バイオレンス!

 Hogshead Publishing 社のRPG「バイオレンス」"VIOLENCE - The roleplaying game of egregious and repulsive bloodshed"をご紹介しましょう。
1999年9月 馬場秀和

    警告−「バイオレンス」は18歳未満の方にはお勧め出来ません。
       ・・・じゃ18歳以上の方にはお勧めか、と言われると困ってしまいますが。(表紙より)
    また、職場でライフルを乱射して同僚を皆殺しにする計画を持っている方は、購入を控えて下さい。
    我々は世間の注目を浴びたくないのです。(裏表紙より)


バイオレンス!(1)

 Hogshead Publishing 社の新作「バイオレンス」"VIOLENCE - The roleplaying
game of egregious and repulsive bloodshed"を購入しました。

 これは「現代社会を舞台にD&Dをプレイしよう」というコンセプトのゲームで、
要するに他人の家屋に侵入して住民を皆殺しにして金品を略奪するという凶悪犯罪
RPGなのですね。

 出版元であるHogshead Publishing 社は、「ウォーハンマーRPG」"Warhammer
Fantasy Roleplay" で有名な英国のゲーム会社です。最近では、「ほらふき男爵の
冒険」"The Extraordinary Adventures Of Baron Munchausen"が話題になりました。

 また、人によっては、雑誌"Interactive Fantasy" の発行元として知られている
でしょう。あるいは、一部のどうしようもない人々にとっては、「あるとき天空か
ら3冊のルールブックが降臨した」で始まる某RPGを出版する*はず*の会社とし
て有名かも知れませんね。

**

 デザイナーは匿名で、ただ"Designer X"とだけ書かれている全く謎の人物です。
出版社の説明によると、

  ・このゲームのデザイナーの正体については何も明かすことはできない。
   ただ一つ言えるのは、彼がパラノイア"PARANOIA"、トゥーン"TOON"、スター
   ウォーズ"Star Wars" のデザイナーと同一人物だということだけだ。

とのことです。さらに続けて

  ・これはなぜかというと、著名なゲームデザイナーであるグレッグ・コスティ
   キャン氏から固く口止めされているからだ。

というわけで、何だかよく分かりませんが、きっとオトナの事情というものがある
のでしょう。

 ちなみに「バイオレンス」に関する情報は、Hogshead Publishing 社のウェブ・
ページから得ることが出来ます。URL は次の通り。

http://www.hogshead.demon.co.uk

**

 「バイオレンス」のルールブックですが、わずか32ページ。非常に薄いので、
私でさえ10日もあれば最後まで読めるような気がします。というわけで、まだ数
ページしか読んでないにも関わらず、紹介の連載を初めてしまいましょう。こう、
日記風に、その日に読んだページに書かれていた内容をご紹介するということで。

 まず今日のところは表紙から。

 皮ジャンにサングラス、両手にサブマシンガン、腰には弾薬ベルトと日本刀、と
いう姿の凶暴な男の周囲に、血しぶき、弾痕、死体の山、というとっても悪趣味な
カラーイラストが表紙になっています。冒頭に引用した警告(18歳未満の方には
お勧めできません・・・)、"by Greg Costikyan" の表示の上に "by Designer X"
と書いた修正シールを張って(いるかのように印刷して)あります。

 裏表紙には、やはり冒頭に引用した警告(大量殺人を計画している人は購入をお
控え下さい・・・)を始めとして愚かなことが延々と書いてあります。それに、青
で印刷された切手くらいの大きさの「経験点証明書」"official experience point
certificate"が10枚、切り取ってお使い下さいという感じで付いています。

**

 実は、この「経験点証明書」の使い方が知りたくて、まず最初に経験点に関する
ルールを読みました。するといきなり

  ・RPGをいくらデザインしても儲からない。6ドル95セントのルールブッ
   クが一冊売れても、俺の手に入る印税は5%、わずか35セント。それも、
   良心的な出版社の場合だ。この腐れ業界には2〜3%しかよこさないケチな
   連中も横行している。これじゃ俺は家賃の支払いさえままならない。それと
   いうのも、ゲームマスターが1冊だけ購入したルールブックを使って何人も
   のプレーヤーがロハで遊ぶせいだ。この豚野郎ども! くたばりやがれ!

てな感じで延々と愚痴と罵詈雑言がまき散らされています。最初は驚きましたが、
実はこのルールブック、全体がこの調子なんですね。

 で、経験点ルールですが、裏表紙に付いている経験点証明書1枚で、経験点1点
になります。ですから、ルールブック1冊で10点まで経験点を配ることが出来る
わけです。もし、もっと経験点を配る必要が生じたら?

  ・ルールブックを何冊も買え!

とのことです。さらに次のようなルールがっ

  ・経験点証明書はコピー厳禁(複写できないように青いインクで印刷してある)

  ・必要な枚数の経験点証明書なしにレベルアップするのは、ルール上禁止する

  ・もちろんプレーヤーは、何冊でも好きなだけルールブックを購入して、経験
   点証明書を集めて勝手にレベルアップしてよい。ゲームマスターは、それを
   禁止してはならない。

  ・Hogshead Publishing 社は、そのうち経験点証明書だけを割安で売りつける
   商売を始める予定だ


 さらにコスティ・・・デザイナーX氏は「この商法は特許をとっている」と言い
張ります。目指すはウィザード・オブ・ザ・コースト社、ですね。

**

 この「もう勘弁ならん。てめえらファッキンゲーマーどもから金を巻き上げてや
るぜ」というルールは他にも沢山あります。例えば

  ・キャラクターシートはコピー厳禁。従って、プレーヤーは一人一冊ルールブ
   ックを購入せよ。Hogshead Publishing 社は、そのうちに「バイオレンス−
   キャラクターシートパック」を割安で売りつける商売を始める予定だ。

とか。ちなみに、デザイナーX氏が「キャラクターシート」だと言い張ってるペー
ジは、私にはただの白紙にしか見えません。

 他にも

  ・このゲームをプレイするためには、6面、8面、10面、12面、20面ダ
   イスが必要だ。なぜ統一しないのかって? ダイスを沢山売りつけるためさ。
   ゲイリー・ガイギャックス(D&D、AD&Dのデザイナー)に許されること
   なら俺にだって許されるはずだっ。

  ・もちろん「バイオレンス」特製ダイスを使用することをルール上義務づける。
   この特製ダイスは、普通のダイスと同じだが、Violenceロゴがついているの
   と、普通のダイスより高価なのが特徴なんだ。買え。

という感じで吠えまくり、ついには

  ・このゲームをプレイするためには、参加者全員が「バイオレンス」Tシャツ
   を着なければならない。あと「バイオレンス」ミニチュアフィギュアを使用
   し、「バイオレンス」CDをBGMにして、「バイオレンス」ソーダポップ
   と「バイオレンス」スナックを食べながらプレイしろ。そうそう、「バイオ
   レンス」トレーディングカードを発売するから箱買いするのだ。

となります。キレまくってますな。

**

 と、今日はここまで。

 次回は、最初のページ「ようこそ。この腐れ***野郎」を読んで、内容をご紹
介する予定です。ご期待下さい。



バイオレンス!(2)

    ----------------------------------------------------------
    もし、ゲームデザイナーが「芸術」と呼ばれるに値する仕事をし
    たいのであれば、ともあれ商業的な成功を超えた高みに目標を置
    くにはどうすればよいか考え始めなければならない。
    ----------------------------------------------------------
                 グレッグ・コスティキャン 1994年


    ----------------------------------------------------------
    何年もゲーム畑で汗水たらして、少しでも良いゲームをデザイン
    しようと試みてきたあげく、ついに真実を悟った。ゲーマーは、
    そもそも良いゲームとそうでないゲームの区別すら出来ない豚な
    のだ。ゲームデザイナーとして成功するためには、屠殺場を通ら
    なければならない。
    ----------------------------------------------------------
                       デザイナーX 1999年

 前回の紹介を読んで誤解する人がいるといけないので補足しておきますが、もち
ろん「バイオレンス特製ダイス」とか「バイオレンス特製トレーディングカード」
なんて商品は(今のところ)存在しません。経験点証明書や、経験点証明書を何枚
でも好きなだけ(1枚1ドルで)購入して参加する「バイオレンス公式トーナメン
ト戦」も、別売り「キャラクターシートパック」などというのも全てジョーク。

 これらは、米国のゲーム界に横行しているやり口、すなわちトレカ商法とか、関
連グッズビジネスとか、粗製サプリ乱発といった、儲け第一主義に対する皮肉なの
です。

 デザイナーはふざけているのでしょうか。最初のページ「バイオレンスにようこ
そ。この腐れxxx野郎」を読むと、そうでないことが分かります。少なくとも、
そうでないと思ってほしいとデザイナーが思っていることだけは分かります。

**

 最初のページで、デザイナーX氏は「てめーらRPGプレーヤーは屑だ」と宣言
します。

  ・そもそも奴らは良いゲームとそうでないゲームを見分けることすら出来ない。
   だから時間をかけて良いゲームをデザインするなんてのは時間の無駄。そん
   なことをしている良心的なゲームデザイナーは家賃すら払えなくなる。豚ど
   もには粗製濫造した悪趣味な暴力ゲームでもあてがっておいて、血(ドル)
   を吸い取ればいいんだ。ほら、てめーらに相応しいゲームを作ってやったぜ
   感謝しな。

てな感じのヒステリックな文章が延々と書いてあります。何と分かりやすいデザイ
ナーズノートでしょう。きっと、普段ルールブックを読むときにデザイナーの意図
など考えたこともないような(つまり、ごく平均的な)RPGプレーヤーだって、
ここまで書いてあれば、きっとこう考えるに違いありません。「レイプのルールも
あるのかなぁ?」

**

 愚かで質の低いRPGプレーヤーに対する怒りや憤りは、ルールブックのあちこ
ちに表れています(というか、まず「バイオレンス」という作品それ自体がそうで
すが)。例えば、3d6を振るように指示する箇所では

  ・さあ、ダイス、そう、その四角い奴、それを3つ用意して。3つだよ、3つ。
   いくらRPGプレーヤーだって、3つくらい数えられるよね。そう。それら
   を転がして、上になった面にある黒い点の数を合計するんだ。そうか、足し
   算は無理だよね。RPGプレーヤーだもんね。黒い点の数を数えよう・・・。
   1から数えるんだよ。

といった具合に、懇切丁寧な説明になります。なるほど、これならキャラクタープ
レーヤーですら理解できそうですね。

**

 ヒットポイントを決定する方法については

  ・まず、黙ってそっとダイスを振る。いい目が出たら、大声で得意気にその目
   を皆に示して、ヒットポイント自慢をするんだ。いい目が出なかったら、そ
   のときは「今のは練習」と言って振り直そう。

  ・振り直していい目が出たら、それを皆に見せてヒットポイントにしよう。も
   し、まだいい目が出なかったら、「ほら、こんな風に振るんだよね。やり方
   は分かったよ」とか言おう。そしてまた振り直すんだ。

というのが正式なルールになっています。確かに、RPGで一般的に使われる方法
ではありますな。RPGで自分の思い通りの美しいストーリーを創造したいとか思
っている方には、ちょーお勧め。

**

 と、今日はここまで。ちょっと時間がなくて予定したほどは進みませんでした。

 次回は、いよいよ「キャラクター作成」のページを読みます。



バイオレンス!(3)

 えー、昨夜は「キャラクター作成」を読むぞと思いながら、ついつい"Fucking"
なんて章をじっくり読んでしまいました。すいません。今日こそ気合を入れて「キ
ャラクター作成」を読みます。

**

 「バイオレンス」に登場するプレーヤーキャラクター達は、道徳観や共感能力が
欠如したサイコパスです。彼らは自分より弱い相手を「雑魚敵」と見なし、ためら
いもなく殺すような連中なのです。何という、非道で悪趣味なRPGでしょう。
我々が普段プレイしているごく普通の健全なRPG、例えば「シャドウラン」とか
「トーキョーNOVA」、「ソードワールド」と比べると・・・あー、まあ行動パ
ターンは同じですか。そうですね。

 「バイオレンス」のキャラクターを作成するには、まず5つの能力値を決めます。
5つの能力値とは、「筋力」「耐痛」「体力」「威嚇」「その他」です。

 「その他」(Everything Else) ってのがユニークですね。

 他の4つの能力値は、要するに「殴る蹴る撃つ」の判定のためにあるのですが、
それ以外の行動をとる場合は、面倒だから何でもかんでも「その他」で判定しろと
いうわけです。知力も「その他」、魅力も「その他」、敏捷も器用も知覚も何でも
かんでも、全て「その他」。いやー、便利ですね、「その他」。

 頑張って「”その他”なら誰にも負けない」キャラクターとか作って、他人にキ
ャラクター自慢しましょう。

**

 能力値は3d6を振って決めます。(振り方は前回の解説を参照)

 当然、ダイスの目が低いと、RPGプレーヤーはぶうぶう文句を言うでしょう。

 そこで救済ルールがあります。まず、現金書留(米ドルに限る)をデザイナーに
送ります。2ドル送金する毎にもれなく+1のボーナスが・・・って、すでにこの
手のジョークも鼻についてきましたね。

 能力値を高めるルールは色々と規定されています。マップ作成を担当するとか、
ゲーム中ずっと放送禁止用語で話し続けるとか、ゲームマスターの靴をなめるとか、
「不利な特徴」をとるとか。

 もちろん、このRPGには「不利な特徴」というのがあります。こんな感じです。
「薬物中毒」「指名手配されている」「性病にかかっている」「オキナワで少女を
暴行したため米軍を除隊になった」

**

 能力値が決まったらヒットポイント(hit point) とペインポイント(pain point)
を決めるためにダイスを振ります。どのダイスを振るかは、能力値で決まります。
もちろん、確率的には、「体力」が高い方がヒットポイント(HP)も高くなり、
「耐痛」が高い方がペインポイント(PP)が高くなるようになっています。

 ダメージを受けてヒットポイントが0になると、キャラクターは死にます。
 痛みを受けてペインポイントが0になると、キャラクターは床に倒れて小便ちび
りながらのたうち回るか、あるいは攻撃者の命令(金庫の番号を教えろ、お前を雇
った奴の名を言え、俺のxxxをくわえろ)に泣きながら従います。

**

 ところで、HPだけでなくPPがあるというのは、なかなか良い工夫です。

 敵NPCの攻撃力を失わせるという意味では、HPを0にしても、PPを0にし
ても同じなのです。が、おそらくほとんどのプレーヤーは「何とかして、敵のHP
を残したまま(生かしたまま)PPを0にしてやろう」と考えるはずです。だって、
その方が楽しいもんね。

 ここで、よく考えてみましょう。大抵のRPGでは、PC達が強力な銃器(マシ
ンガンやライフル)を持ち出してくるため、戦闘バランスを保つためにNPC側に
もいきおい強力な武器を持たせることになり、結果として戦闘があまりにもデッド
リーになる、というのがゲームマスターの悩みのタネです。

 ところが「バイオレンス」では、PC達は強力な銃器を避けようとするはずです。
というのも、そういう銃器はダメージが大きく、敵のHPがすぐ0になってしまう
からです。むしろ、「ダメージが小さく、痛みの大きい」ような武器に人気が集中
することでしょう。これなら、HPより先にPPを0にしてやれるというものです。

 そういうわけで、「バイオレンス」では、PC達はライフルを撃つよりナイフで
切り刻む方を、マシンガンを乱射するよりドリルで身体に穴を開ける方を、ショッ
トガンをぶっぱなすよりムチを振り回す方を選ぶはずです。

 つまり、PPというごく簡単な仕掛けにより、PC達はごく自然に強力な武器を
避けるように仕向けられ、また暴力的なシーン(銃を撃つより、アイスピックを目
に突き刺す方が暴力的な気がしませんか?)が再現されやすくなっているわけです。

 実のところ私は感心しました。さすがコスティキャン先生ですね。

**

 と、今日はここまで。

 次回はキャラクター作成の残り、アイテムやスキルに関するページを読みます。



バイオレンス!(4)

 例によって「バイオレンス」ルールブックのあちこちを拾い読みしていると、シ
ナリオアイデアの章に"Mother Fucking Teresa" なんていうシナリオが載っていて、
いやー、神をもおそれぬデザイナーですな。

 余談はともかく、今回はスキルとアイテムのルールです。

**

 「バイオレンス」では27個のスキルが規定されています。プレーヤーは、スキ
ルポイント100点を使って自由にスキルを購入できます。どのスキルも3レベル
までは無料で手に入ります。4レベル以上にするためには、スキル1レベルにつき
スキルポイント1点を消費しなければなりません。キャラクター作成時には、どの
スキルも19レベル以上にすることは出来ません。簡単ですね。

 スキルには、役に立つものと、何の役にも立たないものがあります。

 役に立つスキルの代表は、もちろん戦闘スキル(<素手格闘>、<ピストル>、<マシ
ンガン>、<ナイフ>など) です。犯罪スキル(<カギ開け>、<拷問>、<ドラッグ>、
<裏社会知識>など)も役に立つことが多いでしょう。

 一方、役に立たないスキルの代表は<文字を読む>、<文字を書く>、<数を数える>
といったものです。こんな高等教育を受けていれば、PC達も卑劣で凶暴な犯罪者
にならずに済んだかも知れません。

 あと特記すべきスキルとして<オカルト>があります。このスキルを習得している
キャラクターは、西洋魔法、風水、超能力、呪術、クリスタルヒーリング、ピラミ
ッドパワーなどの超自然的なパワーを自由自在に操ることが出来るのです。
(もちろん、自分がそう思っているだけで、実際には何の効果もありませんが)

**

 次に1d6を振って、出目を100倍します。結果に等しいだけのドルが所持金
になります。所持金を使ってアイテムを購入して下さい。アイテムとしては、もち
ろん銃器(サタデーナイト・スペシャル、拳銃、サブマシンガン、ショットガン、
ライフルなど)、そしてナイフ、ピアノ線、カッター、アイスピック、かなてこ、
ドリル、コインを詰めた靴下といったものが用意されています。

 様々な服(その主な目的は武器を隠し持つことです)、防具(ケブラーベストと
かね)もあります。

 他にも、ウォークマン、CD、ゲームボーイ、携帯電話、ピアス、手錠、酒、
たばこ、スプレーペイント(壁に落書きするため)、ガラス切り、といったものが
購入できます。

**

 これでキャラクター作成は完了です。何かとっても簡単ですが、まあこれは当然
でしょう。「バイオレンス」のPCは長生きできません。最初のシナリオを生き延
びることさえ難しいでしょう。というのも、PC達のような連中から善良な市民を
守るために警察というものがあるからです。

 PC達が路地を歩いていると、パトロール中の警官が近寄ってきて、質問します。
「市民、幸福であることは義務です。あなたは幸福ですか?」
・・・いや、これはちょっと違うかも知れない。

 いずれにせよ、「バイオレンス」のシナリオの多くは、警官やSWATチームに
PC達が射殺されるところで終わります。悪は滅び、正義が(少なくとも税金を払
っている者が)勝つのです。何と政治的に正しいRPGでしょうか。教育的効果も
抜群ですね。

 こうして、毎回、新たに卑劣で凶暴な犯罪者を作っては消費し、作っては消費す
るRPGなので、当然のようにキャラクターは何人でも簡単に作れるようになって
いるというわけです。

**

 と、今日はここまで。

 次回はダイスロール、戦闘ルールといった核心の部分を読むことにします。



バイオレンス!(5)

 さあ今日はダイスロールと戦闘だ、と力みながらも何となく気が進まず、例によ
って先の方のページをちらちらと眺めていると、"Drugs" という章がありました。

 この章の中で、デザイナーX氏は、覚醒剤の濫用について厳しい調子で警告して
います。この部分には私も強く共感するものがあり、また特に若い人々に覚醒剤の
恐ろしさを知っておいてほしいと考え、内容を要約してご紹介することにします。

 覚醒剤は本当に恐ろしい薬物です。中毒性が高く、服用すると睡眠欲や食欲が失
われ、身体がボロボロになります。常用すると心不全の発作を引き起こす恐れもあ
り、さらに脳をやられ回復不能な精神疾患(パラノイア等)を患うこともあります。
覚醒剤は所持しているだけでも犯罪です。絶対に手を出してはいけません。たとえ
「バイオレンス」のようなゲーム世界の中であってもです。

 ちなみに「バイオレンス」では、覚醒剤を服用すると戦闘時の判定における判定
難易度が全て1段階下がって成功し易くなります。また反応速度が高まり、強くな
ります。気になるお値段ですが、覚醒剤は1回分で20ドル、12回分まとめてお求め
になると 200ドルと割安。今なら10ドル追加で高級注射器セットが付いてきます。

 などという余談はさておき、ダイスロールを読みましょう。

**

 「バイオレンス」のダイスロール(一般判定ルール)ですが、スキルまたは能力
値がそのまま目標値になり、ダイスを振って目標値以下で成功(下方ロール)とい
うシステムです。

 大抵のRPGでは、振るダイスの種類が固定(例えばパーセントダイス)で、難
易度は目標値の増減(例えば目標値に−20の修正、とか)という形で表されます。
「バイオレンス」では、目標値は固定で、振るダイスの種類によって難易度を表現
するのです。

 例えば、<ピストル>スキルが15のキャラクターが拳銃を撃つときの命中判定は、
1d20を振ります。出目が15以下で成功です。成功率は3/4ですね。

 遮蔽物があれば、難易度が「1サイズ」上昇します。つまり1d30を振るのです。
目標値は15のままです。成功率は1/2です。

 遮蔽物があるだけでなく、距離も長ければ、難易度がまた1サイズ上昇して1d40
を振ります。さらに相手が走っていれば1d60、あなたも走っていれば1d80、あなた
の後ろから警官隊が銃を撃ちながら追ってきているのなら 1d100、よく考えてみれ
ばあなたは既に何発も弾を食らって死んでいたというのであれば1d1000・・・とい
う具合になります。

 お分かりですね?

**

 もちろん相手がすぐ近くにいるのなら、難易度が1サイズ下がって1d16。手が届
くところなら1d12。この例ではもうこれ以上難易度が下がっても仕方ない(目標値
が15だから)のですが、一応説明しておくと、1d10、1d8、1d6、1d4、1d3とサイ
ズが下がってゆきます。

 私は、この手のルールを採用したRPGとして「フローティング・バガボンド」
"Tales from the Floating Vagabond"を思い出します。(懐かしい・・・)
もちろんFVは酔っぱらいが相手なので、1d16や1d40を振らせたりはしませんでし
たが。

**

 「バイオレンス」の戦闘ルールは、極めてシンプルです。スキルを目標値にして
難易度に対応するダイスを振る。命中すれば、武器データに示されているダイスを
振って、ダメージと痛みをそれぞれ決定する。以上です。

 驚くなかれ、このルールであらゆる攻撃を解決します。私も銃器を扱うRPGは
沢山読んできましたが、単射も連射も散弾も、ついでに言うとパンチもキックも、
全て区別なく同じルールで扱うRPGというのは初めて見たような気がします。

 簡単に言ってしまうと、武器の違いは、使用するためのスキルと、命中したとき
に相手に与える「ダメージ」と「痛み」だけです。例えば警官の銃はダメージ1d8 、
痛みは1d4 です。サブマシンガンはダメージ1d20、痛みは1d10。これらの武器は、
痛みよりダメージを与えるためにあり、狙いは相手を確実に殺傷することです。

 これに対して、携帯ドリルはダメージ1d4 なのに痛みは1d5 もあります。「相手
の顔に投げつけた灰」なんてのは、ダメージ1d4 なのに痛みは1d12もあり、大抵の
相手は痛みのあまり戦闘力を失うことでしょう。相手を殺さずに戦意を喪失させる
ためには、強力な銃器よりも、ドリルやコードや「殺虫剤スプレーとマッチ」の方
が有効なのですね。

**

 と、今日はここまで。

 次回は、「バイオレンス」の典型的なゲーム進行、登場するNPC、シナリオに
ついて読んでゆきます。



バイオレンス!(6)

 ようやく「バイオレンス」を読み終えました。

 今回は、「バイオレンス」の典型的なゲーム進行について理解して頂くために、
ゲームブック風のシナリオを作ってみました。

「現代社会を舞台にD&Dをプレイするって、具体的にどうやるの?」という疑問
をお持ちの方も、これを読むと納得できることと思います。

**

『バイオレンス入門シナリオ』(作:馬場秀和)

1.目標

 このシナリオの目標は、現金である。(他に何があると思ってたんだ?)
 一人あたり現金 2,000ドル以上を集めて、この街から生きて出られれば成功だ。
その場合、GMは現金 2,000ドルにつき経験点1点と交換してくれる。

 ちなみに、「現金」というのは現金であって、宝石やアイテムやドラッグは含ま
ない。これらの「宝物」を入手したときは、屋外のどこかで誰かに売りつけて現金
化しなければならない。

 もう一つ、覚えておくべきルールがある。このシナリオの中では、減ったHPや
PPは回復しない。そもそも「バイオレンス」には負傷の回復に関するルールはな
いのだ。HPもPPも負傷する度に減る一方である。

 ゲームの途中で「一人あたり現金 2,000ドル」という目標が高すぎる、あるいは
低すぎると感じたら、GMはいきなり目標を増減してよい。これはGMの権限なの
で、プレーヤーはぶうぶう文句を言ってはいけない。

  ・目標を理解したら、「2.背景」に進め


2.背景

 「この街」って、どの街だ?

 そういう具体的なことは決めなくてよい。必要なのは、この街にどのような「エ
リア」が含まれているかだけだ。ルール上、次のようなエリアが規定されている。

  エリア:「スラム街」「貧民街」「住宅街」「高級住宅街」「商業地区」
      「繁華街」「ビジネスセンター」

 上のリストから、GMとプレーヤーで相談していくつかのエリアを選ぶ。これで
街の設定は終わり。最初にどのエリアを「攻略」するか決めよう。もちろん、儲け
が期待できる場所であるほど、警備や警戒も厳しいということは念頭に置いておけ。

  ・攻略エリアを決めたら、「3.屋外」に進め


3.屋外

 君たちは屋外にいる。どんな場所かって?
 そういう具体的なことは決めなくてよい。必要なのは「屋外遭遇判定」を行なう
ことだけだ。ちなみに、どこか他の場所から「ここに進む前にいた場所に戻れ」と
言われてここに戻ってきた場合でも、戻ってくる度に屋外遭遇判定を行なうのだ。

 ルールブックには載ってないが、私(馬場)が作成した素敵な遭遇表があるので
これを使うとよいだろう。次の表で1d6 を振れ。

 屋外遭遇表(1d6)      ダイス目修正(1d6 の出目に以下の修正を適用)
 出目  遭遇内容
 ------------------------  ・このエリアが「高級住宅街」だと+1
  1− ワンダリング獲物  ・このエリアが「スラム街」「貧民街」だと−1
  2  ワンダリング獲物  ・この街の他のエリアにおけるPC達の犯罪が、
  3  遭遇なし       発覚または通報されていると+1
  4  遭遇なし      ・この街のこのエリアにおけるPC達の犯罪が、
  5  遭遇なし       発覚または通報されていると+2
  6+ パトロール警官   ・PC達が警官を殺していれば、さらに+1
 ------------------------

 ワンダリング獲物と遭遇した場合、無視して通り過ぎれば「遭遇なし」と同じ。
襲うことにするなら、「10.獲物」に進んでから、ここに戻ってくること。
 PC達がワンダリング獲物またはパトロール警官を襲った直後の判定で「ワンダ
リング獲物」と遭遇した場合、それは目撃者である。そのままだと彼または彼女は
警察に通報する。逃げるか襲うか決めること。

 パトロール警官と遭遇した場合、「職務質問判定」を行なう。(判定方法はルー
ルブックに載っている)
 職務質問を受けなければ、「遭遇なし」と同じ。職務質問を受けた場合でも、こ
の街におけるPC達の犯罪が発覚または通報されておらず、PCに「指名手配を受
けている」という”不利な特徴”を持っている者がいなければ、無事に切り抜けら
れる。そうでない場合、「ちょっと署まで来てもらおうか」となる。

 「ちょっと署まで来てもらおうか」になった場合、もはや言い抜けは出来ない。
「11.中ボス」に進んでから、ここに戻ってくること。
 PC達がワンダリング獲物またはパトロール警官を襲った直後の判定で、「パト
ロール警官」と遭遇した場合、それは駆けつけた警官に犯罪を目撃されたことにな
る。彼らは無線で応援を求めつつ、攻撃してくる。逃げるか反撃するか決めること。


 「遭遇なし」またはそれと同じ結果になれば、次のいずれかに進む。

  ・既に充分な現金を集めたのであれば、「12.ラスボス」へ進め。

  ・このエリアの屋外で、アイテムの売買を行ないたいのであれば「9.売買」
   へ進め。

  ・このエリアの屋外でまだ何かやりたいことがあれば「3.野外」を繰り返せ

  ・別のエリアに移動したい場合、「2.背景」に戻って別のエリアを選べ。

  ・このエリアにある建物に入りたい場合、次の「4.ダンジョン入口」に進め


4.ダンジョン入口

 君たちは建物の前にいる。どこをどう通ってどんな建物に辿りついたのかって?
 そういう具体的なことは決めなくてもよい。必要なのは、建物種別だけだ。ルー
ルブックには、次の建物種別が規定されている。

  建物種別:「一軒家」「共同住宅」「公営団地」「小型ビル」「大型ビル」
       「豪華マンション」「邸宅」

 どの建物種別であるかは、ルールブックに載っている「ランダム建物表」で振れ
ば自動的に決まる。

 建物種別が決まったら、どうやって侵入するか考える。ドアを蹴破る(ただし、
通報される可能性が高い)、管理人を騙して入る、壁をよじ登り2階の窓から侵入
する、などなど。

 侵入に手こずる(試みた手が失敗して別の手を試す、壁をよじ登る、など)よう
なら、いったん「3.屋外」に戻って屋外遭遇判定を行なうように。

  ・侵入に成功すれば、「5.ダンジョン」に進め


5.ダンジョン

 君たちは建物の中に入った。建物の内部構造?
 そういう具体的なことは・・・いや決めないとまずい。ルールブックに載ってい
る「間取り表」で振れば、大雑把な間取りのパターンが自動的に決まる。

 ・間取りパターン:「一間」「寝室1つ」「寝室2つ」「寝室3つ」「古い住宅
          の間取り(寝室6つ)」「大規模」

 間取りが決まれば、ルールブックに載っている手順に従い、具体的な見取り図を
方眼紙に描いてゆく。この手順に従えば、半自動的に見取り図が出来上がる。気を
つけなければならないのは、スケールが1マス=10フィートだということだ。
(ここはメートル法も普及してない野蛮な国だということを忘れてはいけない)

 見取り図が決まれば、PC達は自由に部屋を選んでそこを襲うことが出来る。中
にどんな獲物がいるか。もちろん事前には決まっていない。PC達がその部屋を襲
うと決めたときにGMが判断するのだ。何だか量子論みたいじゃないか。

 屋内にいる獲物を襲うなら「10.獲物 」に進んでから、ここに戻ること。

 PCは好きなだけ獲物を襲ってよいが、なるべく穏やかに侵入して、静かに行動
すべきだろう。ドアを破ろうとすれば、獲物だって気付いて警察に通報するだろう。
あるいは大声を上げて同じ建物内の他の獲物に警告を出すかも知れない。必死でド
アを押さえる、バリケードを築くなどの妨害を試みるかも知れない。

 通報で駆けつけてくる警官を屋内で待ち伏せして襲うつもりであるか、または人
質をとって屋内に立てこもるつもりなら、「11.中ボス」に進んでから、生きてい
ればここに戻ること。

  ・屋内での仕事が終わるか、警察に通報されて慌てて逃げ出すか、または充分
   な現金や宝石を得たか、いずれにせよ戦闘が終われば「3.屋外」へ進め。


9.売買

 君たちはストリートでのビジネス(取引)を行なおうとしている。現金さえあれ
ば、ルールブックに載っているあらゆるアイテム(武器など)を購入することがで
きる。一切の値引きはないのでそのつもりで。

 また獲得した宝物(腕時計、宝石、クレジットカード、その他)を売ることもで
きる。その場合、価格の20%で売ること。クレジットカードの場合、所持者からパ
スワードを聞き出していなければ売れない。パスワードを聞き出していた場合でも、
捨て値同然の値段で叩き売るしかないだろう。

 気の済むまでビジネスを片づけたら、「3.屋外」へ戻れ。


10.獲物

 君たちは獲物に襲いかかった。どんな獲物かって?
 そういう具体的なことは決めなくてよい。必要なのは、獲物種別だけだ。ルール
ブックでは、次の獲物種別が規定されている。

  獲物種別:「浮浪者」「貧民」「労働者」「会社員」「重役」「金持ち」
       「犯罪者」「秘密捜査官」

 獲物種別については、ルールブックに載っている「ワンダリング獲物表」または
「屋内獲物表」でダイスを振れば自動的に決まる。

 獲物種別が決まれば、そのデータや所持品が決まる。例えば「会社員」だと、所
持品は次のようになっている。指定されたダイスを振って所持品を決める。

 屋外で遭遇した場合:現金 1d100ドル、キャッシュカード、クレジットカード1d4
           枚、男性なら 1d100ドル相当の腕時計、女性なら1d1000ド
           ル相当の指輪。 1d100ドル相当のドラッグ(確率10%)、
            1d2個の電子機器(確率50%)、拳銃(確率5%)、警棒
           (確率20%)
           武器を持っている場合、反撃してくる可能性がある。

 屋内で遭遇した場合:18歳以上の未婚の女性なら、1d1000ドル相当の宝石類、
           既婚の女性なら2d1000ドル相当の宝石類。 1d200ドル相当
           のドラッグ(確率10%)、 1d8個の電子機器、拳銃(確率
           10%)、その他の財産2d1000相当。

 獲物と戦闘せよ。大抵の獲物は逃げ出して警察に通報しようとするだけだが、獲
物種別によっては護身用の銃器を持ち歩いている場合もある。(ここは、銃規制す
ら充分でない野蛮な国だということを忘れないように)

 戦闘が終了したら、所持品をPC間で分配して、ここに進む前にいた場所に戻れ。
もし戦闘を生き延びることが出来なければ、14へゆけ。


11.中ボス

 君たちは警官との戦闘に突入した。警官のデータはルールブックに載っている。
警官の人数は最初は2人だが、この街で既に警官殺しをやっているなら、その回数
分だけ人数を増やすこと。人数が5人以上であれば、訓練を積んだ警官隊が指揮官
に率いられて戦術的な攻撃をしてくるものとして扱う。

 PC達が人質をとって立てこもっている、あまりにも悪逆非道な犯罪を犯した、
あまりにも大勢の警官を殺した、などとGMが判断するのであれば、ルールブック
に従ってSWAT部隊を投入してもよい。これはゲームマスターの権限なので、プ
レーヤーはぶうぶう文句を言ってはいけない。

 どこまで戦闘を具体的に処理するか(例えばマップを描いてフィギュアを配置し
て射線が通るとか通らないとか議論する)は、GMとプレーヤーの趣味で決める。
面倒なら全く抽象的に処理してもよい。

 警官は「仲間を呼ぶ」特性があるので、戦闘を長引かすのは得策ではない。なる
べく集中攻撃で短期に殲滅して、すぐに現場から遠ざかるべきだろう。なお、戦闘
でPCが負った傷や痛みは、このシナリオ中では決して回復しないことは忘れてな
いだろうね?

 戦闘が終了して生き延びれば、ここに進む前にいた場所に戻れ。生き延びること
が出来なければ、14へゆけ。


12.ラスボス

 もしPC達がもう充分に戦ったとGMが感じるなら、このまま彼らが「この街」
から出て行くのを黙って認めてもよい。この場合「13.ハッピーエンド」に進め。

 もしGMが「戦闘が不足している」と感じるなら、「この街」を出て行こうとす
るPC達の前に強力な敵が立ちふさがることにするといいだろう。例えば、街の外
に通じる道路が検問でふさがれており、警官隊(またはSWAT部隊)が待ち構え
ているとか。

 あるいはPC達が殺した獲物の一人が暴力団の幹部(または新興宗教団体の教祖)
で、かたき討ちのために暴力団員(または狂信的な信者達)が銃を振り回してPC
達に襲いかかってくるとか。

 いずれにせよ、この最後の試練を経てなおPC達が生き延びるなら、「13.ハッ
ピーエンド」へ進め。


13.ハッピーエンド

 おめでとう。君たちは無事に(まあ、少なくとも生きて)街を脱出した。
 約束通り経験点を獲得できる。キャラクターを成長させよう。END。


14.デッドエンド

 残念だったな。君たちは死んだか、あるいは投獄された。もうゲームに参加でき
ないという意味ではどちらでも同じことだ。まあ仕方ない。キャラクターが持って
いた現金やアイテムの全てを捨てて(捨てるのだ。他のPCが拾うというのは許さ
れない)、新しいキャラクターを作成したまえ。次のキャラクターはもっとうまく
やれることだろう。END。


**

 以上が、「バイオレンス」の典型的なシナリオです。なに、こんなのシナリオじ
ゃない、ランダム処理を繰り返しているだけじゃないかって?

 そりゃそうですが、デザイナーX氏も言っています。
「ちゃんとしたシナリオは、ちゃんとしたRPGのためにとっておけ」

**

 と、今日はここまで。次回は、全体の総まとめを行います。



バイオレンス!(7)

    ----------------------------------------------------------
    僕たちがゲームを、中でもダンジョンズ&ドラゴンズをプレイす
    るのにどのくらいの時間を浪費してきたか信じられるかい?
    確かにあれは面白かった。洞窟を這いずり回って、モンスターを
    殺して、金貨を手に入れる。
    それから山羊を生贄に儀式をやって、焚き火を囲んで全裸で踊り
    狂い、聖書を逆さに唱え、悪魔を讃えるのだ!
    挙げ句の果てに僕たちは大量殺人に走る。ペットを殺し、両親を
    殺し、友人たちを殺して、最後には自殺するんだ。

    だってD&Dってそういうゲームだし。
    ----------------------------------------------------------
                    ジェフ・フリーマン 1998年



 1999年 4月20日、コロラド州リトルトンにあるコロンバイン高校で発生した少年
2人による銃乱射事件は、米国全体に強い衝撃を与えました。多数の死傷者を出し
たこの悲劇を二度と繰り返してはならないと誓った米国民は、事件の原因(もちろ
ん「不充分な銃規制」という明白なこと*以外の*原因)を探し求めました。

 暴力的な映画、暴力的なTV番組、暴力的なコンピュータゲーム、暴力的なコミ
ック、暴力的なミュージック、暴力的なインターネット、暴力的なマスコミなど、
あらゆる暴力的なものが「少年達を凶行に走らせた原因」としてやり玉に上げられ
たのです。

 少年の一人がホワイトウルフ社の"Vampire:The Masquerade" をプレイしていた
ことを突き止めた警察は、次のように報告しています。

  ・「"Vampire:The Masquerade" は、私に言わせれば増強された"Dungeons and
    Dragons"だ。プレーヤーは吸血鬼になって攻撃を実行する」

 もちろん「増強されたD&D 」という誹謗中傷(なのかやはり)に対してホワイト
ウルフ社は猛反論していますが。

**

 是非はともかく米国がこういう状況にあるときに、「増強されたD&Dであり、
プレーヤーは凶悪犯罪者になって攻撃を実行する」としか言いようのないストレー
トな暴力RPGを発行したのですから、コスティキャン氏もHogshead Publishing
社もいい度胸してますね。

 無名のデザイナーが小さなゲーム会社からシャレで出すならともかく、「スター
ウォーズ」のデザイナーに「ウォーハンマーRPG」の会社ですよ。
(まあ「パラノイア」のデザイナーに「FRUP」の会社だと言えばそれはそうか
も知れませんが・・・)

 評判や名声が傷つくことを恐れないだけの勇気があるか、世間が「ユーモア」と
解釈してくれると期待するほど愚かなのか、「どうせ誰にも注目されない」と判断
したのか(そんなものをなぜ出版するんだ?)、単にどうしようもなく根性がひね
くれているのでしょう。

・・・余談ですが、最後のが正解だと思います。

**

 ともあれ、「バイオレンス」は万人にお勧めできるRPGではありません。特に
次のような方にはお勧めしません。


・18歳未満の方

 何だか、18歳未満の人間には何の判断力も自己責任もなく、暴力的なゲームを
プレイすると暴力的になり、愛と勇気と感動の物語を与えると立派な人間になると
いうのが社会常識らしいので、私としても若者にあえて「バイオレンス」のような
暴力的で悪趣味で下品なRPGをお勧めしようとは思いません。


・たとえゲーム世界内であっても、道徳や倫理に反する行動はとりたくない方

 そういう方には「バイオレンス」はお勧めしません。もちろん、その他のRPG
もお勧めできません。


・RPGで、魅力的なキャラクターや優れたストーリーを追求したい方

 そういった「創造的で高尚なものを自分は追求しているのだ」と思いたい方にも
「バイオレンス」はお勧めしません。このRPGはそういう幻想や自己満足を与え
てくれないからです。


**

 逆に、次のような方には「バイオレンス」をお勧めします。


・ゲームマスターの負担が少ないRPGを求めている方

 「バイオレンス」こそ、あなたの探しているRPGです。

 前回、ご紹介した「バイオレンス入門シナリオ」を思い出して下さい。あれはジ
ョークでも皮肉でもありません。本当に「バイオレンス」で可能なシナリオという
のは、あんなものなのです。事実上、シナリオを用意する必要がないRPGだと言
えるでしょう。(まあ、建物の見取り図くらいなるべく事前に描いておいた方がよ
いでしょうが)

 なぜ、「バイオレンス」ではシナリオ作成やセッションハンドリングの負担が軽
いのでしょうか。それは、このRPGでは、PC達の立場(凶暴な犯罪者)、行動
(強盗や殺人などの凶悪犯罪を重ねてゆく)、展開(最後は警官隊と銃撃戦)とい
ったパターンが固定されており、それ以外は許されないためです。

 もし、パターンから外れたことをしようとするプレーヤーがいれば、ゲームマス
ターは堂々と「駄目」と言い切ってよいのです。だって、これは「バイオレンス」
であって、ありがちな「自由度が高いと称してGMに全ての負担を押しつけている
RPG」ではないのですから。


・古風なダンジョンシナリオをひさしぶりにやってみたい方

 ランタンを片手にダンジョンをうろつき回ったあの懐かしい日々よ、もう一度。
 とはいえ、今さら「オークが3匹あらわれた」「ファイヤーボールの呪文を唱え
る」・・・なあんて、ガキっぽくて恥ずかしくてやってられないよ、という方。

 「バイオレンス」をどうぞ。

 大都会のビルは、現代のダンジョンです。そこには鍵のかかったドアや隠し扉が
あり、中には獲物や宝物が配置されています。

 さあ狩りに行きましょう。警備員を倒し、警報機にひっかからないように廊下を
急ぎ、住人を騙してドアを開けさせ、押し入ってハック&スラッシュ、ファック&
スプラッシュ。「獲物を倒した。君たちは現金200ドル、+1の拳銃、末端価格
5000ドル相当の覚醒剤を手に入れた」「やったぜっ。レベルアップだっ」

**

 実際、パターン固定、ダンジョンシナリオ専用RPGだと割り切り、悪趣味さや
不道徳さを気にしないのであれば、「バイオレンス」には特に欠点らしい欠点はあ
りません。

 ルールは最小限ですが、必要充分なことは抜け目なく書いてあるし、読みやすい
し(もちろん"see the fucking table full of crap you shit" という調子の文体
に慣れる必要はありますが)、「凶悪犯罪RPG」というのが好奇心を刺激するの
でプレーヤーを集めるのに苦労しなくて済みそうだし。

 「バイオレンス」に重大な欠陥があるとすれば、それは、アイテムリストに「10
フィートの棒」がないことだけです。これはきっとサプリメントで追加されるに違
いありません。それまでに発禁にならないことを祈りましょう。


「バイオレンス!」完


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