と姿の見えない幽霊との奇妙な同居生活を描く「しあわせは子猫のかたち」と、家出少女の狂言誘拐の顛末を描く「失踪HOLIDAY」の2編を収録。
この作家の手法の肝は、大雑把にいうと、割とありがちな物語の骨格に、独自のギミックを付加して結末のサプライズ(まあ、見え見えなんだけど)を機能させ、ある種のせつなさやもの悲しさを演出する、という点にあると思うんですが、そういう意味では確かにうまいし、安心して読めるものの、なんだか物足りないと感じてしまうのもまた確かだったりします。
とりあえず、続けて『きみにしか聞こえない』を読んでいるので、そのへんの詳細は追って。
で、この本に収録されている2編にかんしていえば、「失踪HOLIDAY」のよい意味での軽さを買います。物語の終盤3ページに仕掛けられたひねた読者向けのちょっとした引っかけもまたよし。
□8月16日(木)
●スティーヴン・キング『ハイスクール・パニック』(再読)
以前に読んだのはだいたい10年くらい前で、内容を忘れていたというだけならまだしも、主人公が教室に立てこもってクラスメイトを殺す話だと思い込んでいたのは我ながらどういうことか。
スティーヴン・キングがリチャード・バックマン名義で発表した作品については、『バトルロワイアル』を読んだ時に再読しなくちゃと思っていたんだけど(そもそも『バトルロワイアル』を手に取ったのは帯の惹句から『死のロングウォーク』を連想したからで、実際、作者もインタビューで『死のロングウォーク』と『バトルランナー』が念頭にあったと語っている)、それって2年も前の話だろ! というつっこみはさておき、たまたま書店で目についたのをきっかけに実家の押入から発掘するのも面倒だったので購入して再読した次第。
主人公のチャーリーが事件を起こすに至った原因として語られているのはごくありふれたエディプス・コンプレックスなんだけど、それを図式的と感じさせない過剰な細部にあふれた語り口、さらには冷静に考えてみればそんなに悲劇的というわけでもないエピソードの積み重ねにもかかわらず、物語的に読者を納得させてしまう力業には改めて感心した。まあ、力業というのはこの作品に限った話ではないんだけど。
で、『死のロングウォーク』と『バトルランナー』はわりとちゃんと内容を覚えている(つもり)なので、次は『最後の抵抗』を読んでみようかと思っています。
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