海外の鉄道もの
ローマ発シチリア島行き IC725列車
ご存じの通り長靴のような形をしているイタリア半島。そしてその長靴に蹴られるボールのような位置関係にある島がシチリア島。
この陸続きではない両者の間を、直通で運行する列車が数多く走っている。理屈は簡単で列車ごと船に積み込まれて海峡を渡るわけである。
日本でもかつては青函や宇高の連絡船で行われていたが、昭和30年代に貨物を除いて廃止になり、その後トンネルや橋で陸続きになり見ることができなくなった。
イタリアを旅した際、これらの列車のうちローマからシチリア島のパレルモに向かうIC725列車に乗った。単純に「イタリアの列車に乗りたい」「列車ごと船に乗り込むというのを体験したい」という理由からの乗車で、この列車を中心に旅の日程を組み立てたと言っても過言ではない(^^;)
その1 |
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その2 |
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その3 |
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その4 |
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資料編 |
その1 列車に乗り込む
その列車は、ローマ・テルミニ駅を定刻7:27に発車する。ちょっと早いがしょうがない。
私と相方の2人は駅近くのホテルを7時にはチェックアウトし、駅まで歩く。
駅構内には大きな出発便の表示板がある。日本のようにあらかじめ出発ホームが決まっているわけではなく、私たちが乗る列車も最初のうちは出発ホームのところが空欄になっている。7:15ころ、ようやく8番線発だということがわかり、そのホームへ行く。
ローマ・テルミニ駅構内
ホームにはすでに今日1日お世話になる列車が入線している。
電気機関車に牽かれた14両くらいの長い編成で、あとでわかるのだが行き先が3つに分かれていて、パレルモまで行くのが真ん中の5両。
テルミニ駅8番線に停車中のIC725列車
この列車については日本で予約をとっていて、私たちが指定されていたのが4号車。パレルモまで行く唯一の1等車である。
こちらの列車の場合、日本のように「指定席」と「自由席」が分かれているわけではなく、出発時までに指定されなかった席が自由席になる。
1等車の客室は6人コンパートメントになっていて、各コンパートメントの入口にどの席がどの区間、予約が入っているかのプリント紙が貼ってあるので、逆にどの席がどの区間自由席なのかもそれでわかる。
1等車の廊下
右側にコンパートメントが並んでいます
私たちが指定されたコンパートメントは6席全部指定でふさがっていて、しかも私たちの席は通路側であった。そこで、空いているコンパートメントにさっそく移動した。
発車後しばらくして車掌が検札に来たときに、指定席切符を見せながら「座席をここに変更したいんだけど」と言ったら、即OKしてくれた。
ちなみにこの車両にはこのような6人用のコンパートメントが9室あった。コンパートメントとはいっても廊下との境目はガラスなので、内部は丸見えである。なおクーラーが窓際の下に埋め込まれていて、車内放送と温度調節のつまみが各コンパートメントの入口にあった。
そんなことをしている間に発車時間は過ぎた。しかし発車する気配がない。車内放送もないので状況がわからない。まあ、イタリア語で車内放送されてもわかるわけないけど。
何の気なしに外の掲示板を見たら、発車時間が30分遅れの7:57に変更になっていた。遅れている他の列車の接続をとっているのかどうか知らないけど、イタリア国鉄さっそくやってくれます。
その2 イタリア半島内を走る
7:57、「変更時刻」どおりに発車。
ローマにやって来た日、テルミニ駅のキオスクで全国版の時刻表を見つけ、思わず買っていた。それによればこの列車の停車駅は意外と多い。今日は初っぱなから定刻通りではないのだが、どの駅に停まってどのくらい遅れているのかはよくわかる。
ちなみに今私たちが乗っているのが「インターシティー(IC)」という列車。イタリア国内では「長距離を走る特急」という感じの位置づけで、車内の装備も私の乗っているコンパートメントのように長距離向けになっている。
これより速いのが「ユーロスター(ES)」という列車で、停車駅は大幅に少なく、スピード優先の列車、という感じである。
居住性重視の「インターシティー」ではあっても、けっこうスピードを出す。時刻表で見る限りでも表定速度は120km/h以上、見た目もそれ以上のスピードで軽快に走る。保線の状態も良い。
ローマの町を抜けると、郊外の主に畑の中を走るようになる。だいたい10kmおきぐらいに駅がある。そして、30分おきぐらいに駅に停まる。このような駅でも、パラパラと乗り降りがある。
一面の畑です
10:09、4つめの停車駅、ナポリ中央駅に到着。知らないうちに遅れが45分に増大した。
ナポリ中央駅はヨーロッパの大都市の駅によくありがちな頭端式の駅で、従ってこの列車もこの駅で進行方向が逆になる。そのためか停車時間が10分以上ある。
その間に車内の客が半分くらい入れ替わる。このような長距離列車でもナポリまで、というような比較的短距離の客がけっこう乗っていたのである。
一方、ナポリから乗ってきた客はほとんどが終点パレルモまで行くような感じである。
私たちのいたコンパートメントにも、ナポリから「この車両はパレルモに行くんですよね(会話からして地元の人なのだろうけど、私たちと会話するときは英語だった)」とか言いながら1組の夫婦が入ってきて、結局終点まで私たちとこの人たちの計4人であった。
10:19、43分遅れでナポリを出発すると、海沿いを走ることが多くなる。外はいい天気で気温も30℃を越えてるようで、海岸には海水浴客が大勢くり出している。日本でいうところの「海の家」に相当するようなオープンカフェもある。
海岸線を走る
ナポリの次の停車駅・サレルノを出発すると、時刻表上ではいきなり2時間近くノンストップになる。
とともに工事区間というか徐行区間をやたらと走るようになり、とたんにスピードが落ちる。工事のせいで20分以上単線区間を走るところも数カ所あり、その先の駅で対向のユーロスターを待たせたりしている。なにしろ定刻より大幅に遅れて走っている私たちの列車、対向列車に迷惑をかけつつ走っているようだ。
11:50ころ、腹が減ったので食堂車に行く。私たちが乗っている4号車ととなりの3号車の間に号車番号のない食堂車がはさまっている。
で、行ってみたところだれもいなかった。適当な席に座るとウエイトレスさんがメニューを持ってきて、注文を選んでいるときに車内放送で「昼食の営業を始めます」と車内放送が入った(イタリア語と英語の放送だった)。どうやら私たちが行ったときはまだ昼食の営業前だったらしい。
ピザを注文したところ、出てきたのはピザトーストのようなものだった。
昼食を食べている間は海から離れ、山の中を走っていた。
この日の昼食、ピザトースト
けっこう見た目よりボリュームがありました
結局サレルノからその次のパオラまでの間に遅れが30分以上も増えて、1時間16分遅れになった。
パオラからは工事区間からは抜け、また快調な走りになる。このあたりは山が海に突きだした険しい地形なのだが、路線そのものはトンネルの多い直線的な区間で、日本で言えば室蘭本線の長万部〜洞爺あたりのような感じである。
そのうち、イタリア半島の長靴のつま先にだいぶ近づいてきた。対岸にはやがてこれから渡るシチリア島が見えてくる。
14:56、定刻より約1時間10分遅れでヴィラ・サン・ジョヴァンニ駅に到着。ホームのすぐ横に港が見え、連絡船らしき船が停泊している。
ヴィラ・サン・ジョヴァンニ駅に到着したところ
右側のホームの向こう側に連絡船が見えています
そしてこれから、まどろっこしい作業が始まります
ここで列車ごと船に積み込まれるのだが、その作業が非常にまどろっこしい。
まず、私たちの乗っている4号車から前が切り離されてどこかへ引かれていった。その後、残った10両は空の貨車を2両くっつけたディーゼル機関車に引っ張られて駅の先の貨物ヤードのようなところへ移動。そして向きを変えて船の中に入っていくのだが、船の長さが10両分もないので5両入ったところで再び船から出てきて、もう一度バックして船内のとなりの線路に入線。
こう書けば簡単だが、ひとつひとつの作業が緩慢で、到着してから船に入るまでに30分もかかった。重たい荷物を抱えて乗り換える手間が省けるというメリットと、時間がかかりすぎるというデメリットのどちらが大きいんだろう、と思わず考えてしまう世界であるが、まあいいやここはイタリアだから。
船内に積み込まれたところ
私たちの乗っていたのは右側の車両
列車が船に積み込まれてしまうと、客車から降りて船内を歩き回ることができるので、さっそく甲板に出てみた。今日は朝からほとんど列車の中にいるので、初めて今日の暑さを実感する。
15:36出航。8kmほどの航路なので、すでに対岸のシチリア島は近くに見えていて、その間の海峡(メッシーナ海峡)を行く。その海峡を行き交う船も多く、そんな中をゆっくり航行する。
イタリア本島を後にする
船旅をじっくり味わいたいところなのだが、20分もすると対岸の港が見えてくる。それとともに船内にあれだけいた乗客たちもサーッといなくなってしまう。ほとんどが列車ごと船に乗り込んだ人たちだったようだ。この両港間を結ぶ旅客船はけっこう多く、そんな中この船は1時間20分近く遅れているわけで、こうなってしまっても仕方ない。
その4 シチリア島内を走る
16:05、シチリア島のメッシーナ港に着岸。しばらくすると、機関車に引っ張られて船内からメッシーナ中央駅に移動する。ここではバックとかはしないで、まっすぐ走るとホームである。
さっき船に積み込まれるときに、船の長さの関係で2つに分割されたが、メッシーナからはそれらがそのままパレルモ行きとシラクーザ行きに分かれる。ということで、私の乗っている5両がパレルモ行きになるのである。
そのパレルモ行きは16:30出発。結局遅れは1時間20分のまま。
パレルモ島内は、先ほどまでのように軽快というわけではないが、80km/hくらいのスピードで走る。単線の区間も多い。
ここも海岸線では海水浴をしている人たちをよく見かける。明らかにリゾート地、という感じのところもあった。かと思えば一面畑の中の農村地帯を走ることもある。
海岸線です
一方、農村地帯です
この列車はものすごい遅れで走っているが、他の列車は比較的時間通り走っているようだ。詳しい時刻表を持っているのでそのへんのことはよくわかる。
ただ単線区間では、対向列車が駅でこちらの列車を待っていることが多い。相変わらず周りの列車に迷惑をかけながら走っているのであった。
18時頃から立て続けにミラノ行きの寝台列車と2本すれ違う(パレルモからミラノなんて、ほとんどイタリアの端から端ですね)。
そして18:45、チェファルの駅ではローマ行きの寝台列車ともすれ違った。こちらもローマを出て11時間近く走っているわけで、これからローマへ行けばもう明日の朝である。
昼食を食べた食堂車はさっき船に積み込まれる前に切り離されていたが、そのウエイトレスさんたちは車内販売員としてそのまま車内に残っていた。そして彼女たちは最後の停車駅・テルミニ(ローマのテルミニ駅とスペールが同じ)でワゴンごと降りていった。ここに営業所のようなものがあるのだろうか。
そのテルミニ駅からは複線区間となり、列車もスピードを上げた。
そして19:38、実に1時間33分遅れで終点・パレルモ中央駅に到着した。始発駅ローマからの所要時間は11時間42分であった。
まだ明るいパレルモ中央駅に到着