ブループラネット移民ガイド
第3部「シナジー効果」
内蔵デバイス

ポセイドン、2199AD

 人類の未来へ、地球から遠く離れた異星へ、旅立つ運命があなたを待っている。そこは、常に死と隣り合わせの世界。犯罪と戦うGEOマーシャル達や、深海にひそむ攻撃型潜水艦に乗り込んだサイバー傭兵達の世界。
 その果てなき欲望ゆえに異星の生態系を脅かす人類は、ここで太古の遺産に直面し、やがて生存を賭けた戦いへと巻き込まれることになるだろう・・・。

ブループラネット 第2版 オープニングより


ブループラネット移民ガイド 第3部「シナジー効果」

・内蔵デバイス

 しばらく連載をさぼっている間に、第2サプリメント「ファースト・コロニー」
"First Colony"が出版されました。これは、ポセイドンに築かれた最初の植民地
にして、今やポセイドン全体の首都となっている、ヘイブン"Haven" という街に
ついて解説するソースブックです。

 ヘイブンが位置するアルゴス島の地理、気象から始まって、ヘイブンの歴史、
政治情勢、経済状況、文化、娯楽、犯罪などヘイブンに関する様々な設定情報が
載っているのに加えて、この街を舞台としたシナリオが4本含まれています。
そういえば、これが初めての第2版対応シナリオということになりますね。

 4本のシナリオは、それぞれ「探偵物」「謀略巻き込まれ型」「モンスター・
ハント」「アイテムコレクション」といった、RPGの典型的パターンに属する
話ばかりで、全体的にアクションや戦闘よりもサスペンスに主眼を置いたものと
なっています。もちろん、Mr. ジョンソンから「バイオジーン社の生化学研究所
に潜入して、開発中のバイオチップを奪取してほしい」と依頼されるようなシナ
リオは1本もありませんので、ご安心下さい。・・・ただし、それはそれとして、
アボリジニーとの戦闘は覚悟しておきましょうね(謎)。

 というわけで、ルールブックに加えてこのサプリメントさえあれば、ブループ
ラネットのセッションを開催することが出来ます。GM必携の一冊です。

 で、もうあちらでは第3サプリメントが出版されたとのことで、何だか第2版
になってからすさまじい勢いで出版ラッシュが続いています。売れていればよい
のですが・・・。

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 さて、前回はNIC(Neural Interface Circuit)テクノロジー、すなわち神経
系と光電気系のデジタル信号を相互変換する技術、およびその応用であるニュー
ラルジャックについて説明しました。覚えていますか?

 今回はその続きです。ニューラルジャックの代替技術、NICテクノロジーの
さらなる応用について解説してゆくこととしましょう。

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 ニューラルジャックは便利なデバイスですが、これを利用するためには外科手
術によって金属端子を身体に埋め込むことが必要です。この手術はかなり高価な
もので、しかも危険を伴います。金属端子の埋め込みと表皮露出は、アレルギー
から感染症まで様々なトラブルの原因となる上、メンテナンスのため定期的交換
(再手術)が必要となります。(ところで、ニューラルジャックを装備したまま
海水浴しても端子は錆びないのでしょうか?)

 このようにニューラルジャックを維持するのは割と面倒でお金もかかるため、
もっと手軽に使える代替技術が開発されました。それらは、一般に電極"Trodes"
と呼ばれています。

 電極はたいていヘルメットの形をしたインタフェースで、内側に精密な電界セ
ンサが取り付けられています。このヘルメットをかぶり、センサを額やこめかみ
に定着させれば準備OK。センサが脳波を読み取り、そのパターン変化をデジタ
ル信号化してコンピュータに入力するという仕掛けです。

 電極を最初に使うときは、使用者の脳波パターンに合わせるための初期調整が
必要です。試しに、戦闘機の操縦席にある電極を装着して、調整モードに入って
みましょう。モニタの指示に従って「右旋回」「左旋回」「加速」などのコマン
ドに相当する思考(脳波パターン)を登録してゆきます。例えば、頭の中で強く
”撃て”と念じるとミサイルが発射されるように登録すればよいわけです。言う
までもありませんが、もしあなたがロシア語で思考を登録したなら、ロシア語で
念じないと有効なコマンドと見なされませんので、そのへんよく注意して下さい。

 電極は、慣れればほぼ誰にでも使える汎用インタフェースであり、しかも両手
で作業しながらコンピュータへの指示が可能ということもあって、乗物やリモー
ト(遠隔操作ロボット)の操縦から、ウェアブル(装着)コンピュータへのコマ
ンド入力まで様々な用途に用いられています。陸軍が採用している戦闘ヘルメッ
トには、電極と3Dグラフィック・ディスプレイバイザーが組み込まれており、
歩兵はライフルを構えたまま各種情報(地形マップや戦況チャートなど)を見た
り、戦術コンピュータにアクセスして指示を出したり指示を仰いだりすることが
可能となっています。

 もう一つ。使用者の脳波パターンに合わせないと使えないという点を活かして、
電極を使用した個人認証も普及しています。例えば、ドアのわきに取り付けられ
た専用電極から特定のパスワードを思考入力しないとロックが解除されない、と
いった電子ロックがよく使われています。この場合、専用電極は特定人物(複数
可)の脳波パターンとパスワードの組み合わせだけを受け付けるように固定され
ています。従って、電極に登録されてない者がロックを解除することは、たとえ
何らかの方法でパスワードを知ったとしても、なおかつ極めて困難なのです。

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 知性化されたイルカやオルカなどクジラ類にとって電極の代わりとなるのが、
音極"Sonic Trodes"です。音極も、基本的には電極と同じデバイスですが、入力
として脳波パターンではなく、クジラ類が得意とする「歌」の音波パターンを用
いるのです。また、音極には、コンピュータ出力をクジラ類が持っている「音響
知覚」(エコーロケーション)に合わせて調整した超音波に変換して放射する機
能も持っています。

 音極を用いることで、クジラ類には超音波を用いたコンピュータ操作が可能に
なります。仲間同士のコミュニケーションに使っているのと同じ「歌」で電子機
器の操作や個人認証を行い、暗い海の底で視覚の代わりに用いている「音響知覚」
により、コンピュータのディスプレイ画像を”観る”というわけです。

 クジラ類は、人類のように器用な手を持ってないというハンディキャップを、
音極デバイスと制御コンピュータにより様々な機器を遠隔操作する技術によって
乗り越えたのです。(これらクジラ類用デバイスをお求めの方は、お近くのハイ
ドロスパン社の営業店にどうぞ。人類用の相談デスクも用意してあります)

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 さて。さらなるNICテクノロジーの応用について見てゆきましょう。

 さきほど説明した通り、ニューラルジャックの不便さは、主に端子(外部イン
タフェースポート)を体外に露出させなければならない、という点から生じてい
ます。ですから、端子を外に出すのではなく、NICと一緒に小型の専用コンピ
ュータも身体に内蔵させてしまえばよい、という発想が生じます。

 この発想に基づいてまず開発されたのが、内蔵計算機"Implanted Calculator"
です。これは、数値計算プロセサを腰骨あたりに埋め込み、それをNICで神経
系に接合させたものです。内蔵計算機を装備すると、頭の中で膨大な計算を行っ
たり、頭の中で複雑な数式を素早く解く、といったことが可能になります。感覚
的には”頭の中で”計算しているわけですが、実際には、何というか”下半身で”
処理しているというわけですね。

 さらに内蔵翻訳機"Implanted Translator"というものも開発されました。同じ
ように、言語翻訳チップを身体に埋め込んでNIC接合させます。すると、あら
不思議。外国語を聞くと、ちょうどバイリンガル放送のように、母国語への同時
通訳が頭の中に響くという仕掛けです。逆に、母国語の文章を思い浮かべると、
外国語の発音が頭の中に浮かぶので、その通りに発音して下さい。

 この類の内蔵デバイスは非常に便利だったため、ニューラルジャックを装備し
ている者でさえ内蔵デバイスを希望するようになりました。そこで登場したのが、
内蔵マイコン"Implanted Micro Computer"です。他の内蔵デバイスと同じく身体
に汎用プロセサを埋め込んでNIC接合させたものですが、ニューラルジャック
を利用して外部からソフトを読み込むというのが特徴になります。これによって、
様々なソフトを”頭の中で”走らせることが可能となります。(授業中や仕事中
に頭の中でゲームソフトを走らせるとか・・・)

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 最後に、様々な内蔵デバイスのうち、特に注目すべきものを2つ挙げておきま
しょう。いずれもシナリオに登場する可能性が高いものです。

 1つ目は、条件反射プログラム"Programmed Reflexes" です。これは利用者の
脳幹および脊髄上部に接合した特殊なNICと、身体に埋め込まれた専用プロセ
サから構成されるデバイスで、特定の条件が成立するとあらかじめプログラムし
ておいた条件反射を起こさせる機能があります。(もちろん、思考コマンドによ
る機能のON/OFFが可能です)

 例えば、GEOマーシャル(保安官)は、「誰かが自分に銃を向けようとした
ら、ホルスターから拳銃を抜いて、そいつを撃つ」という条件反射プログラムを
常時ONにしているという都市伝説があります。(これが本当かどうか試した者
はみんな死んでしまった、というオチまでついています)

 都市伝説と言えば、航空機が重大事故を起こした際に、パイロットが条件反射
プログラムを装備していたおかげで見事な緊急着陸に成功し、乗客が助かった、
という話もあります。これのどこが都市伝説かと言うと、そのパロットは、事故
が生じたとき頭を吹き飛ばされて死んでいたのだそうです。

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 もう一つは、内蔵感覚レコーダ"Implanted Sensory Recorder"です。これは、
利用者の知覚神経にNIC接合され、利用者が実際に受け取った全ての感覚情報
をデジタルデータとして記録し、後で再生することが出来る内蔵デバイスです。
記録の開始、停止、消去、再生などは全て思考コマンドにより制御されます。

 内蔵感覚レコーダにより、自分の体験を後からありありと”追体験”すること
が可能になります。記録している間に見たこと、聞いたこと、味わったことなど
あらゆる感覚がそのまま正確に再現されます。(記録されるのは感覚情報だけだ
ということに注意して下さい。思考、感情などは記録されません)

 適切な変換フィルタを通すことで、内蔵感覚レコーダに記録された感覚情報、
すなわち録感を、他の人が再生(追体験する)することも可能です。ですから、
例えば他殺死体を解剖して内蔵感覚レコーダが出てくれば、警察の仕事はずいぶ
んと楽になる可能性があります。録感を再生すれば、被害者が死ぬ直前に見たり
聞いたりしたことが全て分かるからです。ただし、繰り返すようですが、記録者
が誰で、何を考えて行動していたのかという点について、録感は何も語ってくれ
ないということを忘れないで下さい。また感覚レコーダの録感が裁判の証拠とし
て有効か否かという問題については、今だに混乱した議論が続いています。

 この「記録した人とは別の人が録感を再生(追体験)できる」ということから、
巨大な娯楽産業が立ち上がりました。様々な体験を内蔵感覚レコーダで記録し、
そのデータをコピーしてパッケージ化して売ることが可能だからです。視聴者は、
市販のパッケージを買って、その録感データを自分の内蔵感覚レコーダにダウン
ロードして再生するだけで、他人の”体験”したことを追体験できるわけです。

 これは「疑験」と呼ばれ、映画に代わる新しい娯楽となっています。ちなみに
どのような内容の疑験がもっともよく出回っているか、言うまでもないでしょう。

 おかげで、再生専用の安価な内蔵感覚プレーヤーというものが開発され、すご
い勢いで普及しました。いつの時代も、新しいテクノロジーを作り出すのは知性
かも知れませんが、それを普及させるのは欲望なのです。

馬場秀和

(続く)

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