『ブループラネット』
レビュー

 1997年に出版されたRPGのうち最大の話題作は何かと問われれば、米国のRPGファンのほとんどが『ブルー・プラネット(Blue Planet)』の名を挙げることでしょう。とにかく出版直後の一時期など、RPGニューズグループはこの作品の話題で持ちきりになったらしい。
 このところ米国RPG界はちょっとしたSF-RPGブームで、SFあるいはSF周辺ジャンルのRPGが次々と出版されているのですが、その中でも『ブループラネット』は出色の出来ばえだと言われています。何と言うか、小細工なしの「渾身の直球本格ハードSF」というべき真面目さが、SF-RPGファンの心をがっしりとつかんだようです。
 話題性だけでなく、雑誌等の評価も好意的です。以下に示すのは、InQuest誌 1997年10月号[ゲームレビュー]に載った記事の一部です。


『ブループラネット』レビュー

   -- Biohazard Games 社の「ブルー・プラネット」は画期的なゲームだ。
     「パラノイア」が出版されて以来、これだけオリジナリティのある
     SF−RPGは他になかった。

 西暦2078年。太陽系の外周付近で観測された奇妙な現象を調査していた外宇
宙探査機「プロメテウス2」が、通過可能なワームホールを発見した。それは、
太陽系から35光年の彼方、ヘビ座のラムダ星系に通じる時空の特異点だった。

 ラムダ星系の海洋惑星「ポセイドン」に、国連によって植民地が設営された
のは10年後である。入植者として送り込まれたのは、遺伝子工学により改造さ
れた人類である海棲人、そして知性化されたイルカやオルカ。だが、植民直後
に地球文明は壊滅的打撃を受け、惑星ポセイドンとその植民地は1世紀以上に
渡って地球とのコンタクトを断たれてしまう。

 だが、地球から見捨てられた入植者達は自力で生き延び、人口を増やしてい
ったのである。

 そして今や西暦2199年。ようやく復興を遂げた地球の各国政府、企業国家群
は、惑星ポセイドンで発見された抗老化剤の原料、通称「ロング・ジョン」を
求めて、この星に殺到している。

 このゴールドラッシュにより、未開の惑星であるポセイドンの驚くべき生態
系の秘密が解きあかされつつあるが、その反面、生態系の破壊が始まり、また
急速に治安が悪化している。今や初期入植者たちは、新しい移民に対して敵意
を隠そうとしなくなった。

 一方、ポセイドンの果てしない大洋の奥底深く、謎めいた知的生命体「アボ
リジニー」たちが、今だ人類に知られていないある目的のために、密かな活動
を開始していた・・・。

**

 海洋惑星を舞台にした「デューン:砂の惑星」、ジャック・ヴァンスの「ブ
ルーワールド」、デイヴィッド・ブリンの「スタータイド・ライジング」、
アーサー・C・クラークの「遙かなる地球の歌」。こう言えば「ブルー・プラ
ネット」の背景世界がどのようなものか分かるだろう。

 ただし、惑星ポセイドンは、深刻かつリアリティのある危険に満ちているこ
とを忘れてはいけない。

 試しに、観光客で賑わう新興都市ヘイブン、あるいは浮遊集落ノーマッドか
ら、水中翼船で海に乗り出してみよう。きっと「ジャッジ・ドレッド」みたい
なGEO(世界環境機構)保安官が、サンバーストを密猟していたロシア人を
射殺する現場に出くわすだろう。でなければ、オルカ(シャチ)の酋長に率い
られたシエラ・ネバ部族の戦士達が、アトラス・マテリアル社の「アンダー・
シー・ハビタット2」海底採掘基地を襲撃している現場とか。

 危険なのは住民だけではない。一度発生すると長期に渡って消滅しない「フ
ォース6」クラスの暴風雨、グレーター・ホワイト(常に飢えている全長75
メートルの巨大ウナギ)、海賊、奴隷商人、サイバー強化された企業傭兵、初
期入植者の子孫である海棲人。ポセイドンには、これらの危険があふれている
のだ。

 そしてまた、ポセイドンは美しいイメージを提供してくれる。それらは科学
技術、海洋学、地質学、生態学から生まれたものだ。生態系と言えば、ポセイ
ドンの生物は、全て地球の生命と同じDNA(遺伝子)をベースにしている。
(両星系がワームホールで接続されていたという、もっともらしい科学的根拠
があるにはあるが、それにしてもこれはちょっと無理な設定だと思う)

 「ブルー・プラネット」では、「スターウォーズRPG」のようなスペース
オペラをプレイすることは出来ないし、「トラベラー」のように星から星へと
旅をすることも無理だ。これは、この上なく厳格な「ハードSF」をプレイす
る作品なのだ。

**

 分厚いルールブックには、「シャドウラン」みたいなサイバーウェア、バイ
オテック、多種多様な乗物や武器から、海棲人やイルカ、オルカになるための
ルール、さらには新参者の移民になるための太陽系の設定に至るまで、何でも
書かれている。

 キャラクター作成においては、まず種族を選択する。これにより、14個の能
力値について基本となる成功率(パーセント)が決定される。他に、スキルグ
ループが23個あり、そこに含まれるスキルは全部で99個もある。が、実際には
「テンプレート」を選ぶだけで、習得スキルが決定される。ルールブックでは
40個のテンプレートが提供されている。なお、スキルによる成功率は、それぞ
れ対応する能力値によって修正を受ける。

 個々のテンプレートは、必ずしもバランスがとれているわけではない。例え
ば「GEOショックトルーパー」のテンプレートは、「ヘイブン在住の考古学
者」のテンプレートより多くのスキルを持っている。以上。
 しかし、テンプレートの狙いは、プレーヤーに対して非常に幅広い様々なキ
ャラクター設定を提供することであり、その点ではうまくいっている。

 判定は全てパーセントダイスを使う。判定結果の解釈には、成功/失敗だけ
でなく、8つのレベルの成功段階が含まれている。さらに、エレガントな「ス
ケーリング」システムにより、難易度による成功段階の修正が行われるのであ
る。

 0.5 秒の戦闘ラウンド、イニシアチブロール、命中部位判定、スケーリング
修正といった要素を含む戦闘システムは、ドラマチックではないが、ちゃんと
使えるものになっている。

 致命傷ルールと、「ロールマスター」みたいな痛打表によって、戦闘はリア
ルなものになっている。たぶん多くのプレーヤーにとって戦闘バランスは厳し
過ぎるだろう。必要に応じて、システムを修正するとよい。

**

 Biohazard Games 社の「ブルー・プラネット」は画期的なゲームだ。
「パラノイア」が出版されて以来、これだけオリジナリティのあるSF−RP
Gは他になかった。

 これまで「ハードSF−RPG」という分野には、GDW社の「2300 AD 」
(ちっとも売れなかった)とか、ガープスのいくつかのサプリメント(退屈だ)
があったが、これらと比べても「ブルー・プラネット」の方がずっと出来がよ
く、面白い。

 確かに、ハードSFにしては無理な設定もあるが(2199年なのに紙幣が使わ
れているとか、コンピュータの能力が現在と大差ないとか)、それでもあなた
がハードSFのファンであれば「ブルー・プラネット」を今すぐ買うべきだ。

 「ブルー・プラネット」には、抗老化剤よりも貴重なもの、つまり科学的な
正しさを追求する姿勢と、高い知性が含まれている。どちらも、長らくRPG
の分野に欠けていたものである。

                           アレン・バーネィ

**

[長所]

  ・今まで出版されたうちで、文句なく最高の「ハード」(科学的に正確な)
   SF−RPGである。

  ・魅力的で、想像力豊かな背景世界設定。背景世界については詳細かつ広
   範囲に設定されており、1ダース以上の異なるキャンペーンを遊んでも
   飽きないほど出来が良い。

  ・ルールシステムには、特に問題はない。
   ただし、気に入らなければ、背景世界だけを採用し、ルールは他のSF-R
   PGのものを使うことも可能。

  ・オルカ(シャチ)になれる!

[短所]

  ・初心者向きでない。初めてのプレーヤーに素早く背景世界を説明してす
   ぐにプレイを始める、といったことは難しい。

  ・戦闘がリアル過ぎる。(つまり、簡単に死んでしまう)

  ・惑星はブルーに見えるかも知れないが、ページには文字がぎっしり並ん
   でいて黒く見える。もっとイラストを入れて欲しい。

[欠点]

  ・製本、校正ともに甘い。

  ・ある程度の科学的知識がないと、ついていけない。

  ・2199年なのに、AI(人工知能)が存在しない・・・。

**

「ブルー・プラネット」

 出版社   :Biohazard Games
 デザイナー :Jeffrey Barber, with Greg Benage, John Snead and Jason Werner
 ジャンル  :ハードSF−RPG
 出版形態  :352ページ、ソフトカバー書籍
 発行日   :1997年 7月
 希望小売価格: 27ドル95セント
 問い合わせ先:Biohazardg@aol.com


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