だめっこどうぶつ 5
熊哲の「ドン・キホーテ」を初日見て参りました。こいつ、いつの間にこんなに本物になったのでしょう。いえ「コッペリア」のときから、ただもんじゃない。もう、どうぶつは消してもいいなとは、思っていたのですが。
とにかく隙のない、退屈させない工夫にあふれる舞台でした。
まずバレエの「ドン・キホーテ」を、全く知らない観客に見せる事前提にしてるあたり、さすがです。
群舞の方々のレベルも、ものごっつ上がってます。
一幕目はバルセロナの広場なんですが、主役二人が踊ってる間も、あちこちで小芝居やってて、それが妙におかしい。
まあ基本的にいい感じの異性に粉かけてるだけではありますが。あほうで素敵です。
ヒロインはトリプルキャストで、その日の主役を除く残り二人がヒロインの友人役を踊るようです。
花売り娘役。ちなみにヒロインは宿屋の看板娘なわけでして、そうか、ここらへんが萌えキャラだったのねと下らない感想が頭を掠めてしまいます。
で、花売り娘は当然、小道具に花を籠一杯に持ってるので、それを使って、まあ次々に小細工をして。
踊っていない間も、ずっとちょこまか動き回っているのがかわいい。
ヒロインの小道具は扇子です。これはもう定番です。が、ヒロインの衣装も扇子も派手な色使いしていない。
いや、目立ちはしますよ。たった一人で違う衣装を着けてますし。(友人二人は全く揃いの衣装に小道具)でも、浮かない。
そこだけに、スポットライトがあたるという構成にはなってないのです。
俺様熊哲も、ここぞってところでは浮いてますが、悪目立ちしないように、群舞が常に舞台上でそれぞれ勝手に、盛り上がっている様子を振り付けてます。
こいつって、さらに凄いことになってるよ。
いろいろバッシングを受けてるらしいんですが、突き進んで欲しいです。自分の道を。
ってなにを力説しているのでしょう。もしかして自分たち熊哲のファンなのか?
某大宮ソニックホールにて、ちょっとばかし、背筋に冷や汗をかいてしまったのでした。
だめっこなのに。どうしてこうも、だめっこに弱いのか。
「今日から、どうぶつは取ろう。熊哲はだめっこだ」狼狽えた同居人が、それに何の意味がある、という宣言を口走っていました。
そのうち「こ」がとれてだめになるのでしょうか。だめじゃん。まさに。

熊哲はどうも特殊効果であるという認識が拭えないのですが、こいつがなんと。
今回の公演の最大の見せ場である、第三幕のパ・ド・ドゥのアダージョ、つまり初手でヒロインと踊る場面で、リフトを失敗したのです。
ちょっと待て。プログラムのバグか? 
真面目にそう反応した自分あほうです。さすがに相手を床にまで落としはしなかったのですが、危ういところでした。
嘘だろー。会場では、どう反応していいのか解らないといった空気が瞬間流れ、でも何事もなかったように踊りが続いたため、あっさりそんな重大なミスも忘れ去られ、盛り上がっていたのですが。
男性バリエーション、つまり熊哲のソロの前に群舞の踊りが挟まります。ここの振り付けが結構かっこよく、おもしろいなあなどと悠長に構えていたらば。
その後、熊哲が舞台上にさっそうと(という設定で)現れ超絶技巧を見せるはずのところでです。
まるで、都ちゃんのいない舞台にすっかり気の緩んだおっさん並、の踊りを見せたんですよ。
あの熊哲が。俺様の熊哲が。ありえません。
この見せ場を、いやそれ、やり過ぎだからなら納得いきますが、手抜きとも思える踊り方をするなんて。
自分の席は前方左寄りで右の舞台袖が、かなり奥まで見通せました。
袖に引っ込んだ熊哲の後ろ姿が、姿勢を保ち切れず脚を引きずっているところを、一瞬とはいえ目にしてしまって、おい、ちょっとまて。
明らかに腰を傷めてます。さっきのリフトの時だよな。
血の気が引きました。いや真剣に。舞台上の誰もが気づいているはずですが、そこはプロ。能天気な踊りを(なんつっても、主役二人の結婚式です)軽々と踊ってます。
ひー。まだまだ熊哲の見せ場は続くはず。あいつが俺様のために用意した舞台で、バジル(男性の主役。ちなみに床屋)が踊りまくらないはずはない。
案の定、踊る踊る。
そして、余裕の表情を貼り付けながら、いやな汗をかいてるぞあんたな風情の熊哲が、いや他のダンサーがやれば超絶技巧ですが、フィニッシュの空中での二回転(まじでやりやがるんですよ)が、今ひとつ中途半端に終わったり。
いやいや。ここは、武士の情けで怪我には気付かないフリをするのが礼儀と言うもの、などと、意味不明な呟きを漏らし、だからいつ熊哲のファンになったりしたんだよ自分。
そんな葛藤に苛まれ舞台に集中できなかった、しょうもないわたし達でした。

まあそれはそれとして。
会場に入る際に渡された広告の束に、ニューヨークの路上で熊哲にリフトされているヴィヴィアナの写真を発見しました。
髪はショートで、結構長く世間を席巻している寝起きの頭風にセットされており、裾の広い七分丈のバギーパンツに、ウエストラインが隠せない長さのタンクトップ姿です。
まあ、それでリフトされてれば、腹の半分とふくらはぎのラインまではもろに見えるわけでいえ、舞台上の露出を思えば可愛いモンです。
ええ。そうですとも。でもです。そんなに嬉しげな顔で、持ち上げられてなくても、いいと思います。
たかが熊哲に。にゅーよーくの公道で。
ヴィヴィアナ、そんなに迂闊でどうするんですか。そうやって知った衝撃の事実を今、ちょっと和らげようとしています。
実はヴィヴィアナ、私の見送ったKバレエの「カルメン」に出演してたんですよ。
自分、生ヴィヴィアナを見損ねたのです。
映像になっている舞台より、さらに勝負度のごんごん上がった公演だったことは、舞台の批評からもう、ありありと感じ取れます。
「カルメン」の熊哲いまいちだったしなー。うざい演目だし、まーいーや。
この迂闊な態度のアホウに、どなたか厳しい鉄拳を見舞ってやってください。冷水でもいい。いやもう、それは浴びた気分満々なんですが。
ヴィヴィアナ「カルメン」は当たり役です。彼女は男を破滅させる女踊らせたら、右に出るものはいない気がします。無敵です。迂闊でも。
きっと、向かうところ敵が避けてくれるに違いないと思います。あまりの迂闊ぶりに。
少しは回りを見ようよヴィヴィアナ。などと、生意気抜かしてごめんね。
もうKバレエカンパニーとは踊ってくれないんだろうなと、独りで惜しがっていた自分に、涙が出ます。
来年は「白鳥の湖」受賞記念の全国ツアーだとか。自分、「白鳥の湖」嫌いな演目なのですが、見なければいけないのでしょう。
そしてヴィヴィアナは来てくれるのでしょうか。
でもなー。例え全然タイプじゃないオデットであってもです。生ヴィヴィアナ、一度は見たいです。
吉田先輩の「白鳥」など恐れ多くてとても望みはできませんが。

「ドン・キ」の会場ではKバレエの「コッペリア」DVD先行発売してました。
こんなもんに八千円誰が払うよ。ええ、勿論そう鼻を鳴らしながら、万札を差出した私です。ひとはどこまであほうになれるのでしょうか。
仕方ありません。自分の見た「コッペリア」は主演が康村和恵さんだったのです。
(この方はヨーロッパの名門バレエ団ドレスデン国立劇場バレエのプリンシパルだったそうです。ほっそいです。首、長いです。分類、萌えというところでしょうか)
映像は神戸理奈というまだ若いダンサーで、Kバレエ生え抜きです。可愛いです。癒し系アイドル顔です。
推したくもなるでしょう。健闘していましたと、書かれるレベルでもです。
康村さんはさすがに経験もあるし、技術うんぬんではなく、次のステップに気を取られてるな、などと、ど素人に感じさせるような緊張を見せず、心の赴くままに、ちょびっと向こうっ気の強い田舎の女の子が跳ね回っている風情で踊っていらっしゃいました。
また、なんで「白鳥の湖」の公演をやって、次に「コッペリア」なんだろうと思ったんですが、考えてみればこのお話、日本人でまず基本設定を知らない人間の方が少なかろうというくらい有名です。
バレエ演目としては地味かもしれませんが、全然バレエの予備知識なしな観客を想定していれば、なるほどと思うしかありません。
熊哲、興行師としてもいいセンスしてんだなー。
「コッペリアワルツ」なら名前は知らなくても、誰でも耳に馴染んだ音楽ですし。って、自分がまさにそれでした。
えー、これってコッペリアの曲だったんかい。
そして、日本人のオタク心をがっつり掴むマッドサイエンティストものです。
老体の変人科学者が、都会を追われて引っ込んだ田舎町で、隣家の若い娘にやられ、そのこにそっくりな人形を作り命を吹き込もうとする。
やばいです。この展開は。もういいからな程、日本ではネタにされ尽くしています。
色気はないけど萌えのある日本人女性ダンサーのためにあるような作品です。
そして娘の恋人は、ガキくさい浮気性のあほうときてます。もう、だめです。
この恋人役を、当然熊哲が踊っているのですが、どこらへんが演技やねん。会場に集まった観客の97パーセントは、そう突っ込んだと自分信じるものです。
見事な演技力、言われましても。いや、舞台上で自が出せる。それも立派な才能というものなのでしょう。
そして、相変わらずの、いや、それひとのやっていいことじゃないからな技を、軽々とこなす熊哲です。
あまりの本人のなんでもない風に、夢幻としか、というかCGを見せられているような気分になります。
明らかに、上手くなってるよ。
そして、熊哲が動くたびに、舞台から会場に高揚感がこぼれでます。一体次は、何が起こるんだろう。
だめっこな熊哲は、超絶技巧を披露したところであきらかにだめっこにしか見えません。
それでも、その姿に歓びが湧き上がってくるのです。不覚にも。ひととして恥ずかしいレベルの語彙を、思わず口走ってしまうほどに。
負けか、こんな奴に負けたのか。猛烈に後悔しながら拍手したりしている自分が憎いです。
ま、まあ女性ダンサーが可愛いからいいんですよ。ええ。

そう、熊哲に敗北してもまだ笑っていられます。冷たい汗を流しながらであっても。しかしです。
イーサンにしてやられたこの恨みは、生涯忘れません。
都ちゃんの「ライモンダ」チケット完売です。
夏の「ジゼル」は発売後二ヶ月でもSS席が残っておりましたのに。やっぱり、おまえのせいかああ。
だめっこどうぶつ、イーサンめ。
「ライモンダ」が「ジゼル」より人気のある演目な筈はございません。
あの野郎が都ちゃんの手を取って密着して男らしく踊るわけですね。私の生都ちゃん体験を邪魔しくさった上に。
・・・屈辱です。無念です。ぜったい絞めます。ええ。

トップへ前へその他雑文一覧次へ