ブループラネット移民ガイド
第3部「シナジー効果」
乗物とエンジン

ポセイドン、2199AD

 人類の未来へ、地球から遠く離れた異星へ、旅立つ運命があなたを待っている。そこは、常に死と隣り合わせの世界。犯罪と戦うGEOマーシャル達や、深海にひそむ攻撃型潜水艦に乗り込んだサイバー傭兵達の世界。
 その果てなき欲望ゆえに異星の生態系を脅かす人類は、ここで太古の遺産に直面し、やがて生存を賭けた戦いへと巻き込まれることになるだろう・・・。

ブループラネット 第2版 オープニングより


ブループラネット移民ガイド 第3部「シナジー効果」

・乗物とエンジン

 さて、第2版でリニューアルされた戦闘ルールやキャラクター作成については、
おいおい説明してゆくこととして、まずは今まで解説しなかったテクノロジー関連
の話題についてお話しします。

ブループラネットの背景世界は、西暦2199年、すなわち今から約200年後の未来に
設定されています。正直に言って 200年後の技術を正確に予想することなど誰にも
出来ません。仮に出来たとしても、それを理解できるGMはいないでしょう。仮に
いたとしても、それを活用できるプレーヤーはいないはずです。仮にいたとしても
・・・まあとにかく、私が解説できないことは確かです。

かといって、ハードSFを売りにしているのに「ワープ航法」「超能力増幅器」
「スーパー人工知能」「巨大戦闘ロボット」「タイムマシン」といった古めかしい
SFガジェットに逃げるわけにもいきませんね。

そこで、ブループラネットの設定は、2199年と言いながら、実際には今から20〜
50年くらい将来の技術水準を想定して作られているようです。これは、「科学的な
正確さ(説得力)」と「プレイしやすさ」の両方を満たすためにやむを得ないとこ
ろでしょう。ですから、プレーヤーの皆さんは「何で 200年も未来なのに人工知能
がこんなレベルなんですか」とか「もうすぐ23世紀なんだからニュートリノ通信器
くらいあるよね?」などと言ってGMを困らせないで下さい。

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さて、今回は、大抵のシナリオでキャラクター達がお世話になるであろう「乗物」
について見てみましょう。

乗物は、大きく分けて「エンジン」「燃料」「推進装置」「操縦装置」「その他
(車体、快適性、安全装置、通信、アクセサリ類・・・)」といった要素技術から
構成されています。現在(2000)の自動車なら、エンジンは内燃機関、燃料は炭化水
素、推進装置は回転式摩擦駆動、操縦装置は機械式(一部電子化)などということ
になります。

これが「トラベラー」に登場する「エアラフト」だと、エンジンは小型核融合炉、
燃料は液体水素、推進装置は反重力スラスター、操縦装置は(なぜか)機械式とい
うことになります。

では、ブループラネットに登場する乗物はどうなっているのでしょうか?

まずエンジンですが、「反重力テクノロジー」といった原理的に不可能な技術は
存在しません。次に、環境レギュレーションが非常に厳しいため、有毒な排気ガス
を出すようなエンジンは禁止されています。というわけで、ブループラネットにお
ける乗物のエンジンは、燃料電池とモーターで構成されているのです。

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燃料電池とは、酸素と水素が化合するときのエネルギーを、電気の形で取り出す
装置です。エネルギー効率が良いことに加えて、排出物が無害な酸化二水素であり、
環境に悪影響を与えないという大きなメリットがあります。

  [コラム] 酸化二水素は無害か?

    酸化二水素の危険性について論じた有名な論文があります。ご存じの方
    も多いとは思いますが、内容をご紹介しておきましょう。

    毎年、米国だけで何万人という人が酸化二水素のために命を落としてい
    ます。資格のない作業者でも取り扱いが許可されるため、多くの化学プ
    ラントで大量の酸化二水素が溶媒として使用されています。これを規制
    する法律や条例は今のところ全くありません。南極大陸の氷にも、また
    北極海に棲息する魚の体内にも、酸化二水素が含まれていることが確認
    されています。酸性雨、エルニューニョ、赤潮などの現象も、酸化二水
    素の介在によって生じると言われています。そして今この瞬間にも母親
    の母乳を通じて、赤ん坊の体内に酸化二水素が蓄積されているのです。
    酸化二水素は米国どころか世界中に広がっているのに、その生化学的な
    安全性について気にする人はほとんどいない、というのが現実なのです。

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燃料電池が電力を発生させるためには、酸素と水素が必要です。酸素は大気から
取り込むことが出来ますが、水素の方は「燃料」として補給しなければなりません。
水素を安全に取り扱えるようにするため、様々な水素吸着材が実用化されました。

例えば水素を効率よく吸着する合金が開発されています。この合金で作った薄膜
フィン(占有体積に比べ表面積が大きくなる波形フィン)を何枚も重ねて、頑丈な
容器に入れた「水素充填器」が、乗物の「燃料タンク」として使われます。

水素を充分に吸着させた「燃料タンク」を乗物に装着すると、水素が燃料電池に
送り込まれ、電力が発生します。この電力でモーターが回転し、モーターに連動し
た推進装置が動き出すわけです。

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自動車の推進装置は、回転式摩擦駆動、つまりタイヤです。要するに、ブループ
ラネットに登場する自動車は、今後10〜20年で実用化、普及するだろうと言われて
いる電気自動車に他なりません。外見は現在の車と(デザインを除いて)大差なく、
乗り心地も似たようなものでしょう。ただ、騒音はほとんどなくなっています。

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これに比べて、航空機は大きく変わりました。前述したように、環境保護法によ
る規制と、化石燃料の枯渇によって、ジェットエンジンが使えなくなったためです。
今や、航空機はターボファンによって推進しています。

また余談ですが、ブループラネットのルールブックには、ジェット戦闘機としか
思えないイラストが載っていたりしますが、これはイラストレーターが深く考えず
に描いたものでしょう。あるいは、未来のハイテク戦闘機が「プロペラ機」という
のが、視覚的に許せないと思ったのかも知れません。その気持ちは理解できます。

ポセイドンで使われている航空機のほとんどが、現在のヘリコプターの子孫にあ
たるものです。これらは「ジャンプクラフト」「ホッパー」などと呼ばれています。
機体に大出力ターボファン(ローター)をいくつも内蔵した垂直離着陸機で、騒音
の少なさ(ローター材質の進歩と、燃料電池によるもの)を除いて、現在のヘリコ
プターと同じようなものだと思って下さい。

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船舶、そして潜水艦は、常温超伝導技術と、MHD推進の実用化によって大きく
変わりました。

ちなみに、ブループラネットでは、常温超伝導物質は無重力状態でないと製造で
きない、という設定になっています。このため、21世紀中頃に軌道上への工場プラ
ント打ち上げラッシュが起こり、これで宇宙開発の促進と、軌道エレベータ建造へ
の流れが決定づけられた、というわけです。

さてMHD推進ですが、推進装置内に海水を取り込んで、燃料電池の電流を流し、
そこに超伝導コイルで作り出した強力な磁場をかけてやります。すると、フレミン
グ左手の法則(覚えてますね?)によって海水は激しい勢いで後方に噴出されます。
この反動により、船や潜水艦は前方に推進される、というわけです。

MHD推進は、古いプロペラ推進に比べると、ほとんど無音です。これが、攻撃
型潜水艦にとって決定的に重要なのは明らかでしょう。(ちなみに、「レッドオク
トーバーを追え」に登場した”キャタピラ推進”なる新技術は、MHD推進のこと
だと思います)

もう一つ。燃料電池と超伝導コイルは小型化が可能です。このため、MHD推進
装置もコンパクトに作ることが出来ます。これにより、個人用の小型海中乗物がい
くつも実用化されました。小型ボート、水上バイク、パワー艀(はしけ)、あるい
は深海用の重潜水服(そうですね、モビールスーツみたいな装甲機動メカだと思っ
て下さい)にもMHD推進器が装備されています。

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「エンジン」と「燃料」に関する技術の概要は理解できましたね。だいたい今か
ら20〜30年後の技術水準だということがお分かりのことでしょう。

次回は、「操縦装置」についてお話します。

馬場秀和

(続く)

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