海外の鉄道もの

クスコ〜プーノ間の高原列車


その1 ワンチャック駅

2日前クスコに着き、前日クスコ市内を歩き回った。そしてその翌日はプーノ行きの高原列車に乗る。ワタシ的には今回のペルー旅行のメインイベントとなる1日である。

市内のホテルから車に乗ってプーノ行きの列車の出る駅に行く。昨日歩いて近くを通ったくらいの近さで、5分くらいで駅に着く。

この駅は2日前乗ったマチュピチュ行きが出る駅とは違う場所にある、ワンチャックという駅。ペルーの大きな鉄道駅は構内がフェンスで囲われているのだが、この駅は塀で覆われていて、外からは駅とはわからない。門を入るとその向こうに駅舎がある。



ワンチャック駅の駅舎
駅の正面は向こう側、そして向かって左側にホームがある
 

駅舎の正面には「ESTACION CUSCO(クスコ駅)」と書かれていて、「ワンチャック」という表記はどこにもない。その建物はこぢんまりとしていて、中には簡単な待合室がある。出発まであと20分くらいだったので、すぐにホームへ。片面ホームがひとつしかなく、そこにすでに列車が停まっている。

列車は青いディーゼル機関車を先頭に荷物車+インカクラス3両+ツーリスモクラス1両の6両編成。荷物車とは要するにこれに乗る人たちの大きな荷物を預かって、それを乗せている車両である。



私の乗った列車をラ・ラヤ峠の先まで引っ張っていたディーゼル機関車
クスコ・ワンチャック駅にて
 

私が乗るのはインカクラスの先頭A号車。最後列を除いて4人掛けのボックスシートで、すべてのボックスにテーブルがついているので、ゆったりしている。この車両には前の方に20人くらいの団体さん(ドイツから来た人たちのようだ)がいて、その他2〜3人くらいのグループが何組か乗っていた。全席指定で、前4分の3くらいがふさがっていて、後ろの方があいている。そこで、一番後ろの列を占領した。



私の乗ったA号車車内の様子

 

その2 高原列車午前中

8時、定刻通り発車。最初はクスコ郊外のややゴチャゴチャしたところを走る。空港のすぐ横も通るが、そのうち山間ののどかな風景になる。保線の状態が悪く、スピードはだいたい4〜50q/hくらいだろうか、かなりのろい。それでもよく揺れる。

途中、長くて25qくらい、短くて7qくらいの間隔で村があって駅がある。
8:42、最初の駅を通過。クスコから25.1q地点にあるオロペサという駅で、標高がクスコから約250m下がって3,095m。ここから、ウルバンバ川の上流に沿った登りとなる。

列車は山が川に突きだした崖のようなところを走ったかと思えば、一面畑の中を走ることもあるが、景色は概して単調で、どこまで行っても同じように見える。

10時頃、駅でないところで急に警笛が鳴って停車。前の方を見ると、牛の群が行く手をふさいでいた。それらが立ち去るのをゆっくり待つ。さっきから思うのだが、どうも「定刻を守る」をいう意識があんまりないようだ。



家が多いですが村の中です
 

11:42、久しぶりに町らしい町の中に入って、シクアニという駅に停まる。クスコから140.4q、標高3,542m、クスコを出発してはじめての停車駅である。
10分くらい停車するらしいので、さっそくホームに降りてみる。ホームには、地元のおみやげ売りの人たちが群がっていて、盛んに商品を掲げている。この駅も4方をフェンスに囲まれた駅なので基本的に乗客以外は出入りできないのだが、この人たちは「PERU RAIL」と書かれた青いゼッケンをつけている。ということは鉄道会社公認ということなのだろう。



シクアニ駅のホームでおみやげを売る地元の人たち
 

やがてホームにあった鐘が2つ鳴らされ、続いて3つ鳴り、ホームに出ていた乗客たちが列車に乗り込む。4方を囲むフェンスのうち、行く手の線路の部分が開けられて、11:53発車。

シクアニを出たあたりで食事タイムとなる。多くの客は、クスコを出発したときにメニューを配られ昼食の注文をしていて、それがこのころ配られる。私もちらっとメニューを見たが、たしかすべての料理(コース料理。単品はなかった)が$9くらいだったと思う。あとで見たところ一番後ろのツーリスモクラスの車両の半分が厨房になっていた。
一方私は朝ホテルで受け取ったランチボックスを食べる。

12:16、シクアニの次の駅マランガニに停車。駅の向こう側に3角線があり、それを使って機関車をひっくり返していた。なんでそんなことをするのかその時はわからなかったが、このナゾはあとで解ける。

この駅をすぎると、登りが一段ときつくなる。ここから約26qの間に、標高にして650mも登るのである。しかしこのディーゼル機関車は強力で、今までのペースをまったく落とさずにどんどん登っていった。



景色もだいぶ荒涼としてくる
 

いよいよ標高4,000mを越える。さすがにこのあたりまで来ると耕地がなくなり、一面の草原となった。もちろん未知の世界なのだが、私にとって列車に揺られているのがよっぽど性に合っているのか、さっきから体調が良い。

 

その3 最高地点 ラ・ラヤ峠

13:07、いよいよ最高地点、標高4,319mのラ・ラヤ峠。ちょうど分水嶺の部分に駅があり、停車する。もちろん、降りてみる。
峠とは言っても、あたり一面草原の中にあり、日本でいうところの「峠」らしくない大味な景色である。



ラ・ラヤ駅
 



同じくラ・ラヤ駅にて
どうです、この大味な景色
 

並行して走っている道(クスコ〜プーノの幹線道路)を走る長距離バスもここが休憩地点になっているようで、そこにたまたまバスが数台停まっていて、駅周辺は客たちで賑わっていた。
それだけ見ると普通そうな光景なのだが、そこはさすがに標高4,319m。列車から乗り降りするだけで息が切れる。ちょっと早足になっただけでも息が切れる。だからと言って息苦しいわけではないが、それだけの標高を感じずにはいられないのであった。

 

その4 高原列車午後

ラ・ラヤを出発すると、ここから先はただひたすら草原の中を行くようになる。しばらくは集落もなくて、ラ・ラヤから30q近く駅がない。ただし、途中に2ヶ所信号所のようなところがあった。

その2ヶ所めの信号所の手前で停車。何をやっているのかと思って前の方を見たら、反対方向からやって来た列車がその信号所の中に停まっていて、機関車をお互いに交換しているのであった。さっき機関車をひっくり返していた理由がここでわかった。
やがて列車が動き出す。信号所の中にさしかかると、すれ違いの列車が、今までこちらの列車を引いていた青い機関車に引かれて発車していった。向こうの列車には展望車がついていた。一方、こちらの列車を引いているのは、今まで向こうの列車を引いていた、オレンジ色のオンボロ機関車。

最初に現れた村がサンタ・ロサというところで、ここで標高4,000mくらい。
ラ・ラヤからクスコ側では、4,000m以下のところではほとんど耕地であったが、プーノ側はほとんどが一面の草原という区間である。気候的に霜が降りやすく耕作に適していないのだそうだ。
駅間距離(村が現れる間隔)も平均して長くなる。そういう草原の中に時々リャマの群れとそれを飼うインカのおばさんとかが歩いている。



一面の草原。リャマを放牧する人々。
 



たまに通過する駅
 

鉄道に離れたり近づいたりしながら、クスコからプーノへ向かう幹線道路が平行している。その途中で時々休憩しているバスを見かける。
向こうから見れば列車などめったに通らないので、バスの外で休憩している人たちがこちらに手を振っていることが多かった。

やがて列車は久しぶりに大きな町であるフリアカにさしかかった。町の中の線路沿いは市場になっていて、というより人通りの多い市場のまっただ中に列車がつっこむような感じで、列車は警笛を鳴らしながら最徐行して進む。事故が起きないのが不思議なくらいである。



フリアカの町にさしかかったところ。
これだけでも相当な光景ですが、ここからがすさまじかった。
市場の中を突っ切っていくのですが、そこでは
危なくて写真が撮れませんでした^^;;
 

16:53、フリアカ駅着。いちおう定刻では15:45となっているが、そんなことを書くこと自体がヤボのような雰囲気である。

ここで大多数の客が降りる。みんなこの列車の終着地プーノへ行くのは同じなのだが、ここからバスに乗り換えた方が全然早くて、その方がスタンダードになっている。でも私は鉄道にこだわる。これに乗るためにペルーへ来たようなものだからである。

 

その5 惰性のような最後の区間

17:05発車。すると、駅の構内から出たところで急停車。なんと機関車が故障してしまったようだ。町の中の人通りの多いところで、ギャラリーが寄ってくる。後ろから見ていると、エンジンを止め、機関士が降りてきてなにやら作業をしている。

15分後、よくわからないのだが再びエンジンがかかり出発。

ここまで来ると各席のテーブルにかけられていたテーブルクロス類はすべて片付けられてしまったし、車内はフリアカからガラガラ、しかも外は日が暮れて暗くなりつつあり、ほとんど惰性で走っているような感じになった。

17:50すぎ、最後の駅を通過したあたりから、いよいよチチカカ湖の湖畔を走るようになる。といってもだいぶ暗くなって景色を見るのもつらい状況なのだが、とにかくじっくり見る。とうとう来たか、という感慨のようなものがわいてくるのであった。

チチカカ湖畔を進んでいると、プーノの夜景が見えた。その中に入っていき、18:30に終点プーノ駅に着いた。ここも駅に着く前、フリアカほどではないが市場の中を突っ切った。



プーノ駅に到着
 

駅から今夜のホテルに向かう。
プーノの町は人がうじゃうじゃ、その上道が細かく入り組んで、以前行ったことのあるネパールのカトマンズを思い出させた。
しかしここは標高3,855m。富士山の山頂より高いのであった。

 

ペルーの鉄道に戻る